雪降り積む鴻鵠館(あき缶 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●雪見の宿
 ルミノックス周辺の温泉郷から少し外れた山間にある小さな旅館、『鴻鵠館』。
 森林に抱かれた部屋つきの源泉掛け流し露天風呂は、春は霞む山に満開の桜を愛で、夏はせせらぎを聞きながら満天の星空を眺め、秋は手の届きそうなほど近い燃えるような紅葉に抱かれ、冬は真っ白に積もった雪と清浄な冷気を楽しむことができる。
「秋に、割引券を出してもらえたことは覚えてる人は覚えてると思うが。好評につき、今回もとっても頑張って同じ割引券を出してもらった!」
 A.R.O.A.職員がドヤ顔で五枚のペアチケットをヒラヒラとウィンクルムに見せ付けた。
 鴻鵠館は、一泊お一人様につき五千ジェールは下らない、知る人ぞ知る高級な温泉旅館だ。それを一人日帰りなら五百ジェール、素泊まりなら二千ジェールで宿泊できるチケットである。今日ばかりはドヤ顔も許してやろう。
「今回は、なななんと二千五百ジェールでお夕食付プランにできる権利もついてるぜ!」
 おおーと拍手があがった。鴻鵠館の食事といえば、海と山の幸をふんだんに使った上品な会席料理だ。それを破格で味わえるとは、太っ腹もいいところである。
 今回も用意されたのは、杏・桃・李・梅・桜の五部屋。六畳ほどの部屋だが、二人で過ごすには十分だろう。
 古傷に効く湯に浸かり真っ白な銀世界を眺めれば、いつもより落ち着いた話が出来るかもしれない。

解説

●内容:高級温泉旅館『鴻鵠館』を満喫する

拙作『疵痕の記憶』に登場した温泉旅館『鴻鵠館』再びというハピエピです。
宿についての詳細は『疵痕の記憶』をご参照いただけると幸いです。
なお古傷にこだわらず、普通に温泉を満喫していただいてOKです。
勿論、古傷にこだわるのも大歓迎です。
今回も全年齢対象ですが、親密度判定で成功すれば『ちょっと』大人な雰囲気もアリかも……?

●料金
 日帰り(昼~夕方):500Jr/人
 宿泊(素泊まり):2000Jr/人
 宿泊(夕飯つき):2500Jr/人

 宿泊のお客様にはサービスで籠いっぱいの蜜柑がつきます。
 希望の部屋があればプランで「杏・桃・李・梅・桜」から一つご指定ください。
 どこでも同じなので、GMにお任せでも構いません。

●夕飯お品書き
 先付:白と黒の胡麻豆腐
 椀物:海老真薯の御吸物
 お造り:鯛の昆布締
 焼き物:焼蟹
 揚げ物:山菜精進揚げ
 炊き物:蕪の餡かけ、三ツ葉添
 御飯:茸と芋の炊込おこわ
 留椀:蛤の赤出汁
 香の物:白菜柚子浅漬け
 水菓子:苺と蜜林檎

ゲームマスターより

お世話になっております。あき缶でございます。
「温泉(うぉんすぅぇん)行きてーーーッ!!」
という私の魂の叫びの発露です。私が鴻鵠館に行きたいよ!!
しっとり大人な雰囲気のリザルトになればいいなーと考えております。
私は行けないので、ウィンクルムの皆さん代わりに楽しんでください(血涙)。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  今回は夕食付プランを満喫
ご飯もお布団の準備も済ませてから、お風呂かな

また背中流してあげようか?
え?一緒には入んないよ?
あは、抱っこって。桐華の方が僕より小さいくせにー
あれ?一人がいいの?ちぇ
じゃーいいよ。僕は蜜柑食べてお布団でごろごろしてるもーん

あ、桐華お帰り―。じゃぁ交代だねー…
…うん?
あの、桐華さん?僕もお風呂に行きたいんだけど…?

いや、見せれないものがあるんじゃないかって何!?
剥ぐ前に聞けよ!ないよ!
言うと思ったからって…もー…(直し直し)
一緒にお風呂入らないからって拗ねないでよ…
恥ずかしいだけだよ…判れよ、ばか
仕方がないから今回は僕の背中を流す権利をあげよう!
…それで、ちょっとは満足?


ハティ(ブリンド)
  この精霊が口では何だかんだ言いながら、盾になってくれたり手をかけてくれているのを感じる事はあったが
実感を得たのは売り言葉に買い言葉というか
手を上げる延長というか…謂わば勢いで同居が始まってからだ
相変わらず年齢はわからないが、記憶にないのだと最近知った
一部とは言え記憶がないというのは結構大事だと思うんだが
俺が居ていいのか
アンタの時間、使って
俺はこうして出掛けられるだけでもいいし
俺は忘れたいと思った事はない
リンにも他に…
見つけてほしいのか、見つけてほしくないのか
長湯しても答えは出ない、出せなかった
逆上せた頭で触れてもいいのだろうかと考える
止めるのなら思考に理由らしい理由のない今だと
わかっているのに


初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
  宿泊(夕飯つき)プラン

折角これだけの旅館に格安食事付きで泊まれるんだから
行かない手はない……んだが

何で2人で一緒に風呂に入ってるんだ
くそ、今この時期にこの距離は避けたかった……妙に緊張する
かといって断るのも怪しまれるしな……

ああ、そういやそんな話もあったな
まあ幸いお互いこれまででかい怪我は……ん?何だよ、俺の手?
切り傷に、火傷だらけだ。見て楽しいもんじゃないだろ?
っ、お前はまたそういうことを……
でも、まあ、その……ありがと、な

ああくそ、やっぱり調子狂う!
逆上せる前に上がるぞ!折角の飯だ!
お前、そう簡単に盗めるかよ……
まあ、努力はするが、な

……抱き枕扱いかよ離せ!この状態で眠れるかよ……!


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  宿泊(夕飯つき)
部屋お任せ

温泉は好きだ
けど、フィンと一緒だと落ち着かないかもしれない
と思っていたが…

僅かフィンが戸惑った顔をしたのが気になった
温泉苦手?弱味握る好機?

折角だからと誘えば、フィンは少し困った顔をしたが断らなかった

裸、見た事ないな
同じ部屋に住んでるのに…見たい訳ではないが!

一緒に温泉に入り分かった
彼の身体に細かい傷跡が沢山
特に背中

「誰かを庇って?」

「アンタは逃げない

俺を庇って死んだ人も同じ傷が背中に

その人はフィンが生きてくれて嬉しいと思う
俺は…俺だけ生き残った事が、悔しくて悲しい

俺はフィンを生かす
そして俺も生きる」

傷の舐め合い?
でも、今日だけは

美味しい食事で笑顔を
悪夢見ず眠れそう


瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  夕飯を食べて就寝の準備をした後、珊瑚と露天風呂へ。
雪景色と一緒に星空も眺めながら、ゆっくり浸かりたい。
湯着を羽織り、体が冷えるのを防ごう。

露天風呂に入っている内に、案の定体が冷えていった。
仕方ないな。互いに背中を合わせて、体を温めよう。
その前に珊瑚に敢えて断りを入れる。
「本当に……触れてもいいんだな?」
珊瑚は……人に触れられる事に慣れていないから。

入浴後、浴衣を着ながら珊瑚と布団の上で寝そべって雑談。
その時にぼやく珊瑚を、何も言わず静かに抱きしめる。
「古傷は……体だけじゃないだろ」
傷は本当はどこにもなかったが、敢えてあるようになぞった。

「あの時の答えを今ここで言う。おれも……珊瑚の傍にいたい」



●桃
 ちらりちらりと白い雪片が舞い落ちる。暖かな水面から立ち上る湯気の上昇気流が、軽い雪に面白い軌道を描かせる。
 見上げれば、雪とともに降ってきそうな満天の星空。
 雲もないのに、天気雨ならぬ天気雪。風花というのだ、と雪国生まれの瑪瑙 瑠璃は、精霊に教えた。
 鴻鵠館の部屋付き露天風呂は雪がちらつくほどの外でも、温かい。
 瑠璃は、瑪瑙 珊瑚と背中合わせで天を見上げている。
 腹はもう上等な料理で満たしたし、このあとはふっかりした布団に転がるだけの、贅沢な時間。
 真っ白な地上に、真っ暗な天。余計な音はすべて雪が吸い込んだ。
 まるで世界にふたりきりになったような静けさ。
「っくし」
 風呂に頭まで浸かることは出来ない。少し出ている肩が冷えたか、瑠璃の背中越しに南国育ちの珊瑚のくしゃみが聞こえる。
「仕方ないな」
 と呟き、瑠璃は背中を合わせようといざる――前に、遠慮がちに珊瑚に尋ねた。
「本当に……触れてもいいんだな?」
 ――わん、人に触らりゆんぬ慣れてねぇんだしよ。
 苦しげな吐露を聞いたあの祭りの日を、瑠璃は気にしている。
 自分に瓜二つな、やたら五月蠅い男だ。瑠璃の珊瑚に対する印象は、はじめはそれだけだった。
 付き合っていくうちに、双子のような親近感を覚えて、親しくなって。
 しかし珊瑚には、瑠璃では量りきれぬ過去があり、それがどうにも良い過去ではないことを知った。
 どこか珊瑚が遠い、と思う時も、ある。
 だから、自分から距離を詰めることに戸惑う時も、ある。それが今。
 耳が痛いほどの静寂を、珊瑚のいつもより小さな声が破る。
「……別に……もう慣れてるし」
 彼の返答の声に合わせるように小さく頷いて、瑠璃は珊瑚の背中に自分のそれをくっつけた。
 音のない外では、熱い同じ大きさの背中から、鼓動すら響く――気がした。

「けどさー 、オレ、よく考えたら古傷なんてなかったな」
 ここの温泉が古傷に効くのだ、という話の続き。布団に転がった珊瑚はケラリと笑う。笑っているくせに、声音はぼやくよう。
 瑠璃はそっと腕を伸ばす。
 そして、同じ背丈の男を抱き込む。
「古傷は……体だけじゃないだろ」
 背中を指でゆっくりとなぞる。
 傷なんて無い綺麗な肌だと、さっき一緒に風呂に入ったから知っている。
 押し黙る珊瑚に、瑠璃は囁く。
「あの時の答えを今ここで言う。おれも……珊瑚の傍にいたい」
 ビクリと珊瑚の肩が揺れた。ぐいぐいと瑠璃の胸に額を押し付け、珊瑚は必死に喉を押さえる。
(やべ、何か涙が出てきた……!)
 ひりつく喉を、潤む眦を悟られたくない。珊瑚は無言でただ瑠璃の胸に頭を押し付け続けた。

●梅
「いい部屋だな」
 蒼崎 海十は、フィン・ブラーシュに振り向いて、話しかけた。
「う、うん。そうだね」
 フィンの歯切れの悪い返事と無理したような笑顔にひっかかりを感じつつも、海十は続ける。
「早速風呂に入ろう」
「えっもう?」
「当然だろ。温泉に来たんだから」
 温泉好きだ、と海十は荷物を置くのもそこそこにスタスタと脱衣場へ向かう。
 服を脱ぎながら、海十は先程からのフィンの反応を思い出す。
 そもそもこの温泉に行こうといった時から、フィンの態度はおかしい。
(温泉が苦手なのか? ……弱みを握る好機?)
 だが、フィンも困ったような顔をしたものの、嫌だとは言わなかった。
「……そういや、裸見たこと無いな……」
 同じ部屋に住んでいるのに、一度もフィンの裸体を見たことがないことにハタと気づき、海十は首を傾げる。
 同居していればふとした瞬間に、互いの裸をみることになるのが自然な気がするが……。
「い、いや、見たいわけではないが!」
 なんだか自分が、フィンの裸体を見たいような思考になってしまいそうで、海十はブルブルと首を振ると、まだ脱衣場に来ないフィンに、
「先に入るぞ! 早く来いよ!」
 と声だけかけて、風呂へと向かった。
 バタンと風呂への扉が閉まる音を確認してから、フィンは脱衣場に入る。
「……はぁ」
 耐え切れず溜息を吐く。
 極力、意識して海十には素肌を見せないように努めてきたフィンだ。
 するりと服を脱ぐと、古傷だらけの体があらわになる。首から上や手など服から露出している部分からは到底想像できないような、疵痕だらけの裸は、気味が悪い、と言う人がいてもおかしくない。
「どうしてか、話さないといけないだろうし……」
 それもまた、フィンが海十に肌をさらさなかった理由の一つ。
 海十がいくら温泉が好きでも、フィンが強く拒絶すれば諦めただろう。
 でも、フィンは彼の誘いを断れなかった。
「いつかは……こうなるんだし」
 意を決して、フィンは浴槽へ続く扉を開けた。
 フィンの登場に、湯に浸かった海十が目を見開く。
 ――ああ、やっぱり。
 いい気分ではない。でも、そのままフィンはかけ湯をして、湯に浸かる。
「軍人の家系だからね、色々ありまして」
 くしゃりとフィンは笑って、できるだけ軽く言ってみる。
「……誰かを庇って?」
 背中に集中している傷を見て、海十は思わずその傷に掌を当て、ぽつと尋ねた。
「敵前逃亡して、後ろからバッサリやられた傷かもしれないぜ?」
 海十の問いに、フィンは内心の動揺を悟られぬよう、なおいっそう軽い口調で、自嘲めいて戯けて。
 でも。
「アンタは逃げない」
 ――俺を庇って死んだ人も同じ傷が背中に。
 海十の言葉の真剣味に、フィンは息を呑む。
 だから、うなだれる。
「俺は……守れなかったよ。俺が、生き残ってしまった」
「俺は……俺だけ生き残った事が、悔しくて悲しい」
 フィンの悔悟に、海十は同じトーンで応えた。
 守れなかった精霊と、守られてしまった神人。傷の舐め合い……でも、今日はいい。
「その人はフィンが生きてくれて嬉しいと思う」
 海十は真摯に訴える。この言葉で少しでも彼が救われればいいと願いながら。
「俺はフィンを生かす。そして俺も生きる」
 海十の誓いを聞いて、フィンは青い瞳を見開き、そしてくしゃりと相好を崩した。
「一緒に生きるって……プロポーズみたいだな」
 フィンは茶化してみて、それから真面目な顔で海十の鼓膜を、真剣な謝意でそっと震わせた。
「……有難う」

 湯上がりには美味しい夕飯が待っている。幸せな時間になりそうだ。

●杏
 きちんとした会席料理をすっかり胃の腑に収めて、ふかふかの布団も敷いてもらった。
「じゃ、お風呂~♪ また背中流してあげようか?」
 叶は笑顔で湯浴み着に手を伸ばす。
「一緒に入ればいいのに……」
 また湯浴み着か、と桐華は眉をひそめて、ぼやく。
「え? 入んないよ?」
 笑顔のまま叶はバッサリと言い切った。
「こう、抱えるようにすれば狭さとか気にならないだろ」
 こう、とジェスチャーする桐華に、叶はケラケラ笑った。
「抱っこって。桐華のほうが僕より小さいくせにー」
 むかー。
 地味に、桐華は叶との身長差を気にしていたので、機嫌を損ねる。
「いいよもう一人で入る」
「えー? 一人がいいの?」
 お背中流すよ? と叶は桐華の後ろについていこうとするが、振り向いたディアボロは、
「子供じゃねーんだからついてくんな」
 と噛み付いた。
「ちぇ」
 唇を尖らせる叶。どちらが子供かわかったものではない。いや、どちらもいい大人なのだが。
「じゃーいいよ。僕は蜜柑食べてお布団でごろごろしてるもーん」
 ばふーんっとふっかふかの布団に転がり、叶は枕元にある山盛り蜜柑の籠に手を伸ばした。

「……あ。おかえりー」
 むいむいといくつめかの蜜柑を剥いていた叶は、ほこほこと湯気を立てる桐華が部屋に入ってきたのに気づき、寝そべったまま首だけ振り向いた。
「じゃぁ交代だねー」
 そそくさと剥きたての蜜柑を口に運び、もぐもぐと口を動かす叶を見下ろし、桐華はふと思う。
 ――そういえば同じ家に住んでるくせに、こいつの裸見たこと無いな……。
 なぜだろう。
 見せたくないものでもあるんだろうか。
 聞いたところで、この秘密主義の男は笑ってはぐらかすのが目に見えている。
 なら実力行使しかなかろう。
「……あの、きり、かさん?」
 ぐい、と布団に肩を押し付けられ、ようやく蜜柑を飲み下した叶は困ったように首を傾げた。
「桐華さーん、僕もお風呂行きたいんだけど……おーふーろぉー」
 もがもがと抵抗する彼を押さえつけて、湯浴み着に手を伸ばす。
「えっ!?」
 驚いたのは叶だ。なんたって桐華は自分の服を引っ剥ごうとしているのだから。
「ちょちょと、やめ、……やめなさいってっ」
 だが悲しいかな、叶は人間で、桐華は精霊。身体能力の差は歴然。
「……思ったより普通だったな。なで肩だけど」
「何もないに決まってんでしょーーー!」
 慌てて湯浴み着の合わせ目を掻き合わせた叶は、両手で自分の顔を覆うと、布団に伏せる。
 ふえーんと大げさな泣き声が布団によってくぐもって、桐華の耳を打つ。
「あー……悪かったから、泣くなって」
「ほんっと信じらんない。なんでこーゆーことすんのっ」
「いや、見せたくないものでもあるんだろうかと……」
「剥ぐ前に聞けよ! ないよっ!」
 ギャンと怒鳴られ、桐華も流石に御無体が過ぎたかとシュンと肩を落とす。
「だって。聞いても、ないよって言われるだけだろうから」
「言うと思ったからって……もー……。一緒にお風呂入らないからって拗ねないでよ……」
 普段の己の立ち振舞いに自覚もあるのだろう。叶はもごもごと言い返しながら、起き上がると衣服を整える。
「……恥ずかしいだけだよ……、分かれよ、バカ」
「っ」
 ぼそっとそっぽを向きながら、言われた言葉に、桐華は思わず頬を染めた。
(恥じらわれてるとは思わなかったわけだけど……恥じらわれる程度には、意識されてるって事、か……?)
 だとしたら、嬉しい――!
 桐華の胸が軽く踊る。
「はぁ。もう!」
 切り替えるように叶は大きな声をあげ、いたずらっぽく精霊に笑いかける。
「仕方がないから今回は僕の背中を流す権利をあげよう! ……それで、ちょっとは満足?」
 少し不安げに首を傾げる神人に、桐華は大きな笑みを浮かべる。
「ちょっとどころか、すげぇ満足」

●李
 真っ白な雪景色が月光に照らされ、しらじらと輝いて綺麗だ。
 と、少し現実逃避してみた初瀬=秀だが、やはりすぐ隣にイグニス=アルデバランがいる状況で落ち着かない。
(なんで二人で一緒に風呂に入ってるんだ)
 それはもう、イグニスが。
『綺麗なお部屋ですよー。わ! 外、雪!』
 と部屋に入るなり窓に張り付き、舞い散る雪を指差してはしゃいだと思ったら。
 パンと手を打って、弾ける笑顔で、
『あ、そうだ露天風呂! 一緒に入りましょう?』
 と提案するなり、秀が否応を返事する暇もなく、
『ふふー、久しぶりですねえ! ルミノックス以来でしょうか?』
 と、流れるような展開で、一緒に入浴させたからである。秀は勢いに流されるタイプだ。最近とみに自覚した。
「くそっ……」
 イグニスを意識し始めた秀としては、この近距離に裸のイグニスがいるという状況は緊張する。
 しかし、拒絶すればもっとややこしいことになる。
「……さま。秀様!」
「ぅあっ、な、なんだイグニス」
 呼びかけられていることに気づき、秀はビクリと肩を跳ね上げ、イグニスの方を向いた。
「?」
 なぜそんなに驚かれたのか分かっていないイグニスは、朗らかに話を続ける。
「こちらの温泉は古傷に効くそうですよ」
「ああ、そういやそんな話もあったな。まぁ幸いお互いこれまでデカい怪我は……」
 この温泉に来るときに、情報として提供されていた。
 だが、二人は温泉で癒やすような大怪我はしていないはずだ、と首をひねる秀に、イグニスは手を差し伸べる。
 ちゃぷんと湯が揺れた。
「秀様。手、見せてもらえますか?」
「俺の手?」
 怪訝な顔で秀は、イグニスの手に自分の手を乗せた。
「秀様の手は結構傷だらけです、若干荒れてますし」
「そうだな。切り傷に、火傷だらけだ」
 飲食店を切り盛りしている以上、そんな怪我は日常茶飯事だ。水仕事をすれば手も荒れる。
 しげしげと手を眺めているイグニスに、気恥ずかしさを覚え、
「そう見て楽しいもんじゃないだろ?」
 と引っ込めようとする秀だが、
「ですが、人を笑顔にするご飯を作る手です」
 と続くイグニスの言葉に、動きを止めた。
 イグニスは、真面目なトーンで言う。
「だから私にとっては『魔法使い』の手なんですよ」
 エンドウィザードは微笑んで、そっと秀の指に唇を当てる。
「っ!! お前はまたそういうことを……っ」
 とっさに力任せに引っ込め、秀は真っ赤な顔で口を開閉させた。
 やたらと恥ずかしいセリフを大真面目に言うから、この王子めいたディアボロは困る。
「でも、まぁ、その……ありがと、な……」
 もごもごもご……。力任せに手を引っ込めたことを恥じらい、秀は礼を言う。そのやたらと恥ずかしいセリフが嬉しくないわけじゃないのだ。
 それを、にこにことイグニスは優しい笑顔で見つめている。
「~~っああくそ、やっぱり調子狂う!!」
 ガシガシガシガシと頭をかき回し、秀は叫ぶとザバンと勢い良く立ち上がった。
「逆上せる前に上がるぞ! 折角の飯だ!」
「はぁい」
 笑顔でイグニスも立ち上がる。
「ご飯、おいしいのあったら今度作ってくださいね!」
「お前、そう簡単に盗めるかよ……まあ、努力はするが、な」

 ホウホウ、と屋外の遠くで梟が鳴く深夜。
「……抱き枕扱いかよ」
 呆然と天井を見上げ、秀は呟いた。
「むにゃあ……すぴぃ」
 いきなり眠るイグニスが抱きついてきて離れないのである。
 離せ、と秀も藻掻いてはみたが意外とイグニスは力が強くてどうにも抜け出せない。
「くそ、この状態で眠れるかよ……!」
 秀の、まんじりともできぬ夜が明けていく――。

●桜
 ちゃぷん、ちゃぷん、と湯が揺れて。
 二人、にこりともせず雪景色を睨むように眺めている。
(まぁた、くだらねーこと考えてやがんな)
 ブリンドは隣で湯に浸かるハティを横目で見て、顰め面を作る。
 彼が黙りこんだあとは、ろくな発言が出た試しがない。
「……俺が居ていいのか。アンタの時間、使って」
(ほーら、クソくだらねーことだ)
 苦虫を噛み潰した気分だ。ハティの大真面目な発言に、ブリンドはイライラと眉間に皺を寄せる。
 だが、ハティは真剣だった。
 ブリンドは優しい。
 口はお世辞にも上品とはいえないし、暴言とともに手すら出る。
 だが、なんだかんだとハティを気遣ってくれるし、戦闘の時も盾になるように立ちまわる。
 勢い任せに同居を始めて、痛感する。ブリンドは、優しい。
 以前、鴻鵠館に来た時に考えていたこと。――精霊の年齢すら知らないこと。
 ブリンド自身が、自分の年齢を知らなかった。もっと言えば、記憶がないという。
(一部とは言え記憶がないというのは結構大事だと思うんだが)
 取り戻したくないのだろうか……?
 自分とこんなことをしている暇があるなら……他にしたいことがあるのではないだろうか。
(俺はこうして出掛けられるだけでもいいが)
「オメーは生きてることがわかりゃ、顔も知らねえ親を探すのか?」
 ブリンドは不機嫌を丸出しにして言う。
「探したいのか?」
 手伝うぞ、と言いかけると、ブリンドの顔がもっと歪む。
「殴ってやろうか。ものの例えだ、たーとーえ」
 ざばんと八つ当たりのように勢い良く立ち上がって、ブリンドは部屋へと戻っていく。
 振り返りもせず、
「それくらい有り得ねえ話だっつってんだよ」
 と付け加えて。
 ブリンドがいなくなった浴槽で、ハティはなおも雪景色を睨む。
「……リンにも他にしたいことを……」
 見つけてほしいのか、見つけてほしくないのか。自分がわからないのでは、ブリンドも返答のしようがないだろう。
 でも、のぼせるまで入っていたのに、結論は出なかった。
「オメーは正真正銘のアホだな! ゆでダコになってねえで、さっさと出ろ!」
 ほら、やっぱりブリンドは優しい。
(触れてもいいのだろうか……)
 熱でくらりと揺れる世界で、白銀の雪のような男をハティは見つめた。

 ――止めるなら、今だと……わかっているのに。

(ほらな)
 さっさと寝床に潜り込んだブリンドは、背に触れる熱に、案の定だと口端を曲げた。
 以前この旅館に来た時も、停電したあの雨の日の自宅でも、そして今この瞬間も。
 この男は、ブリンドの背に触れたがる。遠慮がちに触れようとするから、隙を狙うように眠るブリンドの背を選ぶ。
「背中でいいのかよ」
 ばっと起き上がり、うろたえたように身を引こうとするハティを閉じ込めるように、両耳の脇に手をつく。
 見開かれた翠玉のような綺麗な瞳が、ほら、今もまっすぐだ。
 ハティの瞳という名の鏡に映っている覆いかぶさる自分は、まるでお伽話の中の悪い狼のような顔をしていた。
「何か無駄な抵抗してねえか?」
 ブリンドは、悪い狼らしく獰猛に笑ってやる。まるでネジが切れた人形のように固まったハティを見下ろしていると、嗜虐心が沸き起こる。
(弱いとこに付け込むような趣味はなかった筈だが)
 付け込んでやりたい。優しくなんかしてやらない。
 暴力的な衝動が腹の底から湧いてくる。
「お前が嫌いだ」
 ――俺をロクデナシにする。
 体を緊張させたまま、眉を寄せたハティがどこか悲しげに見えて、ブリンドは湧き上がりかけた衝動が冷えていくのを感じて――どこか安堵していた。
 身をかがめて、ハティの耳朶に囁く。
「お前もロクデナシになっちまえばいいのにな」
 きょと、と瞳を瞬かせるハティを自分の布団から蹴りだして、ブリンドは神人に背を向けるとさっさと布団に丸まった。
「さっさと寝やがれ、アホ」



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 糸巻茜  )


エピソード情報

マスター あき缶
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月13日
出発日 02月21日 00:00
予定納品日 03月03日

参加者

会議室

  • [7]蒼崎 海十

    2015/02/20-01:35 

  • [6]蒼崎 海十

    2015/02/20-01:35 

    蒼崎海十です。
    改めまして、皆さん、宜しくお願いします。
    奮発して夕食付きにする予定です。美味しそうです…!
    俺達も部屋はお任せにしようと思います。
    楽しい一時を過ごせますように。

  • [5]初瀬=秀

    2015/02/19-02:52 

    こんばんは、初瀬と相方イグニスだ。

    前々から気になってた旅館、しかも食事つきとあっちゃな。
    というわけでがっつりと堪能させてもらうつもりだ。

    俺らも部屋はお任せのつもりだ、お互いいい時間になるといいな。

  • [4]叶

    2015/02/18-19:05 

    はぁい、こんばんわ、叶と愉快な桐華さんだよよろしくねー。
    ふっふー。またこの旅館これてうれしい。前は素泊まりだったからご飯食べれなかったし、
    折角だから今回はご飯付で楽しみたい、です!

    お部屋は僕らもお任せにしようと思うよー。
    前と違うお部屋って言う選択肢もあるけど、造り一緒ならどこから見る雪景色も綺麗だろうし。

  • [3]瑪瑙 瑠璃

    2015/02/17-22:03 

    最後の一枠で参加させていただきました。
    蒼崎さんは初めまして。瑪瑙瑠璃と相方の珊瑚です。よろしくお願いします。

    以前、先輩方が楽しんでいるのを報告書で読んで憧れていました。
    自分達も一泊二日で楽しんでいきます。

  • [2]ハティ

    2015/02/17-02:42 

    雪降るルミノックスと聞いて。また来れるとは思わなかったから嬉しい。
    蒼崎さん達は初めまして、ハティとブリンドだ。よろしく頼む。
    確かここの部屋の間取りは共通だったはず。俺達は部屋はおまかせにしようと思ってる。
    夕飯をどうするか悩むな……蜜柑は食べる。

  • [1]蒼崎 海十

    2015/02/16-00:21 


PAGE TOP