《dahlia》Je Te Veux(寿ゆかり マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 バレンタイン郊外のとある森の中でデミウルフを目撃したとの情報を受け、ウィンクルム達は宵闇の中急いで討伐へと向かった。
 幸い、数も三頭と少なく、大きさもさほどではなかった。ウィンクルムの力を前に、あっけなくデミウルフは倒れ伏す。
 報告に戻らねば、と月灯りを頼りにバレンタイン方面へと歩みを勧めようとすると、とあるウィンクルムは自分の片割れの様子がおかしいことに気付いた。
 どうしたのかと問うと、パートナーはゆらりと立ち上がる。

 好き

 好き だいすき

 なんで 私のモノにならないの?

 ……こんなに、愛おしい のに !

 うつむいていた顔がゆっくりとこちらに向けられる。
 その瞳は月光に照らされ、狂気に満ちた色に光っていた。

 何を言っているのかわからない。うろたえながら近づくと、利き手で手にしていた剣をこちらに振り下ろしてくるパートナー。
 何故 どうしてこんなことをするのか。
 ふと相手の利き手ではない方……今武器を握っていない方の手を見ると、その手のひらに白い花が咲いているのが確認できた。

 いつの間にそんな花を摘んだのだろうか。

 いや、摘んだのではない。
 あれは、寄生しているのだ……!

 そう気づいた時にはもう遅かった。己の頬を刃が掠める。

「ねぇ、欲しいよ。貴方が欲しい 欲しいの 欲しい 欲しい 欲しい!」

 狂ったように欲しいと繰り返すパートナー。

―完全に手に入らないのなら、いっそ……。
 
 パートナーの眼光が鈍く光る。 

 心臓が凍りつきそうだ。
 とにかく、あの花を何とかしなければ……。

解説

目的:トライシオンダリアからパートナーを解き放て

*神人、精霊のどちらが寄生されたか明記のうえ、プランをお書きください。
*ダリアに寄生されている間は愛する相手への好意を殺意へ変え暴走、
 攻撃することになります。
 神人が寄生された場合は精霊と同等の力まで戦闘力が引き上げられると考えてください。
 精霊が寄生された場合は、いつもの戦闘力ですが、手加減なしで相手を殺しにかかると考えてください。
 共通することは、本気で挑まないと命を落とす危険性があるということです。
*オーガは討伐済みなので、トランスは解いているものと考えてください。
*トライシオンダリアが咲く場所は利き手とは逆の手のひら。
 真っ白なダリアが咲いているので、利き手ではない方の手は指先以外基本的に使えません。
 利き手で攻撃することになります。
 利き手の明記をお願いします。
 (両手武器や双剣などの方は無理矢理片手で戦うことになります)
*ダリアを除去する方法は二つ。物理的に引き抜いたり、握りつぶして除去するか、
 宿主が殺意を向けた相手の血液(寄生されていない人物の血液)で染め上げるか、です。(血で染めて除去する方法は、PCは知りません。PL情報となります)
*ダリアを除去せず見捨てた場合、だんだんと白いダリアがどす黒く変色していきます。 真っ黒に変わったとき、パートナーの命が尽きますので必ず除去してください。
*ダリアにより強制的に戦わされるので、寄生解除後はかなり消耗していると考えてください。意識があるかも怪しいレベルです。
*他のウィンクルムとの遭遇は今回ありません。個別戦です。

ゲームマスターより

手に入らないとわかると
余計に欲しくなるでしょう?
ないものねだりは人の性ですもの

錘里GMとあき缶GMがなにやら素敵な闇堕ちを計画したと聞いて(いそいそ
闇堕ちはんぱねぇぇぇぇぇ!と叫びながら乗った次第でございます。

今回寿が設定したトライシオンダリアは他GMの物とは異なります。
トライシオンダリアはそれぞれのGMによって差異がございますので、しっかりと
プロローグを読んで参加してくださいね。

大怪我をする可能性もあるエピですので、くれぐれも油断だけはなさらないよう。

おまえがほしい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  彼から激しい殺意が伝わってくる。

彼に呼びかけるが反応はない。
左手に白い花が怪しい。

油断するとこちらの命が危ない。
武器を構え戦闘に入る。


装備品の宝玉「魔守のオーブ」と時の砂「輝白砂」を使う。
一般スキルはスポーツを使用。


運動神経を駆使して回避したりする。
片手であの武器を使うのは大変なはず。
必ず隙ができるはずだ。

戦闘時の彼の動きはこれまでに何度か見てきた。
それを思い出しながら冷静に動く。

彼の攻撃(特にスキル)のタイミングを見て魔守のオーブを使う。
その後、時の砂で動きを封じようと試みる。

動きを封じたら足払いして転ばせ、素早く彼の左手に生えている花を引っこ抜く。

激しく消耗した彼を見て、涙が出そうになる。


夢路 希望(スノー・ラビット)
  行動:
「どうしたんですか?」
尋ね、心配で近付こうとしたら
返された微笑みに違和感を覚え
「ユキ?」
手に剣が握られているのに気付き
咄嗟に魔守のオーブを展開し、身を守る

歪んだ想いの告白には困惑
(ユキが、私を…?)
…いえ
きっと、あの花の効果か何か、ですよね

怖いけど、ユキをこのままにしておけない
心を奮い立たせて立ち向かう決意

彼の動きから目を逸らささないよう注意
来たら、半歩横に体をずらす
振り向いた瞬間
クリアライトに月光を反射させ目眩ましを狙うか
明かりが足りなければ柄で脇を突き
怯んだ隙に背後へ回り左手に咲く花を引き抜く

もとの、優しいスノーくんに、戻って…!

戦闘後:
念のため武器を抜く
無事を確認できたら一先ず安堵



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  私は物じゃありません
明確な意思を以てディエゴさんを正気に戻します
腕や足の一本は覚悟しておきます、ディエゴさんの無事の方が大事ですから。

【戦闘時移動】
遠距離戦では圧倒的に不利
せめて攻撃が当たらないように常に動く、あらかじめ魔守のオーブの力場を展開
ディエゴさんの銃の弾丸が切れるところを見計らって一気に距離を詰める

【攻撃】
ダッシュで急接近できる範囲まできたら
力場を展開し懐に潜りこむようにタックル
ディエゴさんを押し倒す(タックル中に受ける攻撃は防御、防御失敗時は宝玉「伊焚荷ノ勾玉」の運命転化効果使用)
精霊の利き手を左手で力いっぱい握り、二人の手ごとレイピアで串刺し
利き手を封じたところでダリアぶっこぬき



リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

(普段とは違うロジェに戸惑うが、柔らかく微笑んで抵抗をやめる)
ロジェ…ロジェ様。良いのです。
私の命運は、貴方をひと目見た時からとっくに決まっていたのですから。
あの日オーガに襲われた時に、本当ならとっくに死んでいた筈なのですから。
貴方を愛してしまった瞬間に、息絶えるなら貴方の腕の中でと決めていたのですから。

(脇腹を撃ち抜かれよろける)
うっ…はぁ、はぁ…私の血肉で貴方が満たされるなら、これ以上の悦びはありませ…うぐっ…!
それで満足した心算ですか!? この程度じゃ、私は殺せな…ああっ!

(ロジェが正気を取り戻し)
ぐ、ごほっ…ロ、ジェ…大丈夫、ですか…?
(朦朧とする意識の中彼を病院へ)



テレーズ(山吹)
  寄生され側
右利き

どうして逃げるんですか?
安心してくださいね、山吹さんの次は私です
ちゃんと追いかけますから

淀みなく喋りつつも攻撃の手は休めず
当てる事を重視して体を狙うも防がれて不満げな顔をするもすぐに酔ったように微笑む

最後の瞬間を一緒に迎えられるなんて、なんて素敵な事なんでしょう
どうして今まで実行に移さなかったのでしょうね?
最後の感情が愛じゃなくて絶望でもいい
私の事を、私の事だけを考えて

規制解除後はごめんなさいとだけ告げる
何も残らなかった、本当にずるい人だ
私の為と言いつつ結局は自分の為
きっと起きた時には悪い夢を見ていたのではとでも言って誤魔化し
また何も関係の変化しない毎日を始めるのだろう



 ゆらり、と立ち上がったジャスティ=カレックから確かに感じた激しい殺意に、リーリア=エスペリットは息を飲んだ。
「ジャスティ……?」
 呼びかけるも、彼は応答しない。ただうつろな瞳でこちらを見ているだけだった。
 本来両手で扱うはずの大きな剣を片手に、何かつぶやいている。
「リーリア……きみがほしい」
 右手で無理矢理持ち上げた大剣は、リーリアを狙って大きく振り上げられる。ザン、と大きな音を立てて彼女の肩を掠り、地に刃をつけた。
「ジャスティ、どうして……!」
 本気だ、そう思って後ずさる。ジャスティの寂しそうな視線がリーリアを射抜いた。
「僕を見てください。僕を、愛して……」
 リーリアが自分の刃から逃れるため距離を取ったことに、彼は震える声でそう告げる。
(運動は、できない方じゃない、し!)
 リーリアは持ち前の運動神経で彼の攻撃を避けようとする、が、スポーツと戦闘は違う。思うように彼の斬撃を避けることは出来なかった。
「……ッ!」
 けれど、ジャスティも両手剣を片手で操っているわけだからいつも通りの動きは出来ない。それが不幸中の幸いだった。振り下ろされる剣はどれもリーリアの致命傷となることは無く重い音を立てて地を傷つけていくだけ。
 幾度かジャスティはウルフファングを発動しようとしたが、トランスの解けている今それは出来なかった。けれど、そこに気付かないあたり明らかに 正気を失っている と言えよう。
「愛してくれないのなら、この手で……ッ」
 愛おしい、守りたい、そばにいたい。その想い全てが殺意に変わる。
 欲しい 欲しい ただ、欲しい。
 今度こそ、自分のモノに。リーリアが息を切らしているのを見て、ジャスティは剣を大きく振り上げる。
――戦闘時の彼の動きは何度か見てきた。
 リーリアはこの瞬間を狙っていたのだ。
 手にしていた魔守のオーブで力場を展開した。ギン、と音を立ててジャスティの刃がはじき返される。
「どうして、リーリア……」
 僕を避けるの。その言葉は伝うことなく。
 リーリアはすかさずバリアを解いて時の砂を使用した。
 その煌めきにジャスティの動きが止まる。
(……今だ!)
 ふらついたジャスティに追い打ちをかけるように、リーリアは彼に足払いをかけた。
 ドサリ、と重たい音を立ててジャスティがその場に転げる。もう、何が原因で彼がこのような行動をとるのか察しはついていた。彼が両手剣を片手で操る原因。
 明らかに異質な左手の『それ』……そのまま彼の左手を取り、その手のひらに咲いたダリアを勢いよく引っ張った。
 ぶつり。音を立ててダリアが千切れ、花が朽ちていく。
 リーリアは彼に付けられた腕の傷がズキリと痛むのを感じて、柳眉を歪めて腕を抑えた。
 花を引き抜かれたジャスティが、立ち上がろうとする。が、膝の力が抜け、その場に膝から頽れた。
 彼を支えるように正面から抱き留めると、彼の鼓動が聞こえる。
――良かった、ちゃんと生きてる。
 けれど、酷く消耗した彼の顔、荒い呼吸に不安が押し寄せる。
――本当に、大丈夫だよね。
 彼をギュッと抱きしめて、リーリアはただ、込み上げてくる涙を押しとどめるのに必死だった。

 山吹は、明らかにテレーズの目の色が違うことに気付いた。
「テレーズさん、大丈夫ですか……っ」
 ザッ、と音を立て儀礼刀「エムシ」が山吹の髪を掠る。
 彼女の唇が、三日月形に歪んだ。
「どうして逃げるんですか?」
 にっこりと愛らしく微笑み、彼女は再度右腕を前に出す。
 首元を狙って伸びてきた刃を避けると、頬のあたりにわずかに紅色が滲む。
「……ッ」
「安心してくださいね……っ、山吹さんの、次は」
 淀みなく言葉を紡ぎながら、テレーズは次々刃を繰り出す。
 盾で刃をはじくよう防御するも、彼女の手が休まることは無い。
 次から次へと、山吹の命を狙って腕を動かす。
「……私です」
「え……」
「ちゃんと追いかけますから」
 貴方を殺して私も逝く、という意味を込めたその台詞に、山吹は血の気が引いた。
 嫌な汗が額を伝う。
(テレーズさんに人殺しの咎を背負わせたくはない)
 だから、殺されるわけにはいかない。
(自分が怪我をしたなら、きっとテレーズさんは気に病んでしまうだろう)
 血を流すような大きな怪我をするわけにはいかない……。
 彼女の攻撃を受け流しながら、山吹は少しずつ後退していった。
「どうして、逃げるんですか?」
 テレーズの攻撃を誘うように後方へ下がる山吹に、不満げな顔で詰め寄る。
 けれど、山吹の息が少し上がっているのを見て、恍惚とした表情で微笑んだ。
「最後の瞬間を一緒に迎えられるなんて、なんて素敵な事なんでしょう」
 不気味なほどに美しい微笑みを浮かべながら、テレーズはまた一突き繰り出した。
 キィン、と高い金属音を立てて盾がはじく。
「どうして今まで実行に移さなかったのでしょうね?」
 だって殺してしまえば貴方は永遠に誰の物にもならない。
「最後の感情が愛じゃなくて絶望でもいい」
 彼女の迷いの無い太刀筋が確かな殺意を浮かび上がらせる。
「私の事を、……私の事だけを考えて」
 次こそ致命傷をと山吹の胸を狙い飛び込もうとしたテレーズの右手を、強く引く。
 ぐらり、とバランスを崩したところを支えるように体で止め、左手に手を伸ばした。
 くしゃり、と音を立ててダリアが引き抜かれる。
 ダリアが引き抜かれると同時に、テレーズの体から一気に力が抜けた。
「……ごめん、なさい……」
 ふらり、と全体重を山吹に預ける。
「大丈夫ですよ」
 安心させるように、あやすようにその優しい手がテレーズの頭を撫でた。
――何も、残らなかった。
 今回も、何もなかったことにされるのだ。
(……大事なく済んでよかった)
 穏やかな顔の山吹がこちらに微笑みかけている。
「……本当に……」
 ずるい人だ。その言葉を発する前にテレーズの意識は途切れた。
 いや、言葉が零れなくて良かった。
 山吹はいつも“そう”なのだ。テレーズのため、と言いつつ結局はいつも自分のため
 無自覚の自己防衛が彼の常だ。
 きっと目覚めた時には「悪い夢を見ていたのではないですか」なんて言って誤魔化して、
 そしてまたいつもと変わらない、関係の変化など何もない毎日を始めるのだろう。
 この罪を、贖うことも許してくれないのだろう……。

 ゆらりとこちらを向いたロジェの瞳の色が、いつもと違うことにリヴィエラはすぐに気付いた。
「ロジェ……?」
 ロジェは両手で構えるべき『聖域の鐘』を左手で構え、右手の指先だけを添える。そして、銃口を向けた。その先は、神人。
 リヴィエラはほんの少しの戸惑いを見せた、が、すぐに何かを察して柔らかく微笑んだ。
「ロジェ……」
 言いかけて、言い直す。
「ロジェ様。良いのです。私の命運は、貴方をひと目見た時からとっくに決まっていたのですから。あの日オーガに襲われた時に、本当ならとっくに死んでいた筈なのですから」
 淀みなく言い切った彼女の強い瞳に、ロジェは狂ったように笑い出した。
「クッ……クックック……あははははははははは!そうだよなァ」
 その瞳が刃のように光る。
「貴方を愛してしまった瞬間に、息絶えるなら貴方の腕の中でと決めていたのですから」
 凛とした声で伝えるリヴィエラは穏やかな微笑みさえ湛えていた。
「リヴィー」
 軽く首を横に振り、彼もまた言い直した。
「リヴィエラ……お前とひとつになるには……」
 ダァン、と銃声が森に響き渡る。
「っひ……ッ」
 リヴィエラからひきつった声が上がった。
 脇腹を狙って放たれたはずの弾丸は撃ち手の支えが甘かったため大幅に軌道をずらし、標的の肩に当たった。鋭く抉る焼けつくような痛みに、リヴィエラは全身から脂汗がにじみ出るのを感じた。
 銃撃の反動で痛めた肩も、ダリアに寄生された今は何も感じない。ロジェは口元に笑みを浮かべながらじりじりとリヴィエラとの距離を縮めた。
「もっとだ……もっと寄越せ、お前の血肉を……!」
 普段なら考えられないような残酷な言葉を吐く。
 肩を抑えながら、リヴィエラが荒い呼吸の中言葉を紡いだ。
「っ、つ……私の血肉で……ッ貴方が満たされるなら、これ以上の悦びはありませ……んッ。それで満足した心算ですか!?」
 煽るような言葉にロジェの片眉が吊り上った。
「この程度じゃ、私は殺せな……ッ」
「生意気な女だ……さっさと観念して俺の手に堕ちろ……!」
 左手で勢いよくリヴィエラを突き飛ばす。
 どさりとそのまま後ろへ倒れこめば、ほのかに土埃の臭いがした。
 起き上がろうとするリヴィエラに跨り、両手で肩を押し付ける。
 トドメは至近距離で。ロジェの口元が愉快そうに歪んだ、その時。
 流血した肩に触れていた右手のダリアが、赤く赤く染まっていった。
「リ、ヴィー……?」
 出血がひどく、もうろうとした意識の中でリヴィエラは優しく微笑む。
「う、ごほっ……ロ、ジェ……大丈夫、ですか……?」
 急いで彼女の上から身を退かして彼女の上体を抱き起した。
 リヴィエラがゆっくりと瞳を閉じながら唇を『よかった』とわずかに動かす。 
「お、れが……? あ、あああ……あああぁあぁぁぁッ!!」
 泣き叫べども、リヴィエラの意識は戻らず。はやく、はやく助けなければいけないのに。
「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だぁぁッ! 畜生、ちく……しょ」
 フッと意識が途切れた。
 ダリアに寄生された際の消耗が激しく、ロジェもリヴィエラを抱き留めたまま倒れこむ。
 先に意識が戻ったウィンクルムに運ばれて医療施設に運び込まれ事なきを得たが、
 ……互いに残ったのは傷と、どんな思いなのか……。

「覚悟を……決めろ」
 ぼそり、と懐かしい響きをはらんだその言葉を放ったのはディエゴ・ルナ・クィンテロ。ハロルドは彼の瞳を見据えた。……いつもと違う。
 彼の右手に携えた拳銃が火を噴く。マルドゥク・ツヴァイの片方だけから放たれる銃撃は着弾した地面で発火した。ハロルドの左足のすぐ横で炎がちり、と燃えて、消える。
 そこで、彼の殺意を確信した。……なぜ。
(私は物じゃありません)
 キッとディエゴを見つめ、ハロルドは魔守のオーブで力場を展開した。
「明確な意思を以てディエゴさんを正気に戻します」
 遠距離戦では圧倒的に不利。双銃を一つしか持っていないにしても、まともに当たればひとたまりもないだろう。ハロルドはそう判断し、狙いを定めにくくなるよう動き続けた。
 オーブで力場が展開されているので直に食らわせることは叶わないものの、接近させないようディエゴは執拗にハロルドの足を狙う。接近を許さず、回り込んでは撃ち、距離を離していく。が、それも長くは続かなかった。
(……玉切れ)
 ハロルドはそれを狙っていたのだ。ぐっと間合いを詰めて、自らが持つレイピアの届く範囲へ。距離を取ろうとディエゴはバックステップをつづけ、ひたすらハロルドから逃げる。レイピアの突きが来れば、銃身で薙ぎ払うのを繰り返し、反撃の期を探しているようだ。ボッカマントVの効果もあって、ハロルドの攻撃はなかなか当たらない。ひらりひらりと躱されるばかりで段々と疲労の色が目立ち始める。が、ここでハロルドは気付いた。
(……さっきから、左手を使ってきませんね……)
 視線をやった先はディエゴの左手。その手のひらに、ふわりと揺れる白い花を見つけた。先ほどからディエゴはそれをかばうように動いている。
(……これが、原因……?)
 なんとかレイピアの攻撃間合いに入ったのはいいけれど、このままでは埒が明かない。あれが原因ならば、もう、飛び込むしかない。ハロルドはグッと歯を食いしばって、ディエゴの胸目がけて懐に潜り込むようにタックルを仕掛けた。体の小さなハロルドだが、消耗し始めたディエゴには十分なダメージだったらしい。
 いきなりの事にディエゴは小さくうめき声を漏らす。
 そのまま全体重を乗せて地面に押し倒せば、背中をしたたかに打ち付けたディエゴが小さく咳き込んだ。
(今しか、ない)
 ハロルドは取り落した銃を拾おうとしたディエゴの右手を己の左手で強く絡め取る。ぎり、と骨がきしむほど強く握りしめ、その動きを奪った。このままレイピアで縫いとめようかと思ったが、それでは今後の活動に支障が出そうだ。これでも充分ディエゴは動けないはず、ハロルドはディエゴの左手をじっと見つめた。
(これのせいだ、きっと……)
 ぶつん ハロルドが右手で力いっぱいダリアを引っこ抜けば、左手で握ったディエゴの右手から力が抜けるのがわかった。
(あ……)
 多分、これで元に戻るはず。ハロルドは冷静に彼の上から退き、規則正しく上下する胸を見つめた。
 数十分後だろうか、ディエゴのまつ毛が震え、静かに瞳が開く。
「……エク、レール……?」
「はい。……大丈夫ですか」
 問いかけにディエゴは一度だけ頷いた。
 そして、すぐに立ち上がろうとする。帰らねば、と。
 しかし、ダリアに寄生されていた影響で激しく体力を消耗し、足元がふらつく。
「……無理はいけませんよ」
 そっと、ハロルドが肩を貸した。小さな少女にもたれかかるようにディエゴはよろよろと歩く。月明かりだけを頼りに、二人は家路を急いだ。
――後日、知ることになる。……何故、あんなに必死に神人の命を奪おうとしたのか……。

――誰にも取られたくない
  誰にも渡したくない
  好き、 大好き。
「どうしたんですか?」
 様子がおかしい精霊、スノー・ラビットに夢路希望が声をかける。心配そうに近寄ってきた彼女に、スノーはふわりと不自然なほど柔らかい微笑みを返した。
 スノーに手を伸ばそうとした希望が異変に気づき、びくりと手を引っ込める。
「ユキ……?」
 すらり、と右手で抜いたのは双月「白黒」の黒の方。迷いなく、希望の胸元を狙って突き出した。
「僕だけのものにしたい……ッ」
「!?」
 咄嗟に魔守のオーブで力場を展開し、身を守る。
(ユキが、私を……?)
 歪んだ愛の告白に、希望は戸惑いを隠せない。
 じっと見つめるスノーの目は、いつもと違って暗く淀んでいる。
 違う……。
 そのまま、いつもなら両手に持っているはずの武器が片手にしか握られていないことに違和感を覚えて視線をスノーの左手へと移す。
――花が咲いている。真っ白な、ダリア。
(……いえ、きっと、あの花の効果か何か、ですよね)
 思い直して希望はくっと唇を噛みしめた。
 違う、ユキがあんな事を言うはずはないもの、と。
 スノーはと言うと、魔守のオーブによって自分の攻撃を防がれたことを“拒絶”と捕え、深く傷ついた目をしていた。
「ノゾミさんは、僕のこと、受け入れてくれると思ったのに……」
 ぽつり、形の良い唇から予想だにしない言葉が飛び出す。
 一歩、一歩、スノーがゆっくりと希望に近づいた。
「どうして逃げるの?」
 また、一歩。
「僕のこと、嫌い?」
 じりじりと距離を詰められ、希望が後ずさった。
「……僕はノゾミさんのこと、殺したいくらい、好きなのに!」
 泣き叫ぶように言って、右手で握った白黒の黒の方を振り上げた。本来、二口でひとつのその刀の白は鞘に納められ、現在の二人を表すように引き離されている。
 寸でのところで避けた希望の髪の毛先を刃が掠る。
(怖い……けど、ユキをこのままにしておけない)
 本来大人しい性格で少し弱気なはずの希望の瞳が強く光った。この人を助けるのは私だ。
「ノゾミさんが欲しい」
 ヒュッと風を切って剣が頬をかすめる。彼の動きから目を逸らさないよう、しっかりと剣の行方を追う。
「ずっと一緒にいたい……」
 うわごとのように呟きながら、彼の斬撃が次々襲い掛かってくる。怖い、けれど怖がっている場合ではないのだ。
 何が原因なのかはわかっている。斬撃を半歩横に避けることで躱した直後、スノーの振り向きざまに向かってクリアライトを掲げた。月の灯りがチカ、と反射して彼の目を刺す。よろけながらも、彼はもう一度剣を振りかぶった。
「ずっと、ずっと……ずっと!」
 振りおろそうとした瞬間を狙い、希望は彼の懐に潜り込むようにその脇を狙ってクリアライトの柄を叩きつけた。
「っう」
 彼が小さくうめく。希望はそのまま背後にまわり、左手の花を引き抜いた。
「もとの、優しいスノーくんに、戻って……!」
 彼を呼び戻すように、声を振り絞り本名を呼ぶ。
 ぴたりと動きを止めたスノーはそのまま力を失い、膝をついた。
「ユキ、……ユキ!」
 縋るように希望が名前を呼べば、彼はぐったりと彼女の腕にもたれながらおぼろげな意識のまま、その瞳に彼女を映す。頬についた切り傷を見て、状況からすぐに自分のしたことだと認識し、スノーは震える声で告げた。
「ごめ……ごめんなさい……ノゾミ、さ……」
 そっとその肩を抱きしめると、彼が小さく震えているのがわかる。けれど、命に別状はないようだ。希望はホッとし、大丈夫と言うように背を優しく撫でる。その温かさに安心して、スノーはそのまま意識を手放した。

 各々、歩ける程度まで回復を待ち、ある者は真夜中の道を、ある者は明け方の道を帰路につく。
 その胸に宿る感情は、一体なんと呼べばいいものなのかわからぬまま抱えて……。




依頼結果:成功
MVP
名前:テレーズ
呼び名:テレーズさん
  名前:山吹
呼び名:山吹さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月10日
出発日 05月15日 00:00
予定納品日 05月25日

参加者

会議室

  • [5]テレーズ

    2015/05/14-00:10 

  • [4]夢路 希望

    2015/05/13-18:00 

  • こんにちは。よろしくね。

    ジャスティの様子がおかしいから、なんとかして大人しくさせてみるわ。

  • [2]リヴィエラ

    2015/05/13-13:59 

    リヴィエラと申します、どうぞ宜しくお願い致します。
    どうなるかわかりませんが、任務を失敗させてしまったらごめんなさい(深々とお辞儀)
    命を賭けて伝えたい想いがあるのです。

  • [1]ハロルド

    2015/05/13-11:07 

    ディエゴ・ルナ・クィンテロとハロルド、着任した
    よろしく頼む

    個別戦のようだから特に相談することはなさそうだな、各々健闘を祈る


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