【七色食堂】事故はレモン風味でやってくる(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 誰が呼んだか『虹色食堂』。
決して広くはない店内は、正しく虹色に染め上げられ、賑やかにテーブルを飾るメニューも豊富。
その、豊富なメニューの一つ一つを極めた店が、タブロス市内に点在しているという。
 誰が呼んだか、『七色食堂』。
目立つ事の無いその店は、今日も店先で七色のベルを鳴らす。

* * * * * * * * * *

誰が呼んだか『ぴよ食堂』もとい七色食堂『イエローバタフライ』は本日、少人数限定の試食会を開催していた。
以前お世話になったということで、事前にA.R.O.Aに配られた招待状を自主的にもらってきたウィンクルムの姿もチラホラ。

店内の各テーブルには色とりどりの(いや厳密に言えばほぼ黄色一色なのだが)料理やデザートが並んでおり
自ら選んだコースのものを自由に取って食べるビュッフェ形式になっている。
少人数制のおかげで特に動線の歩きにくさは無く、足元に注意せずともスタスタと、

 ぴよ

スタスタと……

 ぴよぴよ

…………?
足元をヒヨコが当たり前のように闊歩しているではないか。
へいマスター。どういうことだい?

「あ!?も、申し訳ございません!いつの間にかケージから出てしまいましたか!」

 慌ててひよこをすくい上げながら、集まる視線に気まずそうに説明する店主。

「実は、以前デミ化しかけたヒヨコが私に刷り込みをしてしまって……A.R.O.Aの方へ持って行かせて頂いたんですが。
 元々は卵の状態で浴びた瘴気でしたし、その後暫くしたら瘴気が抜けて、特にもう問題はないと連絡を頂いたんです」

 そのヒヨコが何故今ここに?

「その……刷り込みは残ったままでして……私を探してずっとピーピー鳴いていたそうで。
 瘴気の影響か少し発育が遅いみたいですし、なら大きくなるまで此方で育ててもいいかと思いまして」

 なんだかんだ、ヒヨコを撫で可愛がっている店主。
こんな可愛ければ情も移るよね。

「衛生上、いつもはケージに入れて店の目立たない所に居るんですが。ええ、お客様も食事後、戯れたりするのが楽しいらしく。
 スイマセン、開店前に閉めたケージの扉が緩かったようですね……」

 謝罪しながらケージへ戻しに行こうとする店主を、誰かしらが止めた。
ビュッフェは立食形式でヒヨコに邪魔されるなんてことは無いし、今日くらい自由に歩き回っていても気にしないよ、と。
参加者のほとんどが笑顔で頷いた。
パッと顔を明るくする店主。お言葉に甘えましてっ、といそいそゲージを開きにいった。

 ぴよぴよぴよ~~~♪
  ぴよぴよぴよよ~~~♪

うん?意外と多いなっ。
マスター、数匹じゃなかったっけ刷り込まれたの!
視線を逸らす店主。
……引き取り手が無かったコももらってきたな。
まぁいいか。足元気をつけてれば食べるのに支障はないし。

しかして。
おいしい料理とパートナーとの楽しい会話。
時間が経てば足元への注意もおそろかになっており……

「うわ!?」

 他の料理を取ってこようと歩き出した瞬間、踏み出したまさにその真下にヒヨコが飛び込んだのを
咄嗟にかわそうとして足がもつれた。

 (むちゅ) ズダーン!

「お客様!大丈夫ですか!?」

 慌てた店主や他の参加者が覗き込む。
どうやら転んでしまったようだ。
………ん……?
何か……転ぶ前に口に柔らかい感触がしたよう、な……
ふと見ると、パートナーの顔が赤い。熟しきっている。
   !???

かくして事故は起こったのであった。

解説

●ラブハプニング発生!その時アナタは?

事故のチュウです。事故です、あくまで事故です。
親密度や日頃の関係が、リアクションに大きく影響するでしょう☆

基本、チュウ(キス)しちゃうのは精霊様とします(身長的に無理ないシチュエーションということで)
どうしても神人様がしちゃいたい!という場合は、工夫してプランにお書き下さい。
以下、プランにご記載があると助かるコト。

・チュウされた・しちゃった箇所一点。
 おでこ?頬?それとも……?

・チュウした・された、それぞれのリアクション。
 大変個性が分かれそうですね!楽しみです☆

※注意:上記2点は、それまでの関係や親密度数値によっては、GMの方で少々変更して描写されてしまう場合がございます。
    ウィンクルムとしての現在の関係性を、充分考慮されてご記載頂くことをオススメ致します。
   (とはいえ事故ですからネ☆余程無理が無ければ、ほぼそのまま採用する予定です)

・ビュッフェコース
 お好みのコースをお選びいただき、楽しく食べている様子をお入れ下さい。
1.主食コース:一組【500Jr】
        オムライス、チャーハン、南瓜のポタージュ、コーンの蒸しパン等
        黄色っぽい料理ならお好きに料理名を上げて頂いて構いません。
2.デザートコース:一組【300Jr】
        柚とレモンのシャーベット、チーズケーキ、アップルパイ等
        黄色っぽいデザートなら以下略。
3.フルコース:一組【700Jr】
        主食とデザート、全てお好きに選んで食べられます☆


ヒヨコたちに悪気は全くございません。許してあげてくださいピヨ。


ゲームマスターより

錘里GM主催【七色食堂】、お久しぶりです、黄色クレヨンですぴよ。

ごめんなさいまたやりたかったんです蒼色クレヨンですお世話になっておりますう!!(ペコペコ!)

事故チューは乙女的王道だと思うんです(キリッ) ←偏見

ジャンル:コメディ となってますが、勿論シリアスやロマンスでも美味しくいただかせてもらいます☆

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  フルコース

南瓜のポタージュとチーズケーキという甘めの組み合わせ
ですが美味しくて幸せです…!
お互いに、少しあげたり貰ったりします。

ひよこさん達に気をつけないとですね…
踏んづけてしまわないように。
あ、カガヤ、早速足元に気をつけて…
!?

・チュウされる側
箇所:唇
(唇に手を当てて、顔を真っ赤にしています)
カガヤだいぶ慌てていますね…

「き…気にしないで下さい!
…その…わたくし、嫌じゃありませんでしたから……」
何故もっと素直な物言いが出来ないのでしょう…!?

カガヤの服の裾を掴んで
「あの、嫌じゃない…じゃなくて…寧ろ嬉しかったと…いうか…(段々小声)」
他の方も居る中でこれ以上は恥ずかしくて言えません…



テレーズ(山吹)
  デザートコース

額に何か当たったような…
いえ、ような、ではなく当たりましたね
お気になさらず、事故なのは理解していますから
立ち話もあれなのでと食べ物確保して座席へ

美味しいですねと会話を続けつつも
ところで先ほどの事ですがと切り込む
先ほども言ったじゃないですか、立ち話もなんですからと
で、どうでした?ドキドキしたりしました?

それ、してるのは私の方ですよね
必要だから行っているという面もありますが無感情に行えるものではないですよ
場所はどこであろうとキスですもの
…まだまだ先は流そうですね

とりあえずは口とかではなく額でよかったと思いますよ
口は特別な場所ですから
事故ではない状況下でのキス、憧れますよね?


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  デザートコース
レモンタルト食べながらレムの視線を感じる
気になるなら、レムの分取ってこようか?

立ち上がったら後ろから腕を取られ
気が付いたら床に倒れてて、目の前にレムが…しかも何か、口に当たったような
じ、事故チューってやつかしら…あたしなんでこんなに動揺してるの
キスなんて、初めてってわけでもないのに
…え!?レム、そうだったの…ごめんなさい
う、奪っちゃった…
だって、お互いいい年だしとっくに済ませてるものかと…
どうして慣れてるはずのあたしの方が恥ずかしがってるのかしら

立ち上がって席に戻る
さっきからレムが不機嫌に見える…そんなに嫌だった?
違うの?じゃあどうして…

背中を見送り考える
嫉妬だったら、嬉しいな…



織田 聖(亞緒)
  食事:フルコース

●心
試食会…!ワクワクする響きです、ね。
食べたいものがいっぱいです…!(ウキウキ)

●食
ピヨちゃんに和みつつ、オムライス等むぐむぐ。
良き食べっぷり。
「美味しいですね、亞緒さん」幸せそうに。

「あ、私も行きます、よ」と言うも
『聖さんは召し上がっててください』と微笑まれ、言葉に甘え。

●チュウ
亞緒の足元にぴよちゃん見つけ
「亞緒さん、危な……」
つい駆け寄ろうとし、キス
「……!!」
顔真っ赤。

「だだだ大丈夫です、よ…!ぴぴぴぴよちゃんも、亞緒さんも、デザートも、ご無事で何よりです、ね……!」
ドギマギし、動きがカクカク。
今度は聖が転びそうに。

自然と繋がれた手の柔らかさに心が落ち着き
気遣いに微笑



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  ヒヨコちゃんが可愛いですね。
食事の前にもふもふさせてもらいます。
「ふわふわで可愛いですね」笑顔。
手をよく洗って、食事スタート。

【フルコース】で。
オムライスをいただきます。卵料理、好きなんです。
とろーり半熟卵がチキンライスの上にふんわり広がっているのが至福です。
「ミュラーさんと一緒だといつもより美味しい気がします」
にこにこにこ(結構単純)。

デザートはアップルパイが良いかな…余裕があったらアイスも食べたいな、って考えてて。
まさかミュラーさんに押し倒される事になるなんて?
むぎゅう。重いです。
って頬に頬に!
頭の中真っ白になって、くち、ぱくぱく。
大丈夫かと聞かれ頷いたら。
まさか!
顔から火が噴きそうです。



 お日様色のテーブルクロスの上に、クリーム色のお皿や半透明色のケーキスタンドたちが
各々の黄色料理を乗せている。
頬を綻ばせ、ウィンクルムたちはパートナーと、仲間と、楽しくも緩やかな時間を過ごしていた。
………はずだった。

ぴよぴよぴよ

幸か不幸なるささやかな衝突をヒヨコが招く。
はたまたそれはウィンクルムたちの絆にヒヨコが招かれたのだろうか――。


「南瓜のポタージュとチーズケーキという甘めの組み合わせ。ですが美味しくて幸せです……!」
「チャーハンとしゃっきり柚とレモンシャーベットの組み合わせが美味しい!」

 手屋 笹とカガヤ・アクショアは、ほぼ同時に感嘆の言葉を発して顔を見合わせた。
どちらからともなく、クスッと笑う。

「笹ちゃん、チーズケーキ一口ちょーだい」
「いいですわよ。じゃあカガヤのシャーベットも下さいな」
「って笹ちゃん!?シャーベット半分くらい取ってない!?」
「き、気のせいです」
 
 もぐもぐ。
あげたり貰ったりし合いながらほのぼの会話する。
その足元を時々通る黄色い物体に、笹が目を留めた。

「ひよこさん達に気をつけないとですね……踏んづけてしまわないように」
「うん。かわいいけど踏んじゃわないかちょっと怖いね……気をつけるよ。まあ、多分俺、笹ちゃんで慣れてるから大丈夫だと思うけど」
「カガヤ?今なんて?」

 それは小ささに? 愛らしい笑顔に迫力が加わった。
カガヤ、『あ』と冷や汗垂らしながらにっこり誤魔化す。

「ほ、他の取ってこよっと……!」
「もう、調子がいいんですから」

 息をつき視線が下がった笹は、カガヤの足元のぴよぴよ行進にすぐに気付いた。
逆に焦りが入ったカガヤは、もうヒヨコへの意識が薄くなっていた。

「カガヤッ、早速足元に気を付け……」
「あ」
「!?」

 危ない!(ヒヨコさんが)
笹は咄嗟に倒れ込むカガヤの服をぐいっと引いた。
カガヤの体が僅か笹の方へ反転し……
ドター!

「わ!笹さんカガヤさん、大丈夫ですかっ?」

 傍で料理を取っていたテレーズが思わず声をかけた。
カガヤの体を支えられるはずもなく。巻き込まれ一緒に倒れた笹の上から、カガヤは声に弾かれ慌ててどく。

「ごっ、ごめん笹ちゃん!大丈夫!?怪我は……」

 そこまで言って異変に気付く。
何故か唇に手を当てた笹のその顔は、真っ赤になって呆然としていたのだ。
その表情を見た瞬間、己の唇へ触れた柔らかい感触がカガヤの頭にぶわっと思い起こされた。

「あれ……い、今の……?え、え、え、えええええ!!」

 店内に声が響き渡る。
カガヤのあまりの動揺っぷりに、笹の方が何とか先に平静を取り戻し始めた。
(カガヤだいぶ慌てていますね……)
笹から見てもやや気の毒な程に。
しかし、見知った仲間からの心配する声がけに、カガヤもどうにか周辺へと騒がしくした謝罪を述べるまでに落ち着きを見せる。
そうしてから、再び笹へと向き直り。

「えと……ご、ごごごめ、笹ちゃん……!」
「き……気にしないで下さい!……その……わたくし、嫌じゃありませんでしたから……」
「えっ……それなら良かった……けど」
 
 直球で言われ聞かされすれば、やはりまた双方の心中を波が押し寄せた。

(何故もっと素直な物言いが出来ないのでしょう……!?)
(恋人とかでもないのに唇かすっちゃったのに……俺が思っているよりは笹ちゃん気にしてなかったのかな……?)

 つい恥ずかしさを誤魔化したくて出た言葉は、カガヤの胸の内に寂しさを感じさせていた。
それはほんの一瞬のかげり。不信感を抱いていた最初の頃なら、カガヤのその変化に気付かなかったかもしれない。
しかし今の笹にはすぐに気付くことが出来た。
カガヤの服の裾をそっと掴む。

「あの、嫌じゃない……じゃなくて……寧ろ嬉しかったと……いうか……」
「嬉しかった……?」

 後半どんどん小声になる笹の言葉、漏らさぬよう耳をピンと立てカガヤは見つめた。
やり取りが気になって耳をそばだてていたテレーズを、山吹が強制撤収させるのをそっと横目で見ながら。
(他の方も居る中でこれ以上は恥ずかしくて言えません……)
それでも、この優しい人に誤解されたくなくて。

――こんな事思っても良いのかな……
俺も……ほんとはちょっと嬉しかったなんて……――

まだ服の裾を掴んだままの笹に、カガヤの新緑の瞳が細められるのだった。


 好奇心旺盛なテレーズの背中を押すように移動していた為、足元への注意が疎かになった精霊がここにも一名。

(額に何か当たったような……いえ、ような、ではなく)
「当たりましたね」

 頭で確認した後すぱんっと告げられた事実。
転ぶ際、テレーズを巻き込むことはどうにか避けられたが、それでも完全ではなく
自身の口がテレーズの額にしっかりくっついたのは誤魔化しようもなかった。
山吹は慌てて立ち上がって謝罪を述べる。

「申し訳ありませんテレーズさん……」
「お気になさらず、事故なのは理解していますから。それに立ち話もあれなので」

 いくら日頃温和で冷静な山吹といえど、突発的な事故に気恥ずかしさと気まずさは隠せず戸惑いを見せる。
だが肝心のテレーズは、あっさりとそれを流しお皿に食べ物を確保すると、山吹を空いている立食用テーブルへと誘う。
山吹はその特に気にした様子の無さに安堵を浮かべて、テレーズの後を歩いた。
しかして……その安堵は長くは続くことはなかった。

「美味しいですね」
「ええ、とても」
「あっ、テレーズさん達もいらしてたんです、ね。わあ!そのチーズケーキ、美味しそうです!」
「こんにちは、テレーズさん、山吹さん」
「こんにちは。亞緒さん」

 織田 聖の楽しそうな声に続いて、彼女のパートナー・亞緒が二人へ丁寧に頭を下げた。
にっこりと挨拶を返しながらデザートテーブルへ向かう背中を見送った後。

「ところで先ほどのキスの事ですが」
「っごっふ……!」

 テレーズからの突然の切り込み。太刀筋も見せず。
珍しくも盛大にむせた山吹の背中をテレーズは他人事のようにさすりながら。
どうしたのか、と視線で尋ねる山吹にテレーズの方が首を傾げ言葉を続けた。

「え?先程も言ったじゃないですか、立ち話もなんですからと」

 ああ。つまりゆっくり話す気満々だったのかと。本当にちゃっかりし出したなと遠い目になる山吹。

「で、どうでした?ドキドキしたりしました?」
「……普段からトランスなどでしている事ですから」
「それ、してるのは私の方ですよね」
「……」
「必要だから行っているという面もありますが無感情に行えるものではないですよ。場所はどこであろうとキスですもの」

 山吹、冷静を装おうとするもごもっともな反論受けつい黙る。
しかし正面で己を見据える彼女の瞳は真剣そのものである。答えぬわけにはいかない。

「確かに……そうですね。失礼しました。とりあえず私は、ドキドキしたというよりは、申し訳ない気持ちの方が強かった、と言いますか……」
「……まだまだ先は長そうですね」

 素直に伝えて、お茶飲んでは何とか落ち着こうとする。
山吹の言葉に乗り出していた身を少し引いて、テレーズは姿勢を正した。
山吹はテレーズの表情を窺った。
『まだまだ先は長そう』、とは……

「でも、とりあえずは口とかではなく額でよかったと思いますよ。口は特別な場所ですから」
「あの、テレーズさん……?」
「事故ではない状況下でのキス、憧れますよね?」

 以前の宣戦布告を受けてから、しばし平和な日々が続いていた為完全に油断していた。
まさかここでこう来るとは……。言外に『期待しています』、と笑顔で丸め込みにくる様子に、山吹の心に哀愁が満ちた。
――本当に誰に似たんだろう……

「まぁ、女性の唇を守れたのは私も良かったです」
「山吹さん!私のこと、女性、と意識して下さってます?」
「……テレーズさんは女性だと、最初から分かっていますよ?」

 直球と曖昧の、静かなる笑顔の攻防。
苦笑いを浮かべる中で、しかし山吹は思い至ってしまう。笑顔で丸め込む、それは自分の処世術ではないだろうか、と。
もしやテレーズをこのようにしたのは自分ではないだろうか。
これは自分に似てしまったのではないだろうか。
微笑を称えデザートを頬張るテレーズを見つめながら、山吹の心に何ともいえない複雑な気持ちが広がるのだった。


 今取ってきたばかりな気がするオムライスを、もうほぼ食べ終わりそうな織田 聖。
亞緒さんと試食会に行ける……!と、食べ物いっぱいにウキウキなのか亞緒と一緒でウキウキなのか。
恐らく両方で。数日前からこの日を楽しみにしていた。
乙女のウキウキは食欲に比例する、のかもしれない。聖のとても気持ちの良い食べっぷりに、少し目を丸くする亞緒だったが。

「美味しいですね、亞緒さん」

 幸せそうに見上げてくる笑顔に、自然と笑顔になった。
時折足下をぴよぴよ行くひよこにも、二人で同時に視線を向けて一緒に和んだり。
出し巻き卵やサフランライスなど、同じ物を食べ、美味しい喜びを共に堪能する。それはいつかの焼き芋のように。
そうしてある程度満たされてから、亞緒は空いた皿を片付けにいくついでにと聖に声をかけた。

「聖さん、デザート持ってきますね」
「あ、私も行きます、よ。さっきテレーズさんたちが食べていたの、美味しそうでした、し」
「チーズケーキですね。すぐ戻りますから、聖さんはゆっくり召し上がっててください」

 確かにデザートのテーブルまでそれ程距離は無い。
聖は優しい笑顔に甘えることにして、あと僅か残っていたスコーンをポタージュに付けてモグ。
微笑ましそうに一度見つめてから、亞緒はいそいそとデザートテーブルへ向かった。

ぴよぴ~

「うん?ほしい?」

 ヒヨコから視線を受け、ちょうど通りがかった店長に許可を得てから、聖はスコーンを細かくしてヒヨコにちょっぴりやったり。
可愛い……♪
そうしているうちに亞緒が戻ってきた。が――
手元のデザートを落とさぬように意識を向けていた故、亞緒はひよこの存在を一瞬忘れていた。
しゃがんでいた聖の視界には、亞緒の横から足下めがけヒヨコが駆け出す様子がすぐに発見出来る。無意識に体が動いた。

「聖さん、お待たせしまし……わっ」
「亞緒さん、危な……!」

 傾いた体を必死に立て直そうとする亞緒と、その体を支えようと飛び込んだ聖。

「……!!」

 二人の心臓が同時に跳ね上がった。
聖の額に亞緒の整った唇が、倒れ込む勢いで押し当てられたのだ。
幸い、踏ん張りを見せた亞緒と聖、双方の力のおかげで、二人で倒れ込む事態にはならかった。
が、片手にデザート皿死守、片手は聖の背中に回された手。
完全に亞緒に抱き込まれる形となった聖は、今起こったハプニングも相まってすっかり茹で上がっていた。

「ごめんなさい、聖さんっ。大丈夫ですか?おでことか痛くないですか?」
「だだだ大丈夫です、よ……!ぴぴぴぴよちゃんも、亞緒さんも、デザートも、ご無事で何よりです、ね……!」

 ケガは無さそうだがご無事じゃなさそうな聖さんの様子に、亞緒の口下が思わずふより、と上がった。
申し訳ないと思いつつも、こんなに動揺した聖を見るのが珍しくどこか嬉しい気持ちがあって。
しかしてあまりに赤面し動きがカクカクしている様が伝染して、亞緒も照れくさそうに言葉を返す。

「……トランス時の気持ちが少しわかりました……って、聖さん!?」
「わわ……!」

 もう大丈夫で、す!と離れようとした瞬間、カクカクした足がもつれて転びそうになった聖を、
今度は亞緒が再びその背に手を回し支えた。
二度もその腕に閉じ込められれば早々頬の赤さは引くはずもなく。
どうにか落ち着いてからのデザート中も、ずっと火照った自身の頬を時々覆って気にする聖に、亞緒は自然と手を差し伸べる。

「……確かシャーベットもありました。一緒に取りに行きましょう」

 いつもの微笑みと与えられたぬくもりに、心音が緩やかになるのを感じた。
気遣う温度に、聖も自然と繋がれた手に力を込める。
亞緒さんとずっとこんな時間を過ごせたら……。そっと聖は思うのだった


 立食用テーブルで、まったりデザートを堪能しているのは、出石 香奈とレムレース・エーヴィヒカイト。
ごくごく平和に見えるその風景だが。
まじ……

(し、視線を感じるのは気のせいじゃないわよね?)

レモンタルトを食べながら、香奈はレムレースの意外な視線を何度目か確認した。
マンゴープリンが半分ほどで止まっている。

「気になるなら、レムの分取ってこようか?」

 今まさに 一口交換、と言いかけたレムレースだったが、香奈の言葉でビュッフェだったことを思い出した。

「いや、自分で取ってこよう」

 惜しい。見損じた(※天の声)
言ったが早いか、もう取りに歩き出そうとした香奈の腕を咄嗟にレムレースは掴んだ。
その時、後方から声が上がる。

「ぴっ!ぴよちゃん!そっちへ行ったらダメよ……!」

 立食に混ざる前にヒヨコと戯れていた 瀬谷 瑞希の手元から、遊んで興奮したヒヨコ1羽が飛び出し駆け出した。
ぴよぴよ素早く、香奈とレムレースの足下をちょろちょろする。

「あぶ、あぶな……っ」
「香奈……!」

 互いが互いの手を引いた。その瞬間……
ドタドシーン!
倒れ込んだ香奈を庇うように抱き留めたものの、結果押し倒すような体勢になりレムレースは急ぎ体を起こす。
気付けば一組、床どん発生である。そして起きたのは床どんだけではない。

(今、唇に何か触れたような気が……)

 レムレースを見上げ。香奈を見下ろし。二人の胸に同じ疑問が湧く。
思い至るのもほぼ同時。

「じ、事故チューってやつかしら……」
「……ああ。香奈、怪我は」
「だだ大丈夫よ。レムこそ平気?か、庇ってくれて、ありがとう」

 ――あたしなんでこんなに動揺してるの。キスなんて、初めてってわけでもないのに。
二人が立ち上がったタイミングで、瑞希が盛大に謝罪のお辞儀をしながら去っていくのを見つめ。
香奈の言葉と僅かな動揺で、レムレースはようやく状況を把握した。

「俺は初めてだ」
「……え!?キ、キス……?」
「ああ」
「そうだったの……ごめんなさい。お互いいい年だしとっくに済ませてるものかと……」
「……謝るな、別に惜しいものではない」

 立ち上がるのに貸されたままの、繋がれた手に引かれとりあえずテーブルに戻る香奈。
(う、奪っちゃった……)
過去レムレースがモテていた(本人にその自覚はないが)のを知っていたのもあり、キス経験済みだと先入観があったようだ。
(どうして慣れてるはずのあたしの方が恥ずかしがってるのかしら)
ハァ、と小さなため息をついたところで、正面から低い呟きが耳に入った。

「……お前は初めてではないんだな」
「レム?」
 
 首を傾げるものの、香奈から否定の言葉は出ない。レムレースの纏う空気が一段重くなった。
どうしてか、不機嫌に見えるレムレースの姿に香奈がおそるおそる声をかける。

「……そんなに嫌だった?」
「? 何故だ」
「何か……不機嫌そうに見えるから」
「嫌ではない、今のは事故だから気にしてない。いないが、不機嫌なのは当たりだ」
「違うの?じゃあどうして……」
「……何か取ってこよう」

 ハッキリと言葉にしないのがレムレースらしくなく、香奈は不思議そうにその背中を見送る。
その心に、微かな期待が生まれる。
(嫉妬だったら、嬉しいな……)
こんなふうに思ってはレムレースには迷惑かもしれないけれど。

香奈は知らない。レムレースのその心にもすでに何かが生まれていることに。
(何故、初めてが俺ではなかった)
仕方ないと分かっていても、苛立ちを制御するのは難しい。
先ほど香奈が食べていたレモンタルトの大皿の前で、眉間に皺を寄せる男一人。
――俺は香奈に奪われてばかりだ。唇も、心も……


「ふわふわで可愛いですね」
「ミズキ、もう逃がさないようにね」
「う……ご、ごめんなさい」

 先程捕獲したヒヨコを再び撫でもふる瑞希に、フェルン・ミュラーはにこにこ微笑ましそうに、いや、面白そうに突っ込んだ。
反省しながら、それでも手の平に乗るヒヨコが可愛くて。いつもより笑顔が多くなる瑞希。
(凄く嬉しそう。一緒に来て良かった)
立食前からすでに満ち足り気味のミュラーが居た。

「あ、ミュラーさんお腹がすいてるのにお待たせしてスイマセンっ」
「え?いや大丈夫だよ?」
「いえ、また後程触れ合えますし。立食、行きましょうか」

 ヒヨコを下ろし立ち上がれば「動物と触れ合った後はシッカリ手を洗わないといけないんですよ」なんて言う瑞希に、
頷きながら楽しそうな視線を送る。
(こういう部分はしっかりしてる。でもそれすら微笑ましいよ)

フルコース料理に瞳をときめかせ。まずはオムライスを美味しそうに頬張る瑞希。

「卵料理、好きなんです」
「俺も好きだよ」

 とても幸せそうに食べるその姿が、とミュラーの心の中で付け足されているとは露知らず。
オムライスの後には、チキンライスを取ってきながら瑞希は笑顔でミュラーに見せる。

「とろーり半熟卵がチキンライスの上にふんわり広がっているのが至福です」
「本当に美味しそうに食べるよね、ミズキ」
「ミュラーさんと一緒だといつもより美味しい気がします」

 にこにこにこ。
(どうしてくれようこの可愛いコ)
どうする気ですかミュラーさん(※天の声)
そんなどこかの葛藤知ることなく、デザートはアップルパイが良いかな……余裕があったらアイスも食べたいな、なんて
正しくビュッフェを堪能していた瑞希の顔に、電灯の明かりが遮られたような影が落ちた。
ミュラーがもっとよくミズキの表情見ようと移動した瞬間、足元から聞こえた『ぴよー!』の声。
咄嗟にかわすも、その足はもつれにもつれ……あえなく瑞希を巻き込み倒れ込むこととなったのだ。
(うん、足元の注意が疎かになった事は認めよう!)
倒れ込むコンマ数秒のその心中は、意外と冷静なようだったが。

「……むぎゅう。重いです……」
「うわ……俺も修行が足りないな。ミズキを巻き込んでしまうなんて……ごめんミズキ」

 もっと精進しなくては……と反省して瑞希の上から体を起こすミュラー。
更にその反省には続きがあった。

「あと、その、ここもごめんな?」
「え……」

 そっとミュラーは瑞希の左頬に人差し指で触れる。
瑞希の頭の中、数秒前の不思議な感触が思い出され、連想されるのに全く時間はかからなかった。

「っ頬に……頬に!」
「うん、大丈夫?」

 まさかチュウしちゃうとは思わなかったのはミュラーも同じで。
口をぱくぱくさせてパニック気味な瑞希を申し訳なさそうに見る。
しかしここで人とは違う方向へ思考がいくのがミュラーである。
思いもよらないミュラーの言動で、今まで何度も驚かされ慣れてきた瑞希であったが、さすがに次に起こることは
これっぽっちも予期出来ず……。
大丈夫?と聞かれたので、とりあえず条件反射で頷いた。
するとその瞬間――

……(チュッ)……

瑞希の頬に、柔らかなものが押し当てられ、そして離れた。

「君に怪我が無くて良かったよ」
「!?? みみみミュラーさん……!?い、い、今の……!!」
「女の子の頬へのキスが、事故のままで済ませちゃいけないな、って思って」

 天然……!!
瑞希の脳裏にそんな単語が駆け抜けた、かもしれない。
そのまま何事もなかったように、いつも通り優しく手を差し伸べ立たせてくれる様に、顔から火が噴きそうになりながら。
瑞希は思う。
――私……この先、身が持つのかしら……――
そんな瑞希の心中なんのその。
先程瑞希が視線で迷っていたのを見ていたアップルパイとアイス、両方をお皿に乗せて笑顔で戻ってくるミュラーの姿があるのだった。


 ぴよぴよぴよ~♪
またのお越しをお待ちしております。

そんな店主とヒヨコたちは、ウィンクルムたちの心の大事件など知ることなく、試食会の無事と成功を心より喜ぶのだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月01日
出発日 05月06日 00:00
予定納品日 05月16日

参加者

会議室

  • [6]織田 聖

    2015/05/05-23:29 

    改めまして、こんばんは。織田 聖です。
    無事にプラン提出完了、です。
    結局フルコースにしちゃいました…!楽しみです…!(ぐ。)

    オムライスに天津飯、出し巻き卵にサフランライス…!
    …プリン、カステラ、ホットケーキ…
    ふふ、黄色って幸せな色ですね(うっとり)

    皆様が良いお食事タイムになりますように。
    それでは、また(ぺこり)

  • [5]手屋 笹

    2015/05/05-22:57 

    カガヤ:

    カガヤ・アクショアと神人の笹ちゃんだよ!
    瑞希さん達は初めましてかな?
    既にお会いしている人達もよろしく!

    黄色いお料理楽しみだな~
    勿論ひよこさん達には気をつけないとね。

  • [4]瀬谷 瑞希

    2015/05/05-19:23 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    色々なお料理があってどれも美味しそうですね。
    何をいただきましょうか。
    ヒヨコちゃん達もとても可愛いです。
    (事故が起きると全く予想していない)

  • [3]テレーズ

    2015/05/04-23:32 

  • [2]織田 聖

    2015/05/04-14:15 

    亞緒:
    織田 聖の精霊の亞緒と申します。
    手屋さんとカガヤさんはおひさしぶりですね。テレーズさんと山吹さんはまたご一緒出来て嬉しいです。
    出石さんとレムレースさん、瀬谷さんとフェルンさんははじめまして、ですね。
    皆様よろしくお願いいたします。

    まだ食事の内容も悩んでいる状態ですが…ふふ、ヒヨコ可愛いですね。
    皆様と良い時間を過ごせますのを楽しみにしております(微笑み)

  • [1]出石 香奈

    2015/05/04-08:58 


PAGE TOP