【春の行楽】蝶衣の花を背負って(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「ですからね?一番安いコースで5000Jrが、ウィンクルムたちにとってお高いんですって!」
「……」
「ええ、勿論承知しております!イベリンの音楽祭に向けて必要だということも!ですが、此方もツアーコンダクターとしての誇りがございます!
 ウィンクルムの皆様なら、きっと困っていると伝えれば無理をして下さるでしょう。
 しかし!!ご案内するからには、責任もって!出来うる限りご負担なく!且つ!楽しんで頂きたいのです!!」
「………」
「もう一声!!!」
「………………」
「本当ですか!?良かった!それなら此方も喜んでウィンクルムの皆様にご案内できそうです!ええ、ありがとうございます!
 それでは……」
「念のため聞くけれど」
「うん?」
「今喋ってた相手、『 妖 精 王 』だよね」
「そうだけど?」
「…………」

* * * * * * * * * * * * *

「そんなわけで、妖精の森担当の私が今回ご案内致しますのは、期間限定☆お気楽ハイキングコースでございます!」
「そんなコース今までありましたっけ?」

 ミラクルトラベルカンパニーのツアーコンダクターが意気揚々と掲げるポスターを見て、受付職員は尋ねる。
待ってましたとばかりに、ツアーコンダクターが説明を始めた。

「わたくしが!自ら!!妖精王と交渉致しました!」
「……どうやって?」

 妖精王は決して人前に姿を見せない。
伊達に本部受付を長くやっているわけではない。余計もとい何かしらに役立つ情報は様々脳内にインプットされている。
受付職員が向けてきた疑惑の眼差しを、正面からキリッと受け止めるツアーコンダクター。

「定期的に担当の私宛に、テレパシーで連絡をとって来るんです。妖精の森、今ならこれが見頃だとか
 新しい案内役の妖精が生まれたとか、観光者もっと増えないかとか」
「妖精王……営業もするんですか……」
「ご好意で人間が踏み込むのを許して下さってる場所ですからね。許可したからには、やはりたくさんの方に訪れて欲しいじゃないですか」
「(そういうものかな)」
「それで、最近任務が忙しいせいかウィンクルムがあまり来ない、とぼやいてらして。
 ならば担当者として協力する代わりに、価格交渉を盛大にさせて頂いた次第です!」
「基本が、一泊二日からの5000Jrコースでしたものねそういえば」
「はい!かなり短期間限定ではありますが、日帰りコースをもぎ取りましたよ!!ただ少々条件がありまして」
「ですよね」

 何だかお茶目そうな妖精王とて、あっさり人間の提案に乗っては威厳諸々どこかへいってしまうだろう。
受付職員、して?と先を促した。

「今、イベリン領で音楽堂再建に向け、音楽祭準備もはかどってますよね?そこに彩りをいつも添える代表的な花がありまして。
 名を『蝶衣の花』。とてもとても大きな花で、最大では花開いた直径が成人女性の背丈くらいのものもあります」
「ああ、写真でなら見たことがある気がします」
「音楽パレードなどの際、よくその王道を飾っているんです。しかし今、オーガの瘴気的妨害にあっているらしく
 成長が芳しくないそうで……」

 心こもった音楽や花々は、オーガを弱体化させる力すら持つ。
音楽堂再建を阻止しようと様々な破壊活動や妨害が行われていることは、当然本部にも常に情報が入ってきていた。
なる程、と頷く職員。

「数輪でも大きく成長すれば、その種や花粉からすぐ増えるそうなんですが、未だに大きく育つ前に枯らされたりしてしまうそうで。
 で、今回『蝶衣の花』の種を、妖精王の力で守られている妖精の森で育て咲かせ、それをイベリン領へ戻して欲しいとのことなんです。」
「そんなにすぐ咲くものなんですか?」
「種を人の温もりに触れさせると、そこから蔓が伸びまして、近くにいる人間に巻き付き生命力を吸い取ってすぐ咲きます」
「…………」
「きっ、危険はありませんよ!ウィンクルムの方々の生命力なら、それこそ巻き付いた瞬間咲くでしょうから、人体に害は出ません!」
「……ならいいんですけれど」
「いつもは、イベリン領に住む人々の楽しそうな会話などから力を得て花開くそうなんですが……何せ今、
 音楽堂再建やら音楽祭に向けやってくる各地方の音楽家たちを迎え入れたりと、人々が忙しくしていて
 楽しくピクニックなどしている余裕ある者はほとんどおらず」

 つまり、妖精の森で種を発芽させ、楽しくハイキングしつつ体を張って『蝶衣の花』を大きく育ててくれ、
という概要のようだ。

「まぁ、何となくお話は分かりました。当然ウィンクルムたちの任意ですし。どうぞいつも通りポスターを貼っていって下さい」
「! ありがとうございます!!」

解説

●妖精の森到着した所からのスタート!

○蝶衣の花
体のどこかに種を触れさせると、一瞬で種から蔓が伸び巻き付く。
楽しむ心や歌などですごいスピードで育ちかなり大きな花へ。
背中の花は蝶の羽のよう。頭の花は麦わら帽子のよう。

蝶衣の花を付けていると、花の嬉しい気持ちが宿主に伝染するのか、
ちょっと口が軽くなることも?
いつもは思っているだけのはずが、うっかり【口が滑って】言葉にしてしまうかもしれません。

〇妖精の森レジャーランド
フェアリー直轄の健康スポーツランド。
国が保護している森で、ここに住む妖精王が特別な許可を出して、森の一部を開放している。
大自然の中で心身ともにリフレシュでき、料金は高めだが常に高い人気を誇っている。

●今回に限り、一組【1000Jr】の日帰りコース。寄る先は以下。

1.意志のある巨石:真っ白な不思議石。話しかけると石から意思が伝わってくるとか。
2.原っぱで野生動物たちとの触れ合い。雰囲気によっては、森小人も姿を見せるかも?
3.薄氷の滝:万年、氷の欠片が混じる小さな滝。
そこから広がる池には薄い氷が点々と浮いており、太陽の光で虹色に反射する幻想的風景

食料や飲み物は料金に含まれております☆
案内役の妖精に言えば、花の果汁ジュースやまるで肉風味な果実など適宜出してくれます。

●プランに記載頂くと助かる事
・花を付ける体の部位一箇所(花はお一人一輪)。余裕があれば、花が大きくなってきた時のリアクション
・上記寄る先を【お1つ】選び、そこでのパートナー様との楽しいひと時
・口を滑らせる方は、その内容など

花をイベリン領へ届ける、などのことは気にされなくて大丈夫です。
団体行動ですので、他の参加者様の寄る先にも居ます。
プラン字数に余裕がある方は、他の寄る先でのアクションも記載頂いても可。
(ただし寄る先一つ一つの描写が薄くなる場合があります)
無くとも、GMが字数許す限りうきうきアドリブする可能性あり ←

ゲームマスターより

男性側に一ヶ月に一度現れるはずが二ヶ月に一度になったうっかりGM、蒼色クレヨンです!
忘れられちゃイヤーーー!!(泣)←自業自得

プランきつきつだったらスイマセンすいません!
個別描写は勿論のこと、参加者様同士わちゃわちゃ会話してもらいたいな☆と思い
EXにて失礼させて頂きました!
プランに無くとも、GMが全力でアドリブ会話する可能性がございますお気を付け下さい!

今は触れて欲しくない設定箇所などありましたら、自由設定欄などでお知らせ下さっても構いませんので
NGなどは何卒お教え下さると幸いです……!(ぷるぷるぷるっ)
※あくまで【NG】確認のみ。アクションやウィッシュプランに該当する文が設定欄にあっても
反映する保証はできませんので、何卒ご了承下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  花の部位:頭

思っていたより随分大きく育つんだね
彼の背に咲く花は、まるで美しい蝶の羽
ひらり、何処か遠くへ飛んで行ってしまいそうで

綺麗な蝶々さん、俺と手を繋いでくれませんか?
…なんて。冗談ではないよ、真面目に言ってる(赤面
俺は音楽に馴染みが無い分、代わりにたくさんの心を花にあげたくて
繋いだ手から、二人で過ごした楽しい記憶や思い出を辿れる気がするから

薄氷の池を覗き込めば虹色の輝きにほう、とため息
幾年経っても変わらないからこそ美しいのかな
(何も伝えず秘めたまま。今までと同じように?
…ラセルタさんの言葉はいつだって強くて、潔いね。胸を貫かれそう

急に近付く顔に思わず花の帽子を深く被る
…心臓に悪いよ(ぼそり


スウィン(イルド)
  ■花:頭
わっ、凄い早さで成長してる!凄いわね~…って見えない!
(花が丁度顔の前に。位置を頭の方に変えてもらって)
あ、ありがと。なんだか帽子みたいね
おっさんに花が似合うかは…うん…
(似合うと言われ嬉しいけど顔を背け照れ隠し)
ど、どうしたの?!珍しくて雨が降りそうね、困るわ~

この花ってウィンクルム以外に巻き付いたら…
か、考えない方がいいわね
折角のメルヘンな気分が吹っ飛ぶわ;

■場所:2
可愛いわね~♪(実はイルドも含めて可愛いと和み
動物をもふもふしつつ流れでイルドの頭も撫で)
よしよし♪…冗談よぅ(ケラケラ)
(森小人がいたら)あら、こんにちは。怖くないわよ~
よければ一緒に遊ばない?美味しい物もあるわよ♪



俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  花は左手首
…お前が右手につけたのはそういうわけか

場所:薄氷の滝
他の場所も面白そうだったが気になったのはここだ
滝の前に立ってもらい思わず見とれる

はぁ!?踊るって…他の奴も見てるんだぞ?
しかもどう考えてもこの体勢はパフォーマンスじゃない
けど滝とネカがあまりにも似合いすぎてて断りきれない…
手を引かれてしばらく二人でフォークダンス風の8の字を描く踊り
踊りながらも目が離せない
ついうっかり口を滑らせてしまう
凍てつく虹光…ネカのイメージにピッタリで綺麗だ

うわ、花が!?
た、滝が!綺麗だって言ったんだ!
う…ネカ、も、綺麗だった
ヤバイもう俺黙る、何言いだすか分からない
口元を押さえて去り際言われた言葉にこくこく頷く


むつば(めるべ)
  「ふむ、ここが妖精の森か」
愉しみな事といえば石と花と。
あと、差し入れてくれるじゃろう飲食か。

飲食は、中華丼と烏龍茶を頼む。
無いなら何でもよい、好き嫌いは無いのじゃ。

わらわとめるべの第一希望は、意思のある巨石。
そこで石と会話をしたい。
念の為、案内役には、あの石に人が座れるか聞くか。
理由?特に意味はない。
「もし、石の上に座れるなら3年は座りたいだけじゃ」

「む?」
種を見つけたので指で摘まみ、左腕を捲って、置く。

「あ」
気がつけば蔓が伸びて、腕に絡みつく。
「この蔓、もしや……」
静かにめるべの右腕に近づけ、隣にも絡みつくか試す。

「む?腕同士で絡みついたか」
まぁよい、暫く花や蔓が枯れるまでこのまま歩こうぞ。




萌葱(蘇芳)
  凄いねー、ウィンクルムになるとこんな事もあるんだ
顕現した貴方、精霊と契約するとこんなにお得ですよ!って感じなのかなー?

原っぱに行きたいな
うさぎさんいたら触らせて貰いたいんだけど

花の位置、頭の上
なんだこれ、おもしろーい、帽子みたいだ
蘇芳は左腕に付けたんだ
何かあれだね、新しいジョブスキル発動中みたいな感じ?
え、なになに、花の名前を思いついた?
黙ってないで教えてよー
・・・そりゃーまぁ、否定はしないけどさ、悩んだりする事だってあるんだけどな・・・
しょんぼり

蘇芳のうっかりを聞いて
ホントに?
蘇芳がそう思ってくれてるのなら、楽天花でも良いかな
頬掻きつつ照れ笑い
あのさ、蘇芳
僕は蘇芳を支えられる神人になりたいよ



「みなさんお揃いっぽ?今日はワタシがご案内役ですっぽ!よろしくですっぽ!」

 半透明の羽をぱたぱたさせながら、手のひらサイズの一人の妖精がウィンクルムたちの前でご挨拶。
各々が笑顔でよろしくーと交わし合う。

「ふむ、ここが妖精の森か。愉しみな事といえば石と花とー……あと、差し入れてくれるじゃろう飲食か」
「むつ。冗談は寄うせい」

 気持ちワクワクした表情で告げる むつば だったが、隣人の口をついて出たダジャレ(寄せ⇒寄うせい⇒妖精)に
生温かい目が送られた。
言った本人、めるべ。口を尖らせる。

「……何じゃ、その目は。解せぬ。おぬしが愉しみな分、こっちも胸が躍るんじゃ」
「ならばもうちょい楽しそうに言えんのかの」
「これが楽しい顔じゃい」

 彼に取ってダジャレは呼吸と同意。
分かってはいたが、突っ込む方も大変なのだ。むつばがやれやれと肩を上げたところで、妖精から『蝶衣の種』を配られる。

 俊・ブルックスは、何とはなしにその種を左手首へ。スルスルーッと蔓が伸びて巻き付いた。
その様子をしっかり見つめるパートナー、ネカット・グラキエス。

「シュンはそっちの手に付けたんですね。では私は……」
「? 俺がどっちの手に付けたとかって、お前に関係あるのか?」

 不思議そうに首を傾げた俊を他所に、右手首へ蔓を伸ばさせもう蕾が付いたのに目を細めながら。
流れるような動作で、ネカットは俊の、花の付いていない右手を取った。

「さて、どちらに案内してもらえるか愉しみですね」
「……お前が右手につけたのはそういうわけか」

 ハイキング中、ずっとこうしている気満々という確信犯・ネカットにより、あっさり手を繋がれ俊は今にも脱力しそうに呟いた。

「む?」
「おお、これが話に聞いた種」

 俊たちが付けた様子を観察していたむつばと、早速左腕に種をくっつけてみるめるべ。
むつばも同じく左腕を捲ったところで、めるべの種からシュルンシュルンッと蔓が勢いよく巻き付いたのを目の当たりにした。

「あ」
「いうえお」

 驚いた時でもダジャレ要素は忘れない。恐らく本来のお年による経験値。から、めるべはむつばの声に条件反射で続く。
真剣にめるべの腕に絡みついた蔓を観察していたむつば、さらっとスルーし自身の持つ種へと視線を移した。

「この蔓、もしや……」
「ん?なんじゃ?」

 めるべに続いて自分の左腕に種をくっつけるむつば。蔓が巻きつくのを確認すると、徐ろにその腕をめるべの空いた右手へ寄せてみた。
しゅるりっ

「む?やはり腕同士で絡みついたか」

 人肌やら生命力に反応したようだったので、近くに他の者のそれがあれば、蔓が求めてそちらにも巻きつくのだろうか、
という軽い好奇心。

「……むつよ。何をしてくれとるんじゃ」
「本当に巻きつくとは思わなんだ」
「さながら、二人三脚じゃの」

 歩きにくくなったではないか、と思うものの特にそれ程気にはしていない様子のめるべ。
二人の左腕と右腕を寄せて絡めた蔓は、2人分の生命力に反応したのか、膨れた蕾を開きもう花を付け始めていた。
朱色と白が花びらごとに交互になった、さながら紅白花。
ほお……とめるべはそれを見つめ。

「これが花か?」
「花じゃな。恐らく」
「なる程、花なだけに華々しく咲いたわい」
「20点。める、そろそろ行くぞよ」

 すぱんっと点数を付け歩き出そうとするむつばの足取りに合わせ、めるべも足を前に出し始めた。

「確かに歩きにくいが、まぁよい、暫く花や蔓が枯れるまでこのまま歩こうぞ」
「は……花っ、枯らさないですっぽ!?」
「冗談じゃ」

 案内妖精、思わずアワアワ。むつばとめるべから同時に、安心させるよう言葉が重なる。
歩くのは構わんが、足が疲れたら2人揃って休みたいわい、と呟くめるべに、そりゃそうじゃの、とむつばが微笑んだ。

 続いて種を受けとり体に付けているのは。

「あれ?どうなってる……のかな?」
「千代の頭に被さる花は未だ綻びかけのようだ」

 受け取った種を頭に付けてみれば、顎に帽子の紐よろしくシュルンと伸びた蔓で固定され。
羽瀬川 千代の、頭のてっぺんで今にも花弁を開きそうな蕾をみとめて、ラセルタ=ブラドッツは目を細めた。
妖精の話では、生命力と心で咲くのだという。そんな花の香りにラセルタは興味を惹かれた。
(千代の心で咲く花か。どんな香りであろうな)

「わ!ラセルタさんのすごい……思っていたより随分大きく育つんだね」

 好奇心から背中へ付けられた種は、彼の逞しい生命力を受けすでに大きな花びらを広げていた。
それはさながら、美しい蝶の羽。
(だから『蝶衣の花』っていうのかな)
銀髪の見目麗しきディアボロが纏う紫緑色の花。その姿に千代の瞳が釘付けになる。
今にも羽ばたいて、ひらり 何処か遠くへ飛んで行ってしまうんじゃないだろうか――

「綺麗な蝶々さん、俺と手を繋いでくれませんか?」

 なんて、ね。
千代の口から気付けばそんな、彼らしくないような、台詞がかった言葉がラセルタに掛けられた。
ラセルタ、目を見開いた後息のみで噴き出す。――花にあてられたか?
笑いを堪え額に己の手を置いて。

「どうしたのだ千代」
「こ、これでも真面目に言ってるんだよ」

 冗談に聞こえても仕方ないけれど。ラセルタの視線を受ければ、顔に熱が集まるのを感じる。
千代の赤くなっていく表情をどこか楽しげに見つめる視線は、しかしまだ千代の言の葉が続くのを待っていた。

「俺は音楽に馴染みが無い分、代わりにたくさんの心を花にあげたくて。
……ラセルタさんと繋いだ手から、二人で過ごした楽しい記憶や思い出を辿れる気がするから」

 そう言って、そろりと辿々しく触れる体温を感じて。
今までも、どちらかというとラセルタの方から手を取りに行くことは度々あった。
所有物を傍に置いておきたいが為に。
しかし千代は言うのだ。思い出を辿る為にと。

「千代らしくていい」

 離さない為以外の理由、お人好しというかどこか面映ゆい気がするが……悪く無い。
千代の言う理由で繋ぎ止めておけば、少しはウィンクルム以上の関係になれるだろうか。
弱々しく繋がれた手を、ラセルタはしっかりと握り返した。千代は少し驚いた後、満足そうに微笑むのだった。

「この花ってウィンクルム以外に巻き付いたら……」

 ウィンクルムなら一瞬だから大丈夫っぽー!と、生命力云々の下りをさらりと伝えてきた妖精の言葉に。
スウィンは種を見つめていた視線を上空へ向け、天を仰いだ。俊がぎょっとする。

「ちょ、スウィン!俺もう付けちまったって!変な想像伝染するだろ!」
「か、考えない方がいいわね。折角のメルヘンな気分が吹っ飛ぶわ;」
「わらわたちの場合、ウィンクルムでなかったら干からびてたのかのぉ」
「え、おい、むつばたちって年いくつなんだっ?」

 想像を振り払おうとするスウィンの言葉に、冗談のつもりでカラカラ笑うむつばとめるべ。
やけに口調がじーさん地味てるな、と思っていたらしい俊が、正面切って疑問を飛ばした。

「はて。今年でいくつじゃったか……」
「過去はゴミ箱に捨てたのじゃ」

(……俺どう見ても10代にしか見えねえんだけど……)
(おっさんもよ……。でもどうしてかしら、そこはかとなく人生の先輩オーラを感じるのよね……)
(触れずにおくのが平和です?)
(おう……)

 俊、ネカット、スウィン、イルドの間でこっそり意見がまとまったとか。
話を誤魔化すようにスウィンとイルド、他のウィンクルムたちに倣って種を体の各々の部分にあてる。

「わっ、凄い早さで成長してる!凄いわね~……って見えない!」
「やっぱおっさんの生命力は人並以上だったみてーだな」

 ラセルタの背に開く花並に、あっという間に成長するスウィンの、太陽の光をたっぷり含んだ干し草色の花を見つめ、
イルドはとても納得し頷いている。
そのイルドの左腕にも、すでに赤い花が咲き誇っていた。それは命の色。決意秘める瞳の色。
うっかり額に咲き誇ってしまい、中々顔面覆う花びら部分をどかせられないスウィンに寄っていけば、
イルドはひょいと蔓ごとずらすように頭上へと位置を変えてやる。

「これでいいだろ」
「あ、ありがと。なんだか帽子みたいね」

 クリアになった視界にイルドの顔が映り、スウィンは微笑んだ。
その表情が、花との相乗効果か愛しさこみ上げて……

「まぁおっさんに花が似合うかは……うん……」
「似合ってる」

 ……っ!?
哀愁含んだスウィンの言葉へ ぽろっと。自らの口をついて出た言葉にイルドは驚愕した。
ちょ、思っただけなはずなのに……!
しかして驚いたのはどうやらスウィンも同じだったらしく。
若干遠い目をしていたのが、一気に正面の相手へと視線戻された。

「ど、どうしたの?!珍しくて雨が降りそうね、困るわ~」
「いや、その……わ、悪くは無いだろ、って意味で……。……?」

 嬉しさと照れが同時にやってきて、思わず花に隠れるよう顔を背けるスウィン。
――不意打ちなんてずるいわね。
頬の赤みを日の暖かさのせいにして、パタパタ仰ぐ様をイルドがふと見つめる。
スウィンの耳が赤い気がする。

「あれ?スウィンさん、顔赤いみたいだけれど大丈夫?体調悪い?」
「っだ、大丈夫よぉ。今日はあったかいわねーっ」
「若いからとて無理はするもんではないぞ?」

 千代とむつばから気遣いの言葉が飛ぶも、今は正直困る。
お願い少しでイイから放っておいてすぐ元に戻るから……!
はた、と。イルドと目が合った。
にやーっと嬉しそうな笑みと出会えばスウィン、悔しいやらこんな自分見て喜ぶ姿が可愛いやら、何とも複雑な思いが駆け巡るのだった。

「凄いねー、ウィンクルムになるとこんな事もあるんだ」
「オーガとの戦いの見返りに福利厚生は充実してますよって事なのかもな」

 ミラクルトラベルカンパニーからの案内が初めての体験である萌葱と蘇芳、誰かが一度は思ったかもしれない言葉を
通過儀礼のように口にした。

「顕現した貴方、精霊と契約するとこんなにお得ですよ!って感じ?」
「……俺たちを通販のオマケのように言うな」
「…………………お得?」
「俊、何か言いたそうです?」

 盛大に首を捻った俊に、ネカットの いいえがお が飛んだ。

「精霊とて、神人を独占所有出来るという良い目があるぞ」
「ラセルタさん……それたぶんラセルタさんだけの考えかと……」

 胸を張り堂々と言い放つラセルタに、満更でもないけれど何かやたら恥ずかしい気がする……と
千代が脱力しながら訂正する。
ふむ。他の仲間の関係も様々のようだな、と客観的に学ぶ蘇芳がいたり。
そんな蘇芳を他所に、萌葱はいつの間にかすでに種を育てていた。

「なんだこれ、おもしろーい、帽子みたいだ」

 きゅるっと締めない程度に蔓が頭や顎に巻き付いたのに、少々驚くものの日差しを遮るように花びらが開いたのを
自身の顔に落ちた影で気付けば、もう順応している萌葱。
何故頭に付けようと思うのだろうか……あ、いや、他にもいるようだが……
やはり妖精の説明から、生命力をひたすら吸われるのではとある意味スウィンと同じ、当然の警戒と不安を感じていた蘇芳だが。
全く平気そうに萌葱含め次々花を体に咲かせる仲間たちの姿に、そういうものなのだろうか……とようやく自身の腕に種を触れさせた。

「蘇芳は左腕に付けたんだ。何かあれだね、新しいジョブスキル発動中みたいな感じ?」
「ジョブスキル!?……まぁ確かに見えなくはないな」

 思ってもいなかった印象に、早速花開かせる左腕を改めて見つめれば、思わず納得する蘇芳。
明るい蜂蜜色の萌葱の、まだ小振りの花と比べ、見る間にもグングン大きくなる紺碧の落ち着いた色合いの花は
シンクロサモナーが召喚した異界の花のようで。

「蘇芳、蘇芳、指広げて、ハァ!とかやってみてよ」
「誰がやるか」

 左上腕部から指先にかけて、いっそ綺麗に絡まる蔓の様子に萌葱がワクワクした顔を向けてくる。
少し納得させられたと思えばふざけているふうにしか感じず。蘇芳、肩で大きく溜息をついた。
からかっているわけでなく、恐らくこれが本人の素なのであろうことは最近の付き合いで分かってきたものの。
蘇芳の背中から苦労性のオーラが放たれた。

●意思のある巨石にて

「ぽー♪ 第一ポイント到着ですっぽ!」

 こちらが『意志のある巨石』ですー、と妖精が目の前にででんと存在を主張している、白い大きな石の周りをクルクル飛んだ。
ウィンクルムたち、しげしげと石を触ったり撫でたり。

「これが意思があるという……じゃが、駄洒落を言っても、反応するかのう?」
「石だしの。喋りゃあせんのでは」
「まあ、石なだけに大人し『いし』のう、いしし」

 その瞬間、石を取り巻く神々しい雰囲気が若干しぼんだ。
俊が驚きの声を上げる。

「うお!?本当になにか感情みたいなのがあるんだな」
「シュン、ダジャレには突っ込まないんです?」
「……そんな高度なことを俺にやれってのか。石が反応してるからいいだろ」

 後半小声で、ネカットへは遠慮なく突っ込む俊である。

「める、不合格だそうじゃ」
「むう。厳しいのう」

 そう言うむつばは、妖精にあの石に人が座っていいかと聞き始める。
すぐ下りるなら良いっぽ!との言葉に、なる程と頷くものの登ろうとする気配を見せないむつばへ、めるべが尋ねる。

「座りたいのならこれこの状態じゃし、付き合うが?しかし座ってどうするんじゃ?」
「石の上に座れるなら3年は座りたいだけじゃ」

 ご年配者たちの言葉の奥は深いようで時に浅い(※全国の人生の先輩様方ごめんなさい)。
「え?3年座ると何かいいことある?」
「おいそこの坊ちゃん……仮にも学生ならちゃんと勉強しろ。そういうことわざってのがあるんだよ」
など萌葱や蘇芳の会話が聞こえたり。

「ここに一人で寂しくなぁい?」

 意思があると聞いて、ふと思ったことを石に触れながらスウィンは尋ねる。
白い石は温かな光をそっと点滅させた。

「ん。妖精や動物が居てくれるから平気なんだな」

 伝わってきた感覚に、イルドも安堵の表情を浮かべた。
その石を見つめる横顔をスウィンは見つめる。
―……何だか少しイルドに似てるわね。
決して多くは語らないけれど、意志の強い瞳と表情で全てを伝えてくる、かけがえのないヒト。
スウィンは石を優しく撫でるのだった。

●原っぱで

「ここでお昼休憩にするっぽー!」

 森を出たそこは、一面翠が揺れる草野原。
ボクたち妖精もよくここでゴハン食べるっぽ♪と言う案内についていけば、大きな大きな葉っぱが
まるでレジャーシートのように草の上に広がっていた。
その上には事前に準備されたらしい、ウィンクルム人数分の果物やジュース、不思議味の実などが並べられている。
ここに座って寛げるようだ。

「中華丼味と烏龍茶味の物はあるかの?」
「わしは天津飯味と茉莉花茶味が良い」
「ごふ!」
「ぽ!?ど、どんな味のものっぽ??」

 こんなファンタジーな場所で聞くとは思わなかったリアルなメニュー名に、俊とイルドが思わず果実ジュースを噴いた姿あり。
妖精さん、人間の世界のメニューには疎いらしい。具体的に説明したら出たりするのだろうか。
無いなら構わんよ、とむつばもめるべもあっさり引いた。

「酸っぱい果物は蘇芳にパス。甘いの甘いのー」
「好き嫌いしとると大きくなれぬぞ?」
「わしらより充分図体は大きいがの」
「オイ本気でいくつなんだ!?」

 萌葱へかけたむつばやめるべの言葉に、俊が数度目の問いかけをぶつけている。

 盛大にむせている背中を、スウィンにさすられながら。
ようやく一息ついて、もう大丈夫と視線で伝えながら、イルドは自分とスウィンの分の果実を手に取り1つを差し出す。
ぽかぽか丁度いい日当たりの中、どちらからともなくお腹がグゥと鳴っておかしそうに笑い合った。

「ここまででも結構歩いたものね」
「おう。腹減った」

 そうして、同時に果実へと口を運ぶ。
もぐもぐもぐ………もぐ?

「……肉の味?見た目が果物だから変な感じだな」
「あー、これなら中華丼味とかある気がしないでもないわ~……」

 不思議果実を堪能していると、ふとイルドの背後に野ウサギがちょこんと立っているのにスウィンは気付いた。
その視線にイルドも振り返ると、長い耳をぴょこぴょこ動かし、ふんふん鼻を鳴らしてイルドに寄ってくる。
イルド、小声で妖精へ尋ねる。

「こいつらにこの果実やっても平気か?」
「ぽ?問題ないっぽー♪」

 頷いて、そっとちぎって小さくしてやった果実の破片をウサギの方へ差し出してみる。
怖い見た目なイルドだが、根にある真っ直ぐで正直な優しさを動物たちはすぐ感じ取る。
野ウサギ、瞳を嬉しそうに細めその手から果実を口にした。
野ウサギの存在を見て、あちらに居る千代の瞳が輝いていたり。
(そして自分では無い物に幸せそうな顔をする千代を見て、不機嫌になるラセルタ氏がいたり)

「可愛いわね~♪」

 イルドに懐いた野ウサギの背中を、便乗してもふもふ撫でながら。
スウィン、その手を当たり前のようにイルドの頭に持っていき。なでなでなで。
先程の『可愛い』はちゃっかりイルド込みだったようだ。

「よしよし♪」
「……おい、おっさん」
「冗談よぅ」

惚れた弱味かされるがままであるものの、照れと不満からケラケラ笑うその横顔をじと目で見てから。
ウサギにつられるように、いつの間にかやって来たリスを見つけるイルド。
やはりちぎった果実を手に乗せると、ひょこひょこその手に乗ってきてくれれば、
イルド、リスを落ちないようスウィンの肩にもふっと預けた。

「……よし」
「………」

 仕返しのつもりだろうか。可愛いのはどっちだとそういう意図だろうか。
スウィン、口元を押さえリスに気遣いながらも肩の震えが止まらない。
――おっさん悶えさせてどうするの!
やっていることが可愛らしいのだと気付かないイルドの、満足げな表情が愛しくて堪らない。
バレたら怒られそうだと顔をそらせていたスウィンの視界に、今度は小さな小さな人影が映った。

「……あら、こんにちは」
「森小人だっぽー!ここに出てくるのは珍しいっぽー!」
「へえ……」

 スウィンの萌え震えには気付かず、ひょいと体傾けイルドも覗き込んだ。
怖くないわよ~と森小人に微笑みかけるスウィン。
動物とは違い怖がらせないか、極力表情筋を動かして強面を崩してみるイルド。

「よければ一緒に遊ばない?美味しい物もあるわよ♪」
「……食うか?」

 果物ジュースや味のある実を指さして手招きする。
膝の上にウサギを抱えているイルドの姿は、森小人さんには全く怖くは映らなかったらしい。
トテトテと、葉っぱのシートにお邪魔してきて、果実ジュースをずこーっと飲み始めた。
無口なマイペース者、森小人。
スウィンとイルド、微笑ましそうにその姿を眺めるのだった。

「あ。あれが森小人っていうのかな。……うさぎさんもいるーいいなー。うさぎさん他にもいたら触らせて貰いたいんだけどなー」
「どこかにまだいるか案内役に聞いてみるか」

 スウィンたちの葉っぱシートが賑やかなのを見て、萌葱が羨ましそうな声を出す。
案内妖精に声をかけようと顔を上げた先で、蘇芳は原っぱの草にぴょこぴょこ茶色い耳が動くのを見つけた。

「……あれ、うさぎじゃないのか」
「あ!本当だ!」
「えっ、うさぎさんっ?」

 蘇芳の指差した方向へ駆け出す萌葱。仕方なく付き合う蘇芳。
同じくうさぎさんに再び反応した千代が、嬉しそうに萌葱の後に続いていく。
そんな千代についていくもラセルタ氏は不機嫌そうで以下略。

 うさぎを驚かさないように萌葱と千代は近くまで寄った所でしゃがみこんだ。
おいでーおいでよー、と手や指をうさぎの方へ差し出してみる。
2羽いたうさぎの一匹が、何かの匂いを嗅ぎ止めたのか、鼻を鳴らし萌黄に近づいていく。
お?と顔を綻ばせる萌葱。
でもなんでだろう?僕まだ甘いジュースとか果物は食べてないんだけど。
うさぎさん、もはや匂いを嗅ぐのに夢中になってきた様子。萌葱の左手首あたりへ、前足すらぽてっとのせて、フンフンフン。

「あ、そういえば」

 何やら合点がいった萌葱は、うさぎが気にする手首を一度自分の鼻先へ持ってきて嗅いでみる。

「あんた、まさかとは思うが」
「うん。匂いだけでも幸せかなーって付けてきちゃった☆」

 蘇芳、いつぞや萌葱が購入していたプリンの香りのリップ(正確には珈琲風とミルク風の2本であるが)を思い出した。
そんなに気に入ってたのか……

「わ、いいなあ」

うさぎに懐かれてる様を微笑ましそうに呟く千代へ、
こっちのコ撫でるといいよー、僕もう片方のコ呼んでみるから♪、とすっかりうさぎと戯れるのに夢中な萌葱を見つめ。
いつも以上に楽しそうな様子とその頭の上で揺れる花に、ふと蘇芳は思う。

「あんたの花は……いや、何でもない」
「え、なになに、花の名前でも思いついた?」
「……」
「黙ってないで教えてよー」

 つい口から漏れてしまった言葉を、萌葱の耳はしっかり拾う。
気にするなと言ったところで、萌葱のこの調子では言うまでしつこく聞かれそうだ。
ひたすら請われれば、観念して答える。

「楽天花っていうんだろ、それ」
「……そりゃーまぁ、否定はしないけどさ、悩んだりする事だってあるんだけどな……」

 確かに『楽天家』である自覚はあるけれど。何か素敵な思いつき?と期待すれば、萌葱、しょんぼりである。
普段見ないその萌葱の表情の陰りに、蘇芳は少々慌てた。

「あ、待て、悪い意味じゃない」

 どう言おう?下手に正直に伝えるには内容が……
遠回しな言い方を模索するよりも早く、紺碧の花がそっと後押し。

「俺は平均後ろ向きになりがちだから、あんたが隣で楽しそうに笑っているのを見ると
こっちの気持ちも軽くなるんだ」

 萌葱の瞳が見開かれた。蘇芳、バッと口を押さえるも やっちまったカンいっぱいの顔。
しかしその後悔は真っ直ぐな言葉にすぐ払拭される。
あまり聞かない、蘇芳の本心が聞けた気がして頬を掻き照れ笑いを浮かべる萌葱。

「蘇芳がそう思ってくれてるのなら、楽天花でも良いかな」

 素直な言葉に、蘇芳の紅の両目が数度瞬きをした。
何だか意外そうな顔を向けられて、この際だと萌葱は続けた。

「あのさ、蘇芳。僕は蘇芳を支えられる神人になりたいよ」

 どこまでもマイペースなお坊ちゃんかと思っていれば、本人なりにウィンクルムとして自分へ意識を向けてくれていたことを知り。
改めて面と向かって届けられた思いに、蘇芳は顔が熱くなった気がした。
萌葱から視線を逸らす。

「あんたは今のままで十分な神人だよ」
「……え?」

ぽつりとした呟き。
萌葱から穴があきそうな程の視線を感じる。
花の力かはたまた蘇芳自身が望んで出した言葉か。
それでも、初めて認められた気がして、萌葱は破顔した。

「蘇芳、もう一回言って」
「……ああほら、皆食い終わっちまうぞ」

期待の眼差しを避け誤魔化すように、案内妖精に萌葱の好きな甘い物はないか尋ねる蘇芳の姿があるのだった。

●きらめく薄氷の滝

「ここが本日最後のご案内場所っぽ!」

 意気揚々と告げる案内妖精。
豊かな森の景色の中で浮いた印象の岩盤の上を、とめどなく溢れ落ちる滝。
その中に木漏れ日を反射した氷の欠片が、滝に淡い虹彩を生み出している。
幾星が流れる奇跡を見ているような光景に、俊は感嘆の息を漏らした。

「他の場所も面白かったけど、ここすげぇ……」
「池にも氷が浮いていますね」
「……ネカ、ちょいそのまま」
「はい??」
「いいから!ちょっとそのままそこに立ってろ」

 池の中を覗いていたネカットの横顔を見た俊が、ふとそんなことを言ってきて。
問答無用に要求する俊が珍しい気がして、ネカットは面白そうに微笑んだ。
シュンに振り回されるの、結構好きなんですよね――

「滝の前に立てばいいんです?ではちょっと失礼して……」

言うとおりに滝の前に改めて立つ。
ピースとかやりそうになったが、寸での所で空気を読みモデル立ち。

「ふふっ、なんだか私が魔法で氷を浮かべているような気分です」

 星の力宿る杖をそれっぽく掲げるネカット。
まさにエンドウィザードな彼が、滝の音と共に現れ煌きを纏っている気がして。
俊はその姿につい見蕩れた。
そうとは知らず、ぽんっとネカットが両手を打った。

「そうだ、これを背景に少し踊りませんか?」
「はぁ!?踊るって……他の奴も見てるんだぞ?」
「大丈夫、ネカザイルの活動は最近休止気味でしたがシュンをリードする心は常に忘れていません」
「大丈夫な理由になってねーし別にそこは聞いてねえっ」
「あらあ、いいじゃない。ネカットのリードならきっと雰囲気バッチリよ☆」
「スウィン!?」

 予期せぬ提案に予想外な援護者が加わった。
ただでさえ、滝を背負ったネカットに見蕩れていたばかり。
気まずい俊には断りの文句を紡ぐこと出来ず。
渋々ネカットの誘導に従ってその手を取った。

「しかもどう考えてもこの体勢はパフォーマンスじゃない」
「細かいことはいいじゃないですかー」

手を引かれるままに、二人は8の字を描くステップに身を任せる。フォークダンス風に軽やかに俊をリードするネカット。

「まぁ素敵。綺麗な風景でまるで舞台みたいね~。イルド、どう?わた、」
「断る」
「まだみなまで言ってないじゃない……ネカザイルの一員でしょぉ?」
「無理!」

 ケチ~、と響くスウィンの声。自分が踊る姿を想像しただけで居た堪れなくなり眉間に皺を寄せるイルド。
楽しそうなやり取りが耳に入りながらも、俊はネカットから目が離せなかった。
時折向きが反転しては、ネカットの背に薄氷から漏れた光がその輪郭を覆うようで。
花は揺れる。踊る2人に連れられて。
そうして宿主の心を、そっと、勝手に押す。

「凍てつく虹光……ネカのイメージにピッタリで綺麗だ」

 ネカットの目が一瞬丸くなってステップがゆっくり止まっていく。
俊、己の口をついて出た言葉に自分でビックリして固まった。
まだ取り合っている手。俊の手首に嬉しそうに身を揺らす、大きくなった朝焼け色の蝶衣の花を見て、
ネカットの口元が緩やかに上がった。

「見惚れてくれるほどお気に召していただけましたか?」
「え!?な、なに言って……うわ、花が!?た、滝が!綺麗だって言ったんだ!」

 そうだった妖精が何か変な効果言ってた……!と、自分の手首に視線を移せば、あまりに嬉しそうに揺れている花に気付き。
次第に目が泳ぐ。

「照れ隠ししても花は正直ですね」
「う……ネカ、も、綺麗だった」
「ふふ。……あっ、私のも咲きましたよ」

 観念したシュンの言葉を嬉しそうに受けたネカットの、固く閉じていた蕾もいつの間にか花開いていた。
赤紫のビロードのような花びらが揺れる。
ネカットの心を動かすのは美しい風景やデート内容ではなく、俊自身だと、そう示すように。

「シュンが素直に好意を示してくれるのはとても嬉しいです。
以前の『俺もお前のこと、す……』の続きも聞きたいものですが。ね、お花さん」

にっこり笑顔で花弁を撫でるネカットの様子に、口元抑え頬を赤くする俊がいる。
(ヤバイもう俺黙る、何言いだすか分からない)
花が大きく育つのは嬉しいけれど!うっかり何恥ずかしいこと思うかわかんねー!
俊、無言で首をぶんぶん横に振るのだった。

そんな俊の向こうで。
滝が作った薄氷の池を覗き込めば、虹色の輝きが飛び込んできて、ほう、と千代はため息をついた。
その隣でラセルタも興味深げに手を伸ばし、氷に触れている。

「幾年経っても変わらないからこそ美しいのかな」

 ぽつり。
千代の口から紡がれる。変わらないもの、変えるべきでないもの。ふと、自身のひた隠す想いと被る。
(何も伝えず秘めたまま。今までと同じように?)
いつか背中を押してくれた占いを聞いてからも、未だ変化を恐れ踏み出せない自分。
どうしても、この関係が壊れたらと思うと怖くて。
俯きそうになった時、視界にラセルタの掌が入り込んできた。
薄氷の一欠片をその上にのせて。

「滝に混じった氷は解けていく、花の色もいずれ移ろう。変わらぬものなど無い」

 千代の呟きをラセルタは拾っていた。そこに不安が混じっていたのを感じ取れて。
ラセルタの温度で解ける氷を、千代はじっと見つめて耳を傾ける。
――俺様と共に居るのにそのような感情に支配させてたまるか。
千代と視線を合わせるようその顔を覗き込みながら、強い眼差しを向けラセルタは言葉を続ける。

「同じ変化ならば納得のゆく変わり方を己自身で選び取るべきだと思うが」

 どきりと、千代の鼓動が一度大きく鳴った。
障害が消え去る日が来るのか分からないけれど……。何だか、ラセルタさんが自分で取り払ってしまうみたいだ。
彼ならやりかねないかもしれない。千代の表情に明るさが戻る。

「……ラセルタさんの言葉はいつだって強くて、潔いね。胸を貫かれそう」
「……銃士だからな、撃ち抜くのは御家芸だ」

 素晴らしい説得力。
ふふん、と姿勢整え力強い笑みを見せるラセルタに、千代は穏やかな声で笑った。
 ゆるり さやり
千代の頭に留まる蕾が、身を震わせたと思うと充分に育った花弁をゆっくり開いた。
ラセルタが目を見張る。淡い空色の花が、千代の心を称えるように咲き誇った。

「あ、良かった。俺のも咲い……、!?」

 突如繋いだ手を引かれたと思うと、ラセルタの顔が目の前に近づいて、千代 固まる。
その花を独占するかのように、ラセルタは自らの顔をその花弁に寄せ鼻先を埋める。
スッキリと、晴れ渡る空のように爽やかな匂いが、ラセルタの鼻をくすぐった。
中々離れないアップな顔をチラリと見て、千代は花の帽子を深く被る。
――心臓に悪いよ。
ぼそりと漏れた言葉とすっかり熟れてしまった顔を隠すために。
空色の花に顔をうずめたまま、ラセルタの口角が上がった。
千代の言動を、ラセルタが取りこぼすはずはないとまだ千代は気付かない――。

「すごいね!泳いだら冷たそう!」
「他に感動の表現は浮かばなかったのか……」

「おお、長く生きてるもんじゃのぉ……」
「ほんに……これは見事」

 萌葱のある意味飾らない発言に、しかし蘇芳はやはりがっくり返して。
むつばとめるべは、見たことのない景色に圧巻を述べた。

 チラリと、薄氷浮かぶ池の前で佇む他の仲間たちを見て。
そろそろ移動を始める頃でしょうか。
ネカットが俊を振り返る。

「名残惜しいですが一応団体行動ですし、私たちも行かなくては。続きは二人きりの時に、ね」

口元を押さえている俊の心中など見透かしているわけだが、気づかぬフリをして。
こくこく頷く俊の右手を再び取って、ネカットも仲間たちの後に続いて歩き出すのだった。

●舞う舞う蝶衣

 ハイキングも終わりに差し掛かった頃、ウィンクルムたちに宿る花に不思議な動きが見え出す。

「あら?何か涼しいわと思ったら……お花、羽ばたいてない?」
「あ?……うわっなんだこれ」

 スウィンの一言にイルド他、皆が自身やパートナーの花を凝視した。
ふわり ぱたぱた
生命力に触れ、楽しくも幸せなひと時を一緒に過ごした花たちは、一斉にその花弁を上下させ。

「あ!成長し終わったんですっぽー!飛ぶっぽ!」

 飛ぶ……?
嬉しそうな声を上げた妖精へ、どういうことかと視線が集まった瞬間。
ぷつ ぷつりっ
蔓から離れ、花弁は羽ばたきながら風に乗って舞い上がった。
ウィンクルムたちの心が影響した、色とりどりの大きな蝶衣の花が青い空を彩る。

「蝶衣の花は自分たちの故郷を知ってるんだっぽ。成長したら、在るべき場所に自分で帰るんだっぽ!」
「そうなんだ。……キレイだけど、何だか今日一日ずっと一緒だったから、少し淋しいね」
 
 切なそうな笑顔で見上げる千代の手を、ラセルタはぎゅっと握り締めた。
自分が隣にいるではないか、と。
(とはいえ、千代の花は私の物にしようと思ったのだが……)
ラセルタの心にも若干の無念さが残ったのだった。

「ふむ。おかげでめるべとの二人三脚では誰にも負けぬようになった気がするのじゃ」
「今度は靴を『くっつ』けるんかの」

 ずっと絡み合っていた蔓も、花が離れた(ダジャレじゃないヨ)途端、力を失くしスルリと地に落ちたのを見て
凝った気がする肩を回しながら、むつばとめるべもどこか物足りない気分を誤魔化すように会話する。

「イルドのうっかりさんな言葉、もうちょっと聞きたかったわねー」
「……2人だけん時なら、そのうちな……」

 元気に飛んでくのよー♪と手を振りながら冗談半分についた言葉に、意外な返しが来てイルドをしげしげと見つめるスウィン。
まだお花付いてたのかしら?なんて。
――俺だってまだまだおっさんに伝えたいことあるわ……!
やっと手が届いた気がするのに、元来の性格が邪魔をして中々そんな雰囲気は作れないけれど。
花に貰った、口にするほんの少しの勇気を、今後の為にイルドはこっそり胸に刻み込んだとか。

「シュンも私と2人だけの時なら、いくらでも言ってくれていいんですよ?色々」
「なんだ色々って!」

 ああやっと安全になった……と口のチャックを解いて。
俊はどこか疲弊しながらもネカットへの反応に忙しい。
スルーのコツも以前少し掴んだ気はするけれど、コイツには返さずにいられない。
――俺が反応するだけで嬉しそうなんだもんな……
きれいさっぱり蔓も落ち、ハイキングも終了しても、帰り着くまでずっと握られた手を俊は結局離せずにいるのだった。

「楽しかったー!こんな福利厚生なら僕大歓迎かも!」
「ならウィンクルムの任務、頑張らないとな」

 働かざるもの楽するべからず、と言わんばかりに蘇芳は間髪入れず。
萌葱、ぶーと口で音を出す。
―うん、良かった来て。僕このままでいいみたいだし。
スネたフリして弾む胸の内を悟られないようにする。
いつか、今日もらった言葉を口にしてあげよう。それくらい困らせたっていいよね。本当に嬉しかったんだ。
中々思ってることを言ってくれない大人な蘇芳に、対抗する手段をまた一つ得た萌葱だった。
そんな未来では、蘇芳は胃痛を味わうハメになるのだろうか それとも……――


 イベリン領の敷へ、かつてないほど大きく、色鮮やかに育った蝶衣の花が舞い下りる。
人々は歓声を上げて花を運び、音楽祭のメインロードを飾るのに勤しむのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:萌葱
呼び名:あんた
  名前:蘇芳
呼び名:蘇芳

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月05日
出発日 05月11日 00:00
予定納品日 05月21日

参加者

会議室

  • [5]羽瀬川 千代

    2015/05/11-00:00 

  • [4]スウィン

    2015/05/10-23:13 

    萌葱と蘇芳、むつばとめるべはお初~♪スウィンとイルドよ、よろしくね。
    俊達と千代達は今回もよろしく!
    どこも素敵だけど、原っぱで動物達との触れ合いメインの予定。楽しみましょうね♪

  • [3]むつば

    2015/05/08-23:56 

    初対面となる。
    むつばと相方のめるべじゃ、何卒よしなに。

    既に行き先は決めておるのじゃが、
    肝心の種というものを体のどこに付けるか悩むのぅ。

  • [2]俊・ブルックス

    2015/05/08-23:29 

    俊・ブルックスと相方のネカだ。
    今回もよろしく頼む。
    花もそうだが、色んなとこ回るのは楽しそうだな。
    さて、どこ見てみるかな…

  • [1]萌葱

    2015/05/08-20:49 

    こんにちはー、萌葱と相方の蘇芳です
    蝶衣の花ってどんな風に咲くんだろうねー、ちょっと楽しみ
    皆さんよろしくお願いしますー


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