【春の行楽】白花のチャリティフェスタ(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 イベリン内にある広々とした公園で、チャリティフェスタが開かれていた。
 集まった人々に楽しんでもらうための催しだが、もう一つの開催目的はハルモニアホール再建の募金集めだ。不可解な妨害事件という逆風が吹く中で、音楽堂の再建を応援したいという人々の気持ちを示すためにおこなわれている。

「募金ありがとうございます! 責任をもってお届けしますね! このお花をどうぞ」

 イベリンからほど近い村、デントリから来たという少女が、募金をしてくれた人へ感謝の印として何かを配っている。真っ白な花のツボミのようだ。人によって、耳にかけたり胸ポケットに入れたりして身につけている。

「このツボミは、デントリの森で育つ不思議な花なんです。今は白いツボミですけど、人の心に反応して様々な色形の花が開くんです。どんな花が開くかは、その人の思い次第で千差万別です」

 神人と精霊はそれぞれ白いツボミを受け取り、チャリティフェスタで賑わう公園を見回した。

 野外ステージでは、音楽の設備が整えられている。周辺には充分な数のベンチがあり、無料で座って鑑賞できる。飛び入り参加も受け付けているが、こちらは参加費がかかる。

 公園のあちらこちらには、多彩なジャンルのミュージシャンが得意の楽器を演奏している。立ち止まって耳を傾けても良いだろう。おひねりを渡せば、曲のリクエストにも応えてくれる。

 公園には花が栽培されている区画もある。東側の和風コーナーではツツジやフジが、西側の洋風コーナーではバラやマーガレットが楽しめる。ところどころにベンチが設置されており、一休みするのにちょうど良い。
 和風コーナーと洋風コーナーの中間地点には、飲み物を販売するワゴンが留まっている。扱っているドリンクは、どれも花と関係しているものばかりだ。耐熱式の透明なコップなので、ドリンクの色がよく映える。

 チャリティフェスタが開かれている公園で、どんな時間を楽しむかはウィンクルム次第だ。
 そして、二人に渡された白いツボミがどんな花をつけるのかも。

解説

・必須費用
募金:1組200jr

・プラン次第のオプション料金
野外ステージ飛び入り参加:1人200jr
ペアでの参加も可能。

演奏リクエスト:1曲200jr

カモミールティー:1つ50jr
ジャスミンティー:1つ50jr
ハイビスカスティー:1つ50jr
タンポポコーヒー:1つ50jr



・重要なお願い
著作権のある曲は使用不可です。ごめんなさい!
○○な雰囲気の曲やラブソングなどの大まかなジャンル指定や、PLオリジナル歌詞やGMアドリブ歌詞が反映可能です。

ゲームマスターより

山内ヤトです!

白いツボミがどんな花を咲かせるのか、楽しみにしています。実在の花でも、オリジナルの花でもOKです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  どんなお花が咲くか楽しみですねっ!
グレンのお花、どんなのが咲くでしょう…
意外と可愛らしい花だったりして…
咲くまではまだかかりそうですよね、
飲み物買ったら西側へお散歩に行きませんか?

色んなお花がありますね、
うちでも今度何か育ててみましょうか。
イチゴのお花って白くて小さくて可愛いんですよ。
あとはハーブ系…
え、おなかすいてるとかじゃなくって!
思いついたのがその2つだったっていうかっ
…実際に育てるかどうかはともかく、
ご飯はこれからも頑張って作ろうと思います…

綺麗に咲きましたね…!
帰ったら一緒に飾りましょうね。
花言葉あるでしょうか…後で調べてみましょう。

●購入
カモミールティー

●花:鈴蘭
幸福が訪れる
純潔


リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

ふふっ、この白いツボミがどんな色をつけるのかとても楽しみですね、ロジェ。
はわわ、見てください! 私の方は青い花が咲きましたよ!

(ロジェの花の色を見たリヴィエラは顔を上げると、ステージへと向かいマイクを持つ)
私の愛する人へ。私の心を、愛する貴方へ届けます。皆さん、少しだけ聴いてください。

(青が澄み渡る遥かなる空ならば、黒は空を包み込んでくれる優しい夜。
夜は命安らぐ場所と星が話してた…といった内容の歌を歌う。スキル『歌唱』レベル4)

ロジェ…私がこうして歌えば、貴方の心は私を見つけてくれますか?
ロジェ、泣かないで…歌えば貴方はきっときてくれるって、約束ですから…



ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  ふーん…どんな花が咲くのかな(ツボミは胸ポケットへ)
(歩いていると、旅の吟遊詩人一座に目が引きつけられる)

(春を喜ぶ民族音楽の楽曲をリクエスト
朗々たる詠唱と、賑やかで懐かしい弦楽器の音色に聴き入る
不意に涙がぽろぽろと)
あっ…すまない(慌てて手で顔を隠す
精霊の問いかけには、嗚咽をこらえて頷く)
ありがとう皆さん、素晴らしかった

(ジャスミンティーを飲み一休み)
レオン、私には音楽の才は無いんだよ

無理だよ(無理矢理引っ張っていかれステージへ
レオンの歌が下手でずっこける)
お前…よくそれで誘ったな
(やれやれ、と横笛取り出す
家族と別れる際にもらった思い出の品
大空舞う鷹の曲を弾く
ツボミは空色の星形の花へ変わる)



アンダンテ(サフィール)
  私達のは一体どんな花を咲かせるのかしら
ツボミは手に持ちながら移動

サフィールさんはどこか行きたい所はある?
そう?じゃあ洋風コーナーで花を見てみない?

時々思うのだけど、サフィールさんて私に甘いわよね
行先は私に選ばせてくれるし休憩のタイミングも丁度いいし
サフィールさんは現状に何か不満とかあったりしない?
何だかパートナーなのにすごく気を使われている気がするの

意外と、持ちつ持たれつ?だったのかしら
私達って相性よかったのね!

咲いた花は赤味のある黄色の花で花弁が多く華やか
まあ、綺麗な花ね!何だか、色がサフィールさんっぽいわね
丁度考えていたからかしら?本当に人の心に反応しているのね
よかったわ、綺麗な花が咲いて



ファルファッラ(レオナルド・グリム)
  …レオとこんな風に過ごすのってよく考えればはじめてよね。花を見て回るってすごく正統なデートのように感じるわ。デートじゃない?男女が一緒に歩けばそう言うわ同性同士でも親しければ可。

花、綺麗なんだけど全然名前とか分からない。レオの方がそう言うの詳しいわね?仕事柄?花言葉までばっちりっぽい…そうねこういう知識を学ぶの面白いかしら。
体動かしたりはよくしてたけど知識をっていうのはあまりなかったかしらね。

レオはタンポポコーヒー?本当にコーヒーが好きね。私はジャスミンティー。あら、この香りは茉莉花ね。ジャスミンの方が一般的なの?どっちでもいいけれど。お砂糖をいっぱい入れて飲むわ。レオもお砂糖いる?



●彼のために捧ぐ歌
 人の心に応じて咲く花が変わる。少女から聞かされた説明を思い出して『リヴィエラ』は少し後ろを歩く『ロジェ』に笑顔で振り返った。
「ふふっ、この白いツボミがどんな色をつけるのかとても楽しみですね、ロジェ」
「そうだな。白いツボミか……」
 どことなく哀愁のある声と表情で、ロジェは相槌を打つ。

「はわわ、見てください! 私の方は青い花が咲きましたよ!」
「君のツボミは青い花をつけたようだな。まるでどこまでも広がる青い空のようだ」
 白いツボミは、リヴィエラの心を反映して真っ青な花へと変化した。彼女の髪や瞳と同じ青色だ。
「俺の花は……」
 自嘲めいたロジェの声を聞きつけて、リヴィエラは彼の胸元に視線を向けた。そして変貌したツボミを見て、驚きで小さく息を呑んだ。
 ロジェが胸元につけていたツボミは、赤黒く染まっていた。禍々しく、どす黒く。血を思わせる不吉な色だった。
「俺はこれまで多くの罪を重ねてきた。この手は血に染まって真っ赤だ」
 自分の両手を眺めながら、ロジェは力なくつぶやく。彼は自分のことを罪人のように感じていた。根深い復讐心、リヴィエラへの独占欲、そしてリヴィエラの両親の死を願ったこと。それらが重くロジェの心にのしかかる。
「闇に堕ちた俺に、黒はお似合いなのかもしれない」

 そんなロジェの様子を見て、リヴィエラは何かを決心したようだ。顔を上げて迷いのない足取りで、ある場所を目指す。
「リヴィー? どこへ……」
 彼女が向かうのは、飛び入り参加を受け付けている野外ステージだ。係員からマイクを受け取り、リヴィエラはステージの上に立つ。
 予想もしていなかったリヴィエラの大胆で堂々とした行動に、ロジェはあっけにとられた。

「私の愛する人へ。私の心を、愛する貴方へ届けます。皆さん、少しだけ聴いてください」
 温かだが、まばらな拍手が観客席から上がる。野外ステージの観客数はそれほど多くはなかった。それでも気にせずにリヴィエラは歌う。
「青が澄み渡る遥かなる空ならば、黒は空を包み込んでくれる優しい夜」
 青空のように澄み切った声が歌うのは、黒い夜の優しさ。
「黒い夜は命安らぐ場所。輝く星たちが、私にそう教えてくれた」

 歌うリヴィエラの姿に胸を打たれ、ロジェは静かに涙を流す。
 リヴィエラの高い歌唱力は、パートナーであるロジェだけでなく、他の人々までも感動させたようだ。野外ステージ周辺には歌う前よりも観客が増えていた。歌い終えたリヴィエラは、最初よりも大きくなった拍手に見送られステージを降りた。その足取りで、ロジェの元へと近づく。

「ロジェ……私がこうして歌えば、貴方の心は私を見つけてくれますか?」
「……っ、君はいつもそうだ……初めて君に出会った時も、君は歌っていた」
 ロジェは記憶に刻まれた思い出を深く探るように、瞳を固く閉ざして俯いた。
「君は俺をいつでも救ってくれるのに、俺は君に何一つ返せやしない……。リヴィー……俺のリヴィー。何でこんな俺の為に、歌ってくれるんだ……」
「ロジェ、泣かないで……歌えば貴方はきっときてくれるって、約束ですから……」
「っ! ああ、リヴィー!!」
 涙を流しながら、ロジェはリヴィエラに抱きつく。感情が高まって、もはや人目やなりふりを構う余裕など、この二人にはなかった。
 ロジェはリヴィエラの青空のような髪を何度も何度も撫でる。多くの罪を重ねてきたと彼が感じている、その手で。
 リヴィエラはそれを静かに受け入れていた。

●デート? 散策?
 必須費用である募金を済ませた後、『ファルファッラ』と『レオナルド・グリム』は気の向くままに公園内を歩いていた。のどかで落ち着いた時間が流れている。
「……レオとこんな風に過ごすのってよく考えればはじめてよね」
 普段は口数の少ないファルファッラが、ぽつりとつぶやいた。
「ん? ああ。嬢ちゃんとゆっくり過ごすのははじめてだな……。お前が来てからはいろいろドタバタしてたからな」
 一瞬、レオナルドは遠い目をした。

「花を見て回るってすごく正統なデートのように感じるわ」
「デート? バカを言っちゃいけない、ただの散策だよ」
 レオナルドの言葉に、ファルファッラは反論する。
「デートじゃない? 男女が一緒に歩けばそう言うわ。同性同士でも親しければ可」
 ほんの少しだけ機嫌を損ねたような口調だった。
「わかった、わかった。デートの定義は嬢ちゃんに任せるよ。それはそうと、ファルはいつかちゃんと相手を見つけたらデート行って来いよ?」
「……」
 けりっ!
 ファルファッラから、鋭い眼差しと共にキックが飛んできた。
「痛っ!? って何故蹴る!?」
 乙女心は複雑だ。

 公園には様々な花が栽培されていたが、ファルファッラは花を見てもいまいちピンとこないようだった。小首を傾げながら、レオナルドに尋ねる。
「花、綺麗なんだけど全然名前とか分からない。レオの方がそう言うの詳しいわね?」
「花に詳しいか」
 手入れされた顎髭に軽く指を当てて、レオナルドは思案しながら返事をする。
「ただ単に職業柄って感じだな。花や花言葉をモチーフにすると話が作りやすかったりする。自然と知識も増えて行ったんだが」
「仕事柄? 花言葉までばっちりっぽい……」
 レオナルドの職業は物書きだ。本当は童話作家を目指していたはずが、実際売れているのはとても良い子には見せられない内容の本になってしまっている。
「そうねこういう知識を学ぶの面白いかしら。体動かしたりはよくしてたけど知識をっていうのはあまりなかったかしらね」
 これまでの自分の過去を回想しつつ、ファルファッラは知識を得ることに興味を持ったようだ。
「ふむ、知識ね。こういうのが好きなら植物学とかな」

 会話を続ける二人の目に、飲み物を売るワゴンが留まった。ちょっと一休みしても良いかもしれない。
「タンポポコーヒーか一度飲んでみたかったんだ」
「レオはタンポポコーヒー? 本当にコーヒーが好きね」
「コーヒーと名のつくものだからな、興味があった。なかなか飲む機会はなかったがな」
 レオナルドがいうように、タンポポコーヒーはけっこう珍しい飲み物といえる。店のメニューとして出てくるのはけっこうレアだ。ちなみにコーヒーに似た風味がするがコーヒー豆は使っておらず、タンポポの根を焙煎したものである。
「私はジャスミンティー。あら、この香りは茉莉花ね」
 ふわりとした香りを嗅いで、ファルファッラは見知った花の名を口にした。
「お前はジャスミンティーか……茉莉花? 確かにそうとも呼ぶが」
「ジャスミンの方が一般的なの? どっちでもいいけれど……」
 チャイナロリータ服と不気味なパンダぬいぐるみを愛用する彼女には、ジャスミンという名称よりも漢字の茉莉花の方が馴染み深いようだ。
「お砂糖をいっぱい入れて飲むわ。レオもお砂糖いる?」
「いらないよ。というか砂糖を入れ過ぎだ。風味も何もあったもんじゃない」
 呆れ顔のレオナルドをよそに、ファルファッラは涼しい顔で砂糖たっぷりのジャスミンティーを堪能した。

●あの人に似た花
 公園の入口で、募金のお礼にと渡された白いツボミ。人の心に反応して千差万別の花が咲くというそのツボミを手に持って、『アンダンテ』は楽しそうに『サフィール』へと問いかけた。
「私達のは一体どんな花を咲かせるのかしら」
「さあ。でも不思議な花ですよね」
 淡々とした口ぶりで応えてから、サフィールは白いツボミを自分の胸ポケットにしまっておいた。クールでローテンションな態度。これが彼の平常運転だ。

「サフィールさんはどこか行きたい所はある?」
 チャリティフェスタが開催されているので、公園は色々なイベントで賑わっている。だが、これといってサフィールの興味を引く催しは見つからない。
「いや、俺からは特に……。アンダンテの好きな所で良いですよ」
「そう? じゃあ洋風コーナーで花を見てみない?」
 サフィールは軽く頷いた。花が栽培されている区画へと移動する。

「あ、バラが咲いているのね。良い香り」
 アンダンテの視力は生まれつき弱い。鮮明には見えないものの、花々のカラフルな彩りがぼんやりと目に映る。芳香の強い花の香りも楽しんでいるようだ。
「あそこにベンチがありますけど、そろそろ休憩しませんか?」
「そうね」

 二人並んでベンチに腰掛ける。切り出すようにアンダンテがいった。
「時々思うのだけど、サフィールさんて私に甘いわよね」
 アンダンテは具体例を挙げていく。
「行先は私に選ばせてくれるし休憩のタイミングも丁度いいし」
 その次に、少し心配そうな声でこう尋ねる。
「サフィールさんは現状に何か不満とかあったりしない? 何だかパートナーなのにすごく気を使われている気がするの」
 投げかけられた問いに、サフィールはしばらく考え込んだ。
「別に不満は……ないですね。今日の行先も、特に希望はなかったので、アンダンテに決めてもらえた方がありがたかったです。休憩のタイミングは、まあ、日頃アンダンテのことを見ているうちになんとなくわかるようになりました」
 そそっかしいアンダンテから、サフィールは何かと目が離せなかった。
「別に気を使っているつもりはないですけど」
 素っ気ないともとれるサフィールの言葉だったが、アンダンテの顔は喜びで輝いた。
「あら! 意外と、持ちつ持たれつ? だったのかしら。私達って相性よかったのね!」
 うきうきとしたアンダンテの反応を単純だと思いつつも、それも別に良いか、とサフィールは思い直す。以前、悪夢を見て消沈したアンダンテの様子を見たことがある。あの時より全然良い。
「あ。ツボミが変化しましたよ」
 アンダンテが手にしていた白いツボミが、赤味のある黄色い花へと変わった。花弁が多くて華やかな印象だ。
 咲いた花をよく見ようと、彼女は顔に近づけてまじまじと観察する。
「まあ、綺麗な花ね! 何だか、色がサフィールさんっぽいわね」
 赤味がかった黄色。ストロベリーブロンドのサフィールの髪にそっくりだ。
「丁度考えていたからかしら? 本当に人の心に反応しているのね」
「そ、そういうものですかね……」
 胸ポケットの辺りを軽く抑えながら、サフィールが歯切れ悪く応える。
 彼がポケットにしまっていた白いツボミは、濃淡のある神秘的な藤色の花へと変わっていた。アンダンテのイメージと重なる。そのことがなんだか気恥ずかしくて、サフィールは咲いた花をアンダンテから隠した。
「……」
「よかったわ、綺麗な花が咲いて」
 サフィールの動揺をしらぬアンダンテは、ほのぼのと笑っていた。

●鈴蘭とレンゲソウ
 受け取った白花のツボミを手にして、『ニーナ・ルアルディ』はにこやかに微笑んだ。
「どんなお花が咲くか楽しみですねっ!」
「といっても俺は、花のことは全然知らないが……」
 気怠げな仕草で黒髪をかき上げる『グレン・カーヴェル』。花には詳しくないがニーナが楽しそうにしているので、とりあえず良しとする。
「グレンのお花、どんなのが咲くでしょう……。意外と可愛らしい花だったりして……」
 ふふ、っと笑いながらニーナがいう。
「なんだそれ。俺に可愛い花とか、似合わないだろ」
 グレンは少し不満げに目を細めて、ジトーっとニーナを睨む。もちろん彼は本気で怒っているわけではない。
「おい、ニーナ。せっかく咲くなら派手にデカイ花咲かせろよ」
「え? はい、頑張ります!」
 素直に頷いて、ニーナは気合を入れてみた。……しばらく念じてみたが、ツボミに目立った変化はない。
「うーん。咲くまではまだかかりそうですよね、飲み物買ったら西側へお散歩に行きませんか?」
「ああ。それよりお前、貰った花うっかり落っことしたりするなよ? ほら、花はポケットにでも入れとけ。んでもって空いた手はこっち」
 自由になったニーナの手をグレンがさっと握った。
「あ、グレン……」
 ほのかに赤く、ニーナの頬が染まる。

 その後、ドリンクを売っているワゴンで、ニーナはカモミールティー、グレンはタンポポコーヒーを購入した。
 買い物を済ませた二人は洋風の花が咲いている一角に向かう。手は繋いだままだ。
「結構咲いてるな……これだけのものを整えるのはなかなか苦労しただろうな」
 あまり花に詳しくはないグレンにも、花壇の壮観さは伝わった。
「色んなお花がありますね、うちでも今度何か育ててみましょうか」
「ふーん……いいんじゃねーの、玄関先にでも置くか」
 うち、というのはタブロス市内にある小さな借家のことだ。現在ニーナとグレンは、そこで二人暮らしをしている。
「イチゴのお花って白くて小さくて可愛いんですよ。あとはハーブ系……」
「……って、お前それ家庭菜園って言うんじゃねーの?」
 グレンからの指摘に、ニーナは恥ずかしがって慌てふためく。
「え、おなかすいてるとかじゃなくって! 思いついたのがその二つだったっていうかっ……」
「いや、食えるものの方が育て甲斐あるだろ」
 少しイタズラっぽい表情で、グレンがニッと笑う。
「美味いモン作るの楽しみにしてっから」
 グレンから微笑みを向けられて心臓が高鳴っていくのを感じながら、ニーナは返事をした。
「……実際に育てるかどうかはともかく、ご飯はこれからも頑張って作ろうと思います……」
 ふと、ポケットに入れていたツボミを見れば、可愛らしい鈴蘭になっていた。
「あ! 見てください、グレン。鈴蘭の花が咲きました」
「派手さのない小さくて白い花、か」
 こいつらしいといえばこいつらしいか、とグレンは無邪気なニーナを見て思う。
「お。俺のツボミも変化してるな」
「その花はレンゲソウです。綺麗に咲きましたね……!」
 咲いたレンゲソウをグレンはしげしげと眺める。素朴で東洋の趣のあるこの花は、一見彼のイメージとは離れているようにも思える。
「帰ったら一緒に飾りましょうね。花言葉あるでしょうか……後で調べてみましょう」

 帰宅して、ニーナは花瓶に二つの花をいける。永遠に残るものではないが、数日はもつだろう。
 そして鈴蘭とレンゲソウの花言葉を調べにかかる。鈴蘭には、幸福が訪れる、純潔、といった意味があるようだ。
「レンゲソウの花言葉は……」
 ニーナは温かな気持ちに包まれた。
 レンゲソウの花言葉は、あなたは私の苦痛を和らげる、私の幸福。

●鷹は大空を舞う
「ふーん……どんな花が咲くのかな」
 不思議そうに観察してから、『ガートルード・フレイム』は胸ポケットに白いツボミをしまった。
「久々に普通のデートって感じだな」
 白いツボミを眺めながら『レオン・フラガラッハ』がそんな感想をもらす。

 二人そろって公園内を歩いていると、吟遊詩人の一座が目に入ってきた。ガートルードの視線は彼らに釘付けになる。
「聞いてく?」
 視線から彼女の心を察したのか、レオンが尋ねた。
「ああ」
 ガートルードは一座へ近づき、曲のリクエストをした。彼女が希望したのは、春の訪れを喜ぶ民族音楽の曲だ。
 吟遊詩人たちは快く引き受ける。ふと、ガートルードを見て、彼らはほんの一瞬奇妙な感覚にかられたようだ。この女性の放つ雰囲気は自分たちとよく似ている。吟遊詩人たちは、そう感じ取っていた。気になったものの、彼らは深くは追求しなかった。
 ガートルードのリクエストに応えて曲を奏でる。吟遊詩人の指でかき鳴らされるリュートにハープ。賑やかで懐かしい弦楽器の旋律と朗々たる詠唱が、まるで音のタペストリーを織り上げるかのように複雑に絡み合う。
 ガートルードもレオンも、しばしその演奏に聴き入った。
「良い曲だな」
 そう話しかけて、レオンはハッとした。ガートルードの双眸からは、ポロポロと涙がこぼれていた。
「あっ……すまない」
 彼女は慌てて顔を隠す。
 泣いているガートルードを見て吟遊詩人たちは困惑し、いったん演奏をストップした。
「大丈夫か?」
 気遣うように、レオンが声をかける。
「家族が懐かしいか。ほら、俺がいるだろ……」
 レオンはガートルードの肩をそっと抱き寄せ、優しく撫でた。
「……気丈でしっかりしているようでも、家族から離れて都会で一人は寂しいよな」
 嗚咽をこらえ、赤い目元を手で拭いながら、ガートルードは黙って頷く。
 レオンは吟遊詩人たちに簡潔にガートルードの出自を説明した。そして最後まで曲を続けてもらうよう頼む。
 吟遊詩人の一座は、心を込めた演奏をガートルードに贈った。
「ありがとう皆さん、素晴らしかった」
 一座は親しみのこもった笑顔をガートルードに向け、手を振って見送った。

 その後、飲み物を買って二人は一休み。二人共同じジャスミンティーを選んだ。
「なあガーティ、お前楽器は弾かないの?」
「レオン、私には音楽の才は無いんだよ」
 諦めたように、ガートルードがいう。しかしレオンは引き下がらない。
「音楽一家の中じゃ弾けない方なのかもしれねーけどさ。もっと……楽しむ為に弾いてもいいんじゃねえかな」
 レオンはその青い目で、真っ直ぐにガートルードを見つめた。
「俺には、お前は音楽が好きそうに見える」
 そういうなり、レオンはぐいとガートルードの手を引く。彼は笑顔で野外ステージの方を指さしてみせた。
「俺歌うからお前なんか弾けよ!」
「無理だよ」
 いまいち気乗りしない彼女だったが、レオンに無理やり誘われる形でステージに上がる。
 さて、飛び入りでステージに上がったレオンの歌声は……お世辞にも上手いとはいえなかった! ガートルード、思わずずっこける。
「お前……よくそれで誘ったな」
 やれやれと苦笑を浮かべ横笛を取り出す。彼女は演奏技能を持っており、自分の楽器を所持していた。その笛は、家族と別れる際にもらった思い出の品だった。
 奏でるのは、大空を舞う鷹の曲。
 ガートルードの心と音楽に呼応して、ツボミは空色をした星形の花になる。
「良い音だ」
 満足気に笑うレオン。彼のツボミも、ガートルードと同様の花になる。
 今、ステージの上で、二人の気持ちは一つになっていた。



依頼結果:成功
MVP
名前:リヴィエラ
呼び名:リヴィエラ、リヴィー
  名前:ロジェ
呼び名:ロジェ、ロジェ様

 

名前:ガートルード・フレイム
呼び名:お前、ガーティー
  名前:レオン・フラガラッハ
呼び名:お前、レオン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月06日
出発日 05月11日 00:00
予定納品日 05月21日

参加者

会議室


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