【悪夢】白騎士と黒騎士(蒼鷹 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●晴天の霹靂
 ……春の陽気が、彼女の判断力を鈍らせたのだろうか。
 あれほどA.R.O.A.に、オルロック・オーガに関する依頼が寄せられていたはずなのに。

 神人は、自宅の玄関付近に倒れていた。
 そのそばには、見慣れないプレゼントボックスが転がっていた。
 神人がそれを開けてしまったのは、オーガの卑怯な手段に引っかかったせいかもしれない。
 そのプレゼントボックスには、カードがはさまっており、カードにはパートナーの精霊の名前が書かれていたのだ。



「みなさんのパートナーの神人が、オルロック・オーガに襲われました」
 緊急召集された精霊たちに向かい、深刻な顔で口を切ったのは、40過ぎのベテランのA.R.O.A.職員だった。
「神人のみなさんは今、深い眠りに落ちており、このままでは徐々に衰弱して、いずれは死んでしまいます」
 深刻な事態に、精霊たちの顔色が変わる。
「そこで精霊のみなさんに、神人の夢の中に入り、神人を救っていただきたいのです」
 もちろん、この事態に黙っていられるはずはない。
 精霊たちは、それぞれに装備を調え、こんこんと眠るパートナーの神人の夢の中へと入っていった。

●夢の中で
 神人の夢の中に入った精霊は、気がつくと夜の湖に漂うボートの中にいた。
 ボートは月の光を浴び、ゆらゆらとたゆたう波間を、魔法がかかったように独りでに進んでいく。
 気がついて、自分の体を見ると、見慣れないモノトーンの騎士風の装束に身を包んでいる。
 ぼんやりと、精霊の中にイメージが浮かんだ。

――そうだ、自分は騎士で、決闘をするために、この舟に乗り込んだのだ。
  自分はこれから、湖の中の小島に乗り込み、ただ一人の姫君を巡って、同じく姫君の愛を争う男と戦うのだ。
  勝てば姫君は自分のもの。負ければ相手のもの。

 そして精霊は気がついた。今浮かんだイメージは、夢の中で自分が置かれている役割なのだろう。おそらく、姫君が神人で、敵の男がオーガなのだ。
 一対一で敵と決闘して倒せばいい、それだけのことか。
 やがて舟は岸辺に着いた。精霊が舟を降りると、舟は独りでに元きた方へと去っていった。
 これでもう後戻りはできない。
「騎士様、よく来てくださいました」
 純白のドレスを身にまとい、黄金のティアラをつけた神人が出迎えた。しかし、その顔はいつもの表情ではなく、青ざめ、窺うような、警戒するような顔つきをしている。
 不思議に思った精霊が、彼女に声をかけようとすると、彼女は後ろを振り返った。
 後ろから歩いてきたその男に、精霊は息をのんだ。
 それは、着ている衣装の白黒が逆転しているだけの、まごうことなき彼自身の姿であったからだ。
 精霊と、うり二つのもう一人の精霊は、姫君を挟んで対峙した。
「さあ、決闘を始めよう。姫君の愛を勝ち取るために」
 偽物の精霊はそう宣言すると、神人の名を呼び、待っていてね、必ず助けるから、とささやいた。
 満月が、冷たい光を三人に投げかけていた。

解説

ペアごとにそれぞれの夢の中で戦う、個別の戦闘アドベンチャーになります。

●目的
精霊は、自分のそっくりさんを倒して姫君を助け出してください。
神人は、どちらが本当の精霊か見抜いてください。

●オーガについて
精霊と同じ容姿、同じ武具を身につけ、同じ体力やステータスを持っています。
ジョブスキルは使えませんが、それは未トランスである精霊も同じことです。
さらにやっかいなことに、オーガは神人の記憶を引き出して、「神人が知っている精霊」の性格や記憶をそのまま模倣しています。
ただし、オーガは神人に、自分が本物であると信じてもらおうと必死で、神人に気に入られるような行動をします。
またオーガは、神人が知っている精霊の短所や弱点を攻撃するような言動をとります。
そのせいで、普段精霊がしないようなことをするかもしれません。

●神人について
神人は現実世界の記憶があり、どちらかが本物で、もう一方がオルロック・オーガであることを知っています。
黙って見ているだけではなく、決闘中の二人に話しかけるなどのリアクションも可能です。

●トランスについて
トランスしても光りませんが、トランスすればジョブスキルが使用できるようになります。
しかし、トランスはどちらが本物か確信してからのほうがよいでしょう。
オーガは神人に自分を本物だと信じてもらい、トランスのため頬にキスをされる瞬間に攻撃しようと狙っています。

●場所
50メートル四方ほどの広さがあり、ほぼ平らな砂地ですが木や岩もあります。

●装束
黒騎士と白騎士、どちらが味方(本物)かウィッシュプランにお書きください。

ゲームマスターより

蒼鷹です。去年のハロウィンは精霊がオーガに眠らされるパターンでしたので、今度は逆です。王道ですね。
決闘ものが書きたくて、コピー対決も書きたくてこうなりました。
神人がそっくりな二人を見分けるのは難易度高そうにみえますが、「直感」や「二人の愛の絆のパワー」で見破って下さってもOKです。
基本的にみなさまのプランに沿うかたちで書かせていただく予定です。
その意味では難易度は「簡単」なのですが、プランの内容が盛りだくさんになりそうなので「普通」としました。
それでは、お楽しみ下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  やめてー私のために争わないでー(棒)
それはさておき本物を見極めなくては

二人の騎士様、姫のお願い聞いていただけますか?
ん?今何でもするって言いましたよね?
本物の騎士様なら、私が今、恋愛小説に熱をあげている事は知っているはず
なら、私に愛の言葉を贈ってもらえないでしょうか?
私がどんな小説が好きで、どういう台詞にときめくか知ってるはずです。

…偽者がわかりました
ほんものの騎士様は私が貸した小説を真面目に読んでいない、それくらい気付いてます

私の騎士様、トランスしてくださいますか?

……ディエゴさんに成り済まして近付くなんて
こいつァ、メチャ許さんよなぁあ!?
お前は今!完璧に私を怒らせた!(マジ切れ)




ソノラ・バレンシア(飛鳥・マクレーランド)
  …何だこの状況。
いやいやいや飛鳥と同じ顔した二人で私を取り合うとかさー…何ていうかこそばゆいわ。

どっちかが本物でどっちかが偽者…
あれ、今「必ずソノラを守る」って言われた…
あーうん。本物の飛鳥ならそんなこっ恥ずかしい事、面と向かって言わないな。
って事で偽者が白で本物は黒い方!
そうと分かればためらう理由はないし急いで本物の飛鳥へ駆け寄る。

本物だって分かった理由?
だって普段の2割増しぐらいで優しかったし。
それに「お前を守る」とかそんな事言わないっしょ?飛鳥そーいうキャラじゃないし。
って何?今なんか言った?
…そう思ってるのは事実…つまり守るっていうのは…うわー何か恥ずかしいぞちょっと…
な、何でもない!



アマリリス(ヴェルナー)
  普段の服装から見て黒な気もしますが安易に答えを出すべきではありませんね
逆の立場だった場合、きっとヴェルナーは見つけてくれるはず
わたくしが間違える訳にはいきません

武器と盾の持ち方も鏡のように同じ
態度から調べるしかないかしら

決闘中の二人に向けて
どうかオーガを倒してわたくしを助けてと声を掛ける
…黒騎士の方が卑怯よね、騎士道的に考えれば
微妙に違う両者の反応に悩む

嘘が付けなくて口より行動で表す人だもの
必要な事も喋らなかったりもするけれど…
その場凌ぎの安易な言葉をくれる人ではないわ
わたくしを救おうと態度で示しているのは黒騎士の方ですわ

黒騎士に駆け寄ってトランス
後方下がる
武器が手元にあるなら援護


ペディ・エラトマ(ガーバ・サジャーン)
  (私は神人なのに…)
自分の油断で救助される側になってしまったこと、精霊を危険な目に遭わせていることに落ち込むわ
「ガーバ…」
二人を見比べてみるけど、良く分からないわね…
黒騎士が昔と同じ言葉を言うから驚いたわ

黒騎士の言葉に思わずほっとしたけど
(戦うガーバが心配だってことは気づかれないようにしていたはずなのに…)

驚いている白騎士と目が合って直感でわかったわ
「ガーバ!」
ガーバが来てくれたと思うと、やっぱり少しほっとするわね
白騎士の方に向かって走りながらインスパイアスペルを唱えるわ


黒騎士が倒されるのを見て、本物が傷つく様子を想像しまうわ

「ガーバみたいに、私も神人として頑張りたいと思ったんだけど…」


●開幕
 騎士ものの物語にはありがちな場面だ。
 かたや月光のごとき純白、かたや宵闇を纏った二人の騎士が、一人の姫の愛を巡り争う。
 しかしこの決闘は、物語とは決定的に異なる要素があった。

 物語の騎士は、敗北しても失うのは己が名誉や命のみ。
 偽物にとってもそれは同じ。
 しかし、本物が決闘に敗北し失われるのは、愛する姫君の命なのだ。

 敵は自分と互角の技量を持つ。
 絶対に負けられない戦いが、今火蓋を切ろうとしていた。

●どんな言葉よりも
――ここで自分が負ければ、アマリリスの命が危ない。
 任務の重大さを噛みしめ、黒衣のヴェルナーは前へと踏み出す。
 蒼い炎のように静かな、しかし熱い闘志を抱いて。
 浮ついた恋の戦いではない。自分の命以上に大切なものがかかった戦い。
(絶対に負ける訳にはいかない)
 眼前には銀髪、澄んだ碧眼に決意を湛え、純白の衣装を身に纏った自分の姿。
 ……自分は戦うとき、こんな顔をしているのか。
 鏡を見ながら戦うような奇妙な気持ちにとらわれつつ、相手はあくまでオーガと、油断なく気持ちを引き締める。
「アマリリス、必ずオーガを倒して貴方を救います」
 偽物に負けじと、真っ直ぐに神人を見て言い置いた。そして神人から距離を取る。

 桃色の髪に金色のティアラ。アマリリス姫は頷いた。
(今の瞳は間違いなくヴェルナー。それに、彼の普段の服装は大概黒……)
 しかし、オーガが自分が知っている精霊をそのまま模倣しているなら。
(安易に答えを出すべきではありませんね)
 アマリリスは緊張した面持ちで二人を見比べる。
 不覚にもオーガの術中にはまってしまった以上、失敗は許されない。
(逆の立場だった場合、きっとヴェルナーは見つけてくれるはず)
 鈍感なようでいて、服装や髪型の些細な変化にも気がついてくれる彼。
 何よりも、今まで培ってきた彼との絆に、アマリリスには信頼があった。
(わたくしが間違える訳にはいきません)

 二人は全く同時に、左手に斧を構えた。バトル・ロッソの薔薇色の刃が、月光を受けて昏い赤に煌めく。利き手の右手には盾・パヴィスが鈍く光る。
(武器と盾の持ち方も鏡のように同じ)
 アマリリスが注意深く観察する中、二人の騎士は全く同時に大地を蹴った。

 白騎士の袈裟懸けの一撃を黒騎士が盾で受け流す。反撃の上段からの刃を黒騎士は横に跳んでかわし、すかさず踏み込んで盾の内側を狙って斧を振り下ろす。それを読み、飛び退く白騎士。双方、互いの動きを見るような慎重な攻撃から入り、次第に白熱していく。
 ヴェルナーは、自分の動きそのままに攻め守る白騎士に、攻撃の突破口が見いだせず攻めあぐねていた。
 僅かな隙に、白騎士の一撃が黒騎士の左足に入った。薔薇色の刃は装甲を突き破り、裂けた切り口から白い肌が見え、やがて痛みとともに血がにじむ。
 装甲のお陰で軽傷だが、蓄積すれば大きなダメージになるだろう。

 アマリリスにはどちらの動きも本物らしく見えた。
(態度から調べるしかないかしら)
彼女は口を開いた。
「ヴェルナー! どうかオーガを倒して、わたくしを助けて」
「はい! 必ず」
 反応したのは白騎士。一瞬、注意が神人に向く。その瞬間を黒騎士は逃さなかった。
 踏み込んだ黒騎士の刃が今度こそ盾の隙間をくぐり、右手に決まる。うっ、と白騎士が呻いた。
 微妙に違う両者の反応に、アマリリスは心中で唸った。
(……黒騎士の方が卑怯よね、騎士道的に考えれば)
 でも。
 僅かな隙も利用して、全力で戦っている黒騎士の真剣な瞳。
――言葉を返し一時的に安心させるより、結果で答えたい。
 そう言っているように見えた。
(嘘が付けなくて口より行動で表す人だもの。……必要な事も喋らなかったりもするけれど……)

 白のドレスの端を持ち、姫君が駆け寄ると、二人の騎士ははっとして同時に動きを止める。
「汝、誠実たれ」
 口づけたのは、黒騎士の頬。青年の瞳にかすかな驚きと、安堵と、微笑が浮かんだ。アマリリスはその碧眼を見て、間違いないと確信した。
「何故ですか」
 ショックを受けた様子で、白騎士が問う。
「ヴェルナーは、その場凌ぎの安易な言葉をくれる人ではないわ。
わたくしを救おうと態度で示しているのは黒騎士の方ですわ」
 キッパリと言って、白騎士にクリアレインを構える。
「くっ……」
 絶望的な表情を浮かべ白騎士が突撃してくる。黒騎士はアプローチⅡを発動、神人に敵の注意がいかないよう引き付ける。アマリリスは後方に下がり矢を放った。月光を反射し、白騎士の目をくらます。
 姫君の信頼を得た黒騎士に死角はなかった。プロテクションで敵の攻撃を完全防御、慎重に体力を削れば、鉄壁の防御を誇るロイヤルナイトもやがて大地に崩れ落ちた。死体の代わりにピーサンカが残された。

 敵の死亡を確認後、ヴェルナーはその場に膝をついた。互角の技量の者との真剣勝負はかなりの消耗戦であった。
 心配して駆け寄った神人の頬を、青年の大きな手が包んだ。
 そのまま優しく顎をとらえて、息のかかる距離に引き寄せる。
――!? 
 アマリリス、一瞬脳内が沸騰する。
 青年はまじまじと彼女を見つめた。本当に神人が本物か、そして怪我がないか。納得すると心から安堵したように、
「……よかった」
 そして気がついたように、顔が赤いです、どうかしましたかと訊いてくる。
「何でもありませんわ」
 心持ち固い声で返事してから、彼女は感謝とお詫びの気持ちを込めて囁いた。
「ありがとう、ヴェルナー」

●姫君の想い
 緑がかった長い髪が、月光を受けて白絹の上を滑る。
(私は神人なのに…)
 対峙する二人のガーバ・サジャーンを見比べながら、ペディ・エラトマは落ち込んでいた。
 自分の油断で救助される側になってしまったこと、それが原因で、オーガとガーバが危険な決闘をすること。
「ガーバ……」
 どちらかが本物で、片方が偽物。
 けれど、歩き方も、金髪も、五月の若葉のようなまなざしも。
 何もかもが同じ。ただ白と黒、着ている服が違うだけで。
(良く分からないわね……)
 と、黒騎士がキッパリと、
「大丈夫だ。君を必ず無事に連れていく」
 ペディは目を見開いた。それは、昔ガーバがペディにかけてくれた言葉だったからだ。
(黒騎士が本物?)
 けれど、ペディの中で誰かが囁いた。判断するのはまだ早い、と。
 一方、白騎士はペディ同様、黒騎士の言葉に驚いていた。
(昔、ペディを祖父のもとに連れて行く時に、ペディを安心させるために言った台詞だ。
まずい、「その言葉を知っているならば、黒騎士が本物」と思われるかもしれない)
 白騎士は口を開いた。彼女になんとか、自分が本物だとわかって欲しくて。
 けれど、言葉が出てこない。なんと言えば信じてもらえるのだろう……。
 自分の有利を感じた黒騎士、僅かに微笑んで、身構える。
「ペディ、オーガと戦う私の身を、ペディが案じて気に病む必要はないよ」
 そして、さあ戦おう、と大地を蹴った。

 ペディ、今の自分の心を読んだかのような黒騎士の言葉に驚き、最初は安堵した。
 でも、なにかおかしい。
(戦うガーバが心配だってことは、気づかれないようにしていたはずなのに……)
 黒騎士が白騎士に突っ込んでくる。丸腰に見えたが、月光の下に一瞬、仕込み刀が光るのが見え、白騎士はとっさに相手の腕を受け流した。
 そして後ろに退く。その白騎士の眼と、ペディの眼があった。自分同様驚いた様子だった。
「心配? ……私を、か?」
 ペディは悟った。月光を受ける翠眼は間違いなくガーバのもの。
「ガーバ!」
 ガーバが来てくれたと思うと、やっぱり少しほっとする。白いドレスの裾を持ち、白騎士の方に向かって走る。
「ラムズ・タアーコド!」
 契約の象徴という意味の言葉を力強く唱え、少しの恐れもなく白騎士の懐に飛び込む。
 白騎士、姫君が確信を抱いて走ってくる様子に、安堵したように微笑した。少し身を屈めて待ち、今までで一番勢いのある口づけを頬に受け、背中に庇う。
「何故だ」
 ショックを受けた様子で黒騎士が尋ねる。
「君と私しか知らない言葉を知っていたじゃないか」
 白騎士と姫君は視線を交わした。姫君は再び黒騎士を見て、決然と、
「でも、この人が間違いなく本物よ。私にはわかるの」
「くっ……!」
 ヤケを起こしたように黒騎士が走ってくる。
 白騎士がシャイニングアローを発動、その周囲に数個の光の輪が浮遊し、鏡のように光ると、黒騎士の攻撃を跳ね返した。
「ぐぁっ……!」
 黒騎士、後ろに下がる。距離をとって相手が来るのを待ち、仕込み刀での反撃を狙っているようだ。
 オーガを倒さなければ、ペディを救えない。
「そこにいて」
 白騎士は姫に囁き、大地を蹴った。木を背にするようにして、黒騎士に仕込み刀で攻撃する。
 黒騎士の鎧がキンッと鳴って、刀を弾いた。黒騎士は防具の隙間を狙って反撃してくる。白騎士は再びシャイニングアローを発動する。
 至近距離からの技発動に、黒騎士がはじき飛ばされる。白騎士は転がった黒騎士に駆け寄ると、白い首筋目がけて仕込み刀を突き刺した。
「……っ」
 ペディ、自分が刺されたように身をすくめた。本物が傷つく様子をありありと思い浮かべてしまったのだ。
 黒騎士は痙攣し、やがて事切れた。死体の代わりにピーサンカが残された。
 ガーバはほっとしていた。運良く急所に当てられたが、難しい闘いだった。
 敵も自分と同じ防具を装備していたので、急所に当たらなければ仕込み刀ではダメージが入らなかった。また、シャイニングアロー二回では、自分と同じ体力の敵に止めを刺せなかった。
 より難しい依頼であれば、同様にはいかなかったかもしれない。
 ともあれ、勝ちは勝ちだ。

「ごめんなさい、ガーバ」
 ペディは白騎士に近寄ると、頭を下げた。
「ペディが気にする必要はない。無事でよかった」
 しゅんとしているペディを慰める。
 青年の脳裏に、先程敵が口にした言葉が思い出された。
(敵がペディの記憶や感情を引き出していたのなら……)
「私を危険にさらしていると、気にしているのか?」
 彼女は素直に頷いた。
「ガーバみたいに、私も神人として頑張りたいと思ったんだけど……」
 その返答にガーバは少し考える。
(友人の事を話す必要性があるな)
「さあ、戻ろう」
 ガーバはペディに手を差し出した。出会ったあの日のように。

●語らずとも
 ソノラ・バレンシアは足に纏わりつくドレスに舌打ちした。動き回るには邪魔だ。
 彼女は先程からおかしな話の展開の理解に苦しんでいた。
 うっかり敵の術中にはまった、というのはわかったが……。
(……何だこの状況。いやいやいや飛鳥と同じ顔した二人で私を取り合うとかさー……)
 向こうから白い飛鳥・マクレーランドが来たと思ったら、あっちからも黒い飛鳥が現れた。
 そして決闘とか言ってにらみ合っている。
(オーガのくせしてロマンチストなわけ? 何ていうかこそばゆいわ)
 ともあれ、どっちかが本物でどっちかが偽物なのだろう。
 白衣の飛鳥はソノラをちらっと見る。優しい微笑が浮かんだ。
「安心してくれ、俺が勝つ」
(あれ。なんか白い方はいつもとキャラ違うか?)
 とはいえ、これだけで即断はできない。ソノラは数歩退いて戦いを見守ることにした。

(俺と同じ顔の奴と戦うっていうのも妙な感覚だな)
 黒衣の飛鳥は油断無く敵を見やる。正体はオーガとはいえ、見た目は人間、しかも自分。
 しかし飛鳥は、人間に銃を向ける事にもためらいはない。賞金稼ぎとしての過去が彼を落ちつかせていた。
「まぁいい、とっとと終わらせるぞ」
 冷淡に言い放つと、咥えていた煙草を捨てて、黒騎士はガンホルダーから二丁拳銃を取り出す。全く同じ落ち着き、同じ滑らかさで、白騎士もその両手にHS・アーミーM6-38口径を構える。
 ソノラは固唾をのんだ。二人の人間が撃ち合う、それも自分の為となれば、流石にいい気はしない。
(本物に当たりませんように)
 全く同時に、四丁の銃口が火を噴いた。同時に二人の影に動揺が走る。
 黒騎士は右肩と左足に、白騎士は左の脇腹と右腕に銃弾がかすっていた。
 機敏な動作で、白騎士は木の陰にいったん退いた。物陰から狙撃してくる。黒騎士もほぼ同時に岩陰に隠れ、同様に盾に使いながら銃撃を浴びせる。月光を反射する白騎士に比べて、夜陰に紛れる黒騎士は有利だ。数発の弾丸が白騎士をかすめた。
「くっ……」
 白い衣装が赤黒く染まっていく。
「負けるものか。ソノラは必ず俺が守る」
(……は?)
 ソノラ、きょとんとした。
(あーうん。本物の飛鳥ならそんなこっ恥ずかしい事、面と向かって言わないな。
って事で偽者が白で本物は黒い方!)

 一方、黒騎士は追撃のチャンスを窺いながら、偽物の台詞に微かに眉をひそめた。
(「必ずソノラを守る」、か。それを同じ顔の偽者が言うのはいい気分しないな)
――ソノラを守るのは、俺だ。
 と、銃撃が止んだ僅かな隙を突いて、岩陰へと走ってきた者がいる。
「ソノラ?!」
 ここは危険だ、ととっさに静止しようとして、彼女が自分を本物だと悟り、トランスに来たのだと理解する。
「……行くぞ」
  飛鳥が声をかけると、二人で同時に、
「「ぶっ飛ばす!!」」
 頬に口づけを受けると、黒騎士は姫君を庇うように岩陰から姿を見せた。
 格好のターゲットと、白騎士の銃撃が鳴り響く。
 腕を肩を、銃弾がかする。苦痛をものともせずに黒騎士は闇に光る銃口を見極め、そこにダブル・シューターを放った。
 両脇から迫る銃弾が敵の逃げ場を奪い、まともに銃弾が当たった白騎士の苦悶の声が響く。
 黒騎士はなおも慎重に撃ち続けた。ソノラに一発も弾が当たらぬよう警戒・威嚇しながら。
 やがて白騎士の心臓に弾丸が命中し、死体はピーサンカへと形を変えた。

「はーよかった。顔だけじゃなく力量も飛鳥と互角なんてね」
 ピーサンカを指先で弄びつつ、ソノラはほっとした様子だ。
「しかしソノラ、お前どうして俺が本物だって分かったんだ?」
「本物だって分かった理由? だって普段の2割増しぐらいで優しかったし。
それに『お前を守る』とかそんな事言わないっしょ? 飛鳥そーいうキャラじゃないし」
 軽い調子でそう言われて、飛鳥、物思いに浸るように呟いた。
「確かに、お前にそんな事言った事ないな。
……でもそう思ってるのは事実だ」
 ソノラ、歩みを止め、彼の碧眼を見た。当然のような彼の小声の台詞が、一瞬信じられなくて。
「って何? 今なんか言った?」
「いや、何でもないさ。早く帰るぞ」
 飛鳥はソノラがオーガの術中にはまったことを責めるでも、命の危機から救ったことを喜ぶでもなかった。
 勝てばそれで良い。ただいつもの依頼のように仕事をこなすだけだ。
 クールに促して、ソノラの背を叩く。
(……そう思ってるのは事実……つまり守るっていうのは……うわー何か恥ずかしいぞちょっと……)
 色の白い頬に赤みが差して、ソノラは思わず視線を彼からそらした。
「……何だそんな顔して?」
「な、何でもない!」
 冷たく見えた月光も、今は二人に優しく落ちかかるようであった。

●姫は剣より強し
 烈火の閃光が闇を引き裂く。
 月光の下で続く激しい銃撃戦。
 マグナブレイクを手に撃ち合うのは、一人は純白、一人は漆黒の衣装のディエゴ・ルナ・クィンテロ。
 力量も互角、防具も互角なら、まず殆どの攻撃が互いに当たらない。当たっても浅く皮膚を裂いて、焼けつく痛みを残すのみ。
 乱撃戦にも拘わらず互いに決定打がなく、緊迫した状況が続いていた。
「顔も声も、戦い方の癖まで俺とうり二つか。非常に気に食わんな」
「それはこちらの台詞だ」
 冷淡な声が飛び交い、頭部や心臓を狙った容赦ない銃撃が空を裂く。

 その時だった。
 純白のドレスの姫君、ハロルドの声が、鈴のように響いた。
「やめてー私のために争わないでー」

 あまりの棒読みっぷりに、決闘に白熱していた二人、動きが止まる。
「本当にやめてしまいましたね。ちょっと言ってみたかっただけなのですが」
「ひ……姫!」
「ちょっと待て!」
 姫、何事もなかったかのようにシャキーン!とカメラ目線で、
「それはさておき本物を見極めなくては!」
「姫……どこを見て喋っているんだ?」
「白騎士よ、そこはつっこまない方が」
「二人の騎士様、いい感じにやめてくれたのでちょうど良いです。姫のお願い聞いていただけますか?」
 二人は同時に顔を見合わせ、口を開いた。
「勿論だ、姫君の願いを無碍になどできない」
「今は姫君の信頼を得ねばなるまい。この夢から救い出すためなら何でもしよう」
「ん? 今何でもするって言いましたよね?」
 ハロルド、悪戯っぽく小首を傾げて、
「本物の騎士様なら、私が今、恋愛小説に熱をあげている事は知っているはず。
なら、私に愛の言葉を贈ってもらえないでしょうか?」
「……何っ……」
「愛の言葉?」
「私がどんな小説が好きで、どういう台詞にときめくか知ってるはずです」
 白騎士、予想外の事態に背中を冷や汗が伝うのを感じた。
(……なんでもすると言ったが……)
 むしろ何とかして黒騎士をやっつける方が楽かもしれない。
(まずい……)
 確かに小説を(無理やり)貸してくれた事はあった。
 だが、ああいうものはむず痒くなってしまうから、斜め読みしかしていない。
 白騎士、ちらりと黒騎士の顔色を窺う。自分と同様困惑した顔をしている。
(しめた、敵も同レベルならいけるかもしれない)
「最初は白騎士様から!」
「えっ、俺?!」
 敵の言うこと聞いてから発言しようと思っていた白騎士の計画、一瞬で崩れる。
(愛の言葉、愛の言葉…………!)
「こ……今夜は月が綺麗、だな……」
 白騎士、姫の仏頂面を見て絶望的な気分になった。
(こんな事で負けてしまうのか。姫の命が……)
「では、黒騎士様」
「ひ、一目見た時から、君のことが好きだった。ずっと、これからも一緒だ」
 しかし黒騎士の方も棒読みである。
 ハロルド姫、仏頂面を崩さぬままうーん、と唸って、
「……偽者がわかりました」
「おお、姫?!」
「どっちだ?!」
「黒騎士様のたどたどしい感じもディエゴさんっぽくはあったのですが……」
 姫、ドレスの裾を持ち上げると、颯爽と白騎士のそばに走り寄った。
「私の騎士様、トランスしてくださいますか?」
「姫、何故俺が本物だと……」
「ほんものの騎士様は、そもそも私が貸した小説を真面目に読んでいない、それくらい気付いてます」
 何だか微妙だが、信頼を得られたようだ。
 白騎士、安心して、身をかがめて頬にキスを受ける。
「Youre My Best Friend」
 姫君、何を思ったかもう一度インスパイアスペルを唱え、白騎士の手の甲に口づけ。
 白騎士、何故にハイトランス?と思ったが、深く気にせずに銃を構え、姫君を庇うように走りながらパルパティアンⅡを放つ。
 攻撃力が一気に上乗せされ、さらには命中も研ぎ澄まされた銃弾が黒騎士の肩をかすめた。
「くっ……」
 姫君に見放され、絶望に顔をゆがめながら、黒騎士が距離を取ろうとする。白騎士は続けざまにパルパティアンⅡを放った。
 腕を撃たれ、呻く黒騎士に背後から忍び寄る陰。
「…………ディエゴさんに成り済まして近付くなんて、こいつァ、メチャ許さんよなぁあ!?」
 姫、髪を振り乱して襲いかかる姿は鬼神のよう。
「お前は今! 完璧に私を怒らせた!」
 マジ切れした姫、相手の脇の下に両腕を回し持ち上げ、後方に反り返って豪快なバックドロップ!
「……からの逆エビ固め! エグい角度だ!」
 なぜか解説に回る白騎士。姫、ぐぁぁぁぁ、と凄い声出してるの顔ディエゴさんですがいいんですか。
「ロープがないから逃げられない、ギブアップするか?」
 白騎士、思わず黒騎士にギブアップの意志確認。
「ギ……ギブッ」
 黒騎士、必死にタンタン大地を叩く。
「……違う、危ないから離れてくれ」
 姫、スカルナイトナックルでがっつり頭を殴ってから離れる。
「襲った相手が悪かったな」
 完全に戦意を無くし大地に倒れ伏す黒騎士に、白騎士は敵ながら若干の哀れを催しつつ、最後の引き金を引いたのであった。

●終幕
 金の波に小舟が揺れる。
 独りでにやってきた舟は、勝者と姫君を乗せ、静謐な湖に滑り出した。



依頼結果:成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

名前:アマリリス
呼び名:アマリリス
  名前:ヴェルナー
呼び名:ヴェルナー

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼鷹
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 通常
リリース日 04月29日
出発日 05月06日 00:00
予定納品日 05月16日

参加者

会議室

  • [4]ソノラ・バレンシア

    2015/05/05-05:11 

    おっと挨拶し忘れるところだった。
    ソノラさんですよー、まぁ適当によろしくねー。

  • [3]ペディ・エラトマ

    2015/05/04-22:19 

    こんにちわ。私はペディよ。
    今回はみんなで作戦を練ることもないけど、それぞれ楽しめるといいわね。
    よろしくお願いします。

  • [2]アマリリス

    2015/05/03-11:43 

  • [1]ハロルド

    2015/05/02-21:20 


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