


人の流れに足を止めた屋台に目を向けたのは偶然。
パートナーの手を掴んで、そこに並ぶ物を見つめた。
「気になるものでもあるかい?」
声をかけてきたのは、屋台の主だ。
板を置いただけの簡易な台の上に、無造作に並べられていたのは安っぽいガラス玉のついた装飾品。
「どれでも値段は同じだよ」
ガラス玉は全部で4色。
明らかに玩具だと分かるほど、ぎらついて、毒々しい。
「ただ、ちょっと効果は違うかなぁ」
下卑た、とも言えるような顔をして、店主が笑う。
――効果?
訝って首を傾げると、店主がさらににたりと笑う。
「まあ、買ってみればわかるよ」
なにかしらの効果があると言われて、気安く買おうなどとは思えない。
そのまま屋台を立ち去ろうと踵を返すと、パートナーがひとつを取り上げる。
「買ってみようよ」
何か怪しい効果があったらどうするのだろうか。
「大丈夫だよ。そんな深刻なものじゃないだろうしさ。血行が、とか、そういうやつかもしれないし」
少なくとも、明確な玩具にそんな効果はないと思われるが、パートナーはもはや好奇心の塊と化している。
代金を支払って、穴場だと言う花降る丘まで足を向ける。
確かに人の気配はないし、周りには自分たちだけのようだ。
屋台で買った装飾品は赤い石のついた指輪を選んだ。
見れば見るほど安物で、透ける色も、乱反射する光も、すべてが歪だ。
パートナーに促されるまま嵌めてはみたが、先ほどからどういうわけか、言葉が溢れて感情が抑えられない。
「なんか、顔が赤い? やっぱり血行促進効果だったかな」
悪戯っぽく笑うパートナーに、懸命にせき止めようとしていた言葉が零れ落ちた。
「あの、ね。あなたのことが大好き、みたい……」
驚いたような表情に、まずは穴を掘って埋まることを考えた。


屋台には4色のガラス玉の装飾品が置いてありますので、そのうちのひとつを買って身に着けてください。
装飾品の形は自由ですので、任意のものをご指定ください。
ご指定がなければ指輪となります。
ガラス玉の色の効果についてですが、以下からご指定ください。
赤:情熱や喜び
青:寂しさ
紫:不安
黒:恐怖
これらの感情を、どういうわけか吐露してしまうと言うものとなっています。
身につけるのは神人さん、精霊さんのどちらかのみとなります。
胸に秘めた不安を吐き出す結果になるかもしれませんし、予定のなかった告白をするかもしれません。
嬉しかったことを改めてお礼を言われるかもしれませんし、今一緒にいることが嬉しいかもしれません。
つけなかった側はお相手の気持ちを受け止めてお返事をするなり、宥めるなりの対応をお願いいたします。
装飾品につきましては、感情を吐き出したら自然に消滅します。
無理に外すことはできません。
小さな不安から、大きな愛情、本気のものからコメディ路線まで幅広くお待ちしています。
装飾品のお代として300Jrが必要です。
ビー玉とか好きでした。
光に透けるガラス玉の中には、きっと違う世界があるように思えて、何度でも眺められます。
そう言えば、ビードロが好きだったなぁと思い出しながら、
美しさよりも吹く練習をした記憶しか蘇りませんでした。


◆アクション・プラン
かのん(天藍)
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紫:簪 ありがとうございます、天藍 可愛いですね さっきまで楽しかったはずの屋台巡り 湧き上がる不安 屋台を見る人波から少し離れた所でぽつり 私は…天藍の神人で良いんでしょうか? 顕現してすぐの頃は、もともと人と精霊では身体能力に差があるからと聞いて気にしていなかったのですけれど… ウィンクルムとして依頼を受け経験を重ねている内に、天藍の傍で支えられるようになったと思っていました …でも、攻撃を避けきれなかったり、天藍の早さにはついて行けなかったり… むしろ最近の方が色々な力の差を感じて、肝心な所で天藍の足を引っ張りそうな気がして怖いです 感情の振れ幅が大きく、天藍の言葉に涙が零れる そんな、天藍のせいじゃないです |
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赤色のガラス玉が付いたヘアピン 気になりますけど、何が起こるか分からないですし 諦め…え? でも…う…本当は、欲しい、です あの、何かあったらすぐ言ってくださいね (それにしても…) 可愛い、です ヘアピン姿に思わず笑み 差し出された手は照れつつも取って連れられるままに歩く 丘の静けさに途端に緊張してきてそわそわ …二人、きり… 問いにはもじもじ頷きつつ、触れる手にドキドキ 頬に添えられるとぶわっと赤面 キッ…そ、それは…あの、えっと…っ (心のどこかで、期待はしていました、けど) いざそういう雰囲気になると恥ずかしくて 何とか数度深呼吸しておずおず視線合わせ …お、お願い、します そういえば効果ってなんだったんでしょう…? |
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視覚的に気分が上がる効果がある事と、 柘榴が傍にいてくれる事をイメージして、赤の指輪を購入。 恐る恐る着けてみる。 (この感覚は何でしょう?淡々としていたはずなのに、気持ちが高揚します……) 柘榴! この前は、わたくしの話を聞いてくれてありがとうございます! 今日を祝ってくれた事も、とても嬉しかった……気がつけば、わたくし。 思い出したように話している内に、次第に涙が目に浮かびました。 柘榴……好きです……大好きです! (そう、私は柘榴が) 気づけば指輪が消えて、我に返る。 ……?大好き? (待って下さい!これはわたくしの本心!?) それでも時既に遅し。 肝心の柘榴は、指輪を着けていた私以上のテンションで迫っていました。 |
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青のブレスレット 凄く綺麗な青だったから、是非羽純くんに着けて貰いたくて、彼の手首に嵌めて うん、やっぱり凄く似合う あれ?羽純くんの様子が…何だか変? 急に押し黙ってしまった彼を見上げて その表情に胸が締め付けられます どうしたの? 羽純くんにそんな顔をさせたくない一心で 羽純くんをぎゅっと抱き締めます あのね、私は…ずっと一緒に居るから 羽純くんが嫌だって言っても、離れない それでね、美味しい物を沢山作るよ お菓子作りはまだまだ勉強中だけど頑張る 話したい事も沢山あるの だから…大丈夫 彼の頭をゆっくりと撫で、彼に元気を与えられるよう祈りながら 寂しくなんて、私が絶対にさせない …なんて、言い過ぎかな(照 …うん、離さないで |
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赤いガラス玉のブレスレットをフェルンさんが買ってくれました。 フェルンさんはこうやって時々装飾品を買って下さいます。 手をとって腕に通して下さるのが、少し、気恥かしいっていうか。 こんなふうに付けて貰うのは初めてじゃないのですけど。 何だか今回はドキドキする気がします。 気がする、じゃなくて。本当に心臓の鼓動がドキドキ。 意識したら、ますますドキドキが激しく。 契約する時に、手を取って貰った時、こんな感じでしたね。 と思いだして、余計に頬が赤くなってきました。 あれから色々な事がありました。 楽しい出来事がいっぱい。 「フェルンさんと一緒に居ると、とても楽しくて嬉しいです」 ふっと嬉しさが溢れて、言っちゃいました。 |
●
可愛いデザインの赤いガラス玉のついたブレスレットを見付け、フェルン・ミュラーは迷わずにそれを買った。
瀬谷 瑞希に似合いそうだったことと、彼女がパワーストーンと言ったものが好きだったから。
赤い色は元気が出るような気がして。
「君はもう少し活動的になってもいいと思うよ」
小さく笑って、首を傾げる瑞希の手を取る。
「フェルンさん……?」
「さっきの屋台で見つけたんだ。ミズキに似合うと思って」
「ありがとうございます」
するりと腕に通すと、瑞希は少し俯いて、気恥ずかしそうに頬を赤らめる。
フェルンは時々、こうして瑞希に装飾品を買ってくれる。
その度に、こうしてフェルンの手で付けてくれるのだが、何度経験しても慣れるようなものではない。
優しく触れる指先。
一瞬の沈黙。
そこに流れる温かな空気。
照れ臭くて、気恥ずかしくて、この上ない幸せの瞬間。
「ちょっと俺の願望も出ちゃってるけど」
普段物静かな瑞希が活動的になったら。
そんなことをふと思った。
もしかしたら、きらきらと輝くような笑顔も、見られるかもしれない、なんて、脳裏をかすめていった願望。
勿論、小さく、ふわりと微笑む瑞希に不満があるはずもない。
ただ、活動的な瑞希も見てみたいと思っただけ。
「なんだか……ドキドキします」
頬を紅潮させて、俯きがちに瑞希がそんなことを言った。
「ドキドキする?」
笑いながら、フェルンが瑞希の顔を覗き込む。
「はい、少し……」
言って、瑞希はうるさく高鳴る鼓動を鎮めるように、胸元を抑えた。
フェルンには少し、と言ったものの、意識したせいか、心臓の高鳴りは激しさを増しているようだった。
心臓の音が聞こえてしまいそうな錯覚を覚える。
契約のためにフェルンが手を取ったときも、たしかこんな感じだった。
顔が熱くなって、心臓がうるさいほど速くなって、あの時も聞こえてしまうのではないかと思った。
あの日から、フェルンと色んなことを経験した。
任務のこと、何気ない日常の時間、様々なできごとを、ふと思い出した。
思い出が積み重なって、世界が彼との記憶に色づいていく。
「ミズキ、平気?」
顔を真っ赤にして俯いたままの瑞希に、フェルンは心配そうに手を伸ばした。
頬に触れようとして、けれどその手は瑞希に手に掬い取られた。
拒まれたわけではない。
指を絡めて、そっと手を取られただけだ。
遠慮がちに手を握る瑞希の指先は、どうしてか少しだけ冷たかった。
「私……」
俯いたままだった瑞希が、顔を上げる。
「フェルンさんと一緒にいると、とても楽しくて嬉しいです」
握られた手から伝わる、溢れるほどの想い。
それが手に取るようにフェルンにも伝わった。
「うん――」
引き寄せて、ぎゅっと瑞希を抱きしめる。
「俺も君と一緒にいて、嬉しいし楽しいよ」
囁くと、瑞希はふわりと微笑んだ。
彼女からこんな言葉を予期せず聞けて、心が震える。
「これからも楽しくて嬉しい時間を過ごそう」
そっと、こめかみにキスをひとつ。
相変わらず、気恥ずかしそうに瑞希が俯く。
気付けば、腕のブレスレットはどこかへ姿を消していた。
●
屋台で見かけたのは、金魚と紫の硝子玉の飾りがついた簪だった。
天藍は何気なくその簪を手に取り、かのんにちらりと目を向ける。
――かのんの瞳の色の方が綺麗だが……。
作りものの硝子玉と比べるのもおかしな話だが、そんなことを思った。
「かのん、良かったら」
思わず買ってしまった簪を、かのんの髪に挿す。
「ありがとうございます、天藍」
かのんは嬉しそうに手鏡を取り出して、新しく髪色を彩る簪を確かめる。
「可愛いですね」
決して豪華なものではなく、慎ましやかに華を添える簪に、かのんは天藍に微笑みかけた。
けれど少しして、突如として湧き上がる感情がかのんを支配した。
言いしれないほどの不安だ。
つい先ほどまで笑顔を見せていたかのんが、突然憂いを帯びた表情を見せはじめたことに気付き、天藍はそっと手を取った。
「どうしたんだ?」
――つい先ほどまで楽しそうだったのに。
人に酔ったのかと、天藍は少し足を速めて人混みを抜ける。
屋台から離れてしまえば人の気も少ない。
「かのん、平気か?」
往来する人波を見つめながら、かのんがふいに言葉を零した。
「私は……天藍の神人でいいんでしょうか?」
ぽつりと漏らされた言葉に、天藍は驚いたような表情を見せたものの、黙ってかのんの言葉に耳を傾けた。
「顕現してすぐのころは、もともと人と精霊では身体能力に差があるからと聞いて気にしていなかったのですけれど……」
精霊は人間よりも高い能力を持っている。それは、戦場などで顕著に表れてくる。
「ウィンクルムとして依頼を受け、経験を重ねているうちに、天藍の傍で支えられるようになったと思っていました」
驕りではなく、斬り込む天藍の背中を守れるだけの強さを手に入れたと思っていたけれど。
「……でも、攻撃を避けきれなかったり、天藍の速さにはついていけなかったり……。むしろ最近のほうが色々な力の差を感じて、肝心なところで天藍の足を引っ張りそうな気がして怖いです」
春先からの戦いで、攻撃を避けきれずにかのんが負傷してしまうと言う事態が続いた。
そのことに不安を抱えていたとしても、不思議ではなかった。
頭を振って、天藍が口を開く。
「たとえば、精霊が改めて神人を選ぶことができたとしても、俺の神人はかのんだけだ。もちろん、足手まといだとも思っていない」
かのんが今抱える不安は、かのんが強くなったからこその不安でもある。
天藍と言う精霊の能力を知り、敵の強さを測れるようになったからこそのものだ。それが足手まといであるはずがない。
「もし、誰かがかのんを足手まといだと非難するなら、俺が違うと否定する」
かのんは涙に濡れた瞳で天藍を見つめた。
ここまで真摯に言葉を尽くしてくれたことに、いつもより大きく揺れる感情が感応する。
「だが、かのんにそう思わせてしまうと言うことは、俺の力不足でもあるんだな」
「そんな、天藍のせいじゃないです」
天藍はかのんを人目から隠すように腕の中へと引き寄せる。
「大丈夫。お互いに苦手なところを補っていこう。それに、俺もかのんに何度も救われている」
精神的に、かのんの存在は天藍に大きな救いとなっているのだから。
涙を拭いながら微笑むかのんの簪は、いつの間にか消えていた。
●
屋台に並ぶ装飾品の、青が綺麗なブレスレットに桜倉 歌菜は目を奪われた。
月成 羽純にどうしてもつけて欲しいと思った。きっと、彼によく似合う――そう思ったから。
「羽純くん、これ、つけてくれる?」
示して言えば、羽純は穏やかに微笑んで頷く。
「ああ、歌菜がつけてくれるなら」
そんなことを言って、さりげなく差し出された彼の手を取り、手首に嵌める。
「うん、やっぱりすごく似合う」
「ありがとう、歌菜」
羽純が笑顔を見せたのはここまでだった。
次の瞬間には押し黙って、必死で何かを堪えているような、そんな表情を浮かべている。
「羽純くん……?」
様子がおかしいと歌菜が察して、不安そうに見上げてくる。
羽純の胸の内側に渦巻いていく感情。その名前を知っている。
寂しい――。
羽純が父を亡くした時、痛いほど味わった感情にひどく酷似している。
――どうして今……。
寂寞の感情は突如に訪れた。その理由が分からず戸惑ったが、手首で揺れる青いガラスに目が留まる。
――このガラスのせいか。
たまらず外そうとするが、嵌めるときはあれほどすんなりと嵌ったのに、どうしてか外れる気配がない。
――くそ、なんでだ……。
感情が爆発しそうだった。止め処なく溢れてくる感情が、行き場を失くして胸の内で燻り始めている。
「どうしたの?」
不安そうな表情を見せる歌菜に、なんでもないと言いたいのに、口を開けば弱気なことを言ってしまいそうで、口を開くこともできなかった。
そんな、無様な姿を歌菜には見せたくない。
なんとかしてこの感情を追い払わなければ、どうにかなってしまいそうだ。焦るほど、寂しくなって、それゆえに心がひどく乱されていく。
「――ッ!」
ふわりと、温かなものが身体を包んだ。
何が起きたのか分からず、しばらく呆然としていると、歌菜がぎゅっと羽純の身体を抱きしめていた。
「あのね、私は……ずっと一緒にいるから。羽純くんが嫌だって言っても、離れない」
ずっと見つめていた歌菜が、羽純の異変と、その表情の理由を察していないはずがなかった。
「それでね、美味しいものをたくさん作るよ。お菓子作りはまだ勉強中だけど頑張る。お話したいこともたくさんあるの。だから……」
一度身体を離して、歌菜の目が真っ直ぐ羽純を捕らえる。
「大丈夫」
揺らぐことのない確かな言葉に、視界が歪んだ。
うっかりすると零れてしまいそうな涙を隠すように、歌菜の肩へ頭を預けた。
「……俺をこんな風に泣かせる女は……歌菜だけだ」
歌菜の手が羽純の頭を撫でる。
いつもの笑顔と、元気を与えられるように、切実な祈りを込めて。
「寂しくなんて、私が絶対にさせない」
歌菜の言葉に、そっと抱きしめ返す。
「……なんて、言い過ぎかな」
歌菜は照れたようにそんなことを言って笑う。
その言葉が、心を覆い尽していた感情を払っていく。
口を開くことを躊躇ってはいたけれど。
「――ああ、一生離す気はないから、覚悟しとけ」
「……うん、離さないで」
払った感情の代わりに、温かな感情が胸の内に染み込んでくるようだった。
抱き返した腕に、しらず力がこもる。
その存在を確かめるように、手放さないように、強く抱きしめた。
●
明らかに胡散臭そうな屋台だったが、夢路 希望は足を止めてそこに並ぶヘアピンを買うべきか迷っていた。
「ノゾミさん、買わないの?」
「う……気になりますけど、何が起こるか分からないですし、諦め……」
「それなら――」
スノー・ラビットは希望がずっと見つめていた赤いガラス玉のついたヘアピンを手に取った。
「僕が試してみるよ」
「……え?」
「僕が試して、なんともなかったらノゾミさんに改めてプレゼントするよ」
「でも……う……」
「気になるんでしょう?」
「……本当は、欲しい、です」
ふわりと微笑んで、上手く希望の気持ちを聞き出す辺りに、スノーの会話術の高さが窺える。
「あの、なにかあったらすぐ言ってくださいね」
「うん」
言いながら、ヘアピンを髪につける。
「似合う?」
希望に確認するように、ヘアピンのついた頭を見せて、スノーが笑う。
それにしても、と思う。
「可愛い、です」
「えへへ……ありがとう」
多少の違和感があってもよさそうなものだが、スノーにはガラス玉のヘアピンがよく似合っていた。
スノーが手を差し出すと、希望が照れながら控えめに取る。そのまま指を絡ませて手を繋いで歩く。
行き先は、穴場だと聞いた丘だ。
賑やかな場所で過ごすのも良かったが、希望と二人きりになりたかった。
「……二人、きり……」
本当に誰もいないと思わなかったのか、希望は途端に緊張した面持ちでそわそわとしている。
「ノゾミさん、座って」
自分の横にハンカチを敷くと、スノーは希望をそこへ促した。
じっと、スノーの目が希望を見つめ、ゆっくりと手を伸ばすと、囁くように問いかけた。
「……握ってもいい?」
改めて尋ねると、希望はもじもじと頷く。
「可愛い」
「……っ」
思わず口にしてしまったが、恥ずかしそうにしながらも頷いてくれたことが嬉しかった。
「もっと触れて良い?」
ぎゅっと目を閉じて、希望はこくりと頷いた。
彼女のことは愛しくてたまらないけれど、嫌がることをしたいわけではない。だから、返事はきちんと待った。
手を握ったまま、空いた手で頭を撫でる。ゆっくりと滑り落ちた指先を希望の頬に添えると、瞳の奥を覗くように見つめる。
「……キス、したい……」
ほとんど無意識に言葉が口をついて出た。
――って、僕はなにを……。
思いがけずに言った言葉に慌ててしまう。
「キッ……そ、それは……あの、えっと……っ」
慌てた様子の希望に、内心では多少後悔しかけた。
(心のどこかで、期待はしていました、けど)
いざそういう雰囲気になれば恥ずかしい。
希望はなんとか深呼吸を繰り返して、おずおずとスノーと視線を合わせた。
「……お、お願い、します」
断られるかもしれないと思っていた矢先の返事に、スノーはどきりとした。
ゆっくりと近づいて、そっと唇を合わせる。
柔らかな感触と温かさが触れて、離れる。
「……もう一回」
ねだるようにスノーがもう一度唇を触れ合わせる。
抱き締めて、幸福感に満たされていると、希望が思い出したようにぽつりとつぶやいた。
「そういえば、効果ってなんだったんでしょう……?」
「うーん……なんだろう。ノゾミさんに夢中で分からなかったけど」
髪に留めていたはずのピンは、気付けばなくなっていた。
「ピンも落としちゃうし……ごめんね」
「いいえ、大丈夫です。スノーくんになにもなくてよかったです」
微笑むと、スノーは柔らかな笑みを返した。
●
屋台で足を止めた華は、赤い指輪を買った。
視覚的にも気分が上がることと、柘榴が側にいることを意識してのことだった。
おそるおそる、指輪をはめてみる。
どんな効果があるのかまでは分からなかったが、嵌めた直後から少しずつ異変が起こっていた。
(この感覚はなんでしょう? 淡々としていたはずなのに、気持ちが高揚します……)
華は、祭りだからと浮かれることもなく、比較的冷静にその場の空気を楽しんでいた。
けれど、感情が揺さぶられるような、なんともいえない高揚感が胸を支配する。
「柘榴!」
ほとんど衝動と言ってもいいほど、その名前を呼んだ。
「どないしはりました、鳳はん?」
華がこんな風に柘榴を呼ぶことは珍しい。
笑顔を向ける柘榴に、華は言葉を続ける。
「この前は、わたくしの話を聞いてくれてありがとうございます!」
「そんな、ええんですよ。あっしでよければいつでも聞きますさかい、なんでも言うてください」
「今日を祝ってくれたことも、とてもうれしかった……」
「それは良かった。誘った甲斐がありました」
華の誕生日に縁日が開かれていたのは偶然だったのかもしれない。
けれど、柘榴はその日を忘れず、華を縁日へと連れ出してくれた。
もっとも、柘榴は多少、酒が入っているようではあったけれど。
「……気が付けば、わたくし――」
「鳳はん……?」
記憶を辿るように言葉を紡ぐ華は、次第に目に涙を浮かべている。
そんな彼女の様子が普通であるはずがないと気づいた柘榴は、そっと人気の少ない場所まで華を誘う。
「どないしはったんですか? 大丈夫です?」
「柘榴……」
華が柘榴の腕を掴んで、涙に濡れた瞳で見上げる。
「好きです……大好きです!」
胸の内で燃えるほど燻っていた感情が、自然と溢れて零れ落ちた。
(そう、わたくしは柘榴が……)
柘榴が華の肩をそっと掴む。
指に嵌めていたはずの指輪が跡形もなく消えると、華がふと我に返ったように瞠目した。
「……? 大好き?」
無意識に口にした言葉に戸惑ったのは華だ。
(待ってください! これはわたくしの本心!?)
華が気付かなかった深層意識なのか。
あるいは指輪の効果によるものなのか。
さだかではなかったが、ひとつだけ言えることはその言葉は柘榴に届いていたと言うこと。
「鳳はん、めっちゃうれしいです」
「待ってください、柘榴。これは……」
気分が高揚したのは、柘榴も同じだったのだろう。
酒も手伝っているとしても、これはまずい。
華が慌てて否定しようとするも、柘榴は笑って先手を打った。
「あっしに合わせてくれはったんですか?」
「え……」
「これは、あっしも斬新なツッコミを覚えなあきませんなぁ。今日のところは、完敗です」
「柘榴……」
勝ったも負けたもないが、ほろ酔い気味な柘榴には、本気には映らなかったようだ。
「折角の縁日ですし、ご利益があるとええですなぁ、鳳はん」
「ええ……そうね」
柘榴が一歩、華の先を歩いた。
「鳳はん。改めて、お誕生日おめでとうさんです。林檎飴でも買って帰りましょか」
「……柘榴が買ってくれるの?」
「ああ、ええですよ。せっかくの誕生日ですし」
戸惑いこそあったが、いつもと変わらない様子の柘榴にほっと胸を撫で下ろした。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 真崎 華凪 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 女性のみ |
| エピソードジャンル | コメディ |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 08月24日 |
| 出発日 | 08月31日 00:00 |
| 予定納品日 | 09月10日 |


