


パシオン・シーのとある一角。
透明な浅瀬に魚が群がっているのを見て、バーベキュー主催者がうんうんと頷いている。
「やはり、このあたりにしよう」
「そうですね」
隣に並んでいた中年の男が、持っていた釣竿をひょいと海の中に落とし込む。
水中の魚はしばらく様子をうかがっていたが、そのうちの一匹が、我慢できずに釣り餌にくらいついた。
それを見計らって、男は釣竿を引き上げる。
また別の男が水網を使って、それに魚を入れる。
流れるような動作で、一匹の活きのいい魚が捕えられた。
「ここの魚は数が多く、人が水中で暴れたりしなければ逃げることもないでしょう」
「そうだな。では、魚釣りもプランに入れることで」
場所の最終確認をしたところで、主催者は皆と改めて今回のプランについて確認し合った。
「今回、我々が用意するのはペアによってさまざまな楽しみ方をしてもらう『段階BBQ』。
材料のカットも火おこしもすべて我々がおこなっておく『お任せプラン』、
材料のカットのみ客にしてもらう『料理プラン』、
材料のカットも、火おこしもすべて客にしてもらう『自己流プラン』。
基本はこの3つだ」
あらかじめ配布されていた資料に目を向けながら、皆が一様にうなずく。
「そしてこのそれぞれのプランに、オプションとしての『魚釣り』を。追加料金を払ってもらえたら、釣竿と釣り餌を渡す。
基本のバーベキューに加え、獲れたての魚の味も楽しめるってわけだ」
また、皆が一斉にうなずく。
だが、その中の一人がふと疑問を口にした。
「あれ。でもそうなると、プランによって皆さんちがうことをされるわけですから、お客さん同士でわいわいとはあまりできないんじゃ……」
それを聞いて、一瞬主催者が苦い顔をする。
だが、すぐに体制を取り戻した。
「いいんだよ! バーベキューは人が集まるとやれ「気がきく」だの「うまく動ける」だのグループ内で互いの批評が始まるんだ!
そんなのぎすぎすしていやだろう!?」
今回の客層を見てから、再び主催者の言葉に意見が入る。
「……男同志でも?」
「男同志でもだ!」
そんなにむきにならんでも、と他の者は主催者から少し距離を置く。
「いいんだ! これでいいんだ!」
美しい海を前にして、主催者はそう自分に言い聞かせた。


●段階BBQについて
上で述べたように、3つのプランから選択していただくことになります。
『お任せプラン』……一組当たり200ジェール。とにかく楽。
『料理プラン』……一組当たり150ジェール。パートナーに包丁さばきの見せ所。
『自己流プラン』……一組当たり100ジェール。バーベキューの諸々を幅広く楽しみたい方に。
すべてバーベキューに使う道具のレンタル料、材料費込みです。
材料は牛肉、ハム、野菜(ピーマン、玉ねぎ、にんじん、とうもろこし、キャベツ)を平均成人男性の量にあわせてご用意(下味付き)。
たれもついてきますよ。お皿とお箸もサービスです。
追加料金で一組当たり10ジェール出していただけますと、マシュマロもお渡しします。焼きマシュマロ、美味です。
飲み物はソフトドリンク類が無料で、アルコール類は有料。
オレンジジュース、アップルジュース、グレープフルーツジュース、アイスコーヒー、アイスティー……0ジェール
ビール、チューハイ、焼酎……一人当たり20ジェール
また、それぞれのプランに追加できる
『魚釣り』……一組当たり100ジェール。
釣竿のレンタル、釣り餌も含めてのこの値段。
ご希望される方に追加していただけます。
●プラン例
『お任せプラン』+マシュマロ+オレンジジュース+ビール+『魚釣り』=一組当たり330ジェールといった感じです。
●バーベキューのあとは
このプランは夕方ごろの開始を予定しております。
おなかがふくれたあとは、夜空を眺めながらじっくり話をしている方もいらっしゃいます。
男性側ではお久しぶりです、ゲームマスターのタカトーです。
主催者側はあーだこーだ言っておりましたが、プレイヤーさん同士で事前に話し合っていると、
合同でバーベキューを楽しむこともできるかと思います。
基本は一組ずつでのバーベキューのお話になるかと思いますが、そのあたりは会議室でご相談いただきますようお願いいたします。
プラン、飲み物の選択などをされたあとは、パートナーとのバーベキューを存分にお楽しみください!


◆アクション・プラン
叶(桐華)
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料理プランに、マシュマロ! 飲み物は二人ともアイスティーでね 魚も食べたい。魚釣ろう 火の方はスタッフさんにお任せして、のんびり楽しもう 家でも料理してるし、こういう羽伸ばせる機会っていいよね 全部任せても良かったけど、桐華がどれだけ包丁使えるのかも知らないし、一緒にやってみたい 焼いて貰ってる間に食後のデザート用に持ってきた林檎もカットしてる 勿論兎さんカット。ふふん、器用でしょ マシュマロは自分で焼いても良い?焼けるの眺めてるの好きー ココアにマシュマロ入れるとまろやかになって美味しいって聞くよね 寒くなってきたらさ、やってみようよ あと、泳ぎにも行きたいし、美味しいもの食べにも行きたい 一緒に、色々遊びに行こう |
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ベーべキューか。面白そうだし行ってみようか 色々揃っているみたいだしね 『料理プラン』飲み物はアイスティー 釣れるかは解らなけれど魚釣りも盛り込んで、っと ほら、せっかく海に来たんだしね 野菜を洗って皮を剥いたらたらアクアに手渡す 切るのはアクアの方が上手いからお任せで やることが無くなったら一足早く魚釣りでもしようか 魚自体は見えてるし、釣れたらいいんだけれど……どうかな? もし釣れたらアクアに捌いて貰おうか ……何時も思うけれど、色々こなせる凄い手だよね。アクアの手って 美味しい料理に満足して綺麗に後片付けをしたら海でも眺めようか 夜の海は星空を飲み込んだようできっと綺麗だよ アクアに改めて感謝も伝えたいし、ね |
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『自己流プラン』+マシュマロ+ビール+アイスティー ま、できる分は自分でやるのが醍醐味ってもんだろ つっても下準備だけだがな……おいイグニス、着火にスキルを使うなよ? (ハラハラしながら見守りつつ手は出さない) よしよし、良く頑張ったな。熱が回ったらすぐ焼くぞ 肉は時間かかるから先野菜食って待ってろ 好き嫌いしないのはお前のいいところだと思うよ、ほんとに そうかい、つっても俺は切っただけだぞ?ほら、肉焼けた 俺の事は気にしなくていいっつうのに…… っておい今手が離せないぞ!? ああくそ、しょうがねえな…… (見られてなかっただろうか……) 何ニヤニヤしてるんだよお前は…… っ、赤くねえよマシュマロ中止にするぞ!? |
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自己流プラン+マシュマロ+魚釣り+アイスティー(スウィン)+アイスコーヒー(イルド) さ~、いっぱい釣るわよ~! …と言いたいとこだけど、二人で食べきれるくらいにしとかないとね どんな魚が釣れるのかねぇ(鼻歌を歌いながらのんびり釣り。小さい魚はリリース) ありゃ、餌だけ取られた…(がっくり) お、きたきた…ってどんだけでかいのよッ?!引っ張られるッ! イルド、ヘルプヘルプッ!(焦りつつ踏ん張り) は~…なんとかなったわね 調理スキル活用で材料カットメインに担当 イルドはさすが手際いいわね~ いただきます、と バーベキューって言ったらお肉って感じだけど、魚もいいわね 自分達で釣ったばっかの魚だから尚更!おいし~い♪ |
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お前もちゃんと料理してくれるならな(←条件 なので「自己流プラン」を申し込み どうせなら作る所から楽しみたいしな なかなか手伝わないランスに”お手伝い”を教え込むいい機会だ(←意気込み 楽しみじゃないといったら嘘になる ランスが調子に乗るから言わないけど(汗 エプロンを渡す 質問を受けつつもどんどん作る 結構上手いじゃないか 家でも宜しくな(淡い期待 飲み物はどれがいい? ビールとウーロン茶でいいか? 炭火を起こすのはコツがあるけど新聞紙を活用して頑張ろう 遠火の強火で焼いて食べるさ あ、まだ生焼けだぞ、それ(汗 花火のサプライズには「子供か」と悪態付きつつも内心嬉しい俺 星空と花火でのんびりと …今日は来て良かったよ(有難う |
●ありがとうの気持ち
『料理プラン』を選択した『木之下若葉』と『アクア・グレイ』の前には、野菜が並べられていた。
若葉は瑞々しい野菜をしっかり洗う。
そして、それをすぐさまアクアへと手渡した。
アクアは慣れた手つきで、素早くそれらを食べやすい大きさに切っていく。
あとは主夫に任せることにして、若葉は釣竿を持って海の近くへ向かった。
海は透明で、魚もたくさんいることがわかる。
若葉は岩の上に座り込んで、釣竿を放った。
若葉がじっと構えていると、魚は次第に釣竿へと集まってきた。
「釣れてますかー?」
そこへ、アクアがやってくる。もう野菜を切り終わったのだろう、さすがだ。
アクアは若葉の隣にちょこんと座って、水面を覗き込んだ。
「わあっ! 海キラキラですっ!」
アクアの瞳も、美しい水と同じようにきらめいている。
「そうだね。こうしてるだけでも、結構楽しいな。あとは釣れたらいいんだけど、ね」
程よい潮風が吹いてくるので、少しぼんやりとしてしまう。
このままのんびりするのもいいな、と若葉が思い始めたところで、アクアが急に立ち上がった。
「あ! 糸、糸引いてますっ!」
「……あ」
若葉がさっと竿を引き上げると、勢いよく魚が飛び跳ねてきた。
アクアがつかさずそれを網でキャッチする。
「やりましたねワカバさんっ! わー」
若葉が魚を受け取ると、ぱちぱちとアクアが軽く手を叩いた。
「釣れてよかった、ね。そうだアクア。この魚を捌いてくれないかな」
「もちろんです! えっと三枚におろして、塩コショウで味調えてから……他の食材と一緒に、網で焼きましょうか」
青の鱗が、太陽の光に反射している。とてもおいしそうだ。
すっかり外も暗くなった頃、食事と後片付けを終えた二人は残ったアイスティーをもって、再び海の前に腰をおろした。
「美味しかった、ね」
その場で焼いた野菜や肉の新鮮さはもちろんのこと、アクアが味付けをしてくれた魚も大変美味だった。
塩こしょうだけでこんな味になるのかと、若葉は感心しきりだった。
「はい! そうですね」
アクアがふんわりと微笑む。
それにつられて、若葉も少しだけ表情がやわらいだ。
それは、やっぱりほんの少しではあったけれど。
アクアには十分伝わっているようだ。
「あ。アクア、見て」
前に目をむけてみると、そこには夜空の星を映し出した海の姿があった。
まるで、星を飲み込んだようだと若葉はその美しさに見とれる。
「綺麗、ですね……」
アクアも同じく、その神秘的な風景に目を奪われていた。
今、ここではただ波の揺れる音だけがする。
若葉が、静かに声を発した。
「……何時も思うけれど、色々こなせる凄い手だよね。アクアの手って」
一緒に生活する中で、アクアの家事能力にはいつも助けてもらってきた。
今日も当たり前のように野菜を切ったり、魚の調理を担ってくれたけれど、これはとても贅沢なことではないのだろうか。
「いえ、僕はまだまだ何も出来てはいないんです」
しかしアクアは相変わらず謙遜するので、若葉はどうすればもっと自分の気持ちがうまく伝わるのだろうかと考える。
思索にふけってしまいそうなところで、アクアが話を続けてくれた。
「でもそうやって見ていて下さる方が居るのはすっごく嬉しいですっ。貴重な事、なんです」
貴重。いや、自分はそんなことができているとは思えない。貴重なのは、やっぱりアクアの力だ。
「俺は別に何も……。えっと。だから俺は、かなり……アクアに感謝しているんだ。ありがとう」
きっと、こんなときでも自分の表情はあまり変わっていない。
だけど、アクアは心からの笑顔でそれに応えてくれる。
「感謝を伝えるのは僕の方です。いつも有難うございます、ワカバさんっ」
アクアが笑う、それだけで嬉しい。
だけど、若葉にはまだまだ伝えきれていないことがあるように思う。
それがなんだかしこりのように残るが、今日のところはとりあえずアクアの気が済むまでここにいよう。
海はとても綺麗だ。
●魚釣りの偶然
『自己流プラン』を選んだ『スウィン』と『イルド』。
ひとまず、魚釣りに精を出すことにした。
「さ~、いっぱい釣るわよ~!」
腕を回して気合を入れるスウィンだったが、ふと他の食材のことが頭をよぎって思い直す。
「……と言いたいとこだけど、二人で食べきれるくらいにしとかないとね」
「そうだな」
二人は並んで座り、釣竿を構える。
「どんな魚が釣れるのかねぇ」
スウィンが鼻歌を口にしだすと、途端雰囲気がのんびりとしたものになる。
少しだけ竿が揺れたので引き上げてみると、とても小さな魚が空気にさらされおろおろしていた。
「あらら、この子はだめねぇ。さ、もっと大きくおなり~」
丁寧に釣糸から逃がす。
それに習い、イルドも小魚が釣れてしまったときはリリース。
釣竿の扱い自体は率なくこなす二人だが、どうも大物は釣れない。
「ありゃ、餌だけ取られた……」
「……次は大物来んだろ」
少し落ち込んでいると、イルドが隣でそんなことをぼそりと言った。
励ましてくれているのだろう、わかりにくいが。
かといって「ドンマイ!」なんて言ってくるイルドだともはや別人である。
ところで、釣り餌には限りがある。
スウィンは今度こそと入念に釣り餌を仕込み、ぐっと竿を持つ手に力を入れた。
構えていた腕がそろそろ疲れてきたところで、スウィンの竿がとても大きく揺れた。
「お、きたきた……ってどんだけでかいのよッ?! 引っ張られるッ!」
スウィンは決して非力ではない。その彼が、水中に引き込まれるほどの力。
「おい、おっさん!」
「イルド、ヘルプヘルプッ!」
砂浜では踏ん張りがきかない。
焦りながらも、スウィンは懸命にねばる。
「うお、でけえ?! 逃がすな!」
水面を見たイルドが、あわててスウィンの背後に回った。
スウィンの体を包み込むようにイルドは腕を伸ばし、釣竿を一緒に持つ。
「引っ張ってくる力が緩んだときが狙い目だ! いくぞおっさん!」
「……ええ!」
二人の力を総動員して、大物を迎えうつ。
ぐっと息の合った二人の腕の動きによって、ようやくその大物が水面から飛び出してきた。
どたっというにぶい音と共に、スウィンとイルドは尻餅をつく。
「勝ったな……って……!?」
イルドは声にならない何かを叫んだかと思うと、すぐに立ち上がる。
「こ、これで十分だろ! バーベキューするぞ!」
「なにその顔。怒ってるの?」
「怒って……はない!」
そうは言っても、イルドの顔はなぜか赤いままだった。
スウィンは食材のカットを、イルドは火おこしを担当する。
すっとした手つきですばやく食材を切り終えるスウィン。
イルドを見ると、彼もすでに炎を燃えあがらせていた。
「イルドはさすが手際いいわね~」
あとは焼くだけとなっている野菜やあの大物魚を見て、イルドも言葉を発した。
「おっさんもなかなかだな」
二人はさっそく網の上に食材を並べていく。
ちょうど良い火加減のおかげで、食材はムラなく焼くことができた。
「いただきます、と……バーベキューって言ったらお肉って感じだけど、魚もいいわね。自分達で釣ったばっかの魚だから尚更! おいし~い♪」
アイスティーを片手に、スウィンの頬がゆるむ。
「あ、マシュマロも食べなきゃ……なにこれ! ふわふわなのにこんがり! 食感が! もう!」
「おっさん、食い物ならなんでもいいんじゃねぇのか……」
主に牛肉を口にしていたイルドだったが、ふと魚を箸にはさめようとしたところで手がとまる。
「どうしたのイルド? もうその魚、食べごろよ?」
「あ、ああ……旨いな」
スウィンの声でなんとか魚を食したイルドだが、すぐさま頭をぶんぶんと振りだす。
「イ、イルド?」
「なっなんでもねぇ!」
「なんでもないって」「なんでもねぇ!」
「…………?」
わけがわからない。遅れてきた思春期だろうか。
「……もう」
魚釣りのときは、あんなに頼れる存在だったのに。
「困った若者だこと」「年下扱いするな!」
終始にぎやかに、二人のバーベキューは執り行われた。
●やりたいこと盛り沢山
料理は普段から手馴れているので、急ぐことはない。
そう思った『叶』に連れられ、二人はひとまず魚釣りに取り組んだ。
叶と『桐華』は、3匹程の魚を確保したところで調理にとりかかる。
火はスタッフにお任せした『料理プラン』の二人。
環境が変わると、さらに家事の楽しさが増す気がする。
叶は鮮やかな手つきで野菜をカットしていった。
この調子ではすぐに片がついてしまいそうだったので、手を止めて包丁を桐華に渡してみる。
「はい、桐華さん」
桐華は躊躇している。
だが、叶はかまわず彼に包丁をにぎらせた。
「………………」
いやいやながらも、とりあえず手を動かす桐華。
薄皮にてこずって、まな板から玉ねぎがこぼれ落ちそうになっていた。
「桐華さん、得物は器用に扱うのに、包丁はあんまり得意じゃないんだね……」
叶がそうつぶやくと、刃物がこちらにむかってきた。
「ごめん、ごめん! それは危ないよ」
また、自分の知らない桐華を一個みつけた。叶は嬉しかった。
桐華は火の通りを考えた上で、網に食材を並べていった。
焼きごろになった食材を、すぐさま皿に移すことも忘れない。
その姿を見守っていた叶は、事前に持ってきていた林檎の存在を思い出した。
一旦火から離れて、慣れた手つきで林檎の皮をむいていく。
「……叶はなんでもできるな」
桐華が、剥かれた林檎に目をむける。
皮の一部を耳にみたてた、所謂兎さんカットされた林檎が並んでいた。
「ふふん、器用でしょ」
そこで、ようやく焼きあがった人参。
「人参さんは桐華の担当ね」
「何言ってるんだ。ちゃんと食え」
すべて桐華の皿にちゃちゃっと盛ったのに、半分ほど突き返されてしまった。
「に、煮物の人参さんなら食べれるけど、生っぽいのはちょっと……」
桐華が眉間にしわを寄せる。
「あ、でも桐華があーんってしてくれるなら考える」
名案を思い付いたのだと感じたのだが、桐華の表情はさらに険しくなった。
「…うそ。嘘です嘘。言ってみただけ」
だが、桐華はふうとため息をついてから大量の人参を箸でつかむ。
「 や、いくら桐華がしてくれても流石に無理、無理だって無理ー!……うっ!」
ねじこまれた。口中に、人参の味が広がる。
頑張って噛んでみるが、やっぱり固い。
叶はアイスティーでそれをなんとか飲み干した。
「まだ残ってる。食え」
「酷い……桐華さん酷い……」
人参の猛攻をなんとか紛らわせようと、叶はマシュマロを焼きだした。
白いマシュマロに、うっすらと焦げ目がついていくのが楽しい。
「ほら見て桐華。おいしそ」「人参がまだ残っている。黙って食え」
「桐華さん本当酷い……」
叶、なんとか人参完食。
だが叶もただでは起きない。
「辛かった……これは口直しに、マシュマロもあーんってしてくんないと……」
マシュマロを持ったまま、ちらりと桐華の横顔を盗み見る。
「さすがの僕でも、泣いちゃう……」
叶は桐華の様子をちらちらと窺う。
「しょうがない奴だ」
ようやく観念してくれた桐華が、叶からマシュマロを奪った。
そして。
やっぱり口の中にねじこまれる。
「熱っっ! あ、でもやっぱりおいしい……」
想像とはやっぱりちがう「お口にあーん」ではあったけれども――叶は微笑んでいた。
片づけを終えて、叶はゆっくりと話始めた。
「今日は焼きマシュマロだったけどさ、ココアにマシュマロ入れるのも、まろやかになって美味しいって聞くよね。
寒くなってきたらさ、やってみようよ」
「寒くなったら、ってだいぶ先だろ」
「いやいや、きっとすくだよ」
叶にとって、誰かと遊びに行くのは桐華が初めてだ。
だから二人でいる時間はとても楽しくて、すぐ過ぎてしまう。
「あ、でもその他にもたくさんやりたいことある。泳ぎにも行きたいし、美味しいもの食べにも行きたい」
「俺は髪を切りたい」「それは却下」
ずいぶん伸びた髪を揺らしながら、鬱陶しそうな顔を見せる桐華。
その様子に叶は小さく笑ってから、星空を見上げて声を発した。
「これからもさ、一緒に、色々遊びに行こう」
星から桐華へ視線を戻す。
その顔は、やっぱりいつもの彼で。
だけど、否定はされない。今は、それだけで十分だ。
●花火の後には
どうせなら、作るところから。
そう思った『アキ・セイジ』は、『ヴェルトール・ランス』にちゃんと料理をしてくれるよう頼んでから、『自己流プラン』を選択した。
これは、セイジの目的のためでもある。
その目的とは、ランスに”お手伝い”を教え込むこと。
家事も本腰をいれるとなかなかに厄介なのだ。
今回をきっかけに、ランスを家事に目覚めさせたい。
もちろん、それだけでなく純粋に楽しみもしたい。……調子に乗るのでランスには言えないが。
セイジの頼みに、ランスは軽くうなずいた。
「分かった分かった手伝ってやるから。生焼けとか焦げたのとかもオツなもんかもな」
「失敗前提で話すな」
さっそく、先行きが不安だ。
セイジはエプロンをランスに渡し、気持ちを引き締めた。
食材をざっくり半分にし、互いに包丁を使い始める。
セイジはもちろん慣れたものだが、ランスは悪戦苦闘。
包丁の持ち方といった基本から、セイジは丁寧に教えてやる。
コツを聞いて、ランスはちゃんと実行している。
とても良い傾向だ。
セイジが食材に小さく切り込みをいれていると、それに対して質問が飛んだ。
「あれ、セイジなにやってんの」
「これは隠し包丁といって……火の通りをよくしたり、味をしみこみやすくしたりするんだ」
「いいな! 俺もやる」
「わかった。じゃあこうして……」
普段はなかなかこうはいかない。本当に良いことだ。
「セイジ! 肉はこれでいいか?」
「ああ、これだと加熱時には反り返ってしまうな。こうするんだ」
セイジは、まな板の上で肉に切れ目を入れてみせる。
「赤身と脂身で、加熱時の収縮の度合いが違うんだ。
このあたりに切れ目を入れる……スジ切りを行うことで、焼き上がりの肉の形がきれいになる」
セイジの説明に、ランスは深くうなずいた。
「なるほどなー。隠し包丁とかスジ切りとか、初めて知るよ。お前ってホント物知りだな」
本当に心からそう思ってくれているのだろう。彼の表情を見ていればわかる。
そこで、セイジは先日のことを思い出してしまった。
自分の知識などを、しっかり認めてくれたランス。その上――。
「あれ、なんかセイジ顔赤くないか?」
「……気のせいだ」
あわててごまかした。
新聞紙を活用して、なんとか炭火を起こす。
「いよいよ食べる時が来た! 肉だ肉だ!」
遠火の強火で焼いて食べようとあくまで慎重なセイジに対し、ランスはせわしない。
網の上にどんどん肉が置かれていく。
「焼けるのが待ちきれないぜ!」
「あ、まだ生焼けだぞ、それ」
「いや、うまいよ?」
「あのなー」
せっかく包丁使いを習得させたのに、まだまだランスには教えなければいけないことがたくさんある。
とりあえず、あとは自由にさせてみた。
セイジが頼んでいたビールとウーロン茶が、二人の喉を潤していく。
後片付けも済んだところで、帰ろうとしたセイジの腕を、ランスがひいた。
彼の手には、なぜか花火が。
「夏と言えば花火だろ」
いたずらな笑みをみせて、ランスがすぐさま準備にとりかかる。
「子どもか」
サプライズに思わず突っ込みを入れてしまったが、このまま帰るのはなんだか嫌だった。……嬉しかった。
星空を眺めながら、二人で花火をする。
最初は派手な花火をつかんでいたランスだったが、あとはもう線香花火だけとなった。
ぽとり、と最後の炎が落ちていくのがセイジには少しさみしい。だが。
「楽しかったなー! セイジ、次はどこいく? 他にも海とかスイカとか色々……この夏は全部やろうぜ!」
そんな気持ちなど、ランスが吹き飛ばしてくれた。
あたりはすっかり暗くなっていたこともあり、さらりと自然にお礼の言葉がでてくるセイジ。
「……今日は来て良かったよ。有難う」
「…………! やっぱ今からどっか行く?」
「それはやめとく」
●暑さではなく
できる分は、自分でやるのが醍醐味。
といっても下準備だけなので、今回のバーベキューは『初瀬=秀』にとってはかなり容易い。
食材を切るのもすぐに終わってしまうだろう。
問題なのは、相方である。
「……おいイグニス、着火にスキルを使うなよ?」
自分が食材を切るので火おこしに乗り出してくれた『イグニス=アルデバラン』だが、見るとぐっと杖をつかんでいた。
「……ダメですか。そうですか。ええとええと、炭に直接つけても燃えないんですよね……」
秀の一言で、とりあえず杖はおいてくれた。
イグニスは炭と網の前で狼狽し始める。
思わず手を出しそうになるが、辛抱して彼を見守った。
「あと空気を送って……」
のろのろとした動作ながらも、なんとか炎が燃え上がる。
「あ、ついた! やりましたよ秀様!」
火を確認して上機嫌になるイグニス。
こんな顔を見せられては、ほめるしかない。
「よしよし、良く頑張ったな。熱が回ったらすぐ焼くぞ」
「わ、もう準備が出来ていた……!」
どうやら、火おこしに熱中していて秀の動きは目に入っていなかったようだ。かなり驚かれた。
「肉は時間かかるから、先野菜食って待ってろ」
「野菜! にんじん! とうもろこし!」
イグニスの食べっぷりに、秀が微笑した。
「好き嫌いしないのはお前のいいところだと思うよ、ほんとに」
幸せそうな顔で野菜を咀嚼したあと、イグニスは一旦箸をとめ、満面の笑みで秀を見た。
「秀様のごはんは、どれも美味しいので大好きです」
「そうかい、つっても俺は切っただけだぞ? ほら、肉焼けた」
肉を皿に盛ってやると、またイグニスが微笑む。
「いただきます!」
そんな顔を見ているだけで、秀には十分満足だ。
だがイグニスは秀を窺い、あることに気づく。
「というか秀様全然食べてなくないですか? 好き嫌い駄目ですよ!?」
別に好き嫌いをしているわけではないのだが。
自分の食事より、イグニスに食べさせる方を優先してしまうのだ。
「食べましょう! さあ!!」
ずずいと肉を差し出され、今はビールとアイスティーで両手がふさがっていることに気づく。
「っておい今手が離せないぞ!?」
「あーん!」
「ああくそ、しょうがねえな……」
思わずイグニスに乗ってしまい、ぱくっとその肉を食べてしまった秀。
だが、肉を噛みながらふと先ほどの自分の行為を思い浮かべてみると――。
「…………! …………!」
すっかり忘れていたが、ここには他にも人がいるのだ。
あたりを見回し、見られていなかっただろうかと急に焦りだす。
しかし、それは杞憂だった。
皆、自分の調理に精一杯なのである。
そしてイグニスはというと、ふにゃふにゃとした笑みでガッツポーズをしていた。
「何ニヤニヤしてるんだよお前は……!」
その声で第七天国から戻ってきたイグニスは、秀の顔をみて疑問を口にした。
「あれ、秀様顔赤いですよ? あ、火の傍だから暑くて……」
その他意のない言葉が、いっそう秀の自意識を強くさせる。
「っ、赤くねえよ! マシュマロ中止にするぞ!?」
「えええそれはご容赦を!!」
イグニスの悲痛な叫びで、やっと周囲が反応する。……恥ずかしかった。
片づけを終え、星空の光の下を歩みながら秀は考える。
なぜ、夕方の自分はあんなに人目を気にしてしまったのだろうかと。
だが、周囲を気にしないマイペースになってしまったら。
「あ、秀様! 今! 流れ星が!」
この能天気なイグニスを、誰が止めるというのだろうか。
やっぱり自分は、このままでいいのだろう、きっと。
そこまで考えが行き着いたところで、一筋の光が見えた。流れ星だ。
「秀様! 願い事を!」
「……無い」
「ええーっ!?」
「イグニス。お前はないのか」
「そうですね……。あ、明日も秀様とおいしいご飯が食べられますように!」
……なんて無欲な。いや、これはイグニスの本心だろう。
きらめく夜空を見上げながら、明日はフレンチトーストをごちそうしてやろうと決める秀だった。
夏が、始まった。
| 名前:スウィン 呼び名:スウィン、おっさん |
名前:イルド 呼び名:イルド、若者 |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | タカトー |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | ロマンス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 07月08日 |
| 出発日 | 07月14日 00:00 |
| 予定納品日 | 07月24日 |

2014/07/13-23:26
アキ・セイジだ。
『自己流プラン』で楽しむ予定。
上手くできるかはまったく分からん(苦笑

