フォーチュン桜餅(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

(いつの間にか、すっかり葉桜に……)
 ミラクル・トラベル・カンパニー社ビルの窓から遠くに見える桜並木を眺め、女性社員レイコ・ブロッサムは溜息をつく。
(今年も……、今年も出来なかった……っ!憧れのお花見デートっっっ!)
 それは仕事が忙しかったからか、相手がいなかったからか、はたまたその両方か。
 詮索はしないほうがいいだろう。

「あれ~、先輩、どうしたんですか、溜息なんてついて。あ、もしかして、デートもせずに花見の季節が去っちゃったとか?葉桜ばっかりじゃもうつまんないですよね~」
 お気楽な声が背後から聞こえ、思わず殺気たっぷりに振り返る。
(はっ、いけない!こんな態度じゃ図星だとバレてしまう!)
 レイコは咄嗟に殺気をひっこめ笑顔を作る。
「あら、モリノ君。桜の葉だって、つまらなくなんてないわ」
 レイコはデスクに向きなおり、目の前のパソコンでズダダダダっと「桜 葉 イベント」と入力し、検索。
「ほらね、桜の葉にまつわる、こんな素敵なイベントだってあるんだから!」
 モニターに現れたのは、『桜餅占い』というものだった。

 ミットランド西方にある桜の名所、リエーチェ。
 そこでは、成長した桜の葉を摘み取り、塩漬けを作成している。
 リエーチェの桜の葉は独特で、塩漬けにしている最中、葉の内側の色素が部分的に変色し、一定の模様を描く。
 リエーチェでは例年、この葉を使用した桜餅を村の大聖堂のあちこちに隠し、それを村人が探すという祭りが行われる。
 見つけた桜餅を包む葉に示された模様で、その年の夏の運勢を占うのだ。

「……というお話よ!」
 自分だって今調べたばかりのくせに、前から知っていたような顔で説明するレイコ。
 そして、はっと思いつく。
「そうだわ、今度のイベント企画、この桜餅を使わせてもらおうかしら!」
「さすが先輩ですね、なんでも仕事に繋げるなんて!」
 後輩モリノは尊敬の眼差しを送るが、レイコは苦い顔をした。
 なんでも仕事に繋げてしまう性分ゆえ、デート中に「君の話は仕事のことばかりだね」と言って彼女のもとから去っていった男性が何人いただろうか……。

 レイコの過去話は置いておくとして。
 ミラクル・トラベル・カンパニーは桜の季節が過ぎし頃にイベントを立ち上げた。
 場所は、テーマパーク 『マーメイド・レジェンディア』。
 パーク内のあちこちに、テニスボール大のカプセルに入れられた桜餅が隠されている。
 カプセルの色は、赤、青、黄、緑、白の5色。
 見つけたら、パーク内に設置された野点会場で、抹茶と共に桜餅を楽しめる。
 その際、桜餅を包んでいる葉の内側に要注目。
 リエーチェから仕入れた桜の葉の塩漬け。
 これには、今年の夏の運勢が描かれているとか。
 ハートのマークは恋愛運。
 星のマークは金運。
 月のマークは仕事運。学生さんなら勉強運。
 丸のマークは友情運。
 どの運勢が一番良いのかを現しているそうだ。

 当たるも八卦、当たらぬも八卦。
 美味しい桜餅を楽しむつもりで、参加してみてはいかがだろうか。
 

解説

 テーマパーク『マーメイド・レジェンディア』の入場料ひとりあたり580Jrがかかります。
 同パークの主なアトラクションは以下のとおり。

①シアター・メリーゴーランド
 メリーゴーランドが回り出すと、外の景色は遮断され、人魚姫の物語が立体映像によって再生されます。
 二人乗りの馬、もしくは複数人乗れる馬車に乗り、甘く切ない物語を堪能しましょう。
②ムーンライト・ロード
 夜になると光を放つ花『月光華』を楽しむために作られた石畳の道です。
 時折、さざなみの音に混じって、人魚の歌声が聴こえてくると言われています。
③ブルーム・フィール
 マーメイド・レジェンディア全体を一望できる観覧車です。

 その他、ジェットコースター、ミラーハウス、お化け屋敷などがあるようです。
 飲食店(100Jr~300Jr)もありますので、お腹が空いたらご利用ください。

 プランには、パーク内のどの場所で(必須)何色のカプセルを(任意)探すかを明記してください。
 何運の桜餅かを選ぶことはできません。

 イベントは一日中開催されています。
 夜は照明や月光華の明かりを頼りに探すことになりますので、少し見つけにくいかもしれません。
 プランに特別な記載がない場合は、昼間の描写になります。

 カプセルの中には桜餅が一つずつ入っています。
 桜餅を2人それぞれが食べるためには、カプセルを2個探してください。
 ひとつの桜餅を半分こ、でも構いません。


ゲームマスターより

 皆さん、こんにちは。
 気付けば桜の木は葉っぱだらけ。すっかり花見の機を逸したGM木口です。
 いいの、私にはまだ、桜餅がある……!スーパーに行けばいつでも会える……!
 ちなみに私、桜餅は葉まで食べるのですが、一般的には残す方が主流なのでしょうか。
 葉のしょっぱさとあんこの甘さのハーモニーがたまらないのですが。

 それはさておき、フォーチュンクッキーならぬフォーチュン桜餅。
 来たる夏、あなたが一番良いのは果たして何運?
 重ね重ね言いますが、当たるも八卦当たらぬも八卦、です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)

  心情
食べ物絡みのイベントだとラダさんも乗り気ですね。

行動
探すカプセルの色を決めませんか?
月は何色に見えるか、ラダさんに質問。私の目には白く見えます。
夜のムーンライト・ロードで月光華を楽しみつつ、白いカプセルを探します。
桜餅入りのカプセルを嗅覚で探そうとするラダさんにツッコミ。
桜餅を見つけたら、野点会場に移動です。ほろ苦い抹茶をしみじみと味わいながら、桜餅を食べ……れません! この葉っぱはどうすれば?
思わぬ人物から助け舟が。ふむ。口当たりが気になるので、葉っぱは剥がします。
和の文化や風習にはそんなに詳しくないのですが、もし占いの結果が悪ければ、どこかの木に桜餅の葉を結んだ方が良いのでしょうかね?


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  青のカプセルを探す
甘党の彼の為、二個見つけて一緒に食べたい

桜餅大好きです♪葉まで食べる派ですっ

羽純くんと桜餅を探す場所を協議した結果
お化け屋敷に行く事に

ど、どどどうしよう
実はお化け屋敷は苦手…作り物ってわかってるけど、怖いものは怖いっ
でもそんな格好悪い事、羽純くんには言えない

一歩入った所でもう怖い!
何ですか、ここ、レベル高くないですかっ
落ち着け、歌菜
平常心
桜餅を探す事だけを考えるんです

床とかに落ちてないかな…
きゃー!!!床から生首っ
思い切り羽純くんに抱き着いてしまいます

不思議
羽純くんの声を聞いていたら落ち着いて来た…というかこれって超密着
ご、ごめんね!
ぱっと離れたら足にコツンと当たるカプセル



和泉 羽海(セララ)
  アドリブ歓迎
場所:メリーゴーランド

(桜餅につられて参加)
宝探しみたいなもの…?
(コクリと頷く)うん、絶対見つける
別に何色でもいいんけど…えっと…じゃあ
『(口パク)赤』

え、やだ…
一人が駄目ならせめてアッチで(馬車を指差し)
怖くはないけど、恥ずかしいし、目立つし…
大丈夫じゃない…!

…近い…帰りたい…
人魚姫…今ならあたしも泡になって消えたいと思う…(羞恥で)

顔熱い…あの人も赤いけど…馬鹿なのかな、やっぱり…
あ、カプセルって…これ?
『もうひとつ、見つけてから一緒に開ける』(筆談)

☆抹茶飲みながら、桜餅堪能
占いはどれが出ても微妙な顔
(だって…どれも縁がないから…)

(首を振る)
…理由なんて、ないよ…



メイリ・ヴィヴィアーニ(チハヤ・クロニカ)
  心情:
一緒に宝探し楽しいな。
一つだけだったら絶対私が食べろって言って聞かないにきまってるもん、二つちゃんと見つけなきゃ。
もちろんどの運になるかも気になるけど、探す過程も楽しまないと。
ちーくん(チハヤ)のが恋愛運だったら面白いのになぁ。
そうだったら思いきりからかってあげなきゃ!

行動:
メリーゴーランドで一つ、ミラーハウスで一つ探す。
メリーゴーランドでは物語に夢中になり、危うくカプセル探しを忘れかける。
ミラーハウスでカプセル探し中、鏡にぶつかってしゃがんだときカプセルを発見する。

二つ見つかったら野点会場へ。メリーゴーランドの方をメイリが、ミラーハウスの方をチハヤが食べる。そしてマークの見せ合いっこ。



星川 祥(ヴァルギア=ニカルド)
  今日は初めて二人で出かけた日
機械いじりばっかりしてるヴァルくんを半ば強引に引っ張ってきたんだ

メリーゴーランドに乗ろうって誘って一緒に乗ってはみたものの
ヴァルくんたらウロウロして座らない!
映像を映し出してる機械とか馬が動く機械部分?とか動かしてるオジサンがいるとことか見てる
馬にもたれながら呆れ顔で見つめてたら、勢い良く振り返って
「設計士いい仕事してる!」だって
思わず笑っちゃった

メリーゴーランドを降りたとこでヴァルくんのお腹が鳴ったんだ
聞いてびっくり!昨日の朝から何も食べてないだって
ご飯にしようか(苦笑

飲食店近くで緑色のカプセルをさがす
桜餅は甘いから苦手だけど葉っぱと一緒なら食べられるよ
美味しー☆



●
 今日は初めて2人で出かけた記念すべき日だというのに、ヴァルギア=ニカルドが乗り気じゃないのは、星川 祥もわかっていた。
 日頃機械いじりで籠ってばかりの彼を、気分転換も必要と半ば強引に引っ張ってきたのだ。
 しかし。
 一歩園内に入り、聳えるジェットコースターを見た瞬間、ヴァルギアの瞳は輝いた。
「位置エネルギーを効率よく運動エネルギーに変える最高の形状!」
「……はい?」
「そして園内に流れる音楽!どこにいても同じ音量に聞こえる完璧な音響設備!」
「えーと、ヴァルくん?」
「ここってよく考えたらすげえ機械の宝庫だよな!」
 すっかり興奮している。まあ、楽しんでくれているのならそれでいい、か。
「ここのメリーゴーランドって、ちょっと変わってるんだよ。乗ってみない?」
 祥は『シアター・メリーゴーランド』について簡単に説明する。
「丁度今、映写機の発明中だったんだ!発明のヒントがあるかもしれないな!」
 半ば駆けるようにして、シアター・メリーゴーランドに向かうヴァルギアを、祥は懸命に追いかけた。

「あそこに取り付けられているのが映写機か。操作盤はどうなっているんだ?」
 他の乗客はすでに座っているというのに、ヴァルギアはうろうろと落ち着かない。ついには、係員のいる操作室まで覗き込もうとする始末。
「ヴァルくんっ」
 祥に声をかけられ、やっとヴァルギアは、彼女の隣の馬にまたがるが。
「この馬……支柱がモーター動力に繋がっているんだよな。配線が気になるな。これの設計図見せてくれねえかなあ」
 天井の支柱を見上げながらやはり機械部分に目を奪われる。
 そうこうしているうちに、メリーゴーランドは動き出す。
 外側に遮蔽板が降り、そこがスクリーンになる。
「馬の揺れに合わせて映像も動くシステム……やるな……!」
 感嘆の呟きを漏らすヴァルギア。
(機械のことばっかり)
 ヴァルギアの様子を、祥は馬にもたれて呆れ顔で見つめた。
 ふいに、ヴァルギアがすごい勢いで祥に顔を向ける。
「設計士いい仕事してる!」
 ぐっと親指を立てて言う、ヴァルギアもいい笑顔してる。
 祥は思わず、ふっと吹き出すのだった。
 結局、ヴァルギアはメリーゴーランドのシステムに夢中、祥はそんなヴァルギアに気をとられ、桜餅のカプセルは見つからなかった。

 ぐきゅ~るるる~~~
 メリーゴーランドを降りたところで、盛大に鳴ったのはヴァルギアの腹の虫。
「朝ごはん食べてこなかったの?」
 祥が訊くと、お腹を押さえつつヴァルギアが答える。
「昨日の朝飯が最後だったかな」
 朝ごはんどころの話ではない。
「ご飯にしようか」
 苦笑して祥は、ヴァルギアの袖を引っ張り近くの飲食店へ。
「よっしゃあ食うぜー!」
 テラス席でランチセットを前に気合いを入れるヴァルギアを微笑ましく見ていた祥は、ふと、横の植え込みに、いくつかカプセルが隠れているのに気付く。
 どうやら、デザートの桜餅にありつけそうである。

 祥は緑色、ヴァルギアは黄色のカプセルを見つけ、野点会場へ。
「桜餅は甘いから苦手だけど葉っぱと一緒なら食べられるよ」
 抹茶と一緒に、いただきます。
 と、ヴァルギアに手首を掴まれる。
「待て待て、お前、これを楽しみにしてたんじゃなかったのかよ」
 ヴァルギアのもう片方の手には、彼の分の桜餅の葉。そこには、丸いマークが浮かび上がっていた。
「あ、そうだった」
「おまえ結構おっちょこちょいか?」
 心配そうな顔で言われ、赤面する。
 ぺらり、と葉っぱをはがすと、内側にはヴァルギアと同じ丸いマーク。
 2人はウィンクルムになったばかり。この先、新たな人間関係がどんどん広がっていくことだろう。それを考えれば、友情運を示す丸いマークも納得だ。
 祥は桜餅をかぷっと一口。
「美味しー☆」
 来て良かったなぁ。そう思う、祥であった。



「うふふ、ちーくんと一緒に宝探し楽しいな」
 足取り軽く、メイリ・ヴィヴィアーニ。
 その後ろを複雑な表情でついて歩く、チハヤ・クロニカ。
「ちーくん言うな」
 チハヤの反論は聞こえていない様子。
「ちーくん、この二人乗りの馬に一緒に乗りたいなぁ」
 シアター・メリーゴーランドの前で立ち止まるメイリに、チハヤは頭を抱える。
 いい年の青年が年端もゆかぬ少女とメリーゴーランドって周りからどう見える?
「カプセルはわざわざ乗り物に乗らなくても見つかるだろう」
「こういうのは、探す過程も楽しまないと」
 もちろんどの運になるかも気になるけれど、重要なのは、それだけじゃない。
「だったらメイ1人で……」
 言いかけて、チハヤの脳裏に、1人でメリーゴーランドに乗ろうと駆けて行き転ぶメイリ、1人で馬に乗ろうとして落ちるメイリ、乗ったは良いが降りられなくて涙目のメイリが思い浮かぶ。
 ダメだ、メイリを1人にはできない。
「……わかった、俺も行こう」

 チハヤの手助けもあり、メイリは危険なく馬に乗ることができた。
 メイリはスクリーンに流れる人魚姫の物語に夢中になるが、チハヤはカプセルを探そうと目を光らせていた。
(なかなか見つからないな)
 諦めかけて天井を仰ぐチハヤ。
「……!」
 そこで、馬の支柱の上部に白いカプセルが粘着テープで括りつけられているのを発見する。

「一つ見つけたんだから、もういいだろう」
 チハヤはそう言うが、メイリは妥協しない。
「二つちゃんと見つけなきゃ」
 メイリがそう言うのには理由があった。
(一つだけだったら絶対私が食べろって言って聞かないにきまってるもん)
 チハヤにも同じように楽しんで欲しいから、カプセルを二つ探すことは譲れない。
「次は、あれがいいな」
 メイリが指さす先にあったのは、ミラーハウス。

「次は私が見つけるもん」
 ミラーハウスに入るなり、意気込んで走り出そうとするメイリ。
「待つんだ、メイ」
 ミラーハウスでは走るのは厳禁である。鏡に激突する恐れもあるし、付き添いとはぐれる可能性もある。
「じゃあ、はぐれないように手を繋いで欲しいな」
「そんなことしなくても、ゆっくり歩けば問題ない」
 とにかく、注意して進むように。再三、チハヤは注意する。
「はぁい」
 しかし、カプセル探しに夢中になると、だんだんチハヤを置いて足早になってしまうメイリ。注意力も落ちてくる。
「メイ、もう少しゆっくり……」
 ごん!
「いったぁ!」
「だから、言っただろう」
 鏡にぶつけた頭を抱えしゃがみ込むメイリ。と、足元の少し前方に……。
「カプセル見つけた!」
 すかさず手を伸ばす。
 どしっ!
「いたっ」
 その手は鏡に阻まれる。
 そう、カプセルは鏡に映ったもの。本物はもう少し手前に転がっていた。
「落ち着けというのに」
 溜息をつきながらチハヤは、メイリが鏡越しに見つけた青いカプセルを拾い上げた。

「何が出るかな、楽しみ」
 野点会場で、白いカプセルをメイリが、青いカプセルをチハヤが開ける。
「私のは月のマーク。勉強運だね。ちーくんのは?もしかして、恋愛運だったりして」
 その期待に満ちた笑顔には、「もし恋愛運だったらからいまくって遊んでやろう」という魂胆が滲み出ている。
 危険を感じ、チハヤはメイリに背を向け、こっそりと葉をはがし中を確認する。
 星。金運だ。ほっとして、メイリに見せる。
「な~んだ」
 がっかりした様子のメイリの声。
「所詮は占い、遊びのようなものだ」
 チハヤはそう言い、お茶を一口。恋愛運の葉じゃなくて助かったと思いながら。



 晴天を仰ぐセララは感涙せんばかり。
(憧れの遊園地デート……!!羽海ちゃんもやる気だし……ありがとう、レイコさん!!)
 レイコさん本人はデートとは無縁の毎日を送っています。
 そして和泉 羽海は桜餅につられて出て来ただけで、デートと思ってはいない様子。
 桜餅入りのカプセルを探す……宝探しのようなものだろうか。
「ゲームなら羽海ちゃん得意だよね!」
 羽海はこくりと頷いた。うん、絶対見つける。
 2人はシアター・メリーゴーランドでカプセルを探すことにした。
「ところで何色を探す?」
 訊かれて羽海は少し考える。こだわりはないけれど、強いて言うなら。
『赤』
 口の動きだけで、伝える。
「よし、じゃあ、頑張って探そ」
 セララは当然のように2人乗りの馬に跨り、「おいで」と羽海に手を差し出す。が。
「え、何でそんな嫌な顔するの」
 気持ちが素直に顔に出てしまう羽海。
 こっちじゃ駄目?と1人乗りの馬を指さすが、セララは首を横に振る。
 1人乗りが駄目ならせめてアッチで……と馬車を指さすも、それも却下。
「ちゃんとエスコートするから、怖くないよ!」
 怖いとかいう問題ではない。
 2人乗りなんて、恥ずかしいし、目立つし……。
「遮断されるし、誰も見てないから大丈夫!」
 大丈夫じゃない……!
 そんな羽海の心の叫びは届かず、セララは
「ほら始まっちゃうよ」
と羽海の手を引き強引に2人乗りの馬へ。
 2人が乗った直後、メリーゴーランドは動き出す。
(……近い……)
 かつてない密着度。スクリーンの映像など頭に入って来ない。
(可愛い……ヤバイ、鼻血でそう……)
 羽海の髪が馬の動きに合わせて揺れて、イヤリングの効果か、甘い良い香りがふわりと漂う。セララはうっとりと羽海を見つめる。
 この至近距離で、羽海がセララの視線に気付かないわけがない。
(帰りたい……)
 体温を感じられるほど近くにいて、逸らすことなく注がれる熱い視線。
(人魚姫……今ならあたしも泡になって消えたいと思う……)
 穴があったら入りたい、ならぬ、泡になれたら消え入りたい。
 見られてる。セララに見られてる。そう思うだけで、頬が熱くなり変な汗までかきそうだ。
 息を詰めてこの状況に耐えていた羽海は、メリーゴーランドが止まるとほうっと息をつく。
(顔熱い……)
 先に降りて羽海をエスコートしようとするセララに目を向ける。
(あの人も赤いけど……)
 彼もまた、上気した頬であることに気付き、羽海は。
(……馬鹿なのかな、やっぱり……)
 なかなか辛辣な感想だ。
 羽海は差し出されたセララの手を無視して、馬からすとんと降りた。
「ちょっ……羽海ちゃ~ん」
 悲しそうな声をあげるセララをよそに、羽海は今まで乗っていた馬の脚に目をとめる。
(あ、カプセルって…これ?)
 蹄の先にくっついていた、赤いカプセルに手をのばす。
「あ、さっすが羽海ちゃん!何が入ってるのかな~」
 さっそく野点会場に向かおうとするセララを、羽海は引き留める。
 持ち歩いているメモ帳に、
『もうひとつ、見つけてから一緒に開ける』
と、さらさらと書く。
「そっか……」
 一緒に、という気持ちがとても嬉しくて。
「うん、じゃあオレも頑張って探さないとね!」
 セララはにっこり笑う。
「もう一回これ乗ろう!」
(………!)

 結局、シアター・メリーゴーランドに3回乗ったところで、セララも無事緑色のカプセルを見つけた。
 2人は抹茶を飲みながら、桜餅を堪能する。
 桜餅の葉をめくり、セララは落胆する。
「ああ~っ、勉強運かぁ」
 ちらりと羽海を見ると、彼女の手にはハートマークの葉。
「羽海ちゃん恋愛運だね。いいな、オレも羽海ちゃんと一緒に恋愛運が良かったよ」
 しかし羽海は微妙な表情。
(だって……恋愛運なんて出ても、縁がないから……)
 暗い表情の羽海の気分を変えようとしたのか、セララは話題を変える。
「ねぇねぇ、カプセルの色、何で赤色だったの?」
 問われて羽海は顔をあげる。そこには、期待に満ちたセララの顔。
「オレの瞳の色だからーとか」
 冗談めかして言ってはいるが、ほぼ本気である。
 羽海はふいと視線を逸らし、首を振る。
(……理由なんて、ないよ……)
 しかし、セララにはそれが、本音を言い当てられて照れている姿に思え、
(素直じゃない羽海ちゃん……本当可愛いんだから!)
と1人悶えるのであった。



 桜餅大好き!という桜倉 歌菜に連れられてやってきた月成 羽純だが、実は彼自身も甘味好きだったりする。
「やっぱり2個見つけて一緒に食べたいね。どこを探そうかな」
「お化け屋敷はどうだ?」
「えっ」
 歌菜の表情が固まる。
「あんまり人が探さない所の方が見つけやすいんじゃないかと思ったんだが、嫌なら……」
「う、ううん!嫌じゃないよ!行こう、お化け屋敷」

(ど、どどどうしよう)
 お化け屋敷に来たはいいが、実は歌菜、お化け屋敷は苦手であった。
(作り物ってわかってるけど、怖いものは怖いっ)
 しかし羽純はそんな歌菜には気づかない様子。
「ここなら、怖がりな奴は来ないだろうしな」
 はい、私がその怖がりな奴です。なんて、格好悪くて言い出せない。
「多少暗くて見つけ難いかもしれないが、その分、探す奴も少なそうだな」
「うん、そうだね」
 強がって同意する。
 大丈夫、1人で入るわけじゃない。それに、子供も来るような場所だ、そんなに怖くないはず。
 気持ちを奮い立たせ、歌菜は平気な顔を装いお化け屋敷に入った。
が。

(一歩入った所でもう怖い!)
 薄暗い中に、ひゅるり、と生暖かい風が吹く。
 前方に見えるはオンボロ屋敷。そこにたどり着くまでに、人魂が飛び交う竹藪を抜け、骸骨が顔を出す古井戸の横を通り、中から不気味な笑い声が聞こえる破れた提灯の下を歩き……。
「何ですか、ここ、レベル高くないですかっ」
 歌菜の声が上ずる。
「そうか?」
 隣の羽純は平然としている。
(落ち着け、歌菜。平常心。桜餅を探す事だけを考えるんです)
 ぎゅっと組んだ手を胸に当て、目を閉じる。
「歌菜、まさか……」
「な、なんでもないよ?先を急ごう、羽純くん!」
 オンボロ屋敷に足を踏み入れ、カプセルを探す。
「床とかに落ちてないかな……」
 足元に目を向けた歌菜は一瞬の硬直の後。
「きゃーーーーっ!!!」
 割れんばかりの絶叫。
「ゆ、床っ!床から生首っっ」
 ぶつかるような勢いで羽純に抱き付く歌菜。
「うわっ……と。歌菜?」
 胸の中でかたかた震える歌菜に、羽純は、本当は歌菜が怖いところは苦手だったのだと気付く。
(そうならそうと素直に言えばいいのに……いや、俺が無神経だったかもしれない)
 羽純は苦笑してから、
「大丈夫だ。俺が居る」
と、歌菜の背を撫でる。
「ゆっくり深呼吸しろ」
「羽純……くん」
「ごめんな、気付かなくて」
 羽純の優しい声の響きと背を撫でる手の温もり。
(不思議。羽純くんの声を聞いていたら落ち着いて来た……)
 だんだん鼓動が平常に戻る。
 それとは反比例して。
(背中……思ったよりも柔らかい)
 羽純の鼓動はどんどん早くなる。
(あれ……どうして俺、こんなに……)
「ご、ごめんね!」
 超密着してしまっていたことに気付いた歌菜がぱっと離れ、羽純から彼女の温もりがなくなる。
「あ、いや、大丈夫だ」
(むしろもう少しこのままでも良かった、なんてな)
 羽純は苦笑した。何を考えているのだ、自分は。
「手、貸せ」
「え?」
「出口まで握っておいてやるから。要らないならいいが」
「い、いるっ」
 歌菜は差し出された羽純の手を縋るようにとる。
「これでもう、怖くなんかないよっ」
 勇気を出して歌菜は床の生首を睨みつける。
「あっ……」
 と、生首の髪の中に、青いカプセルが隠れてるのを見つけた。
「羽純くん、あれ……とって?」
 見つけたはいいが、あんな場所では手を伸ばす勇気はない。
 羽純は仕方ないなと笑い、カプセルを取ってくれた。

 羽純が出口付近の草むらにもう一つ青いカプセルを見つけ、2人はさっそく野点会場へ。
「私は葉まで食べる派だよ。羽純くんは?」
「俺も」
 2人は早速葉をめくり中のマークを確かめる。
「俺は仕事運か」
「私は友情運だって。嬉しい」
 微笑み合って葉を戻し、桜餅を頬張る。
「甘いね!」
「美味いな!」
 お化け屋敷という困難を乗り越えた後のせいか、桜餅の甘さは格別だった。



 夜の帳が降り、園内に月光華が輝く頃。
「ヒャッハー!桜餅、探すよぉ!」
(食べ物絡みのイベントだとラダさんも乗り気ですね)
 エリー・アッシェンはやる気満々のラダ・ブッチャーの姿に微笑む。
「リエーチェの桜餅って面白いねぇ。食べてみたいなぁ」
「探すカプセルの色を決めませんか?」
「うん、そうだねぇ」
「ではラダさん、月は何色に見えますか?」
「月ぃ?」
 エリーとラダは並んで月を見上げる。
「私の目には白く見えます」
「月は黄色に見える。同じ月を見てるのに、違う色に感じるなんて面白いねぇ」
「では、私は白のカプセルを探しますので……」
「ボクは黄のカプセルを探すねぇ」
 ラダは飛び跳ねそうな勢いでムーンライト・ロードへ。エリーはそんなラダを見守るように、その後をついていった。

「暗くてよく見えないよぉ」
 とラダは言うが、暗い夜を選んだのにはわけがあった。
「綺麗ですね」
 エリーはムーンライト・ロードを淡い光で照らす月光華を眺める。
 この光景が見たかったのだ。
「へぇ~」
 ラダは桜餅を探すのを一旦やめて、佇むエリーを見る。
 月と月光華、そして輝くイヤリングの光に薄ぼんやりと浮かび上がるエリーの姿はまるで、この世のものではないみたいで……。
「ヒャハッ」
 ラダは、初対面でエリーを幽霊と見間違えたことを思い出して笑う。
「うふふ、見つけにくいからこそ、価値があると思いませんか」
 月光華の群れの中にカプセルが隠れてないかと探し始めるエリー。
「美味しい匂いで場所がわからないかな」
 鼻をひくつかせるラダに、
「そんなので見つかるわけないじゃないですか」
とツッコんでしまうエリー。
「アヒャヒャ、見つけたよぉ」
「ええっ!?」
 ラダの嗅覚、侮れない。いや、食べ物への執着が成せる業か?
「白いカプセルだから、エリーにあげるよぉ」
「ありがとうございます」
 エリーはカプセルを受け取ると、
「ラダさんの分も見つけないといけませんね」
と、またカプセルを探す。
「う~ん、甘い匂いは、こっちかなぁ」
「ラダさんそれ、本当にそんな匂いがするんですか」
「う~ん、なんとなく、そんな気がするっていうか」
「不確実なんですね」
「大丈夫大丈夫、すぐ見つかるよぉ」
 エリーは疑わしい目でラダを見ていたが。
「ほらね、あったよぉ、ヒャハーッ」
 黄色のカプセルを掲げ、エリーに満面の笑みを向けた。

 ライトアップされた赤い傘が美しい野点会場。
 その脇にも月光華は飾られている。
「ん、美味しい」
 ほろ苦い抹茶を一口味わって、エリーはほっと息をつく。
「ヒャハ!いっただきまぁす!」
 大口を開けるラダを、エリーが慌てて止める。
「ラダさんたら!運勢を確認しないんですか」
「ウヒャァ、そうだったよぉ」
 2人で葉のマークを確かめてみる。
「僕は星だったよぉ」
「金運ですね。私は……」
 エリーは恋愛運を願いながら葉の内側を見る。が。
「丸……友情運ですか」
「良いよねぇ、友達って」
 エリーの気持ちを知ってか知らずか、無邪気に笑うラダ。
「まあ、いいです。さあ、桜餅を食べ……あら、これ!」
 エリーは目を見開く。
「どうやって食べればいいのかしら。葉っぱがついているし」
 困惑しているエリーに、ラダが
「葉を食べるかは和菓子職人さんの間でさえ意見がわかれてるし、好み次第でどっちでもOKだと思うよぉ」
と教えてくれる。
「ラダさん、意外と物知りですね」
「僕は葉も食べる派!」
 桜餅をぱくりと一口で食べるラダ。
「ふむ」
 エリーは思案する。口当たりが気になるので、葉を剥がすことにした。
「私は和の文化や風習にはそんなに詳しくないのですが、もし占いの結果が悪ければ、どこかの木に桜餅の葉を結んだ方が良いのでしょうかね?」
 残った葉を見てエリーが言う。友情運という結果は彼女にとって思わしくなかったのだろうか。
「え?葉を結ぶ?そういえばそういう光景、神社で見たことある!どうしよう、エリー!ボク葉っぱ食べちゃったんだけど!」
 あたふたするラダ。
「ラダさんも占いの結果は悪かったんですか?」
 と問うと、はた、と動きが止まる。
「そういえば、別に悪くなかったよぉ」
 頭を掻きつつ笑う。
「特に葉を結ぶ木はないみたいですが……」
 エリーは近くの従業員に許可を得て、野点会場に飾られていた月光華の茎に桜の葉をそっと結びつけた。
「いつか私の望む運がやってきますように」




依頼結果:大成功
MVP
名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月01日
出発日 05月07日 00:00
予定納品日 05月17日

参加者

会議室

  • [10]桜倉 歌菜

    2015/05/06-23:57 

  • [9]桜倉 歌菜

    2015/05/06-23:57 

  • [8]星川 祥

    2015/05/06-18:36 

  • [7]星川 祥

    2015/05/05-12:12 

    皆様、初めまして。
    今回がエピソード初参加になります、星川祥と申します。
    精霊は、ヴァルくんです。
    よろしくお願いします!

    男の子と出かけるなんて初めてだし、どうしよう
    どこに行こうかまだ迷ってます><

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/05/04-23:52 

    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願い致します!

    探す人が少ない所へ行ってみようって、羽純くんが言ったのですが…
    え?お化け屋敷?
    ええーっ?

    どうか桜餅を見つけられますように!

  • [5]桜倉 歌菜

    2015/05/04-23:51 

  • メイリとパートナーのちーくんです!
    よろしくしますです。

    メリーゴーランドとか面白そうかなぁ。

  • [3]和泉 羽海

    2015/05/04-09:14 

    はろはろ~セララ君と可愛い羽海ちゃんだよ~!
    皆、よろしくね☆

    どの場所も魅力的で悩み中・・・夜だとさらにロマンチックだよね~
    どこに行こうかなぁ♪

  • [2]和泉 羽海

    2015/05/04-09:13 

  • [1]エリー・アッシェン

    2015/05/04-02:16 

    うふふ……。エリー・アッシェンです。
    ご一緒する皆さん、どうぞよろしくお願いします。

    夜は暗いのでカプセルが見つけにくいそうですが、夜のムーンライト・ロードが気になってます。


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