


◆喉元過ぎれば……
紅月ノ神社。
祭りの期間だけ鳥居のようなゲートが開き入ることができる、タブロス屈指の謎スポット。
ちょうど祭りの期間なので入ることができるが、最近は悪さをする妖怪もいる。
しかし興味津々で祭りに参加するウィンクルムも少なくはない。
ちょうど紅月ノ神社を歩いていると、石段の脇で何かを作っている男がいた。
……頭の上に白い皿、背中には亀のような甲羅。まごうことなく『河童』だ。
「何を作ってるんだ?」
「灯籠だよ、川に流して自分の厄を流しちまおうっていう催しでな」
あんたらも灯篭作ってみるか?という河童。
「灯篭ってどんなモノ?後はどんな事をするのかな」
「まずは川に流す灯篭なんだが、対面にルーメンとテネブラを模した赤い月と青い月を描いた特別製だ。
次に自分がこの半年で身の回りで起きた災難を紙に書いて、書いた紙は灯篭の中に入れて、そのまま川に流す」
『災難は水に流して、テネブラ神様と笑い話にしちまおう』ってことさ、と続ける河童はケタケタと笑っている。
「あ、でも人の悪口とか自分がやった悪いことは書いたらダメだぞ?テネブラ神様が見てるからな。
自分の身に起きた災難をこっそり書いておくんだぞ」
「折角だし灯篭はこっちで用意しておくから、内容だけ考えてきてくれ……
あ、流石に制作費はちょっとばかしもらうけど、材料もタダじゃないから勘弁な」
そういうと河童は再び灯篭作りをせっせと再開し始めた。
今年も気づけばすでに折り返しを過ぎた頃。
上半期の厄を笑い飛ばしてしまおうではないか。


※灯篭の制作費として100Jr消費します。
目的:
灯篭に厄(身に起きた災難)を込めて川に流しましょう
灯篭:
縦30×横10×奥行10の長方形。
木枠と和紙で出来ており水に浮く造りになっている。
上からロウソクと紙が入るように蓋は付いていない。
蒼い月と赤い月を模した絵が書かれており、反対面になっている。
今回は河童サイドの粋な計らいで既に灯篭を用意してもらってます。
灯篭には2人1組で厄を入れて流す形になります。
(分ける場合は追加の製作料として100Jr消費します)
厄:
自分のPCならありえそうな災難を書きましょう。
パートナーに伝えるか否かは、お任せします。
ただし、悪事や悪口を書いた場合は手痛い『天罰的ななにか』が下り
親密さも深められないです。神様は見てますよー。
川:
紅月ノ神社から数百メートル先にある川で幅10メートルのそこそこ広い川です。
川岸は大きな石がゴロゴロと敷き詰めてあり、足場は少し悪いです。
川に流す際は川に素足で入るか、川岸からそっと流すかのどちらかになるでしょう。
川までの道のりは松明で示してありますので迷子になる心配はありません。
河童の川流れと掛けたのは内緒です、木乃です。
今回はいつもと違ってしっとりした内容でお送りしております。
厄流しという事なので今年の上半期での内容が好ましいでしょう。
それでは皆さんのご参加、お待ちしております。


◆アクション・プラン
高原 晃司(アイン=ストレイフ)
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いやさ、俺さ…?前に出て戦ってばっかなんだよなー いつ何か事故が起こるかわからねぇし そういう厄を流してみるぜ あ、アインには伝えないぜ! 心配されたくねぇし でもさ、やっぱやめられねぇだろうな アインが危険を犯してまで 前に出るのは俺もやだし それで怪我でもされたりしたら… もう、家族を失うのはごめんだしな 神人は守られて当たり前な風潮だけどよ 俺はそういうのが嫌なんだ それでも俺は俺として最前線で戦いてぇ オーガに効果的なダメージを与えられなくても 俺の攻撃がアインを救うのであれば俺はそれを実行したい もう守られるのは御免だからな …こ、こんな事アインには絶対にいえないけどな! |
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河童さん初めて見たわ 灯篭綺麗ね~ 流すのちょっと勿体無いけど、こうする物なら仕方ないわね 厄を流してもらいましょ 悪口は駄目、ねぇ そう言われると書いてみたくなるような… イルドの悪口書いてみちゃう? (悪戯な顔でちらっとイルドを見て) うそうそ、じょーだんよ!ちゃんと真面目に書くわよ! (さらさらと綺麗な字で書いて中へ 転ばないようイルドに少し触れ支えにし、川岸に行き流す) もう悪い事が起こりませんように、と (おっさんに悪い事起こると、イルドが心配しちゃうのよね… 心配してもらうのは嬉しいけど、あんま心配かけたくないのよ もちろん、イルドに悪い事起こるのは、おっさんが嫌だしね) (流れていく灯篭を見守る) |
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目的 灯篭流しの幻想的な光景をのんびり楽むぞ。 行動 「すごく手先、器用だなぁ」 その手元を見て感心した声 時折チラチラと頭の皿を見ている。触りたい。 もしOKが出たら目キラキラ 「うわ、河童の皿触ったぞー。つるつるー」 ツルツル撫でて何やら感動 仕上げくらいは自分でやりたいと、灯篭の仕上げをさせて貰うかも 「厄かー……厄っていうほどでもないかもしれないけど、あれを書いとくかな? 早く成仏してください」(両手合わせてなむなむ) お化け屋敷で本物の幽霊を見てしまい、まだそばにいるような気がして 夜は一人で寝られないし、怖いんだよなーって書いたぞ。 灯篭と一緒に河童が流れてたら、とりあず突っ込む! 「ちょっ!?まーーーっ!!」 |
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厄流し…か 僕の故郷では、灯篭は雲流しって言って綺麗な雨を乞う祭事があったよ…僕は参加した事無いけれど…なんでだろう お祭りって楽しい事の筈なのに、何だか昔の事ばかり思い出すね… ・目を伏せて長い睫毛が影を落とす ふふ、そうだね 流してしまおう。全部… でも、今年は良い事ばっかりだよ 君と出会ってもう四年近く絶つけど、漸くウィンクルムとしての仕事を始められたし、絵も不自由なく描けているし… でも、やっぱりウィンクルムとしての仕事が多くなったから、ちょっと体調崩しやすくなったかな… 熱を出して君に迷惑掛けないように気をつけなきゃね 無病息災をお願いする? わっ!ごめん…ありがとう …やっぱり、今年の僕は幸せだと思うよ |
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2人でひとつの灯篭に入れて流そうぜ。 ラキアの事だから、絶対オレの厄を流そうとするだろ。 オレもラキアの厄を流してやるからさ。 もちろんこの事はヒ・ミ・ツだ。 厄事はあまり大っぴらに言わない方がいいだろ。 ライフビショップのスキル、攻撃系ってカウンター技しか無いんだぜ。 つまり敵を攻撃したい場合は、 自分が敵からの攻撃の的にならなきゃいけない。 結構リスキーなものなんだよな。 攻撃を受けとめきれればいいけど、 相手の攻撃力の方が遥かに上回っていた場合どうなる? ヤバい。ラキアの方が絶対危険じゃん。 そんな厄が降りかからないように、 『敵からの攻撃全部。ラキアに降りかかる全ての攻撃は遠くへ流されてしまえ』と書いておこう。 |
◆河童の川流し
「おー!こんなに集まるとは」
ゴロゴロと丸みを帯びた石の転がる河原から数メートル手前。
灯篭を造っていた河童が参拝客に灯篭を渡している姿を見つけ、河童もこちらに気づくと予想以上の集まりに目を丸くした。
「今年の汚れは今年の内に、って言うけど年末まで待ってられないよな。とびっきりの災難でテネブラ神様を笑わせてくれよ」
ケタケタと独特の笑い声を上げ河童はルーメンとテネブラが相対する様に描かれた灯篭を渡す。
◆とんだ災難
高原 晃司は顔を蒼白にしていた、明るければ尋常でない事に誰でも気付くだろう。
(災難で……ムスビヨミを、笑わせる?……まずい、勘違いした!?)
厄を流すと聞き晃司は『厄がつかないようにする厄除け』と思っていたが、
実際は『身に付いた厄を落とす厄祓い』という意味だった。
アイン=ストレイフにも厄除けだと説明して誘ったが、会場に来て発覚しては後の祭り。
「晃司はどんな厄を流すのですか?」
アインは紙と筆を構え真面目な顔で考えており、その様子が真剣すぎて心にクる。
「い、言ったらアインについちまうだろ!」
元より心配をかけたくない晃司は慌てて誤魔化す。
「ふむ、そうですか」
アインは一言呟くと紙に視線を向け、筆先が服に引っ掛からないように腕組みをする。
この様子だと誤解を解くのは容易でも、普段から几帳面でしっかりしているアインが自身の災難をすぐ思いつく可能性はかなり低いことを晃司は知っている。
晃司の背中にダラダラと冷や汗が流れるような感覚が走る。
「……なぁ、アイン」
「なんですか?」
「―――ごめん!俺、勘違いした!」
勢いよく両手を合わせると晃司はアインに向かって頭を下げた。
「厄を除ける催しじゃなくて、厄を祓う催しだった」
「……ぶっ」
申し訳なさそうに謝罪の言葉を続けると、アインはこらえきれない様子で吹き出す。
恐る恐る視線を向けると、アインは顔を逸らして口元を押さえている。
「あ、アイン?」
「……失礼しました。しかし晃司、私が全く気付いていないと思ったのですか?」
アインは自身の感情を完全にコントロール出来ると自負している、逆に言えば相手の感情を読み取るのも容易い。
「河童の話を聞いて晃司が勘違いしているのかと思いましたが、まさか予想通りだとは」
しかし、気が緩んでいるせいか再びこみ上げてくる笑いを堪えるのには一苦労のアイン。
「わ、笑うなって!!」
恥ずかしさのあまり顔を赤くして抗議する晃司、とんだ災難である。
「コホン、災難なら起きましたね。晃司、お互い厄除けと厄祓いを間違えてしまったと伝えて書くつもりだった内容を書きましょう」
ようやく落ち着いたアインは一息吐くと筆に墨をつけ直しサラサラと書いていく。
アインがどのような内容を書いたのか気になった晃司は覗き込もうとするが、アインは素早く身を翻して巧みに隠す。
「晃司はどんな内容を書くつもりですか?」
「言わねぇ!」
「だったら私も言えませんね。世の中はギブアンドテイクですよ?晃司」
アインは筆を置いて文字が乾いたのを確認すると、手早く紙を折り畳み灯篭に入れる。
「さ、晃司も書いて一緒に流しましょう」
「でも、厄除けしたかった内容なんて書いても意味ねぇだろ?」
「そんな事はないです。読む相手が神なら……真摯な祈願には、何らかの加護をくれるかもしれません」
本来は災難を一緒に笑って流す催しだが、神への祈願は決して悪い事ではない。
晃司は珍しく躊躇った表情を見せるが、少しだけ間を置いて筆を握る。
《アインの力になりたい。もう家族を失いたくない、アインを救える存在になりたい》
書き終えて晃司は改めて自分の文章を見つめる、自身にとっての真剣な想いが精一杯込められている。
「では灯篭に入れて流しましょうか」
足元の石に気をつけながら晃司とアインは川へ近づいていく、
既にいくつか灯篭が流れており川を流れる儚げな光はとても幻想的だった。
晃司が川に落ちないように注意しながら灯篭を浮かべると、川の流れに沿って灯篭が流れ始める。
晃司は岸辺から離れていく自分達の灯篭を見つめ、アインは晃司の横顔を見つめていた。
アインの瞳は穏やかで、慈愛の念がこもっていた。
◆思い返せば
ここにも顔を青くしている者達がいる。
セイリュー・グラシアとラキア・ジェイドバインである。
(自分の災難をムスビヨミに伝えて笑い話にしてもらう、だと……?)
セイリューも晃司と同様に厄除けと厄祓いを間違えてしまったが、
こちらは互いの厄除けを祈願しようとして内容も相手のことを書くつもりでいた。
「あ、あははは……少し意味を間違えたね」
ラキアも困ったような笑みを浮かべて頬を掻いている、自分の災難についてすぐに出てこなさそうだ。
未然に降りかかる厄を防ごうとする厄除けと、既に身に付いた厄を取り払う厄祓いとでは……やはり意味合いが変わってくる。
「いっそ、お互いの災難を書いてみるか?」
「お互いの?」
「ルールと少し違うけど、こっそり報告してみるのはアリかなーって」
セイリューの提案にラキアは逡巡し、伏し目がちになる。
「……うん、俺はイイと思うよ」
考え込むラキアにセイリューはジッと見つめた、考えがまとまるとラキアはすぐに顔を上げて微笑む。
「よかった、じゃあムスビヨミに『ラキアはこんな災難があった』って報告するからな!」
「ふふ、セイリューのこと紙に書ききれるかな」
セイリューは目を輝かせて筆と紙を手に取り、ラキアもそれに倣いながら悪戯っぽく笑う。
(ラキアの災難ってどんな事があったっけなぁ)
提案はしてみたものの、普段から落ち着いた振る舞いをみせるラキアに災難なんてあっただろうか?
セイリューはすぐに思いつくものが中々出てこない。
一方、ラキアの方は少しだけ思考を巡らせるとすぐに筆を動かし始めていた。
心なしか楽しそうなのは気のせいではないだろう。
セイリューとしてはラキアの筆にあまりにも迷いがないので、余計に気になってしまう。
「……セイリュー、見ちゃダメだよ?」
「解ってるって」
視線に気づいたラキアがニッコリと笑みを浮かべる、意外とガードが硬い。
その笑顔は暗い夜の中でも輝いているようで、月の光を受けた花が綻んでいるようだった。
(やっぱ、綺麗だなぁ)
男女の区別は些細なこと、セイリューにとって相手に好意を持てれば保護欲を抱く理由として充分。
ふとラキアと出会った頃が脳裏を過ぎる。
「? どうかしたの」
「いや、なんでもない!」
セイリューはふと何かを思い出すと意気揚々と紙に書き出した。
《初めて会った時、ラキアを女だと思った。今は一緒に戦ってくれるラキアに厄が降りかからないようにしたい》
「出来た……あ、オレも内緒だからな!」
「ふふ、解ってるよ。読むのはムスビヨミ様だけ、だよね」
渾身の一筆に満足げなセイリュー、気を取り直して自身も秘密にすると伝えるとラキアは優しく微笑む。
「じゃあ川に流すか」
セイリューとラキアは互いの紙を灯篭にしまうと並んで川辺まで進んでいく。
「……セイリュー、裸足で入ってみない?冷たくて気持ちいいかもしれないよ」
「いいな!じゃあ川に入って流すか」
ラキアの提案にセイリューは目を輝かせ靴を脱ぎ捨てる。
足場の石もヒンヤリとして足裏から心地よい冷たさが伝わる。
「なんか夜の川っていいな、スゲー綺麗だ」
「俺達の灯篭も仲間に入れてもらおう」
灯篭を持っていたセイリューは自分達の灯篭も加えようと川へ進む。
ラキアも裸足になっており一緒に入ろうとすると、足裏にぬるりとした感触が襲う。
「わっ」
咄嗟にセイリューがラキアを片腕で抱き留める。
「ラキア大丈夫か?」
「だ、大丈夫、コケで足を滑らせただけ」
ラキアは慌てて姿勢を正し、セイリューは足元にそっと灯篭を置くと灯篭はゆらゆらりと流れていく。
「……なんだか禊っぽいね」
「……そうだな」
穏やかな川の流れに乗っていく灯篭を見つめるセイリューとラキア、水流が全てを清めてくれるように感じられた。
◆心配ご無用
「妖怪ってあんなのもいるのね……それにしても、灯篭綺麗ね~」
河童の奇抜な姿を思い出しつつ、川に目を向けたスウィンは水面に浮かぶ淡い光に目を細める。
それら全てがムスビヨミに笑ってもらえるように自身の災難を入れた灯篭である。
「それにしても悪口は駄目、ねぇ……そう言われると書きたくなるような」
スウィンはニヤリと笑みを浮かべてイルドにこっそり視線を向けると、イルドはすぐに気づいた。
――なにか企んでいる、と気づけるのもウィンクルムの感応力によるモノだけではなさそうだ。
「あのなあ、おっさん……雷でも落ちるんじゃねーか?」
呆れたように呟くイルド……だが、その呟きと同時に天上から《ゴロゴロ……》と不穏な音が聞こえる。
もしかしたら、偶然ムスビヨミに聞こえてしまったのかもしれない。
「うそうそ、じょーだんよ!ちゃんと真面目に書くわよ!」
あまりにもイルドの発言に空模様がマッチしており、スウィンも慌てて冗談だと釈明する。
「なら良いけど、こんなんで文字なんて書けるのか?」
イルドは初めて見たのか、筆を摘むとマジマジと見つめる。
「ちょーっとコツが要るけど、そんなに難しくはないわよ。おっさんは何を書こうかしら」
気を取り直してスウィンは今度こそ紙に書く内容を考え始める。
この半年で起きた災難……不運なことをムスビヨミに伝え、笑い話にしてもらうことで自身の厄を祓うのがこの灯篭流しである。
(バイクに轢かれかかった事があったわねぇ……怪我はなかったけど念のため検査とかで入院させられちゃって、色々と心配かけちゃったなぁ)
当時の様子を思い出すとスウィンの口元に弧が描かれる。
(あの時はイルドに散々心配かけちゃったわねぇ……ムスビヨミに、こっそり教えちゃいましょうか)
《バイクに轢かれかけて入院、怪我はなかったけどイルドに心配かけちゃいました》
サラサラと筆を走らせ紙面に綺麗な文字をしたためるスウィン、出来た文章を見て満足げに灯籠へと入れる。
「さぁ若者。一緒に川へ流そうじゃないの……て、どしたの?」
イルドは紙に渋い顔をして見つめていた、筆先が濡れていることから既に書いていた様子。
スウィンは気になって後ろから覗き込むと……
「あら、すごい達筆」
「ちょっ、見るなって!」
イルドは慌てて隠すがスウィンにはバッチリと見えた、紙面には文字通りミミズが這った様なスジがそこかしこにあった。
唯一解ったのは《スウィン》という己の名を書いていた事だけ。
「ん?おっさんのこと書いたの?全くイルドったら~♪」
「うっせ!さっさと流すぞっ」
茶化すスウィンにイルドは目くじらを立てて自身の書いた紙を四つ折りにして灯篭に入れる。
「じゃあ川岸に行きましょっか。若者よ、おっさんに肩を貸してちょーだい」
スウィンは灯篭を片腕に抱えると反対の腕でイルドの肩に触れる。
「面倒だから転ぶなよ」
再び呆れたように呟くイルドだが、スウィンに少しだけ身を寄せる辺り本音は違うようだ。
川に近づくと、先ほどよりも多くの灯篭が流れていた。
描かれた紅い月と蒼い月もほんのりと灯る火を帯びて夜月のような優しげな光を放つ。
「皆いっぱい災難に遭ったようね。おっさん達にも今年はもう悪いことが起きませんように、と」
川岸についたスウィンは改めて流れ行く灯篭の数を見て苦笑しつつ、灯篭を川に浮かべる。
(イルドも心配しちゃうのよね)
心配してもらうのは嬉しい、しかし心配をかけてしまうのも偲びない。
複雑な心境を入り混じらせながらスウィンは立ち上がると、イルドが両手を合わせて祈っている事に気づく。
「熱心ね」
「ちゃ、ちゃんと読んでくれって念じただけだ」
「そうね、読んでもらえるといいわねぇ」
スウィンは再び流した灯篭に目を向ける、気づけば少しずつ速度を上げて下流へ流れていた。
月の女神の元へと川が運んでいく。
◆流れる先は
シルヴァ・アルネヴは受付で河童と話をしていた、視線は時折チラッとある所に向けつつ。
「すごく手先、器用だなぁ」
「これでも提灯職人だしな、川に流せる特別な灯篭も用意出来るのさ」
河童も褒められて悪い気はしないようでケタケタと笑いながら手を見せる、指の間には立派な水掻きも付いていた。
「シルヴァ、彼も忙しいですし僕達も紙に書かせてもらいますよ」
マギウス・マグスはシルヴァの様子が少しおかしい事に気づいて用意を始めるよう急かす。
「えー!……じゃ、じゃあ最後にお願いがあるんだけどさ」
「皿はダメだぞ、落としたり乾いたら命に関わるからな」
実はシルヴァが頭部の皿に視線を寄越しているのに気づいていた河童は即座に切り返した、日頃から同じようなことがあるのだろう。
「ちぇー。しょうがないか」
残念そうにシルヴァは唇を尖らせつつ、灯篭に入れる話を書きに移動した。
「うーん、なに書こう?マギは決まってる?」
「そうですね……笑い話にする、という事なので小さな災難をお伝えしようかと」
シルヴァは筆を持つ前にマギウスが何を書くのか聞いてみた、内容までは口には出さなかったもののマギウスの中では既に決まっているようだ。
「そっかそっか、でも厄かー……厄っていうほどでもないかもしれないけど、あれを書いとくかな?」
『厄』というモノがピンとこなかったシルヴァだが、思い当たる出来事を思い出し紙にしたためる。
《お化け屋敷で本物の幽霊を見てしまい、まだそばにいるような気がして夜は一人で寝られないし、怖いんだよなー》
(早く成仏して下さい……)
シルヴァはなんとなく背筋に悪寒が走るのを感じ、紙に両手を合わせて早く浄化されるように祈る。
「? シルヴァ、僕も書けましたよ」
不思議そうに見つめながらマギウスも書き終えた紙を折りたたむ、後は2人の厄を灯篭にしまうだけ。
「あ、マギ!最後の仕上げはオレがやっていい?」
マギウスは頷くとたたんだ紙をシルヴァに渡す、中身が気になり確認したい欲求を抑えてシルヴァは2枚の紙片を灯篭にしまう。
「へへ、オレ達の灯篭完成―」
「僕達の、と言うとなんだか愛着が湧いてしまいそうですね」
シルヴァは嬉しそうに灯篭を見つめると川岸へと走り出す、マギウスも後を追うようにゆったりと歩いてついて行く。
川は既に灯篭の灯りで溢れており、水面には灯火を淡く反射した光が移り波間を照らす。
「……シルヴァ、一緒に流してもいいですか?」
「いいぜ、俺達の灯篭だしさ!」
マギウスの申し出にニカッと人懐こい笑みを浮かべたシルヴァはマギウスと片手ずつ灯篭を持つ。
描かれたルーメンとテネブラが2人の手を見つめる中、灯篭は川の水面に置かれる。
しかし、流れに乗り切れていないのかコツ、コツと石を掠めながらゆっくりと流れていく。
「なぁ、途中まで追いかけてみないか?どこまで行けるか気になるしさ」
言うや、シルヴァは河原を駆け出しゆったりと進む灯篭を追おうとすると手を軽くつつかれる。
「僕も行きますから一緒に行きましょう」
振り向いた隙に手を握るマギウス、シルヴァはきょとんとするとすぐに笑顔を浮かべ並んで追いかけた。
道中は流れる灯篭の明かりが照らしてくれるおかげで、足元も薄らと見えていた。
河原は進んでいくと途中で岩壁と水流によって途切れていた。
川の流れに乗っている灯篭は宵闇のその先へと進もうと一つ、二つ三つと離れていく。
シルヴァ達の灯篭もようやく流れに乗り宵闇へと進んでいく、灯篭の灯す光は徐々に蛍火のように小さくなっていった。
それでもシルヴァは先に進もうとしていた。
「見とれて歩いてると、河原の石に足を取られますよ」
「そこまでぼんやりしてないって!ギリギリまでついて行ってみたかっただけさ」
マギウスが引き留めるように手を引くとシルヴァは向き直る。
「なぁ、何となくあっちもゆらゆら笑ってるみたいだな」
シルヴァは天上に輝く二つの月を指差すとマギウスもそれに倣い目を向ける。
夜空に輝く二つの月は、シルヴァとマギウスを優しく見守っていた。
◆幸福も降りかかる
「厄流し……か」
そう呟いた栗花落 雨佳は物思いに耽けていた。
藍色の浴衣は夜の闇に溶け込んでしまうような儚さをより強くしていた。
アルヴァード=ヴィスナーは雨佳の横顔を横目で見つめる。
対照的な海老茶色の甚平は灯篭の光を受けてくっきりと暗がりに浮かび上がる。
「僕の故郷では、灯篭は雲流しって言って綺麗な雨を乞う祭事があったよ。僕は参加した事無いけれど……」
雨佳は憂いげに目を伏せると灯篭の灯火が長い睫毛を照らし、影を作る。
憂いを帯びた表情を見てアルヴァードの眉間のシワが深まる。
「災難はさっさと流せって催しだろ、コレ……つっても、ムスビヨミに奉納するのは笑い話になる災難みてぇだけど」
この厄流しは屋台通りや祭囃子の賑やかさと違った雰囲気を感じさせる。
故に勘違いされやすいが川に流した災難な話をムスビヨミに笑ってもらうことで厄を流す=厄祓いをする催しだ。
「でも、今年は良い事ばっかりだよ。漸くウィンクルムとしての仕事を始められたし、絵も不自由なく描けているし……」
頑張りすぎて少し体調を崩しやすくなったかな?と続ける雨佳。
「……いや、嫌な事くらいはあるだろ?絵描きの途中で絵の具が切れたり」
「それは買ってくれば良いと思うし」
アルヴァードの例えも災難だとは感じないようで、雨佳はやんわり首を傾げる。
「これから涼しくなるから熱を出して君に迷惑掛けないように気をつけなきゃ。あ、無病息災をお願いする?」
「……厄流すんだろ……というより、ムスビヨミもそこまで万能じゃないだろ」
アルヴァードは雨佳の提案に溜息を吐く。
残念そうに眉をハの字に下げる雨佳も筆と紙を手に取り、ムスビヨミに伝える事をしたためる。
《ウィンクルムとして張り切りすぎたのか、体調を崩しやすくなりました。アルヴァードに迷惑をかけないように気を付けます》
硬い絵筆とは違った柔らかい使い心地だが、雨佳は読みやすい流し文字を紙に写すことができた。
ムスビヨミにも読みやすいように配慮したのかもしれない。
一方のアルヴァードは特に書こうとする様子はない。
「アルは書かないの?」
「生憎、俺は特に考えてきてない。一緒に流さないとダメって訳でもなさそうだし、お前は何を書いたんだよ」
雨佳の問いに面倒そうに返すアルヴァード、もしかしたら特に災難がない良好な上半期を過ごしていたようだ。
「さっき話したことだよ、アルも頑張ってくれているから僕だけお休みしたら迷惑をかけてしまうもの」
紅色の唇で弧を描きながら雨佳は折りたたんだ紙を灯篭にしまう。
「取りあえず……絵に集中しても飯だけは喰え。飢え死にしたら体調管理もクソもねーだろ」
「ふふ、そうだね」
そういえばそんな事もあったなぁ、とぼんやりと思い出しながら雨佳は灯篭を抱えアルヴァードと共に河岸に足を踏み入れる。
「わぁ……凄い」
川を流れる灯篭の数はピークに達したようだ、天の川を移したような光の溢れる川に雨佳は感嘆の息を吐く。
「良い絵に出来そう、この光景も絵にしようかな」
「雨佳もさっさと流してきちまえ」
見とれている雨佳にアルヴァードは次の行動を促す。
雨佳は川へと近づいていき、自身の灯篭も光の川にゆっくりと加えて行く。
流れていく光が、またひとつ増えた。
川の流れに灯篭が乗ったことを確認した雨佳は立ち上がろうとすると
「あっ」
石を踏み外し後ろに体勢を崩す……が、冷たい石にぶつかる気配はなく。むしろ暖かいモノに当たった。
「危ねぇなっ!気をつけろよ……バーカ」
視線を向けると後ろにいたアルヴァードが支えてくれていた、しかし顔をそらしており表情は伺えない。
「わっ!ごめん……ありがとう」
「ふん」
鼻を鳴らすアルヴァードだが、雨佳に顔を合わせる気配はない。
(……やっぱり、今年の僕は幸せだと思うよ)
心の中で感謝しながら、雨佳は先ほどのように目を伏せる。
その顔には喜びが現れていた。
| 名前:シルヴァ・アルネヴ 呼び名:シルヴァ |
名前:マギウス・マグス 呼び名:マギ |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 木乃 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 08月19日 |
| 出発日 | 08月26日 00:00 |
| 予定納品日 | 09月05日 |


