


●Luxury Purple
誰が呼んだか『虹色食堂』。
決して広くはない店内は、正しく虹色に染め上げられ、賑やかにテーブルを飾るメニューも豊富。
その、豊富なメニューの一つ一つを極めた店が、タブロスしないに点在しているという。
誰が呼んだか、『虹色食堂』。
目立つことの無いその店は、今日も店先で七色のベルを鳴らす。
虹色食堂七つの支店の一、『紫の食堂』はモーヴ色の壁に黒檀製の立派な扉が目印。
看板には、金文字の筆記体で『Violet Gibier』――紫のジビエと記されている。
ジビエとはいわゆるゲームミート。猟師が狩った野生の動物肉のことだ。
虹色食堂のジビエ料理をもっと専門的に扱い、かつ洗練させたのがこの紫の食堂だ。
内装は、黒檀の腰板がついた美しいクロッカス色の壁に囲まれ、古めかしい羊皮紙の本が詰まったどっしりした本棚に、オレンジ色の灯りがともる黒いシャンデリア……と、煌びやかで妖艶な大人の雰囲気。
気取った給仕らが行きかう、ふかふかしたヴァイオレット色の絨毯の上には、インテリアとして様々な動植物をかたどった黒いメタルボードが立てられている。
猫脚の木製テーブルの前に、同じ猫脚の布張りのソファチェアで座れば、まるで不思議の国の茶会のよう。
この店にアラカルトはない。毎日違う内容のコース料理が時間別で供される。
朝から昼はブランチ、昼から夕方はアフタヌーンティー、夕方から夜はディナー。
何時に行っても、絶品のジビエ料理が顔をそろえて君を待っている。


●紫の食堂「ヴィオレ・ジビエ」
ジビエ(狩猟肉)を扱うレストラン
お勧めの肉を使ったコース料理のみというシンプルメニューの店
●コース価格
・ブランチ:300jr
開店からお昼過ぎまでのコース(サラダ・スープ・メイン・パン)
朝食昼食を併せた想定なのでちょっと重め
・アフタヌーンティー:250jr
お昼過ぎから夕方までのコース(紅茶、パイやサンドウィッチ、焼菓子)
遅めのランチにもなりそうな豪華なおやつ
・ディナー:400jr
夕方から閉店までのコース(前菜・スープ・メイン2種・デザート)
フルコースでの提供。食後の紅茶はサービス
・ソムリエのお勧めワイン(ハーフボトル):150jr
ワイングラス2杯強の量
※コース内容はシェフの気まぐれ
※予想される肉:兎、鹿、猪、雉、鳩、鴨など
お世話になっております。あき缶でございます。
錘里GM主催の『七色食堂』企画の紫パートです。
ジビエは決してゲテモノではなく、貴族の高級な食材でございます。
ちょっとおめかしして、お上品な野性味をご堪能くださいませ。


◆アクション・プラン
叶(桐華)
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ジャケットにパンツスタイルで、ちょっとおめかし あんまりきちんとしたのは苦手だけど、これくらいで大丈夫かなぁ 僕、ジビエって初めて食べるよ 何が出てくるか判んないってのも、楽しみでいいよね 桐華は苦手な物って、無かったよね …生の人参があったら、食べて貰っても良い…? インテリアや給仕さん達をぼんやりと眺めながら、楽しくご飯 僕ね、誰かと一緒にご飯食べに行くって、桐華が初めてなんだよ 遊びに行くのも、おんなじ 結構、憧れだったりしたの だから今日は凄く嬉しいし、いつも凄く楽しい …あ、またなんか企んでるとか思ってるでしょ。良いけどね また来ようねって言ってんの 今度はディナーで、ワインも頼んじゃおうよ いいでしょ? |
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アクアと一緒にアフタヌーンティー …転寝して起きたら、もう昼だったとかそんなことは無いよ? ほらそんな胡乱な瞳しないでさ 服装は常とそんなに変わらないけれど首元にはタイを締めて行こうかな おや、本当に紫なお店 雰囲気も合わさってちょっと不思議な感じだね 確か食べる順番って下から上。メインからデザートだったっけ ふふ、どれもこれも見目可愛いし美味しそうだしで目移りしちゃうや ジビエ、俺は今回初めて聞いたよ 毛皮付きで吊るして…凄いね 学生時代に理科室で見た事なら。……冗談だよ? アクアって料理自体も好きだけれど、その過程も背景も好きだよね いや、いいなぁって思ってさ 「いつも美味しいごはん有難うございます」 |
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ま、たまには仕事のこと忘れて純粋に飯食いたいしな というわけでディナーへ フルコースだからな、身だしなみには気を付ける事 ほら、ネクタイ曲がってる よーし男前だ、あんまりはしゃぐなよ? エスコートを受けるとやはり気恥ずかしさが先に立つ ったく、レディじゃないんだっつってんだろうよ? 注文はディナーコースと、それとワインを貰おう ジビエは癖があるって聞いてたが……さすがの腕だな 食後の紅茶を飲みながら思案し話を切り出す あの、な イグニス あー、この前の。コテージ。 あの時、「姿関係なく、俺だから慕っている」って言ってたの、 凄く……嬉しかった。 なあ。 俺はお前に、何をしてやれる? 何だよ、それでいいのか? やっぱり変な奴だな |
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コースの内容に興味津々 「『紫の食堂』なんていうから、もっとこうドギツイ色かと思ってたら 上品な紫だなぁ……オレの格好変じゃない?」 黒檀に踊る洒落た金色の文字に、微妙に場違い感を感じて腕や胸元をパタパタ叩いている 絶妙な接客で席へと案内されると店内の様子をじっくりと観察 声は出ないものの、ほーとか、へーとか、ふわーという表情になっている 糧に感謝する祈りを捧げ出来るだけ品よく口に運ぶ メインのローストを口に入れると、思ったより柔らかく じんわりと甘味と、ピリッと効いた胡椒がよく合い頬が緩む 「……美味っ」 満腹に目を細め、食後の暖かい飲み物をふき冷ましつつ 「今度は別のコース料理も食べたいし、また一緒に来ような」 |
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待って焦らせないで…(ネクタイにもたもた) …君の手付きは本当に繊細だね 何だか緊張するなぁ… 君は料理の事になると本当に楽しそうだよね (アルの料理は今でも十分美味しいのに、本当に探究心が強いというか…料理を作る事に貪欲だな。経験を自分の物にする明確な意思がある…僕はどうだろう…) コースで来るんでしょう?食べきれるかな?…頑張るよ (真剣…本当に真面目で努力家…飲み物も僕の為にお酒以外で合う物をその都度選んでくれる気配りの良さ…凄いなぁ) お腹いっぱい…最後のデザートも美味しかったけどやっぱり辛かったな… でもやっぱり僕は君の作ったご飯が好きだな ふふ、楽しみにしてるよ 取敢えず早く家に帰ってスーツ脱ぎたいな |
●ウィスタリア・ブランチ
黒檀の簡潔だが重厚なドアに、金文字で記された店の名前は、この中が特別な時の食事、気取ってみたい時の食事を提供する自信があることを主張している。
重厚な店構えを見上げ、シルヴァ・アルネヴは、ほうっと息を吐いて、口を小さく開けた。
「『紫の食堂』なんていうから、もっとこうドギツイ色かと思ってたら上品な紫だなぁ……オレの格好変じゃない?」
困った顔を精霊に向け、シルヴァは自分の着衣を軽く叩いてみせる。
とはいえ、シルヴァの格好はジャケットにシャツを合わせ、よく磨かれた革靴を履いているから、カジュアルすぎることはない。
「ディナーの時間になれば、もっと大人っぽい格好をした人も多そうですが、そんなに気にしなくても大丈夫な格好じゃないですか?」
マギウス・マグスは微笑んで、大丈夫だと神人に頷き返す。
まだ時間は午後になりきらない。遅めの朝食、昼食を兼ねる『ヴィオレ・ジビエ』のブランチに二人は向かおうとしている。
ドアを開けると、黒いスーツに身を固めたミドルエイジの男性が、丁寧な礼をして迎え入れてくれた。
「いらっしゃいませ、お席にご案内させていただきます。どうぞ」
ヴァイオレットの毛足の長い絨毯の上、二人の半歩前を歩いて給仕は、奥のテーブル、しなやかな猫脚の布張りソファチェアを引いた。
「それではしばし、お待ちくださいませ」
ふかりと腰を落ち着けた二人に、注文もとらずに給仕は引っ込む。なぜなら、この店にメニューはない。この時間に訪れれば、必ずブランチコースが提供されることが決まっているから。
「お洒落なお店だね。ちょっとおめかしはしてきたけど、これで大丈夫かなぁ?」
あんまりきちんとしたのは苦手なんだよね、と叶は内装を見回して、困ったように呟く。
アンティーク調の黒い猫脚家具や、無作為に置かれた黒塗装メタルプレートの動物オブジェ、クロッカス色の壁紙を照らす黒いシャンデリア。
上品で、独特なメルヘンすら醸しだす紫と黒の空間に飲まれそうだ。
「僕、ジビエって初めて食べるよ。何が出てくるんだろうね。わかんないってのも楽しみで面白いけど」
と料理が出るまでの時間を、目の前の精霊に話しかけることで潰している叶を、その話し相手である桐華は不思議な気分で眺めていた。
(普通のオトナだ……)
叶は二十七歳の立派な成人だが、依頼に出ればハタキ片手に洋館を陽気に見まわったり、デミ・オーガ相手に鬼ごっこを仕掛けてみたり、桐華に見せるのは子供っぽい顔ばかりだった。それに、『誰も傷ついてほしくない』だの『自分の神人じゃなくて他人を守れ』だの、子供臭いワガママばかり言う。
「そういう気取った顔も出来るのな」
「え? 桐華なんか言った?」
ぼーっとインテリアや給仕を眺めながら、つらつらと自分の苦手な生人参についての文句を言っていた叶は、桐華の声に気づいて焦点を桐華にあわせてきた。
「いや……」
もう一度言おうか言うまいか、桐華が迷った時、彼の葛藤を救うかのような絶妙のタイミングで皿はやってきた。
「お待たせいたしました。本日のサラダ、『ベビーリーフと鹿の生ハム、ジビエパテにイチジクソースを添えて』でございます」
サラダの次に出されたポトフには、鴨のコンフィと根菜やキャベツなど野菜がたっぷり入っていた。
野菜の甘味が優しくコンフィの塩気を包む、滋味豊かな澄んだスープをそっと音を立てずに口に運び、シルヴァは頬を緩ませる。
「丁寧ですね」
「うん、まぁ、そういう場だしさ。それに、なんというかさ……猟でとれたお肉だと思うと背筋が伸びるというか……いや普通に食べている肉も一緒なんだけどさ……」
きちんとした気持ちで向き合うと、自ずから所作も丁寧になるものだ。とマギウスにシルヴァは恥ずかしげに言った。
なるほど、と頷きながらマギウスは考える。
(食前の祈りも心なしか長かったですしね。……過去に行ってから、ですかね?)
夏に、人を喰う定めに抗う鬼を救ってから、シルヴァは『命を食べる』ということに真剣になったきらいがある。
いつのまにか空になったスープ皿は、二人の会話を邪魔しないタイミングで静かに下げられて、とうとうメインディッシュ。
「本日のメイン、『イノシシの骨付きロースロティ』でございます」
「ロティ、ですか?」
マギウスが聞きなれない単語を聞き返すと、給仕は微笑んで説明する。
「オーブンでじっくりと炙って、火を入れる調理法でございます」
すうっとナイフが通る柔らかなイノシシを口に入れ、マギウスは思わず呟いた。
「……美味っ」
「生人参、出なかったな」
メインディッシュの後はもう何もない。ここまでの皿に叶の苦手なものは乗っていなかった。
「うん、助かった」
(やだやだごねられても、雰囲気壊すだけだし。今日は食べてやろうと思ったが)
と心のなかで呟きつつも、桐華は、ほっとしたように笑う叶がいつも通りの子供臭い顔だったので、どこか安堵していた。
見慣れないオトナの顔ばかり見ていると、調子が狂う。
きちんとしたのは苦手と言いながらも、叶のマナーは『きちんとしたオトナ』そのもので、いつもは目にしない面ばかりで、桐華はなんだか別人と食事をしているような錯覚すら覚えたのだ。――いい意味での驚きだったが。
今も、骨付きロースをナイフとフォークで綺麗に切り分けては、ゆったりと咀嚼している叶は、オトナだ。
「今日は、……いよ」
ぽうっと叶を眺めていたら、何やら話しかけてきていたらしい。
「わるい。聞こえなかった」
我に返って、桐華はもう一度言うように頼んだ。
既に二人の皿は空だ。
叶は眉を少しひそめてから、口を開く。
「もう。ちょっと恥ずかしい話なのに。……あのね。僕ね、誰かと一緒にご飯食べに行くって、桐華が初めてなんだよ」
「……急に、なに」
意外な話だ。だが、そういう経験がないのは、何となく納得できる。それは叶が気さくな人当たりのよい外面の割に、人を内面にまで踏み込ませようとしないからだろう。
「遊びに行くのも、おんなじ。結構、憧れだったりしたの」
憧れるくらいなら、行けばよかっただろう。彼が外面を保ち続ければ、誰かとどこかに食事に行くのくらい容易なことだ。
桐華が脳裏で色々と思っていることを知らぬ叶は、それはそれは嬉しそうに笑って、言った。
「だから今日は凄く嬉しいし、いつも凄く楽しい」
「……っ」
それを見て桐華は、息を呑む。
今まで見たことはなかったが、桐華には確信できる。あれは、叶の心底からの笑顔――内面の笑みだ。
呆気にとられている精霊の顔を、どう勘違いしたか、叶は頬をふくらませた。
「あ、またなんか企んでるとか思ってるでしょ。……良いけどね。だからさぁ、また来ようねって言ってんの」
今度はディナーで、ワインも頼んじゃおうよ。楽しげに提案してくる叶の顔は子供っぽい。
彼が子供っぽいのは、子供の頃に出来なかったことを、今しているから……?
「……ああ、わかった」
桐華はただただ了承だけを返した。
大胆なようで臆病な神人には、それ以上の言葉は蛇足だから。
●ヘリオトロープ・ティータイム
「お茶でもしに行く?」
ごろ寝をしたら、寝過ごして昼過ぎ。木之下若葉の珍しい笑顔の誘いに、アクア・グレイは胡乱な目を向けた。
「ワカバさん、昨日は午前に出かけようかって言ったのに……」
「ほら、そんな顔してないで。お店の人に変に思われちゃうよ」
なんて誤魔化しながら、若葉は胸元のタイを整えてから、昼下がりの『ヴィオレ・ジビエ』の扉を開ける。
「このお店、気になっていたんですよねー。綺麗なお店ですね!」
まるで紫の芝生を歩いているかのようなふかふかの絨毯を小さく跳ねるような足取りで進み、アクアは好事家の書斎のような店内を見回す。
「本当に紫なお店。雰囲気も合わさってちょっと不思議な感じだね」
影絵の森のなかのような。黒いメタルプレートの動植物に囲まれながらも、猫脚の家具類が高貴な部屋を演出して。
この時間のコースはアフタヌーンティー。
まるで不思議の森の中の茶会。
三段ティースタンドとポットいっぱいの紅茶、真っ白な取り皿とカップにソーサー。
プラム色のテーブルクロスの上に、給仕の手で瞬く間に広がったティーセット。
「確か食べる順番って下から上。メインからデザートだったっけ」
一応仕入れてきたマナーを思い出し、若葉はティースタンドの皿たちに目を向ける。
最も下は、サンドイッチとパイ。
伝統に則ったキュウリサンドはもちろんのこととして、他にもジビエ料理店の出すアフタヌーンティーらしく、イノシシのハムサンドにウサギのミートパイが一口大の直方体に切りそろって並ぶ。
真ん中は田舎風スコーン。田舎風に欠かせない『狼の口』はきっちりぱっくり開いていた。
スコーン用に、セオリー通りのイチゴジャムとクロテッドクリームの壺が添えられている。
最上段は焼き菓子。チーズクリームがふわふわのパフペイストリーにつつまれている『メイドオブオナー』。
「あ、これ。本で見たことありますよ。門外不出のレシピってことで、これを作ったメイドさんが幽閉されて、ずっと主人のために焼き続けたお菓子なんですって。本家本元のレシピは、今も厳重に鉄の箱に保管されているそうですよ!」
料理好きのアクアがレシピ本で見かけたことがある、と菓子について説明を添えた。
「へえ、そうなんだ。よっぽど美味しかったんだろうね。メイドが焼いたこのお菓子は。……ふふ、どれもこれも見目可愛いし美味しそうだしで目移りしちゃうや」
と言いながらも、若葉は順番を守り、取り皿にサンドイッチとパイを乗せる。
普通の豚肉のハムよりも味が濃厚なハムサンド。
「これがジビエ、俺は今回初めて聞いたよ」
あまり食べたことのない野性味を味わいながら、若葉が漏らすと、田舎育ちのアクアは首を傾げて言う。
「ジビエってこちらでは馴染みないんでしたっけ? 僕の所は行商人さんが猟師さんから預かって、毛皮のまま吊るして売りに来ていましたよ」
「毛皮付きで吊るして……凄いね。俺は学生時代に理科室で見たことなら……いや、冗談だよ?」
剥製じゃなくって、と真面目に返そうとしているアクアを察し、若葉は自ら軽口を取り下げた。
続けて食べるキュウリだけのサンドイッチで口内をリセットし、アクアは濃厚なウサギパイに向かう。
「わー、さすが。パイ生地がサックリしていますね。フィリングも臭みがないように味付けされてます」
ジビエは一般に手に入れにくいので、真似はできそうにないが、
「あ、これなら家でも再現出来る気が」
スコーンなら自分でもできそうだ。アクアは味を覚えて帰ろうと一生懸命味わう。
若葉はカップを片手にその様子を微笑ましげに見守る。
「アクアって料理自体も好きだけれど、その過程も背景も好きだよね。……いや、いいなぁって思ってさ」
日々の食事を作ってくれるアクアに、若葉は頭を下げる。
「いつも美味しいご飯、ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ。美味しく食べて頂いて有難うございます」
ペコンと頭を下げ返し、アクアは笑顔で続けた。
「ふふ、食べて下さる方が居るから作りがいがあるんです!」
●ロイヤルパープル・ディナー
「フルコースだからな、身だしなみには気を付ける事」
店の前で、初瀬=秀が隣の精霊に向き直り、指をたてた。
「大丈夫です。ちゃんとした服着てきましたもの……」
「そう言ってる側から、ほら。ネクタイ曲がってる」
細長くごつごつした指が伸びて、タイを整えてポンと胸元を叩く。
「よーし男前だ、あんまりはしゃぐなよ?」
大丈夫だと言い返しながら、イグニス=アルデバランは思う。新婚さんみたいだ、と。
「秀様、どうぞ」
イグニスがエスコートよろしく押し開ける扉の向こう、若い男の給仕が頭を下げる。
「いらっしゃいませ、ヴィオレ・ジビエにようこそ」
きょときょとと店内を落ち着かない様子で見回し、栗花落 雨佳は呟く。
「なんだか、緊張するなぁ……」
慣れないネクタイが、どうにも気になって手をやってしまう。
うまく結べないタイは、精霊のアルヴァード=ヴィスナーが結んでくれたものだ。
繊細な絵を描く割に雨佳の手は、こういうことになるとどうも不器用で、アルヴァードに先程も呆れられてしまった。
一方、アルヴァードは今から提供される『ヴィオレ・ジビエ』のディナーに胸を躍らせている――いや、気負っている。
(俺が最高のイタリアンに昇華してやる)
自分もトラットリアのシェフとして働くアルヴァードにとって、ここは勉強の場である。
いつか自分の店を持てるようになった時、きっと今日の体験は役に立つはずなのだ。
どこか楽しげなアルヴァードを眺め、雨佳は微笑んだ。
(アルの料理は今でも十分美味しいのに、本当に探究心が強いというか……料理を作る事に貪欲だな)
経験を自分の物にする明確な意思がある精霊の貪欲さを前に、雨佳は自省する。
(……僕はどうだろう……)
ぼうっとしている間に、ボトルワインがやってきた。
「あれ?」
未成年の雨佳には、ガス入りの葡萄ジュースが供される。
「サービスだと。このワインの葡萄と同じ葡萄を使ったジュースだそうだ」
グラスに注がれたビロードの様な深い紅色を掲げ、アルヴァードは雨佳の飲み物について、そう説明した。
「そうなんだ」
飲み物にまで気を配ってくれる精霊に感嘆しながら、雨佳はグラスを口に持っていく。
「ぅ。……ちょっと渋いね」
口に含んだジュースが、なかなかタンニンを感じさせる大人の味だったので、雨佳の眉が寄る。
「ジビエはなんだかんだで癖が強いからな。家畜みたいに素直に言うことは聞かないもんだ。だからそれに勝てるようなワインなんだろうな」
アルヴァードもワインを口の中で転がす。繊細でいながら力強さを持った、香り高い赤ワインだ。鼻に抜ける芳醇なスパイスや森の枯葉を思わせる香り、舌から喉をまろやかに撫でていきつつも、存在感のある酸味と渋味と旨味の複雑なコンビネーションを堪能する。
「コースで来るんでしょう? 食べきれるかな?」
「あんまがっつり量は無いと思うが、勿体無いから残すなよ」
「……頑張るよ」
はじめに出てきたプレートには、ちょっとずつ肉やキラキラ光るジュレ、緑のペーストが乗せられていた。
「本日の前菜、こちらから鹿のコンフィ、ピクルスとぶどうのジュレ、オリーブのタプナードでございます」
給仕が去ってから、雨佳がおずおずとプロたるアルヴァードに尋ねる。
「コンフィって?」
「塩漬けの肉を油で煮た保存食だな。んで、タプナードっていうのが、オリーブのペーストのこと。一般的には、松の実、粉末アーモンド、にんにく、ケッパーのピクルスが入ってる」
「へぇ……」
と感心しつつも、これくらいの量ならなんとか最後まで完食できそうだ。と雨佳はホッとしながらカトラリーを手にとった。
「ジビエって食べたことなかったです! でも、どれも美味しいですね」
イグニスは、鳩のコンソメからコルヴェール(青首鴨)のパイ包みと続いて、次のメイン料理前に提供された口直しの山葡萄シャーベットを口に運びながら笑顔を見せた。
「ジビエは癖があるって聞いてたが……さすがの腕だな」
ワインを傾けながら、秀が頷く。
「それにしても、紫っていろんな表情があるんですね。お店の外壁も中の壁紙も、絨毯も、テーブルクロスも、全部紫ですけれど、全部違う……」
「そうだな。でも同系色だから綺麗にまとまってるわけだ」
給仕がそっと近寄って、次のメインを持ってきた。
「本日二品目のメインのお肉料理。リエーブル・ア・ラ・ロワイヤルでございます」
「わー、これは何のお肉なんですか?」
イグニスが給仕に尋ねた。
「リエーブルは野うさぎだな。ジビエの女王と呼ばれている肉だ。だが、ジビエっていうのは得てして、臭くて硬い。それを歯の悪い貴族向けに手間ひまかけて柔らかくしたものが、リエーブル・ア・ラ・ロワイヤルってわけだ」
アルヴァードの説明を受け、雨佳は感心する。
「物知りだね」
「食べるのは初めてだ。知識だけ持ってても意味はねえ。これには気が遠くなるほどの手間暇がかかってるんだ。肉を大量のコニャックに漬けて下準備して、フォアグラを包んだら、三日は良質な赤ワインで煮込むんだそうだ」
そう言って、ソースを絡めた黒茶色の肉を食べるアルヴァードの顔は真剣そのものだ。
(本当に真面目で努力家……凄いなぁ)
「ソースは赤ワインとリエーブル自体の血を混ぜたもののはずだが……」
雨佳もリエーブルを味わい、首を傾げる。
「血とは思えないよね。まるでチョコレートソースみたい……。それに、ジビエが臭いものだなんて、信じられないくらい良い香りがするよ」
「王の皿と呼ばれているが、これを作るのは膨大な経験と知識がないと出来ない。……これは滅多に食えるもんじゃないぞ」
枯葉のような香りのするワインが、リエーブルに寄り添う。ピッタリのワインだ。今日の主役に合うようにきっちりと選ばれている。
(流石虹色食堂の一つだな。今は完敗だ……良い勉強になった。超えてみせる)
「楽しみにしてるよ、アル」
いつしかアルヴァードの心の声は漏れていたらしい。雨佳が優しい笑みを浮かべて、見つめていた。
デザートは、桑の実シフォンケーキとリンゴのサンザシ酒コンポートだ。香り高い紅茶が、濃厚だったコースの幕を優しく閉じていく。
紅茶を幾度か口に運び、秀は意を決したように、口を開いた。
「あの、な。イグニス」
「はい、なんでしょう?」
すぐに反応してくれる精霊にくすぐったさを感じながら、秀は続ける。
「あー……。この前の、コテージだけどな」
それは、不思議な力で秀が一日だけ女性になった時のこと。
イグニスは、秀がどんな姿になろうとも、態度を変えることはなかった。
「あの時、『姿関係なく、俺だから慕っている』って言ってたの、だけどな」
秀は、面映そうに眉を寄せながら笑うと、カップをソーサーに戻して、小さく、しかししっかりした声で告げる。
「凄く……嬉しかった」
イグニスは、不思議と何も言わない。ただにこやかに微笑みながら、秀をじっと見つめている。
その視線が何故か熱くて、秀は顔を伏せながら、
「なあ」
とまで言ってから、顔を上げる。
「俺はお前に、何をしてやれる?」
真剣に尋ねる。真摯に、自分を慕うディアボロに向き合う。
「何を、ですか? そうですね……」
イグニスは、最後のコンポートを食べ終え、
「……でしたら、笑って下さい。たくさん、たくさん、笑って下さい」
と答えた。
秀には、その返答が意外だったらしい。眼鏡の奥の瞳を見開いて、
「なんだよ……」
と呟いて、そして、くしゃりと笑って続ける。
「それでいいのか?」
イグニスは、頷き、笑い返した。
「ええ。秀様が笑って下さるのが、私は一番嬉しいですから」
なんだか気が楽になったような、胸がすくような開放感を覚えながら、秀は紅茶を飲み干す。
「……やっぱり変な奴だな」
と言う秀の声は明るかった。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | ロマンス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 09月09日 |
| 出発日 | 09月14日 00:00 |
| 予定納品日 | 09月24日 |

2014/09/13-23:30
収穫祭もあるし近いうちに披露できりゃいいんだがな?<フレンチトースト
さて、そろそろ出発か。それぞれいい時間になるといいな。
2014/09/12-23:21
>シルヴァ
ふふふ、本番と言っても、昼には昼の、おやつ時にはおやつ時の良さがあると思いますよ。
僕はフルコース食べられる自身が無いから、本当はブランチかアフタヌーンが良かったんですけど…アルがこうも主張しているので…(笑)
>秀
アル『フレンチトーストな。遅めの朝食には良いよな(食べるのも作るのも)そのうち料理作る系の依頼があったら一緒に作ってみたいな』
2014/09/12-17:23
(食っていいぞにガタンッ)
食べたーい!
そう言えば秀とイグニスの顔は結構見るけど、料理の方はお目にかかったことないなぁ
こないだお泊りに行ったお話では作ってたみたいだけどー。
フレンチトースト、食べれる機会があったらいーのになーって、心ひそかに思ってる。
あ、迷った挙句ブランチに行く事にしましたー。
2014/09/12-02:30
シュウのフレンチトーストとアルヴァードのティラミスか……(真剣に悩み中)
……両方食べたいだろ!
ディナーの方が品数が多くて本番なのか……そっちも気になるぞ、むぅ。
2014/09/12-01:38
イグニス「秀様のフレンチトーストなら負けませ」
ちょっと黙ってようなお前は。(チョップ)
改めて、初瀬とイグニスだ。
ディナーで飯を食いに。
メニューの参考にっつってもジビエだからな……
喫茶店で簡単には出ないよな普通……
まあ気楽に行こうかと。よろしくな。
2014/09/12-00:36
食っていいぞ。
俺の作ったティラミスだからな。その辺の店の味には負けねぇ←
2014/09/12-00:34
俺達は、ディナーだ。ディナー。
ブランチも気になるが、ディナーの方が品数が多くて色々味見ができるし、こういった店はディナーが本番だ。
雨佳『はいはい。ホント君は勉強家だよね』
2014/09/12-00:28
ごはーん。美味しいごはーん。
ティラミス、ついついじーってみちゃうんだけど、おいしそうだよね…
あ、叶と桐華でーす。
どの時間に行くかはまだ悩み中だけど、お洒落なお店はちょっと緊張しちゃう。
ドキドキしながら楽しみに行こうと思ってるよー。
2014/09/12-00:26
ティラミス美味しいよね(じっと見ながら
あ。木之下とパートナーのアクアだよ。
揃って宜しくお願い致します、だね。
俺達はアフタヌーンティーに行くつもり。
ミートパイ、出るかな?
2014/09/12-00:18
アルヴァードのケーキも美味そうだな……。
っと、今回はマギと一緒にブランチ食べに行く予定だぞ!楽しみだー。
2014/09/12-00:17
こんばんは。栗花落雨佳とアルヴァード・ヴィスナーです。
……アル、今回はアルが作るわけじゃないんだから…。
あまり絡む事はないと思いますが、よろしくお願いしますね。
2014/09/12-00:15

