【悪夢】魁!スーツ倶楽部(上澤そら マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●贈り物
 男の元に、可愛らしいギフトボックスが届いた。
「あら、誰からかしらん?」
 一般的には知られていないが、その筋の者には第一人者として有名な彼。口調との不一致はまぁそう言うことだ。
 このような贈り物が届くのは無い話ではない。
「うふふ、直接渡さないなんて、トゥーシャイシャイボーイね!」 
 
 迷いもなく男は包みを開き、ボックスを開けた。
 こうしてたちまち彼は眠りの世界の住人となってしまったのである。

●その筋
「た、大変ですわっ。ウィンクルムの皆様……!」
 A.R.O.Aの職員が依頼を説明する。
 とある有名人物が眠りから目覚めないという。そしてその枕元にはギフトボックス。
「最近、よく見られる現象、ですわね……恐らく彼もオルロック・オーガの餌食となってしまったのでしょう……」
 オルロック・オーガ。
 対象者の夢の中に入り込み、そこで対象者を喰らう。
 夢の中で喰らわれた者は現実に石化してしまうのだ。
「この方に何かあったら一大事ですわ、センセーショナルですのよっ。どうか彼を助けてくださいましっ」
 で、その有名人とは?と尋ねれば。
「かの有名な伝説のお店『ホスト倶楽部☆ナルキッソス』の創業者である『根来 泰数寄』さんでしてよ!」
 ドヤァ!と職員が胸を張る。が、一同はポカーンとした表情。
「え?ねく・たいすきさんですわよっ!?あら、驚きすぎてお口ぽかーん、なのかしら?」
 誰?何?本名?と周りが騒めけば。
「皆様、もう少し周りの世界に目を向けてくださいまし。根来 泰数寄さんは……」

 ここから2時間30分程の講義が始まるがどうでも良いので割愛する。
「つーまーり!根来さんはあの有名なホストクラブ『ナルキッソス』の創業者で、世界に散らばる健全ホストクラブ『ナルキスグループ』のドン!この世界では知らない人はいない程なのですわ!」
 むしろこっちの世界には知ってる人もいない、というツッコミを皆飲みこんだ。
「彼がどんな夢を見ているのかわかりかねますけども……どうか必ずや世界を……ホストクラブ愛好家の世界を救ってくださいましっ!」
 狭い世界だなおい。
 そんな気持ちを抱えつつも、選ばれたウィンクルム達は男を救うために夢の世界へと潜入するのだった。
 ちなみに職員はどこからどう見ても角刈りの雄である。


●ホストクラブへようこそ!
 夢の世界へ入り込めば、一つの扉。
 耳を澄ませば……嫌、耳を澄まさなくともその扉の中からは男女入り混じった嬌声が聞こえる。
 意を決し、その扉を開けば……真っ赤な絨毯にシャンデリア。薄暗い店内だがところどころピカピカとしたライトが光る。
 店内にはたくさんの男と女。
 低めのテーブルには酒やつまみが並び、ソファーでじゃれ合う男女。
 だがしかし……嬌声を上げる彼ら、彼女らは影であることに気付く。姿かたちは人間のように見えるが真っ黒いそれらは薄気味悪く感じられ。

 そんな中、一人でテーブルに座る男……女?いや、男?と悩んでしまう人物がいた。
 ソファーに腰掛け、優雅にワイングラスを傾けるその人物はウィンクルム達を見つけると手招きする。
 恐る恐る彼に近づけば……うん、やっぱり女性の格好してるけどこの人男だわ。
「やぁね、そんな熱い眼差ししないでくれるぅ?」
 悪戯な笑みを浮かべる彼は周りに居る8人のウィンクルムを見回し、彼らを舐め回すような視線を向ける。
「うふふ、よく集まってくれたわね。さぁて、あたしにラヴレターをくれたのは誰かしら?」
 そう言うと、彼は胸元から一通の封筒を取り出す。
「『今夜、貴方の命と 一番大事なものを 奪います』……情熱的じゃなぁい」
 うっとりとした表情を見せる彼。
「しかし、馬鹿にされたものね。あたしは自分の命なんて惜しくないわ。でも、そのまま捧げちゃうのはツマラナイの」
 彼が指をパチンと鳴らすと、先程まで影だった男女が生身の人間へと変わる。
「あなた達には今夜、このお店のホストとなってもらうわ。今夜一番お客様を満足させ、そして売り上げをあげた者にあたしの命と……大事なものをあげるわ、ふふ」
 楽しそうに彼は笑う。
 なんだ、なんなんだこの勝負。しかし依頼通り彼を護るしかない。

 そう思い、隣に居る精霊を見る……がそこに精霊はいない。居るのは、スーツを着た自分。自分!?
 その自分は自分の姿を見て驚きを隠せないでいる。
 鏡を見れば……そこに映るのはスーツ姿の自分と、精霊。
 つまり今、自分は精霊の姿をしていて、精霊は自分の姿をしている。
 いや、16歳程の年齢だった精霊は精悍な顔つきをして20歳をゆうに超えているように思われる。
 周りを見渡せば、他の6人も困惑した表情を隠せないでいた。

 何がなんだかわからない。
 しかし、自分と精霊以外の他者6人の内の一人がオルロック・オーガなのだ。
 己が優勝すれば、きっと最後に姿を現し、泰数寄を襲ってくるだろう。
 その隙に、撃退すれば……!!

 頼れるのは、己と……自分の精霊のみ。
 この戦い、負けられない……!そう誓うスーツメンだった。

解説

【注意】
この夢では、他参加者様のことを綺麗すっぱり忘れています。
他ウィンクルムの誰かがオーガの可能性がある……とPCは思っているとお考えください。
そして神人と精霊の中身が入れ替わっております。

また、20歳未満の方は強制的に20歳以上の姿になっているものとします。
こだわりある方は大人の姿記載もぜひ。
なので全員お酒煙草OK。

【流れ】
ホスト勝負~表彰式。

夢から覚めた後の描写はプランによりけり。

正直、戦闘描写はほとんどないと思ってください。
自動的に優勝した方が泰数寄を護ることになりますが、プランに記載なくてOKです。
またトランス済みですので表記も不要です。

【ホスト勝負】
ウィンクルム1組に2人の客がつきます。
お客様を楽しませればOK。
どんな接客をするのか、得意技等お書きください。

またお客様2人の性別はご自由にお考えください。
男同士、女同士、男女混合の二人組も可です。
接客しやすいペアを想定してくださいまし!

一番お客様をメロメロにした方一名がが表彰されます。
命もそうですが、大事なものとはなんなのか……!?

【偽ウィンクルム】
●ミッキー
 陽気な金髪ホスト。派手でヤンチャ。仕事で人を殺しそうなタイプ。
●ザワター
 黒髪クールなホスト。あまり気が乗ってない模様。趣味で人を殺しそうなタイプ。

誰がオルロックオーガですが推理は野暮ですぞ。

【他】
どんなスーツ着ているのか詳細あると悦びます。
ただGMが知りたいだけです、てへ。

しっとり女性を接客するも、ノリノリ接客するも
年配女性を癒すも、大人ぶるもカワイコぶるも、どんと来い!
レッツ ら スーツ!

ゲームマスターより

何故この題材でコメディになるのか(略)上澤そらです。
4月は個人的に自分の趣味嗜好を押し出す月間になりました。

スーツ萌えです。
正直、どちらかと言うと本当はホスト系よりサラリーメンのスーツが好きです。
くたびれたオッサンスーツも大好きです。
スーツ好きを拗らせてこんなエピソードになってしまいました、ホストクラブ行ったことないくせにね!

EXにするのもアレなんで通常で参加人数少なめです。
むしろ人が集まるのかガクブル。

仕事と割り切り口説くのを頑張るのか!?
パートナーらしさを出すのか、自分らしさを出すのか!?
自分がホストしてる姿を客観的に見てどう思うものなのか!?
そんなハピ寄りのアドです。

こんなんでもよかったら、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

柊崎 直香(ゼク=ファル)

  視線が高い
じゃなくて。ホストか。素直に従っておこう

女性同士ペア選択
服装:緩めネクタイ黒スーツ
髪:一本三つ編み

リードは僕に任せて、と小声でゼクに指示後
いざ戦場(席)へ。

初めまして!
不安留腐遭縷(ファルファル)でーすっ
と、低音ヴォイスで名乗り名刺渡し。
気軽にファーちゃんって呼んで♪

お飲み物何にしましょ?
お隣いいかしら?
あらやだ。いきなり近過ぎ?
うふふ。ごめんなさい
だってお姫様の愛らしいお顔、近くで見たくって

褒めて持ち上げてやや過剰スキンシップ
口調? さっきいいお手本がいた
シャンパンコールは楽しく歌うけどこの声だと難しいな

ゼク、僕の未来予想図に変なことしなかった?
あと数年もすれば逢えるから安心しなよ


西園寺優純絆(ルーカス・ウェル・ファブレ)
  ☆源氏名→ルカ

☆女組

☆成長後
・細身で166cmで中性的、胸辺り迄の髪を緩く縛る
・神人→少し大きめな黒スーツに胸ポッケに赤いスカーフ

☆スキル・会話術

☆心情
あれ?ユズ、ルカ様になってる?
しかもユズが大人になってるですの!
はいルカ様!
僕、頑張ります!
こんな感じで良いですか?

☆ホスト
「初めまして、ルカです
宜しくお願いします(微笑
あっお酒、僕が注いであげます(ニコリ
何にします?
了解なのだよ
…何か悩みでもあるんです?
なんかそんな風に感じたので…
気のせいなら御免なさい
でも僕で良かったら聞くので言って下さいね(優しく微笑
お姉さんの綺麗で可愛い笑顔が見れるなら僕はなんでもしますから、ね?(優しく手を取り微笑む」



胡白眼(ジェフリー・ブラックモア)
  灰ベスト黒ズボン薄青フリルシャツ腕まくり胸に白花

異常な事態に精霊さんも戸惑っておられる
体を返すためにも頑張らねば!(尻尾ぴーん

お相手させて頂くのは女性お二人
見よう見まねでひざまずきご挨拶を
未熟な身ですが精一杯尽くさせて頂きます
どうかご指導ください、ええと…姫!

これといった特技はありませんから
そのぶん心を込めた接客を!

煙草の火は言われずとも差し出したい
酒はもちろん俺が注ぎます
でもペースが早いならそっとたしなめましょう
嫌な事があったなら俺に聞かせて頂けませんか
酒精よりは頼りになれるかと…いえ、なります!

好物ですか?旨い酒です!
やっ、別にねだった訳では(耳ぺたん

別れ際には笑顔と共に胸の花を贈ります



●悪夢へようこそ!
 何がどうしてこうなった。

 ここはホストクラブ。
 そして神人と精霊の姿が入れ替わり。
 尚且つ、未成年者は20歳の姿だ。

 そんな状況の中、感動している者も居た。
 青い瞳に金色の髪を胸辺りまで伸ばし、緩く縛っている中性的な美青年……西園寺優純絆。
 少し大きめな黒のスーツを着込み、胸元には赤いスカーフ。パッチリとしたお目目に喜びの色が見える……が、中身は彼の精霊であるルーカス・ウェル・ファブレ。
 鏡に映る20歳の優純絆に
(コレが、大人になったユズ……!) 
 こんなに早く彼の成長した姿を見られるなんて、と感動しきり。
(ますます亡き妻のルチアに似ている……。ルチアが生きていたら親子と見間違うでしょうね……)
 目を細め亡き妻を思い返す。彼女が生きていたら……彼の空想の中にはルチアと優純絆と自分の姿。
「あれ?ユズ、ルカ様になってる!?」
 一方、優純絆はルーカスの姿に変身中。
 黒いストライプのスーツに身を包んだルーカス姿の優純絆は口を開け、驚きの表情だ。
 更に、隣にいる金髪の青年は誰だろう?と思う。
 身長は166cm程の細身で中性的な青年。どこか見覚えがある……
「ユズが大人になってるですの!?」
 その言葉にルーカスが頷く。
「ユズ、どうやらそのようです」
「わぁぁ、ユズってこんな大人になるですの?ビックリですの!……中身はルカ様ですの?」
 楽しそうな優純絆。しかしダンディなルーカス姿からこの口調。本日のベストギャップ賞だ。
「そうです、私です。しかしユズ、私の姿でその口調が頂けません」
 己の額に人差し指を充て、首を振るユズ型ルーカス。
「一人称を変えて敬語にしましょう」
 穏やかに微笑みつつ、ルカ型優純絆を見上げる。
「はいルカ様!」
 元気良い声と人懐っこい笑顔。そんな己を見るのは新鮮だとは思う。
「僕、頑張ります!……こんな感じで良いですか?」
 小首をかしげるルカ型ユズさん。
「良く出来ていますよ、ユズ。頑張りましょう」
 頭を撫でてあげたい所だが……例え中身は大事な優純絆とわかっていても自分を撫でるのは……と少しだけ悩む。
 全てが終わったら沢山彼を誉めてあげよう、と決意するルーカスだった。


●猫と指輪と
(どう見ても……ヤのつく自由業……) 
 鏡に映るのは白ストライプスーツに黒いシャツ、赤チーフでキメている胡白眼の姿。
 その中身は彼の精霊、ジェフリー・ブラックモアだ。
 細い糸目で鏡を見、訝しむ姿は物凄い威圧感だ。
 いつもの微笑みがないこと、また服装でこんなに印象が変わるものなのか、と思う。
(じゃなくて、なんでこんな厄介案件を引き受けてくるんだ、コイツは……)
 そして隣の彼へと視線を移す。
 黒いズボンに、華やかなフリルが着いた薄青のシャツ。灰色のベストを着用し胸元には白い花。
 腕まくりをし気合十分!なのはジェフリーの姿をした白眼。
 普段は絶ッ対にそんな恰好はしないだろう自分の姿。気だるげな雰囲気は微塵も感じられず、気合十分ヤッテヤンヨ!感満載だ。
 驚くジェフリーの視線に、白眼は思う。
(異常な事態に精霊さんも戸惑っておられる。身体を返すためにも頑張らねば!)
 猫型テイルスであるジェフリー姿の白眼の尻尾がピン!と立つ。
(おお!意外と自由に尻尾動かせるもんですね!)
 楽しげに尻尾を揺らし、耳を動かしてみる白眼。そんな様子をなんとも言えぬ表情で見守るジェフリー。
(アー……。オーガを倒すためだ、腹を括ろう)
 彼は白眼に近寄り、彼の左手を掴む。瞬間ビクッ!と驚く白眼。
「薬指の指輪は預かるよ」
 そう言い、そっと左手薬指に光るものを取り外す。
「仕事の邪魔になるだろうから」
 銀の指輪をポケットにしまうジェフリー。
 その言葉に偽りはないが……それ以上の意味が大きいことは己の胸に仕舞った。


●おっきくなっちゃった!
 嗚呼。
 成程。
 悪夢だ。
 
 嬌声が入り混じる怪しげなホストクラブ。
 鏡の前でゼク=ファルは眉間に皺を浮かべる……が、その姿は褐色肌で銀髪のゼクではない。
 彼の目には、黒髪にパッチリとした金の瞳の青年が目に映っている。初めて会うその美青年はいつも隣に居る神人の面影がバッチリ、で。
「これ……直香か」
 そう呟く直香型ゼク。そして隣に視線をやれば……己の姿。髪は一本の三つ編みに縛り、黒いスーツを着用。緩めにネクタイを締めた姿はそれはそれはご馳走様です。
 そんなホスト姿のゼクの中身は、彼の神人である柊崎 直香。
(視線が高い)
 ノッポさんの気分を堪能する直香。
(じゃなくて。ホストか。従っておこう)
 依頼に対しては真面目な直香。嫌がらず遂行してくださる模様。
 ゼクはゼクで
(意外と背は伸びるんだな……)
 鏡に映る大人直香の姿をマジマジと見、また隣の自分の姿と見比べる。
「俺よりは低……」
「何か言った?」
 ポロリと零すゼクに、直香がギロリと視線を送ってきた。
「……いや。女に間違われることはないだろう」
「そーだね。それにしてもゼクさんや、随分と正装だね」
 大人直香の姿はキッチリ襟元までボタンを留め、ネクタイ着用の正統派スーツメン。お目目パッチリ美青年の正装ご馳走様です。大変美味しいです…!
 ゼクは軽い口調を話す自分にやや戸惑うが、それ以上にこれから赴く戦地が心配で。
「ホストの作法なんて知らんが……」
 そう呟くゼクに直香は
「リードは僕に任せて」
 満面の笑みを見せる己に違和感を隠せないゼクだった。
 

●モブ達
 準備を終えた8人のウィンクルムが呼ばれる。
 目の前にいる根来 泰数寄は彼らにうっとりとした視線を送った。
「みんな、素敵じゃなぁい。あたしを接客する勝負にすればよかったわぁ」
 うふふ、と笑いシナを作る汚カマ。これでもホストグループの長らしい。
「今回は女性二人組が4グループご来店よ。皆の手腕を楽しみにしてるわぁん♪」
 その言葉に参加者の一人、金髪でギラギラ派手系ホストのミッキーが声をかける。
「ってゆーかお前よ、大事なもんってなんなんだよ」
「えー、今はナイショ☆」
「……俺は……なんでもいい。とにかく……勝つまでだ。絶対に……な」
 黒髪のザワターが呟く。
「それじゃあ、皆ー!お客さんがご指名よー!たぁっぷり楽しませてきてねー♪」
 こうしてオカマのウィンクによって戦いの火蓋は切られた。


●笑顔が一番!
「初めまして、ルカです。宜しくお願いします」
 優雅に微笑むのは外見ルーカス、中身は優純絆。源氏名『ルカ』だ。
 落ち着きのある男性の姿にうら若き女性客は安心感を覚える。
「お初にお目にかかりますね、私はユズと申します。以後お見知りおきを……」
 恭しく礼をし、女性の前に跪くのは外見は優純絆、中身はルーカス。源氏名『ユズ』だ。
 王子様の如き笑みを浮かべる『ユズ』にアラサー女性はトキメキを覚える。
「では、何をお飲みになりますか?」
 『ユズ』がリードし、隣に座る女性の注文を聞く。『ルカ』も
「何にします?」
「そうね……ウィスキーのダブル。ロックで」
「了解なのだよ」
 ルーカスの姿をしていても、反射的にいつもの口調へと戻ってしまう優純絆。
「やぁん、おじさまってば可愛い♪」
 世の中にはギャップ萌えという人種がいるのである。
 ルーカスが指を鳴らしウェイターを呼び、注文を告げる。
 流石中身はルーカス、紳士的態度は優純絆の姿でも健在である。


●真心一番!
 現れた二人組の女性客。彼女たちの前で外見ジェフリー、中身白眼が跪いた。
 真剣に女性客の瞳を見据え
「初めまして、『ジェフ』です。未熟な身ですが精一杯尽くさせて頂きます。どうかご指導ください、ええと……姫!」
 赤毛の猫耳がピョコピョコ動く様は若干の緊張を伺わせるも、それが
「あら、可愛い子猫ちゃんね。お姫様だなんて嬉しいわ」
 とホスト慣れしていそうなマダムは上機嫌に笑う。
 一方、白眼姿のジェフリーは己の胸の赤いチーフをファサッと広げ席へ敷く。
「お席は此方になります、お嬢。……なんてね」
 茶目っ気ある表情でウィンクするジェフリーに、可愛らしい女性客はクスリと笑む。
「俺は『イェン』だ。よろしく」
 細い目の目尻を更に下げる彼、女性客には優しく落ち着きのある大人の男性に見えるのだろう。
 ……だがしかし、白眼は見た目年齢40歳。中身は21歳。実年齢は女性客より年下ホストなのはここだけの話だ。
 むしろジェフリーの年齢は32歳程なので、見た目と中身の釣合はとれているのかもしれない。
 『イェン』はさりげなく女性の隣に座り、酒を用意する。その姿に『ジェフ』も酒を用意し、二組の男女は乾杯、とグラスを傾けた。
(これといった特技はありませんから……その分心を込めた接客を!)
 白眼は心の中で握り拳をググッと握る。マダムと誠心誠意会話し、彼女の一挙手一投足に目を配る。
 そして彼女が煙草を取り出せば、ササッと笑顔でライターの火を差し出した。
「あら、気が利くのね」
「とんでもないです、姫に尽くすのが私の役目ですから」
 真心のこもった彼の笑顔と言葉にマダムも嬉しそうな表情。
 『イェン』も隣に座る女性にお酒を注ぎながら
「他の連中みたいないい男じゃなくて悪いね」
 申し訳なさそうな表情を浮かべる。可愛らしい女性は「そんなこと……」と言葉を発するが
「これじゃ俺が夢を見せてもらう立場だな……こんな華やかな女性の隣に座れるなんて」 
 そう儚げな笑顔を見せる『イェン』。流石、元妻帯者。女性のツボを捉えた発言に彼女は頬を染めた。


●ノリが一番!
「さぁ、行くよゼク。いざ戦場へ!」
 脳内でほら貝でも吹かれていそうな勢いで、直香は席へと進む。
「初めまして!」
 明るい笑顔を見せる直香に続き、ゼクも一礼する。
(夢とは言え、直香の身体。煙草はなるだけ遠慮しよう。リードすると言ってるし、上手く合わせ……)
 直香が懐から名刺を取り出し、彼女達へと渡した。
「お近づきの印に、これどうぞ」
 名刺?と思いゼクが覗き込めば
「『不安留腐遭縷』でーすっ!よろしくぅー!」 
 不安留腐遭縷と書いて……ファルファルと読む。暴走族もビックリだよ!
 更にゼクさんの低音ヴォイスで繰り出される。
「気軽にファーちゃん♪って呼・ん・で(はぁと)」
 バチコン!とウインク。
 直香型ゼクさんは石化した。
 女性陣には「このお兄さんおもしろーーい!」と大好評のようだ。だが
(俺の体で妙なキャラ演じるな字面何とかしろもう少しそれっぽい漢字なかったのかっていうか名刺どこから出したいつの間に用意した)
 ゼクの中で走馬灯のように流れては消えるツッコミの嵐。
(ほら、ゼクも挨拶!)
 と『ファーちゃん』が笑顔のままゼクに小突く。
「えーと、タダ……いえ、『ナオ』です。まだ新人なので不束者ですが宜しくお願いします」
 折り目正しく礼儀正しく。三つ指ついて礼をする姿はさながら新妻のよう……!懸命に挨拶する『ナオ』に「やーん、初々しくて可愛いー♪」と客の声が上がる。
「ちょっとぉ、ウブな方がお好みなわけぇ?」
 『ファーちゃん』が頬を膨らませながら、自然に女性客の隣に。
「そんなことないわ、お兄さん超渋いのに面白ーい!」
 楽しそうな笑みを見せる女性客に満足した表情を見せる『ファーちゃん』
「お隣座ってもいいかしら?お飲み物は何にしましょ?」
 グイグイと女性客のペースを掴む己の姿をした直香を横目で見つつ、ゼクも同じように女性の隣へ座り。
 『ファーちゃん』が結構な距離で女性客に煙草の火を差し出す。
 火を点けた後も、ジッと客から視線と距離を離さない。女性客は思わず頬を染め、見惚れる。 
「あらやだ、いきなり近すぎ?……うふふ、ごめんなさい。……だってお姫様の愛らしいお顔、近くで見たくって」
 ズギャン!と女性のハートゲージが激上げしたのがゼクにもわかる。
(成程。しかし俺には真似できん。っていうか直香はあーゆー台詞をどこで拾ってくるんだ、俺の姿で何を言ってるんだ)
 一瞬お客さんから遠い世界へ意識が飛びかける『ナオ』であった。


●抱擁的笑顔
「あ、お酒、僕が注いであげます」
 ニッコリとした笑顔を見せる『ルカ』に客も笑む。だがその表情は若さとは反対に、くたびれた印象が強い。
「お姉さん……何か、悩みでもあるんです?」
 ウィスキーを差し出しながら『ルカ』は小首を傾げる。
「え……どうして?」
「なんか、そんな風に感じちゃって……気のせいならご免なさい」
 申し訳そうな表情を浮かべる『ルカ』
「それに、こんなに強いお酒頼むんだも……頼まれましたから」
 その言葉に、女性客はやや下を向く。
 『ルカ』はロックグラスに手を付けたままの彼女の手に、自分の手を添えた。
「手……冷たくなっちゃいます。僕でよかったら、なんでも聞くので言ってくださいね。お姉さんの手と……心を暖めたいですから」
 柔らかな笑顔を見せる彼に、彼女は視線を上げ……ありがとう、と微笑んだ。
「お姉さんの綺麗で可愛い笑顔が見れるなら……僕はなんでもしますから、ね?」
 穏やかな『ルカ』の笑みと言葉に甘えるように、彼女は彼の肩にもたれかかった。
(ユズ……上手くやっているようですね)
 父親の如き役割を担うルーカス。上手く立ち回れていることに嬉しさ半面、ホストが上手にこなせるのもどうなんだろうか、と不安もありつつ……今は目の前の女性を癒すことに専念をする。
 相手をするアラサー女性は、『ユズ』に自分の仕事の愚痴をこぼす。それなりの年齢になり部下と上司の板挟み。
「……もう……疲れちゃった。って、貴方みたいな若い子に愚痴聞かせてもつまらないわよね」
 そんな彼女に『ユズ』は……いい子いい子、と彼女の髪を優しく撫でた。
「そっか……頑張ってるんだね。お疲れ様」
 天使のような笑顔を見せる彼の中身が、まさか経験豊富なオジサマだとは勿論気づいていない。思いがけぬ対応に彼女は目を丸くし、頬を染める。
「でも、頑張りすぎもダメだよ。だから今夜だけは忘れて楽しも?……貴方の愛らしい笑顔が見たいから」
 年端も行かぬ相手の包容力に、感謝と笑顔を浮かべる彼女だった。


●褒めて尽くして
 ジェフリーの姿をした白眼は甲斐甲斐しく相手のマダムの話を聞き、手足となる。
(お酒の注文が多いのは有難いですが……少しペースが早いようですね)
 同じ酒飲みだからこそわかる、彼女の酔い具合。楽しそうに笑い、飲んでいるが……どこか無茶しているようにも見える。
「あの……」
 話の腰を折らないよう気を付けつつ『ジェフ』が申し出る。なぁに?と真っ赤な唇の口角を上げるマダムに
「……嫌なことがあったなら、俺に聞かせていただけませんか?」
 彼女はハッとした表情を見せた。
「酒精よりは頼りになれるかと……いえ、なります!なってみせます!」
 そう力強く宣言する赤猫男子に、マダムは笑んだ。
「あら、お酒を飲ませる立場なのに、そんなこと言っていいの?」
「貴女はお客様である以上に、私の今宵の姫なんです。そんな姫の身体や心を心配するのは当然です」
 真摯な言葉を発する彼に
「あなたみたいな人、初めてだわ」
 マダムは上機嫌な笑顔を見せながら『ジェフ』の手を握った。
「ねぇ、貴方の好物って、何?」
「好物ですか……旨い酒です!」
 じゃあ、それを……と頼むマダムに
「あ、別にねだったわけではっ」
 いいのよ、と笑うマダムに『ジェフ』は耳をペタンとさせる。お返しに胸の花を彼女へ差し出せば、マダムは今日一番の笑顔を見せるのだった。

 外見白眼、中身ジェフリーも負けてはいない。とにかく相手の女性を褒めて褒めて褒めまくる。
 無理矢理感はなく、その言葉は心地よい歌の様にも聞こえる。
「その色の白さ……まるで雪のようだ。きっと手入れを欠かしていないんだろうね。それに、痩せているのに健康的で美しい……」
 彼女の手の指先から肩にかけてを眺める、その視線は妖艶で。
「あ、ありがとう。日焼けに気を付けたり……ジムにも通っているの」
 頬を赤らめながら言う彼女に『イェン』は
「あぁ……そのままでも十分美しいのに……そんな努力をしてるんだね」
 うっとりとした視線を投げ、彼女の瞳をジッと見る。
「わかったよ、素敵な君の……美しさの源が」
 え、なぁに?と驚く彼女に
「一番素敵なのは……美しくあろうとする君の頑張りだ。働きながら外見にも気を遣うのは大変だよね。……偉いなぁ……」
 そんなこと……と言いつつも嬉しそうな彼女。止めとばかりに『イェン』は彼女の耳元で囁いた。
「それに……今日のお客さんの中で、君が一番綺麗だ」
 耳元にかかる甘い言葉と吐息。
「隣の彼女にも、内緒だよ」
 そう言い彼女の肩に手を置く『イェン』だった。元妻帯者、強し。


●身近なお手本
「はぁ~い、ドンペリいただいちゃいましたぁん♪」
 キャアキャアと盛り上がるテーブル。直香はゼクの低音ヴォイスでシャンパンコール。
「この声だと難しいな」
 コソリと呟く直香に、ゼクは
「それより、なんなんだその口調は」
 客に聞こえぬよう小声でのやりとりに
「口調?さっきいいお手本がいたじゃなぁい♪」
 そうウィンクすれば、また女性客のお呼びがかかり。自然なボディタッチはカマキャラか、天性のものなのか。
 そんな中、女性客にお酒のお代りを注ぐゼク。
「すみません、俺、ぎこちなくて……」
 直香の動きを参考にしたいところだが……流石にあのキャラは無理だ。
(こういう時は……褒める)
「あの、姫が、綺麗……なんで、緊張して……」 
 小悪魔的美青年の無垢な姿に女性客はキュンキュンと頬を赤らめる。
 視界の端にプー、クスクスと頬を膨らます直香がチラチラ入ってくるが無視だ。

 こうして、享楽の夜は大盛り上がりで更けていった。


●表彰式
「皆ぁ、お疲れ様ぁん♪」
 これから殺されるかもしれないのに、泰数寄はご機嫌だ。
「それじゃあ成績発表ー!まず、準優勝は『ジェフ』よっ。おねだり上手だったわぁ♪」
 ペコペコと頭を下げる白眼。
「でもって!優勝は……『不安留腐遭縷』ちゃぁん♪さぁ、こっちに来て頂戴っ」
 彼に呼ばれ、外見ゼク中身直香が前へと進み出た。その時。
「もういいぜ!」
 ミッキーが突然、キレ気味に叫び出した。拳銃を取りだし泰数寄に向ける。
 即座に直香が泰数寄を庇うように立ち、他の者も武器を構えれば、敵に勝ち目なぞないことが容易にわかる。
「結局俺等の存在無視じゃねぇかっ!三組のクセになんで文字数ギリギリなんだよっ!」
「ちょっと何言ってるかわからない」
 ザワターは首を傾げる。
「少しは目立ちたかったんだぁっ!」
 うぉお!と弾丸を放とうとするも……ミッキーはその場で猛攻撃に合い。
 無事にオルロックオーガの討伐は完了した。


●無くならない記憶
 すっかり元に戻ったウィンクルム達。
「なぜ記憶が消えない……」
 バッチリと出来事が記憶に残っていることに頭を抱えるゼク。
「ゼク、僕の未来予想図に変なことしなかった?」
 いつもの調子で直香がゼクを見上げ、笑みを浮かべる。
「あと数年もすれば逢えるから安心しなよ」
「数年か……」
 伸びるのか、という言葉はぐっと抑え込むのだった。

「ユズ、大人の世界をたんのーしちゃったですの!」
 楽しそうなユズの頭を撫で、ルーカスもまた
(ユズの大きくなった姿、私も堪能しましたよ)
 と目尻を下げた。
「そういえば……泰数寄さん大事なものって何なんですかね」
 白眼が隣にいるジェフリーに声をかければ
「さぁなぁ……」
 わからない、と両手を上げて見せる。
「あ。泰数寄さんが来た」
 直香の声に一同が彼へ視線を向けた。
 
「みんなぁ、本当にありがとぉ♪」
「ねぇ、結局大事なものってなんだったの?」
 嬉しそうな彼に、直香が聞けば。
「そうそう、あの時渡せなかったのよね……」
 胸元に入っていたハンカチ……のようなものを取り出し、広げれば……Tバック。つまりパンツ。
「これはね、あたしが初めてお店に立った時に使っていた勝負パンツなの。あたしの汗と涙の結晶……って、ちょっと何皆帰ろうとしてんのよ!」
 一行は何も言わず聞かず、部屋を出ていく。
「ねぇファルファルちゃーーん!うちの店で働かなぁい?貴方ならスターになれるわよぉぉ!」

 引きつった表情で、無言のまま直香の後ろに隠れるゼクだった。(だが隠れられていない)



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 上澤そら
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 3
報酬 通常
リリース日 04月28日
出発日 05月04日 00:00
予定納品日 05月14日

参加者

会議室

  • [5]胡白眼

    2015/05/03-21:32 

  • [4]柊崎 直香

    2015/05/02-12:35 

    お仕事、お仕事。ゼクの格好で存分にお仕事。
    クキザキ・タダカと、壁際で項垂れている精霊はゼク=ファルだよ。
    よろしくどうぞ。

    面識無しのライバル同士がー。まあいつも通りやるだけです。
    シャンパンコールは盛り上がっていこうぜ。
    けんとーを、いのる。

  • [3]胡白眼

    2015/05/01-23:24 

    胡白眼(ふぅ・ぱいいぇん)と申します。
    うむ…ほすと…。接客業は多少経験があるのですが
    おもてなしがメインとなると話が違ってきますねぇ。
    しかしこれもオーガ討伐のため!
    自信はありませんが、ご指名頂いたからには誠心誠意尽くすつもりです。

    柊崎さんと西園寺さんとは当日はライバルという形になりますが
    どうか宜しくお願いしますね。

  • [2]西園寺優純絆

    2015/05/01-00:19 

  • [1]西園寺優純絆

    2015/05/01-00:19 

    ルーカス:
    胡白眼様とは初めましてでございますね
    柊崎様はお久しぶりでございます(微笑)

    ルーカスと優純絆と申します
    では改めまして…


PAGE TOP