故郷へと至る道(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 少年には夢がありました。

 -世界一の大道芸人になる!-

 少年の故郷は、タブロス市郊外の田舎町。
 このままここに留まっていては、夢は叶えられない。
 そう考えた少年は、一念発起して家出同然で村を出たのでした。

 それから10年の歳月が流れ……
 少年は青年となり、タブロス市でラーメン店を営業していました。
 大道芸人を目指して活動をしていた彼でしたが、それだけでは食べていけません。
 そこで住み込みでラーメン店に勤めたのですが……彼に才能があったのか、店主にラーメン作りの腕を認められたのです。
 秘伝の味付けや調理方法を伝授され、それを吸収し成長した彼は、年老いた店主から店を受け継いだのでした。
 今や、すっかりラーメン作り一筋のラーメン職人です。

 故郷に居る両親に、この自信作のラーメンを食べて貰いたい。
 何時しか彼は、そう思うようになっていました。

 しかし、勝手に故郷を捨てて出た身。
 しかも、その理由であった夢は叶わず……両親に合わす顔がありません。
 それでも、両親に会いたい。
 彼はある計画を実行に移します。

 お金で大道芸人一座を雇い、自分をその座長と偽って、村で凱旋興行を行うことにしたのです。

 意気揚々と村へ向かった青年と大道芸人一座でしたが、そこで事件が起きてしまいます。
 村へ向かう街道に、数匹のデミ・オーガ化した凶暴な狼・デミ・ウルフが立ち塞がったのです。


 そして、A.R.O.A.本部に依頼にやって来た青年、ファビオは、すっかりやつれた表情をしていました。
「大枚をはたいて依頼したのに……芸人一座は、契約破棄と言って帰ってしまいました」
 がっくりと肩を落とし、深く溜息を吐き出します。
「あ、すみません。俺の話をしてしまいましたが、それはもういいんです!」
 小さく『良くないけど』とぼやきながらも、彼は真っ直ぐに顔を上げました。
「このままあの街道に狼が居着いたら……タブロス市から村への物流が止まってしまいます。
 お願いします! 俺と一緒に街道へ出向いて、あの狼達を退治してください!」
 そう言うと深く頭を下げます。
「あと……歌ったり踊れたり……何か芸が出来る人が居たりとか、しません?
 居たら、ついでに一緒に村へ行って欲しいかな……って。
 無理ですかね? あはは……」
 頭を掻きながら、ファビオは苦笑いをしたのでした。

解説

・故郷へ戻る青年・ファビオを伴い街道へ行き、彷徨いているデミ・オーガ化した狼(デミ・ウルフ)を倒すことが依頼内容となります。

・デミ・ウルフは、牙での噛み付きや爪での引っ掻きが攻撃手段です。
 非常に素早く、逃げ足も早いため、連携しての対処をお勧めいたします。

・ファビオは故郷の村に戻れたら、大道芸(ジャグリング)を披露して、夢を叶えたとアピールするつもりです。
 村で一緒に芸を披露し、彼のサポートをしていただける方も、彼が個人的に募集しています。
 芸は、歌・演奏・踊り・占い・似顔絵描き……などなど、何でも構いません。

・ファビオの手伝いを敢えてせず、『正直に今の自分を伝える事』を後押しするのも良いかもしれません。

※デミ・ウルフとの戦いと、村でのファビオのお手伝い、両方に参加いただいても全く問題ございません。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、雪花菜 凛(きらず りん)です。

今回は、ちょっぴり見えっ張りな青年を、無事に故郷に届けていただけたらと思います。
ファビオに協力するも、お説教して更生するも、皆様のプラン次第です!

皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪

※ゲームマスター情報の個人ページに、雪花菜の傾向と対策を記載しております。
 ご参考までにご一読いただけますと幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アルヴィン=ハーヴェイ(リディオ=ファヴァレット)

  んー、オレは現状を正直に話した方が良いと思うけどなぁ。
ラーメン職人としてお店を持ってるって並大抵じゃ出来ない事だし、誇れる事だと思うけどな。
それに、騙す事になるしそういうのって意外と見抜かれちゃうんじゃないかなぁ…ご両親な訳だし。
…まあ、お手伝いをしようにもそっち方面はからっきしだからねぇ。

何にしても、デミ・ウルフを退治しないと始まらないよね。

【戦闘】
ウィンクルムソードで接近戦を仕掛けるよ。
素早いみたいだから、きちんと狙いを付けないといけないかな。
一匹ずつ確実に仕留められるように、連携して同じ相手を集中して狙えるようにしておこうかな。



ライ クロスロード(ルドルフ ガルキュリア)
  ■行動方針
デミ・ウルフ……退治
ファビオ……『正直に今の自分を伝える事』を推奨

■戦闘場に着くまで
ファビオと会話(責める風でなく穏やかに)
ルドは会話術使用
偽らず本当の自分を親に話す事を薦める

■戦闘
ファビオは戦いに巻き込まれると危険なので
ウルフ達と遭遇したら隠れていて貰う

ルドが声をあげ敵を引きつけ

ルドに前衛に出て貰い、トルネードクラッシュで範囲攻撃
攻撃があたらずコケた時は俺がすかさず前に出てフォロー

特にウルフの数が減ってきた時、
逃がさぬように最新の注意をし味方と声かけ

■戦闘後
依頼者の故郷まで付き添い、
彼を認めて貰える様に手伝い

ライ「一口食べて貰えばわかるよ…どれだけ息子さんが頑張ったかってコト」



スウィン(イルド)
  方針:正直に今の自分を伝える事を後押し
説得タイミング:出発前を予定
ただし他の人にあわせる形で道中・戦闘後でも臨機応変に

「合わす顔がないなんて考えなくていいと思うわよ
ラーメン作りを恥ずかしい事だと思ってんの?違うでしょ?
店継げるくらい旨いラーメンを作れるなんて凄いじゃない!
自分が作ったラーメンを食べてもらいたい…
その気持ちをそのまま伝えればいいわよ
きっと親御さん達も喜んでくれるって!
勇気出しなさいよ、せーねん!(笑顔で背中を叩く)」

戦闘:イルドと共に前衛
敵がファビオに攻撃しないよう間に入る
「そっちは行かせないって~の!」

村:ついていきファビオを見守る
「めでたしめでたし、ってね♪」


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  目的はデミオーガの排除とファビオと両親の関係修復…だな

話を聞いてすぐ実行:
・彼のラーメン店から麺や具材を分けて貰う
・彼の両親の住む村の責任者に
デミオーガが現われてる
ファビオがそれを退治する
それまで街道には出ないで欲しい…、と電話連絡
「これで被害は防げる筈だ」

戦闘:
酢の瓶をぶつけて狼に嗅覚的ダメージを与えたり、剣で攻撃したりで皆と協力して逃がさずに退治したい

もしファビオのご両親が心配で見に来てしまったら離れるよう促して守る
「ファビオを心配してきたんだろう。許されている証拠だ」

戦闘後村で:
ファビオが何故魔物を退治しようと思ったのかを話し、彼のラーメンを食べてみてくれと言おう
*俺達にも美味しく食べる


相良・光輝(ライナス・エクレール)
  坊主のは…歌というより遠吠えだからなぁ…うちの子は却下だな

親としては子が元気でやっていてくれればそれだけで十分なんだと思うんだけどね

ま、いく途中に少しだけ伝えておくか
「で、この嘘をついたとしてその先考えてるのか?
仮定としてこれ信じられたらお前さんもう本当に御両親に自分の努力の結果を味わって貰えんぞ」

(ま、見破られるだろうけどねぇ、親程自分の子の事が分かる人は居ないからねぇ…)

坊主に頼んで道中は荷物持ちの手伝いに回るさね
荷物は多いだろうからね

後は…デミ・オーガが出てくれば坊主にちょいとお願いするかね
「ありゃすばしっこい相手だろうな…坊主、逃げ道、避け幅を潰す様攻撃してくれるか?頑張って来いよ?」



●1

「俺、歌も楽器も出来るぞ!」
 A.R.O.A.本部から依頼内容を聞き、ライナス・エクレールは瞳を輝かせパートナーにそう主張した。
「……」
 相良・光輝はそんな彼を横目で見遣ってから、小さく頭を振る。
「坊主のは……歌というより遠吠えだからなぁ……止めておけ」
「んなッ!?」
 ライナスが毛を逆立てるようにして、不満を視線でを訴えた。
「そうねぇ……おっさんも芸の披露には協力しない……かしら」
 スウィンは瞳を細めてそう呟くように言う。
「……ちょっと意外だな」
 スウィンのパートナー、イルドが驚いたように眉根を上げた。
「どうして意外なのか少し引っ掛かるけど……嘘を吐くよりも、正直に今の自分を伝えた方がいいと思うのよ」
「ま、大道芸なんてめんどくせーし、嘘ついても仕方ねーし、正直に言えばいいんだ」
 スウィンの言葉にイルドも頷いて同意する。
「俺も、正直に伝えるのに賛成だな」
 眼鏡をキラリと光らせ、ライ クロスロードが挙手した。
「彼が認めて貰えるように、手伝ってやりたい」
「ほう……随分優しいな、お前」
 ライの耳元へ、パートナーであるルドルフ ガルキュリアが笑みを含んだ声で囁く。
「……!? い、いーだろ、別にッ」
 思わず耳を押さえて高速で離れながら、ライはキッとルドルフを睨み付けた。
 睨まれた本人はニヤニヤと笑っている。
「……んー、リディはどう思う?」
 賑やかな同行者達を眺めながら、アルヴィン=ハーヴェイはパートナーに尋ねた。
「俺も、皆の意見に賛成だよ」
 リディオ=ファヴァレットはきっぱりとそう返す。
「俺、嘘吐くの苦手だしねぇ」
「あはは。リディって、正直過ぎて嘘が下手そう……あ、悪い意味とかじゃなくて」
(そういう素直な所って見習いたいなぁって思うし)
 言い掛けた言葉をアルヴィンは飲み込んだ。
 ストレートに褒めるのが少し照れ臭かったからだ。
「有難う、アル」
 そんな彼を見つめ、リディオはアルヴィンの頬をするりと撫でたのだった。


 一方、アキ・セイジがまず実行したのは、青年の故郷の村への電話連絡だった。
『はい、プランタン村役場です』
「突然のご連絡、失礼致します。私はA.R.O.A.に所属する、アキ・セイジと申します」
『は?……A.R.O.A.の方っ?』
 村の役人らしき男の声が、驚きで甲高くなる。
「恐れ入りますが、そちらの責任者の方に代わって頂きたいのですが……」
『責任者……村長は私ですが』
 戸惑いながらも、電話の向こうの男性はそう応えた。
 村長ならば、話は早い。
「既にご存知かもしれませんが、現在、タブロス市とそちらの村を繋ぐ街道に、デミオーガが出現するとの話が出ています。
 私達はファビオさんの依頼で、彼と共にそのデミオーガの討伐に向かいます」
『え? ファビオ!?』
 村長はファビオを知っているようで、声が裏返って驚いている。
「はい、プランタン村出身で、今はタブロス市に在住しているファビオさんです」
 セイジははっきりとそう告げると、声を少し険しい物へと変えた。
「デミオーガはとても危険です。私達が退治するまで、村の方々は街道へは出ないでください」
『は、はぁ……わ、分かりました!』
 村長は驚きに声が何度も裏返りながらも固く約束する。
 受話器を置くと、セイジは小さく息を吐き出した。
「これで被害は防げる筈だ」
「村の人達が襲われたら元も子もないもんな」
 セイジのパートナーであるヴェルトール・ランスは、電話帳を片付けながらウンウンと頷く。
「では、次の準備に取り掛かろう」
「次の準備?」
 立ち上がったセイジをランスが目を丸くして見上げる。
 セイジは小さく笑みを返したのだった。


●2

「皆さん、よろしくお願いしますッ」
 背中に大きな荷物を背負った青年ファビオは、一行にぺこりと大きく頭を下げた。
「すっごく田舎で道もあんまり整ってないんで……徒歩になっちゃいますけど、しっかりナビゲートしますんで!」
 ご安心くださいと、自身の胸を叩いて白い歯を見せる。
「よろしくね、せーねん!」
 スウィンは人懐っこい笑みで挨拶を返す。
「ま、任せとけよ」
 その隣で、イルドが素っ気ない様子でそう付け加えた。
「それにしても、凄い荷物だな……どれ、少し手伝おう」
 光輝はファビオの背中の荷物を見遣ると、パートナーに視線で促す。
「……仕方ねぇな」
 光輝の眼差しに渋々といった様子で、ライナスはファビオの背中から荷物を受け取った。
 勿論、光輝もそれを手伝う。
「ありがとうございます! 正直重かったんで……すっごく助かります!」
 恐縮しながらも嬉しそうにファビオが二人に頭を下げた。
「この荷物、何が入ってるの?」
 不思議そうに荷物を見てから、アルヴィンが首を傾けてファビオに視線を向ける。
「大道芸の道具です! 村で披露しなきゃいけないんで」
 ファビオが少しバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「ファビオの得意な芸って、何?」
 リディオが重ねて尋ねる。
「俺が得意なのはジャグリングです! 俺、道化師になりたかったんですよ」
 瞳をキラキラさせて、ファビオは愛おしそうに荷物を撫でた。
「夢で食っていくのって難しいよな……」
 そんな彼を見て、徐ろに口を開いたのはルドルフだった。
「けど、目指していたコトとは違っても、一人前に仕事して成功したファビオは偉いと思うぜ?」
 穏やかな口調でそう言うと、軽くファビオの肩を叩く。
「うん、何にも恥じる事は無い」
 そんなパートナーの言葉にうっかり感動してしまいながら、ライが大きく頷いた。
「俺達も協力するからさ! 偽らずに……本当の自分を、親御さんに見て貰った方がいいんじゃないかな?」
 二人の言葉に、ファビオはパチパチと戸惑うように大きく瞬きする。
「……夢を絶対叶えると、大口叩いて出て来ちゃったんで、俺……」
 『難しいかも』と弱気に眉根を下げる。
「けど、お前さん……嘘を吐いたとして、その先考えてるのか?」
 光輝は真っ直ぐにファビオを見て口を開いた。
「仮定として、嘘を信じられたら……お前さん、もう本当に御両親に自分の努力の結果を味わって貰えんぞ」
「そ、それは……」
 ますますファビオの眉根が下がり、迷うように俯く。
「ラーメン職人としてお店を持ってるって、並大抵じゃ出来ない事だし、誇れる事だと思うけどな」
 アルヴィンはファビオと視線を合わせて、きっぱりとそう言った。
「そうよ。合わす顔がないなんて、考えなくていいと思うわよ」
 アルヴィンの言葉に頷いたスウィンが、優しくファビオの背中を撫でる。
「ラーメン作りを恥ずかしい事だと思ってんの? 違うでしょ?」
「違います! 俺、師匠に店を任せて貰えて……本当に嬉しくて!」
「うんうん! 店継げるくらい旨いラーメンを作れるなんて凄いじゃない!
 自分が作ったラーメンを食べて貰いたい……その気持ちをそのまま伝えればいいわよ」
「スウィンさん……」
 ファビオの瞳に光が揺らいだ。
「俺達も協力するからさ! すっげー美味しいラーメン食べて貰おうぜ!」
 その彼の肩を撫で明るい笑顔を向けて、ライが『な?』と首を傾ける。
「あぁ、そのための準備もしてある」
 セイジは力強く頷いて、己とランスの持つ荷物を示した。
「ラーメン作る材料を持って来たんだ。ちゃんとファビオの店のものだぜ」
 セイジの言葉を補足して、ランスがにこやかな笑顔を見せる。
「店に行って、偶々会ったファビオの師匠さんに頼んで分けて貰ったんだ」
「セイジさん、ランスさん……!」
 ファビオの涙腺が崩壊した。
「あらら……こんなとこで泣いてどーすんの!」
「おっさん、泣かしてんじゃねぇよ!」
「わわっ、泣かないで、ファビオ!」
「俺が抱きしめて慰めてやろうか?」
「ッざけんな! ルドのケダモノ!」
「どうしよう、セイジ。泣かしちゃったよ」
「……どうしようと言われても……参ったな……」
「ハンカチ、ハンカチ……」
「アル、これ使って」
 スウィンが慌ててファビオを落ち着かせるように彼の背中を撫で、アルヴィンがリディオから受け取ったハンカチを渡す。
 ライはルドルフからファビオを守るように、その前に立ち塞がった。
 セイジはどうしたものかと難しい顔をして、ランスもまた、どうやってファビオを笑わせようか真剣に考えている。
「皆さんの……優しさが……染み過ぎ、ますッ……!」
 ファビオはハンカチを握り締め、肩を震わせた。
「これ、食えよ」
 徐ろに、ライナスがポケットから棒付き飴を取り出し、ファビオの口へ突っ込む。
「むがが?」
 驚きでファビオの涙が止まってしまった。
「やっぱり、甘いものは世界を救うな!」
 ニカッとライナスが満足そうに笑う。
 それに釣られるように、一同は顔を見合わせあって笑い合ったのだった。


●3

 一行は順調に街道を歩き進んでいた。
 ファビオが出発時に言った通り、山の中の獣道と言っていい程に街道は狭く、左右は鬱蒼とした木々に囲まれている。
 道の舗装などは当然されておらず、でこぼこした道が続いていた。
 しかし、その道を歩く足取りは軽い。
 ファビオは、『もう嘘を吐くのは止める』と一同に約束した。
 その彼の勇気に応えるためにも無事に送り届けると、皆が一様にそう心に誓っている。
「皆さん、もうそろそろで……前に狼の群れに出会った所に着きます」
 ファビオのその言葉に、一行の間に緊張が高まった。
「ファビオは狼が出たら後ろに下がってね」
「分かりました!」
 ライの言葉に深くファビオが頷く。
「……相良」
 ライナスが瞳を鋭いものへ返ると、パートナーに視線を送った。
「おいでなすったか」
 光輝の言葉に応えたかのように、周囲から低い獣の威嚇するような唸り声が聞こえてくる。
「行くぜ、おっさん!」
「頼りにしてるわよ、若者」
 スウィンとイルドが前に出て、隙無くウィンクルムソードとロングソード『ギル』を抜いた。
「リディ、俺が前に出るから、後ろから援護してくれる?」
「OK。アルは安心して戦ってくれていいよ」
 リディオはリボルバー拳銃HS・ホームガードM6を手に、安心させるようにアルヴィンへ微笑んだ。
「ランス、俺が前に出るから、後ろから魔法攻撃を頼む」
「無理しないでね、セイジ」
 ランスはセイジの背中を心配そうに見つつも、マジックスタッフ『ダークブルー』を手に魔法の準備に入った。
 陽炎のように揺らめきながら、無数のデミオーガ化した狼の影が周囲に現れる。
 光輝は素早く狼達を観察すると、ライナスへ向けて囁いた。
「ありゃすばしっこい相手だろうな……坊主、逃げ道、避け幅を潰す様攻撃してくれるか?」
「おう! 問題ないぜ!」
「頑張って来いよ?」
「任せとけって!」
 ライナスがマジックブック『目眩』を手に飛び出す。
「俺達も行くぞ」
「怪我すんなよ」
 ライの言葉にルドルフは口の端を上げてから、狼へ好戦的な視線を向けた。
「来いよ! お前らの相手は、この俺だ!!」
 ライの咆哮のような一声に、ビリッと空気が震える。
 大地を蹴り、数匹の狼がライへ向かって襲い掛かった。
「待ってたぜ!」
 ライの瞳が煌めくと同時、その身体が素早く回転する。
 ハードブレイカーの攻撃技であるトルネードクラッシュ。
 ベク・ド・コルバンが、飛び掛ってきた狼達を悉く撃ち落とし吹き飛ばしていく。
 その猛攻に、僅かに狼達の動きが鈍った。
 ライナスはその隙を逃さない。
「これでも喰らえ!」
 マジックブックに魔力が漲り、狼達へその魔力を開放した。
 それは、困惑と錯乱の魔法。
 狼達は逃げる事を忘れ、その場へ釘付けとなる。
「ライナス、ナイス!」
 イルドは立ち尽くす狼の間へ突進すると、剣を振りかぶった。
「おら、吹っ飛べ!」
 トルネードクラッシュの高速回転で、狼達を次々と倒していく。
「逃げられないよ!」
 イルドの攻撃から辛うじて逃れた狼は、次々とリディオの銃で撃ち抜かれていった。
 ライナスの魔法を逃れた狼達は形成不利を悟り、探るように周囲を見回す。
 その視界に入るのは、最もこの中で力がないと思われるファビオの姿だ。
 迷わず、狼達はファビオへ向かって走りだす。
「そっちは行かせないって~の!」
 素早くスウィンが、その前に立ち塞がった。
「ファビオ! 下がってて!」
 同じくアルヴィンが、狼達へ剣を一閃してファビオを守る。
「数が……多い!」
 ライもまたファビオの前に出つつ、狼の数の多さに眉根を寄せた。
「しかし、確実に数は減らしている」
 セイジは勇気付けるように力強くそう言い、剣を振るう。
「このまま、押し切ろう」

 その時、思いもよらない方向から、悲鳴が響き渡った。


●4

「父ちゃん、母ちゃん!?」
 真っ青になったファビオの悲鳴のような声が響く。
 彼の視線の先には、一組の夫婦の姿。
 狼達がその夫婦へ気付き、飛び掛かろうと動き出していた。
「させるかよッ!!」
 いち早く事態に対応したのは、ランスだった。
 走り出しながら、詠唱を終えた魔法を解き放つ。
「燃えろッ!!」
 魔法エネルギー弾の強烈な一撃が狼達を飲み込んだ。
 しかし、それだけでは終わらない。
 狼達は、無力なファビオと夫婦へ目標を絞り始めている。
 ランスは息を切らし、夫婦の前へ滑り込んだ。
 その彼へ狼達が飛び掛かる。
「ウィザードを舐めんなよッ」
 杖は魔法を唱えるためだけの物じゃない。
 ランスは杖を打撃武器として、狼達を迎え撃つ。
「無理するもんじゃないぜ!」
 そこへライが滑り込んで、ランスと共にベク・ド・コルバンで狼達を攻撃した。

「ランス!」
 セイジもまた全速力でそちらへ走りながら、懐から小瓶を取り出す。
「当たれッ!」
 ランス達へ群がる狼達へ向け、小瓶を投げ付けた。
「任せて!」
 狼達の頭上へ小瓶が到達した瞬間、リディオの放った銃弾が小瓶を撃ち抜く。
 割れた小瓶から酢の雨が降り注いだ。
 強烈な匂いに狼達がのた打ち回る。
「今だ!」
 ライとランス、二人の猛攻で狼達が無力化していく。

「こっちも負けてられないわね!」
「傷一つ付けさせないからな!」
 スウィンとライもまた、ファビオへ群がろうとする狼達を次々と斬り倒していた。
「チッ! 痛いわね……!」
 狼の爪が僅かに左腕を掠り、スウィンの動きが一瞬鈍る。
「このクソイヌ!」
 そこへイルドが素早く割って入ると、狼を一閃した。
「年か? ばててんじゃねーよ」
「悪かったわね!」
「仕方ねーから、守ってやるよ」
「……ありがと!」

「坊主、こっちだ!」
「逃がさねーから!」
 一方、ライナスは逃げようとする狼達を止めるべく、光輝の指示に従って奮闘していた。
 ここで逃しては、この街道に平和は訪れない。
「こちらにもお見舞いしておこう! ……頼む!」
「OK!」
 セイジがそこへ酢の小瓶を投げ、リディオが瓶を撃ち抜く。
「貰った!」
 匂いで弱った狼をアルヴィンが確実に仕留めていった。

「これで……終わり!」
 最後の狼をイルドが斬り倒して、街道へ静寂が戻った。
 それぞれ獲物を下ろし、深く息を吐き出す。
 険しい戦いだったが、デミオーガを倒しきったのだ。

「……父ちゃん! 母ちゃん!」
 静寂を破ったのはファビオの声。
「ファビオ!」
 駆け寄ったファビオは、強く両親を抱き締める。
 三人は声を上げて、互いの無事と再会の喜びに涙を流していた。
 一同は、温かな気持ちでそれを見守ったのだった。


●5

「また怪我してんのかよ! バカ!」
 ライはルドルフに駆け寄ると、涙目で彼の怪我の様子を確認する。
「うっせ。かすり傷だ、かすり傷」
 ルドルフの言う通り大きな怪我はない事を確認すると、ライは安堵の息を吐いた。
「けど、傷口からバイ菌が入るといけないから、ちゃんと治療を……」
 そこまで言って、ライはハッとする。
「も、もしかして……俺の介抱が良すぎて癖になってんじゃねーだろうな!」
「…………」
 ルドルフは生暖かい笑みをライに返してから、
「……お前こそ、俺の治療するのがクセになってんじゃね?」
 そう耳元へ囁く。
「バッ……そんなわけねーし! ありえねーし!」
 真っ赤になるライをニヤニヤ眺め、ルドルフは実に満足そうである。

「坊主、よくやったな」
「俺に任せてれば、大丈夫だったろ?」
 光輝に褒められたライナスは満面の笑顔を見せ、ポケットから棒付き飴を取り出して咥える。
「そうだな。大したもんだ」
 そう言いながら光輝は、村に付いたら、褒美がてら何かお菓子を買ってやろうと密かに考えていた。
 ファビオに聞けば、村の名物お菓子など教えて貰えそうだ。
 ライナスの好きな甘いお菓子を、沢山買おう。

「おっさん、怪我見せてみろよ」
 イルドは仏頂面で、スウィンに傷を見せるように促す。
「平気平気。かすり傷だってば」
 しかし、スウィンはニコニコするばかりで一向に傷を見せようとしない。
「いーから、見せろ!」
「い、イタタ! 引っ張ると痛いってば~」
「素直に見せないからだ。手当てすっから、動くんじゃねーぞ」
「大袈裟ねぇ……」
「黙ってろ」

「リディ、お疲れ様。助かったよ」
「アルもね」
 アルヴィンの労いの言葉に、リディオは瞳を細めて頷く。
「……リディ、その手……」
「あれ? いつの間に」
 リディオの手の甲には、爪で引っかかれたような傷が出来ていた。
「痛くない? 応急処置するから、少し我慢してて!」
 リディオの手を取りアルヴィンは慌てるが、リディオ自身は笑顔のままだ。
「全然痛くないよ。アルに触れられたから、もう平気」

「ランス、助かった……本当に有難う」
 セイジはランスへ頭を下げていた。
「何で頭を下げてんの?」
 ランスは目を丸くして慌てる。
「あの時、ファビオのご両親を助けてくれなかったら、どうなっていたか……」
「あれは、セイジのお陰だろ? セイジ、言ってたじゃないか。
 『ファビオのご両親が心配で見に来てしまうこともあるかも』って。
 あの言葉があったから、俺、周囲に気を付ける事が出来たんだよ」
 そう笑顔で言い切り、ランスは笑った。
「酢にも助けられたし。皆が、セイジが無事でよかった」


●6

 プランタン村に着き、ファビオは真剣な表情で両親と向い合っていた。
「俺、父ちゃんと母ちゃんに言わなきゃいけない事がある」
 ファビオの背後では、一同が固唾を飲みその様子を見守っている。
「俺……俺、大道芸人にはなれなかった!
 けど、今は他に大事な事があって……俺、ラーメン職人になったんだ。
 師匠から店を譲り受けて……タブロスでラーメン店をやってるんだ!」
 叫ぶような告白の後、数秒の沈黙が流れ、
「知ってましたよ」
 母が穏やかにそう言った。
「へ?」
 ファビオは目を白黒させる。
「お前がどうしているか、常に気に掛けてた。タブロス市から来る商人に、お前がラーメン店の店主になってると聞いていたんだ」
 父が微笑みそう告げる。
「……うそぉー!?」
 ファビオはへなへなと力が抜け、その場に座り込んだ。
 そして頭を抱える。
「俺、超恥ずかしい……!!」

「親程自分の子の事が分かる人は居ないからねぇ……」
 光輝の言葉に、一同は深く頷いたのだった。


「どんどん食べてくださいね!」
 それから。
 セイジとランスが持ってきた材料で、ライとルドルフに手伝って貰いながら、ファビオはラーメンを作った。
 出来上がった心をこめた自慢の一品は、両親と一同に振る舞われる。
 その美味しさに一同は舌鼓を打った。

「大道芸人もラーメン職人も俺には縁の無い仕事だな」
 ラーメンを食べながら、セイジがぽつりと言う。
「歴史が好きだから歴史学者になりたかった時もある。
 けど……ある事件があって、将来は治安維持関係に就きたいと思ったな」
「治安関係?」
 ランスが首を傾けると、セイジは頷き、
「警察官や軍人、だよ。対オーガの活動も治安維持には違いないな」
 そう言ってスープを飲んで微笑んだ。
「ランスは将来の夢とかはあるのか? 偶にはご両親に無事な顔……見せてやれよ」
 ランスにはそんなセイジが淋しげに見えて……でも詳しくは聞けない。
 何時までも、その表情が忘れられなかったのだった。


「本当に、有難う御座いました! 俺、今日の事は一生忘れません!」
 ファビオはぺこりと大きく頭を上げる。
「よかったら、今度タブロスの俺の店にも是非来てください! 大サービスしちゃいますからっ」
 輝くような明るい笑顔で、ファビオは皆と握手を交わしたのだった。


Fin



依頼結果:大成功
MVP
名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 03月20日
出発日 03月25日 00:00
予定納品日 04月04日

参加者

会議室

  • [9]ライ クロスロード

    2014/03/24-23:58 

    うん。
    親御さん、きっと分かってくれると思うし…
    依頼者が説得に応えて貰えるように俺達もはじめの方で声かけしてみた。

    成功すると良いな。
    がんばろーぜ!(にっ)

  • [8]スウィン

    2014/03/24-23:07 

    出発前に説教…つーか説得。ただし他の人に合わせてタイミングは臨機応変で。
    って感じでプラン書いたわ。ぎりぎりまで修正はできるわよ。頑張りましょーね♪

  • [7]ライ クロスロード

    2014/03/24-20:54 

    ・方針
    そうだね。
    きっと、ご両親もわかってくれるよな。
    一人前になるって大変な事だし、それだけで凄い事だしな。

    ・『正直に今の自分を伝える事』ように話をするタイミング
    そうだな。戦闘前(A)でもいいと思う。

  • [6]アキ・セイジ

    2014/03/24-10:36 

    アキ・セイジだ。

    俺も正直なのが一番だと思う。
    説教は他にする人がいるようだから、俺は彼のご両親と話そう。
    今の彼を見せて認めてもらう為に、ラーメンの麺や具材の用意もするよ。
    食べてもらうのが一番だろ?(笑

    戦闘ではデミウルフの優れた嗅覚に対し「酢」でダメージを入れる(酢の入った瓶を持ち投げるマネ
    俺達には平気でも狼や犬には辛いんだよな。戦闘力半減…ってところかな(苦笑
    あとは剣での攻撃を予定している。

    ではよろしく。

  • [5]スウィン

    2014/03/24-02:07 

    2で考えてよさそうかね? で、悪い。「戦いに参加した後説教」って書いてたけど
    よく考えたら説教は出発前でもいいかもって思ったわ。
    「A→街道へ行って戦闘→B→村まで付き添って見届ける」なら、
    説教のタイミングはA・Bどっちがいいかねぇ?

  • [4]相良・光輝

    2014/03/24-01:30 

    おう、顔出しが出発当日ですまんな、相良ってもんだ

    まーそうだねぇ、2、かな。
    騙そうといつかはばれるからね、正直が一番さね

    うちの坊主はあんま芸とか出来ないしなぁ、手伝いももちろんするが逃げないよう追い込むほうに全力注がせてもらおうかね

  • アルヴィン=ハーヴェイだよ。
    リディオ共々よろしくね。

    んー、オレとしては2って感じかなぁ。
    騙し切れるかなって気もするし、本当の事を打ち明けた方が良いんじゃないかなって。
    …まあ、お手伝いし様にもそっち方面はからっきしだからねぇ。

  • [2]ライ クロスロード

    2014/03/23-00:39 

    ライ クロスロードだよ。
    相棒のルドルフ共々よろしくね?

    スウィンは方針を分かり易く書いてくれてありがと(ぺこ)。
    んと……俺、まだ2か3で迷ってる。

    嘘には嘘を塗り固めることになるしさ、
    できれば2で、今の自分を正直に伝えて欲しいなって思うけど……
    親が「夢を叶えるまで帰ってくるな!」って雰囲気なら厳しい気もするし;

    もうちょっと考えてみるよ。

  • [1]スウィン

    2014/03/23-00:13 

    スウィンよ、よろしくぅ。
    まずは皆がどういう考えなのかを知りたいわね。

    1.戦いだけ参加する
    2.戦いに参加した後、ファビオにお説教して更正させる
    3.戦いに参加した後、ファビオに協力する
    4.その他

    のどれかね?おっさんは2か3のどっちでもいいかねぇって思ってるから
    ある程度合わせられると思うわ。


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