【春の行楽】虹蛍花を見に行こう(沢樹一海 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 イベリン王家直轄領。

 桜の時期が終わっても尚、たくさんの花が咲き誇るその土地には、虹蛍花(にじほたるばな)の森という場所がありました。
 虹蛍花とは、見る角度によって花弁の色合いが変わる、その名の通り虹色の花のことです。
 花の寿命は、たった1日。

 花は、ある日の早朝に蕾を出し、お昼頃に花開き、夜になると一斉に、『空に向かって』散っていきます。
 きらきらと光りながら空へと飛んでいき、星空に紛れて消えていく。
 花びらは、蛍と見まがうほどの光を伴って空に舞っていきます。その光景は幻想的で美しく、この日1日は、森で花見イベントが開催されることになっていました。

 イベントといっても、特別な催し物があるわけではありません。

 虹蛍花の下でのんびりと夜まで時を過ごす。
 ただ、それだけです。

 森の中では、1日中、楽団の演奏も行われています。

 彼等の奏でるシンフォニーを聴きながら、
 1日のんびりと過ごしてみませんか?

 虹蛍花の森で過ごした時間は、
 きっとかけがえのない思い出になるでしょう。

「たまにはこんな時間もいいよな」
「A.R.O.A.の仕事から離れてお花見かあ……」
「あ、見て! 蕾が出てきてる!」

 朝露の残る森の中、少しずつ人々が集まってきます。
 穏やかで賑やかな、花見イベントの始まりです。
 

解説

のんびりとお花見をしましょうというエピソードです。

朝、昼、夜。時間を絞るも、1日通してのプランを書くのも自由です。
1日だけ咲き、散ってしまう美しい花。

森の中で、ウィンクルムはどんな時を過ごすのでしょうか。

※こちらのエピソードでは交通費として一律300Jrが消費されます。



ゲームマスターより

桜の時期は終わってしまいましたが、
また一風変わったお花見ができればと思いました。

みなさまの素敵なプランをお待ちしています。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

 

虹色に輝く花を見て息をのむ
すごい 虹の欠片を集めたみたい

ほんの少し微笑みを浮かべ彼を見上げる
連れて来てくれてありがとう
…傷の具合は、もう平気?(依頼42参照)
返された言葉に表情を曇らせる

優しい音楽と花 傍らの彼の温もりに励まされ口を開く
私、ダメね
足手まといになるばっかりで…怪我までさせて
こんなパートナーで がっかりよね
ぽつりとこぼれ落ちる涙

彼の言葉に息を呑む
傷ついているような苦しんでいるような声
彼のシャツを握りしめ 至近距離で見つめる

私、どこにもいかない
ずっとあなたの側にいる 側に、いたい

彼の鮮やかな笑みに目を奪われる
少し遅れてこちらも笑顔

きらきら天に上る花弁を寄り添って見上げる



ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
  ☆時間帯


☆心情
エミリオさんが私を誘ってくれるなんて嬉しい
虹蛍花か素敵なんだろうね~
早く見てみたいよ、夜が待ち遠しいな

☆虹蛍花を見て
1日限りの命だけど、みんな一生懸命咲いて散っていくんだね
きれい…(花弁にそっと触れて微笑む)
エミリオ…さん?(精霊に触れられてドキドキしつつも、彼が悲しげに微笑む理由が分からず戸惑う)

(精霊の舞を見て思わず抱きつく)っ、エミリオさん!
…急に抱きついてごめんなさい
貴方がすごく綺麗で、この虹蛍花のように儚く消えてしまいそうだったから…
もう少し…このままでいていいかな
(精霊に緊張しているのと聞かれ)え、エミリオさんだってドキドキしているじゃない!
私だって同じだよ…大好き


月野 輝(アルベルト)
  虹蛍花を見に行こうってアルが誘ってくれたの
アルから誘ってくれるの珍しいしとても嬉しかったから、色々ちょっと張り切り過ぎちゃったかも……
呆れられるかしらね(楽しそうにくすくす笑ってる

お昼前から出かけるって事だったから、お弁当作ってきたわ
おむすび、唐揚げ、卵焼きは甘いのと出汁巻きのと
アルは出汁巻きが好きだったわよね?

お弁当にしようとした所で花が咲き始めた事に気付き見とれる
すごい…こんな風に花が咲く瞬間を見れるなんて滅多にない経験よね
幸せそうに顔が綻んで

一緒にお弁当を食べて森を散歩して
夜、空に還る花を見つめてたら吸い込まれそうで思わずアルの手をぎゅっと握って

この瞬間で、時が止まってしまえばいいのにと


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ◆昼
朝早くから虹蛍花を見に来ていたけれど…
もう随分蕾が綻んできたね
ふふ、夜が楽しみだね弓弦さん!

あれ?眠そうだね
ああ…確かに、眠気を誘うよね…お昼寝する?
時間になったら起こすから安心して
そう言って促すよ

横に寝転がろうとする弓弦さんに自分の膝を叩きながら声を掛けるね
…私のここも空いてるよ?

弓弦さんの緊張がこっちにも伝わってくるなぁ
眠れる様に優しく頭を撫でるよ
おやすみなさい、弓弦さん
……弓弦さんの寝息が聞こえ出したらバレない様に寝顔を写真に収めるね

◆夕方
良い時間になったら弓弦さんを起こすね
おはよう。そろそろだよ
そんな気にしないで…私も、色々楽しんだし
ふふ…さ、虹蛍花のお花見を再開しよう

●持込
カメラ


ミヤ・カルディナ(ユウキ・アヤト)
  ◆気持ち
そんな珍しい景色があるならアヤトと見たい
そんなロマンチックな景色だなんていわないけれど…

◆行動
アヤトを誘ってはなみにいく
めずらしい花のうわさをたどるように
なんでみにきたのかいわれても、はっきりとはこたえられない
アヤトと
みたかっただたなんてとても言えない
こんなこと今でなければとてもいえない

好きよとか、きになってるとか、いえない気持ちを全部花に尽くすわ







 年に一度、1日だけ咲く虹色の花、虹蛍花。普段はただの広葉樹の森も、この日だけは虹色に彩られる。それはささやかだけどささやかじゃない、特別なこと。
 イベリン王家直轄領にしか咲かないその花を見に、森には各地から人が集まる。A.R.O.A.所属の神人と精霊も、また。

 1 のどかな陽の下で、こっそりと。

「もう、随分蕾が綻んできたね」
 楽団が奏でる音が、木々の間を流れていく。その中に混じる人々の声は、穏やかな日常を感じさせる。
 朝早くから虹蛍花を見に来ていた日向 悠夜は、敷いたシートの上から蕾を見上げる。
「ふふ、夜が楽しみだね弓弦さん!」
 期待を声に乗せて悠夜は隣に目を移す。一緒に来た降矢 弓弦も、蕾の様子を見て穏やかに微笑んだ。
「そうだね、この時点でこんなに綺麗だから散り際はとても美しいだろうね。楽しみだ」
 そして、ふあぁ……と欠伸をする。
 悠夜のあれ? という顔を前に、弓弦はおっと、と片手で口を塞いだ。
「ごめんよ」
「眠そうだね」
 夜寝てないのかな、とちょっと驚いた悠夜に、弓弦は苦笑を零す。
「今日は悠夜さんと出かけるから……昨晩は早めに寝たんだけどなぁ……」
 言いながらも、彼はまた欠伸を漏らして蕾や枝葉の間から見える青空を仰ぎ見る。
「春の日差しと音楽の調べが心地良すぎたみたいだ」
 眠気の残る顔にも、自然と笑みが浮かぶ。森の中には、どこまでものんびりとした空気が流れていた。
「ああ……確かに、眠気を誘うよね……」
 悠夜も青空の下、軽く目を閉じる。だが、まどろむまではいかない彼女は目を開けると弓弦に提案する。
「お昼寝する? 弓弦さん」
「昼寝か……」
「時間になったら起こすから安心して」
 そう促すと、何となくもったいなさそうに蕾を眺めていた弓弦は、一度寝ることに決めたようだ。
「そうだね……このままじゃ夜に響きそうだし、悠夜さんのお言葉に甘えようかな」
 姿勢を崩し、悠夜の方を向いて寝転がろうとする。悠夜はそこで、自分の膝をぽんぽんと叩いた。
「……私のここも空いてるよ?」
「え?」
 思ってもみなかった展開に、弓弦は中途半端な体勢で固まった。
「でも……」
「ほら、空いてる」
 わたわたと慌てる弓弦に、悠夜は優しい笑顔を浮かべてまた膝を叩く。その笑顔を前にして断れるわけもなく、弓弦は緊張しつつもこわごわと彼女の膝に頭を乗せる。
(弓弦さんの緊張が、こっちにも伝わってくるなぁ)
 落ち着けずにガチガチになっているのを感じた悠夜は、そっと彼の頭に触れてみる。
 彼が眠れるように、優しく、優しく頭を撫でる。
「……………………」
 さわさわとした葉擦れの音と鳥の声、楽団の演奏がハーモニーを奏でる中で、静かに時が流れていく。
(……女性に膝枕してもらうなんて、初めてだ)
 自然の中で悠夜に頭を撫でてもらううちに、弓弦はいつの間にかリラックスしていた。一度はどこかに飛んだ眠気も、また戻ってくる。
「……おやすみなさい、弓弦さん」
 やがて寝息が聞こえてきて、悠夜は弓弦の髪から手を離した。彼が起きないように、バレないように気をつけながらカメラを取り出して構える。
 寝顔に向けて、パシャッと1回シャッターを押す。弓弦は僅かに身動きし、再び寝息を立て始める。
少しずつ開いてくる虹色の蕾の下で、悠夜は何枚かの写真を撮った。

 ――時は経ち夕方になり、その頃には虹色花も満開になっていた。夜になれば、花は一斉に空に向けて散っていく。
「おはよう。そろそろだよ」
 そう言って起こすと、微睡みつつ目を開けた弓弦は、空がオレンジ色になっているのに気付いて飛び起きた。
「わ、もうこんな時間かい?」
 思いの他に眠ってしまったと驚くと同時、弓弦は申し訳ない気分になった。
「悠夜さんごめんよ、長時間膝を借りてしまって……重かっただろう?」
「そんな気にしないで私も、色々楽しんだし」
「へ?」
 きょとんとして見返すと、悠夜の笑顔はどこか意味ありげにも見える。
「えっと……楽しんでいたなら良かったよ」
 何を楽しんでいたかはあまり気にせず、弓弦は夕暮れ色を受けて淡く光る虹蛍花を見上げた。目を細めて、悠夜が言う。
「ふふ……さ、虹蛍花のお花見を再開しよう」
 午前中の記憶からすっかり様相を変え、虹蛍花は今、正に見頃を迎えていた。

 2 手を繋ぎ合って、虹蛍花を。

 森の中を歩く月野 輝は、嬉しそうだった。いつになくお洒落をして、大きめの布包みをを持っている。楽団の音楽とは別の、彼女の声からなる旋律が今にも聞こえてきそうで、アルベルトは笑みを零す。
 最近、殺伐とした仕事続きで疲れているように見えたから輝を誘ってみたのだが。
(……正解だったみたいですね)
 輝は、とても機嫌が良さそうだ。
 それもその筈、アルベルトからどこかに行こうと誘うのは珍しいことで、それが輝は特に嬉しかったのだ。
 ――色々ちょっと張り切り過ぎちゃったかも……
 朝、エプロンをつけてお弁当を作っていた時のことを思い出す。そして輝は、包みを広げた時のアルベルトの反応を想像した。
 ――呆れられるかしらね。
 そう思うと、ついくすくすと笑わずにはいられなかった。

「弁当ですか」
「お昼前から出かけるってことだったから、作ってきたの」
 手頃な場所に座って落ち着くと、輝は持っていた布包みを解いた。大きな段重ねの弁当箱を見て、アルベルトは大いに驚く。眼鏡の奥の目が、何度も瞬いていた。
「随分頑張ったのですね、大変だったでしょうに」
 楽しそうに、輝は弁当箱の蓋を開けていく。
 中にはおむすび、唐揚げ、卵焼きは砂糖で甘く味付けしたものと出汁巻きの2種類が入っている。
「アルは出汁巻きが好きだったわよね?」
「好きだと教えたことがあったでしょうか……」
 はて、とアルベルトは首を傾げる。確かに出汁巻き卵は好きだけれども。
「調べたの」
「調べたのですか? 私の為に?」
 驚くと同時に面白くなって、アルベルトはからかうように笑った。すると、輝は少し顔を赤らめた。
「い、いいから、ほら食べて」
「美味しそうですね……あ、でも弁当の前に」
「前に?」
「ほら、花が咲き始めましたよ」
 アルベルトの視線を追った輝の目に、太陽の下、虹色の蕾が次々と花開いていくのが見えた。光の当たり方によって、花弁が全く違う色を見せてくれる。
 その光景に、輝はついつい見とれた。
「すごい……こんな風に花が咲く瞬間を見れるなんて滅多にない経験よね」
 幸せな気持ちになった輝の顔が綻ぶ。花ではなく彼女のその表情を見て、アルベルトは微笑んだ。
「そうですね……でも私は、花が咲く瞬間を割と見てる気がしますが」
 輝は、花を咲かせるように笑うから。
 花というより、花を眺めている輝の方を見ながら、アルベルトは彼女の作ったお弁当を頬張った。
 2人でゆったり過ごす時間は、彼の心をも穏やかにしていった。

 一緒にお弁当を食べ、空になった弁当箱を持って森の中を散歩する。夜になり、虹色の花びらの1枚1枚が空に向かって散っていく。ぽうっと光りながら花が昇っていく姿は、まるで、空に還っていくようだ。
 それをじっと見ていたら花と一緒に吸い込まれそうで。
 輝は思わず、隣のアルベルトの手を握った。同じように花びらの行方を追っていた彼は、ぎゅ、と手を握り返してくる。
「この瞬間で、時が止まってしまえばいいのに」
「……時が止まったら、困ります」
「え?」
 ひたすらに空を見上げていた輝がこちらを向き、ふと目が合う。花びらの光に照らされ、彼女が少し驚いているのがわかった。
「輝と過ごす時間がなくなってしまいますからね」
 同じように自分も照らされているのだろうと思いながら、アルベルトは微笑んだ。

 3 いつか終わる、その時まで

 エミリオ・シュトルツの中で、ショコランドのミントの草原で粒星を見た一夜は印象深い思い出となっていた。あの日以降も、ミサ・フルールは部屋に篭もりがちになった自分を気遣って外に連れ出してくれる。
 コンペイトウが夜空を流れる様は、エミリオを心から安らがせてくれた。
 ――今度は、俺がミサに綺麗なものを見せたい。

「虹蛍花か、素敵なんだろうね~」
 夕方のイベリン王家直轄領を一台の車が走っていく。運転するエミリオの隣に座り、ミサは窓の外を眺めながら明るく言った。
 エミリオが誘ってくれた。
 それが嬉しくて、声が弾む。
「早く見てみたいよ。夜が待ち遠しいな」
 あと少しで、太陽が沈む。
 車が進む先に、花が満開になった森が見えてくる。その花の色は、虹色で。
 あと少しで、花は空に散っていくのだ。
 どんな光景なのかは、まだ分からないけど――

 星月夜を目指す花びらの光は、名前の通り、正に蛍の光のようだった。
「1日限りの命だけど、みんな一生懸命咲いて散っていくんだね」
 1枚1枚、花弁の数を減らしていく花に、ミサはそっと手を触れた。
「きれい……」
「とても綺麗だね」
 ミサの隣で、エミリオも言う。八方で花びらが空に昇っていく中、彼の目はミサに注がれていた。花を見て微笑む彼女が、とても眩しく感じられる。
(……俺がずっと恋焦がれていた光。永遠に俺のものにできればよかったのに)
 気が付くと、エミリオは片手をミサの頬に触れさせていた。手に誘われてこちらを向いたミサに、悲しげに微笑む。
「エミリオ……さん?」
 頬を紅潮させながらも、ミサは戸惑った声を出した。彼の悲しみの理由が、わからなかったからだろう。6年前の真実に、彼女はまだ気付いてないから。
 ふっ、と、今度は優しく笑うと、エミリオはミサの頬から手を離した。
「いつも俺を支えてくれてありがとう。今日は、そのお礼がしたかったんだ」
「お礼……?」
 未だ戸惑いを残すミサから数歩距離を取り、扇子を取り出す。開くと、そこには兎の絵が描かれていた。
「お前の為に舞うよ、見てほしい」
 テンペストダンサーであるエミリオは、扇子を華麗に使って舞い始めた。花びらのぽうっとした光がまだらに彼を照らし、そこに幻想的な光景を作り出した。
「……っ、エミリオさん!」
「……!?」
 ミサは思わずエミリオに抱きつき、驚いた彼の動きが止まる。
「……急に抱きついてごめんなさい。貴方がすごく綺麗で、この虹蛍花のように儚く消えてしまいそうだったから……」
 そう言って、背にまわした腕に力を込める。
「もう少し……このままでいていいかな」
 胸が高まるのを感じて、エミリオもまた抱き返す。口元に、笑みが浮かんだ。
「ふふ、緊張しているの? 鼓動が凄く早いよ……可愛い」
「え、エミリオさんだってドキドキしているじゃない!」
 お互いの心臓の音を感じながら、2人は森の中で抱き合っていた。
 どれだけそうしていただろうか。エミリオの視界の隅にあった虹蛍花から、最後のひとひらが空へと舞っていく。
「お前が好きだ」
「私だって同じだよ……大好き」

 4 確かめ合う心。

 少し前、バレンタイン地方の森にデミ・ウルフの討伐に行った。その時にある不測の事態に遭い、シリウスは大きな怪我を負った。そしてそれは、リチェルカーレの心に罪悪感というしこりを残した。
 シリウスの怪我は全て、彼女の彼を害した結果として出来たものだったからだ。
『花見に行かないか』
 そう誘ったのは、あれから彼女が沈みがちになってしまったからだ。
 花見と聞いて、彼女は戸惑っているようだった。桜はもう、散ってしまっている。多少遠出にはなるが、その先に花が見られる場所があるんだと連れ出して。
 ――夜。

「……!」
 リチェルカーレは、満開の虹色花が、輝きながら天に昇っていく様を見て息を呑んだ。
「すごい。虹の欠片を集めたみたい」
 全てを忘れ、見入ってしまうような美しさが、頭上いっぱいに広がっている。
 彼女の顔に、ほんの少し、微笑が浮かんだ。
 隣に立つシリウスを見上げる。
「連れて来てくれてありがとう」
 お礼を言う彼女の目は、輝いていた。その笑顔を、眩しそうに瞳を眇めて見つめてからシリウスは言った。
「気分転換になったか?」
 安心し、少しリラックスしての言葉だったが、それを聞いたリチェルカーレの表情がつと曇る。
「…………」
僅かに俯いた彼女は顔を上げ、遠慮がち、という感じに訊いてきた。
「……傷の具合は、もう平気?」
 心配そうに問われ、シリウスは肩をすくめた。
「たいした怪我じゃない」
 なるべく気遣わせないように軽く言ったつもりだったが、リチェルカーレに笑顔は戻らなかった。本当にたいした怪我じゃなかったかと言えば、客観的に見て決してそんなことはないだろう。それが分かっているから、彼女の表情は晴れない。
 お互いに口を閉じた森の中を、楽団の優しい音楽が流れている。
 広葉樹から、虹色の花びらが1枚1枚旅立って空を舞う。
「…………」
 自分を包む穏やかで綺麗な環境と、傍に立つシリウスの温もりに背中を押されるように、リチェルカーレはここずっと胸にわだかまっていた思いを声に乗せた。
「……私、ダメね。足手まといになるばっかりで……怪我までさせて。こんなパートナーで、がっかりよね」
 ぽつり、と涙が零れる。それを見たシリウスは驚いて目を見張り、ややあってから苦笑した。泣き続ける彼女の涙を指で拭い、抱きしめる。
「俺のパートナーはおまえだ。だから、おまえがそんな風に気にする必要はない」
 それは、いつかにも言った台詞だった。シリウスの考えは、あの時と同じだ。
 涙の残る瞳で、リチェルカーレが見つめてくる。
 声にするつもりはなかった。
 伝えるつもりはなかった。
 けれど、ここで言わなければいけない――逡巡の後、シリウスは言葉を続けた。
「……おまえが泣くのはわかっていたんだ。だけどあの時は、少しでも早くおまえを取り戻したかった」
 おまえまで失うのは嫌だったから。
「……!」
 驚いたリチェルカーレの肩が小さく震えた。囁くような「悪い」という彼の声。
 告白の内容はもとより、彼女はシリウスの声の響きに、そこに含まれている彼の感情に触れて驚いていた。
 ――傷ついているような、苦しんでいるような、声。
 リチェルカーレは彼のシャツを握りしめ、至近距離から目を合わせる。
「――私、どこにもいかない」
「リチェ……」
「ずっとあなたの側にいる。側に、いたい」
 唇が触れそうな距離から告げられ、シリウスはしばらく二の句を継げなかった。
 だが、彼女らしいまっすぐな言葉と想いは確かに胸に届き、彼は知らず表情を綻ばせていた。
「あ……」
 柔らかく、鮮やかな彼の笑みにリチェルカーレは目を奪われた。そしてまた、彼女も笑う。
 すると、シリウスは更に彼女を引き寄せてその唇に口づけた。
「ん……」
 どちらからともなく唇を離すと、2人は寄り添って天に昇る虹蛍花を見上げた。
 花びら達はきらきらと、星に紛れるまでその光を失わなかった。

 5 言えない気持ちを、花に託して

「ねえ、虹蛍花って知ってる?」
「ん? ……ああ」
 虹蛍花のことを知った時、ミヤ・カルディナはユウキ・アヤトと一緒に見たい、と真っ先に思った。
 ――そんな珍しい景色があるなら、アヤトと見たい。
 どうして見たいのか、行きたいのか。動機は充分に理解していたし自覚していたけれど、アヤトにはもちろん、そんなことは言わない。……言えない。
 だから、ミヤはいつもと変わらぬ様子で、さりげなさを装って、ユウキに言った。
「見に行ってみない? ちょっと……? 遠いけど」
「行きたいのか?」
「う、うん……め、珍しいから」
 本当の理由の半分が言えないから、なんとなくしどろもどろになってしまう。理由としては弱いかなと思いながら返事を待っていると、ユウキは特に何を疑問に思う感じでもなく、あっさりと頷いた。
「いいよ。まあちょっと……結構遠いけどな。俺も興味がないわけじゃないし」
「本当!? 良かった!」
 ミヤはほっとして、ぱっと明るい笑みを浮かべた。
 あまりにも嬉しそうな顔に、ユウキはそんなに嬉しいのかと少し訝し気に思ったが、それ以上は深く考えずに虹蛍花の森に行くことは決まった。

「うわあ……綺麗……」
 2人が森に着いたのは、昼を数時間過ぎた頃だった。
 もう、満開に近い状態の森を見て、ミヤは感嘆の声を上げる。楽団の演奏も耳に心地良く、夜に見られると聞いている光景とはまた違うが、彼女はこの時、来て良かった、と心から思った。
 歩く度に、見る角度を変える度に、花の色が違って見える。
 こんな不思議な花、タブロスでは見ることは出来ない。
「綺麗だな。夜までまだ時間があるけど、これからどうする?」
「そうね。森の中を少し散歩して……楽団の音楽をゆっくり聞いて……あ、あそこに団子屋さんがあるから食べたいわ」
「……時間をもてあましそうにはないな」
 昼寝でもしようかと思っていたユウキは苦笑した。とはいえ、小腹が空いたのも確かである。
「じゃあ、まずは団子屋に行くか」
「うん。桜のお花見だと桜味のお団子とかあるけど、ここのはどんな味なのかしら」
 そんなことを話しながら、昔ながら、という趣のある団子屋に行って虹団子を注文する。特に摩訶不思議な味はしなく、甘いそれと緑茶を味わいながら、2人は昼の虹蛍花を観賞した。

 ――のんびりしていたら夜になって。
 散歩は、夜の時間帯になった。はらはらと木から離れ、旅立っていく花びらにミヤとユウキは見入ってしまった。
(すごく、ロマンチック……)
 想像以上に美しい光景にミヤは完全に心を奪われていた。隣を見ると、ユウキも花が散っていく様を楽しんでいるのが表情で分かる。
森の中を歩いていると、途中で、土産物売りに行き合った。思わず、売られていた虹蛍花の造花を買う。
「……アヤト、これあげるわ」
 2本の内の1本をユウキに渡すと、彼は不思議そうな顔をした。
「造花? ……なんかミヤ、今日ちょっと変じゃないか?」
「え! へ、変って……どこが?」
「上手く言えないけど……浮かれてるというか」
「そ、そう? ……気のせいよ」
 頬が熱くなるのを自覚して、ミヤはそっぽを向いた。夜でも、虹蛍花の光で、顔色がバレてしまうから。
「……だって」
 アヤトと見たかったから。言いかけた答えを、寸前で飲み込む。
 こんなこと、今でなければとても言えない。
 言えない、けれど――
「その花、失くさないでね」
 やっぱり、言葉には出来ない。だから、ミヤは彼にプレゼントした造花に全ての想いを託した。
 好きよ、とか。
 気になってるの、とか。
 言えない気持ちを、全部。
 ――花びらは、全て森から消えてしまうから。



依頼結果:成功
MVP
名前:リチェルカーレ
呼び名:リチェ
  名前:シリウス
呼び名:シリウス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 沢樹一海
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月07日
出発日 05月14日 00:00
予定納品日 05月24日

参加者

会議室

  • [5]日向 悠夜

    2015/05/13-23:46 

  • [4]ミサ・フルール

    2015/05/11-13:16 

  • [3]ミサ・フルール

    2015/05/11-13:16 

    こんにちは!
    ミサ・フルールです、どうぞよろしくお願いしますね(ぺこ)
    エミリオさんがね、虹蛍花を見にいこうって誘ってくれたんだ。
    私達は夜の時間帯に見にいきたいなって思ってるの。
    皆が思い思いの時間を過ごせますように!

  • [2]リチェルカーレ

    2015/05/10-11:09 

  • [1]月野 輝

    2015/05/10-09:12 


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