


君は紅月ノ神社の夜店を冷やかしている。
すると暗がりに近いところにひっそりとある屋台に気づいた。
屋台の看板には『線香花火』、店の奥では待ちきれないのか、既に何人かの大人がしゃがみこんで、あの儚い火花を見つめている。
――大人?
花火といえば、子供が好むものではないか。線香花火は確かに、他のものに比べれば地味で、大人好みではあるが。
「……うちの線香花火は、お子さんより大人の方向きでやしょう」
静かに、静かに、そう散り際の線香花火のように笑って、売り子の男が呟いた。
「うちのは、点けて、消えるまで、持っている人の過去を映しますので」
過去……?
しかし、線香花火なんて一瞬のものだ。
牡丹、松葉、柳で散り菊……。
一分も持たない火で見る過去など……。
君が疑念を浮かべると、売り子は首を横に振って苦笑する。
「いえいえ、ほら、一炊之夢なんてぇ話もありやしょう? 一瞬でも夢で見ると永いんでさぁ」
と言いながら、売り子は、美しい色のこよりを取り出した。
「論より証拠、百聞は一見に如かず。お客さんも一度、試してみたらいかがですかぃ?」
火玉が落ちたらそこでお仕舞い。だからそおっと持ってくれ、と売り子は念を押す。
「どんな過去を見ても、決して驚かないことだ。驚きゃ身じろぎ、火玉も落ちます故」
――もちろん何度でもお買い上げいただいて宜しいですがね。
と、売り子は商売人らしい笑みを浮かべた。


●内容:線香花火をつけて、浮かぶ過去を見る
●線香花火 100ジェール/本
「長手(和紙のこよりの先に、黒色火薬が包み込まれている)」の線香花火
何本でもご購入可能
高いのはお祭り価格と、過去を見せるという特殊仕様のためなのでご理解ください
火が点いている間、花火を持っている人の過去の夢を見せます
二人で一緒に掴むと二人共通の過去が一つ映されます(が、火種も落ちやすいです)
過去の思い出の映像が火花越しに見える感じです
次の花火をつけて、続きを見たり、別の過去を見たりすることも出来ます
●プラン
皆様のステシに書ききれない過去を文章化する趣旨のハピエピです
二人の出会いや出会う前のエピソード、神人革醒のきっかけや冒険譚など、
見る内容は自由です!
出来るだけ詳しい内容を書いていただけると、描写が細かくなるでしょう
(不明点は出来るだけぼかしますが、アドリブが入る可能性があります)
ショッキングな内容の場合、途中で火種が落ちてしまうかもしれません
ショッキング・トラウマ系の過去の場合は、複数本購入される方が良いでしょう
お世話になります。あき缶でございます。
なぜか晩夏のイメージが強い線香花火。
でも結構いい匂いがして、好きです。
どんな昔話が紡げるのか、楽しみにしております。
なお、相談期間短めですので、ご注意ください。


◆アクション・プラン
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
|
過去の見える線香花火か ……やーな予感しかしねえんだがなあ…… 火を付けて火花を見つめ 向こうに見えるのは、何度も夢に見た風景 品のいい控室、置き去りのブーケ 柄になくきちんとした服を着た自分が読む手紙の内容も、まだ覚えている ―あなたよりも好きな人がいます― それを何故今言うのか、と思った心の揺らぎか、丸い火花が落ちて消えた 駄目だな、勝手に幸せになれとは思っても まだ、忘れきれないのか。先へ進めないのか 能天気な声に振り返れば手元を見つめる相棒 お前プライバシーって知ってるか?(げんこつ) 全く……一緒に、なあ。 何見ても驚くなよすぐ終わるんだからなこれ! あとパンツから離れろ。忘れろ。 |
|
これに火を付けたら俺の過去も見えるかな? 【過去】 白い大きな老犬といつき いつきは小さな体を丸めて、犬の毛にくるまれて安心したように眠っている 犬はいつきを大事そうに見守ってるが、 何かの気配を感じて小さくうなり声をあげる 昔飼ってたのかな? 俺の家族の事も覚えてないけど レーゲンがそばにいてくれたから、不安も感じなかった レーゲンは自分の花火もいいよって譲ってくれる いつだって優しい。 けどそれに甘えてばっかりじゃ駄目だ 俺の分はこれでいいよ。レーゲンの昔も見せて ……レーゲン、ちっさ そうなんだ、こんなに小さくて弱虫だったんだ でも今はちゃんとあの犬みたいに俺を守ってくれてる (俺もなれるかな、レーゲンを守れる存在に) |
|
何が見えるか少し、怖いな 帰りたい過去には戻れないと言うのに… ◆喧騒を離れ ●一本目俺個人 幼い俺 父と母に手を繋がれて祭に 綿菓子を買って貰ったのに、リンゴ飴が欲しいと駄々 「今食べてるじゃないか」と父 慌てて食べて「もう食べた!」 母が口を拭ってくれ「あらあら」 一番大きいのを指す 姫リンゴにしないと食べきれないぞと言われても これがいい、これがほしい これから買って買って言わないから、あれ買って(←ぉぃw 甘えたかったんだな 2人共優しかった 線香花火が消えるまで絶対落さない もっと見たいと、もう1本、もう1本 金魚すくい、花火、家族で過ごした思い出を辿るように ●ランスのは見えるなら静かに見る 見えないなら横顔を見ていよう |
|
線香花火って久しぶりだ! 小さい頃のラキアがどんな子かキョーミあるぜ。 可愛い姿が目に浮かぶよな! オレの家は古くから続く旧家で簡単に言うと地方領主みたいなトコで。これ7歳頃の記憶か。 両親は忙しくてあまり家に居ない。 3人兄弟だけど各自に執事と教育係付いて、皆で一緒に遊ぶとかもあまりなくて。 堅苦しい家なんだぜ。 兄達は要領よくて色々ソツなくこなすし。 家の事業継いだりって覚悟を小さい頃から当たり前のように持っている人達で。 オレは家抜け出して近くの森とかで遊んだりする方が楽しくてさ。虫取ったり、魚捕ったり。 勉強も家庭教師で息がつまりそうだったんだぜ。 抜け出す時は、執事に見つからないようにするのが大変だった。 |
|
過去って最近でもいいんだよな クレミーに俺の家族見せよう 自分と精霊用に2本購入 少し離れた所に移動して花火に火をつける 大きなテーブルにたくさんの御馳走 運ばれてくる誕生日ケーキ 囲む大勢の人間(女1人に男が8人)は 神人の17歳の誕生日を祝う家族たち 父ちゃんと母ちゃんと弟たちと こっちの3人は牧童の兄ちゃんたち ケーキ持ってきたのが兄ちゃん 料理上手なんだ 精霊の過去と涙に思わず頭を抱きしめる 家族いないって事は、亡くしてるって事だよな ごめん考えなしで クレミーの視線の映像だから当たり前かもしれないけど 俺、あの人達と視線が合って言われた気がする 俺は子供で頼りないかもしれない でもクレミーの事護るから 『一緒に生きよう』 |
●牡丹~憧憬の日々
花火を遊ぶなど、久々だ。小さな火花は皆を追憶の日々へと立ち戻らせる。
セイリュー・グラシアはワクワクと売り子から受け取った細いこよりを見つめる。
「線香花火って久しぶりだ!」
と精霊のラキア・ジェイドバインに一本花火を渡す。
きれいな色の和紙でできた花火を、優しい笑顔で眺め、ラキアは言う。
「線香花火は可憐で良いよね。光で出来た撫子の花の様で大好きなんだ」
「そっか。オレは、花火も楽しみだけど、小さいころのラキア、キョーミあるぜ」
この特別な花火の力で、自分のパートナーの過去が見たいとセイリューは顔を輝かせる。
すっかり子供のような神人にクスリと笑って、ラキアはしゃがみこむと、そーっと自分の花火に火を点けた。
勢い良く紙が燃え、ゆっくりと先端が丸くなる。独特の匂いがあがると同時に、バチバチと広がる美しい金色火花の奥に、幻が浮かぶ。
「お、誰?」
ひまわりのような太陽を思わせる金色の髪の女性が浮かんだのを見て、セイリューは乗り出す。
「あっ揺らさないでね、火玉が落ちちゃう」
「あ、ごめんごめん」
花火はとてもデリケートだ。セイリューはついうっかり、と頭を掻く。
「この人は、森のそばの里で暮らしていた頃ご近所に住んでいたお姉さんだね。……とすると、俺が五歳くらいかな」
しゃがみこんで、花壇の手入れをする女性の横で、じょうろで水をやる幼い少年がラキアのようだ。
「あ、横にいるちょこちょこしてるのがラキアか。この頃から綺麗な顔してるなぁ、可愛い!」
『花達も丁寧に世話を受けるとちゃんと応えてくれるの。だから皆の声をよく聴いてあげてね』
『うん!』
その優しい声と元気な返事で花火は終わった。
「とても花を育てるのが上手な人でね、よく庭に遊びに行っては花の手入れの方法を教えてもらったんだ」
「へぇーラキアの花好きは、そのお姉さん譲りかな」
「かもね。あの頃は、彼女に褒めてもらうのが嬉しくて花のお世話を頑張っていたからなぁ」
「ふぅーん……」
なんだか夢見るように過去に思いを馳せるラキアが微笑ましいような、置いて行かれたようでつまらないような、そんな複雑な思いを抱え、セイリューは質問してみる。
「で、今はそのお姉さんはどうしてるの?」
「何年後かに、彼女はお嫁に行っちゃってね。切なかったなぁ。初恋の思い出だね」
「そ、そうなのか……」
残念そうなラキアが可哀想なような、でもほっとしたような、やっぱり複雑な思いをセイリューは抱く。
「さ、セイリューの番だよ、火を点けて」
ぼーっとしていたのか、ラキアが次を促した。暗闇で二人でしゃがみこんでいるだけもつまらない。セイリューは自分の分の花火に点火する。
「……立派なお屋敷だね? セイリューのお家?」
立派なダイニングルームで、三人の少年が黙々と美しく盛りつけられた食事を口に運んでいる映像が浮かんだ。
「ああー。そうだな、これ七歳くらいの記憶かな……」
「ご兄弟?」
「そうそう。三人兄弟。各自に執事と教育係がついてるんだぜ。堅苦しいだろ。皆で一緒に遊ぶとかもあんまりなかったなー」
綺麗な動作で食事をする兄二人に対し、少しやんちゃなテーブルマナーのセイリューを、後ろで執事だろうか教育係だろうか、叱咤している。
「兄は要領よくてなんでもそつなくこなすんだ。うちは地方領主みたいな家業なんだけど、家の事業継いだりって覚悟を小さい頃から当たり前のように持っている人達でさ……」
はぁとセイリューは溜息を吐く。
「オレは、そんなことより、家を抜けだして虫採ったり魚捕ったりするほうが楽しかったけど。勉強も家庭教師で息が詰まりそうだったんだぜ」
「へぇ。抜け出すの大変だったんじゃない?」
「そうそう! 執事に見つからないようにするのが大変で! なんたってオレ専属だから隙がないったら……」
二人が話に興じている間に、いつのまにか花火は終わっていた。
●松葉~記憶の味は
過去を映すという花火を握り、しゃがんだ信城いつきは唾を飲む。
「これに火を付けたら俺の過去も見えるかな?」
彼は顕現する前の記憶が無い。どんな物が見えるのか、見えたところで懐かしさはないだろう、しかし……。
なお、横に立つレーゲンはあまりおもしろくない面持ちでいつきを見下ろしていた。
実はレーゲンは、顕現前からいつきを知っている。記憶をなくした理由も知っている。デミ・オーガに襲われ、死にかけたのだ。その時の状況をもし彼が知ったら、彼はとても辛いだろうから……レーゲンは、いつきの記憶が戻らなくてもいいと思っている。いや、むしろ戻らなければいいと思っている。
過去を見ることができる花火に興味を示したいつきを、本当ならば止めたかった。だが、過去を知らないいつきが自分の知らない昔を知りたい気持ちも分かるし、無理に止めるのも難しかったので、消極的に賛同したのだ。
(あの過去が蘇ったら、火玉を落とせばいい……よね)
内心ひやひやしながら、いつきが花火に火を点けるのを見守る。
激しい火花と一緒に、浮かび上がったのは、白い犬だった。大きな老犬だ。犬に守られるように寄り添って眠っているのは、幼いいつきだろう。
(これなら問題なさそうだ)
密かに胸をなでおろし、レーゲンは落ち着いていつきの過去を一緒に眺める。
老犬が何かに気づいたように首を巡らせ、ウウーッと唸った瞬間、火が消えた。
「……飼ってたの、かな? 家族とか、どうなんだろ?」
もちろん、この白い大きな犬が何という名前で自分とどういう関係なのか、いつきは分からない。
「家族はAROAの登録資料だと、昔に亡くなってるそうだよ。犬も…………いつきが怪我した時に……」
だめだ、これ以上は言えない。レーゲンはもごもごと語尾を濁すと、自分の分の花火を差し出した。
「えっと、まだ過去の続き見たい? 私の分使っていいよ」
レーゲンを見上げ、いつきはぼんやりと思う。……レーゲンはいつだって優しい。
(俺は、俺の家族の事も覚えてないけど……レーゲンがそばにいてくれたから、不安じゃなかった)
今も、花火を譲ってくれようとしている。でも、そればっかりじゃ、ダメだ。
「俺の分はこれでいいよ。レーゲンの昔も見せて」
「えっ」
レーゲンはまた戸惑う。
レーゲンは、記憶を失ったいつきに、初対面だと嘘をついている。本当は顕現前から両想いいだったくせに。
どうやら花火が見せる過去は自分で選べるわけではないらしい。もし……顕現する前のいつきとの思い出が出てしまったら……?
「レーゲン? 俺はもういいってば」
黙りこくったレーゲンを、遠慮しているのだと勘違いしたいつきが促す。
「……あ、うん……」
渋々火をつける。もしいつきが映ったらやっぱり火玉を落とせばいいのだ、と覚悟を決めて。
花火は何事も無かったように、レーゲンの昔の幻を展開した。
小柄な彼が、両手いっぱいにリンゴを持って歩いている様子を。
(これ、は……)
きっといつきと知り合った頃の自分だ。そして記憶が確かならば、このおっかなびっくり歩いている少年の自分は、ほどなくいつきに会う。
「レーゲン、ちっさ。なんか怖がってるみたいだし、弱虫だったの?」
食い入るように花火を見つめていたいつきが、くすっと笑った。
「5年前ぐらいだよ。うん確かにあの頃は弱虫だった。だけど、強くなりたいと思ったからね。……あっ、ごめん」
不慮の事故を装って、レーゲンは小さく手を震わせた。あっけなく火玉が地面に落ちて、幻が掻き消える。
浮かびかけていた少年のいつきと犬の影が雲散霧消した。
「でも今はちゃんとあの犬みたいに俺を守ってくれてる」
いつきは呟く。
ただ守られているだけの今を、いつきは良しとはしていない。
(俺もなれるかな、レーゲンを守れる存在に)
レーゲンは何か考えこんでいるいつきを眺め、思う。
(自分もこの人間の子を守れる存在になりたかったんだ)
この子をつらい過去から守るのもまた、自分の願いだから――地面を焦がし、命半ばで尽きた火玉をレーゲンは見下ろしていた。
●柳~ほろ苦くとも今
人通りのない、暗い場所に落ち着き、アキ・セイジは束になった花火を取り出した。
「ここにしようか。……側に、いてくれ」
アキはヴェルトール・ランスに声をかけ、しゃがみこむと思わず呟く。
「少し、怖いな……」
何が見えるのか、自分では選べないということでアキは不安げに花火を眺めた。
「帰りたい過去には、戻れないというのにな……」
自嘲しながらも、まずは一本火をつける。パチパチと火花が広がって、夜の喧騒を映し出す。これは……夏祭りだろうか。
『りんご飴買って!』
大きなわたあめを片手に持って、幼いアキが大きな父の手を引く。
『今食べてるじゃないか』
と笑いながら宥める父に、アキは慌ててわたあめを頬張り、飲み込んで、
『もう食べたよ!』
と手に何も食べ物がないとアピールしてみせる。
ベタベタの口を、目線を合わせるようにしゃがみこんで、ハンカチで拭ってくれる母は、あらあらとさほど困ってなさそうに微笑んでくれる。
『仕方がないな、どれがいいんだ?』
あれ! と指したのは一番大きな飴。姫リンゴくらいの大きさでないと食べきれないからやめておけと言われても、
『これがいいの! これが欲しいの! これから買って買ってって言わないから、買って!』
可愛い駄々をこねる息子を、困ったように微笑みながら見下ろす両親を、アキは食い入るように見つめる。震える手を無理やり抑えこんで、落ちそうな火玉を必死に保持する。
だが、いくら静かに持っていても、花火はあっという間に終わってしまう。とうとう赤い火玉は真っ黒に沈黙してしまい、幻も消えた。
つめていた息を一気に吐き出し、アキは見守っていた精霊にでもなく、一人呟く。
「甘えたかったんだな。ふたりとも、優しかった……」
そして次の一本を手にとった。次の幻はさっきの続きで、金魚すくい。すぐに破けてしまったポイでそれでも粘るアキを、両親と屋台のおじさんが微笑ましく見守る図。
その次は花火。この線香花火よりも派手な手持ちの花火の背景で、打ち上げ花火が花開く。
肩が震えているアキの背を見つめ、ランスは無言で彼を思いやる。
アキの両親は死んでしまった。オーガに殺されたのだ。だからもう二度と、アキは両親に会えない。こんな魔法の幻でもない限り。
「……ランス、お前のを見せてくれ」
何か飲み込んだように、アキはゆっくり立ち上がり、微笑んだ。
ここは暗い。彼の目尻が湿っているなんて、錯覚だ。
こんどはランスがしゃがみこんで、花火を始める。
広がったのは、幼少期のやんちゃなランスが、手作りの竹竿で友人らと釣りをする、快活でのどかな映像だった。
「もう一本」
アキがせがむままに、次を点ける。
釣りの途中、急に降りだした雨に悲鳴めいた歓声をあげて、びしょぬれになって道を走るランスと友人たちが家に駆け込み、ずぶ濡れのまま上がり込んで母親に叱り飛ばされるところまでが映った。
「もう一本」
アキの声は、どこか震えている。彼にとって、穏やかな幸せな子供時代の図は琴線に触れるのだろう。
求めに応じて、続きを映す。ひと通り叱られた後、風呂に入った子供らが山盛りの焼きそばにがっつき、その様子を笑って見ている母親の図が見えた。
「もうい……」
「あと一本だし、最後くらい二人で見ようぜ。二人の思い出ってのもあるだろ?」
ランスはニッと笑って、最後の花火を掲げてみせた。
二人で一緒に握って点けた花火は、ジェラートを片手で二つ器用に持つランスを映しだした。
ぎょっとするセイジ。この映像は……。
『俺はセイジが好きだ。怖がらなくていい、今までと変わらないさ』
真剣な表情で、ランスは囁く。
一瞬目を見開き、そして俯いて逡巡したセイジは、はくはくと口を小さく開閉したあとで、勇気と一緒に声を絞りだす。
『……好き、だ……』
「!!」
ぽとん。
あっけなく火は落ちてしまい、思い出の二人は掻き消えた。
「あー……揺らすから……」
「見んなよ、恥ずかしい!」
耳まで真っ赤にして、セイジが夜にしては大きな声量で抗議する。あの時、体中の勇気を振り絞ったのだ。もう一度その様子を客観的に見るなんて、羞恥で悶死しそうである。
「おやおや素直じゃないね」
とくすりと口元に笑みを浮かべ、ランスはセイジの頭をぽんと撫でた。
そして上を見上げる。天の川が広がる天を。
「今の俺達がこんなに幸せなのは、きっと、天国にも届いているから……」
黙りこくるセイジの唇は震えていた。泣きそうなのかも、しれない。
ランスは黙ってセイジの頭を抱き込んだ。
●散り菊~今が良ければ
試す眇めつ掲げた花火を四方八方からにらみ、初瀬=秀は顎を撫でた。
「……やーな予感しかしねえんだがなあ……」
またあのトラウマを蘇らせることになる……それは確信に近い予感。
だが意を決して花火を点ける。
白い壁紙に、オーク材の腰壁がついた上品な清浄感のある部屋が映る。ぽつんとテーブルと布張りの椅子が置いてあるがらんとした部屋。
ドアの外は、大騒ぎで――花嫁が逃げたと係員や友人親戚らが言い合っている。
それを他人事のように聞きながら、白いタキシード姿の自分がふらふらとテーブルに近寄る。丸いテーブルの上に、立派な大きなブーケと便箋が置き去り。
便箋を拾い上げ、淡々と目を通す自分。
――あなたよりも好きな人がいます。
(……何故今言うんだよ……)
何度も何度も思ったことを今もまた、映像を見ながら思って、火玉は落ちた。
何度も夢に見ている。そのたびに飛び起きる。今も、肩が揺れて花火を落とした。
「……あーもう」
勝手に幸せになれ、と思っている。妻になる予定だった女に、恨みの感情は不思議とない。
思っている割に自分はまだ引きずっているようだ。
「先へ、進めないのか……」
苦しげなつぶやきは、
「秀様! 次は一緒に見ましょう!」
背から聞こえた脳天気な声がかき消した。
「っ、見てたのかよ!」
頬を染めて、げんこつを振り上げる秀に、イグニス=アルデバランはニコニコと平和そうに笑顔を向けた。
毒気を抜かれたか、力なくげんこつを下ろした秀は、力なく言う。
「なぁお前、プライバシーって知ってるか? ……まぁいいや」
と気を取り直している彼を見ながら、イグニスは内心彼を思いやる。
(火をつける前から、大体何を見るのかは予想がつきましたし、案の定でしたね。……もしも会えたら天誅です!)
ぐぐと拳を固めているイグニスに気づかず、秀は呆れたようにイグニスが差し出した新しい花火を眺める。
「全く……一緒に、なぁ」
どんな思い出が再生されるやら。と肩をすくめ、それでも拒否はせずに、イグニスを呼ぶ。
「せえので点けましょう、せえので!」
「何見ても驚くなよ。すぐ終わるんだからなこれ!」
「何が見えますかね、チョコのお祭りとかわんこさんと遊んだこととか……あとパンツ?」
「パンツから離れろ。忘れろ。さすがにもっとマシな思い出があるはずだ絶対」
言い合いながらもイグニスは、秀の気持ちがあの悲しい過去から離れたことを悟って頷く。
(貴方の悲しい思い出を、これからこうして私との思い出で塗り替えていきましょうね)
「せえの!」
こよりに燃え始め、火薬が焼ける匂いが広がり、幻が形を作り始める。
イグニスは、火花の照り返しでオレンジに光る頬をほころばせた。
(誰より幸せにして絶対見返してやりましょう! なんて……まだ秘密ですけどね)
●火雫落ちて~秘めた言葉
祭りの喧騒がわずかに届く森の近くで、
「クレミー、俺の家族見せるよ」
少しはしゃいだ声で、アレクサンドル・リシャールは勢いよく腰を落とす。赤い長髪がふわんと跳ね、一拍遅れてアレクサンドルの背に着地した。
彼の隣に音もなく座るファータが、クレミーことクレメンス・ヴァイスである。冷徹なまでに無表情が常のクレメンスだが、機嫌の良い神人に引っ張られるように今纏っている空気は柔らかい。
「じゃー、いくぞー!」
暗闇に橙色がパッと咲く。火玉は勢いよく火花を散らし、その向こうに幻影を作る。
幻影も闇の中に、橙色が咲いていた。
手拍子と共に歌われるのは誕生日を祝う歌。終わった瞬間に、主役が勢いよく炎を吹き消す。とたんに明るくなる室内には、テーブルいっぱいのご馳走と大きなケーキを囲む九人の人間が立っていた。
「俺の十七歳の誕生日の思い出だ。えーと、こっちから父ちゃん、母ちゃん、弟たち。こっちの三人は牧童の兄ちゃんで……あ、このケーキを作ってくれたのが兄ちゃん。料理上手なんだ」
弾む声でアレクサンドルは幻影を指差し、今は離れ離れで暮らす牧場に住まう家族をクレメンスに紹介する。
だが、片手で花火、もう片手で指差しはなかなか体が揺れるらしく、火玉が落ちてしまった。
「あっ……まぁいいや。全員クレミーに見せられたし」
見えたのもすぐこの間の思い出だから、惜しむほどのものでもない。
アレクサンドルはただのこよりになった花火の残骸を処理し、クレメンスに向き直った。
「仲よさそうやねぇ」
と穏やかに言うクレメンスの目は細められている。
「ほな、こっちも」
クレメンスはおもむろに自分の花火に火をつけた。わくわくと覗き込んでくるアレクサンドルの隣で、クレメンスは花火を見つめる。
浮かんだのは緑――森の中にある一軒家の中から、開いたドアの向こうを見ている映像。
緑を遮るように、白髪のファータが背を向けて立った。
そしてゆっくりと振り向き、優しげな緑の瞳を切なそうに曲げて、申し訳なさそうに言う。
『一人にしてかんにんな』
柔らかなイントネーションがクレメンスそっくりだった。
ふいと視界に大きな手がかぶさる。手はそのまま頭上をなでるように動き、手の主が腰を曲げて視線を合わせてくる。銀髪蒼眼の男は、にかっと笑って、頭をなでた子を宥めているようだ。
『そう長い話ちゃう、ええ笑顔で手ぇ伸ばす奴がじき来るやろ。そいつと一緒にいきや』
アレクサンドルが、この人たちは誰なのかと尋ねる前に、幻影は火玉と共に地面に落ちた。
そして、乾いていたはずの地面がポツンと丸く湿る。
「えっ……」
驚いたアレクサンドルが花火からクレメンスに向き直ると、点火用の蝋燭の明かりが、精霊の頬に一筋反射していた。
「育ての親……。予感があったんやろうか。この後な、……オーガに返り討ちにされたんよ……」
小さく震える声が、アレクサンドルの鼓膜を微かに震わせた。
「ごめん!」
がばりとアレクサンドルがクレメンスの頭を抱きかかえる。
精霊は動かない。ただ体重を預けた。
アレクサンドルは必死に謝る。自分の幸せな家族との思い出を、天涯孤独なクレメンスに浮かれて見せてしまった、と。
「家族いないってことは、亡くしてるってことだよな! ごめん、俺ばっか……考えなしで」
ひしと抱き込む力を強め、アレクサンドルは見えていた幻影を思い出す。
「……俺、あの人たちと眼が合って、言われた気がするんだ」
ぐ、とクレメンスの両肩をつかみ、アレクサンドルは彼の青い目を見つめた。
「俺は子供で頼りないかもしれない。でも、クレミーのこと護るから! だから」
真剣な面持ちで、精霊の手をとり、しっかりと告げる。
「一緒に生きよう」
クレメンスの目が見開く。
『そいつと一緒にいきや』
記憶と幻影の中の言葉がリフレインして、クレメンスはハッと気づいた。
あのアクセントは、『い』ではなくて『き』にあったと。
(あれは……行きや、やない……生きや、やったんや……)
クレメンスはそっと自分の右手を引き上げ、アレクサンドルの左手を近づけると、甲の紋章に唇を当てた。
アレクサンドルは驚いたようだが、一瞬後、満面の笑顔をクレメンスに見せた。
――ええ笑顔で手ぇ伸ばす奴……か。
(うん、そう長い話やなかった。ちゃんと、おったよ)
祭りの喧騒は遠く、二人の頭上には満天の星空が広がる。つうっとひとつ、箒星が流れた。
| 名前:アレクサンドル・リシャール 呼び名:アレクス |
名前:クレメンス・ヴァイス 呼び名:クレミー |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | ハートフル |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 08月18日 |
| 出発日 | 08月24日 00:00 |
| 予定納品日 | 09月03日 |

2014/08/23-23:34
セイリュー・グラシアだ。
プランは無事に提出できてるぜ。
線香花火は綺麗でいいよな。
過去を振り返るのも時にはいいかも。
更に、良い思い出を重ねられますように!
2014/08/23-20:01
アキ・セイジだ。よろしく。
何が見えるか少し怖い。
帰れない過去を手繰って何本も線香花火をつける気がする。
相棒の過去には興味が有るな。俺の知らないアイツがどんなだか気になるじゃないか。
2014/08/21-22:58
アレックスだ、よろしくな。
俺自身は過去って言ったってそんなドラマティックな人生送ってないけど
どんな感じなのか興味はあるな。
いい夏祭りになるといいな。

