


●「あの日」再来
日差しが強くなっていくこの季節、海は静けさを失い活気を生み出すこの時期…。
そう、たかが海されど海、楽しさと青春と男たちの美しくも儚い戦いはここで繰り広げられるのだ。
「あの日がやって来る…あの戦いが、今一度」
大きな拳を高々と上げ、男は叫んだ。
それに重なるように次々上がるその手は、燦々と輝く太陽へと突き上げられていく。
「守護神と呼ばれた我等で必ず、この戦いを制するのだ!」
「おー!」
団結した男たちは、羽織っていた上着を放り出す。
ふわり、空に舞うそれは美しくも儚く地面に落ちていった。
「上着は丁寧にたたんでおけー」
「うーっす」
●求む「守護神」
痴漢、盗撮、盗難、迷子。
夏と言えば、海…そんな海で常に秩序を持ち人々を守る存在があった。
それが彼等「ライフセーバー」である。
今年もパシオン・シーの海開きが始まる事から、ライフセーバー達は各々燃えていた。
「今年も諸君らと共に戦う時がついにやって来た!戦力配分を説明する!」
焼肉屋の一室で行われた作戦会議は、とても美味し…いや、綿密に進められていった。
様々なビーチがある中で、すべてを守るのは至難の業…だがそれをこなすもまた使命。
タブレット端末を全員に見せながら支持する男に、ある男は言った。
「ガラシドさん、ゴールドビーチが手薄ではないですか?」
ガラシドと呼ばれたその男は、太い眉をぴくりとさせたと思えば、にやりと笑ってみせた。
小麦色の肌をした彼の笑顔は眩しい…主に白い歯のせいである。
「今回手慣れた者を他のビーチへ向けたのには訳がある…そう、新たな神の誕生だ」
「おお…!ついに同胞がやって来るのですね!」
「一度きりの者もいるだろうが…それを引き込むのは我々の仕事だ」
タブレットを器用に操作し、ガラシドは次の作戦を進める。
「今回は例年よりも暑い、そこで熱中症対策までも踏まえて各自戦うように」
「はい!」
「新たな神はゴールドビーチで揉んでやるが最適…今年は面白くなりそうだ」
楽しそうに笑うガラシドにつられるように男たちは笑う。
新たな神、作戦会議。
所々で聞こえるフレーズは、店員さんに謎の恐怖を植え付けているのはまた別の話……。
「…お、お肉おまたせしましたー!」
(このマッチョ集団こええ危ねえ絶対危ねえ)
●神のマドンナ
「で?むさっ苦しい作戦会議は終わったの」
「神聖な会議と言ってくれ妹よ」
「三秒で死んでくれる?忙しいから」
「そう言ってくれるなリシア」
青い髪をかきあげる女性は大量の荷物と資料に目を通しながらガラシドに毒を吐いた。
リシア、と呼ばれた彼女も、ガラシドと同じ上着を羽織っている。
背中には「ライフセーバー」の文字が記されていた。
「で?明日本当に新人ライフセーバー来るの?」
「新たな神は必ず来たる!」
「新人ライフセーバーね、神とかじゃないから」
ガラシドの言葉を逐一訂正していくリシアは、荷物を整理し終えたようで顔を上げた。
兄のガラシドとは違い白い肌に青い瞳、なんとも言えないバランスの体型にぷるんと潤った唇。
「そのむさっ苦しさに嫌気さして仕事前に逃げ出す子いるんだから出だし1時間は黙っててね」
「え」
「黙っててね」
「はいっ」
そして、このライフセーバーの唯一の毒づく良心である。
「よし、新人用のパーカーとメガホンと…ホイッスルと通信器…最初の説明は私がすっから絶対黙っててね」
「神をまとめる俺としては第一声は」
「海開きの前に沈めてやろうか」
「リシアがどうしてもと言うなら仕方がない黙っていてや…いてっ」
「さーってと…逃げ出さないようにしなきゃなあ…今年も疲れる」
足を抑え転げまわるガラシドをよそに、新人ライフセーバーは来てくれるだろうかと表情を曇らせるリシアだった。
「来なかったら来年兄貴クビね?」
「なんだってー!!!」


やあ!パシオン・シーライフセーバーの「ガラシド」だ!
新たな神の誕生に俺は感動しているぞ!共に戦い、勝ち抜こうではないか!
…で、では早速ライフセーバーの説明を行おう。
余談ばかりすると我が女神…いや、リシアが待っているのでな。
●ゴールドビーチ
今回新人の君たちには海水浴客が押し寄せてくるであろうゴールドビーチを担当してもらう!
安心したまえ、先輩達が必ず一人お前達と同行する、分からない事があれば聞くといい。
海の家の隣にあるライフセーバー本部には我が妹リシアが待機しているぞ!
他のビーチへは手慣れた神たちで済ませているので、君たちはゴールドビーチの守りに専念してくれたまえ!
●神の衣
気になったか?気になったであろう!そう、神の衣とはすなわちライフセーバーの制服だ!
ひときわ目立つオレンジ色のパーカー…そしてこの赤いブリーフ!まさに戦う男に相応しいであろう。
君たちにもこの神の衣を着用して戦場へ向かってもらう、なぁに、こちらで支給するから安心するのだ!
いで!…おっと、ここで我が女神からもお言葉があるようだな、私は退散する事にし…いでででで!!
Hi、リシアよ。
今絶望的な表情を見せた貴方、安心して。
際どいのが厳しい人の為にサーフパンツとボクサーパンツを用意してあるわ。
…数に制限があるから、こちらはお金取っちゃうけど、許してね。
サーフパンツ【800Jr】
サーフパンツ(ショート)【600Jr】
次に仕事内容を説明するわね。
●ライフセーバーとは
海で起きる痴漢とか盗難とか、そういうのを警察と連携して取り締まる部隊の事よ。
人混みではぐれちゃった迷子を本部に連れてきたり、喧嘩しそうな人を止めたりするの。
肩肘張らないで視野を広く、それさえできれば完璧よ。
以上、…一緒に頑張ろうね。
逃げたりしないでね、蹴飛ばさなきゃいけないから
…外周りが嫌なら一緒に本部手伝ってくれると嬉しい、一人で全部やるのって大変だし。
らんちゃむです!夏だよ海だよ!
この時期テレビでよくみかけるライフセーバーさん…カッコいいですよね。
サングラスしてる人が物凄くワイルドに見えて、パって外すと子犬ちゃんみたいなお目々してる率高くないですか?
あれは永遠の謎です。なんでだろう。
ブーメランパンツことブリーフ…履いてくれる人いるのかなあ(遠い目)
海の守護神!頑張ってくださいね!


◆アクション・プラン
高原 晃司(アイン=ストレイフ)
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ライフセーバーの仕事か! かなりきっついって聞くが体力なら任せろ! 制服は赤ブリーフでいいぜ まずは見回りだな 困ってる人とか見かけたらきいてみるかな この時期だと日射病とか熱射病 あとは溺れてる人を助けたりとか 迷子を本部に連れてったりする感じだよな? 溺れた奴の救助は任せろ! 特技のスポーツで素早く泳いで救助する レスキューチューブやホイッスルもきっちり活用するぜ 海岸から遠ければレスキューボードの出番だな 自分の体調にも気を使う 頑張りすぎて自分が日射病になったらアウトだからな 水分補給はこまめにとっておくな 日射病、熱射病で倒れてる奴も急いで救護室に搬送 盗撮や痴漢してる奴がいたらとっちめるぜ! 終わったら泳ぎてぇなー |
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これが制服なのか…(ブーメラン手に赤面 ◆救助任務は真剣に頑張る 目のやり場に困る 意識するから妙な感じに見えるんだ、そうに決まっている チラ← こうなったらセイバーに集中して雑念を払うしかない! まずは見回り。案内もしないとだ 何時しかパンツの事は忘れると思う そう…正規スタッフを見るまでは← 海水浴場の端、冒険する子供達、流される女性だけのボート等、目を配るポイントは多い 笑顔で接客しつつも油断はしない 発見したら全力で救助だ 溺れてる奴は後ろから腕を回して確保するのが鉄則 必死でしがみ付く被害者に溺れさせられるからだ ◆仕事後、俺達も泳ぎたい 水着は普通の物を自宅から持ってきたから… ランスも”ソレ”はヤメてくれ(真赤 |
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俺、海の女神ことリシア様の為に今日一日を馬車馬の如く働く事を今ここに誓うんだぜ!(親指グッ えっと、ライフセイバーは今までやったこともなかったからあれなんだけど、教えてくれるって言ってたし …うん、むさくるしい人達よりもリシア様のお側で働きたいので事務の方で働かせてください(土下座 とりあえず、無料で貸し出してくれるって言ってる制服にわざわざお金を出して借りる必要はないよねぇ ん?どしたの雅ちゃん いやーしかし確かにオレンジのパーカーに赤ブーメラン…超目立つねぇ… あーでも雅ちゃん線が細いしこれはこれできっと似合うって! ていうか恥ずかしがる雅ちゃんって実は貴重だよねぇ これはきちんと見ておかなきゃ |
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ビーチの平和は!筋肉天使のベルたんにお任せ☆ 筋肉見放題の桃源郷ですね 素晴らしい、実に素晴らしい!!!(じゅるり) 先輩について頂けるなら筋肉ウォッチ……もとい、ゴールドビーチの平和を守るコツを伺いたいところです パンツですか?勿論、こちらの燃えるような深紅のブリーフをお借りします …ってベルたん!?なんでベルたんはサーフパンツ借りてるのおぉ!? 恥ずかしい…って、んもぉ~、ベルたんがそう言うなら仕方無いなぁ… ベルたんはもっと自分に自信持っていいと思うんだけどなぁ 筋肉ウォッチ…じゃない、ライフセービングの職務を全ういたしましょう。 |
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『私も新たな神になります!』 そして恥ずかしながらも自慢の肉体に、神の衣(オレンジ色のパーカー・赤いブリーフ)に身を包み、ゴールドビーチで人命救助や安全確保が出来るようになれればよいと考えていますよ。 そうでした、その前にリシアさんにライフセーバーの心得と、具体的な人命救助の方法、警察との連携を取る為の手段をメモしておきます。 メモは覚えた後、ディナスに渡して熟読させておきましょう。 そうでないと、警察連携となる前にやり過ぎで彼が警察のご厄介となりかねませんからねぇ。 まるで若い頃の私を見ているようですよ。ほっほっほ。 是非、来年は私も『神聖な会議』に出席できるようになりたいものですねぇ。 |
●神、集合!
「よくぞ来た…選ばれし者達よ」
「1時間くらい喋らないでって言ったよね?」
少し大きめの岩に登った男が何か語ろうとする言葉を遮り、女は思いっきり男を蹴飛ばした。
男の背中に食い込むピンヒールは眠気も覚める程だろう…あまりの食い込み気味に直視できない。
だが豪快に笑う男…ガラシドはどうって事ないと言った…流石リーダーである。
「…新人さん逃げたらどうするの?責任取って腹でも切る?」
「海開き当日に血を見るのだけはお許し下さい!」
彼女を必死に止めるライフセーバー達を見ながら、艶村雅は大きくため息を吐いた。
●女神様の特別講座
「少し早めに来てくれてありがとう、パシオン・シーライフセーバー副リーダーのリシアです」
場所を変え、海の家に隣接する小さなプレハブ小屋に新人ライフセーバーは集められた。
少し高めの椅子に腰掛け、足を組んで資料を眺めるリシアは、淡々と説明を始めた。
「ライフセーバーは海の安全を守る職務です…警察もどきだと思ってくれていいわ」
ホワイトボードに予め書かれた内容に添って、一同は2時間弱の説明会を受けた。
突然指名して答えさせる…それを何度か繰り返すと、リシアは大きいファイルを置いた。
両サイドに結った青い髪をかきあげ、にこりと微笑んだ。
「新人さんが優秀みたいで、私嬉しいわ」
…海の女神、そう呼ばれるのは大袈裟なわけでは無さそうだ。
機嫌の悪そうな冷めた表情とは一変、微笑むリシアに不束奏戯は思わずガッツポーズをした。
「っ…!生きててよかった!その笑顔を拝めて早起きしてよかった!」
「…かなちゃんを起こしたのは僕だけどね」
釘を刺すように艶村がそう言うと、不束はウィンクをしながら舌を出してみせた。
「何回も言うけど、ホウレンソウは確実にする事…そして酔っぱらいには黙って水を飲ませる事、不良は子供が怖がって可哀想だから笑顔で放り出す事 いいわね」
「…笑顔っすか」
高原晃司がそう言えば、リシアは大丈夫と彼の肩を叩いた。
「とびっきりの笑顔で構わないわ、相手が顔真っ青にして泡吹いちゃうくらいの笑顔ね」
「えっ」
「あと、絶対に喧嘩はしないでね?手を出すのも極力避けて…危険だと思ったら近くの先輩と連携して頂戴」
わかったかしら?
問いかける彼女に、一同は首を縦に振って返事をした。
「それじゃあ着替えてきて頂戴、終わったら事務所前に集合…更衣室は隣の海の家にあるわ」
●守護神推参!
「ぬぁーっはっはあ!よく似合うぞ皆の衆!」
…暑苦しいを絵に描いたような彼に、顔が引きつりそうになるも口元を抑えた。
がやがやと騒がしい中、プレハブ小屋から拡声器を持ったリシアが出てくる。
『あーあー…無駄口終了、全員聞こえてるかしら』
「はい!!」
一番前に並ばされた新人ライフセーバーの後ろに並ぶ他のメンバーの返事は、大きく迫力のあるものだった。
後ろからの大きな声に、思わず背筋を逸らす一同。
『今回新人ライフセーバー10名を加えての海開きを開始します、暑さが増してお客さんは増える一方…』
『お客さんの安全が第一だけど、各自健康面のチェックは欠かさないように』
「はい!!!」
負けじと声を上げ、ライフセーバー達と一緒に返事をする。
リシアの隣に立っているガラシドは、拡声器を持たず全員に語りかけた。
「諸君!!時は来た!今こそ守護神の力を発揮する時!…新人もまた然り!その中に眠る神の力…存分に発揮せよ!」
勝つぞ!
拳を上げ叫ぶガラシドに合わせ、全員が拳を突き上げ叫んだ。
「…どうしてだ、もう疲れている気がする」
アキ・セイジがぽつりそう言えば、隣に立っていたパートナー…ヴェルトール・ランスに乾いた笑いが漏れた。
●開戦!
集合した30分後、海開きは始まった。
だが新人ライフセーバーの一同は、プレハブ小屋に移動となった。
「…あの、何故私達はこっちなのでしょう?」
アイン・ストレイフが片手を上げリシアに問えば、彼女は手に持った通信器を配りながら答えた。
「担当が別だからよ…さて、チーム分けしちゃいましょうか」
「とりあえず、二人チームに先輩一人…計三人で一チームで行動してもらうわ、休憩は先輩が教えてくれると思うからそれまで頑張ってね」
「分かりました」
プレハブ小屋を出て行くメンバーに、リシアはボトルケースを渡して見送った。
黙って向かう者もいれば、こちらを振り返って手をふる者もいた。
振り返して事務所に戻れば、不束は首を傾げて自分を指さす。
「あ、あのー…俺達は?」
残された不束と艶村を見て、リシアはにやりと笑う。
「二人は私と一緒に事務所」
「まじっすか!やったー!」
「…よ、よかった…出歩かなくてよかった…!!」
「でもすぐ仕事よ」
そう言った彼女に「え?」と疑問符を投げようとするも、後ろからの甲高い声で把握できた。
先輩ライフセーバーが抱きかかえる数人の子供は、親を呼びながら大声で泣き喚いていた。
「…け、結構迫力あるねー雅ちゃん」
「う…うん…」
●事件発生!
腰にかかった通信器にノイズが入る。
先程までの笑顔を消した先輩が、通信器に応答する。
「こちらエリア20 どうぞ」
『盗撮犯が近辺にいるとの報告 特徴は白いパーカーに緑のパンツ…サングラスは黒、年齢は30代前後』
「ラジャー…アキ、ヴェルトール…チェックスタートだ」
「はい!」
「分かりました」
通信を終えた先輩は、二人に指示のあった特徴の男を探すよう指示した。
人、人、人…その中から指定の服装の男を見つけるのは至難の業にも思えた。
すれ違う人が視界を遮り、差し込む日差しは集中力を低下させる。
警戒されないように…平然とした状態での人探し。
神経を集中するアキの目の前に通った男は、視界の中でも極めて目立っているようにも見えた。
「こんにちは、ちょっといいですか」
アキが男の腕を掴むと、男は過剰なまでに動揺し、アキの手を振り払って逃げ出した。
「なっ!…ランス!そっち行ったぞ!」
少し離れた先で探す相棒を呼ぶ、ヴェルトールが振り返った目の前に逃走中の男はいた。
逃げ切られる…そう思った刹那、男は空中で回転をして…ヴェルトールが腕を掴み、地面へと叩きつけたのだ。
「おにーさん、そのポケットに入ってるカメラで何撮ったのか教えてね?」
掴む腕にゆっくりと圧をかけていくヴェルトールに、アキは安堵のため息を吐いた後に二人の間へと入った。
「手は出さないようにと言われただろう?」
「うーん…握手くらいならセーフかなって」
苦笑いするヴェルトールの後ろで、先輩ライフセーバーは笑った。
「まあ今回はギリギリセーフだな!投げ飛ばしたのは…俺の見間違いにしてやろう」
そう言った先輩と一緒に、三人は連絡のあった場所にいた警察へ、男をつきだした。
●海色スマイル
「広いですねえー…これだけの広さをずっとあの人数で守ってきたとなると、守護神…恐るべしですな」
「アッハハ!そうでもないぞ、すべてはリーダーと副リーダーの戦略があってこそだからな」
パトロールをしながら、エルド・Y・ルークは先輩に話を聞いていた…年代の近いライフセーバーが先輩という事で、話も弾み花が咲く。
「常に平常心…そして広い視野を持つ、いやはや難しいですなあ」
エルドが遠くを見渡しながらそう言えば、隣のディナス・フォーシスはメモを片手にエルドを見た。
「…とか言いながらやりこなす癖に」
「何か言いましたかな」
「いーえ、なんでもありませんよミス…」
言葉を失ったディナスの視線の先には、岩陰で抵抗する二人の女性の姿があった。
二人を囲うように、男達が挟み込んで逃げられないでいる。
「ミスター!」
「…声をかけに行ってもよろしいでしょうかな?」
「ええ、お願いしますよ!俺はリシアさんに通信入れておきます」
先輩と離れ、岩陰に向かった二人が視界に入ったのか、男達の表情が変わった。
女性はすぐさまライフセーバーの後ろに隠れ、か細い声で何かを呟く。
それはとても小さな声…だがその悲痛な声はディナスの耳に入っていた。
「怖い…助けて」
拳を握り締めるディナスの肩を叩くと、エルドは男達に声をかけた。
柔らかな笑顔を見せ挨拶をするエルドに、男達は安堵したのか…。
「あ?何オッサン邪魔なんだけど」
調子に乗り出したようだ。
エルドの肩を突き飛ばそうと殴った男を見て、ディナスは一歩前へ出た。
だが殴られた本人は微動だにしていない。
「おや、肩に蚊でも止まっていましたかな?…お礼をしなくてはいけませんねえ」
背中しか見えていないディナスは、パートナーが何をしているのか分かんない。
…だが肩を殴った男の表情は、みるみるうちに海と同じ色になっていった。
「若い女性にどのような卑劣な事をしたのか…お話して下さいますよね?勿論」
その後はあっという間だった。
先輩が連れてきた応援と共に男達と女性は警察に事情聴取される事となった。
にっこりと手を振るエルドに、ディナスは彼を見ずに問いかけた。
「ミスター、何したらああなるんですか」
「…リシアさんが仰っていた通りに笑っただけですよ」
●ソレばかりじゃない
「もしもーし、こちら高原…じゃなかった、エリア16」
『エリア16 高原君とアインさんね どうぞ』
「足を怪我した子と、飲んだくれのオッサンをそっちに運んだからよろしくどうぞー」
『了解したわ、ご苦労様』
ライフセーバーの職務を開始して3時間弱、この時点で高原とアインは5件近くの問題を解決していた。
すれ違う人に絡まれたり、怪我して大泣きする子供がいたりと休まる事がない。
体をほぐす為にストレッチする高原の隣で、アインはため息をついた。
「これだけ問題が多いとは思いませんでしたね」
…ライフセーバーにならなきゃ、分からなかった事だ。
迷子になった子供は、まるで世界そのものから置き去りにされたように大声で家族を呼び、怪我した者はその人の多さに助けを呼ぶ事すら諦めようとする。
「不思議なものですね」
「んー…」
考えるアインの隣を歩きながら、どう答えようかと考えていれば、一緒に行動をしてた先輩から通信が入った。
どうやら怪我人と酔っぱらいを運んだ後にまたトラブルがあったらしいので、合流は遅れるとの事。
「了解しました、先輩もお気をつけて」
アインがそう返事をするとほぼ同時に、子供達のはしゃぐ声が聞こえる。
浜辺で走り回る数人の子供達…だが、その周りには保護者らしい人物がいない。
どこを見渡しても保護者の姿は無いのに、子供達は砂を使って遊んでいる…どういう事なのか。
「こんにちは」
「こんにちはー!」
高原が声をかけると、嬉しそうに集まってきた。
男女3人ずつ…6人の子供達が二人を見上げている…高原はしゃがんで子供達の目線に合わせ、話を聞いてみる事にした。
「なあ皆、お父さんかお母さんは一緒じゃないのか?」
「パパとママはカプカプビーチに行ったよ?」
「子供を置いて?!」
驚く高原に、子供達は知り合いを呼びに行っただけだからすぐ戻ると言われたらしい。
…この広い場所に子供だけ置き去りにするなんて、と高原は眉をひそめる。
「本部に連絡して、俺達もここで待機しとこう」
「そうですね」
「お兄ちゃん達遊んでくれるのー?」
「おう!肩車でもお城でもなんでもしてやろう」
大きな手で頭を撫でられた子供達は、嬉しそうに高原に抱きついた。
後ろからそれを見たアインも、本部に連絡を終え近くで見守る事に…。
「…おじちゃんは遊んでくれないの?」
「私ですか…?」
キラキラと輝く目に、拒否権が無いようにも思えたアイン…というより、期待の眼差しから逃れる術を持ちあわせていないのだ。
「腕に捕まってください…そう、しっかり」
腕に捕まった数人を持ち上げて見せれば、あっという間に子供達は高原とアインを気に入ってしまった。
●おつかい!
「不束君、通信器の電池取り替えておいて」
「りょーかいしました!」
場所は変わって本部…ひんやりとした涼しい空間も、外と同じくらいには慌ただしい。
泣き叫ぶ子供達を泣き止ませようと必死になる艶村だが、どうも泣き止んではくれなず悪戦苦闘していた。
「うぅ…お母さんって凄いですね」
「だいじょーぶか雅ちゃん?…べろべろばーとかじゃダメ?」
「さっきそれで大泣きされました」
「ワォ…」
一向に泣き止まない子供達に、困った二人が頭を抱えていれば後ろから楽器の音が聞こえた。
リシアが持ってきたのは小さなピアノ、子供用の小さなピアノから出る音は、可愛らしい音色を出す。
何度か同じ音を鳴らしていると、子供達の視線がピアノに集まった。
「…きーら、きーら、ひーかーるー…」
自分で歌ってみせた後、子供達に目を向けるリシアは、知ってる?と首を傾げる。
先程まで泣いていた子供達は、知ってると答えてみせた。
「そう、じゃあママたちに届くように歌えるかしら?…さん、はい」
魔法のようだった。
リシアが合図をしたと同時に、泣いていた子供達が歌いだす。
知らない子供同士が手を繋いで、みるみるうちに笑顔になっていくのだ。
呆然とする二人を見て、リシアが顔の前で手を振る。
「熱中症?」
「え!ち、違いますよ!」
「リシアさんすげー…!皆泣き止んじゃった!」
「気を紛らわせただけよ…にしても子供泣かせてたら職務怠慢もいいとこよ」
先程までのやんわりとした笑顔が消え、眉間にシワを寄せるリシアに二人の顔が引きつった。
すみませんと頭を下げる二人に、リシアは一枚のメモとお金を差し出した。
「…え?」
「エリア16で、高原君とアインさんが子供達を見てくれてるの…飲み物とお弁当持って行ってあげて」
おつかいくらいできるでしょう?…そう言った彼女の顔は形容しがたいもので、寒さだけが二人を襲った。
「喜んで行って参ります!」
「こ、この格好で出るのか…ううぅ…」
「あ、いたいた!おーい!」
「あれ?…どうかしたのか?」
肩車したまま振り返れば、そこには袋を持った不束と艶村がいた…首を傾げる高原だが、不束が説明するとお礼を言って受け取る。
「あれ、でも弁当二つも食わないぞ?」
「…確かに四つもいりませんね」
袋の中には、お弁当が四つ入っていて、飲み物も四本入っていた。
「メモには四つずつと書いてあって…あれ、おかしいですねえ」
艶村が確認の為に通信をすれば、リシアの声が全員の通信に入った。
『不束君と艶村君も一緒に食べてきてって意味で四人分用意したの、子供達のやきそばでお代は丁度でしょう?』
「そうだけど…って、え!俺達も?」
『…貴方達、本部から出てないでしょう…せっかくの海だもの、少しは楽しんできて頂戴』
乱暴に来られて通信を聞いて、四人は顔を見合わせた。
「…リシア様まじ女神!!」
優しい図らいに感謝して、四人は綺麗な海を見ながら昼食を取る事になった。
●神だって怒る
人気が少しだけ無くなってきた午後、アルクトゥルスとベテルギウスは本部近辺をパトロールしていた。
先輩ライフセーバーが言うには「毎年来る厄介者」がそろそろ出てくる…との事だ。
「厄介者って?」
「卒業前の学生だよ、どーも最後の思い出だってはしゃいじゃう奴がいてなー」
「…ッスネ…」(それは大変ですね)
警戒を怠るなと言う先輩の後ろを歩く二人…だが、アルクトゥルスの着目点は少し別。
すれ違う筋肉美な男性に目移りしては楽しそうにしていた。
「んー、でもなー」
「…?」
『ハローエリア02 浜辺付近に厄介者がいるらしいわ 救援よろしく』
突然通信器は鳴り出した、話題に上がった厄介者が登場したと言う。
急いで向かえば、数メートル離れた先でも分かる、誰かが怒鳴りちらす声がした。
「だーからさあ!俺達は最後の思い出に来てやってんの!わかる?」
どう言おうが意志を汲み取ってくれない数人の男女。
ベテランのライフセーバーが話をしても、どうも通じないらしく…深いため息が出るばかり。
「あちゃー大変そうだ」
アルクトゥルスが可哀想にと言えば、一人の男がこちらに向かって歩いてくる。
「何なのにーちゃん、俺達になんか用?」
…何でもかんでも敵視する、とは聞いていたがあまりにも唐突すぎてアルクトゥルスの顔が引きつる。
やんわりと話して行き、怒りの矛先が向かないように奮闘するも、無駄に終わってしまった。
何から何まで癇に障る…そういう年頃としか言いようが無いのだ。
「馬鹿にしてんじゃねーぞ?!」
「いやいやしてないよ?でも君達の他にも人はいるから、迷惑はかけちゃダメだよーって」
「…ッス…」(危険な事も避けて下さい)
丁寧に、ちゃんと伝わるように話していくも、男達は今にも殴りかかりそうだった。
暴力はいけないとリシアに言われている為、こちらから手を上げる事だけは…。
「イケメンだからって何言っても通じると思ってんじゃねーぞ!」
最悪の展開だ。
ライフセーバーの間をすり抜けアルクトゥルスにむかって拳を振り上げる男。
あまりにも突然な動き、防ぎきれるかも分からない…!
まずいと冷や汗が流れるアルクトゥルスの後ろから飛び出したのは…ベテルギウスだった。
「っ…ダメッス!!!」
大きな重低音が一帯に響けば、殴りかかろうとした男も驚いて動きが止まる。
その隙を見つけ、男の胸ぐらを掴み上げるベテルギウスに、アルクトゥルスは我に返る。
「ダメだよベルたん!」
「っ!…ッ…」(でも)
「ダメったらダメ、私は大丈夫だから」
「…災難だったな、まさか厄介者に絡まれるとは」
神妙な面持ちのガラシドは、アルクトゥルスを心配していた。
大丈夫だと笑う彼に、それなら安心したと言ったガラシドは、ベテルギウスに視線を向ける。
申し訳なさそうに俯く彼に、ガラシドは握手を求めた。
「仲間思いの良い男だ、お前は」
「…!」
「よく堪えた、耐える事もまた素晴らしい戦法…前を向きたまえ、お前は立派だ」
咎めるどころか、褒められたベテルギウスはぽかんと口をあけた。
だがすぐ、隣で自分のことのように喜ぶパートナーを見て、張り詰めた何かがふっと抜けていった。
「…ッス」(ありがとうございました)
「よかったねベルたん!」
…褒められたが、一番は相棒に怪我がなくて良かったと思ったベテルギウスだった。
●戦いの後は
様々なアクシデントがあったものの、新人ライフセーバーは無事初仕事を終える事ができた。
全員が最終確認を終え、本部から出てきた時には、もう外は真っ黒になっていた。
「あー夜かー…泳げると思ったんだけどなー」
残念そうにする高原の隣で、海を楽しみにしてた不束やランスもがっくりとうなだれる。
「貴方達」
本部から出てきたリシアは、全員に声をかけた。
まだ仕事が残っているのかとアキが聞けば、彼女は首を左右に振る。
「…でも、まだ時間があるならこっちいらっしゃい」
手招きされるがまま、一同はリシアの後をついて行った。
どこからが空で、どこからが海なのだろうか。
海に映る夜空は、当たりが暗い為星々が美しく輝き、中央に君臨する満月をも映しだしていた。
鏡の世界…まるで絵画のようなその風景に、一同は驚いていた。
「お客様の遊泳時間はおしまい…だけどそうね、2時間なら使ってもいいわ」
「まじっすか!」
「いいの?!」
目を輝かせる不束とランスに、リシアはにっこりと笑いかけた…OKのサインだ。
浜辺前では数人のライフセーバーと、ガラシドが遊泳前の準備運動を開始している。
「おーお前達来たか!戦いの後の休息は大事だぞー!思いっきり遊べ!」
大きく手を振るガラシドに呼ばれ、各々は浜辺に向かっていく。
「…なんか」
「?」
隣でぼおっと見守るアインに、リシアは首を傾げてみせると、ふっと、アインに小さな笑みが溢れるのが見えた。
「大変でしたが、報酬とは別に素敵なご褒美があるのは…良いものですね」
「……そうでしょう?…だから、やめられないのよ ライフセーバーは」
早く行ってらっしゃいとアインを背中押したリシアは
全員の腹がすくだろうと…海の家の主人にお願いし、ラーメンをお願いしておくのだった。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | らんちゃむ |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | コメディ |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 普通 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 07月03日 |
| 出発日 | 07月08日 00:00 |
| 予定納品日 | 07月18日 |

2014/07/07-14:36
はじめましての人も居るな。アキ・セイジだ、よろしくな。
これが制服だと聞いて一寸途方に暮れている俺だよ(ブーメランパンツ手に持ち
相棒は気にするなって言うんだけどさ…(チラリ
はああああ(溜息
テイルズってみんな”ああ”なのだろうか
自信なくしそうだよ(再び溜息
2014/07/07-09:29
ああ、間に合ったみたいでよかったです。
高原様とマッスルヘヴ…ストレイフ様は先日の飲み会ではお世話になりました。
他の皆様方はお初に御目にかかります。
私はアルクトゥルス、こちらはビーチに降り立つ筋肉守護天使のベルたんことベテルギウスです。
私達は折角なので筋肉ウォッチ…もとい、ゴールドビーチの見回りをいたしましょう
私たちは勿論赤ブリーフを。
…ベルたん?何で目をそらすのかなぁ?
2014/07/06-16:53
はじめまして。エルド・Y・ルークと申します。
皆さん若さが眩しいですねぇ。
しかし、まだまだ。若い者には負けません。フムッ!
(早速、初対面の方々の前でムキムキのマッチョポーズを決めに掛かる迷惑極まりない68歳)
私は、もちろん神の衣(@赤ブリーフ)に身を包み、人命救助や安全確認を行うつもりです。ディナスももちろん赤ブリーフ…何か絶叫が聞こえたような。最近耳が遠くていけません。
ライフセーバー等は初めてですが、気概だけは負けませんよ。皆さん宜しくお願いします。
2014/07/06-15:18
初めましてとお久しぶりかな?
不束さん家の奏戯君でっす☆(キラッ
海の女神、リシア様の為に馬車馬の如く働かせて頂きます(いい笑顔
あ~…とりあえず赤ブーメラン回避する為にお金を払うのもなんかなだし、俺はそのままのつもりなんだけど…雅ちゃんはどうしようかねぇ(頬かき
とりあえず、ライフセイバーの仕事なんて全然っやったことないけど、教えてくれるっていうから気持だけは誰にも負けないように頑張るんだぜ♪
2014/07/06-04:08
おっす!晃司だ
はじめましての人もそうじゃねぇ人もよろしくな!
とりあえずアインと一緒にゴールドビーチの見回りやその他雑務をする予定だぜ
本当は泳ぎたいけど仕事が終わるまでガマンだな

