【春の行楽】街と心に歌花を(京月ささや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 まだ午前中の朝の風が涼しい中、
 イベリン王家直轄領を視察して歩いていたあなたたち。
 花に音楽にと様々な華やかさに彩られたこの街を歩いていると
 あなたたちの目にふととまったポスターが。

『王立音楽堂再建記念・シューバッハと心の花に捧ぐ合唱曲』

 よく見てみると、このポスターはコンサートの告知。
 王立音楽堂の再建記念に、
 イベリン出身の偉大な音楽家・シューバッハが作った名曲を
 街の人々や街を訪れている人々に合唱団メンバーになってもらい、
 オーケストラと共に盛大に歌おうというもの。
 しかも、今回歌う歌は、シューバッハが恋人が胸にさしていた花を見て
 感動して即興で作り上げた歌を歌うという内容なのだそうです。

 なんて素敵なステージだろう、しかも公演日は今日…
 よかったら観にいってみようか…?
 そんな風にあなたたちが顔を見合わせて話し合っていたその時、
 あなたたちに声がかかったのです。
 それは、タキシードに蝶ネクタイを締めた、いかにも『関係者』な格好の男性。

「すみません、あなた方!どうか私たちに力を貸してくださいませんか…!」

 顔を見合わせたあなたたちは、その男性の話を聴くことにしました。

 どうやら、話をきくと、この合唱団のメンバーであるソプラノの女性と
 テノールの男性ペアが揃って急病のために欠席してしまったそうなのです。
 そこで、たまたま見かけたあなたたちの声が素晴らしかったので
 声をかけさせてもらったとの事。

「でも、別に合唱団だから2人だけ欠席しても問題無いんじゃ…?」

 そう口にしたあなたたちに、彼は悲しそうに首を振りました。
 なんでも、シューバッハ氏が作曲したこの曲はとても繊細で
 指定した人数どおりでないと僅かな音量の違いで
 その素晴らしい印象は台無しになってしまうとの事。
 なので、どうしても今日のお昼のリハーサルまでに
 代わりになるペアを見つけないといけなかったんだとか。

「あなたたちの話し声はとても素晴らしかった…!
 歌自体はとても単純です、リハーサルまで私たちと練習すれば
 すぐにうたえるようになりますよ!
 それに衣装も貸し出しいたしますので、どうか私たちを助けると思って…!」

 仕方ない、こうなったら乗りかかった船…協力するしかないか…。
 あなたたちは頷いて、合唱団参加を決めたのでした。

 参加の意志を伝えると、彼はとても喜びました。
 そして彼に案内されてあなたたちは中に関係者入口から
 ホール内の練習場に入っていきます。

「練習はお二人で皆さんと受けていただきます。
 本番で合唱する時は女性はソプラノグループ、男性はテノールグループに入って
 バラバラに歌っていただきます。
 男性はタキシード、女性は白いドレスを着てそれぞれ胸に好きな花を
 挿して歌っていただくことになりますので…」

 説明を受けながらホールを歩いていくあなたたち。
 そんなあなたたちをそっと見ている人がいました。

 それは…タブロス市内でウィッグ店を営んでいるミュリーという女性。
 以前、ウィンクルムの数組が彼女の店を閉店の危機から救った過去があるのです。
 彼女は、ウィンクルムに対しての恩義をけして忘れてはいませんでした。

「すみません、あなた方、A.R.O.Aの方々ですよね?」

 彼女は駆け寄って声をかけてきました。

「あの、以前あなた方に助けてもらったことがある者です…!
 衣装お着替えの際は是非私に声をかけてください!
 好きなウィッグをご用意させて頂きますので!」

 なんと、彼女が衣装用にもってきている様々なウィッグも
 貸し出してくれるというのです。

「どうか、このコンサートを成功させたいのです…
 街だけでなく、みんなの心にシューバッハの心に咲いたような花を
 咲かせて少しでも街を明るくしてゆきたいと思っているのです…!」

 熱弁する彼の気持ちと、ウィンクルムに対して恩義を感じているミュリーの熱い視線に
 貴方達は決意を固めて頷くと、練習会場に足を運んでいったのでした。
 みんなの心に自分たちの歌声で花を咲かせるために…

解説

■目的
 女性はソプラノ、男性はテノールとなって合唱団に参加。
 練習&リハーサルをして、オーケストラをバックに合唱曲を披露するエピソードです。
 あなたたちの歌声は果たして観客席を感動させることができるでしょうか…?
 終演後にはあなたたちの絆は一層深まるかもしれません。

■消費ジェールについて
 コンサート参加代金として400ジェール頂きます。

■歌う曲について
 シューバッハが昔好きだった女性の胸ポケットに花が挿されていたのを見て
 感動してその場で作り上げた愛を讃える賛歌です。
 歌詞は男性に対する女性への愛の言葉、
 そして女性がそれに感謝の気持ちで応える歌詞になっています。
 歌自体はとても簡単で覚えやすく、本番までの数時間の練習ですぐマスターできます。
 また、この歌はイベリンではとても馴染みがあり、
 愛の告白の際にこの歌を歌ったあとで花を好きな相手の胸に挿す風習もあるそうです。

■衣装について
 男性は黒のタキシード、女性は純白のシンプルなドレスです。
 それぞれに胸ポケットがあり、好きな花を挿すことができます。
 また、タブロスから衣装係として出張してきたウィッグ屋・ミュリーがいますので
 好きな髪形・髪色に姿を変えることも可能です。

■ミュリーについて
 当GMの過去エピ『セールに揺れるいろどりの髪』にて登場した女性。
 タブロス市内でウィッグ専門店を営んでおり、
 過去にウィンクルムの皆さんに閉店の危機を救ってもらいました。
 それ以来、彼女はウィンクルムの皆様にはとても感謝しています。
 今回が初対面でもそうでなくても、快く色々なウィッグを貸し出してくれます。

■コンサートが終わったら…?
 打ち上げがコンサート会場内の大きなレストランにて
 バイキングパーティ形式で行われます。
 打ち上げ会場の外は石畳と噴水がある少し大きめの広場があります。
 衣装のままレストランで打ち上げパーティを楽しんだり
 打ち上げ会場の外で2人でゆったり過してもいいかもしれません。

ゲームマスターより

こんにちは、京月ささやです。
音楽は心の華とも申します。どうぞ皆様でクラシックコンサートを
是非盛り上げてみてくださいませ。

普段言う事ができない愛の言葉も
歌を通してだったら言える…なんてこともあるかもしれません。

今回のエピソードが皆様にとってのよき思い出となりますように!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  ウィッグ…つけたことないわ

折角だから 髪色は同じだけれど憧れのストレートヘアに
鏡に映る自分に楽しそうな顔

髪の色が違うだけで違う人みたい
どうかな?と傍らの精霊を見上げる

彼のタキシード姿にどきり
それを隠すように「頑張ろうね」と笑う

胸にはスズランの花
最初は緊張して手が震えるも 徐々に楽し気な笑顔
音楽にのせて精一杯歌う

コンサート後は広場で

とっても楽しかった!
(緊張を指摘され)だって、お客さんが沢山いたから…!

彼の頼みに首を傾げるも 覚えたばかりの歌を歌う
連なる愛の言葉も 歌詞だと思えば恥ずかしくない
彼のためだけに気持ちをこめて

胸に挿された花にこの歌の成り立ちを想い出し頬を染める

スキル「歌唱」使用



ニッカ=コットン(ライト=ヒュージ=ファウンテン)
  ●合唱

歌に自信があるわけじゃないけど緊張しないタイプなのよ

シンプルだけど品のあるドレスね
胸元にさしたミニひまわりが映えてとてもいいわ!


歌詞を考えながら歌っていると、ライトの顔ばかりが浮かぶ
歌っているタキシード姿のライトに見とれる

なによ・・・格好いいじゃない

と思ったことを否定しつつすぐに歌に集中する


●打上げ

合唱が終わると、ライトがすぐに着替えに行こうとしたから慌てて袖を掴んだわ
いいじゃない、もう少しその格好でいても

少し驚いていたみたいだったが、その後の微笑みがいつもより優しく見えて言葉を失い赤面する

もう何よ!訳分からないわ(混乱
こんな時は食べるのみよ!

いつもの態度に戻り、勢いよく料理を取りに行く



月野 輝(アルベルト)
  ■花
ポケットにはスターチスの花を
アルを見たら同じ花がさしてあって思わず嬉しくなっちゃった

■ウィッグ
ミュリーさん、また会えて嬉しいわ
せっかくだし、黒髪をアップにしたような感じのウィッグなんてあるかしら?

■歌
上手く歌えるかしら?心を込めて歌えばいい
愛の言葉、感謝の言葉…
少し前ならきっと誤魔化そうとしてた
だけど今は
時々ちょっと意地悪で、だけど優しくて、辛い時にはいつも傍にいてくれる
そんなアルへの気持ちを込めて歌ってみよう
届くと良いな、私の想い

変なの
合唱なのに、アルの声だけよく聞こえるわ
ふふ、不思議ね

■打上げ
お料理どれも美味しい♪

…え?
そう言う事言うと本気にするわよ?
え、え??ホントに本気?(真っ赤に



向坂 咲裟(カルラス・エスクリヴァ)
  ●心情
合唱…歌った事が無いけれど大丈夫かしら?
ふふ、でもカルさんや皆と一緒ならなんとかなりそうだわ

花は…黄色のガーベラにするわ
カルさんは…紫のカーネーション?珍しいわね
…黄色と紫…学校で習った気がするわ…

練習でも本番でもしっかりと、真剣に取り組むわ


お疲れ様、おじさん
ふふ、カルさんは歌声も素敵なのね
カルさんに褒められるのはとっても嬉しいわ。ありがとう

ふとおじさんの胸元の花に目を向けるわ
…ああ…そう、思い出したわ!
おじさんに駆け寄って私の花を胸に挿すわね
ふふ、これでもっと素敵になったわ
理由?うふふ…そう、紫と黄色は補色の関係なのよ!思い出せてスッキリしたわ!

●花
黄色のガーベラ
●髪型
サイドシニョン


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  人前で歌った事が殆ど無いので、とっても緊張してます。眼が廻りそう。素人なので練習はシッカリ。
「観客席より上の方を見ていたらお客さんの事は気にならないよ」ってミュラーさんの言葉を信じて。
その通りにしてみますね。
お客さんが見えなかったら大丈夫ってこと…?
ミュラーさんに「大丈夫」って言ってもらったら、そんな気がして来ました。
ミュラーさんの胸に花を挿し返しますね。赤いバラが似合うと思うのでそれを。
(彼の言葉の真意には気が付いていない)

歌詞が感謝の言葉中心なので何だかとっても親近感。
いつもミュラーさんのお心遣いに内心感謝はしていますが、お礼をちゃんと言えていないのです。その気持ちを込めて歌いましょう。



●無邪気な花が揺さぶるもの

(合唱…歌った事が無いけれど大丈夫かしら?)
 向坂咲裟は若干不安な心境に陥っていた。
 しかし、自分にはカルラス・エスクリヴァがいる。
 カルラスは普段はチェリストとして活動している。勿論、音楽にも詳しい。
 少しの不安はすぐに好奇心の微笑みに変わった。
(カルさんや皆と一緒ならなんとかなりそうだわ)
 スタッフに促されて、咲裟はずらりと並んだ花を眺める。
「花は…これにするわ」
 そう呟くと、咲裟は一輪の花に手を伸ばした。
 
 一方のカルラスはというと、結構難しい顔で考え込んでいる。
「シューバッハの…よりにもよってこの曲か…」
 そう、この曲はとっては覚えがあった。
 歌で舞台に立った経験は自分にはないが、やはりこれも音楽の分野。
(やるからには、同じ音楽家としてきちんとやらせてもらおうか…)
 オールバックに髪を整える手にも自然と力が入る。
 衣装に着替えて出てきてみると、ちょうど咲裟も着替えを済ませたところだった。
 サイドシニョンの髪型はカルラスの目には新鮮に映る。
 そして、更に目をひかれたのは胸に刺された花。彼女と同じ黄色のガーベラだ。
 こちらを見るカルラスの視線に気づいた咲裟は、あら、という顔をした。
「…紫のカーネーション?珍しいわね」
「そうか…?」
 そうかもしれない。カルラスがこの花を選んだのは、妙にこの紫色に心惹かれたからだ。
 カルラスの胸元を見ているうち、咲裟はうーんと思案しはじめた。
(…黄色と紫…学校で習った気がするわ…)
 でもそれがなんだったのかが思い出せない。
(何をそんなに考え込んでいるんだ…?)
 紫と黄色の花を交互に見て何かを思い出そうとする咲裟を不思議に思いながら、
 カルラスは咲裟を促して合唱の練習へと向かった。

 そして練習はとどこおりなく終わり、そして本番がスタートした。
(あれだけ真剣にやったんだもの…!ちゃんと成果をみせなきゃ)
 そう心の中で真剣に思いながら咲裟は自分の合唱パートを真剣に歌い上げる。
(オーケストラと合唱団の一体感を意識するのが大切だ…)
 一方のカルラスも、ホールに鳴り響くオーケストラの響きにあわせ
 自分の歌に気持ちをのせて歌い上げた。
 そして、盛大な拍手と共に本番は終了したのである。

「お疲れ様、おじさん」
 本番終了後、咲裟の声でカルラスは振り返った。
「ふふ、カルさんは歌声もステキなのね」
「あー…お嬢さんの歌声も、まぁ…思ったより良かったんじゃないか?」
 音楽家なのだからまあ音程が外れることはないんだが…と
 カルラスは若干苦笑しながらも褒める言葉を返す。
「ありがとう、カルさんに褒めてもらえたら嬉しいわ」
 音楽家が本業のカルラスに褒められて、言葉通り咲裟は心底嬉しかった。
 ニコニコしたまま、ふと咲裟の目はカルラスの胸ポケットにとまる。
 そこには開演前と変わらない、鮮やかな紫色のカーネーション。
「…ああ…そう、思い出したわ!」
 いうが早いか、咲裟はささっとカルラスに駆け寄ると
 自分の黄のガーベラをサッとカルラスの胸に挿した。
(な…!?)
 カルラスはあまりの事に内心動揺した。
 なぜなら、あの合唱曲を歌ったあとに花を相手の胸に挿す行為は…
(ふふ、これでもっと素敵になったわ)
「なあ、咲裟…この花…どうして挿した、んだ?」
 ウキウキがとまらない咲裟に少しおずおずとカルラスは聴いた。
 すると、咲裟は満面の笑みを浮かべる。
「理由?うふふ…そう、紫と黄色は補色の関係なのよ!」
 思い出せてスッキリしたわ!とテンション高く喜ぶ咲裟は
 どうやら、この歌と自分がした行為の意味がわかっていなかった様子。
(動揺するだろう、まったく…)
 半ば呆れてしまうカルラスだが、相変わらずの咲裟の輝く笑顔に
 苦笑しつつ、その大きな手がくしゃりと頭を撫でた。
「咲裟のお嬢さん、君は…相変わらずだな」
 私の気も知らないで、と、そっと本心は心の中に隠すカルラスの胸には
 紫と黄色の花が仲良く一緒に寄り添って咲いていた。


●共に同じ花を胸に

 練習を済ませ、ここは衣装部屋。
 どの花に致しますか?と、月野輝とアルベルトはそれぞれの部屋でスタッフに聞かれた。
 アルが選んだのはスターチス。理由は…以前、輝から貰った花だからだ。
 控え室から出てきた輝は、アルの胸に同じ花が咲いているのを見て思わず微笑がこぼれる。
(やはり…それを選んだのか)
 アルは、輝の胸のスターチスを見て密かに心の中で微笑んだ。

 衣装に着替えた2人は、メイク室のミュリーのもとへと向かう。
「ミュリーさん、また会えて嬉しいわ」
 輝の姿を見て、ミュリーは久々の再開に顔を輝かせた。
「お久しぶりです!何かお望みのウィッグはありますか?」
「せっかくだし、黒髪をアップにしたような感じのウィッグなんてあるかしら?」
「ええ、ええ、あります!では早速!」
 アルは自分はウィッグはつけず、輝のメイクが終わるまで外で待つことにした。
 そして暫くすると輝が部屋から出てくる。
(普段とは…また違った雰囲気になるな…)
「…アル?」
「ああ、ミュリー嬢のウィッグですか。驚きました」
 少し驚いた様子を輝に気にされたが、すぐに冷静さを装って声をかけると
 アルは輝を伴って本番へと向かった。

 そして本番。ステージに立ち、輝は思う。
(…上手く歌えるかしら?)
 少しの不安が過ぎりますが、思い直す。
 そう、この歌は心を込めて歌えば良いのだと。
(愛の言葉、感謝の言葉…少し前ならきっと誤魔化そうとしてた)
 過去の自分が頭をよぎる。けれど、胸のスターチスを見て思う。
(だけど今は…)
 頭に思い描くのは、同じ花を胸に挿したアルの姿。
 時々ちょっと意地悪で、だけど優しくて、辛い時にはいつも傍にいてくれる彼。
 そんなアルへの気持ちを込めて歌ってみようと、輝はそっと掌を握り締めた。
(…届くと良いな、私の想い…)
 そうして、輝の歌声は多くの女性の合唱と共に輝の歌声が響き始めた。

「愛の言葉ですか……」
 一方のアルは、本番の最中、歌の意味について少し考えていた。どう歌えばいいのか…
 しかし、女性合唱の歌声の中で、ハッキリ輝の歌声が聞こえてきて真顔になる。
 ちらりと横目で女性陣の方を見ると、凜とした表情で歌う輝の姿。
(まっすぐで、こうと決めたら一直線。本当に輝は小さい頃から変わりませんね)
 そう、そんな彼女だからいつもまぶしく感じたのだ。
 そして気づけば、アルもいつしか気づかないうちに、
 そんな輝への思いを歌声に乗せて歌い上げていたのだった。

(変なの…合唱なのに、アルの声だけよく聞こえる…)
 男性パートに耳をすませながら輝はそっと目を閉じる。
「ふふ、ヘンなの」
 不思議な現象を嬉しくかみ締める輝の姿があった。
 そして、盛大な拍手と共にコンサートは幕を下ろしたのだった。

 本番が終わり、打ち上げ会場で2人は夕食を共にしていた。
「ん。お料理どれも美味しい♪」
 楽しそうに料理を口に運ぶ輝に、アルはそっと微笑む。
「輝の料理の方が美味しいですよ。…毎日食べたいくらいです」
「…え?」
 その言葉にぱちくりと輝は瞬きをした。
「そう言う事言うと本気にするわよ?」
「ええ、本気にして下さい…何なら一緒に暮らしますか?」
 アルの言葉に、輝の目が更に大きく見開かれる。
「え、え??」
(ホントに本気…なの…?) 
 思いもよらない言葉に、輝の顔が瞬く間に朱に染まる。
 微笑むアルの表情からはそれが冗談なのか本気なのかは…わからない。
 意味深な微笑みと共に、その日の夜は深けて行った…


●最後の言葉は心の中に

 リチェルカーレは、シリウスと分かれてメイクルームでウィッグを前にしていた。
(ウィッグ…つけたことないわ)
 沢山並んだウィッグの中から彼女が選んだのは、髪色は殆ど同じ、ストレートヘア。
 選んで、早速鏡の前に座ると、ミュリーが手早く装着をしてくれる。
「わあ!とてもよくお似合いですよ!」とミュリーも嬉しそうだ。
 鏡に映る自分は、髪型とそして僅かに色が異なるだけでちがう人のようで。
「まるで…別人みたい」
 そう呟いく、鏡に映る自分の顔は実に楽しそうだ。
 そして、自分の後ろには、いつの間にか着替えを済ませたシリウスの姿があった。
「どうかな?」
 振り返って見上げ、こちらに聞いて来るリチェの表情はとても楽しそうで。
「いいんじゃないか?」
 だから、シリウスも微笑んで純粋に褒め言葉を返す。
 白いドレスに髪をストレートに下ろした彼女の姿は、純粋にかわいらしいと感じた。
 …もちろん、そんなことは直接彼女には言えないが。
(シリウスのタキシード…)
 リチェも振り返りざまに見た、彼のいつもと違う姿にドキリと心臓が高鳴る。
 けれど、それを気づかれるのは恥ずかしくて、隠すように微笑むと
「頑張ろうね」と言ったのだった。

 そして、いよいよ本番の幕が上がる。
 コンサート独特の雰囲気に飲まれそうになり、リチェの手と身体は緊張に震える。
 リチェの胸に咲いているのはスズラン花だ。
 その花が、かすかに震えていた。
 やがて、音楽が流れ出すと、リチェの表情は次第に楽しげなものに変化していった。
 今を全力で楽しみたい…そんな彼女の健気さをあらわすかのように
 リチェの精一杯歌う歌声は、音楽にあわせて合唱となって響いた。
 そして、彼女の歌声をきちんとその耳でとらえていたのは…シリウス。
 その胸には、クロッカスの花が咲いている。
 不思議なことなのだが、沢山の女性の声に混じってリチェの声は自然と聞き取れた。
 どれだけ沢山の声の中でも聞き分けられる彼女の声…
 シリウスは、すう、と息を吸うと、彼女の歌声に合わせて歌い始めたのだった。

「とっても楽しかった…!!」
 本番終了後、広場にリチェの爽やかな声が響いた。
 あれだけの緊張した表情がウソのようにはしゃぐ彼女に、
 シリウスは少し意地悪な笑みを浮かべる。
「始まる前はずいぶん緊張していたが?」
「え、だ、だって、それはお客さんが沢山いたから…!」
 少しからかうように言ってみれば、リチェの顔はみるみる真っ赤に。
 その様子に、シリウスはたまらず噴出した。
 そして、笑い声も収まって少しの沈黙があったあと…
 一転、真顔になったシリウスがぽつりと呟いた。
「…もう一度 歌ってくれないか?」
「もう一度…?」
 あの合唱の曲を、もう一度。そんなシリウスの頼みに首を傾げつつ、
 リチェは頷いて、今日覚えたばかりの歌を歌いはじめた。
 歌詞に書かれた連なる愛の言葉も、歌詞だと思えば不思議とはずかしくはない…
 それは大勢のお客のためではなく、シリウスのためだけに、気持ちを込めて歌われる歌。
 その歌声は、コンサートで聴こえたものよりも甘く響くようにシリウスは感じる。
 やがて、歌声が終わりを告げると、シリウスはそっと自らの胸から花を取り出し
 リチェの胸に挿した。
 その意味に気づいたリチェの頬にサッと赤みがさした。
 頬を染める彼女に柔らかな視線を送りながら、シリウスは思う。
 彼女は…少しは、自分に特別な想いを持ってくれているのだと…
 そう、自惚れてもいいのだろうかと。
 その答えは口に出さないまま、広場の2人を月の光が静かに照らしていた。  
 

●世界にひとりのアナタだから

「…シンプルだけど品のあるドレスね」
 ドレスに袖を通して、くるりと回って。ニッカ=コットンはマイペースだ。
 歌に特に自信があるわけではない。けれど、自分は緊張しないタイプ。
 だから動じることもなく、花は自分が好きなミニひまわりを選んだ。
(とてもいいわ、このドレス)
 胸にミニひまわりを挿してみれば、それはとてもよく映えて見えて
 ニッカの機嫌はますます良くなる。
 そんなニッカの様子を、準備を終えたライト=ヒュージ=ファウンテンは
 そっと眺めていた。
(あの胸のひまわり…まさにお嬢さんのイメージそのものだ)
 それは、ライトの素直な感想。
 そして、彼女が髪につけた飾りもいつものリボンではなく、
 ミニひまわりを髪に編み込んでいて、それもとても可愛らしく感じる。
 ライトはというと、胸に挿すのに選んだのは『カランコエ』という花。
 その花言葉は『あなたを守ります』。
 まさに、花言葉はライトの心を表しているものだった。

 そして、練習の時間も瞬く間に過ぎ、あっという間に本番がスタートした。
 愛を紡ぐ歌詞を合唱する…もちろん、歌詞の意味は判っている。
(なんだか…ライトの顔ばかり浮かぶわ)
 皆と一緒に歌いながら、ニッカの脳裏に浮かぶのはライトの表情だ。
 ライトはというと、実は歌には割かし自信はあった。
 この歌が愛を伝え合う歌だと聴いた時に、どう歌うかも考えた。
(お嬢さんを恋愛対象として考えたことはまだないが…)
 けれど、そんな彼女を護る事ができるのは、自分しかいないとも思っている。
 だから、あの花を選んだのだ。
 そう、だから今、自分は護りたいと思う大切な存在…ニッカに向けて歌おう。
 そんな想いと共に、ライトは自分のパートを高らかにうたい始めた。
 ニッカはそっとライトの方を見る。
 タキシードを着て男らしく歌うライトは…とても魅力的で見とれてしまう。
(なによ…格好いいじゃない…)
 が、自分たちのパートが近づいてきて、
 ニッカは慌てて自分の考えを頭の中でぶんぶんと打ち消すと、
 自分もライトと同じく歌に集中していくのだった。

 大きな拍手に見送られ、2人は他の合唱団と共に舞台を後にした。
 舞台袖から控え室のある方に戻ると、
 ライトはいつも通りの服に着替えようと衣装室に向かい歩き出した
 …のだが、その袖を誰かに掴まれた。
「…お嬢さん」
 掴んでいたのはニッカだった。表情からして慌てて引きとめようとしたらしい。
 まだ着替えてほしくないのか、口をぱくぱくさせて何かを伝えようとしている。
 そんなニッカがいつもと違うかわいらしいものに思えて、
 ライトは自然と優しい微笑みを浮かべていた。
「あ…う…その」
 ニッカはそのいつもより優しく感じる微笑に真っ赤になってしどろもどろになる。
 そう…もう少し、その格好でいてもいいじゃない、と思ったのだ。
 引き止めたときは少し驚いていた様子だったが、どうしてそんなに優しい目をするのか…
(もう何よ!訳が分からないわ!)
 ライトの様子もいつもと違うし、今日の自分もなんだかおかしい。
 最初はマイペースなハズだったのに…と、ニッカは混乱状態に陥っていた。
「よし!こんな時は食べるのみよ…!」
 そう自分に言い聞かせるようにいつものテンションに戻ると、
 ニッカは勢いよく打ち上げ会場に料理を取りに駆け出していってしまった。
 まるで逃げるように走ってゆくその姿を眺めながら、
 ライトはまた微笑みを深くする。
 こんな日がいつまでも続けば良い…そう思いながら
 ライトは彼女の後を追うと、白い皿をその手に持ちながら、
 どこまでも紳士的に彼女の傍に寄り添うのだった。


●その歌声は甘く清く

 本番前に練習しないか、とフェルン・ミュラーに誘われた瀬谷瑞希。
 彼女はかなり緊張していた。なにせ、人前で歌った事なんてほとんど無かったからだ。
(でも、私素人なんだから…シッカリ練習しなくちゃ…うう、でも眼が廻りそう…)
 緊張でグラグラしそうになっているミズキをミュラーはしっかり見守っている。
 そう、いつだってミュラーは彼女を見守っているのだ。

 そして、本番前。
 なんとか練習を終えて本番…という段階になっても、まだミズキの緊張はほぐれていない。
(彼女は人見知りだから、緊張を解いてあげなくちゃね…)
 当然だ、人見知りの彼女が大勢の観客の前で、合唱団の一員とはいえ人前で歌うのだから。
 今のままだと誰が見てもガチガチに緊張しているのは明らかだ。
 なんとか必死に練習しているミズキの傍に近づくと
 ミュラーはゆったりと声をかけた。
「声も綺麗だし、歌詞もすぐに覚えられるから、後は自信をもって堂々と歌えば大丈夫」
 ミュラーの言葉に、ミズキはうんうん、と頷く。
 さらにミュラーは、舞台ソデから観客席の方をそっと指差して言葉を続けた。
「観客席より上の方を見ていたらお客さんの事は気にならないよ」
 具体的なアドバイスに、ミズキは大きく深呼吸する。
「ん、その通りにしてみますね…!」
 ミュラーの言葉を信じてみたら、きっとうまくいくだろう。
 素直なミズキの言葉にミュラーも微笑んで見せる。
「合唱だから、1人1人じっくり見ている観客の人は居ないよ、心配しないで」
 その言葉に、ミズキは少し混乱した。
 つまり、ミュラーの言いたいことは…要するに…
「お客さんが見えなかったら大丈夫ってこと…?」
 素直な質問に、ミュラーは笑って、それもあるけどね、と言って続きを話す。
「実際舞台に出てると、しっかり見られるのは間違いないけど…
 要するに、お客さんを意識しない…気の持ちようっていう事かな」
 わかりやすい解説に、ミズキの顔色もかなりほぐれてきつつあった。
 ミュラーに『大丈夫』と言ってもらえたら…
 それだけで、なんの根拠もなく大丈夫だと思えてしまう自分がいる。
「それに。そのドレス」
 いわれて、はじめてミズキは自分の格好を改めて確認する。
 シンプルな白いドレスの胸に挿してあるのは…赤い薔薇。
 一方のタキシード姿のミュラーの胸には、ピンク色の薔薇が挿してある。
「その白いドレス、似合っててとっても可愛いよ」
 笑顔で褒められて、ミズキははにかんだ笑いを見せた。
 その笑顔がかわいいと、素直にミュラーは思う。
「順番が逆だけど」と口にすると、そのままミュラーは自分の胸からピンクの薔薇を抜いて
 ミズキの胸にそっと挿した。
「あ、ありがとうございます、じゃあ私も…」
 慌ててミズキもミュラーに自分のドレスの薔薇を挿し返す。
 この赤い薔薇はもともと、自分よりもきっと…ミュラーに似合うと思ったからだ。
 彼女はもちろん、『順番が逆』と言ったミュラーの言葉には気づいていない。
 それでも、ミュラーはとても嬉しい気持ちで心が満たされているのを感じた。
 情熱の、赤い薔薇。
 そして、それを互いの胸に挿す意味は…
(無意識でもこの花を選んでくれたのはとても喜ばしいよ…ありがとう)
 ミズキに抑えきれない喜びをこめた微笑を向けたとき、
 館内に本番5分前の合図が鳴り響いた。

 そうして向かえた本番。
 ステージに皆と一緒に立ち、歌詞の意味をかみしめながらミズキは思う。
(何だか、とっても親近感がある…)
 そう、この歌の歌詞は感謝の言葉も沢山ある。
 今日もそうだった。自分はいつもミュラーに支えてもらっている。
 そんな彼の心遣いに内心感謝している。けれど、面と向かって御礼を言えていただろうか…
(ちゃんと、ミュラーさんへの感謝と御礼の気持ちを込めて、歌いましょう…) 
 そうミズキは決意する。
 オーケストラの荘厳な音楽が鳴り響く中、鈴の音のようなミズキの声は
 ミュラーへの感謝の気持ちを込めて、甘く清らかに合唱の一部になって
 会場内に響いたのだった。

「ミズキ、お疲れ様」
 割れんばかりの麦秋喝采でコンサートは無事に終わり、
 ほどなくして打ち上げ兼立食パーティが行われた。
 ホッと一息ついているミズキに、何かに気づいたミュラーは声をかける。
「お疲れ様です、おかげでうまくできました…」
「そうか、よかった」
 ミズキの表情からは、最初の緊張は跡形も無く消え去っている。
 それに…、とミュラーは思う。
 ミズキの声は、とてもよく聞こえてきた。色んな女性の声に混じって。
「よかったら、あそこにあるケーキを食べに行こう。甘くて、とても美味しそうだから」
 そう、それはまるで、あの時聴こえてきたミズキの声のようだった…とは
 そこは、口には出さないで、ミズキを誘って、ミュラーは白い生クリームと
 赤い薔薇のように紅が際立つイチゴの乗ったケーキが置かれたテーブルへと
 2人で歩いて行ったのだった。




END



依頼結果:大成功
MVP
名前:リチェルカーレ
呼び名:リチェ
  名前:シリウス
呼び名:シリウス

 

名前:月野 輝
呼び名:輝
  名前:アルベルト
呼び名:アル

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 京月ささや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月12日
出発日 05月17日 00:00
予定納品日 05月27日

参加者

会議室


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