【春の行楽】木霊水仙が咲く水辺(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 イベリン近郊の小さな村デントリ。村を守るように、豊かで深い森が広がっている。
 人間に友好的なトレントや、姿の見えない音楽好きの妖精が暮らしており、村の人々とも上手く共存している。

 トレントや妖精たちからの加護があるのか、デントリの森には不思議な植物が多い。
 たとえば、森の水辺に咲く木霊水仙もその一つだ。
 花に向けて内緒話をするように伝えたい言葉をそっと吹き込むと、木霊水仙の花弁が揺れる。そして花にささやいた言葉が、伝えたい相手の耳元に届くのだという。

「森の中の湖は、けっこうロマンチックな雰囲気なんですよ。ウィンクルムさんのデートにぴったりなんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか!」

 イベリン領内のA.R.O.A.支部。職員に向かってそう売り込みをかけているのは、デントリの村長の娘だ。

「オーガを倒したりはしないので正式な依頼というわけじゃないんですけど……、お願いできますか? ウィンクルムの皆さんを森にご招待したいんです」

 デントリ村の娘の話によると、ここ最近森で暮らしているトレントや妖精たちが落ち着かない様子なのだという。気の長い村人が、トレントからゆっくりと事情を聞き出した。どうやらトレントと妖精は、イベリン周辺にちらつくようになったオーガが発する瘴気に怯えているらしい。

「上手く共存ができているので、急にデミ・トレント化したりとか、そういう物騒なことにはならないと思うんですけれど……。ウィンクルムさんって、愛の力で瘴気を払えるって聞きました! だから、ウィンクルムさんが森でデートを楽しんでくれたら、トレントや妖精たちも元の落ち着きを取り戻すんじゃないかと! ぜひきてくださいよ。歓迎しますから!」

 半分人助けのボランティア、半分自分たちのためのデート、ということになるだろうか。とはいえ、特別な苦労はいらない。神人と精霊が互いに仲良くしていれば、それでデントリの森の雰囲気は自然と良くなるだろう。

解説

・必須費用
交通費:1組300jr

・木霊水仙
デントリの森の湖のそばに咲いています。
この花にそっとささやいた言葉は、伝えたい相手の耳元に届きます。この不思議な力が働くのは森の中だけで、森の外に持ち出せば普通の水仙と見分けがつかなくなります。

・森について
トレントと姿の見えない妖精がいます。敵ではなく、特にデートの邪魔もしてきません。
ただ、火の使用や植物を荒らす行為はお控えください。トレントが怒ってしまいます。

・デートコーデについて
メロディーホルダーを装備していると、姿を見せない妖精がその音楽を再現することがあります。
対応しているアイテムがないとエピソードに参加できない、ということはありませんのでご安心ください。

ゲームマスターより

山内ヤトです。

プロローグでオーガや瘴気の話題が出ていますが、特に危険なことは起こりません。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
森の湖でデート楽しみ!
静かな場所ならきっとエミリオさんも喜んでくれるよね

☆持ち物
・木苺のタルト
・紅茶
【スキル:調理、菓子・スイーツ、コーヒー・紅茶
アイテム:ピクニックバスケット使用】

☆湖のほとりでティータイム
(デザートと紅茶を用意)
エミリオさんの為に腕によりをかけて作ったよ
さ、召し上がれ
えへへ何だか照れちゃうな(精霊に褒められ頬を赤く染める)

(一通り景色を堪能した後)
ふぁ…何だか眠くなっちゃった
風がきもちい…
ごめんなさいっ、デートなのに寝ちゃって
うう、恥ずかしい(赤面)

☆木霊水仙に囁く
素敵な場所に来れたこと
この自然と住人さん達にお礼が言いたいよ
トレントと妖精さんに届くといいな
ありがとう!



ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  花に話しかけると声が届くなんて素敵なのに
森にいる間じゃないとダメなんですよね…

さて、何て話しかけてみま…ひゃああ!
急に耳元で話さないで下さ…
あ、今のが水仙の…吃驚したじゃないですかっ!
決して嫌だとかそういう訳じゃないんですけど…
(心臓まだばくばくしてます…)

このままじゃ悔しいので
水仙を使ってやりかえそうと思いますっ
さっきは動揺して何も言えなかったからここで…
「私はグレンの声、聞こえると安心しますよ」
ちょっと恥ずかしいですね、これ…
水仙があってよかった…

え、直接ですかっ
水仙使った意味ないじゃないですかーっ!
うー…もう一回だけですよ…?
グレン笑ってる…
そんな嬉しそうにしてるの、なんかずるいです…


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  メロディーホルダー「グリーン・ライフ」を持ってきました
森ならぴったりの音楽ですよね

動物はいるんでしょうか
オーガの出現で動物がデミ・オーガになってしまったり
障気のせいで住むところがなくなったりは…嫌なものですね

ハングリー・ジョーの任務から考えてたことがあるんですけど
自分がウィンクルムとして戦うなら、そういった事を無くすために戦いたいなって

ディエゴさん…私の考えに賛成してくれないですか?
任務の成功は大事ですけど、それ以外にも大切なことはあると思います。

【水仙の言葉を聞いた後】
…ディエゴさん、お昼食べませんか?
がっかりしたり嬉しくなったりで忙しかったもので、お腹が空いちゃいました
一緒に食べましょう?



和泉 羽海(セララ)
  アドリブ歓迎

……この人が試したいことって、碌なことがない気がするんだけど(半眼

(聞こえた言葉に)
うん、知ってる
ていうか、それ言うためにわざわざ来たの?

……?
あたし声出ないよ?木霊にはならないと思うけど
まぁ、いいけど…えと、なんて言おう…?
(散々迷った末に、精霊の名前を囁く)

…ほら、ね
聞こえるわけ、ないんだ…
でも、もし聞こえたら…この人も喜んでくれたのかな…?
きっと…この為にここに来たんだよね…

(手を繋がれて驚くも振りほどかない)
…仲良くしてないと、人助けにならないから…が、我慢する

あ、音楽…聞こえた…?妖精さん…かな
見えないのは、ちょっと残念…
トレントなら見える…?写メ撮っちゃだめかな…?


星川 祥(ヴァルギア=ニカルド)
  森でリフレッシュ

ヴァルくんを森に連れ出した
発明に行き詰まってたみたいで、すんなりOKしてくれた
仕事であり趣味でもある機械いじりで疲れた体を癒してもらえたらいいな

あ、プレゼントしたグリーン・ライフとライフ・メロディを身につけてくれてる
今日は私も身につけてきたからペアルックみたいでなんだかくすぐったいな
顔が笑っちゃう

木々のざわめく音や日の光を感じながら、二人でのんびりお散歩
風のよく通る気持ちいい木陰を見つけたから、そこでランチタイム
料理本とにらめっこしながら作ったお弁当だけどヴァルくん喜んでてくれるかな

お弁当を食べ終わって談笑してると色んな動物たちが集まってきて賑やかになったよ
森の息吹を感じたよ


●甘い思いと木苺のタルト
 『エミリオ・シュトルツ』はゆっくりと深呼吸をした。
「森は静かで、自然が心を落ち着かせてくれるから好きだよ」
 穏やかなエミリオの表情を見て『ミサ・フルール』も温かな気持ちになる。
「森の湖でデート楽しみ!」
 ミサはエミリオの好みを考えて、静かな場所をデート先に選んだ。きっと喜んでくれるだろう、と。精霊のことを考えたデートプランだ。
「連れ出してくれたミサに感謝しないとね。ミサと穏やかな時間を過ごしたい」
 エミリオがミサの華奢な手に触れ、優しく握った。
「エミリオさん……」
 思いやりのある行動には、親密な愛情が返される。
 二人で手を繋いで歩く。

 湖のほとりにミサとエミリオがたどり着いた。
「ティータイムをするには、ちょうど良い頃だね」
 ミサの腕には森の腕時計。可愛らしく精巧な腕時計だ。
「エミリオさんの為に腕によりをかけて作ったよ」
 ピクニックバスケットからミサが取り出したのは、手作りの木苺のタルトと紅茶だ。テキパキと段取り良く準備をしていく。ミサはピクニックバスケットを見事に使いこなしていた。
「さ、召し上がれ」
 木苺のタルトの甘酸っぱい香り、爽やかで透明感のある紅茶の色。エミリオの顔がほころぶ。どちらもとても美味しそうだ。
「ミサはお菓子作りがとても上手だね。たとえプロが作った物でも、俺はミサの作ったデザートが好きだよ」
 調理、菓子、紅茶。ミサは幅広くスキルを身につけていた。今はウエイトレスとして働いているが、いつかパティシエになるという夢のために勉強中だ。
「えへへ何だか照れちゃうな」
 その努力が、エミリオに認められ褒められた。ミサは嬉しさで頬を赤く染める。

 ティータイムを終え、一通り周囲の景色も堪能した後で。
「ふぁ……何だか眠くなっちゃった。風がきもちい……」
 眠気に負けて、ミサはすやすやと寝入ってしまった。
「ミサ、寝ちゃったの? いくら天気がいいからって風邪ひくよ」
 声をかけたが目覚める気配はない。エミリオは少し迷った末、ドキドキしながら眠るミサに近づいた。
「これなら温かい、かな」
 エミリオは眠るミサを優しく抱きしめる。彼が身につけていたクリスタルコサージュ「アクエリア」がキラリと輝いた。
 湖を見ながら、エミリオはしばらくの間、眠るミサを抱きしめて守っていた。
「うーん……? はっ!? ごめんなさいっ、デートなのに寝ちゃって」
 眠りから覚めたミサは慌ててエミリオに謝る。
「ふふ、とても可愛い寝顔だったよ」
「うう、恥ずかしい」
 赤面するミサを見て、エミリオはそんな彼女が可愛らしいと思うのだ。

「あ、あれが木霊水仙だね!」
 湖のほとりで揺れている水仙を見て、ミサとエミリオはデントリの森だけに咲く不思議な花の話を思い出した。花に向けて伝えたい言葉をそっと吹き込むと、その言葉が伝えたい相手の耳元に届くのだという。せっかくなら、その場所でしかできない珍しい物事も、デートに取り入れておきたい。それが二人の大切な思い出になる。
「素敵な場所に来れたこと、この自然と住人さん達にお礼が言いたいよ。トレントと妖精さんに届くといいな」
「ふふ。優しいんだね、ミサ」
 ミサのアイディアにエミリオも賛成した。ミサと一緒にエミリオも同じ木霊水仙に話しかける。……姿勢や体制から、必然的に二人の顔が近くなった。
「突然君達の住処に邪魔したこと悪かったね。この豊かな自然が誰かの手によって踏み荒らされないことを願うよ……ううん、俺達がそんなことさせない。君達のおかげで大切な人と幸せな時間を過ごすことができた」
 エミリオはミサに視線で合図した。ラストの言葉は、二人で息をそろえて。
「ありがとう!」
「ありがとう」
 デントリの森全体がざわめく。風に揺れる葉音はまるで、二人を祝福した木々が拍手をしているかのようだった。

●ささやきとときめき
 木霊水仙を眺めながら『ニーナ・ルアルディ』はちょっぴり残念そうだった。
「花に話しかけると声が届くなんて素敵なのに森にいる間じゃないとダメなんですよね……」
「相手に声が伝わる花……ねぇ」
 『グレン・カーヴェル』は少々疑わしげな目で木霊水仙をチラッと見てから、イタズラをひらめいた顔でニッと笑った。彼の視線の先にいるのはニーナだ。
 グレンは彼女から少し離れた場所に移動する。
「ちょっと試しにそこに咲いてるのでやってみるか。あいつはどんな反応するか楽しみだ」
 そばにある木霊水仙に、グレンはそっとささやいてみた。
「ニーナ」
「さて、何て話しかけてみま……ひゃああ!」
 可愛らしい悲鳴と共に、ニーナは耳をおさえて飛び上がった。
「……ああ、なるほどこういうことか」
 その反応を見て、グレンは少し嬉しそうだ。
「急に耳元で話さないで下さ……」
 そう抗議するニーナだが、グレンが離れた場所にいるのを見て、何をされたのか把握したようだ。
「あ、今のが水仙の……吃驚したじゃないですかっ!」
「悪い悪い、でも実際にこうやってみねーとどんな物なのか分からねーだろ?」
 たいして悪びれていない様子で、グレンは軽ーく謝る。
「……つーかお前の今の反応! 驚きすぎだろ、こんな面白いのにこの森じゃないと効果ないとか何か勿体ねーな……」
「……」
 顔を伏せて黙り込んでいるニーナを見て、グレンも少し気になったようだ。
「……何だよ、そんなに嫌だったのか?」
「決して嫌だとかそういう訳じゃないんですけど……」
 グレンのイタズラのせいで、ニーナの心臓はまだばくばくしていた。

「さて、そろそろ別のところ行ってみるか……」
 その前に、とニーナは木霊水仙に近づいた。このままでは悔しいから木霊水仙を使って自分もやり返そう、という思惑だ。
「それに……」
 さっきは動揺して何も言えなかった。木霊水仙を使って、ここで言おうと思う。咳払いをしてノドの調子を整えて、ドキドキしながら水仙に唇を寄せる。
「私はグレンの声、聞こえると安心しますよ」
 一瞬ハッとして、グレンが耳をおさえる。その後、振り返ってニーナを見つけた。グレンが近づいてくる。
「……ああ、さてはやり返して俺を驚かそうとした感じか?」
 図星をつかれた。
「ちょっと恥ずかしいですね、これ……」
 水仙があってよかったと思っているニーナに、グレンは挑発めいた口調でこんなことを言った。
「伝えるんだったらさ、目の前にいるんだ。花じゃなくて俺に直接言ってみろよ、ホラ」
「え、直接ですかっ。水仙使った意味ないじゃないですかーっ!」
 恥ずかしがって走って逃げようとするニーナだったが、腕をガシッとつかまれた。
「だーめだ、逃げんなここにいろ」
 ニーナの表情や反応を楽しむように、グレンは照れている彼女に自分の要求を突きつける。
「花越しにじゃなくて、お前の口から直接聞きたいからな、俺は」
「うー……もう一回だけですよ……?」
 そう承諾すると、グレンは腕をつかむ力をちょっとゆるめた。小柄なニーナの背丈に合わせて、グレンは屈みこんでくれた。バットクリスタルで飾られた彼の耳に、ニーナは優しくそっとささやいた。
「私はグレンの声、聞こえると安心しますよ」
「ありがとな、ニーナ」
 そう言って、グレンはちょっと乱暴にニーナの金髪を撫でた。
「グレン笑ってる……」
 彼の笑顔が眩しい。
「そんな嬉しそうにしてるの、なんかずるいです……」
 服の上から自分の心臓の辺りをぎゅっと握って、ニーナは切なげにつぶやいた。

●トレントからの応援?
 デントリの森に『和泉 羽海』と『セララ』はきていた。
「森なら人も少ないし、気が楽でしょ」
 あまり外出を好まない羽海をセララが誘い出したのだ。
「それにちょっと試したいことがあったんだ」
 セララの言葉に、羽海は半眼になって睨んでしまう。
(……この人が試したいことって、碌なことがない気がするんだけど)
「あ、木霊水仙ってこれかな?」
 冷たい視線に臆すことなく、セララは森の水辺に咲く花に嬉々として近づく。
「羽海ちゃん、ちょっと離れててね」
 少しいぶかしがりながらも、羽海は後ろに下がった。
「羽海ちゃん大好き」
 それはまぎれもなくセララの声で。でもセララは離れた場所にいて。
「ねぇねぇ聞こえたっ?」
 キラキラとした目で、セララが尋ねる。
 羽海はいたって低めのテンションで頷く。
(うん、知ってる。ていうか、それ言うためにわざわざ来たの?)
 羽海は視線でそう問いかけた。

「……あの、さ、嫌じゃなかったらでいいんだけど、羽海ちゃんもやってみない? 物は試しだよ」
(……? あたし声出ないよ? 木霊にはならないと思うけど)
「もしかしたら不思議が起きるかもしれないじゃない」
 一瞬でも、嘘でも良い。木霊水仙の力で羽海の声が聞けたら。セララはそんな希望を抱いていた。
(まぁ、いいけど……えと、なんて言おう……?)
 散々迷った末に、羽海は試しにセララの名を木霊水仙にささやいてみた。

 セララはずっと真剣な表情で耳をすましていたけれど、やがて悲しそうな苦笑を浮かべてこういった。
「あぁ……やっぱり駄目かぁ。ま、仕方ないよね」
(……ほら、ね。聞こえるわけ、ないんだ……)
 木霊水仙の力不足だったのか、羽海本人が聞こえるわけがないと思っていたからか。原因は不明だが、実際の結果として羽海の声はセララに届かなかった。
「あぁぁ、そんな顔しないでよ。変なこと頼んでゴメンネ。オレは今の羽海ちゃんが好きなんだから、気にしなくていいんだよ」
 でも、と羽海の心は晴れない。
(もし聞こえたら……この人も喜んでくれたのかな……? きっと……この為にここに来たんだよね……)

「ほら、デートの続きしようっ」
 きゅっと羽海の手を優しく握る。
 羽海は驚いたが、振りほどこうという気は起きなかった。
「あれ、今日は嫌がらないの? 嬉しいなぁ」
(……仲良くしてないと、人助けにならないから……が、我慢する)
 喜ぶセララ。忍耐の羽海。ちぐはぐな二人である。

 ふと、夕暮れに色づく大自然を思わせる雄大な旋律が、風と一緒に聞こえてきた。
(あ、音楽……聞こえた……?)
 セララも笑顔でコクリと頷いた。彼にも聞こえたらしい。
(妖精さん……かな)
 この森の妖精たちは姿が見えない。残念だ。
 羽海は繋いでいない方の手で、携帯を取り出した。
(トレントなら見える……? 写メ撮っちゃだめかな……?)
「なになに、羽海ちゃん、写真撮るの? オレとのツーショット? ……あ、トレントを撮りたいんだね……」
 羽海が持ってきたメロディーホルダーは大自然をテーマにした音楽が込められていた。その縁あってか、羽海はトレントを見つけることができた。向こうも友好的な様子である。
「写メ撮っても、普通の木と見分けがつかないんじゃ……」
 とセララが指摘すると、トレントはゆーっくりと枝の形を変えて、羽海のためにポーズをとった。
「あ、この枝の形って、もしかして!」
 セララが目を輝かせた。
「ハート型だよ、羽海ちゃ~ん! トレントがオレたちの仲を応援してくれてるんだよ! 嬉しいね!」
(え? Vサインでしょ)
 パシャリ。上手く撮れた。

●ピクニックとペアルック
「あーもう、まったく! 今作ってる発明、何度やり直しても上手くいかねえ」
「ヴァルくん、いるかな?」
 『ヴァルギア=ニカルド』がため息をついていると、『星川 祥』がやってきた。発明に行き詰まっている様子の彼を息抜きにと森のピクニックに誘う。
「ふーん。いい気分転換になるかもしれねえ」
 すんなりと了承が得られた。
「それじゃいこうか。えっと、たしか……イベリン領にあるデントリって村の森で、タブロスからは電車で少し移動する必要があるんだけど」
 機械いじりはヴァルギアの仕事でもあり趣味でもある。行き詰まって疲れた体を森でリフレッシュしてもらえたら、という思いからの誘いだった。

 というやりとりを経て、祥とヴァルギアは今イベリン領内の森に遊びにきていた。
「……あ、ヴァルくん……!」
 ヴァルギアの姿を見て、祥はあることに気がついた。プレゼントで渡したグリーン・ライフとライフ・メロディをヴァルギアがちゃんと使ってくれている。
 お揃いのアイテムを祥も身につけてきていた。王立音楽堂の近くにある工房で作られたペアイヤリングが、二人の耳元でキラキラと揺れている。なんだかまるでペアルックみたいだ。
「なんだかくすぐったいな」
「ん? なんだ? 祥もまったく同じもん付けてら」
 二人して、思わず笑みがこぼれた。

 木々のざわめく音や木漏れ日を感じながら、祥とヴァルギアはのんびりとしたペースで森の中を散歩する。
「森って気持ちいいなー」
 ヴァルギアは大きく伸びをしてみた。気分が良くて、自然と笑顔になっていた。
「ねえ、ヴァルくん。あっちの木陰に座ろうよ」
 風のよく通る気持ちいい木陰を見つけて、祥はそこでランチタイムにしようと決めた。
「お! 何かと思えば、弁当を作ってきてくれたのか!」
「うん。お弁当を作ってきたんだよ。料理本とにらめっこしながら作ったお弁当だけど……」
 そう謙遜しながら、祥はシンプルなお弁当を広げる。彼女は特別な道具や高いスキルは持っていないので、ごくごく普通レベル……または、ちょっとだけ歪な感じの出来栄えになっている。
 でもヴァルギアは少しも嫌な顔をしなかった。
「所々不格好だけど、美味そうだ。早起きして頑張ってくれたんだな」
 ヴァルギアはニカッと笑った。喜んでくれたようだ。元気良くパクパクとお弁当をたいらげている。
「昨晩は食べなかったから余計美味く感じるんかな」
 少々不健康なライフスタイルを暗示する発言をしながら、オカズをひょいと口に放り込み、もぐもぐと飲み込んだ。
「ふー! 充電完了♪」
「喜んでもらえて良かったよ」
 美味しそうにお弁当を食べるヴァルギアの様子を見て、祥は嬉しくなった。

 食事を終え、二人はその木陰で会話をはじめた。何気ない話題でも笑いが絶えない。和やかに談笑を続ける。
 森の奥から風が吹く。メロディーホルダー「グリーン・ライフ」を風がなでたかと思うと、命の鼓動を思わせる音色が聞こえてきた。姿を見せない森の妖精が、メロディーホルダーに込められていた音楽を再現しているのだろう。
 その音楽に引かれるように、ウサギや小鳥といった森の動物が静かに姿を現した。
「わあ。賑やかになったよ」
「どっからか音楽も聞こえてるな」
 祥とヴァルギアはさわやかな気分になった。音楽をよく聴くために、二人でそっと目を閉じてみた。
「森の息吹を感じたよ」
「ああ、オレもだぜ。楽しい一日だ。誘ってくれてサンキューな、サチ」

●譲れないことがある
「メロディーホルダー「グリーン・ライフ」を持ってきました。森ならぴったりの音楽ですよね」
 『ハロルド』はポケットを軽く叩いた。風が吹いてきて、込められた音色を再現する。『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』はその音楽にしばし聴き入った。
「動物はいるんでしょうか」
 森の中でハロルドは周囲を見回す。
「オーガの出現で動物がデミ・オーガになってしまったり障気のせいで住むところがなくなったりは……嫌なものですね」
 深刻な口調で重々しくそういった。
「……エクレール」
 二人きりの時だけの呼び名で、ディエゴが声をかけた。
「ハングリー・ジョーの任務から考えてたことがあるんですけど自分がウィンクルムとして戦うなら、そういった事を無くすために戦いたいなって」
 毅然とした高潔な覚悟を感じさせる言葉。
 しかしディエゴは、パートナーのそんな決意を手放しで賞賛することはできなかった。
「A.R.O.A.のウィンクルムとして活動するなら依頼人から受けた仕事をこなすのが先決だ。感情を込めすぎるとお前が辛いだけだぞ」
 ディエゴの発言で、自分の決意を否定されたと感じたのかハロルドの顔つきが少し険しくなる。
 しまった。言い方が冷たすぎたか。そう分析するディエゴだが、一度出した言葉を取り消すことは不可能だ。それに、先ほどの言葉は彼の本音でもあるのだ。

 言葉を選びながらも、ディエゴはハロルドを説き伏せようとする。
「気持ちはわかる……が、ここを深く考えてしまうと俺達が今まで倒してきたデミ・ベアーやワイルドドッグはどうなる? あれも元は動物だ、やるせないだろう」
「ディエゴさん……私の考えに賛成してくれないですか? 任務の成功は大事ですけど、それ以外にも大切なことはあると思います」
 冷ややかでキッパリとした口調で断言する。ハロルドの方も、自分の意見を変える気はないようだ。
 意見の相違から、二人の間に不穏なムードが広がっていく。どちらも簡単には譲れない思いがあるのだろう。
「違うな……俺が言いたいのはそういうことじゃなくて……」
 話し合いは膠着状態に陥った。

 そこでディエゴは湖のそばに咲く木霊水仙に目を留める。
 情けないことだが、あれに頼ろう。彼はそう考えた。我ながら気持ちを伝えるのが下手だと自嘲しながら。
 ディエゴは木霊水仙にそっとささやく。
「俺が言いたいのは、お前の傷つく顔を見たくないということだ。一人で悩まないと約束するなら俺も意に沿おうと思う。心配で言い方がきつくなってしまった……ごめんな」
 彼の言葉は、ハロルドへと伝わった。ディエゴを見つめるハロルドの顔からは先ほどまでの険がとれ、柔和な表情へと変わっていた。
 包容力に優れたディエゴが機転をきかせることで険悪な状況を丸く収めた形だ。相手を思いやる段取り力が高いディエゴだからこそ実現できた対応で、もし未熟な精霊なら二人は気まずい空気のままだったかもしれない。

「……ディエゴさん、お昼食べませんか?」
 すっかり穏やかになった声で、ハロルドがそう誘う。彼女はピクニックバスケットを持ってきていた。
「がっかりしたり嬉しくなったりで忙しかったもので、お腹が空いちゃいました。一緒に食べましょう?」
「ああ。そうさせてもらおうか」
 断る理由はない。
 二人の視線が合い、お互いに穏やかな微笑を浮かべた。
 ハロルドは段取りの良さを発揮し、ピクニックバスケットから美味しそうな食事を手際良く取り出して並べていく。
 姿の見えない妖精が奏でるメロディーホルダー「グリーン・ライフ」の旋律に包まれながら、二人は森の中で朗らかなピクニックの一時を過ごした。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月12日
出発日 05月17日 00:00
予定納品日 05月27日

参加者

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