くもりそらに太陽を(京月ささや マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 そう、それはほんの些細な、何気ないバカげたキッカケだったのです―――…


(どうしてこんな事に…)
 自宅であなたは頭を抱えていました。
 パートナーとはさきほどデートから帰宅したばかり。
 けれど…まだ太陽は空高くのぼったままです。
 そう、本当は夕暮れから夜までずっと外出する予定だったあなたたち。
 ですが、あなたは早々に帰宅し、今こうして落ち込んでいるのでした。
 
 あなたは出かけた先でパートナーと大ゲンカをしてしまったのです。
 そのきっかけはとてもとても、些細な出来事。
 普段だったら、あなたたちはこんな事でケンカなんてするはずはありませんでした。
 心に引っかかっていた事だったとしても、普段は口や態度にも出さなかったでしょう。
 けれど、どちらがキッカケだったか…お互い、普段何気なくどこか心に抱いていた
 不安や不満や嫉妬や苛立ち…そんな気持ちが積もり積もって爆発してしまったのです。

 最初に言い出したのはあなただったか、パートナーだったか…
 今となってはなかなか思い出せません。
 あなたは必死に記憶を辿ろうとします。
 そう、どちらかが、一緒に座って話しをしていたベンチで
 何かを口にしはじめて、お互いの空気が悪くなって修復しようもなくなって…
 そして…あとは売り言葉に買い言葉。
 口論の内容は本当に酷いものでした。
 互いの関係を解消するなんて気持ちはあなたには毛頭なかったのですが
 それでも…ずっとチリのように少しずつ溜まっていた怒りや不満や不安は
 爆発して口からあふれ出すと止まらなくなってしまいました。
 お互いに今までの関係がウソのように、こんなにも本気のケンカをしたのは…
 今回が初めてかもしれません。
 そして、あなたたちは『もう話しても無駄、一緒にいても無駄』という結論に達し
 外出予定を早々に切り上げてその場から離れて別々に歩き出したのでした。

 そして…あなたは自分の自宅にたどり着き、
 自分の部屋のドアをバタン!!!と激しく閉めて、今、こうしてここにいます。
 あの後、パートナーがどうしているかはあなたは知りません。
 ただ、わかるのは少なくとも、あなたがここにたどり着くまで
 彼は追いかけてはこなかったらしいという事。

(どうしようか…)
 あなたは考えます。
 自分が悪くないと思う部分は確かにあります。
 けれど、あの言い方はなかった…あんな言い方をしなくても良かった…ハズ。
 相手に不満はありますが、こんなに酷い結果になる前に
 自分にも何かできたかもしれないし、話し方もあったかもしれません。
 今となっては、あんな事をしてしまった自分への自己嫌悪が止まりません。
 あなたの手元にはパートナーへの連絡先。
 今から連絡すればもしかしたら…関係は修復できるかも、と思います。
 もしくは…パートナーがここにやってきたら何かを話してみるのもいいかもしれない。
 今のあなたが理解していることは、3つのこと。

【この関係を終わらせたくない】【関係を修復したい】【話し合いたい】

 そう、この3つなのです。
 この3つを叶えるには、どうしたらいいんだろう…
 連絡をとるべきか?取らないで明日まで待つべきか?
 話し合うなら何を話し合おう?何を言おう?話し合うためにどんなキッカケを作ろう?
 そして、自分は彼に何を伝えたらいいんだろう…?
 カチコチと時計の音が鳴る中、あなたは必死に考え
 そして…結論に至ったのでした。
 その方法とは……あなたの胸だけが知っているのです。

解説

■目的
 普段は気にならない事でも、チリも積もれば山と成る。
 ささいな事がキッカケでデート先で大ゲンカしてしまった状況を
 なんとか改善しよう!と必死に頑張って頂くエピソードです。
 ウィンクルムの関係は解消にはなりませんが
 パートナーとケンカの仲直りができるかどうかは…貴方次第です。

■消費ジェールについて
 ムダにしてしまった外出先への移動料金として400ジェールを頂戴します。

■自宅にいるのは?
 ケンカして自宅に戻ってきているのは、精霊・神人のどちらでも可能です。

■ケンカについて
 理由はそれぞれ自由に設定してください。
 どちらか片方が相手に不満を抱いていても、互いに何か不満を抱いていたとしてもOK。
 プランには、どちらがキッカケでケンカが始まり、
 どんなケンカ内容でどんな事を言い合ったかを明記してください。

■仲直り方法について
 互いの手元には、相手への連絡先が記されています。
 同居している場合は部屋に行くもよし、相手を外に呼び出すもよし。
 同居していない場合は呼び出してもOK、相手の家に行ってもOK。
 相手が自分のところに来るのを待つのもOKです。
 また、時間軸的には翌日までの時間軸展開をOKとします。
 翌日になるまで待って連絡を取ったり、会って話しをしてもいいかもしれません。
 仲直りのレベルについては、個人差があっても問題ありません。

■翌日について
 ケンカ当日に仲直りをしても、ケンカの翌日に仲直りをしても
 翌日の描写が今回のエピソードのプランに必要になってきます。
 ケンカした翌日の展開をプランにご記載ください。
 仲直りをしようと頑張った結果、どうなったかは記入必須となります。

ゲームマスターより

こんにちは、京月ささやです。
どんなに仲が良いペアでも、大きなケンカは1度か2度は訪れるものです。
それに、今までは見過ごせていた不安や不満も、爆発はしてしまいがち。
雨降って地固まる、という言葉もございます。
しかし…上手く固まるでしょうか? 

ジャンルはハートフルとしておりますが、
物凄くシリアステイストから若干のコメディテイストまで
幅広く解釈頂ければと思います。

皆様のプランを心待ちにしております!
このエピソードで、どうか皆様の思い出が
より濃厚になりますように…!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  ……やっちまった(別れた現場近くのベンチで頭抱え)
聞かれるだろうと思ってたが。
だからって「能天気に何にも考えてないお前にはわからない」と。
あいつがいつでも俺の事考えてるのなんかわかってんのに。

捨てられないのは未練じゃなく
見抜けなかった自分の甘さを忘れないように
自戒のつもりだったんだが
……そりゃ怒るわな

……ん?あれイグニ、うお!?
は、電話?あ、充電切れてた
って、そうだイグニス!
あー、あの……悪かった。言い過ぎた。
ごめん、な。
これ、近いうちに処分するわ。
いい加減ケリつけんと。

*翌日
本当に店でいいのか?
まあ、お前がいいなら構わんが……ほら、出来た
(仲直りの意味も込めいつもより豪華めフレンチトースト)


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  原因:ランスの嫉妬

喧嘩:
大学の友人と居酒屋の帰り、出勤途中(ホストなので夜が仕事)のランスに見られた
酔った友人が俺に抱きついて誤解され
売り言葉に買い言葉
どうして信じてくれないんだ(ぷんすこ
友人を送った後俺は自宅に帰り…


思い込み激しすぎるだろ
あんなに嫉妬深いなんて

電話しようか
話せば誤解だって
けど今仕事中だろうし(うー

シャワー浴びてももやもやは晴れない
俺、自分が納得しないの嫌なんだよ

街に飛び出しランスの店の前でうろうろ
仕事中…だもんなあ

何時の間にか店の裏
仕事がハネたら出て…くるかな

裏口が開いたらちゃんと説明しよう

翌日は寝不足
ランスに起こされる

個室の鍵かけずに寝たんだ
ま、いっか
もう、鍵かけなくても



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  回想■映画を見て喫茶店で一息
親子連れをみかけ、父との論争と昔が浮かび、涙

人前だ!?最近スキンシップし過ぎ
…何いってるの?
もらい泣きだって。さっきみた映画の余韻

知ってたんだ
なら尚更、僕に任せて
超えなきゃならない問題だから、タイガの背に隠れたくないんだ

笑ってくれれば十分だ

■躊躇の末、火山家の扉越しに
あ、ここでいいです(兄に対して

心配してくれたのにごめん
感謝してるんだ
今があるのはタイガがいてくれたから君のようになりたいって
自分の道だから、自分の力で歩いて行きたいんだ
でもまずは仲直りしたいよ

明日またくるね

◆翌日
タイガ!え!?ちょ…
わかった(頑張るが一般男性より軽めビンタ)

(泣笑)それさえあれば百人力だ



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  理由:「一緒に出掛ける人が他に居ないの?」とフィンに聞かれ、居ないと答えたら、「友達とか恋人とか作った方が良い」と言われた
それに凄く腹が立ち
「フィンには関係ない!余計なお節介はするな!」と怒鳴ってしまった
フィンの言葉に何故か苛々が止まらなくて、「もういい!」と言い放ち、彼を置いて自室に戻ってきた

ベッドに転がって考える
どうして俺は怒っていて、どうして今こんなに情けなく悲しい気持ちなのか

フィンに必要とされていないようで
それで俺は

ああ、俺は…フィンの事が好き、なのか…(初自覚)

帰宅した気配を感じ、彼の部屋へ謝りに行く

言い過ぎた
苛々する事が他であって…
ごめん
(本当の事は言えない。フィンを失いたくない



ハーケイン(シルフェレド)
  ◆状況
喧嘩をして精霊と同居している自宅にいる

◆心境
シルフェレドめ、何故奴は俺の心を抉ってくるんだ
しかも妙に粘着質にネチネチと!
あれではまるで……

……まて、ちょっと待て
今俺は何にたとえようとした
いや、すでにシルフェレドにそう言った気がする!
馬鹿な、奴が嫉妬などするか
単に自分の思い通りに弄べずに苛立っただけの話だろう

……そうでないと俺が困る
誰かに執着するのも、求めるのも、良い事などない
やめだ、考え込むと墓穴を掘りそうだ

もうこんな時間か
少し早いが夕食でも作って気分転換しよう
そう言えば、シルフェレドは外出先で見かけた料理に興味を持っていたな
……謝罪代わりと言うわけじゃないが、一つ作っておくか



●こうして2人は還ってゆく

(どうして信じてくれないんだ…)
 アキ・セイジはヴェルトール・ランスと別れてから自宅でひとり悶々としていた。
 …とはいっても、同棲しているので自宅の自室に鍵をかけて、だが。
 ことの発端はセイジが大学の友人と居酒屋に行った帰りのこと。
 友人と一緒にいるところをホストとして出勤途中のランスに見られたのだ。
 酔った友人が自分に抱きついた。それを誤解したセイジが『手を出すな』と詰め寄った。
 それが余りに注意の域を超えていたので、セイジは『乱暴をするな』と反論したのだ。
 そこにランスが「なんで庇うんだ」と噛み付いてきて売り言葉に買い言葉…と言うわけだ。
 そのまま友人をなんとか送ったあと、自宅に戻ってひとり、こうしている。
「思い込み激しすぎるだろ…あんなに嫉妬深いなんて」
 ハア、とため息をついてはみるが、このまま誤解されたままでは余りにも気まずい。
(電話してみようか…)
 とは思ったが、今は真夜中。仕事中だ。

 一方のランスはというと、職場でひたすら自責の念にかられて反省しきりだ。
(何やってんだ俺は…あのセイジだぞ…)
 そう、そもそもセイジはランスが心配するような尻軽などではない。
「俺だってなかなか…」
 そう、恋人であるランスでさえもなかなか”させて”貰えないのだから。
「おい何ブツブツ言ってんだ?大丈夫かよ?」
「ああ、いや…」
 ホスト仲間にまで心配される有様で情けない事この上ない。
 同僚やお客からは『恋人さんは夜に寂しがらせちゃダメよ?』なんて言葉も貰うが
 実際問題寂しいのは俺のほうだ…なんてことは言えるはずも無かった。
 頭を抱えたくなるほど凹んだ状態で店の夜は更けていった。

「………あ…ここ…」
 セイジは気づけばランスの勤務先の店近くにいた。
 見上げれば、店の裏口のドアが見える。
 そう、あれから気晴らしにとシャワーを浴びてもモヤモヤは晴れず
 いてもたってもいられなくて街に飛び出していたのだ。
 自分が納得できないのが嫌なセイジの性分からだった。
(仕事がハネたら…出て…くるかな)
 時計を見れば、もう閉店時間も近い。
(裏口が開いたら…ちゃんと説明しよう)
 そう決めてセイジはそのまま裏口を見つめ続けた。
 やがてガチャリ、という音とともにドアが開いて人影が現れた。
「…セイジ」
 驚いた顔でこちらを見るランスの手にはビールケース。
 店の酒瓶を片付けようとして出てきたら、そこにセイジがいたのだ。
「ランス…説明させてくれないかな」
「…え?説明?」
 ビールケースを片付けたランスを見ると、セイジは事情を説明し始めた。
「え…アイツとはゼミの返りに飲んだだけ?」
「ああ、そう。本当にそれだけだったんだ、酒が入ると陽気になる性格だし」
「あー、うん、そっか…」
 やはり自分の深読みしすぎだったか…という事実と、
 そしてこんな時間にまで自分との事でセイジを悩ませていたことに
 ランスはバツが悪そうに後頭部を掻いた。
「それよか…髪、濡れてるじゃんか。店、入れよ」
 湯冷めするだろ、と、まだシャワーの水気を含んだセイジの髪にそっと触れたのは
 不器用な自分の仲直りの印だという事はきっとセイジも理解しているはずだ。
 だって、2人は恋人なのだから。

 翌日、セイジはランスの声で目が覚めた。
 早朝近い深夜に眠ったので寝不足で身体がだるい。
 ふわ、と小さくあくびをすると、ランスがコーヒーを運んできた。
(そうか…個室の鍵、かけずに寝たんだっけ)
 でなければランスは部屋に入ってこれない。
「…セイジ。ごめんな、昨日は」
 目の前にコーヒーを差し出されてランスから改めて謝罪の言葉が告げられた。
(まあ…もう鍵はかけなくてもいいか…) 
 適度に暖められたコーヒーを飲みながらセイジは思う。
「もう気にしてない…それより、おかわり」
 カラになったカップをセイジに差し出すと、ランスは嬉しそうに笑みを浮かべた。
 2人の関係は、いつも通りに戻った…ようである。


●互いの心のいきつく先とは

(海十はどうして怒ったんだろう…?)
 別れてからの帰り道、あてもなく街をさまよっていたフィン・ブラーシュは
 ずっとその事で頭を悩ませていた。
 パートナーの蒼崎海十はすてきな子だと思っている。それに、幸せになってほしいとも。
 そう考えていたから…自分自身がなんだかいつも彼を束縛しているような気がして、
 今日のデートだってそう。休日は、彼はいつも自分とばかり一緒にいる。
 そんな彼がもしも自分にエンリョしているのなら…と思った。
 申し訳ないし、勿体無い。
 だから、彼に言ったのだ。
「一緒に出掛ける人が他に居ないの?」と。
 その時、彼は「居ない」と答えた。
 なので、こう続けた。
「友達とか恋人とか作った方が良いよ」と。
 すると、彼は途端に怒り出してしまったのだ。
(どうしたら…いいかなあ)
 まさか、あんなに怒鳴ったりするなんて思わなかったし
 そんな事をされる筋合いもないと少し腹も立つ…けれど。
 とにかく、何ができるか考えよう、とフィンは少し考え込む。
「美味しい料理を作って仲直りが一番だよね…」
 暫くしてそうぽつりと呟くと、フィンは繁華街へと足を進めたのだった。

 一方その頃、海十は部屋の中でずっと悶々とした気持ちで過していた。
 フィンの言葉がリフレインする。
『友達とか恋人とか作った方が良い』
 そう、その言葉を思い出すと物凄くイライラするし哀しくもなる。
 あの言葉を言われた時に、カッとなって自分でも信じられないぐらいに腹が立って
「フィンには関係ない!余計なお節介はするな!」と怒鳴ってしまった。
 あの言葉は信じられないぐらいに自分を苛苛させた。
 そのまま、言い合いを続けているうちにおさまりがつかなくなって…
 挙句、「もういい!」と言い放って彼をその場に残して自室に戻ってきたのだ。
「………」
 ベッドに転がって、天井を見上げながら考える。
 どうして自分はこんなに怒っていて…
 そして、どうして今こんなに情けなく…悲しい気持ちなのか。
 記憶を巻戻す。
 そう、あのフィンの言葉で自分はショックを受けたのだ。
 まるで、自分がフィンに必要とされていないように感じて。
 それで、腹が立った。哀しかった。あんなに。
 それは、彼に必要とされたかったからで。
 だからあんな風に…感情をぶつけた。
(ああ、俺は…)
 海十の頭の中で、意味不明だった感情や行動の理由が形を現していく。
 そうして、海十は気づいた。部屋の中で静かに。
(俺は…フィンの事が好き、なのか…)

「ただいま…」
 スーパーで食材を買い出してから、フィンはそっと控えめにドアをあけた。
 自室に荷物を置きに戻ろうとして振り返ると、そこには海十の姿があった。
「ごめん…いいすぎた。苛々する事が他であったから…」
 あれほどまでの激情がウソのように、しおらしい海十の姿がそこにあった。
「俺も言い過ぎた、ごめんね…誰だって腹の虫の居所が悪い時はあるよ」
 フィンはそっと優しく微笑む。
「仲直りに握手しよっか」
 そう言うフィンの優しい笑みにちくりと心が痛む。
 でも…本当の事なんて言えやしない。言ってフィンを失いたくはない。
 そんな海十の目の前に、フィンの白い手が差し出された。
「子ども扱い、しないでほしいな」
「別に子供扱いはしてないよ」
 お互いに笑いながら握手を交わす。
 海十の心の痛みだけは、フィンは知る由もなかった。

 翌日。朝食をともにしながら、フィンはいつもの様子に戻った海十をそっと見つめた。
 交わされる少しの我侭も悪態も、いつもと同じ海十そのもので。
(海十が俺だけに見せてくれる顔、だよね…)
 それは間違いなくそうだろう、と思う。
 そして、それを失いたくないとも。でも、これは独占欲なんだろうか…?
 フィンの心の中に少しの疑問を残して、2人は朝食を食べるのだった。 


●熱い心の感じ方

「……………」
 火山タイガはずっと自宅の寝床で悶々としていた。
 落ち着かず身体を左右に転がしていると兄に煩がられる。
 思い出すのはさきほどの出来事。
 セラフィム・ロイスと一緒に映画を見て…それから喫茶店に入った。
 すると、セラの瞳に涙。思わず抱きしめようとしたら…
「人前で何してるんだ」そして「最近スキンシップしすぎ」と言われた。
 その言葉にカチンときただ。
 どうしてセラは自分に隠そうとするのだろう。
「何で言わねーんだ…?辛いんだろ
 俺は、いつでも呼べばすぐかけつけてやるのに」
 いつもセラは辛さを押し殺して自分で抱え込む。
「…何いってるの?もらい泣きだって。さっきみた映画の余韻…」
「嘘つくな!…どれだけ隣にいたと思ってんだ」
 タイガには察しがついていた。セラが流した涙の理由は…過去。
 セラの視線の先には親子連れの姿があった。
 それで父との論争と、そして昔が浮かんだのだ。
「知ってたんだ…なら尚更、僕に任せて」
 セラは言った。あくまでもタイガに自分の辛さを隠そうというのだ。
「超えなきゃならない問題だから、タイガの背に隠れたくないんだ」
 その言葉に、タイガは益々苛立ちを増していく。
「助け、いらないのか」
 搾り出すように言った言葉に、セラは頷いたのだ。そして、こう言った。
「笑ってくれれば十分だ」
 タイガは愕然とした。辛い彼の前でも常に笑い続ければならないなんて。
「笑えっか!?」
 そう言うと、タイガとセラは激しい口論を始めたのだった…
「はー……」
 寝床に転がっていると、なんだか部屋の外が騒がしい。
 兄の足音と声…そして…聞き覚えのある声。…セラだ。
「あ、ここでいいです」
 セラの声が扉の前で聞こえた。セラが自分の部屋の前にいる…

 タイガの兄に案内されて部屋の前まできたセラは
 扉の前で暫く躊躇していた。扉の向こうにはタイガの気配がする…
「心配してくれたのにごめん…」
 謝罪の言葉は本心からだった。タイガは今…どんな顔をしているのだろうか。
「……………」
 自室の中で、タイガはその言葉をずっと聞いていた。
(箱入りで従順で核心にはめっぽう真っ直ぐで…
 嘘をつくときだって「悲しいね」って寂しそうな顔するお人よしがっ)
 けれど、真摯な声でセラは続ける。
「タイガには感謝してるんだ…今があるのはタイガがいてくれたから
 だから…君のようになりたいって。
 自分の道だから、自分の力で歩いて行きたいんだ…
 でもまずは仲直りしたいよ」
 セラの言葉はとても真剣でウソがない事なんてすぐわかる。
(本気なのか…)
 扉の向こうからは「明日またくるね」というセラの言葉とともに
 セラが遠ざかっていく気配がした。

 翌日。
 タイガとセラは火山家のタイガの部屋で向き合っていた。
「…証拠みせろよ」
「証拠…?」
 タイガの言葉にセラはタイガを見つめる。
「昨日俺に言った言葉…本気なんだろ。俺を殴ってそれだけの決意、見せてみろ」
「タイガ!え!?ちょ…」
 セラは酷く戸惑った様子だったが、ぎゅ、と拳を握り締めた。
「…わかった」
 パアン、と軽い音が響く。
 それはセラの精一杯の平手打ちだった。…が、一般男性のそれよりは軽い。
「甘ぇ!」
 タイガの大きな声と共に、セラの頬から大きな音が上がる。タイガがやり返したのだ。
 ニヤリと笑って見せるタイガに、セラもキッと鋭い視線を向ける。
 それから暫くは、2人の拳の応酬。
 殴り、殴られながらタイガは思う。
(催眠にかかった時、俺、セラを殴るのに躊躇しちまった…
 セラはやれた。あの時の俺より…だから、俺ももっとぶつかんねーと)
 それは過去の記憶。きっとセラは以前の自分よりずっと強い…かもしれない。
 互いの拳が止まるとタイガはセラの肩を掴む。
「…たまに笑えねぇかも知れねーけど…
 セラの隣にいれなくても俺がいるって事、忘れるな」
 タイガの言葉に、セラの頬を熱いものが伝った。
 それはタイガの心の熱さが伝わって流れた、セラの涙の熱さ。
「それさえあれば…百人力だ」
 セラの涙声の笑顔が、タイガの瞳の中で揺れた。


●変わらない関係、あるいは

 シルフェレドは、外出先で考え事をしながらぶらついていた。
 今日のケンカの原因はハーケインのお人よし加減。
 困った人を発見した彼はやはり見過ごすことはできず。
 またか…と思い、イラついて「このお人好しめが」と責めたら
 噛み付くようにハーケインに言い返され…
(最近なりを潜めていたが、奴のお人好しは根深いな…
(そんなに疑似的な愛情が欲しいか…私がこんなにも心を砕いてやっていると言うのに)
 夕暮れが近い空に、シルフェレドの苛立ちまぎりのため息が響いた。

 一方、ハーケインはシルフェレドと共に暮らす屋敷の自室に引き篭もっていた。
(シルフェレドめ、何故奴は俺の心を抉ってくるんだ…
 しかも妙に粘着質にネチネチと!)
 苛苛がまだとまらない。自己嫌悪もさることながら。
(あれではまるで……)
 そう、あの執着心はまるで…まるで。
(……まて、ちょっと待て)
 はた、とハーケインは我に帰る。
(今俺は何にたとえようとした?)
 あの感情のたとえを、そういえばケンカの最中に言った気がする。嫉妬だ…と。
「馬鹿な、奴が嫉妬などするか…」
 落ち着きなくハーケインは室内を歩き回る。
(単に自分の思い通りに弄べずに苛立っただけの話だろう…)
 必死に自分の頭の中で考え、無理やり結論づける。
 そうでないと…自分が困ったことになる。
 誰かに執着するのも、求めるのも、良い事などないのだから…
 考えれば考えるほど深い穴にハマりそうで。
 気が付けば、窓からは夕暮れの光がさしこみ始めている。
「もうこんな時間か…」
 ぶんぶんと首をふると、ハーケインは立ち上がって自室のドアを開けた。
 気分転換に、と向かった先は台所。
 そういえば、外出先で彼は見かけた料理に興味を持っていた。
 謝罪がわりというわけではないが、一つ作っておこうか…。
 そう、関係を修復するのだ。これ以上自分に立ち入られることのないように。 

(……やれやれ、これではまるで嫉妬したようではないか)
 シルフェレドが記憶を巻戻す。
 何故自分はあんなに責める必要があったのだろうか。
 それにハーケインにも言われた。まるで…嫉妬のようだと。
 実際にそういったトコロがあるのも事実だった。だから腹が立ったのだ。
(突かれてつい言い返してしまったのだが、まさか口喧嘩になるとは…)
 口喧嘩になるなんて、昔の自分からしたら信じられない。
「私自身、仮面が剥がれているのかも知れん…」
 ベンチに座ってひとり、苦笑する。
 以前、自分が見ることのできなかった『本心』。
 今の自分の変化を感じればなんとなくハーケインには可能性を感じる。
 もしかすると…いつか自分の本心とやらを見つけ出せるかも知れない。
「さて、連絡を取って奴の様子を見てみるとするか」
 携帯電話を取り出し、自宅にかける…が、出る気配はない。
 仕方ない、と携帯電話を仕舞って周囲を見回すと、あたりは薄暗い。
 帰宅する頃は夕暮れも過ぎているかもしれない。
 そう思いながらシルフェレドは自宅へと向かったのだった。

「……………」
 シルフェレドが帰宅すると、テーブルの上に2人分の料理があった。
 その片方は、自分が外出先で興味を示した食べ物だ。
(帰宅していたのか…)
 テーブルの上の食事には何一つ手がつけられていない。
 ハーケインの部屋に向かうと、扉の向こうから寝息が聞こえた。
 …眠ったのか、夕飯も食べずに。
 クスリ、と少し笑うとシルフェレドはそっと自室に向かった。

 翌日。
 ハーケインが起きると、何食わぬ顔をしているシルフェレドの姿。
 僅かにハーケインは驚くが、食べないのか?と促されてテーブルに座る。
 テーブルにあるのは…昨日自分が作った料理。
 シルフェレドも食べずに寝たようだ。
「…おはよう」
「ああ、おはよう」
 2人は、何もなかったように朝の挨拶をする。
 こうして、2人の関係は元通りになった…かのように見えた。
 いつになるのだろうか。それぞれの秘めている思いを口にする時は…


●あゆむためにすてるもの

「秀様の馬鹿ー!」
 イグニス=アルデバランは怒りにむくれた顔で帰宅した。
「……なんであんなこと聞いちゃったんでしょう…」
 はあ、とため息がもれる。自分でも信じられない。
 原因は、初瀬=秀の首に下げているリングのネックレスだ。
 あれは…結婚指輪だという。
(信じられない!当日に他の男と駆け落ちしたあの女とのですよ!?
 これ怒っていいですよね私!?)
 過去の想い人との品を首からかけて現れた秀の行動が信じられなかった。
 イグニスの苛立ちと自己嫌悪は部屋の中で膨らむ一方だった。
(……でも。流石に「捨てて下さい」は言い過ぎました……)
 秀の事を考えていればわかる。捨ててほしいなんて、
 自分が簡単に言っていい言葉ではなかったはず。
 涙目のイグニスの心はどんよりと沈んでいた。

 一方、秀はというとイグニスと別れた後、近くのベンチで頭を抱えていた。
(……やっちまった)
 いつか聞かれるだろうとは思っていたが。
 あの返答のしかたはなかった…と自分でも思う。
「能天気に何にも考えてないお前にはわからない」なんて。
 確かに自分にも事情はある。けれど。
(あいつがいつでも俺の事考えてるのなんかわかってんのに…)
 そう、わかっていたからこそ「捨てて」と言われて腹が立った…
 自分があの指輪を捨てられないのは未練ではなく
 彼女の本質を見抜けなかった自分の甘さを忘れないように…
 という自戒のつもりだったのだが。
「けれど、あの返答をすれば……そりゃ怒るわな」
 自業自得、かもしれない。秀はがくりとベンチで肩を落とした。

 イグニスはというと、うーうーと暫く悩んでいたのだが。
「よし!電話しましょう!そして謝りましょう!!」
 怒りが引いていけば、秀との今後を考える。
 思い立ったが吉日、イグニスは慌てて携帯電話を手に取ると、秀への番号にかける。
 が、呼び出しすら鳴らない。圏外通知の音声だけ。
「……出ない……!?まさか事件!?」
 イグニスはバタバタと自宅を飛び出した。
 どこから探そう…そう考え、向かったのはデート先でケンカした場所だ。
 …もしかしたら近くにいるかも。すると視線の先に…秀がいた。
「秀様ーー!!あ、いたあああ!」
「……ん?あれイグニ、うお!?」
 騒がしい足音と共に聞き覚えのある声が聞こえたと思えばタックルされて秀は驚く。
「秀様、電話出ないから何者かに連れ去られたかとって…」
「は、電話?あ、充電切れてた…」
「え…?そうだった…んですか…」
 イグニスの早とちりだという事がわかって、イグニスはへなへなと脱力する。
「そうだイグニス!」
「え、あ、はい!」
 いつになく大きな声で秀に呼びかけられてイグニスは飛び上がる。
「あー、あの……悪かった。言い過ぎた…」
 まっすぐに秀に見つめられて、イグニスの頬も少し赤くなる。
「あ、あの!私も、ひどいこと言ってごめんなさい……」
 お互い酷いことを言った。それはお互いがよくわかっている事だった。
 俯いているイグニスの髪の毛を、そっと秀は撫でた。
「ごめん、な。…これ、近いうちに処分するわ」
 指輪を処分する、という秀の言葉にイグニスは驚いて顔を上げる。
「…いいんですか…?」
 信じられない、という顔のイグニスに秀は微笑んで頷く。
「ああ、いい加減ケリつけんと」
 それは、秀の大きな決意だった。
「…新たな一歩、ですね」
 秀の大きな決断に自分が立ち会えている…そんな喜びに満ちたイグニスの微笑みに
 秀も微笑みで返したのだった。

 翌日。
「ふふー、秀様のフレンチトースト!」
 イグニスは上機嫌でフレンチトーストが出来上がるのを待っている。
「本当に俺の店でいいのか?」
 なんなら自宅で、と秀は言いたそうだったが、イグニスは首を振る。
「え?私は秀様と一緒ならどこでも幸せですよ!」
「まあ、お前がいいなら構わんが……ほら、出来た」
 仕方ないな、と笑いながら開店前の秀の喫茶店で
 2人のためだけのフレンチトーストが焼かれる。
 目の前に置かれたフレンチトーストは、いつもより豪華なトッピングと仕上がりで。
 その見た目が語っている。これが仲直りの証だと。
 フレンチトーストを挟んで向かい合う2人の笑顔は
 お互いにとって新しい一歩が始まったことを示すものだった…



END



依頼結果:大成功
MVP
名前:初瀬=秀
呼び名:秀様
  名前:イグニス=アルデバラン
呼び名:イグニス

 

名前:蒼崎 海十
呼び名:海十
  名前:フィン・ブラーシュ
呼び名:フィン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 京月ささや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月03日
出発日 05月09日 00:00
予定納品日 05月19日

参加者

会議室

  • [7]初瀬=秀

    2015/05/08-23:56 

    滑り込み参加の初瀬とイグニスだ。
    まあ遅かれ早かれする話ではあったが……まさかこうまで拗れるとは。
    いや、俺の話し方のせいだが……

    あそこまで怒らせたのは初めてかもしれん。
    仲直り、できればいいな。頑張ろうぜ。
    よろしく。

  • [6]蒼崎 海十

    2015/05/08-23:56 

  • [5]アキ・セイジ

    2015/05/08-23:04 

    プランは書けた。

    誤解したのはアイツだ。
    だけど、もやもやしたままなのは俺が納得できないから、仕方ないから、俺から行ってやる。

    「俺が納得できないのが嫌だからだよ」(建前)。
    (ランスを傷つけるつもりなんてなかったんだ。…早く、誤解を解きたい)(本音)

  • [4]蒼崎 海十

    2015/05/07-00:51 

    蒼崎海十です。パートナーはフィン。
    皆さん、宜しくお願いします。

    どうか仲直り出来ますように。
    頑張りましょう…!

    どうしてあんな事で喧嘩になってしまったんだろう…。

  • [3]蒼崎 海十

    2015/05/07-00:48 

  • [2]セラフィム・ロイス

    2015/05/06-13:57 

    どうも。セラフィムとタイガだ。よろしく
    既にプランは提出済みで微調整のみだ。目的ややりたいことがあると早いね

    皆も無事仲直りができますよう。お互い頑張っていこう

  • [1]アキ・セイジ

    2015/05/06-00:16 


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