まんまる!しあわせドーナッツ(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●まんまるわっかなしあわせを
「わっか、わっか、しあわせわっか。まんまるしあわせドーナッツ♪」
開店前の店には、美味しそうな香りと明るい歌声が満ちている。
店の名前は『まんまる堂』。楽しく歌いながら手作りのドーナッツを陳列棚に並べているのは、ベリーショートの赤い髪がお洒落な若い店主・マチルダだ。
「しあわせわっかはご縁を繋ぐ。夢と希望を詰め込んで。まんまるしあわせドーナッツ♪」
陳列棚にどこか誇らしげな顔をして並んでいるドーナッツたちは、皆マチルダの自慢の逸品で、どれもこれも特別に美味しそう。
――さあ、そろそろ開店の時間だ。

●『まんまる堂』のしあわせドーナッツ
「『まんまる堂』というドーナッツ専門店が、近頃話題になっているらしいな」
書類仕事の手は止めないままで、A.R.O.A.職員の男はふと呟いた。同じ部屋で資料の整理に当たっていた新入りの青年は首を先輩の方へと巡らせ、
「あ、知ってます知ってます! 食べると幸せになるドーナッツのお店、ですよね。何でも、途切れることのないドーナッツのわっかみたいに、縁を繋いでくれるんだとか。いいなあ。僕もいいご縁、欲しいです」
のんびりと笑って、そう応じる。
「今度、新米ウィンクルムたちに勧めてみようかと思ってな。気が合う者も合わん者もいるだろうが、縁あってパートナーになったのだから、絆を深めてもらいたいものだ」
先輩の言葉に、純粋な新入りくんは、ぱああと顔を輝かせる。
「流石です、先輩! ご自身の職務もお忙しいのに、ウィンクルムの皆さんのことをそこまで気にかけているなんて…!」
「いや、何、まあ……」
可愛い後輩の真っ直ぐすぎる視線と言葉に耐えかねて、男は言葉を濁す。
ウィンクルムたちに勧めるためという大義名分があれば、美味しいと噂のドーナッツを大手を振って食べにいけると思ったとは、とてもじゃないが自分を慕う後輩には言えない。
「休憩時間、僕、早速『まんまる堂』に行ってきますね! ウィンクルムの皆さんにきちんと情報を伝えられるよう、リサーチしないと! あ、勿論、先輩の分も買ってくるであります!」
片手には資料を抱えたまま、びしっと敬礼を決める新入りくん。
「そうか。じゃあ俺は、チョコ系を頼む」
「了解です!」
結果。『まんまる堂』のドーナッツは、食べ始めると止まらなくなるほど美味しかった。
かくして、ウィンクルムたちの元に『まんまる堂』の情報がもたらされることとなったのである。

解説

●『まんまる堂』について
ハト公園近くの路地にある、小さなドーナッツ屋さん。
気さくな女店主が心を込めて作るドーナッツは絶品で、『まんまる堂』のドーナッツを食べると幸せになる・『まんまる堂』のドーナッツはご縁を繋ぐという噂がまことしやかに囁かれています。
イートインスペースもあり、こちらも店主こだわりの淹れたてコーヒーと一緒にお好みのドーナッツを楽しめます。

●ドーナッツについて
お店には色んな味のドーナッツが並んでいます。形は全部まんまるわっかドーナッツです。
食べたいドーナッツをプランで指定していただけますと、何か問題がない限りリザルトノベルに反映させていただきます。
ご指定のない場合はこちらで味を選ばせていただくことがありますのでご了承くださいませ。
ちなみに今月のおすすめは、手作り苺ジャムを生地に練り込み苺チョコをかけた、可愛いピンクの『夢心地』と、こだわりの茶葉を生地に練り込み上からホワイトチョコをかけた、ふわりと紅茶の香りがする『ティータイム』です。
ドーナッツはどれも1個20ジェール。イートインのみのコーヒーは1杯30ジェールです。

●プランについて
パートナーとドーナッツ選びを楽しんだり店内や公園で一緒にドーナッツを食べたり、お好きなように時間を過ごしていただければと思います。
但し、公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、気をつけていただければと思います。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

美味しいドーナッツを食べていたら、美味しいドーナッツのお話をお届けしたくなりました。ドーナッツが好きです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

木之下若葉(アクア・グレイ)

  美味しそうなドーナッツの話を聞いて
目をきらめかせているアクアを見て
そのお店に行ってみる事に

「アクアー」
そんなに急ぐと転ぶよー

まんまる堂に着いたらドーナツをじーっと眺める
結構真剣にじーっと
色んな種類があるんだなぁとか
どれも美味しそうだなぁとか
あんまり顔に出て無いらしいけれど

買ったのはお勧めだと言ってもらったティータイム
可愛らしいなぁとか思ってドーナツを見てふと前を見ると
リスみたいな動きでドーナツを食べているアクア
思わず噴き出してしまったのはご愛敬
そこまで嬉しいそうに食べてくれると俺も誘った甲斐があるよ

勿論ドーナツはとても美味しくて
「有難うだね」
ドーナツ屋さんにもアクアにも
いろんなことに、ね



初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
  こだわりの珈琲とあっちゃ行かん手はないな

とりあえずはドーナツだな
イグニス、お前はどれにする?……ピンクの方?「夢心地」か
(今月のおすすめ2種類でさんざん悩む様子に)
チョコにしようと思ったんだがな、まあいい
今月のおすすめ2つにしておこう

すいません、「夢心地」と「ティータイム」、あと珈琲2つ。

品物を受け取ったらイートインスペースへ
珈琲もじっくり味わいつつイグニスの様子を眺め
……お前は本当に前向きというか元気というか……

途切れることない縁、か
(ほぼ無意識に胸元に下げたリングを弄び)
……せめてお前との縁は繋がってて欲しいもんだがな
ああいや、こっちの話だ。ほら、珈琲冷めちまうぞ?
(笑ってごまかす)



シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
  心情
美味しいドーナツの噂を聞いて!相棒とのんびり食べたいけど……?

行動
「へぇー。ここが『まんまる堂』かぁ。お客さん一杯で賑わってるな」
まんまる♪と歌が聞こえてくるのにつられて、ドーナツを並べる
マチルダさんの手元を見つめ

「お姉さん、焼きドーナツでオススメってどれかな?」
オススメドーナツとティータイムを注文
混んでいそうな店内で、空いている席を探して相棒と一緒におやつタイム。

「……ん!噂どおり、美味いな」
一口食べてしばらくモグモグした後、すっきりした甘さとふんわり香る
卵の香りにぱぁぁといい笑顔。

味わいつつ、ティータイムを頬張ったり、砂糖とミルクは無しでコーヒー
の味も楽しむ。

「マギはどれにするのさ?」


柊崎 直香(ゼク=ファル)
  まんまるしあわせドーナッツ、くださいな!
職員さんに勧められるままゼクと一緒にドーナッツ屋さんへ。
甘くておいしいもの? 大好きに決まってるじゃないかー。

ドーナッツはチョコ系がいいな。
えーとブラックチョコ、ホワイトチョコ、ミルクチョコで!
ドーナッツ自体が美味しいんだもん、シンプルなトッピングでもいけるよね。

イートインスペースで優雅にコーヒーも嗜むのだ。
そう優雅に大人っぽく……おとな……大人の味……に、にがくなんか、ないよ。
香りはいいんだけどなと楽しみつつチョコドーナッツもぐもぐ。

ゼクの様子もこっそり窺っておこう。
僕甘いもの大好きだからよくお店に付き合って貰うんだけど、
ゼクの好み把握してないからさ。


栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
  え?ドーナツ?
君って見かけに寄らず甘いもの好きだよね
いや、悪いなんて言ってないよ?
僕は君のそうゆうギャップいいと思うよ
天気がいいから窓際でウトウトする予定だったけど、行こうか

色々種類があって迷うね。どれも美味しそうだし…
ちょっと、全部って誰が食べるの…僕はそんなに食べられないよ?
取り敢えず、このお勧めの二種類と…チョコのを一つづつ下さい
それと珈琲も
君、食べ物の事になると熱心だよね
ほら、他のお客さんに笑われているよ…

そう言えばここってAROAの人が言ってた所かな
縁結びのドーナツ
そんな屁理屈言わないで
全部食べるんでしょ?半分づつね

君が作るドルチェも食べさせてくれるんでしょう?
ふふ、楽しみにしてるね


●しあわせドーナッツを求めて
「え? ドーナッツ?」
突然の誘いに、栗花落 雨佳は長い睫毛を瞬かせる。
「そうだよ、ドーナッツ。いつまでも寝てないで、暇なら付き合えよ」
わかったらほら、起きた起きた。
パートナーのアルヴァード=ヴィスナーに急かされつつも、雨佳はおっとりと、眩しい物を見るように目を細めて。
「君って、見かけに寄らず甘い物好きだよね」
「バカ、違う。別に好きな訳じゃねぇよ」
今度店で作る新作ドルチェのネタ探しだと言い張る、トラットリアの料理人アルヴァード。そんな相棒の様子を見て、雨佳は小さく笑みを零した。
「悪いなんて言ってないよ?」
僕は君のそうゆうギャップいいと思うと笑いかければ、アルヴァードは調子が狂うとばかりに髪をかき上げてため息をつく。
「うるせーよ、雨佳」
「そう? 思った通りのこと、口にしただけなんだけどな。――よし。天気がいいから窓際でウトウトする予定だったけど、行こうか」
「って、まだ寝るつもりだったのかよ……」
さあ、準備をしたら出かけよう。
きっと素敵なことが待っている、そんな予感がするから。

羊のような角を生やした水色の髪の少年が、弾むように前を行く。その愛らしい後姿に、木之下若葉はのんびりと声をかけた。
「アクアー、そんなに急ぐと転ぶよー」
呼びかけに、アクア・グレイがくるりと振り返る。
「はぁい! 気をつけます!」
アクアの菫色の瞳は、嬉しげに煌めいていた。噂のドーナッツの話を聞いた、その時のアクアも今と同じように目を輝かせていたのを思い出す。だから若葉は、アクアを『まんまる堂』へと誘ったのだった。「行く?」と問えば「はい!」と即座に元気のいい答えが返ってきて。
軽やかに先を行く少年の背中を眺めながら、若葉はほんのりと目元を緩ませた。

●ようこそ『まんまる堂』へ
扉を開ければ、そこはコーヒーの香りに満ちていた。
初瀬=秀は、その香ばしい匂いにそっと目を細める。『まんまる堂』がコーヒーにもこだわりのある店だと知った秀は、行かない手はないとそう思ったのだった。コーヒーは秀が営む喫茶店の売りの一つでもある。
「とりあえずはドーナッツだな」
陳列棚には、色とりどりのドーナッツが所狭しと並んでいる。
「わぁ……。宝箱みたいですね、秀様!」
はしゃぐ声に視線を引かれれば、パートナーのイグニス=アルデバランは幸せ笑顔で陳列棚を眺めていて。まるで小さな子どもみたいだなと、秀は軽く笑みを零す。
「イグニス、お前はどれにする?」
「えっと、あのピンクのやつ、食べてみたいです。……あ。あのホワイトチョコがかかったのも美味しそう……。うー、でもやっぱりピンクのにします! 初志貫徹で!」
今月のおすすめ2種で悩みに悩んだイグニスは、散々苦悩した末に苺味の『夢心地』に心を決めたようだった。秀の方はといえば、早々にシンプルなチョコドーナッツに目をつけていたのだが。
「すいません、『夢心地』と『ティータイム』、あとコーヒー2つ」
頼んだのは、パートナーの目当ての品と、彼が食べたがっていたもう一つのドーナッツだった。

生地の色もトッピングも様々なドーナッツたちが綺麗に整列している様は、中々に圧巻だ。
甘くて美味しい物? 大好きに決まってる! な柊崎 直香は、その素敵な光景に目をきらきらさせた。
「ドーナッツはチョコ系がいいな。えーと、ブラックチョコ、ホワイトチョコ、ミルクチョコで!」
ドーナッツ自体が美味しいんだからシンプルなトッピングでもいけるはずと、うきうきしながらドーナッツを選ぶ直香の後ろで、パートナーのゼク=ファルは仏頂面で腕を組んでいる。
「ね、ゼクのドーナッツ、僕が選んであげよっか?」
「……勝手にしろ」
「じゃあ、勝手にしまーす。今月のおすすめからチョイスして進ぜよう」
どっちもチョコがかかってるしね、と直香は心の中で付け足した。後で一口貰っちゃおうという魂胆なのである。さて、2種のおすすめからどちらを選ぼうか……。
「――よし、決めたっ! まんまるしあわせドーナッツ、くださいな!」

「へぇー。ここが『まんまる堂』かぁ。お客さんいっぱいで賑わってるな」
シルヴァ・アルネヴとパートナーのマギウス・マグスを迎えたのは、陳列スペースから聞こえてくる澄んだ歌声だった。
声に惹かれるようにして視線を移せば、赤髪の若い女主人・マチルダが、ちょうど棚にドーナッツを補充しているところで。
「お姉さん、焼きドーナッツでオススメってどれかな?」
シルヴァが声をかけると、マチルダは「あ、いらっしゃい!」と快活に笑って、スイートポテト風の焼きドーナッツを勧めてくれた。それと『ティータイム』の2つを頼むことにする。
「マギはどれにするのさ?」
問えば、マギウスは少しの間考え込んで、
「抹茶味のものがあれば。……それと、『夢心地』を一つ」
と、表情は変えないままで答えた。

「うーん。色々種類があって迷うね。どれも美味しそうだし……」
どこか誇らしげに並んでいるドーナッツたちは、どれも格別に美味しそうで。考え込む雨佳に、アルヴァードが一言。
「迷うなら全部頼めばいいだろ」
「ちょっと、全部って誰が食べるの……。僕はそんなに食べられないよ?」
「食べなきゃ味がわかんねーだろ? とりあえず、そのキャラメルのヤツとアーモンドのヤツは捨てがたい……いや、そのチョコのヤツもいいな」
至って真剣に、ドーナッツ選びに取り組むアルヴァード。
「君、食べ物のことになると熱心だよね。ほら、他のお客さんに笑われているよ……?」
雨佳の言葉にも、アルヴァードは耳を貸さず。
「飲食業は作るだけじゃ無くて、食べるのも仕事だ」
やれやれと苦笑して、雨佳は相棒がドーナッツを吟味し終えるのを待った。

たくさん並んだドーナッツは、どれも美味しそうでその上可愛らしくて。
「わぁ……! 目移りしてしまいます」
心はまだ弾ませたまま呟くアクアに、「そうだね」と応じた若葉もじーっとドーナッツたちを見つめている。思っていることが顔にあまり出ない若葉だが、色んな種類があるんだなぁとかどれも美味しそうだなぁとか、思うことは色々だ。
「決めました! 僕、これとこれとこれと、それからこれにします!」
美味しい物が大好きなアクアは、4つもドーナッツを食べるつもりだ。選んだのは、『夢心地』と、オレンジピールを練り込んだ生地にチョコをかけた物。生クリームがトッピングされたドーナッツに、きび砂糖を纏ったシンプルな一品も。
「俺は……これにしようかな」
若葉は今月のおすすめから『ティータイム』をチョイスした。
「楽しみですね、ワカバさん!」
「うん、楽しみだね」
にっこりと笑いかけるアクアに、若葉も柔らかく応えた。

●まんまるなしあわせを
イートインスペースにて。
直香は、コーヒーカップを傾けた。そう、優雅に、大人っぽく。
「おとな……大人の味……に、苦くなんか、ないよ」
強がりを言ってはみるものの、苦い物はやっぱり苦い。
というわけで、直香はコーヒーをさりげなーく脇に避けて、口直しにホワイトチョコのドーナッツを口に運んだ。優しい甘さが口いっぱいに広がる。
「うん、美味しい! ……コーヒーも、香りはいいんだけどな」
呟く直香の向かいの席では、ゼクが、そのコーヒーを平気な顔をして飲んでいる。当たり前のようにブラックだ。
次いでゼクは、直香が選んだ『夢心地』にかじりついた。直香はそんなパートナーの様子をこっそり観察していたが、ゼクは表情一つ動かさない。
甘い物が大好きで、ゼクには度々スイーツ目当てのおでかけに付き合ってもらっている直香。彼の好みを把握したいと様子を窺ってはみるが、あまり成果は芳しくない。黙々と食べ続けているあたり、甘い物が嫌いなわけではないらしい。が。
(美味しい物食べてる時ぐらい、その不機嫌そうな顔何とかならないものかにゃー)
はふう、と直香はため息を零した。そして、はたと重要なことに気づく。
「待った! ゼクちょっとそれ以上食べるの待ったぁ!!」
「……何だ。騒々しいぞ。他の客の迷惑になる」
じろりと睨まれるが、直香はそんなゼクの視線にも屈しない。
「とにかくストップ! ――ああ、僕の苺ドーナッツちゃん。こんなに小さくなっちゃって……」
「お前のじゃない、俺のだ」
「一口くらい食べさせてくれたっていいじゃないかっ!」
「お前にはお前の分があるだろうが。しかも3つも」
「ゼクはわかってない! ゼクのは、今月のおすすめなんだよ? これを逃したら、もう二度と出会えないかもしれないんだから!」
今度はゼクがため息をつく番だった。呆れ返りながらも、ちゃんと直香の分をちぎってくれる面倒見のいいゼク。
やったぁと、直香は一口サイズの『夢心地』を口に放り込んだ。
「んー、美味しー」
にこにこ笑顔で直香はドーナッツを頬張る。ゼクがまたため息を零して、コーヒーをすすった。
「それにしても、ゼクの好みってほんとわかんないなぁ。料理の味付けも、研究中なのかころころ変わるし……あ!」
いいことを思いついた! と直香は顔を輝かせる。
「ねえゼク、今度作ってよ。甘いお菓子。僕のために! ね?」
このところ料理に凝っているゼク。彼は顎に手をやり思案した後、「考えておく」と応えた。
「やった! 楽しみにしてるからね?」
ころころと笑う直香を見て、ゼクの目元が僅か柔らかくなる。……が、それもほんの一瞬のことで。
「ところで直香。コーヒー、残すつもりだろう」
「うっ!」
バレていた。ゼクの目がぎろりと光る。
「お前でも飲めるように甘くしてやるから、貸せ」
半ば強制的に取り上げられるコーヒー。砂糖とミルクの甘い色に染まっていくカップの中身を見つめながら、直香はぽつり呟いた。
「なんか、悔しい……」

ドーナッツを頼んで、席に座って。
(うん、可愛らしいなぁ)
ふわりと紅茶の香りがする『ティータイム』をぼんやりと眺めながら、若葉は思う。そうしてふと顔を上げると、両手で大事そうに『夢心地』を持ったアクアが、もぐもぐと懸命に口を動かしていた。
(……リスみたいだ)
可愛らしくて可笑しくて、若葉は思わず噴き出した。驚いたアクアが、菫の瞳を真ん丸にする。
「どうしたんですか、ワカバさん?」
「いや……ごめん、美味しそうに食べるんだなぁと思って」
「はい、美味しいです! 夢心地、って本当ですね。幸せです」
「そっか、うん。そこまで嬉しそうに食べてくれると、俺も誘った甲斐があるよ」
若葉がアクアの食べっぷりを眺めながら『ティータイム』を食べ終えるまでに、アクアは『夢心地』と生クリームのドーナッツをぺろりと食べてしまった。続いてチョコとオレンジのドーナッツに手を伸ばし、一口食べて、ふわぁと顔を輝かせる。
「これ、美味しいですよ! ワカバさんも食べます?」
「ん、俺はもう十分だよ」
応えた若葉の顔に、ふわりと淡い微笑みが浮かんだ。それは本当に僅かな表情の変化だったけれど、アクアはそれに目聡く気づいて。嬉しくて嬉しくて、アクアは思わず頬を緩める。
「ドーナッツ、美味しいね」
「はい、すっごく! ワカバさんが誘ってくださって、僕、本当に嬉しかったんですよ」
紡ぐ、紡がれる、優しい言葉たち。それが、二人の心をふわりと温かくする。
「そっか。来て、よかったな。……ありがとうだね。ドーナッツ屋さんにもアクアにも、色んなことに、ね」
「そんな……! お礼を言うのは、こちらの方です」
真っ直ぐな顔で、アクアは自分の想いを若葉へと伝えてくる。そんなアクアを見て、若葉はまた、そっと微笑んだ。
「あの、ワカバさん。残りのドーナッツ、やっぱり一緒に食べませんか? 迷惑でなければ、そうしたいんです」
「うん、わかった。ありがたくいただくよ、アクア」
答えれば、アクアは花が咲くような笑顔を浮かべて。
半分こされたドーナッツはもうまんまるではないけれど。それでも噂のドーナッツは、確かに二人に幸せを運んだ。

「……ん! 噂どおり、美味いな」
『ティータイム』をぱくりと食べて、シルヴァはその味に感心したように声を漏らした。練り込まれた茶葉のおかげか、生地自体はすっきりとした味わいだ。ほんわか甘いホワイトチョコとの相性も抜群で、思わずぱああと笑みが零れる。
「あまりがっつかないで下さいね。みっともない」
マギウスが呆れたように言って、ごく自然な感じでシルヴァの口元を紙ナプキンで拭う。あはは、とシルヴァは笑った。
「だって、あんまり美味いからさ。2個じゃ足りなかったかも」
「まったく……食べすぎはよくないですよ」
ため息を零して、マギウスは抹茶が練り込まれたドーナッツを上品に口に運ぶ。うん、悪くない。
相棒とは長い付き合いのシルヴァである。表情こそ変わらないものの、マギウスもまたドーナッツの味に満足していることを感じ取った。思わず、頬が緩む。
「美味しい物は元から好きだけどさ、マギと一緒だと、もっと美味しくなるような気がする」
「そうですか。よかったですね」
「何だよ、つれないなー」
「いちいち相手にしていたら、キリがないので」
応えて、マギウスはドーナッツをもう一口食べた。ちらと見やれば、冷たい応対をされたにもかかわらず、シルヴァは上機嫌でブラックのコーヒーを楽しんでいる。
マギウスがゆったりとドーナッツを食べているうちに、シルヴァは自分の分をさっさと食べ終わってしまった。おかわりを買ってくると言うシルヴァを見送り、マギウスはやれやれとミルク入りのコーヒーを味わう。
ふうと息をついた、その時。
「わわわわ、ご、ごめんなさいっ!!」
陳列スペースの方から大声が聞こえてきた。聞こえてきた内容からして不穏な感じしかしない上に、その声が、もはや間違えようもないほど耳に慣れたものだったので、マギウスはこめかみを抑えた。頭が痛い。だが、放っておくわけにもいかないと、マギウスは立ち上がった。

『まんまる堂』のコーヒーは、確かに美味しかった。癖のない、程よい苦さはドーナッツにぴったりだろう。
(さて、ドーナッツの方もいただくとするか)
秀が『ティータイム』を口に運ぼうとした、その時だった。
「……」
見られている。穴が開きそうなほど、思いっ切り見つめられている。
熱視線の主は、イグニスだ。
「欲しいのか? ったくしょうがねえな……ほら」
半分に割ったドーナッツを差し出せば、イグニスは、見る間に顔を輝かせて。
「ありがとうございます! 秀様と半分こ、嬉しいです! これはもう宝物に……」
「だから、そんな大切にせんでいいっての。食いもんなんだから」
少し前にも同じようなやり取りをしたような気がする秀である。
「宝物にはしなくていいから、食べろ。その代わり、そっちのも一口寄越せよ?」
「はい、勿論です! 一緒に食べましょう!」
一口でいいと言ったのに、イグニスは律儀にきっちり半分の『夢心地』を秀に手渡した。愛らしいピンクのドーナッツを、秀はそっと口にする。丁寧に作られたことが窺える、優しい味がした。このドーナッツなら本当に、幸せを運んでくれるかもしれないと思わせてくれるような。
(……途切れることのない縁、か)
胸元に下げたリングを知らず弄りながら、秀はコーヒーカップに口をつける。
と、その時。
「私は秀様のコーヒー好きですよ!」
唐突に、何の脈絡もなしにイグニスが言った。
「おいおい、突然……」
どうしたんだと応じかけて、けれど秀は、その言葉を最後まで紡ぐことができなかった。自分を見つめるイグニスが、びっくりするほど真剣な目をしていたから。
コーヒーカップを手に考え込む自分を見て、イグニスなりに気を回してくれたのだろうということが秀にもわかった。それは、どうにも見当違いな心遣いだった。けれど。
「……せめてお前との縁は繋がってて欲しいもんだがな」
心底から、そう思った。思いは言葉になって、秀の口から溢れる。しまったと思った時にはもう、それは確かな形を持って零れ落ちていて。
「……秀様?」
「ん? ああいや、こっちの話だ。ほら、コーヒー冷めちまうぞ?」
笑って誤魔化すも、イグニスの真っ直ぐな視線は秀へと注がれたまま。秀からしてみれば気まずいような沈黙がややあった後、やがてイグニスの方が口を開いた。
「しあわせわっかはご縁を繋ぐって、そういう話でしたよね?」
「……ああ、そう聞いた」
「ですよね。だからきっと、秀様と私のご縁もいいご縁です!」
にこにことしてイグニスはそう言い切った。優しい響きの、けれどとても力強い言葉。
「……お前は本当に、前向きというか元気というか……」
思わず、笑みが零れる。秀が笑うのを見て、イグニスの笑顔もますます明るくなった。

結局、雨佳とアルヴァードの二人は、3つのドーナッツを半分ずつ食べることにした。今月のおすすめ2種とココア生地にビターチョコをコーティングした物をそれぞれ一つずつ。それから、コーヒーも忘れずに。
「そういえばここって、A.R.O.A.の人が言ってた所かな? ほら、縁結びのドーナッツ」
イートインスペースにて、雨佳はコーヒーの深い香りを楽しみながら、アルヴァードにそう話を振った。ちょうどチョコドーナッツを食べていたアルヴァードは、半分に割られ、しかも今はもう食べかけのドーナッツをしげしげと眺め、
「縁結びねぇ。一か所食べれば、円じゃ無くなるがな」
もっともだが、身も蓋もないことを言った。その言い様を聞いて、雨佳は笑みを漏らす。
「そんな屁理屈言わないで。ほら、こっちのも食べるんでしょ? 半分ずつね」
残りのドーナッツをそれぞれ半分こして、アルヴァードの皿に乗せる。チョコドーナッツを食べ終えたアルヴァードは、今度は『ティータイム』に手を伸ばした。雨佳が手に取ったのは、『夢心地』。口に運べば、甘酸っぱい苺の風味が口いっぱいに広がった。
「どう、アル。お味はいかが?」
冗談めかして問えば、「まぁ、悪くねぇな」と何とも素直じゃないお返事。ふふ、とついつい笑みも零れる。
「素直に美味しいって言えばいいのに」
「うるせぇ。俺がこれよりもっと美味いの作ってやる」
「自信満々だね」
「当たり前だ」
応えて、アルヴァードは最後のドーナッツにかぶりつく。雨佳は目を細めて、そんなアルヴァードの様子を眺めていた。
「ねえ」
「あ?」
「君が作るドルチェも、食べさせてくれるんでしょう?」
問われたアルヴァードは、挑戦的にすら見える笑みをその顔に浮かべてみせて。
「まあ、食わせてやってもいいぜ。あんまり美味くて、他のドルチェが食べられなくなっても知らねぇけどな」
「成る程、それは大変だ。だけど……うん、楽しみにしてるね」
「勿論、期待してろ」
にやりと口の端を上げる相棒を見やりながら、雨佳も知らず柔らかな笑みを口元に乗せる。
そのドルチェはきっと、ものすごく幸せな味がするに違いないと、そんな気がして。

●ドーナッツはしあわせを呼ぶ
「店長のお姉さん、いい人だな」
「そうですね……シルヴァがやらかした時はどうなるかと思いましたけど」
先の騒ぎの際、陳列スペースでマギウスが見たのは、床に転がる数個のドーナッツだった。棚に並べる途中だったドーナッツの籠を、シルヴァがひっくり返してしまったのだ。
二人して頭を下げたが、弁償するのも皿洗いを手伝うのも、マチルダはよしとしなかった。狭い店だからこういうこともあるさと彼女は二人に席に戻るよう促した。気にせず、楽しんでいってほしいと。
「ほら」
おかわりを買いそびれたシルヴァに、マギウスは自分の『夢心地』を半分差し出して。
「……マギ?」
「何です? まだ食べ足りないんでしょう?」
淡々と応じて、マギウスは『夢心地』を一口かじった。シルヴァもそれに続く。
「……美味いな、すっごく」
「そうですね、美味しいです」
嬉しげに笑みを零すシルヴァに、クールな面持ちは崩さぬまま、それでも目元を僅か柔らかくして、マギウスはそう応じた。

ようこそ、『まんまる堂』へ。
ここは、ご縁を繋ぐ、幸せのドーナッツ屋さんです。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 紬凪  )


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月20日
出発日 03月27日 00:00
予定納品日 04月06日

参加者

会議室

  • [6]初瀬=秀

    2014/03/26-03:06 

    こんばんは。ドーナツと、ついでに珈琲にもつられてやってきた初瀬だ。
    イートインでのんびりさせてもらいに来たぜ。

    ……相棒にドーナツ狙われてる気もするがな。

  • [5]栗花落 雨佳

    2014/03/26-01:33 

    僕の方はプラン提出しました。

    僕達もイートインで珈琲と一緒にドーナツを頂く予定です。

  • [4]木之下若葉

    2014/03/24-22:24 

    アクアに半ば引きづられてやってきました若葉です。
    こんにちはー。

    こちらもゆっくり公園でドーナツ食べてるかと思うよ。
    うーん、沢山種類あって悩むね……。

  • [3]栗花落 雨佳

    2014/03/24-19:12 

    こんにちは。
    僕も甘いものは好きですよ。でも今回は、僕より相方の方がはしゃいでいる気がします(苦笑)

  • [2]シルヴァ・アルネヴ

    2014/03/23-23:36 

    美味いものは何でも好きだ!
    食い意地はり過ぎと相棒にツッコミ入れられながら
    のんびりドーナツ食べてると思う。
    よろしくなー。

    今月のおすすめ、気になるな……。(メニューじっくり)

  • [1]柊崎 直香

    2014/03/23-17:42 

    ドーナッツは好きですか? 大好きだー!
    というわけで食べにきたよ、なクキザキ・タダカです。よろしくね。

    イートインスペースでコーヒーも頂くつもりで。
    甘いものと一緒ならきっと飲めると思うんだー。


PAGE TOP