プロローグ
●香りとぬくもり
イベリン王家直轄領の直轄領を歩けば、いたるところから軽やかな音色が聞こえてくる。
きちんとした会場やレストランならまた違った音楽も流れるのだろうが、路上では集客を狙ってか、はたまた街中に漂う花の甘い香りに釣られてか軽快なものが多い。
それゆえに、オープンカフェも目立つ。カフェで軽食しながら、漏れ聞こえてくる音楽や花の香りを楽しめるという寸法だ。
これも花と音楽の街ならではと言えるだろう。
そんな中、変わった一軒の店がある。カフェと言い切れない理由はすぐに分かる。
店先にいくつもの小さなプールのようなものがある。プールには沢山の花が浮かんでいて、底が見えないほどだ。
プールサイドにベンチが並べられて、パラソルで強い日差しが遮られるようになっている。
『足湯カフェ&バー フルール』と書かれた看板から、小さなプールの正体を察することが出来る。足湯だ。
ふくらはぎより下を花の湯で温めながら、飲食を楽しめる店というわけだ。カフェ&バーということは、軽食だけでなく酒も出てくるのだろう。
湯で温められているからか、それとも何か花のオイルが垂らされているのか、湯気に乗って柔らかな甘い香りが昇ってくる。
日陰であれば少し肌寒い季節だが、足を湯に浸ければすぐにぽかぽかと心地よい温もりを味わえるに違いない。
解説
●参加費
軽食のみ 300jr
酒含む 400jr
二人分です。どちらか片方でも飲酒される場合は酒を含んだ参加費となります
●すること
めいっぱい花が浮かべられた足湯を楽しみながら飲食をどうぞ
・足湯
どの花の足湯にするか、一つお選びください
ジャスミン、ラベンダー、薔薇、蝋梅
・メニュー
飲み物と食べ物は一つずつまで(どちらか一つのみでも可)
飲み物:
紅茶(アイスorホット、ミルクorレモンorストレートから選択)
コーヒー
―!!下記三種類はお酒につき注意!!―
ミント酒:すっきり爽やか。キツめのお酒
薔薇酒:かなり甘い香り
オレンジ酒:爽やかな甘さ。お酒弱い人向け
(なお、お酒は出てくる量が少なめです)
食べ物:
スコーン(ブルーベリージャム)
サンドイッチ(ツナ、ミックス、卵の三種類から選択)
ホットケーキ
●その他
外見年齢が未成年かつ、自由設定で年齢についての補足が無い場合の飲酒はお断りします
また、酔っ払って周囲の迷惑になるような行為もご遠慮ください
上記を違反された場合、入店を拒否される・退店を促されることもありますので、ご了承ください
ゲームマスターより
某GMの、エピでのコメントにちょっぴり責任を感じた今日この頃。
でも諸悪の根源は別にいると主張したい。
柚……げふんごふんGMのゴリラ化を、誰か止めてあげてください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
篠宮潤(ヒュリアス)
・料金:酒含む ●「香り、苦手なの、ない?じゃ、ラベンダーにしよ、っか」 アイスティー注文 ○「…聞いても、いい…?ヒューリのこと」 ちゃぷり 足湯の温もりに背を押され、勇気振り絞り聞く 話終わるまで黙って耳傾け ●「じゃあ、その髪、も…」 染めたのは、少しでも自分を変える為…だったのかな 「あの、ね…」 堪らず相手の顔覗き込み 「…生まれた時、誰だって、誰かのマネをするん、だよ?」 「そこから、少しずつ学ぶ、というか…」 不思議そうな瞳に (う…なんだろ…大人な人、なのに…) 大きいヒヨコ、みたいに見える…っ(困惑と悶えの狭間) 「ヒューリは…きっと、それが少し遅かった、だけ」 充分個性的な、頑固さだし(つい相手の前髪撫でた |
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
足湯:ジャスミン 紅茶(ホット、レモン) ホットケーキ 裸足になり服の裾を少し上げて ゆっくりと足湯に足を浸けます。 不思議ですね…お湯に浸けているのは足だけなのですが、 じんわりと温まってきます… そういえばカガヤは成人ですがお酒飲まないのですか? ルーメンでお酒のようなものを飲んでいた位で。 かまいませんが飲みすぎないようにしてくださいね。 顔が赤いです…本当に大丈夫ですか? カガヤの頬に手を当てて大丈夫か反応を見ましょう。 大丈夫なら良かった… わたくしが隣に居る事の比重はどのくらいですか? 100%とはいかないのですね…むう ねぇ、カガヤ。 わたくしが成人してお酒が飲めるようになりましたら 一緒にまたここに来たいです… |
かのん(天藍)
どの花の足湯にしようか悩んでいる内に、どの位の量の花を入れているのでしょうか?とつい思考が横道に脱線 天藍に考えていた事を指摘され少し慌てた後、更に続いた言葉に微苦笑を浮かべる 天藍が拗ねた所、少し見てみたい気もします 薔薇を選択 飲み物等を選ぶ 花の香りと重ならない物が良いでしょうか? では、サンドイッチ(ミックス)を2人分頼みませんか? 良かったら、私の分も少しどうぞ 足下が温かくて優しい香りに包まれて、楽しげな音楽まで聞こえてきて何だかとても贅沢な気がします このまま少し動きたくないかも 楽器どころか人前で歌ったりも苦手です パフォーマンスとかスマートにできる方に憧れます 私も知りたいです、天藍の事をもっと沢山 |
真衣(ベルンハルト)
お花いっぱいできれい。 このきいろいお花のがいいわ。(蝋梅 紅茶は、ホットのストレート。 食べものは……どっちがいいかな。 ホットケーキもいいけど、スコーンもおいしそうなの。 いいの? なら、私はホットケーキね。 ハルトとはんぶんこ。(にっこり 足もとぽかぽかー。 色んな音がきこえていいところね。 おさけじゃなくてよかったの? ほろよい?のおとこの人はかわいいって、ママが言ってたから気になったの。 えんりょしなくてもいいのに。 ハルト、はい。あーん。(ホットケーキを乗せたフォークを差し出す いらないの?(小首傾げ 私にもスコーンちょうだい。 あー、ん。おいしー。(にっこり ハルトといっしょだもの。 うれしいし、たのしいわ。(笑顔 |
織田 聖(亞緒)
【ラベンダー足湯:ミント酒&スコーン】 温泉、大好きなんです…! 顕現してからお出かけするのは少なくなりましたが 亞緒さんと足湯を楽しめて、嬉しいです(にこ) どの足湯にしますか?と亞緒さんに聞くも 私の好みで良いとのことなので… 「亞緒さんは、ラベンダーのイメージがあります、ね」 瞳の色や優しい雰囲気から選びました お酒もスコーンも美味しいです…!(うっとり) 「亞緒さんも召し上がってみますか?」 (スコーン&ミント酒勧め) 亞緒が酒に弱いこと知らず、顔の赤さに驚き、心配 (ひじりん…!?初めて言われました…!?) 「…!亞緒さん、大丈夫です、か?」 しかし (酔った亞緒さん面白いです、ね) ニヨニヨ そんなEカップ聖。 |
●蝋梅の湯
比喩ではなく、華やかな店内。様々な花の香りが入口にも漂っている。
香りは干渉し合っておらず、甘い香りが混ざり合っていても不快さは無い。
「お花いっぱいできれい」
「そうだな」
真衣は水宝玉の瞳をキラキラと輝かせながら店内を見渡す。
客席の足湯に浮いた沢山の花が目を楽しませてくれる。
「真衣はどの花の足湯が良い?」
ベルンハルトからの問い掛けに、真衣は「んーっと」と悩みながら再び店内を見渡す。
客席の足湯を見て、どの花にするか吟味しているようだ。視線で店内を二往復ほどしてから真衣は大きく頷いた。
「きいろいお花のがいいわ」
「では蝋梅で」
店員に改めて伝えると、彼女はにこやかに二人を席まで案内する。
席へ向かう途中、きょろきょろと店内を見ながら他の客席の花の香りを楽しみ真衣を、ベルンハルトは温かく見守った。
「うーん……」
真衣はメニューと睨めっこしている。何を注文するかで迷っているようだ。
「どれで悩んでるんだ?」
「ホットケーキもいいけど、スコーンもおいしそうなの」
甘いものに目が無い女の子は多く、真衣もその一人だ。
とはいえ、軽食は一人一品までだ。どちらかに絞らなくてはいけないというのはなかなかに酷なこと。
真剣に悩む真衣へ救いの手を差し伸べられた。
「両方食べれば良い。片方は俺が頼もう」
「いいの?なら、私はホットケーキね。ハルトとはんぶんこ」
「半分こか、ありがとう」
にっこり笑う真衣に、ベルンハルトは微笑みを返す。
すぐに近くを通りかかった店員を呼びとめ、ホットケーキとスコーン、二人分のホットストレートティーを注文するのであった。
聞こえてくる音楽に合わせ真衣の体が揺れる。ピアノを習っている為、周囲の音楽が気になるのだろう。
ちゃぷり、小さな水音を立てて音を一つ添える。
「足もとぽかぽかー。色んな音がきこえていいところね」
そうだなと相槌を打ち、ベルンハルトは紅茶を啜る。
日陰ゆえに、時折ひんやりとした風が体を冷やしていくが、足と体内から温まった体には心地いい。
風は湯気を吹き上げ、蝋梅の甘い香りは二人の周囲を満たす。
甘い香りに誘われ、真衣は二人の席の間に置かれた皿のホットケーキを切り分ける。
「おさけじゃなくてよかったの?」
「昼間からはあまり飲もうとは思わない。どうかしたのか?」
「ほろよい?のおとこの人はかわいいって、ママが言ってたから気になったの」
「真衣もいるのに、酔ってはいられないさ」
「えんりょしなくてもいいのに」
苦笑いを零しながらベルンハルトは真衣の頭を撫でた。髪型を崩さないよう気をつけながら、手でなぞる。
真衣は気持ち良さそうに目を細めて、それを受け入れた。
ほろ酔いの男が可愛い……という話は聞いた覚えがないなと呟く。
どうかしたかと真衣が目線で問い掛けるも、ベルンハルトはなんでもないと首を横に振った。
「あっ、そうだ。……ハルト、はい。あーん」
切り分けたホットケーキを差し出すと、ベルンハルトは目を丸くした。半分ことは言ったが、まさか食べさせようとするとは思ってもいなかったのだ。
しかし、それも一瞬。すぐにいつもの、真面目な彼の顔に戻る。
「いらないの?」
「いや、貰うよ」
仕方ないなと小さく添えたものの、彼の目尻は下がり、口角は柔らかく上がっている。
ベルンハルトがホットケーキを食べると、満足そうに真衣は笑った。
「私にもスコーンちょうだい」
ここは彼女の流儀に合わせるべきだろう。
少し待つように言って、ベルンハルトはクリームとブルーベリージャムを割ったスコーンに乗せた。
「ほら、あーん」
「あー、ん。おいしー」
甘いスコーンを堪能し、真衣はにっこりと笑いながらティーカップに手を伸ばす。
スコーンは美味しいが、口の中の水分をごっそり持っていってしまった。しかし、それも食べる楽しみの一つだ。
「楽しそうだな」
「ハルトといっしょだもの。うれしいし、たのしいわ」
「俺も真衣と過ごすのは楽しい」
真衣は真衣らしく、ベルンハルトはベルンハルトらしい笑みを交わし、二人はのんびりと暖かな時間を堪能したのであった。
●ラベンダーの湯
篠宮潤の瞳がちらちらと泳ぐ。
随分と人と接する機会は増えたものの、未だに苦手なままだ。見知らぬ人が多い店はやはり緊張する。
それでも隣にヒュリアスがいる為か、逃げ出したくなるような恐怖は無い。
「香り、苦手なの、ない?」
「ウルの好みで構わん」
ヒュリアスの返事に潤は一瞬の沈黙に浸る。ここはヒュリアスの言葉に甘えるつもりだ。ならば迷う必要は無い。
「じゃ、ラベンダーにしよ、っか」
ちゃぷり。足を動かせば水面に浮いたラベンダーが揺れる。
足を包み込む湯は温かく、甘い香りが緊張をやわらげてくれるような気がして――そろり、潤はヒュリアスへ視線を投げた。
「……聞いても、いい……?ヒューリのこと」
「……いつ尋ねてくるかと思っておったよ」
ヒュリアスは小さく笑みを零し、ミント酒で舌を潤す。
ミント特有の爽やかな香りが口内を満たすと同時にアルコールが鼻についた。成る程、確かにキツめの酒だ。
「さて……あまり面白くない話ではあるが、良いかね」
潤は小さく頷いたのを見て、ヒュリアスは足湯へ視線を落とした。
「俺の故郷は『長』の命や予言が全てだったのだがね。絶対の存在を崩さぬよう、予言を人為的にでも叶える必要があったのだよ。
裏で予言を成就させる為に、『長』の手足となって動く者を赤子の時に選んで育てられていた。……ここまで言えばウルにも分かるだろうが、俺がそれだったのだよ」
代わりのいる人形に過ぎなかった、と小さく添えると、黙って話を聞いている潤が息を呑んだのが分かった。
ヒュリアスはグラスに口を付け、先程よりも多くの酒を口に含む。
「ところが、二十年前の流星融合で全てが崩れた。……ウルは覚えておらんだろうが、各地で大混乱に陥ってね。
俺の故郷も例に漏れず混乱に呑まれ、そのまま俺独りになったのだよ」
ふっと自嘲気味に笑い、酒を煽る。
潤は黙って耳を傾けたままだ。側に置かれたアイスティーは手付かずのまま。
「その時になってようやく『自分』という存在が空虚なものだと気付いてね。己を作る為に、我武者羅に本を読み漁り、人を真似たものだよ」
そうして今の自分がある。
ヒュリアスの小さな呟きは風にも湯気にも紛れることなく、真っ直ぐに潤の耳に届いた。
「じゃあ、その髪、も……」
友人に勧められて今の、青空のような色に染めたということは既に知っていた。ならば、染めたその理由は――自分を変える為だったのだろうか。
皆まで口にしない神人に、精霊はちらと琥珀の瞳を向けた。
「……『俺』は全て誰かの、何かの模倣で成り立っているのだよ」
自嘲の笑みを貼り付けたままのヒュリアスから、潤は視線を逸らさなかった。
煙水晶の瞳を揺らしながらも、彼女の精一杯で琥珀の瞳を見据える。
「あの、ね……生まれた時、誰だって、誰かのマネをするん、だよ?」
想いを確実に言葉へ変える為に、潤は空気を吸い込んだ。肺が甘いラベンダーの香りで満たされたように感じる。
「そこから、少しずつ学ぶ、というか……」
ヒュリアスの目が、常よりも大きく見開かれた。驚いたというよりも、きょとりと不思議そうな表情だ。
その様子が大人なのに、子供……いや、大きいヒヨコのように見えて。
可愛らしく感じて悶えつつも、彼がそんな表情を浮かべた理由がわからず困惑するという、ある意味、器用な潤の心中。
「ヒューリは……きっと、それが少し遅かった、だけ」
潤の手がそろり、ヒュリアスの空の青に触れた。ぎこちない手つきで前髪に触れられているというのに、ヒュリアスには心地よかった。
ヒュリアスは自身に触れる潤を見つめる。紫の髪がラベンダーのようだとぼんやり考えながら、湯のように暖かな手に身を委ねた。
●薔薇の湯
どの足湯にしようか。
悩んだかのんは、判断材料を求めて客席へと視線を移す。薔薇にラベンダー、ジャスミン、蝋梅がそれぞれ浮かんでいる。
水面を埋め尽くす程の花を見ると、どうしても興味がそそられてしまう。
薔薇はまだしも、ジャスミンや蝋梅のように小さな花で水面を満たすとなると、一体、どれだけの花を入れているのだろうか。
自然と、思考が脱線していく。
「かのん、どれにするか選ぶの忘れて花の数勘定してるんじゃないだろうな?」
恋人である天藍にはお見通しだったようだ。
かのんが慌てて天藍と目を合わせると、彼は苦笑いを浮かべた。
「まぁ、良いけどな。あまり放っておかれると拗ねるぞ」
天藍が軽口を叩く。かのんとしては、拗ねた所を少し見てみたい気がするが、口には出さない。胸のうちへと仕舞いこむ。
今はそれよりも足湯の選択だ。
悩んだ末、かのんは一際目立つピンクとオレンジの花――薔薇を選択した。
続いて、天藍がこのまま飲食物も決めようと促した。少し小腹が減っているらしい。
「かのんは何がいいんだ?」
問い掛けられ、かのんは薔薇の足湯をちらと見た。華やかで甘い匂いがすることは間違いない。
「花の香りと重ならない物が良いでしょうか?」
「それなら薔薇酒はやめておこう。ミント酒でどうだ?」
「いいと思います。では、ミックスサンドを2人分頼みませんか?良かったら、私の分も少しどうぞ」
足湯の選択と違って、飲食の決定は至ってスムーズに。打てば響くような流れですぐに決まった。
かのんは湯に浸りながらも、自身の足を抱えこむようにして身を乗り出した。
薔薇の香りが鼻腔を擽る。咲かせる事を目標にしている空色の薔薇も、これだけの香りになればいいと思う。
足元から温められ、優しい香りに包まれて、楽しげな音楽が流れてくる。それがかのんにはとても贅沢に感じる。
気持ち良くて、かのんは目を閉じた。ことり、天藍がグラスを置く音が聞こえた。
「このまま動きたくないかも……」
「確かにな」
最後の一切れを食べ終えた天藍が、音楽のする方向から隣のかのんへと視線を移した。
心地良さそうな様子に口元が綻ぶ。
「かのんは何か弾ける楽器とかあるのか?」
ゆるりと瞼を持ち上げると、かのんのアスターの花に似た色の瞳が姿を見せる。
姿勢はそのまま、瞳だけは恋人へ。
「楽器どころか人前で歌ったりも苦手です。パフォーマンスとかスマートにできる方に憧れます」
自然と紡がれる答え。天藍が聞き、かのんが答えるというやり取りには慣れた。自分は聞くばかりだな、と天藍は苦笑する。とはいえ、そこに自嘲の色は無い。
なぜならば、一つかのんを知っても、まだ知らないことが沢山ある。そして、時間はたっぷりあるのだ。
「教えてくれるか?かのんの事を」
「私も知りたいです、天藍の事をもっと沢山」
どちらともなく手を伸ばす。
二人の間で重なった右手と左手は、とても温かかった。
●ジャスミンの湯
ほんのりとピンクがかった白い花が湯に浮かんでいる。
裸足になった手屋 笹は、濡れないように裾をほんの少し持ち上げてからゆっくりと足を湯の中に沈めた。
ジャスミンは『香りの王』と呼ばれていると店員が教えてくれたが、この優雅な香りは女王と呼んだ方がいい気がする。
「不思議ですね……お湯に浸けているのは足だけなのですが、じんわりと温まってきます……」
笹はほうっと息を吐いた。気持ちが解れていくのを感じる。湯の暖かさだけでなく、ジャスミンの香りの効果もあるのかもしれない。
隣に座ったカガヤ・アクショアは体を解すように伸びをし、笑って同意した。
「そうだね、足の裏側から癒される!」
湯につけた足はそのままに、二人でメニューを広げた。
笹はさして迷うこと無く、ホットケーキとホットレモンティーに決めた。甘い香りの中、甘い物を食べるのだから飲み物はさっぱりしたものが欲しいと思ったのだ。
対して、カガヤはまだ決まっていない様子。
悩んでいるようにも見えて――ふと、カガヤが酒を呑む姿を見た覚えがないことに笹は気付いた。ルーメンで一度だけ酒に似たようなものを飲んでいた位だ。
「そういえばカガヤは成人ですがお酒飲まないのですか?」
笹からの問い掛けにカガヤが浮かべた表情は、渋面。あまり良くない記憶があるらしい。
カガヤは唇を少しだけ尖らせ、理由を口にした。
「……親父が酒好き過ぎて、呑んで呑んで呑みまくって人様の迷惑というか公共の迷惑というか(以下500字程略)な姿しか見た事無いからかな……」
「……なるほど。反面教師という訳ですか」
笹は神妙な顔で頷いた。
そういうこと、と言いながらもカガヤの顔にはいつものおおらかさが戻っている。
「でもまあ、飲めなく無いし偶に飲む分には好きだよ~。折角だし……」
カガヤはミント酒にすると言い、軽食にミックスサンドを選んだ。父親の話を聞いた後なので笹はさらりと釘を刺す。
「構いませんが、飲みすぎないようにしてくださいね」
気のせいだろうか。カガヤの顔が赤いように思える。
「やっぱり偶に飲むのいいね~」
機嫌が良さそうなカガヤの呟きが、笹の疑念を確信に変えた。間違いなく、赤くなっている。
「本当に大丈夫ですか?」
笹は小さな手をカガヤの額へと伸ばした。
熱は無い様だが不安で、笹はそのままカガヤの反応を見た。
「大丈夫だよ、ちょっと強めのお酒だったみたいだから」
「大丈夫なら良かった……」
へにゃり、カガヤは相好を崩した。
酒と湯のせいで体は熱いくらいだが、同じように湯で温められた笹の手のひらの熱が気持ちいい。
「サンドイッチを食べてはどうでしょうか?お酒は何か食べながらだといいと聞きますし」
「そだね。じゃあ、いただきます」
手を合わせ、カガヤはサンドイッチを口にする。美味しい。ミント酒との相性もなかなかいい。
聞こえてくる軽やかな音楽は素敵だと思うし、足湯は心地いい。そして何よりも隣には笹がいる。
「今……贅沢している気分……」
「何か言いましたか?」
気持ちが口から出ていたらしいが、笹は上手く聞き取れなかったようだ。カガヤはのんびりと、先程思ったことを言葉にした。
何かが気になったらしく、笹が小首を傾げる。
「カガヤ」
「なに?どしたの?」
のんびりしたカガヤの声。笹は覗き込むように身を乗り出した。
「わたくしが隣に居る事の比重はどのくらいですか?」
「比重?えっとね……7割……かな?」
「100%とはいかないのですね……むう」
答えがちょっぴり不満そうな笹を見て、カガヤは笑った。黒味がかった犬耳が倒れている。
「そりゃあね~。主役のお酒だけじゃなくて、サンドイッチがあった方が楽しめるのと一緒だよ」
「……それもそうかもしれませんね」
カガヤの柔らかな笑みに触発されたのか、笹の目が細められる。
「ねぇ、カガヤ。わたくしが成人してお酒が飲めるようになりましたら、一緒にまたここに来たいです……」
「そうだね……また来ようよ。約束だよ」
笹は視線を足湯へと向けた。
いつか、また。笹は目を閉じた。風が湯気と長い緑の髪を巻き上げ、吹き抜けていく。
けれど、交わした約束の暖かさはいつまでも二人の間から離れることは無かった。
●ラベンダーの湯
深い関係とはいえない亞緒から見ても、織田 聖はとても機嫌が良さそうだった。
聖は弾むような足取りで店の敷地に足を踏み入れる。
「どの足湯にしますか?」
「聖さんの好みで選んでください」
聖は視線を足湯の一覧表から亞緒へ移した。そこには柔らかな紫の瞳がある。
「亞緒さんは、ラベンダーのイメージがあります、ね」
瞳の色や雰囲気が亞緒に似ているように思う。
うん、と聖は小さく頷いてラベンダーの湯にすると店員へ告げた。
おっかなびっくりという訳ではないが、どこか慎重な様子で亞緒は湯に足を浸ける。
熱い気がしたのは最初だけで、慣れてくると丁度いい温度に思えた。
その横で、聖はラベンダーの香りを堪能していた。温泉特有の臭いではなく、花の匂いというのも乙なものだ。
けれど、ぽかぽかと体が温まるということには変わりない。
「温泉、大好きなんです……!亞緒さんと足湯を楽しめて、嬉しいです」
「気持ちいいです。聖さんの好きなものを私も体験出来て嬉しいです」
亞緒が微笑むと、聖はにっこりと笑みを返した。
顕現してから出かけることは少なくなってしまったが、こうやって亞緒と一緒に楽しめる喜びが出来たので悪いことばかりではない。
注文したものが二人の間に運ばれて来た。聖はミント酒とスコーン。亞緒はアイスティーと卵サンドだ。
早速、聖はスコーンに手を伸ばす。勿論、クリームとジャムをたっぷり付けて。
口に入れた途端、聖の目が蕩けた。美味しい、と雄弁に顔が語っている。
しっかり味わってから、聖は皿とグラスを亞緒の方へと寄せた。
「亞緒さんも召し上がってみますか?」
「それでは頂きます」
代わりに、亞緒も卵サンドとアイスティーを勧める。二人とも遠慮せず、勧められたままに相手の物を口へ運ぶ。
「美味しいです」
「サンドイッチもいいですね」
美味しい食べ物の共有は親しい者同士であればごくごく自然で、とても楽しいこと。
だから、亞緒は深く考えずにミント酒のグラスに口を付けた。
「ミントの香りは好きですが……強いお酒なんですね……!」
一舐めし、その強さに慌てて口を離す。
酒に弱い亞緒はすぐにミント酒を聖に返したのだが――
アルコールは、体を温めるとすぐに回る。足を湯に浸しているということは、つまり、そういうことな訳で。
数分も立たないうちに亞緒の顔は真っ赤になっていた。
聖は驚き、心配になった。亞緒が酒に弱いとは知らなかったのだ。
強い酒とはいえ、彼は呑んだとは言えない。一舐めしかしていないのだ。足湯の効果もあるとは言え、相当弱いということが分かる。
「亞緒さん、大丈夫ですか?」
「はは、大丈夫れすよぉ」
呂律が回っていない。それどころか、いつもよりも距離感がおかしいというか、フレンドリィというか……。
「ねぇねぇ、ひじりん。今度は一緒に温泉いきたいな☆」
言われた内容にもだが、『ひじりん』という呼び方に絶句した。
亞緒にそんな呼ばれ方をしたことは一度も無い。
「亞緒さん、大丈夫です、か?」
先程と同じ問いを、今度は恐る恐る切り出す。
しかし、亞緒には聞こえていないようだ。キャッキャ笑いながら、ぱたぱたと手を躍らせる。
「あ、あの、混浴とかじゃないですよ、お互い温泉堪能して、浴衣着て、海辺で花火とかーきっと楽しいよー」
陽気に温泉計画らしきものを亞緒は口にする。
常とは違う様子に面食らっていた聖だが、次第にその唇が弧を描いていき、ついにはニンマリとした笑みになる。
酔った亞緒が面白いということに気付いたのだ。
酔ったせいで体調が悪くなるということも無さそうだ。自然に酔いが冷めるまではこのままで。
聖はニヨニヨと亞緒を眺めるのであった。
そして、酔いから醒めた亞緒は幸というべきか不幸というべきか、己の醜態をばっちり覚えていた。言うまでも無く深い深い自己嫌悪に陥るのであった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:かのん 呼び名:かのん |
名前:天藍 呼び名:天藍 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | こーや |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 05月11日 |
出発日 | 05月18日 00:00 |
予定納品日 | 05月28日 |
参加者
会議室
-
2015/05/17-23:43
-
2015/05/17-22:49
あいさつ遅くなってしまいました…
手屋 笹です。
真衣さんは初めましてですね。
皆様、よろしくお願いします。
足湯とは…惹かれますね…!
ゆっくりとした時間を過ごしたいです。 -
2015/05/17-22:37
亞緒:
こんばんは、亞緒です。
無事にプランを提出いたしました。
皆さんがどんな湯を選び、何を語らうのか…
気になりますが…詮索は野暮、ですね。
どうか素敵な思い出が出来ますように…
またお会いできますのを楽しみにしております。 -
2015/05/14-23:25
-
2015/05/14-23:24
織田さ、ん、かのんさん、笹さ、ん、
お元気そう、で、良かった。また会えて嬉しい、よっ。
真衣さ、ん、初めまして、だ。篠宮潤(しのみや うる)という、よ。どうぞよろしく、ね。
温泉が好きっぽかった、から…足湯、なら、ヒューリも一緒に行って、くれるかな…って。
なんだか…緊張、や、張り詰めてたこと、多かった気がする、から…少しでも、ココでリラックス出来る、といいな… -
2015/05/14-23:20
みなさん、はじめまして!
真衣とベルンハルトっていうの。よろしくね。
足もとぽかぽかして、きっときもちいいと思うの。 -
2015/05/14-23:09
-
2015/05/14-23:09
こんにちは、かのんです
笹さん、この前の件はおつかれさまでした
潤さん、聖さん、お久しぶりです
真衣さん、初めまして (ですよね?、首傾げ)
足湯、花の種類が沢山あってどれにしようか悩んでしまいますね
どの花の足湯も香りに癒やされそうです -
2015/05/14-18:03
皆様、こんにちは。織田 聖と申します。
隣の兎耳テイルスは亞緒さんです。
潤さんとヒュリアスさんはDCBぶり、
笹さんとカガヤさんは七色食堂に続いて、
かのんさんと天藍さんはカップルコーディネートぶり、ですね。
そして真衣さんとベルンハルトさんははじめまして、です(にこ)
温泉も足湯も大好き、です。
とてもとても楽しみです、ね(うきうき)
どうか皆様、素敵な時間を楽しめますように…!