Rocking Horror Show!(木乃 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「ふあ~、夏真っ盛りですね」
パタパタと団扇で顔を扇いでいるミラクル・トラベル・カンパニーの女性職員。
長い黒髪が額に張り付いている様子から、冷房の効いた室内に入ったばかりなのだろう。

「今回はイベントのお知らせに来ました。いわゆる肝試しっていう奴なのですが……場所は郊外にある廃病院になります」
後ろに置いていたホワイトボードに概要が書かれていく。
肝試しといえば夏の風物詩であるが、わざわざ廃病院を用意してくる辺りかなり本格的なもののようだ。
「廃病院内に設置したタリスマンを各3種類持って、戻ってきたらクリアなんですけど
 このルールだと怖がってる人を置いて1人で取りに行くことも可能なんですよね?」
うふふ、とおっとりした笑顔を浮かべるがルールの穴もしっかり指摘してくる辺りは抜け目がない。

「そこで、参加者のペアにはクリアするまでコレを付けて頂きます」
女性がバッグから取り出したのは……なんと、チェーンの長い手錠。
さすがに『そういう趣味があるのか!?』と動揺するウィンクルム達、人は見かけによらないというが……
「肝試しで使う小道具ですよ?長さは30cmのもので多少は離れて動けますけど……
 パートナーが怖がって動けない場合はクリアが遠のいちゃいます。
 タリスマンが取りに行けないですからね」
怖がりな者は既に職員の笑みが怖くて震え上がっている、かなりドエスなのかもしれない。

「こ、これって……途中でリタイアとかも出来るの?」
「出来なくもないですけど……お化けに扮した職員に話かけることになりますね。
 逆にお化けを探す羽目になって余計に怖いのでオススメはしないですが……
 あ、私達は一般人なのでくれぐれも驚いて怪我させたりしないで下さいね?」
個別に治療費をお支払いして頂きますので……と、困ったような顔をする。

「うふふ、危機的な状況は吊り橋効果なんていうのも出やすいですからね?
 背筋を凍らせながらドキドキの熱い夜を過ごしに来てください☆」
そう言ってにっこり微笑む職員は、やっぱりドエスなのかもしれない。

解説

※参加費用として300Jr消費します。

目的:
パートナーと協力して廃病院の肝試しをクリアしよう

開催:
19:00~0:00の夜の時間帯

廃病院:
2階建ての建物で地下1階もある。
各階にタリスマンが用意されており、
フロアにはお化け、マッドサイエンティストなどに扮した職員が徘徊している。
稀に本物が出てくるとかなんとか……?

【職員を負傷させた場合は治療費として職員1人に対し200Jrになります】

タリスマン:
手の平サイズの丸いお守り、紐を通せば首にかけられる。
石で出来ておりそれぞれ『い』『ろ』『は』というマークが入っている。
この3個を集めた状態で入口に戻るとクリア。

手錠:
チェーンの長さは30cm
左手首と右手首に装着され、クリアするまで外せない。
【手錠を破壊したりチェーンを切った場合は失格の上、修理費として500Jrの請求がかかります】

その他:
タリスマンをかける革紐、懐中電灯2本が用意されている。
革紐は首にかけられる長さなので、首にかけておきましょう。

ゲームマスターより

ホラー大好き、木乃です。
心霊現象とかゾクゾクしちゃうタイプです……!
霊感がないということがいかに素晴らしいか。

今回は廃病院を肝試しするエピソードとなっております。
おばけに危害を加えたり、手錠を外すとジェールがかかりますので
ルールに則って肝試しをご堪能ください。

それでは皆様のご参加をお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

叶(桐華)

  廃病院って、なんでこうわくわく…じゃない、どきどき…でもない
ぞくぞくしちゃうんだろうね!

手錠でしっかり繋いでー、さぁ、桐華さんれっつごー♪
手術室とかー、霊安室とかー、ナースステーションとかー
タリスマンは各階に一個らしいけど、折角だから端から端まで全部見てく
同じお金払うなら余すことなく全部楽しんだ方がお得!
隠してあるかもしんないから開けれる物は片っ端から開けてく
ハイ桐華さん逃げないのー

お化けの方もリアクション大きい方が驚かし甲斐があるよね
フェイクの有効活用してきゃあきゃあ怖がる振りしながら楽しもう

タリスマンは桐華に持たせよう
お守りだって言うし
僕より、桐華に必要そうだもの
ほら、怖くない怖くなーい



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  ■右手首に手錠。見取り図をみて上から地下へ
見落とすような隅に注意し懐中電灯で照らす

本物の廃病院かな…?

『お化け屋敷やからかう輩には寄って来る』と聞いて以来避けてきた
怖くない!血や内臓は苦手だけど…
(男として怖がる訳には。神人で守られて立つ瀬ないのに)

(笑いにムカ)
タイガ、Mだったんだ。気づかなくてごめん。首輪かってあげるから
え、本気でしてほしい?
ふふ。気は紛れたかな

迫力あるね…
○ェイソンじゃないんだから…ーーっ!
あ!ああ…(尻尾はなし)
さっきから悪い。手首も痛いよね…繋いでいい?

ネタはもういいよ
つり橋効果かな。脈がすごい

…かもね。タイガ男前だし、異性ならとっくに落ちてそう
(親友っていうのかな)



鳥飼(鴉)
  革紐は首に。
手錠は左。
懐中電灯は右手。

夏といえば肝試しです。
廃病院を使うとは本格的です。何か曰くがあったりするんでしょうか。

「鴉さん。手、繋ぎましょう?」
チェーンに引っ張られるより、全然良いと思うんです。

上と下、どちらからにします?
上からの景色も見たいですし、下からにしましょうか。

(やっぱり。右腕、動きが鈍いみたいです。
 何かあったんでしょうか。いつか話してくれると良いんですけど)

本物だと更に雰囲気が出ます。
でも、もう近くにはいない感じですね?(小首傾げ)

うわ、びっくりしました。(一歩下がる)
高笑いとか、響きますね。喉痛めないか心配です。

暗いから、よく見えないです。
鴉さんは夜目が利くんですね。



◆本日のゲストは
「は~い、お待ちしてましたよ」
ほんわか企画担当の背後には今回の舞台となる廃病院。
中からぼんやり浮かぶ光は非常灯ようだ。
外壁は蔦が地面から伸びており汚れた外観がおどろおどろしさを醸し出す。
ナニか居ると思わせる雰囲気は十分だ。

「廃病院って、なんでこうわくわく、いやドキドキ……ぞくぞくしちゃうんだろうね!」
興奮気味の叶の笑顔は爽やかさにブラックさを感じる。
「……」
パートナーの桐華の顔が現時点でやや青ざめている気がするのは気のせいだ、
平静を保とうとしているのだから、彼のアイデンティティ的に触れない方がいい。
「うわぁ!スゲー本格的だな」
火山タイガは目の前にそびえ建つ廃病院を興味深く眺めていた。
(本物の廃病院かな……?)
セラフィム・ロイスも同じように興味深く眺めていたが、タイガとは真逆の印象で眺めているようだ。
(廃病院を使うとは本格的です、曰くがあったりするんでしょうか)
夏といえば肝試し、定番を抑えた企画に鳥飼も興味津々だった。
(主殿、あなたは何だって肝試しなどを……)
鴉はホラー系が苦手ではないものの参加する必要性を感じられない、と思うが鳥飼が参加したいということなのでついて来ている。

「さて、これから1組ずつ出発して頂き、15分ほど時間を置いてから次のペアに出発して頂きます」
最初のペアの方は並んで手を出して下さい、指示を出すと担当は両手首にチェーンの長さ30cmの手錠を付ける。
「3種のタリスマンを持って戻ってきて下さいね」
最初のペアを見送るといよいよ廃病院の肝試しが開始した。

◆這い寄る嘲笑
「こういうの苦手って判っていて連れてくるお前に腹が立って仕方ないんだが」
先ほどの噂話を聞かされて既に顔面蒼白状態の桐華は静かに叶に抗議していた。
「でも、僕がこういうの大好きだって判ってるからついてきてくれるんでしょう?ほらほら手錠でしっかり繋いでー……さぁ、桐華さんれっつごー♪」
桐華の抗議を意に介さない叶は意気揚々と手錠の拘束具合を確認して、桐華の手を引いていく。
実はホラー嫌いの桐華に対して叶はホラーが大好きなので今回の企画はノリノリで応募してきており、後からきかされた桐華の様子は『お察し』である。

「どこに行こうかな、内部の見取り図とかあったらいいんだけど」
「あれじゃないのか?」
桐華は受付カウンターの脇にある図面を指差す。
図面には『施設案内図』と書かれており、廃病院内をイラストで解説しているようだ。
「さすが桐華!どこから行こうかな……ねぇ、手術室と霊安室とナースステーションなら」
「ナースステーションにしよう」
叶の提案に喰い気味で桐華が切り返す、どうやら一番怖くなさそうな場所を先手を打って選んだようだ。
「えー……じゃあナースステーションに行こうか、どんな恐怖現象が起きるかな!」
「起きる前提で行動するのか……」
満面の笑みを浮かべる叶に抗議するのも疲れてきている桐華は、叶に手を引かれてナースステーションへと向かうのであった。

***
「鴉さん。手、繋ぎましょう?」
「手を?」
2番手は鳥飼と鴉の2人組、こちらは可もなく不可もない様子で内部に潜入。
「チェーンで引っ張られるより、絶対良いと思います」
驚いて引っぱったら跡がついちゃうし痛いじゃないですか?と自身の左手首に付けた手錠を指差して続ける鳥飼。
鳥飼の細く白い手首には不釣合いな手錠が隙間を余して引っ掛かっていた。
手錠の鎖チェーンを付け替えただけなのでクッションなどはついておらず、鳥飼の言葉も一理ある。
「確かに前触れなく移動されるのは困りますが……まぁ、いいでしょう」
鴉も鳥飼の弁に納得して手錠のついた右手を差し出す。
伝わってくる体温が互いの存在を証明してくれるようで、つかの間の安心感を与えてくれる。

「鴉さん、上と下だとどっちから行きます?」
「主殿の意のままに。私はこういった催しにはとんと疎いもので」
「じゃあ、上からの景色も見たいですし下からにしましょうか」
鳥飼は鴉に行き先の意見を求めたものの、乗り気ではないのか意見を逆に求められてしまう。
2人は一度、地下階を目指して下り階段を探しに行動を始めた。

(このような場所だと、どうにも昔を思い出しますね……嬉しくもない)
そんな中、鴉は切れ長の瞼を僅かに開いて顔を一瞬顰めたがすぐにいつもの飄々とした表情に戻した。

***
最後はセラフィムとタイガ。
(『お化け屋敷やお化けをからかう輩には寄って来る』と聞いて以来、避けてきたけど……大丈夫だ、怖くない!)
血や内臓は苦手だけどそんなR‐18G的なモノは流石に用意してないはずだ、と思いつつ内心冷や汗をかいているのはセラフィム。
(男として怖がる訳には……神人として守られてばかりで立つ瀬ないのに)
セラフィムなりに色々と意地があるようで、アトラクションですら守られてしまうのは彼の矜持が許さない模様。

「セラ、大丈夫か?」
「!? う、うん……大丈夫」
「なら良いけど……この手錠もいい感じだな、これで運命共同体!」
一方のタイガはそんなセラフィムの心境を知ってか知らずか、余裕の様子で左手首の手錠をガチャガチャと鳴らす。
セラフィムはそんなタイガの様子に少しの悔しさと多大な頼もしさを感じる。
(悔しいけど、タイガと一緒なら大丈夫だよね……なんか幽霊とか吹き飛ばしてくれそうだし)
「えーっと、あれが見取り図か?」
タイガはロビーを軽く見渡して、受付脇にある見取り図を見つける。
「セラ、どっから行く?」
「2階から地下へ順番にいこうか、タリスマンは手の平サイズらしいし見落とすような隅をしっかり確認していこう」
セラとタイガは早速、上階へと向かう階段を目指して廃病院内を歩き始めた。

幸か不幸か。
3組はそれぞれ違うフロアで行動開始した。

◆冒涜的看護婦
「同じお金払うなら余すことなく全部楽しんだ方がお得!」
端から端まで見ていこうねと、上機嫌な叶。人気のない雰囲気すら彼にとってはただの演出に過ぎない。
「わざと時間がかかるような回り方してないか?」
「1階のナースステーションから行きたいって言ったのは桐華じゃないか」
『見取り図に載ってたよ?』と叶の指摘を受けて先ほどの見取り図の全容を細い糸を手繰るように桐華は思い起こした。
「あ」
「ほら、桐華から言ったんじゃない」
叶はニッコリと笑みを浮かべると再び桐華とナースステーションを目指し歩き出す。
程なくして前方には非常灯の緑の明かりを受けている『ナースステーション』の文字、どうやら目的地のようだ。
「なにも起きなかったね」
「叶は何故そこまで残念がれるのか、もはや理解不能だ」
道中でなにも怪奇現象が起きなかったことに残念そうな叶とげっそりしている桐華。

2人はナースステーション内部へと入りタリスマンを探し始める。
元は看護士が患者のためのカルテや薬品物などを管理していただけに戸棚の数は多い。
「どこにあるかな」
叶は怯える様子もなく次々と戸棚を開けていく。
「おい、何が入ってるか解らないのに」
「隠してあるかもしれないじゃない」
開けられる物は開けていかないと、と言いながら叶は次の戸棚を開き始める。
桐華は叶が開ける度、戸棚がガタッと音を上げるのでその度ビクッと体を震わせている。
「……」
両手で耳を塞ごうとする桐華。
『この不快な音を少しでも聞かずに済めばまだマシだ』そう思う桐華の意思とは裏腹に、片手が動かない。
「?」
「ハイ桐華さん逃げないのー」

動けない理由は至極当然、何故なら『片腕は手錠でパートナーと繋がれている』から。
桐華の片手にかかっていた手錠は巧みに取っ手に引っ掛けられており叶が耳を塞げないようにしていた。
「……次行くぞ」
一刻も早く出たい桐華は次の目的地へと促した。
「もう行くの?まだあの部屋見てないけど」
叶が視線を向けた先は『資料室』と書かれている、ナースステーション用のものだろう。
「行かなくていい所にわざわざ行くな」
桐華の様子に流石に叶も『えー』と抗議する。
「そこまで言うなら桐華さん、僕を抱っこして行けばいいじゃなーい」
拗ねたように抗議する叶に桐華は呆れたように溜息を吐く。
「引き摺るぞ」
「壊したら弁償だよ?500Jr」
叶は『桐華が出してくれるんだよね?』と無言の圧力を笑顔に載せており桐華も流石に気圧される。
再びため息をつきそうになった……その時

―――――ガタッ

「!?」
資料室から不審な物音、過敏に反応して表情を強ばらせる桐華と興味を示す叶。
「なんだろう?」
「おい、ちょっと待て」
興味津々な叶は資料室の扉を開けようと近づく、引き止めようとする桐華だったが動揺するあまりに自分よりも膂力のない叶に引き摺られていく。
しかし、2人が辿り着く前に……資料室の、扉が開かれた。
扉から出てきたのは――――血にまみれたナース服を身に纏い、青白い顔面を鮮血で彩る、点滴棒に体を預けていた…… 

異 形 の 惨 殺 死 体
(に模したミラクル・トラベル・カンパニーのホラー専門要員である、その特殊メイクは参加者を一気に恐怖へ陥れる!)

「あぁぁぁ」
「……」
桐華は目の前に現れた冒涜的な存在に思わず声を失う、その顔面は土気色になっていた。
そして叶は
「……うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
先程までの余裕を失ってしまったかのように、両目を目の前の存在に釘付けにされ叫び声をあげる口元を両手で抑える。
非現実的な存在の出現に恐慌状態に陥ったかのように見える。
「叶、逃げるぞ!」
桐華は叶を助けようと手錠で繋がった手を掴むと走り出した、
異形のナースを確認する余裕もなく、とにかく安全な部屋に隠れようと必死で走る。
「あ、あ、あぁ……」
叶はいまだに恐慌状態なのか、声にならない声を漏らしている。
桐華は何回か曲がり角を曲がると適当な位置にあった扉に入る。
「……ここならもう大じょ」
「あはは!」

必死で走っていた桐華は肩で息をしながら確認すると、先程まで恐慌状態だった叶が笑い転げる。
「叶?」
「お化けの方もリアクション大きい方が驚かし甲斐があるよね」
まさか桐華まで騙されるなんてなーとイタズラが成功した子供のように喜ぶ叶。
……どうやらさっきは恐慌状態に陥ったフリをしていたらしい。
「……はぁぁ」
桐華は深い溜め息をつかざるを得なかった、必死で助けたつもりが演技だったとは。
「ごめんって、本当に抱っこされたら流石の僕でも驚いて悲鳴あげちゃう……ん?」
落ち込む桐華の肩を叩いていた叶は部屋の中にあったデスクの上に置かれた物に気がつく。
「桐華、あれ」
「え?」
大きな木のデスクの上には編み籠がありその中には3個の石が入っていた。
手に取ってみると、石で出来ていて『ろ』と掘られていた。
「やっぱりタリスマンだよ」
「ようやく一個目か」
嬉々とする叶に軽くため息をつく桐華、叶は桐華の首に革紐に括りつけたタリスマンを付ける。
「お、おい」
「お守りだって言うし桐華の方が必要そうだもの」
ほら、怖くない怖くなーいと戯る叶だったがお守りを譲った辺り本音は心配だったのかもしれない。
叶と桐華は2個目のタリスマンを探しに次のフロアを目指した。

◆彷徨える亡霊
『うわぁぁ……』
「!?」
「どなたかに何かあったようですね」
響き渡る叫び声に鴉は肩を僅かに揺らし、鳥飼は叫び声を聞いたにも関わらず冷静さを保っている。
鳥飼と鴉は地下階を巡ってタリスマンを探していたが未だに見つかっていない。
そもそも地下階はあまり他者と接触をせずに済ませたい、あるいは他者となるべく接触せずに済むように配慮した仕様が多い。
例えば……
「霊安室でしょうかね」
鴉は地下階で『敢えて人が行きそうな場所』を見てみては、と提案する。
「さ、さすがに不謹慎じゃないですか?廃病院っていうことは実際使っていたでしょうし」
「廃病院を使っていること自体が不謹慎かと。少し確認するだけですよ」

とは言ったものの、地下階は部屋名を書かれた札がほとんど剥がされており見つけるのにかなり苦労しているのが現状である。
適当に近場の部屋を見て回っていたが今のところ霊安室にはたどり着いていない。
「次はこの部屋を見ましょうか」
先行して鴉が部屋の扉を開け、鳥飼の手を引きながら中に入る。
引こうとする右手は先程から不自然なまでに硬直したと思えば、手が抜けそうになるほど脱力したりしていた。
(やっぱり。右腕、動きが鈍いみたいです)
鴉の身の上を知らぬ鳥飼には怖がっている訳でもない鴉の右腕の不自然さはより際立って感じさせた。
(いつか話してくれるといいんですけど)
今はその時ではない、と自身の好奇心を鳥飼は抑えていた。

「ここが霊安室のようですね」
鴉はコンクリート剥き出しの6畳程度の部屋にベッド一台と小さなテーブルが置かれているのを見て目当ての部屋であることを察した。
元来、死者を眠らせる場所として余計なモノを排除した造りとなっている霊安室。
壁に残された除霊札はすでに色褪せており、役目を終えていることが容易に見て取れる。
そしてベッドの上には黄ばんだシーツと硬そうなマットが置いてあるが、膨らみはない。
どうやら霊安室にお化け役は潜んでおらず、タリスマンも置かれていない。
「まぁ、確認だけのつもりでしたから……それにしても、やはりここだけ雰囲気が違いますね」
「本物だと更に雰囲気が出ます」
実際に使用していた霊安室という先入観もあってか、懐中電灯のみに照らされた室内は冷たく重い澱んだ空気を孕んでいるように感じる。

「次の部屋に行きましょうか」
『怖いの?』
「いえ、そこまでは……え」
「え?」
鳥飼の答えは鴉の提案に対するものにしてはあまりにも不自然だった……そう、まるで
第 三 者 の 問 い に 答 え た よ う だ

「か、鴉さん、次へ行きましょう」
背筋を冷たいモノが通る感覚に襲われた鳥飼は鴉を急かして霊安室を出ようとする、不思議そうに見つめる鴉もそれに倣って廊下へ出ると

廊下には
両目を爛々と光らせ
口元に弧を描いた
亡霊が、いた。

「キィィィィヤァァァァァァ!!!!」
「!?」
「うわっ」
一歩後ずさる鳥飼と、驚きのあまり肩をビクリと震わせて一瞬硬直する鴉。
「ギャハハハッハハヒーヒヒヒヒヒ!!」
「……高笑いとか、響きますね。喉痛めないか心配です」
「主殿、着眼点がずれていますよ」
驚きのあまり素に戻ってしまった鳥飼は思った感想を率直に述べ、気を取り直した鴉がご丁寧にツッコミを入れる。
「……」
「「……」」
明らかに亡霊役は宴会で重役のカツラを華麗にかっ攫ってコンプリートしたDQN社員のような空気の読めない扱いとなってしまった。

後ほど、無事に『い』のタリスマンを階段下の隙間で入手したが
鳥飼と鴉はお化け役に遭遇すると終始居た堪れない空気になっていた。
お化けサイドにとってある意味で一番『怖い』存在となってしまい
後日、対策マニュアルに組み込まれたのは別の話である。

◆狂気の解剖医
『ギャハハ……』
地下の亡霊の高笑い2階まで響き渡っていた。
(い、一体なにが出てきたんだろう)
セラフィムの顔色は自身の髪色に少しずつ近づいていた。
「今の笑い声が監禁の主人なら……さながら、実験動物の奴隷かな?オレ達」
俺ってもしかしてハマり役だったりして!と明るい調子で話を続けるタイガだったが、
どうやら恐怖でフラストレーションの溜まるセラフィムの逆鱗に触れてしまったようだ。
「タイガ、Mだったんだ。気づかなくてごめん。首輪買ってあげるから……え、本気でしてほしい?」
じゃあ赤いレザーとか似合いそうだなぁと濁った瞳と抑揚のない声で続けるセラフィム。
「いやいやいや!危ない世界開きそうだし遠慮しとくって!」
尋常ではないセラフィムの様子に慌てて取り下げるタイガ、そんなタイガの様子にセラフィムは思わずクスッと微笑む。

「ここは病室が多いな、入院患者の受け入れもしてたのかな」
「病室のどっかにありそうだな、っと」
2人は2階の多目的室やトイレを見るがタリスマンは発見できず、数の多い病室に狙いをつけていた。
「……あ、セラ!アレじゃない?」
病室を覗いたタイガはとある集団病室の奥に何かが置かれているのを見て揚々と入る。
「ちょ、ちょっとタイガ」
慌ててセラもついていくと、入院用のベッドに備え付けてある机の上に石の入った籠がある。
「やっぱそうだ、『は』って掘ってあるぞ」
タイガは嬉しそうにタリスマンを手に取るとじーっと眺めている。
「タイガ?」
「コレ、セラが持ってろよ」
お守りらしいからな!と言ってタイガは嬉々として革紐に括りつけたタリスマンをセラフィムの首に付ける。
(もう、タイガったら……)
複雑な心境のセラフィムだが、なんだかんだで心配してもらえるとやっぱり嬉しいのが本音。

「へへ、じゃあ次のフロ」
タイガは向き直ると発していた言葉を止めてしまい何かに釘付けになっている。
不思議に思ったセラフィムが同じように視線を向けると……灰色の干からびた人体が転がっていた。
「うわぁぁ!?」
セラフィムは驚いてタイガの尻尾を握りしめてしまう。
「い?!尻尾!千切れるって!」
タイガは掴まれたことに驚く、敏感な部位なのか痛さで涙目になっている。
「あ……悪い」
セラフィムは手を離すと申し訳なさそうに言葉を続ける
「手首も痛いよね……繋いでいい?」
「おう!でも、アレなんだろ」
改めて見るとマネキンにゾンビの特殊メイクが精巧に施されていることがよく解る。
「迫力あるな」
マネキンだと理解できてもセラフィムの表情は引き攣っている。
「この後、劇薬入り注射を持ったマッドサイエンティストが追ってきたりして」
「それフラグ」
タイガの無邪気な一言にゾッとするセラフィムであった。
「とにかく、下り階段まで行こうか」
手を繋いだセラフィムとタイガは改めて下に降りようと病室を出ようとする、すると……

『しゅこー、しゅこー』
先程は聞こえてこなかった不自然な空気音が聞こえてくる。
まるで狭い穴から空気を吐き出し吸い込んでいるような、例えて言うならガスマスクを付けているような。
「「……」」
恐る恐る、音のする方向に目を向ける二人……そこには

ガスマスクを付け、手に緑色の液体を容れた注射器を持つ……手 術 着 の 大 男
「わぁぁぁぁ!?」
「じゃ、ジャクソンじゃないんだからー!!」
思わぬ先客の存在に叫びだすタイガとセラフィム、大男は二人の様子に構わずゆらゆらりと動き出す。
「とにかく下へ!」
動き出す大男にセラフィムはタイガの手を引いて正気を取り戻させると急いで階段まで走っていき、大男も追いかけてきた。
緊張感から来る動悸の激しさに鼓動が早まるのを感じるセラ。
(脈が凄い、これも吊り橋効果かな)
企画担当の言葉を思い出すと、タイガも同じ気持ちなのか繋いでいる手を握りしめてくる。
階段まで辿り着くと一気に駆けていこうと足早に降りようとする。
「あっ」
焦るあまりセラフィムは段差を踏み外し、ゆっくりと階段を転げ落ちそうな錯覚に陥る。

「危ねぇ!」
セラは階段から勢いよく転げ落ちた……が、痛みを感じない。
「……あ」
一瞬早くタイガが抱きかかえてクッション代わりになったのだ、一重に精霊の身体能力が成せる技だ。
「大丈夫か?」
強かに背中を打ち付けたのにも関わらず、自分よりもセラフィムの身を案じるタイガ。
(この場面……タイガ男前だし、異性ならとっくに落ちてそう)
そう思ったセラの胸には少しだけモヤモヤとした感情が残り、耳元では動悸の激しいタイガの心音が聞こえる。
「大丈夫、ありがとう」
「良かったぁ……い、行くか!」
タイガはセラフィムの無事を確認すると安堵の息を吐き立ち上がる。

心なしか耳が赤いのは、走り回ったことが原因ではないだろう。

◆終演
「お疲れ様でした、全員生還できて良かったですね」
担当は外で全員の叫び声が聞こえたのか、終始にこやかに出迎えてくれた。

「次はもーっと怖い企画を用意するので存分に怖がりに来て下さいね」
やっぱりこの人、ドSだ。



依頼結果:大成功
MVP:

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月29日
出発日 08月07日 00:00
予定納品日 08月17日

参加者

会議室

  • [3]叶

    2014/08/06-18:24 

    肝試しの季節だねぇ、ぎりぎりな夜を迎えるところでこんばんわ、叶っていいまーす。
    お化け屋敷の苦手な相方を無理やり廃病院にねじ込んで反応を楽しみたいとか
    そーんなことを思ってたり思ってなかったり。
    …え?やだなぁ桐華さん、僕そんなひどいことしないよぉ。

    あんまりはしゃぐと怒られちゃいそうだけど、楽しく満喫できればさいわーい。宜しくね。

  • [2]鳥飼

    2014/08/05-22:16 

    皆さん初めまして。
    僕は「鳥飼」と呼ばれてます。好きに呼んでくださいね。

    それで、この人は


    鴉:
    私のことは「鴉」。そう御呼びくださいませ。
    ええ、お会いしたときには情報交換でも致しましょうか。(にっこり

  • [1]セラフィム・ロイス

    2014/08/04-20:35 

    よっす!肝試しの季節だな!あっと自己紹介っ
    セラ風にいうと・・・
    精霊のオレ、タイガと。神人のセラフィムだ。一緒する皆、会ったときはよろしく頼む!
    オレらは攻略よりは雰囲気楽しむ感じかな?
    そういやお化けって好きなんだっけか。聞かねーと

    ホラーコメディってどうなるか期待しとこっと♪後なにしてみるか~

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