


◆一夜限りの幻影商隊
彷徨えるバザー『バザー・イドラ』
100年に一度現れるという、謎に包まれたバザーはよほど強運がない限り遭遇することはない。
しかし、ショコランドの三女王が管理する幸せの灯火を集めるランプがあれば遭遇率は9割以上。
特別に貸し出された『幸せのランプ』を手に歩き続けていると、
気づけば見知らぬ市場に入っていた。
極彩色の液体の煮え滾るフラスコ。妖艶な微笑を浮かべる踊り子達。
眼深に被られた深紫のローブに、見たことのない昆虫がカゴの中で煌めいている。
突然現れた異様な光景に、直感的に把握した。
ここがバザー・イドラなのだ、と。
◆怪しい老婆の不思議なドロップ
カラカラ、カラカラ……
滑車の回る音が微かに聞こえる露店を見つけ、気になって近づいてみると
そこにはローブを纏う、背筋の丸まった老婆が座っており
極彩色に宝石のようなモノが滑車の淵を水車のように流れていた。
「ふぇっふぇ、婆の店にご入用か?ウィンクルム」
一目で見抜いた老婆に身構えると、老婆は枝のように細く節くれだった指で左手の文様を指差した。
「婆の店には楽しい飴が一杯あるぞよ、食べれば夢見心地じゃあ」
ふぇっふぇっふぇっ、と不気味な笑い声をあげる老婆は一つの小袋を手に取る。
「婆は手製の飴を売っておるのじゃよ、特別に今日はこの飴を売って差し上げましょうぞ」
老婆の見せた薄紫色の透明な袋には、真紅と藍色のまあるい飴玉が入っている。
それは今、夜空に浮かんでいるルーメンとテネブラのように思えた。
「これはお主らにピッタリの飴玉じゃぞ~……ふぇっふぇ!」
眼深にかぶるローブのせいで口元しか見えないが、老婆が愉快そうにシワの深い口元に笑みを浮かべている。
値段はいくらか問うと、老婆は勿体つけるように考え込んだ。
「ふぅ~む……そうじゃなぁ、これはとても特別な手法でしか作れぬ秘蔵の飴玉じゃ。
本来なら10000Jrは貰う所じゃが、今回は3000Jrにまけてもええぞよ?」
飴玉2つで10000Jrもとるのか、と思っていると……老婆は後押しするように言葉を続ける。
「先に言うたが、これは特別な手法でしか作れぬ故に量産も難しくてのぅ、
今日は4つしか持っておらぬのじゃぞ?……要らぬなら他の者に売りつけるだけじゃがのぅ」
要らないならそれで構わない。
老婆の言葉が、余計に購買意欲を刺激し煽ってきていることは頭で理解していた。
……しかし、怖いもの見たさの好奇心は老婆の言葉に危機感を感じさせた。
(今買わなければ、誰かが先に買ってしまう!)
「ふぇっふぇっふぇ、お買い上げありがとうございますじゃよ」
結局、老婆から真紅と藍色の飴玉を買ってしまった。
……しかし、誰が予想できようか。
真紅の飴玉は『対になる飴玉を食べた者に心の声が筒抜けてしまう』
藍色の飴玉は『対になる飴玉を食べた者の心の声が聞こえてしまう』
魔法の飴【サトラレドロップ】だったことを。


目的:
サトラレドロップ(税込3000Jr)の効果を楽しもう
周辺情報:
見世物小屋が近くにあるのか露出度の高い衣装を纏う妖艶な踊り子、白塗りメイクのピエロが多く見えます。
食べ物屋の屋台も見えるので飲食物も買えるでしょう。
(飲酒・喫煙は20歳以上の方のみ描写します、外見も実年齢も20歳以下の方は全カットします)
見世物小屋は2人で200Jr、飲食系は1個50~300Jrで買えます。
サトラレドロップ:
赤と青の対になっている魔法の飴玉です。
効果は一晩。(食べずにとっておいても霧散してしまいます)
寝てしまうと効果がなくなります。
味はとろりと糖蜜のように甘いです。
真紅は柑橘系のようなすこし酸味が強い甘さ、
藍色はブルーベリーのような爽やかな甘さです。
真紅→心の声が相手に解ってしまう (送信アメ)
藍色→相手の心の声が聞こえる (受信アメ)
文頭に『赤or青』と書いて下さい。
(判別できなくなるので)
諸注意:
・ウィンクルムは飴玉の効果を食べるまで気づきません。
(藍色の飴を食べた方は相手に教えなければバレる可能性は低いです(ないとは言ってない))
・飴玉は1ウィンクルム=1セットです。
両方食べる食いしん坊は魔法が誤作動してエラいことになります。
(描写数がかなり少なくなります)
・バザーに来ている一般人(?)も多くいます、立ち居振る舞いは節度をもってください。
その他:
アドリブを極力しないで欲しい方は『禁』と文頭に書いて下さい。
(マスタリングは必要に応じて加えます、予めご了承下さい)
木乃です、トップ絵はイメージ映像でルミノックスではありません(迫真)
今回は魔法の飴玉で相手の心の声を聞いちゃおうというエピソードです!
描写数増加とともにアドリブが増えてしまうため、
今回はアドリブ禁止表記として『禁』を文頭に書いて下さい。
(心情など掘り下げた描写になるかと思います)
それでは皆様のご参加をお待ちしております。


◆アクション・プラン
ハティ(ブリンド)
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・赤 飴にも驚いたが、それより意外だったのはリンの妨害が入らなかった事だ それはそう、だが…匂いにつられて屋台を見ていたのがバレたか 暫く甘いものは買うなって事だろうが口にした飴の味はそれでも構わないと思えた 甘いものを買ってもらうというより一緒に食べられるものを探したかったんだがな 俺だけは嫌だった 嫌いだと言われても何故か優しくされている気がして 落ち着かなかった リン?噎せてるが大丈夫か… いつもより無口でこっちを見ないリンを遠く感じそうで 手に指を…伸ばしかけて背中を擦る 買ってきた茶でも噎せてる…大丈夫か 突っ返されたそれをすすりながら首を傾げる まさかと思うが気付いてずっと気にしててくれたのか? …ありがとう |
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赤 柑橘系っぽい赤を食べた(柑橘好き 「甘酸っぱいけど美味い」 「そっちはどんな味だ?」 (青も食べてみたかったな) 「どうした?変な顔して」 (もしかして、独り占めしたかったって顔に出てたか?) (変な奴) 屋台を見に行こう おでんの屋台に入る (卵食べたいな) 「…サンキュ」(どうして食べたいって分かった?) 変な質問をされた 「夢じゃない」 (叶えなきゃならない) 「やるべき事だ」 (あの人の代わりに) 「目標だ」 (俺の代わりに死んだあの人の) (心を…読まれてる?) 「アンタに何が分かる?」 「それでも…俺に返せるのは、これしかない」 「俺には今はこれしかないから…」 (フィンはきっと正しい) 「言葉、覚えておく」 涙を隠し俯く |
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肉:青 ●心 妖艶な世界で楽しいです…ふふ!と バザーに溶け込む ●飴 興味を示す千亞に 「……マダム、その飴購入させていただきます」 即決。 千亞に両方渡そうとするが断られ。 選ばせ、残った藍色舐める 「爽やかで美味しいです。千亞さん、舐めかけでよければ交換……」 ●動 見世物小屋で千亞の心の声に 「……千亞さん、何か言いました?」 思案後 (千亞さんの尻尾触りたい!ハムハムしたい!) 念を送信するも無反応。受信のみと悟る。 言うか悩むが、打ち明ける。 飲食店で千亞が食べたいもの(内容&金額お任せ)を悟り 言われる前に購入。 驚く千亞に種明かし 「なんだかフェアじゃないので少し離れましょうか? それでも聞こえてしまうかも、ですが…」 |
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青 (これはリェンの気持ちが筒抜けって奴か…… レアな甘味だからって得体のしれんババアから買ったものをホイホイと食うもんじゃなかったな…… 逆だったら舌噛んで死んでるとこだ) さて、飴食っただけで帰るのもなんだから、何か見ていくか バザーをひやかして回る 甘いモノがあるなら買う 予算は500~1000jrでやりくり あ?会社の金をこんなトコで使えるか 欲しいもんがあるなら買ってやるぞ ペットに嗜好品与えるのは飼い主の義務だ リェンが俺に買われたことを喜んでいるのが嬉しくて辛い てめぇの境遇は俺が作ったもんなんだ そんな恩義を感じることじゃない てめぇがそれを知っても尚まだ買われたこと、嬉しいと思う……わけないな |
◆老婆の独白
「ふぇっふぇっふぇ、サトラレドロップは全て売れた」
老婆は魔法の飴を売り尽くし、愉快そうに口角を歪める。
「ウィンクルムに必要なのは、親密さ……互いの心をいかに通わせられるか」
老婆は飴玉を乗せて回っている滑車から一粒の黄色い飴玉を手に取り飴玉を顔に近づける。
「心の声なんぞ、本来なら知らなくても良いのじゃ。
心には不可侵領域とも呼べる、パーソナルスペースを誰しも抱えている」
老婆は、ただただ言葉を口に出す。
「どれだけ互いの不可侵領域を共有できるか、それがウィンクルムの強さとも言えるじゃろう。
さて、最初に買った青臭いウィンクルムは上手く使えとるかの」
老婆は摘んでいた、飴玉を口に放り込む。
その味は酸っぱくて甘さを知らない、もいだばかりのレモンのようだった。
◆ゴシュジンサマと狗
「3000Jrもする飴かぁ」
リーリェン・ラウは真紅の飴玉をルーメンとテネブラに向けて、見比べた。
鮮やかな紅色が、戦場を染める赤色に似ていてリーリェンは密かに興奮し躊躇いもなく口の中へと入れた。
「流石にうめーな」
腔内を占拠した真紅の飴玉は、酸味の強いオレンジのような味わいを醸し始める。
「3000Jrっていう割に、なんの変哲もない飴玉だね」
ローランド・ホデアは胡散臭い老婆の売り文句に、柄にもなく押し売りされた気分だった。
手の中にある藍色の飴玉。
その深い青色はまるで夜の暗い空を表しているかに見える。
表面には黒曜石のような黒髪と瞳、それらを際立たせるように白い肌が写っていた。
(ボッタクリなら、あの老婆を後でどうしてやろうか?今のうちに考えるのも一興かな)
見つめても飴玉の真価が解る訳でもない、ローランドはなんとなしに藍色の飴玉を口に含む。
凝縮されたブルーベリージャムのような、口当たりは爽やかなシロップのような甘さが口に広がる。
(不味くはないが、この程度の味で10000Jrだと?3000Jrでも高すぎじゃないか)
ローランドが内心、悪態を吐いた瞬間。
『いや、俺が貧乏舌だから高いと聞けば何でも美味く思えるだけか?』
「!?」
それは、嫌にハッキリと聞こえた……否、聞こえたというより、脳内に直接流れ込んできたようだ。
ここは屋台や見世物小屋の近く。
人通りの多い、がやがやと賑やかな雑踏の中でもハッキリと聞こえたリーリェンの声。
「……おい、なにか言ったか?」
「? なにも言ってないぜ」
鋭利なナイフのような、ギラギラとした視線を向けるローランドにリーリェンは口の中で飴玉を弄びながら首を傾げた。
『ロゥの奴、急にどうしたんだ?』
(……まさか)
副音声のように、続けざまに聞こえるリーリェンの声からローランドはある予想が脳裏をよぎる。
……今、口にしている飴玉の効果でリーリェンの心の声が聞こえているのだと。
(レアな甘味だからって、得体のしれんババアから買ったものをホイホイと食うもんじゃなかったな……)
逆だったら舌を噛んで死んでいるところだと、
内心毒づくローランドの気も知らないリーリェンは周囲にある興味の注がれるモノに気を引かれる。
「お、ほかの屋台も美味そうな匂いしてるぜ」
『肉ねぇかなぁ』
自分に素直なリーリェンの心の声でも己の欲求を素直に吐き出し、
ローランドならずとも心の声が聞こえてしまえば鈍感な者でも気付けてしまうだろう。
「飴食っただけで帰るのもなんだから、何か見ていくか」
ローランドはリーリェンが気づくとは思っていないものの、屋台も見ていくかとさりげなく提案する。
「やった!もう少し見てぇなって思ってたトコだぜ」
(そんなの知っている……こんな苦行、いつまで続くんだよ)
実際は一晩だけの効果だが、ローランドは持続時間すら知らない。
屋台通りへ脚を向けると、リーリェンもローランドの背中を追って行った。
***
「……ジャンクフードらしい、ありきたりな味だが悪くはない」
ローランドは屋台で見つけたハニーチュロスを頬張る。
糖蜜のような甘い飴玉から続けて蜂蜜を練りこんだチュロスのコンボは想像だけでもなかなかに甘ったるい。
「ロゥは甘いもの好きだねぇ、飴の次にチュロスとか」
(狗の分際で、生意気な)
脳内に響くリーリェンの感想に、咀嚼しているローランドはジロッと視線を突き刺す。
「社長サンなんだから、もっとぱーっと使えばいいのに」
「……いいだろう、俺もケチ臭い男じゃない。飼い主として狗の望む物を買ってやろう」
思ったことを口に出してくるリーリェンにピキリと僅かに青筋を額に浮かべるローランド。
……一見すると触れれば斬られてしまいそうな冷酷さを感じるが、その胸には苛烈なまでの激情を秘めているのだ。
安っぽい挑発だと解っていても、舐められてはいけない。躾と正しい忠誠心を覚えさせねばなるまい。
「リェン、好きな物を買ってやる。何が欲しい」
「え?なんか買ってくれんの?マジで!?」
リーリェンはローランドの言葉に耳を上下させ、もふもふした尻尾を動かし喜びを体現する。
「にひひ、ゴシュジンサマ太っ腹!何くおっかなぁ♪せっかくだから超高い……」
『もしかして会社の経費?経理?で落としてくれんのかなー』
「会社の金をこんなトコで使えるか、ペットに嗜好品を与えるのは飼い主の義務だ」
よって俺の自腹予算で……と言っている途中で、思わず心の声にツッコミを入れてしまい迂闊だったとローランドは思ったが、
リーリェンは予測して切り替えされたと思いペロッと舌先を出して誤魔化す。
「分かってる、予算の範囲内な」
リーリェンは軽く肩を竦めると周囲の屋台をキョロキョロと見渡す。
『串焼きも美味そうだなぁ、でもドネルケバブもイイしあっちの腸詰も美味そう』
リーリェンの思考は何処か嬉しそうな様子で、それがかえって聞いていたローランドを苛立たせた。
(……なんで、嬉しそうにするんだよ)
……リーリェン自身がローランドから多額の借金を盾に従属関係にある、そして借金を背負わせたのはローランド自身だ。
スラムの一角で見つけた、薄汚れても折れぬ孤高さを誇るリーリェンに一目で惚れ、
欲しいと心の底から思った時には、鬼畜の如き所業で借金地獄へとリーリェンを叩き落とし従属させていた。
そして、神の悪戯がローランドを神人へ顕現させた。
欲しいと想えば想うほど、己の所業は赦されるべきモノではないと思い知らされ、
感謝をするなと手酷く扱ってしまいたい衝動がローランドの中で湧き上がる。
「……チッ」
チュロスを食べきるとローランドは胸ポケットから細葉巻を乱暴に取り出し、火を点ける。
胸の内で燻る危険すぎる衝動を、紫煙に紛らせて吐き出してしまいたかった。
「ロゥ、奥の屋台も見てから決めていいか?」
「……さっさと決めろ」
苛立たしいほど、辛く思う感情をリーリェンに視線に乗せてぶつける。
『ロゥの奴、チュロスが口に合わなかったのか?』
「はーい」
人混みで視界の悪い屋台通りの遠くを見ようと、リーリェンは爪先立ちで僅かに背を伸ばしながら遠くに目星を付ける。
ローランドは短くなった細葉巻をペッと吐き捨てると、吸殻を踏み潰して消火し、すぐに新たな細葉巻を咥える。
「お、いいのみーっけ!ゴシュジンサマァ、俺あれが喰いたい」
匂いに反応したのか、あるところまで来ると辺りを見回して見つけた店を指差す。
リーリェンが何を見つけたのか、全く検討がつかなかったが吐いた唾は呑む訳にいかないしプライドが許さない。
「どこだ、連れていけ」
「はーい」
『あれなら口直しに丁度良いぜ♪』
機嫌よく尻尾を振るリーリェンが足を止めた場所は、とある屋台の前なのだが……そこは立ち食い形式の店だった。
屋台骨の中では鉄板の上でサイコロ状に切られた肉塊を鉄板で豪快に焼き上げている。
「あー、スマンが焼き始めたばかりでまだレアでな」
「いいぜ。俺、生っぽい肉の方が好きだし」
客のオーダーとあっては店主も断れない。
注文通りにサイコロステーキをすぐに紙の器に盛りつけ、軽く塩をふりかけた後に使い捨て用のフォークを添えて渡す。
「100Jrだ」
ローランドは店主から聴いた金額を差し出す。
「うっは、美味そう!」
簡易カウンターに紙皿を置くと深呼吸するようにすぅーっと匂いを確かめる。
焼けた肉の芳ばしい香りにほのかに混じる塩と胡椒が食欲を掻き立て、染み出す肉汁が見た目にも食欲をそそる。
「ゴチになるぜ、ゴシュジンサマァ♪」
パクッと一口食べると最初は味を楽しむようにじっくり咀嚼すると、続けて2個、3個と口に放り込む。
ローランドは幸せそうにレアのステーキ肉を頬張るリーリェンの横顔を見つめていた。
『うめぇなぁ、ホントうめぇ』
また、脳内にリーリェンの心の声が聞こえる。
耳を塞いでも無駄だろうと思い、食事を楽しむリーリェンに見えないように険しい表情を浮かべる。
『ほんと、俺をどん底から救ってくれて、しかもウィンクルムにまでしてもらって……ありがたいことこの上ないな』
(……やめろ、てめぇの境遇は俺が作ったもんなんだ)
今のローランドはリーリェンの表情が見えていない、しかし嬉しそうに食事をしているのだろうと心の声音で解ってしまう。
『道具だろうが、ペットだろうが……【俺】を必要としてくれた人なんていなかったんだし、感謝しきれないぜ』
(そんな恩義を感じることじゃない、感謝をするな。嬉しそうにするなよ……)
「ロゥ、大丈夫か?なんか顔色悪いぞ?……もしかして、ロゥも肉喰いたかったか?」
ふと、様子がおかしいローランドに肉汁の滴るサイコロステーキをリーリェンはフォークで差し出す。
「主人に餌を食わせようとする狗がどこにいる」
痛む頭を押さえながらギロリと睨みつけると、リーリェンは「へーい」と軽く返事を返し再びサイコロ肉をパクパクと食べる。
(……追い込んだのは俺なのに)
自責の念が再びローランドの胸中に押し寄せる。
(てめぇがそれを知っても尚まだ買われたこと、嬉しいと思う……わけないな)
ローランドは密かに自嘲した、己の愚かさと浅ましさに。
◆老婆は思う
「人は心を隠さぬ者と、見せることを恐れ、ひた隠す者がおる」
再び滑車から取り出したのは、桃色がかった赤い飴玉だった。
「隠さぬ者は、恐るものがないのやもしれぬ……いや、孤独であることを恐るからやもしれぬのう」
指先で弄ぶように転がる飴玉はランプの灯りでふわりと赤い光を放ち老婆の肌を照らす。
「では、隠す者は一体何を恐れるか。嫌われることか、受け入れられぬことか……あるいは、拒んでいるのか。
……あの、躊躇いなく買うたウィンクルムはどうなのかのう」
老婆は2つ目の飴玉を口にする。
それはほんのりと甘く、酸味の残る初々しさを感じさせる苺のようだった。
◆打ち明ける勇気
(うわ、凄い高値……!でも美味しいんだろうなぁ)
千亞は完全に老婆の売り文句に誘惑されていた。
薄紫色の袋に詰まった2つの飴玉に目を輝かせ、視線は釘づけになる。
「ふふ……マダム。その飴、購入させていただきます」
千亞の興味を引く不思議な飴玉。
明智珠樹が財布の紐を緩めることに躊躇いは一切なく、財布から3000Jrを取り出す。
「え、そんな簡単に?」
「ふ、ふふ、要りませんでしたか?」
「……そりゃ、嬉しいけど」
即決購入しようとする珠樹に思わず千亞は驚くが、珠樹からしてみれば千亞が欲しがっているモノを贈りたいという気持ちがある。
……何より、甘いお菓子の限定品となれば千亞が惹かれることはなんとなく解る。
千亞も素直に嬉しいと表現出来ないのか、照れくさそうに目をそらしているがウサギの耳はぴょこぴょこと揺れていた。
「ふぇっふぇ、良き夢を」
代金を受け取った老婆は可笑しそうに笑みを浮かべ、珠樹と千亞を見送る。
「ふふ、千亞さん!私からのマイ・スィート・プレゼンツですよ、ふふふ!」
バザー・イドラの雰囲気に興奮気味なのか、単に千亞へ贈り物ができることが嬉しいのか。
珠樹は興奮気味に片膝を付いて千亞に二つの飴玉を献上する、傍から見ると色々と誤解を招きそうである。
「恥ずかしいからやめろド変態!」
「ありがとうございます!!」
目下に見える珠樹の額に軽くチョップをかまして諌める千亞、珠樹が嬉しそうなのは我々の業界ではご褒美だからです。
「もうっ、赤い飴はもらうから珠樹は青い飴食べなよ?」
千亞は珠樹の手から真紅の飴をひょいっと摘み上げて頬張る。
「ふふ、ご褒美オンご褒美……では頂きます」
珠樹はハスハスと鼻息を荒げながら藍色の飴玉を口にする。
「爽やかで美味しいですね」
「こっちはオレンジっぽくて甘酸っぱいよ」
モゴモゴと口の中を動き回る甘い玉が2人の頬を膨らませる。
「ふふふ……千亞さん、舐めかけでよければ交換し」
「舐めかけは要らん、ド変態」
珠樹の提案を食い気味に却下する千亞、しかしこの2人は既に飴玉の魔力を身に宿していることにまだ気づいていない。
珠樹の目の前を白塗りメイクに張り付いたスマイルを浮かべるピエロが3人通り過ぎる。
一人はジャグリングを、一人は玉乗りを、もう一人は何故かパントマイムをしていた。
「ふ、ふふ、この辺に見世物小屋もあるみたいです。面白そうですし行ってみますか」
「うん」
お祭りのような、賑やかな屋台通りを行進するピエロたちの後をついていくと、ひとつのテント前に辿り着く。
【ダークイリュージョン】と書かれた木製の古い看板を下げており、濃い紫色を彩るエキゾチックな模様が、
暗く幻想的なバザー・イドラの雰囲気によく合っている。
(妖艶な世界で楽しそうです……ふふ!)
場の雰囲気で高揚しているのだろうか、珠樹はニマニマと笑みを浮かべていると……
『なんだか、ちょっとダークだな……』
「……ん?」
エコーがかかったような千亞の声に一瞬、空耳かと思った。
しかし、千亞はキョロキョロとテントに視線を泳がせており変な様子はなく珠樹は首を傾げる。
「珠樹、早く入ってみよ」
「……わかりました」
ふと湧き上がる違和感を覚えながら、珠樹はチケットを2枚買うとテント内へと入っていく。
テント内はステージ式の座席になっており、舞台と客席が対面になっていた。
『うわ、薄暗い……!』
珠樹は先ほどの空耳が気のせいではないと気づき、改めて声をかける。
「……千亞さん、何か言いました?」
「え?な、何も言ってないよ!早く座ろ」
『こ、声に出てたのかな』
千亞は頬を膨らませながらつかつかと座席に向かう。
(これは、もしかして心の声を交信しているのでしょうか……それなら、ふふふ!)
推測が正しいか否か、興味津々な珠樹は試しに心の中から千亞に念話を送ってみる。
(千亞さんの尻尾触りたい!ハムハムしたい!全力のチョップを下さい!!)
己のリビドーをぶっこんだ念話を千亞に送ると、先に千亞が振り返る。
「珠樹?早く座りなよー」
(ふ、ふふ……残念ですが、一方的に千亞さんの心の声が聞こえるだけのようですね)
「ふふ、隣に失礼します」
いつもの艶やかな笑みを崩さぬまま思考を巡らせ、珠樹は千亞の隣に座り公演を待つ。
客席に人が集まり、今か今かと開始を待ち侘びていると
【レィディース・エーンド・ジェントルメェェンッ!】
と、場内アナウンスが流れだし前口上もそこそこに演目が開始する。
現れたのはチューブブラに薄手のロングスリットが入ったスカート、金の宝飾で着飾った3人の美女が舞台に現れる。
真っ白な肌に金髪碧眼の美女、黒髪に赤い瞳が印象的な美女、褐色肌にトライバル模様の刺青を入れた美女などそれぞれの魅力を持っていた。
筒状の打楽器とタンバリンのような打楽器の合奏する賑やかな音楽に合わせ、
両手に持つ手のひらサイズのシンバルをリズミカルに鳴らし、くびれた腰をしなやかにくねらせる動きはなんとも魅惑的だ。
『露出度が凄いなぁ……』
千亞にとっては無縁の世界なのだろう、持ち前の色気を振りまく艶やかな踊りを見せる踊り子達の服装の方が気になってしまう。
(ふ、ふふ、千亞さんが少し戸惑っている様子も可愛らしいですね)
千亞の素直な心の声を聞いて珠樹は思わず顔がにやけてしまう。
すると、褐色肌の引き締まった身体が魅力的な美女がこちらに視線を向けるとパチリとウィンクしてみせる。
人気の踊り子なのだろうか、途端に観客の男達が歓声をあげて美女のパフォーマンスを褒め称える。
『い、今、僕の方にウィンクした!?……き、気のせいだよね?』
男装の麗人のような、見た目は可愛らしい兎少年の千亞は自分にウィンクをされたのかと思いドギマギする。
(ふふふ、慌てふためく千亞さんもいい、凄くいい……のですが)
珠樹は確かに踊り子が千亞に向けてウィンクしたのだろうと気づいた、しかしそれが胸の内に小さな違和感を感じさせていた。
(……私が一方的に、千亞さんの心の声を聞いても良いのでしょうか)
珠樹は飴の効果は罪深いものではないのか、と思い始めた。
程なくして、美女の織り成す魅惑のダンスは終了した。
見世物小屋を興奮気味の観客達に混じって出る珠樹と千亞、屋台通りは変わらず賑やかだった。
(……千亞さんの為を思えば、やはり告白したほうが良いでしょう)
珠樹は打ち明ける決意をしたものの、どう切り出せばよいものかと悩んだ。
『そういえば、ちょっとお腹すいたかも……いいお店ないかなー』
「……ふふ、お腹が空きましたね。食べ物の屋台を探しましょうか」
千亞は驚いた表情を見せるが、珠樹はいつも通りの妖艶な笑みを浮かべる。
「う、うん、じゃあ屋台探そっか」
『なんか心を読まれたのかなってくらい良いタイミングだったなぁ』
(……実際読めてしまうのも困りもののようですね)
珠樹と千亞は人通りの多い屋台の並ぶ通りを進んでいくと、一店の屋台が視界に入る。
どうやら、鈴カステラの袋詰めをしている屋台のようだ。
丸い窪みのある鉄板に生地を流し込んで焼いており、辺りには甘い香りを漂わせている。
『鈴カステラだ!美味しそうだなぁ……あれなら珠樹と一緒に食べられるかも』
千亞は鈴カステラの屋台に目を輝かせて見つめていたが、珠樹に欲しいとねだる様子はない。
「千亞さんはアレが欲しいのですね、購入しましょうか」
「!? な、なんでさっきから僕が思ってること解るの!?」
心を読まれているのかと思えるほど正確な提案に千亞は驚きが隠せなかった。
しかし、実際に読んでいるのだから間違えようがない。
「……黙っていてすみませんでした、どうやら先ほど購入した高価な飴の効果で、千亞さんの心の声が聞こえてしまうのです」
「えぇぇっ!嘘っ、じゃあ今までずっと!?」
衝撃の事実に千亞は思わず叫んでしまい、辺りからなんだなんだと視線を向けられるが気にしている場合ではない。
「申し訳ございません……なんだかフェアじゃないので少し離れましょうか?それでも聞こえてしまうかも、ですが」
ある程度予想していた反応とはいえ、珠樹は千亞を傷つけてしまったのではないかと思い……効果が切れるまで、物理的に離れようと提案する。
……千亞はほんの少し、傷ついたような表情を浮かべる。
「あぁ、別に珠樹がそれでいいなら……」
しかし、素直になれない性格はサトラレドロップにかかれば効果的なようで。
(気遣いは嬉しいけど……1人は嫌だな、傍を離れるなよ)
今度は驚かされたのは珠樹の方だった。
心を読まれていたことで拒まれるかと思っていたのに、千亞は傍に居て欲しいと想っているのだ。
「……ふふ、心の声が聞こえてますよ」
「う、うるさい!早く鈴カステラ食べたいから買ってよね!」
「ふ、ふふふ……では2人分買いましょうか、その方がたくさん食べられますよ……ふふ!」
千亞はしまった!と羞恥で顔を真っ赤に染めながら照れ隠しに鈴カステラを早く買うように催促する。
珠樹はいつものように意味深げで艶やかな笑みを浮かべるが、いつもより少し柔らかい笑みのようだった。
珠樹と千亞は紙袋一杯の鈴カステラを抱えて、屋台通りを並んで歩く。
◆老婆は考える
「誰だって語りたくない過去があるのは当然じゃろう?」
ふぇっふぇっと、老婆は口角を上げてニタァと笑う。
「秘密もなしに生きている者なんぞ、早々おるまい……まして、若い身で全てを晒すのは勇気のいることじゃ。」
老婆は滑車を流れる飴玉から3つ目の飴玉を取り出す。
それは晴れ渡る空のように爽やかな水色で、白い気泡が雲のようにも見えた。
「心に暗い影を抱える神人の光になれるかや?ふぇっふぇ」
水色の飴玉を口に含むと、腔内で弾けるように気泡を飛ばし若々しさを感じさせる甘いサイダーのようだった。
◆君を知りたい
蒼崎 海十とフィン・ブラーシュは薄紫色の袋から飴玉を取り出す。
海十は真紅の飴玉を、フィンは藍色の飴玉を。
「飴玉って言われなきゃ、宝石と見間違えそうだ」
「確かにルビーとサファイアだって言われても解らないかも」
海十は不思議そうに見つめながら、鼻をくすぐるほのかに甘い香りに誘われて真紅の飴玉を口に入れる。
コロコロと硬い感触が舌の上を転がる。
「甘酸っぱいけど美味い、オレンジっぽいかも」
「へぇ~、じゃあ俺の方はどうかな?」
海十の感想に期待を膨らませるフィンも藍色の飴玉を舐め始める。
砂糖たっぷりの爽やかなブルーベリー味が腔内に満ちていく。
「そっちはどんな味だ?」
「こっちは爽やかな甘さだな、美味しいよ」
なんかブルーベリーみたいな感じ?とフィンは付け加えて海十に感想を伝えると……
『ブルーベリーかぁ……青い方も食べてみたかったな』
(……ん?)
フィンは首を傾げた、傍にいるはずの海十の声が反響して聞こえるのだから当然だろう。
「どうした?変な顔して」
『もしかして、独り占めしたかったって顔に出てたか?』
フィンは気のせいかと思っていたが、気まずそうな表情で様子を伺う海十の反響する声がもう一度聞こえてくる。
「い、いやぁ、なんでもないよ」
「? そうか」
『変な奴だな』
気の利いた言葉が見つからず、なんでもないと返せば海十もしつこく食い下がることなく引き下がる。
(……海十の心の声が聞こえてる?飴の効果、なのか?)
互いに交信しているものなのかと思い、フィンは海十の様子を伺う。
(いや、海十も聞こえるならもっと驚いているんじゃないか?……ということは、俺にしか聞こえていないのかな)
『なんか腹減ってきたな、屋台通りにいいのがあるかな』
(やっぱり、海十は気付いてないみたいだな……良い、機会かもしれない)
何を考えているか。どうして、そんな張り詰めた生活をしてるのか。
フィンは海十の胸に秘めた心の陰を感じていた、もっと力になりたいと思うが……海十が打ち明けることはこれまでなかった。
「フィン、腹ごなしに屋台巡りしよう」
「……うん、何処か腰を落ち着けられる屋台があるといいね」
海十はフィンを伴って屋台通りを歩くのだが、通りは人も多く腰を落ち着けられるような屋台はない。
「……立ち食いばかりだ」
「通りの奥とかに簡易テーブル置いてる所があるかもしれないよ?脇道に入ってみよう」
少し辟易した様子の海十に、フィンは通りから奥まったところを探そうと提案する。
『立ち食いは嫌いじゃないが、今はそういう気分じゃないんだよな……おでんとかないか?』
(おでん……バザー・イドラにあるのかなぁ)
フィンの疑問も至極当然だろう。
どちらかというと仄暗く幻想的な雰囲気で、東方の文化を引き継ぐ紅月神社とは全く違う文化を辿っていると言える、
多種多様な文化の集まったタブロスと違い、魔女や錬金術師でも居そうな雰囲気のバザー・イドラに
極東の料理であるおでんがあるようには見えなかった……が。
「あった」
「え?」
予想を裏切り、おでん屋台はあった……正確には【ODEN】と暖簾に表記されていた屋台があった。
ご丁寧に酒瓶ケースにベニヤ板を敷いた簡易テーブルまで置かれている。
『珍しい看板だなぁ』
「ちょっと覗いてみるか」
「そうだね……」
特に気にしていない海十に連れられてフィンも後をついて行く
ODEN暖簾をくぐると、ねじり鉢巻きにタンクトップの【いかにも】といった格好のマキナがいた。
おでん鍋には大根、昆布締め、ちくわ、厚揚げなど見た事がある食材の中に不思議なものがある。
豚の足、黒い練り物らしきもの、大きめのウィンナー、白っぽいちくわなど珍しい食材も入っていた。
「……これは、おでんなのか?」
「てやんでぃ。ODENに決まってんだろぃ、べらんめぃ」
渋い表情で珍味を見つめる海十に店主は菜箸でビシィッと鼻先を差しながら真顔で突っ込む。
どちらかというと発音の問題を気にしている気がする。
「まぁまぁ。食材は変わってるけど良い匂いじゃないか、一人前いいかな」
フィンは海十をなだめながら店主もフォローすると注文はいいかと尋ねた。
店主はコクリと頷くと片手に使い捨ての器を手に取る。
「ご注文をどうぞ」
「海十はなに食べたい?」
「そうだな、大根と練り物を一品、昆布締めと……」
『玉子はあるのだろうか』
海斗がおでん鍋を覗き込みながら注文を続けると、やはり食材選びで思考を巡らせ始める。
(普通の食材もあるし、玉子くらいならありそうかな)
「ねぇ、玉子は入ってるのかい」
「ありまっせ」
店主は器に大根と玉子に昆布締め、黒い練り物っぽい物を入れる。
湯気の立つ透き通ったおでんツユをかければ、ふわりと出汁のいい香りが漂ってくる。
「サンキュ」
『どうして食べたいって分かったんだ?』
(海十の心が俺には解るのだ!って教えたらきっと怒るだろうし……ごめんよ)
フィンは心の中で謝罪しつつ代金を支払うと海十と共に簡易テーブルを挟んで木箱に座る。
タブロスの飲食店とは全く違う現実から剥離した猥雑な雰囲気は、ある意味バザーらしいとも言えた。
「この黒い塊、なんだろう」
「練り物って言ってたし魚を皮ごとスリ身にしたんじゃない?」
「なるほどな、頂きます」
海十はフーフーと冷ましながらツユの染みこんだ玉子を頬張り始める。
『黄身までダシが染みて美味しい』
海斗は微かに顔をほころばせながら玉子にパクつく。
(……そろそろ良いかな)
「海十はさ、将来の夢はある?やっぱりバンドでメジャーデビュー?」
フィンは空腹を満たされて少しリラックスしたように感じる海十に質問してみた。
「夢じゃない、やるべきことだ」
『……叶えなきゃならないんだ、あの人の代わりに』
言葉に少し遅れて心の声が聞こえる。
それは躊躇いによるものなのか、強すぎる決意が思い出させないようにしているのか。
海十はツユの水面に映る自身の顔を見つめた、海十は一体何を見つめているのだろう。
「……」
フィンは海十の心に引っかかる事情が、自分が思っている以上に重たいのではないかと思い始める。
(せめて、当たり障りなく聴こう。俺の想像以上に、これはデリケートな問題だ)
「それは自信?やるべき……って変じゃないか?義務のように聞こえる」
「……目標だ」
苦い記憶が蘇るのか、海十の言葉は遅れて帰ってくる。
『俺の代わりに死んだ、あの人の為にも』
フィンの頭にじくじくと針を刺すような痛みが走る、海十の悲痛な心の声が飴の力で影響を受けているのかもしれない。
「誰かの為にだけ、生きていくのか?」
フィンは亡くなった誰かを思い続ける海十に問うた。
「アンタに何が分かる?」
海十はフィンの問いに怒りを滲ませる、知った風な口を聞くなと睨みつける。
「分かる、俺も同じだったから」
しかしフィンは目を逸らさず、まっすぐ海十の視線を受け止めた。
海斗は意志の強さを秘めた青い瞳に思わずたじろぐ。
『……まるで、心を見透かされているようだ』
「それでも……俺に返せるのは、これしかない。今はこれしかないから……」
気圧された海十の瞳は迷うように視線を泳がせる、力のない眼差しは海十の心の弱さを垣間見せた。
(過去に囚われている、のかな……それはきっと自分も同じだろう)
フィンは言葉を探した、海十には過去より今、未来を見据えて欲しいと。
「海十、俺には兄が居たんだ……今はもうこの世には居ないのだけれど」
フィンは沈痛な面持ちの海十に自身の過去を語ることにした、海十も辛い過去を思い出してくれた。
それはとても勇気を必要とすることを、フィンは知っていたから。
「兄は最期に、俺に俺の人生を歩めと言ってくれた。家督の座に縛られる必要はないって」
海十はフィンの話をただただ、聞いていた。
何も考えたくないのではなくその話を聞かなければいけない気がしていた。
「海十の人生を歩いて欲しい。海十の幸せを見つける事が、一番の恩返しだと……俺は思うよ」
海斗は僅かに目を見開いた。暗い霧のかかったような視界が晴れていくかのような感覚を受けていた。
『ああ、そうか……あの人は俺が不幸になることを望むのだろうか』
考えたこともなったのだろう、フィンに伝わる海十の心の声は動揺して震えているようだ。
『フィンはきっと、正しい……』
「……言葉、覚えておく」
海十は空になっていた器を捨てに席を離れた。
「……はぁぁ、全部聞こえるからっていい事とは限らないんだね」
フィンはようやく痛みの消えた頭を抑えながら溜息を吐く。
心の内が聞こえてしまう故に、心の闇が直接的にフィンへも影響したのかもしれない。
心なしか疲労感を感じるが飴の効果というより、飴の効果を利用しようとした自分の精神が追いつかなかったのかもしれない。
……心とは、誠に複雑怪奇な精神構造で出来ているのだと実感した。
「ごめん、ゴミ箱が中々見つからなかった」
数分後、海十は戻ってきた。
どうやら少し迷っていたらしいが……ゴミ箱は簡易テーブルのある敷地内に置いてある。
(迷う方が難しいような……)
「大丈夫だよ、もう少し屋台を見てまわろうか」
フィンの疑問はすぐに解決した、海十の目は少し充血しており、目尻に濡れた跡があるからだ。
(大丈夫だよ、海十。俺も一緒に探すよ)
フィンは海十が密かに涙を流していたことは気付かない振りをして、再び屋台通りの雑踏へ2人で歩き出した。
◆老婆の処世
「理解し、理解される。それが世を上手く渡るためには重要なのじゃろう」
老婆は四つめの飴玉を滑車から取り出す。
濃く、深い茶色の飴は琥珀のように何かを封じ込めているようにも見える。
「興味を引けられれば婆はそれで良いがの……そろそろわしも店を畳むかの」
老婆は茶色の飴玉を口に放り込み、店をたたみ始める。
茶色い飴は、苦味の効いた甘さの感じられないブラックコーヒーのようだった。
◆夢見心地
「言いたいことがあるならハッキリ言いやがれ」
ブリンドはイラッとした口調で様子を伺っていたハティを睨みつける。
「俺がこれ買うときに妨害されるかと思って」
手には例の真紅と藍色の飴玉。ハティは物珍しさに思わず手を出してしまったのだ。
「いちいちオメーの買い物まで俺が管理しなきゃいけねーのか?屋台の匂いにホイホイ釣られやがって」
返答が余計に気に食わなかったのか、ブリンドの眉間のシワがさらに深まる。
「それはそう、だが……匂いにつられて屋台を見ていたのがバレたか」
「さっきから鼻先が犬みてーに動いてたぞ」
ブリンドがビシッとハティの鼻先を小突くと、ハティの鼻が少し赤く色づく。
「しかしこんなバカ高い飴なんて買いやがって……」
「ハティは、どっちがいい?」
ハティの本音を言えば、一緒に食べられるものがいいなと思っていた。自分一人は嫌だった。
切り分けたり、紙袋いっぱいに詰まったお菓子よりも、平等で公平なように思えた。
「……チッ、しばらくは甘いモン禁止だからな」
仕方ない、とでも言う風に舌打ちしながらブリンドが取り上げたのは、藍色の飴玉だ。
(もしかして、イチゴが好きなの覚えてくれてたのか?)
ハティはなんとなく、ブリンドが好みに合わせてくれたような気がした。
やはり、ブリンドはなんとなく優しくしてくれているようにハティは感じる。
ブリンドは既に飴玉を口にしているのだが、表情は不満そうである。
「確かに味は良いが、元値一万はねえだろ……」
老婆曰く、本来は10000Jrの飴玉を特別に3000Jrまで値引きして売ってくれたのだ。
10000Jrの価値が一体どこにあるのだろうか、説明なしではブリンドと同じ反応をする者が大半だろう。
ハティも手元に残った真紅の飴を頬張る。
イチゴの味ではなかったが、この甘酸っぱさは嫌いではない。
「美味しい」
「そうかよ」
ハティはブリンドに感想を伝えてみるが、ブリンドは興味ないようだ。
『オレンジっぽいけど、少し違うのは飴だからだろうか』
「!? ゲホッゴホッ!!」
ブリンドは驚きのあまりに噎せた、唐突に脳内へハティの声が流れ込んできたのだ。
「リン?噎せてるが大丈夫か」
『まさか、我慢して舐めてたのか?』
「な、なんでもねぇ……飴が気管支に入りかかっただけだ」
突然、噎せだしたブリンドを心配してハティが顔を覗き込むが、ブリンドは口元を押さえたまま思考を巡らせる。
(意味分かんねぇ、どっから声出してんだ?)
何が原因なんだ?一体どうしてこんな事象が起きているんだ?そしてハティも同じように聞こえているのか?
ブリンドの疑問は湧水のように湧く。
(チッ、考えててもハティに見られてて全く落ち着かねぇ)
「……いつまでもジロジロ見てんじゃねぇよ、さっさと行くぞ」
ブリンドは内心、毒づきながら屋台通りを歩き始める。
ハティもブリンドの背を追いかけて、すぐ傍を歩く。
屋台通りは人、人、人、で溢れかえっていた。
鳥の燻製や繋がったままのソーセージを吊るした屋台、繊細な飴の細工を串に飾り付けた屋台に、見たこともない食材が並んでいる屋台もあった。
「なんだろう、あの魚」
「さぁな」
「あそこにピエロがいるぞ」
「そうかよ」
屋台通りを歩きながらハティとブリンドは目に入った物を話した。
正確に言えば、ハティがブリンドに一方的に話しかけブリンドが適当に相槌を打っている。
ブリンドの腔内では溶けて小さくなってきた飴玉が、まだ居座っていた。
『機嫌、悪いのかな……あんまり話に乗ってくれないのも寂しいな』
(オメーの話を聞くのに忙しいんだよ、バカ)
ブリンドは今日何度目かの毒を心の中で吐いた。
『そういえば、リンはさっき青い飴を取ってくれたな……嫌いだって言ってるのに、好きな物を覚えていてくれた』
(やめろ、アホな事を考えるな)
『あんなに嫌いだって言ってるのに、優しくしてくれてる気がする』
聞き取れてしまうが故に、聞きたくないことまでブリンドの脳内に響く。
またか、と言いたくなってしまうが喉元まで登ってきたところを我慢して飲み下した。
「リン、少し休む?」
「歩きっぱなしもタリィな、いいぞ」
休憩スペースなのだろうか、傍らに背なしのベンチが数台並んだ広場が見えた。
ハティは少し休憩しようと提案し、ブリンドも空いているベンチに腰掛けた。
「お茶買ってくる」
「……はぁぁぁぁぁぁ」
ハティは近くにあった飲物屋に駆けていく。
ようやく一人になれたとブリンドは深々と溜め息を吐いた。
しかし、離れたところで効果が切れる訳ではないとすぐに証明された。
『リン、機嫌悪いのかな……いつも以上に話してくれてない気がする。目も合わせてくれない』
「ゴホッゲフッグフッ!!?」
離れてしまえば聞こえないのだろう。
ブリンドはなんとなくそう思っていたが否定する事実を突きつけられて思わずまた噎せ返る。
小さくなっていた飴玉を、誤って飲み込んでしまい咳き込みは長く続いた。
「リン、また噎せたのか……?」
お茶を買って戻ってきたハティはまた噎せているブリンドに気がつき、急いでお茶を渡す。
ブリンドは掠め取るようにお茶を受け取ると、一気に流し込む。
無糖の紅茶だろうか、渋みとほのかに香る甘味がブリンドの噎せ返る喉を落ち着けた。
「ハァー、ハァー……」
「リン、調子悪いのか」
「煩い、黙れ」
肩で息をするブリンドをハティは気遣うが、ブリンドは突き放す。
ハティは少し、悲しげな表情を浮かべるが離れずに黙って隣に座った。
(おかしい、今日はコイツにペースを崩されっぱなしじゃねぇか)
『どうしたら落ち着くのだろう』
再び聞こえたハティの心の声に、ブリンドはここである事に気がつく。
(……コイツ、俺の考えてることは読めてねぇのか?)
いつも毒づいて、冷たくしていても聞き流しているようだが何らかの反応はハティも見せる。
しかし、心の中でブリンドが毒づいてもハティは何も反応を見せない、完全に聞き流しているようにすら見えた。
(状況は飲み込めねーが一つわかった事がある)
一夜限りのバザーで得た魔法の飴玉、そして老婆の謳い文句にブリンドはこのような結論を出した。
(こいつの夢心地に関しちゃ俺次第って事だ)
相手の心を完璧に理解する、それは絶対無理と言えるだろう。
しかし今のブリンドには可能なのだ、ハティの心の声を完璧に聞き取ることができる。
『手を、握って見るといいのだろうか』
ふと、ハティの手が宙を彷徨っていた……しかし、その手はブリンドの背中を摩った。
「なんのマネだ」
「噎せてたから、少しは落ち着くかなって」
(思ってる事とやってる事が全然違うじゃねぇか……あ〜クソ、なんなんだ)
心の動きと身体の動きは違う、そういう仕組みなのだが今のブリンドは不可解な動きにしか見えなかった。
ハティは拒絶されなかったので、もう少し摩っていようとブリンドの背中を摩る。
『少しは落ち着いたのか?……それならいいのだが』
「おい、ハティ。大丈夫だから止めろ」
「……解った」
ブリンドの一言にハティは素直に手を止めて、自身のヒザに載せる。
『やっぱり嫌だったのかな』
(あーウルセェな……黙らせるのは簡単だろうが、今は卑怯だろう)
ハティの引け腰な心の声に再び苛立ちながらブリンドは立ち上がる。
「もう休憩はいい、テメーがまだ見て回りたいなら行くぞ」
「……もう少し、見て回ってもいいのか?」
「良いっつってんだろ、行くぞ」
再び先に歩き出したブリンドの後を追って、ハティは早足で隣まで駆けていく。
「なぁ、リン……バザー・イドラって凄いな」
「あぁ?」
再び屋台通りを歩き始めて数分後、ハティは通りの奥まで見つめるように話し始める。
「虹色の薬が調合されてたり、見た事もない食材が置いてあったり……ああ、さっき見たピエロも変わった芸をしてた。ここは本当に夢のような場所だな、って」
『きっと、リンの手を握るなんて眠ってみる夢じゃないと叶わないのかもな』
ブリンドには少し淋しげなハティの心の声が聞こえた。
「……おい」
ようやく話に応じてくれたと思い、ハティがブリンドに目を向けると……ほれ、と手を差し伸べられていた。
「繫ぐんじゃねぇのかよ」
差し出し損じゃねぇかと言いたげに睨んでくるブリンドに、ハティは僅かに目を見開く。
「まさかと思うが……気付いて、ずっと気にしててくれたのか?」
「ねーよ、ボケ。しないなら引っ込める」
手を引っ込めようとするブリンドに、ハティは思わず引き止めるように手を握る。
「……ありがとう」
「ふん、これで迷子になったら一生笑い話にすっからな」
頬を僅かに赤らめるハティにブリンドはいつもの調子で返す。
(元は取れたが、夢見るどころじゃなかったぞ)
どうやら元値1万Jrの価値を、ブリンドは得られたようだ。
| 名前:明智珠樹 呼び名:珠樹、ド変態 |
名前:千亞 呼び名:千亞さん |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 木乃 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | EX |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 普通 |
| 参加費 | 1,500ハートコイン |
| 参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 02月26日 |
| 出発日 | 03月04日 00:00 |
| 予定納品日 | 03月14日 |

2015/03/03-23:55
2015/03/03-23:55
海十:
ハティさんとブリンドさん、今回もよろしくお願いします!
明智さんがきゅ…キュン?あ、えと、その……
フィン:
そういう時は『ありがとうございます』って言うものだよ(爽笑顔)
文字数に苦戦したけど、こちらも何とかプラン提出完了だ。
楽しい一時になるといいね。
皆さんの心理戦(違)、とても楽しみだ!
あらためて、皆さん、よろしくお願いするね。
2015/03/03-21:51
ふ、ふふ…!プラン提出完了です。
ハティさんブリンドさんが選ばれし最後の一セットを…!
今回もよろしくお願いいたします。
そして海十さんの「またお会いできて嬉しいです」にキュンとしました。迷惑ですねそうですね。
個人的にローランドさんとリーリェンさんの圧倒的存在感から目が離せません…!
どうか皆様、良いバザーを。ふふ…!!
2015/03/03-21:48
2015/03/02-01:37
これで4つとも売れ切れか。…負けた。100年に1度のバザーで限定数4というミステリアスさに負けた。
ハティとブリンドだ。ローランドさん達は初めまして、明智さんと蒼崎さんはまたよろしく。
飴の金額(だけでも怒られそうなので)は伏せておいて、折角の機会なのでどんな店が出ているか色々見て回りたいと思ってる。
2015/03/02-00:18
2015/03/02-00:17
青崎海十です。
ローランドさんとリーリェンさんは初めまして。
明智さんと千亞さん、またお会いできて嬉しいです。
俺達も屋台を巡る予定です。
不思議な飴玉…つい買ってしまいましたが、食べても大丈夫、だよな?
(どちらを食べようか悩んでいる様子)
2015/03/02-00:13
こんばんは、明智珠樹と申します。
隣の可愛い兎っ子が千亞さんです。
ローランドさんご両人ははじめまして、ですね。
そして海十さんご両人は引き続きよろしくお願いいたします、ふふ…!!
私が送信側になるとシリアスを崩しかねないので
千亞さんが送信側になりそうですが、はてさて…!
高級飴のお味楽しませていただきましょう、ふふ…!
2015/03/01-00:23
お初にお目にかかる。俺はローランド・ホデア。精霊は、リーリェン・ラウだ。
ここにいるのは数量限定の貴重な飴を手に入れた者同士ってことだな。
合縁奇縁という言葉もある。絡みはなくとも、今後ともよろしく。
俺達は、バザーを適当に冷やかすつもりだ。
さぁて、どっちの飴を食べるかな……。

