新米ウィンクルムを仲良くさせる会(織人文 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 A.R.O.A本部の一画にあるオフィスで、職員のエリカは、深い溜息をついて目の前のパソコン画面に改めて目をやった。
「どうかしたの? エリカ。眉間にしわができてるわよ」
 そんな彼女にコーヒーのカップを差し出しながら、同僚のマイが声をかけて来る。
「……瑞樹とユニの件よ。見てこれ。全部苦情よ。他のウィンクルムたちからだけじゃなくて、一般の人からまで来てるのよ」
 カップを受け取り、エリカはパソコンのモニターを示した。
 そこには、びっしりと文字が並んでいる。
「うわ、すごいわね」
 マイはそれを見て声を上げ、少しだけ顔をくもらせた。
「二人が契約して……三ヶ月ぐらい、よね」
「ええ。最初の顔合わせの時からケンカしてたけど……今も、相変わらずよ。二人のケンカや、息のそろわないのが原因で、一緒のミッションに参加した他のウィンクルムたちが怪我をしたり、ミッション自体が失敗したりという案件も、いくつか上がって来ているのよ」
 うなずいて言うエリカに、マイも考え込む。
「さすがに、それはまずいわね」
「ええ。……なんとか二人を仲良くする方法はないものかしら……」
 呟くように言って、また溜息をつくエリカに、マイが顔を上げて言った。
「ねぇ、こんなのはどうかしら。私の知り合いに、大きな庭園を持っている人がいるんだけど、そこって今、紫陽花がすごいんですって。そこでお茶会を開くと称して、他のウィンクルムたちにも協力してもらって、二人をデートさせるのよ」
「そういえば、あの二人、契約してからA.R.O.Aの仕事以外で、一緒に出掛けたことがないって話していたわね……」
 エリカも、思い出して呟く。
「二人の親密度を上げるには、やっぱりデートが一番でしょ」
 大きくうなずいて言うマイに、エリカは「そうね」とうなずいた。が、すぐに心配げな顔になる。
「けど、あの二人が素直に来てくれるかしら」
「そこは、あなたがうまくやるのよ。お茶会の招待状をもらったけど、行けないから変わりにとかなんとか言って、ね」
 ウィンクして笑うマイに、エリカも苦笑する。
「あ、それと、お茶会は会費制ね」
 マイがそれへ、付け加えた。
「お茶会と称する以上は、飲み物やお菓子ぐらい出してもらわないと怪しまれるじゃない? かといって、それ全部、庭園の持ち主にタダで用意させるってわけにも行かないでしょ? 場所を貸してもらうわけだし」
「それはそうね。……じゃあ、会費は一人300ジェールぐらいでどうかしら」
 少し考え、エリカもうなずいて言う。
「そのぐらいが、妥当かな」
 マイもうなずき、楽しげに続けた。
「……さて。そうと決まったら、協力してくれそうなウィンクルムを探さないとね。『新米ウィンクルムを仲良くさせる会』の、会員募集ってとこかしら」
 こうして、『新米ウィンクルムを仲良くさせる会』は、ひそやかに発足したのだった。

解説

●目的:森山瑞樹とその精霊ユニコーン・ドルフェスを仲良くさせること。
(彼らが、ケンカすることなくお茶会を楽しむ、次にどこかへ行く約束をする、手をつなぐといった展開になれば、目的達成です)

●会費:一人300ジェール
紅茶各種と、ケーキなどのスイーツが饗されます。

●森山瑞樹(17歳)
三ヶ月ほど前に、神人として顕現した。小柄で、女の子のような顔立ち。そのため、学校などでからかわれることも多く、その際には口より先に手が出ていた。おかげで、腕っぷしは強くなった。
元陸上部。学校帰りに立ち寄ったコンビニで強盗に出くわし、客の女性を助けようとした際に顕現する。現在は、高校生。

●ユニコーン・ドルフェス(25歳)
瑞樹の精霊。通称ユニ。
馬の耳と尻尾を持つテイルスで、ジョブはハードブレイカー。
長身優美な外見と、沈着冷静な性格を持ち、どちらかというと無口な方である。
読書と音楽鑑賞、マラソンが趣味。
基本的に他人に対しては丁寧な物腰で、穏やかに話す方だが、瑞樹に対しては口調は皮肉になり、時に激昂して口ゲンカになることも多い。

●会場となる庭園
旧市街の一画にあり、古い屋敷の敷地の一部。所有者は、A.R.O.A職員マイの知人。
英国風の庭園で、中央に噴水があり、その傍に瀟洒な四阿(あずまや)があって、ここで飲食を楽しむことができる。
現在は、紫陽花が見ごろとのこと。

ゲームマスターより

こちらを閲覧いただき、ありがとうございます。
マスターの織人文です。

さて、今回は庭園の紫陽花とお茶を楽しみながら、仲の悪い新米ウィンクルムを仲良くさせるといった内容です。
普段以上に仲のいいところを見せつけて、二人の気持ちを煽るもよし、どちらか片方に声をかけて、やきもちを妬かせるもよし。
知恵を出しあって、目的を達成して下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  俺も他人事じゃないな、これ…

◆概要
対象者と話し合う中で、認め合い素直になれる後押しをする

◆詳細
森山に「七色の紫陽花があるんだ、ちょっと見に行こう」と半ば強引にでも腕を引いて誘う

連れ出す口実だよ
なんか居心地悪そうだったから…ゴメンナ

を皮切りに森山の悩みを聞く
正義感の強い森山は多分俺と似ている予感がするよ

何故俺は精霊じゃないのかと思ったことが有る
精霊にしかできない事はあるのに、神人はトランスのスイッチだけなのか…とかさ
身体能力も相棒の方が高いし…
と、思わず自分の悩みも打明ける

森山も話してほしい
吐き出せば楽になる事ってあると思う

この劣等感は仕方ない
あいつに認めて欲しいって事だもんな
森山はどうなんだ?


柊崎 直香(ゼク=ファル)
  事前に職員さんから二人の情報聞き。
お仕事に支障来してるなら大問題。それぐらい教えてお姉さま

神人と精霊で分かれてお話
お庭だしぐるっと見てみようよ! と神人さんたち引っ張ってく。
紫陽花は綺麗だけどこの季節は雨ばっかりで嫌だな
外に出るのも億劫で、と瑞樹くんに話しかけ。
身体も鈍るよね、夏になったら全力で泳ぐよ
僕泳ぐの得意。瑞樹くんは?

目的は二人に共通する“走ること”の話引き出し
四阿に戻ったらゼクの結果とあわせ話題出したいなと
二人だけが敷居高いなら皆で一緒に走りにいこうよの約束
……当日僕らだけばっくれれば問題なし(心の声)

身長の話題にはダメージ受けないよう心の準備
外見年齢と実年齢は別物でっていやなんでも


柳 大樹(クラウディオ)
  周りに被害が出るほど仲が悪いって、互いに意識し過ぎなんじゃねーの?
興味無いなら、喧嘩もしやしないって。

仲良いアピールの一環とはいえ、頭撫でられんのイラッとくるね。1cmしか違わねえのに。
とりあえず身長と女顔に触れないように愚痴を聞いてあげますか。
えーと、俺新米だから精霊との付き合いで気をつけないといけない事とか知りたいんだけど。とかいう出だしでいいか。
身長?
じーちゃんもとーさんも高いから、俺のは遺伝だけど。

何、この雰囲気。
クロちゃん、なんか余計な事言ったろ。何で黙ってられないのかね、あんた。

おっと、アピールアピール。
クロちゃん、ほれケーキ上げるから口開けな。
あーん、ってヤツだよ。
ほら。



●紫陽花の庭園
 お茶会当日。
 会場として指定された屋敷の庭園に、ウィンクルムたちは集まっていた。
 森山瑞樹とユニコーン・ドルフェスの二人には、彼らの集合時間よりも三十分ばかり遅い時刻が、教えられている。つまり、その間が彼らの作戦タイムというわけだ。
 マイから屋敷の主に引き合わされ、挨拶などしたあと、彼らはさっそく庭園の中央にある噴水前の四阿で、作戦を練り始める。
「肝心の二人についての情報を、教えて。お姉さま方」
 マイとエリカに尋ねたのは、柊崎直香だ。
「いいわよ」
 マイの方がうなずいて、話し始める。
 それによれば。
 瑞樹は十七歳で、高校生。小柄で女の子のような顔立ちで、それを気にしていて、からかう相手にはすぐに手が出るという。顕現前は陸上部に所属していたそうだ。
 また、ユニの方は二十五歳。馬の耳と尻尾を持つテイルスで、長身優美な外見を持ち、沈着冷静で、わりと無口だという。読書と音楽鑑賞、マラソンが趣味だそうだ。
「周りに被害が出るほど仲が悪いって、互いに意識しすぎなんじゃねーの? 興味ないなら、喧嘩もしやしないって」
 それを聞いて、平坦な声で言ったのは、柳大樹だ。
「とりあえず、仲がいいところを見せて二人の気持ちを煽るかな。……クロちゃん、そんなわけで、今日はスキンッシップ過剰で行くから」
「スキンシップ過剰……?」
 言われて彼の精霊、クロことクラウディオはわずかに眉をひそめる。
「だから、腕組んだり手ぇ握ったり、頭撫でたりあんだろーが」
「……わかった」
 大樹に再度言われて、彼はうなずいた。
「俺は、二人が認め合い、素直になれる後押しをしたい」
 考え込みながら言ったのは、アキ・セイジだった。
「そのためには、まずそれぞれの話を聞くのが、大事だろう」
「なら、神人と精霊とで、分かれた方がいいよね」
 直香がそれを聞いて言う。
「その方が、愚痴にしろ悩みにしろ、話しやすいだろう」
 明るくうなずいたのは、セイジの精霊ヴェルトール・ランスだった。
 他の者たちも、同意する。それを見て、直香が言った。
「じゃ、二手に分かれるとして……ゼクは、四阿で給仕をお願いね」
 後ろ半分は、精霊のゼク=ファルへの言葉だ。
「俺が?」
 ゼクが、不審げに尋ねる。給仕はこの屋敷のメイドたちが行うと、さっき姿を見せた屋敷の主から聞いたばかりだ。
「料理が趣味だから、こういうことは苦にならないって言えば、話題を趣味に持って行くきっかけになるじゃない?」
 それへ返して、直香は仲間たちを見回す。
「僕は、二人に共通している『走ること』の話を引き出せればいいと思うんだよね」
「共通の趣味があることがわかれば、きっと親密度も上がるだろう」
 セイジが言って、他の者たちもうなずく。
 話がまとまったところで、「それじゃ、あとはお願いね」と、マイとエリカは、屋敷の中へと入って行った。

 ほどなく、瑞樹とユニの二人がやって来た。
 集まっているのが、同じウィンクルムばかりと知って、いささか驚いた様子だ。
 そこへ、屋敷の主が再び現れ、まるで初めてであるかのように彼らに挨拶すると、庭園の眺めとお茶をゆっくり楽しんでほしいと告げて、軽く手を叩く。と、メイドたちがワゴンに乗せてお茶やお菓子を次々と四阿へと運んで来る。
 それに目を輝かせつつも、直香は仲間たちに軽く目配せすると、瑞樹の手を取った。
「せっかくのお庭だし、ぐるっと見てみようよ!」
「七色の紫陽花があると聞いたから、それを見に行こう」
 セイジも、とっさに思いついた言葉で瑞樹を誘う。
「え……。あ、うん」
 瑞樹は少しとまどい気味に、うなずいた。
「俺も、一緒に行くから。そっちはそっちで、先にやってて」
 歩き出した三人を見やって、大樹がクロに声をかける。
 それでクロは、「スキンシップ過剰」なところを見せなければ、と歩み寄った。さっき言われたことを思い出し、とりあえず、彼の頭を撫でてみる。
 途端に大樹は、苛立ったように顔をしかめ、その手を払いのけた。
(……何か、失敗したのか?)
 払いのけられた手を見つめ、考えてみるが、何が間違っていたのか、彼には理解不能だった。
「スキンシップ過剰というのは……難しいものだな……」
 ぼそりと呟く。
 だが、残念ながら誰もそれを聞いてはいない。神人たちは、庭園の紫陽花を愛でつつ瑞樹と話すために、歩き出していた。

●紫陽花と神人たち
 神人たち四人は、庭園の中を散策していた。
 庭園は英国風の作りで、四阿からは、周囲を緑と花の壁で囲まれた小道が続いている。咲いている花は全てが紫陽花だ。
 赤や紫、ピンクに白とさまざまな色のものがある。
 それらを眺めながら、彼らは歩いて行く。
「俺、新米だから、精霊との付き合いで気をつけないといけないこととか、知りたいんだけど」
 話のきっかけを作ろうと、大樹が瑞樹に言った。
「俺もまだ、新米だよ」
 対して瑞樹の答えは、そっけない。長身の彼をちらりと見やって、「おまえ、でかいな」と不満げに漏らす。
 小柄なのを気にしていると言った、マイの話は本当らしい。
「身長? じーちゃんもとーさんも高いから、俺のは遺伝だけど」
 大樹が、相変わらずの平坦な口調で返した。
 それを、バカにされたと感じたのか、瑞樹はムッと口をとがらせる。
 直香が、慌てて口を開いた。
「紫陽花は綺麗だけど、この季節は雨ばっかりで嫌だな。外に出るのも億劫で。体も鈍るよね。だから、夏になったら全力で泳ぐよ。僕、泳ぐの得意。瑞樹くんは?」
「得意ってほどじゃないけど、泳ぐのは好きだな」
 機嫌を直して、瑞樹も答える。自分より小柄で少女のように見える直香には、対抗心も感じないようだ。
「じゃあ、何が得意?」
 すかさず問い返す直香に、瑞樹は言った。
「走るのは、得意かな。顕現する前は、陸上部にいたし」
「へぇ、そうなんだ。……陸上部って、マラソンとか?」
「ああ、うん。……主に長距離走ってた」
 更に問われて、瑞樹はうなずく。
「今は、走ってないの?」
「やってるよ。……部活辞めたのは、A.R.O.Aの仕事と部活の兼ね合いが難しいからで、走るのがイヤになったわけじゃないしな。体力作りにも、なるかなって」
「いつも、一人で走ってるのか?」
 瑞樹の答えに、セイジが尋ねた。
「ああ。……時間がまちまちだし、部活の仲間以外じゃ、走るの好きな友達とか、いないからさ」
「誰か、誘ってみれば?」
 また睨まれるだろうかと思いつつ、大樹が横から口を挟む。
「言ったろ。一緒に走れるような奴がいないって」
 ムッと顔をしかめて、瑞樹が返した。

 そんなやりとりをしながら歩くうち、一際美しい紫陽花の群れが見えて来た。
 赤、青、緑、黄……と、七色に見えるそれに、彼らは思わず足を止めた。誰もが、声もなくその花に見とれる。
 「七色の紫陽花がある」と言ったセイジの言葉は、瑞樹を動かすための口実だったが、どうやらここには本当にあったらしい。
 紫陽花を見つめる瑞樹に、セイジは声をかけた。
「あのさ、悩みがあるなら、俺たちに話してくれよ」
 瑞樹が驚いたように、そちらをふり返る。それへセイジは続けた。
「なぜ俺は精霊じゃないのかと、思ったことがある。精霊にしかできないことはあるのに、神人はトランスのスイッチだけなのか……とかさ。身体能力も、相棒の方が高いし……」
 それは、セイジ自身が胸に抱いている悩み――精霊に対する劣等感だった。
 彼の吐露に、瑞樹が目を見張る。
「森山も、話してほしい」
 セイジは、続けて言った。
「吐き出せば、楽になることってあると思う。この劣等感は仕方ない。あいつに認めてほしいってことだもんな。森山は、どうなんだ?」
「俺? 俺は……」
 言いさして、瑞樹は小さく唇を噛む。ややあって、顔を上げた。
「俺も、あいつに認めてほしいって、思ってる。……俺は、あいつから見たらたぶんガキで、ちっこくて女顔で、頼りない相棒なのかもって思う。腕っぷしだって……誰にも負けないって思ってたけど、オーガ相手には、あいつがいなきゃ、全然歯が立たない。……なんの役にも立たないのかもって思う……」
 話すうち、彼はうなだれ、言葉も次第に小さくなって行く。
「それでも俺は……あいつに認めてほしい。でも……あいつと話すと、いつも喧嘩になっちまう。……A.R.O.Aの仕事でも、俺たちが喧嘩したせいで失敗したり、他の奴らに怪我させたりしちまって、うまく行かない。……こんなんじゃ、認めてもらうどころか、そのうち契約は解除だって言われちまう……」
「森山……」
 軽く目を見張って呟くと、セイジは瑞樹の傍に寄り、なだめるように肩に手をやった。
「でもさ、俺たち神人がいなけりゃ――」
 平坦な声で言いかけた大樹が、ぐふっと妙な声を上げて黙る。直香の肘が、彼の腹部にヒットしていた。
「キミはちょっと黙ってようね」
 艶やかな笑顔で言うも、直香の目は笑っていない。
(あれ? もしかして、俺、邪魔?)
 何かまずいことをしただろうかと首をひねりつつも、大樹はとりあえず二人に任せることにして、口を閉じる。
 それを見やって、直香は瑞樹に視線を戻した。
「その気持ちを、素直にユニくんにぶつけてみたら、どうかな」
「ウィンクルムといったって、別々の存在には違いないんだから、口に出さなきゃ伝わらないと俺も思う」
 セイジもうなずいて言うと、励ますように瑞樹の肩を叩いた。

●四阿の精霊たち
 一方、四阿では。
 ゼクが直香に言われたとおり給仕を申し出て、メイドたちが運んで来たスイーツ類をテーブルに並べたり、紅茶を各人のカップに注いだりしていた。
 スイーツは、大皿に盛られたクッキーや、個別に小さな器に入れられたプリン、タルトやシャーベットなどで、どれもふんだんに生クリームやフルーツで飾られている。
 すっかり用意が整うと、ゼクも席に着いて紅茶のカップを手にする。そして、世間話のようにユニに話しかけた。
「神人とずっと一緒ってのも、疲れないか? 俺なんざ、自由すぎるわ、生意気だわ、可愛げはないわ、俺をこき使うわ、朝は一人で起きられないわと、大変だぞ」
「……そうですね。たしかに彼も、生意気で可愛げがないです。すぐに口答えしますし」
 うなずいて言ったものの、ユニはカップの中身を一口飲むと、溜息をついて続ける。
「ですが、それよりも一番イヤになるのは、自分自身です。私は元来、感情的になる方ではないんです。なのに、彼と話していると、いつの間にか声を荒げてしまっている。反省して、次こそはと思うのですが、またしても同じことの繰り返しで……」
 それを聞いて、ゼクとランスは思わず顔を見合わせた。
 何か言った方がいいのだろうかと口を開きかけたクロは、大樹から「愚痴を聞く時は余計なことを言わずに黙っていろ」と言われたことを思い出し、結局何も言わずにただ紅茶をすすった。
「つまり、本当は仲良くしたいって思ってるってことか?」
 ゼクが水を向けるように訊く。ユニがうなずいた。
「ええ。その方が、お互いの精神衛生にもいいに決まっています。それに……周りに迷惑をかけることもないと思います。……みなさんも、聞いているんじゃないですか? 私たちと一緒の任務に参加したウィンクルムが怪我をしたり、任務自体が失敗したりしている話を」
「それは聞いてるが、最初のころは、みんなそんなものだ」
 ランスが、励ますように言う。
「ああ、そんなもんだ」
 ゼクも相槌を打ち、そして今思いついたというふりで、提案した。
「話すと感情的になっちまうんなら、話さなくてもいいことを何か、二人でやってみちゃどうだ? お前、趣味とかないのか?」
「読書とか音楽鑑賞とか……あと、マラソンが趣味といえば、そうでしょうか」
「そのうちのどれかを、一緒にやってみたらどうだ?」
 ユニの答えに、ランスも言う。
「本には興味がなさそうですし、音楽はポップスぐらいなら聞きそうですけれど……」
 言いかけて、ユニはふと顔を上げた。
「そういえば、彼は顕現前は陸上部に所属していたと、職員の方から聞いた覚えがあります」
「なら、一度一緒に走らないか、誘ってみろ」
 ゼクに言われて、ユニは不安げな顔をそちらへ向ける。
「……誘ったとして、もし断られたら……。私は、冷静でいられる自信がありません」
「だが、行動しなけりゃ、いつまでもそのままだ」
 ゼクは言って、同意を求めるようにランスをふり返った。
「俺も、そう思う。……それに、今なら俺たちがいる。ドルフェスが感情的になっても、俺たちがフォローする。だから、大丈夫だ」
「ありがとうございます。……ですが……」
 二人を見やって礼を言うものの、ユニは決心がつかないのか、言葉を濁す。
 そこへ、新たにホールのフルーツケーキが運ばれて来た。それを見て、切り分けるためにゼクが立ち上がる。
「ケーキは、僕たちが戻るまで取っておいてね。切り分ける時は、等分で。僕の分は大きめで!」
 脳裏に、直香の言葉がよみがえって、彼は小さく顔をしかめた。
(さらっと矛盾した注文、するんじゃねぇよ)
 胸に呟き、ナイフを片手にケーキを切り分け始める。
 それを見て、ふと胸に湧いた疑問に、質問ぐらいはいいだろうとクロが口を開いた。
「護衛には、こういった技能も必要なのか?」
 が、問われたゼクの方が、きょとんとなる。
 『こういった技能』が、ケーキの切り分けだというのはわかるが、『護衛』の方がよくわからない。
 尋ねるようにランスとユニを見るが、二人も怪訝な顔をしている。
 答えに詰まって、ゼクは視線を外へと向けた。そして、すっかり空が黒い雲におおわれていることに気づく。
「天気が悪くなって来たな。……降り出さないうちに、直香たちを迎えに行って来よう」
 彼は、ケーキを切り分け終わると言って、念のために持参して来た傘を手に、四阿を出て行った。

●リスタート
 出て行くゼクを見送ったあと、ランスはユニをふり返った。
「今でなくてもいいから、いつか森山に一緒に走ろうって言えよ。それで冷静になれたら、『お前を認めている。お前と一緒に戦いたい。お前でなければダメなんだ』って、ちゃんと言ってやれよ。言わないと、伝わらないぞ」
 言いながら、彼は胸の中で苦笑する。ちゃんと相棒に思いを伝えていないのは、自分も一緒だからだ。
 彼は、漠然とではあるが、セイジが自分に対して劣等感を抱いていることに、気づいていた。だが、そんなもの、持つ必要などないのだとは、伝えていない。
 ランスの言葉に、ユニは黙ってうなずいた。
 一方、クロはなぜ誰も自分の質問に答えてくれないのだろうかと、悩んでいた。
(また何か、間違えてしまったのだろうか。……いや、しかし……)
 そしてふと、聞こえなかったのかもしれないと思いつく。
(ならば、もう一度)
「護衛には、ケーキを切り分ける技能も必要なのか?」
 問われて二人は、驚いてそちらをふり返った。
(護衛とは、まさか俺たち精霊のことか?)
 ランスが胸に呟き、尋ねるようにユニを見る。と、彼もやはり困った顔で、こちらを見ていた。
 どうしたものかと、二人が答えあぐねているところに、ゼクと共に四人の神人が戻って来た。二人は、ホッとして顔を見合わせる。
 そんな微妙な空気に、四阿に入ってすぐ大樹は気づいた。
「何、この雰囲気。クロちゃん、なんか余計なこと言ったろ」
 すぐさま、クロを問い詰める。
「いや」
 かぶりをふるクロに、大樹は溜息をついた。
「なんで黙ってられないのかね、あんた」
 言って、ランスとユニをふり返る。
「困らせたみたいで、すまないね。クロちゃんって、融通利かないから」
「……いや、気にするほどのことじゃない」
 ランスがかぶりをふるのへ、ユニもうなずいた。
 その時、直香が声を上げた。
「ちゃんと僕たちの分もケーキ、取ってくれてあるんだね!」
「でないと、あとが怖いからな」
 言ってゼクが、座るように促す。
「せっかくだから、食べようよ」
 うなずいて、直香がゼクの隣に腰を下ろした。
 セイジと大樹もそれぞれ、自分の精霊の隣に腰を下ろしたので、瑞樹もしかたなくユニの隣に座った。
 メイドたちが、全員に新しい紅茶を配る。
 それを待って、彼らはケーキを食べ始めた。
「これ、美味しいね!」
 口元に生クリームをつけたまま、直香が満面の笑顔で声を上げる。
「わかったから、おちついて食べろ」
 指で生クリームを拭ってやりながら、ゼクが言うのへ「すぐそうやって、子供扱いするんだから」と直香が頬をふくらませた。
 それを見て、大樹は仲良しアピールをするんだったと思い出し、フォークですくったケーキの一切れを、クロの方へと差し出した。
「ケーキあげるから、口開けて。あーんってヤツだよ、ほら」
「食べればいいのか?」
 今一つ腑に落ちない顔で、差し出されたケーキの切れ端を見やり、クロは眉をひそめる。
 フォークには、食べかすがついていた。
 ケーキの切れ端に指を伸ばし、そのまますくい取って食べる。
「俺、あーんって言ったよね? なんで、手で取るかね」
 たちまち、大樹が顔をしかめてぼやいた。
 それを見ていた他の者たちが、苦笑する。
 大樹と周囲の反応に、クロは再び眉間にしわを寄せる。
(私は、また何か失敗したか?)
 呟くものの、いったい何を失敗したのか、皆目わからない。
(……護衛の道は、険しいな……)
 胸に呟き、深い溜息をついた。

 そんなこんなで、彼らはひとしきりケーキと紅茶を堪能した。
 誰もが満腹した体で、四阿の中はふと静かになる。
 そんな中、ユニが口を開いた。
「瑞樹、その……よかったら、今度一緒に走りに行かないか?」
「え?」
 瑞樹が、驚いて顔を上げる。
「もしかして、ユニくんってマラソンが趣味なの?」
 すかさず尋ねたのは、直香だ。もちろん、マイ情報が本当だったことは、迎えに来たゼクに確認済みだ。が、そんなことはおくびにも出さず、言った。
「瑞樹くんも、前は陸上部でマラソンやってたって言うから、ちょうどいいね」
「おまえ、マラソンが趣味なのか?」
 瑞樹が、半信半疑の体でユニに尋ねる。
「ええ、そうですよ」
 うなずくユニに、瑞樹は更に目を見張った。だがすぐに、にっと笑ってうなずく。
「わかった。今度、一緒に走ろうぜ」
「ええ、約束ですよ」
 うなずくユニの顔に、安堵の笑みが浮かんだ。
「よかったな」
 ランスが、そのユニの肩を軽くどやしつけた。
 他の者たちも、この成り行きに顔を見合わせ、笑顔を浮かべている。

 やがてお茶会はお開きとなり、瑞樹とユニを見送ったあと、ウィンクルムたちはマイとエリカからの労いを受けて、屋敷を出た。
 途中までは一緒に家路をたどる。
 歩きながら、つとランスがセイジの傍に寄った。
「なあ、セイジ。お前には、魔法はなくても沢山の知識と回転の早い頭があるじゃないか」
 ふいに言われて、セイジは相棒をふり返る。一瞬、庭園で瑞樹に言った言葉を、聞かれていたのかと思った。だが、そんなはずはないと思い直す。
 その彼に、ランスは続けて言った。
「セイジでなきゃ、ダメなんだ」
「なんで……急に、そんなこと……」
 幾分、しどろもどろになって返すセイジに、ランスは笑った。
「他人にはえらそうに諭してたけど、実際には俺も、セイジにそういう気持ちを、伝えてなかったと思ってさ」
 そして、そっと彼の手を取る。軽く目を見張ったものの、セイジもまたその手を握り返した。
「見て、もう月が出てるよ」
 直香が空を指さし、声を上げる。
 他の者たちも、そちらに視線を向けた。
 暮れ始めた空に、ぽかりと白っぽい月が浮かんでいるのが見える。
 彼らは足を止め、しばしの間それを黙って眺めていた――。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 織人文
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 3
報酬 なし
リリース日 06月23日
出発日 06月30日 00:00
予定納品日 07月10日

参加者

会議室

  • [6]アキ・セイジ

    2014/06/29-00:56 

    こんばんは。
    相棒に素直になれない俺としては一寸他人事ではない。
    なーんとなく話とかして仲良くなる中で、俺自身の気持ちの整理と共に彼等に関われたらと思っている。

    ランスはどこにいったのかな。見かけないんだが…

    PL:
    ランスはランスでちょっかいかけに行きます。自分の悩みを相談する形で精霊側の気持ちをほぐせたらと。
    では、宜しくお願いします。

  • [5]柳 大樹

    2014/06/28-21:44 

    んー、ああ。この馬のテイルスのニーサンも身長高いのね。
    んでもって、優美な見た目だと。
    瑞樹クンのコンプレックスは、やっぱ身長と女の子みたいな見た目だと思うけど。

    テイルスのニーサン側がよくわかんねーな。
    とりあえず、瑞樹クンを見た目で判断して女の子みたいな扱いしてる気はすんだけどさ。



    とりあえず、愚痴聞く以外は「クロちゃんと俺ってちょー仲良いんですう」ってアピールちょいちょいしてみようかね。
    俺とクロちゃんの仲が実際どうとかはこの際置いとく。

  • [4]柊崎 直香

    2014/06/28-20:54 

    …………。
    し、しんちょう……(震え声)

    とにかく!
    神人は庭園、精霊は四阿でターゲットに接触だー。
    あ、お茶会のケーキとかは僕たちが戻るまで取っておいて貰うから
    ちゃんと食べられると思うですよ。というか食べる。

    僕の方の目標はどこかに行く約束をさせる、かな。
    二人はまともにお互いのこと知らないみたいだから、
    さっきも言ったように元陸上部、趣味マラソンの辺り掘り下げてみる。
    お茶会中に聞き出す行動はする予定だけど、
    二人の大まかなプロフィール?(解説記載情報)は
    念のためあらかじめ職員さんに聞いとく、とプランに。情報共有ー。

  • [3]柳 大樹

    2014/06/28-14:49 

    庭の散策ってとこか。いいんじゃないの?
    俺は別に困ること聞く予定は、今んとこないけど。

    精霊は四阿ね。
    なら、こっちもクロちゃんそこに押し込んどくわ。
    クロちゃんてば、くそ真面目だから。
    愚痴のときに余計なことを言わないように、言っときますか。



    てか、俺身長182cmあるんだけど。
    小柄なの気にしてんなら、目の敵にされたりしないだろうな。
    背の伸ばし方教えろとか言われても、遺伝としか言えねーよ?

  • [2]柊崎 直香

    2014/06/28-14:14 

    こっんにっちはー。クキザキ・タダカですよ。
    大樹くんは初めましてだ。よろしくね!

    んーと、二人の共通点は走ることらしいので、
    そっちへ話題持っていこうかなと思ってるところ。
    まずはお互いの気持ち・考え確認はするけど。

    僕の方も精霊とは分かれて接触するつもりー。
    今のところ神人と精霊のグループで各々お喋りする感じかな?
    庭園を見てみようよ! と神人さんたち引っ張っていこうと
    思ってるんだけど……大樹くん、それで大丈夫?
    ちなみに僕に聞かれちゃ困る話があれば
    合図くれれば離れるからそこは問題ないよー。

    うちの精霊には四阿で給仕をさせとく予定。
    僕への愚痴を流させて、お前のとこもそうだろう? に誘導かな。

  • [1]柳 大樹

    2014/06/27-20:14 

    柳大樹でーす。よろしくー。(棒読み)

    えーと、何々。
    ウィンクルム組んでるヤツの仲を深めればいい訳か?

    んじゃあ、俺は森山瑞樹?クンにでも話しかけますかね。
    俺も顕現したばっかだし?
    愚痴でも聞いてあげましょーか。
    遠めに見てりゃ、仲良く話してるように見えるでしょうよ。


    クロちゃんは、精霊同士で話でもすればいいと思うよ。
    もしくは紫陽花でも愛でてればいいんじゃないかな。


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