


●悼む心
頭上に広がるのは鉛色の空だ。それが君の気持ちに似た色に感じて、なんだか共感を得たような気分になった君は少しほっとしていた。
錯覚でも、空が自分に共感してくれると、ほんの少し気楽だ。重荷をわずかでも代わってもらった気がして。
やはりここに来るのは、気が重い。
君は今、あの場所に来ている。
大事なものを失ったことを思い知る場所だ。
この場所に立つのは、それなりに勇気と覚悟が必要だ。
君は傍らを見る。
パートナーがいた。彼はこの場所がどんな場所なのか、それなりには知っているのだろう。
もちろん彼は、全てを知っているわけではないだろうけれど。
「何で来たんだか」
君は彼を少しにらんだ。一緒に来てよかったのか、今も少し悩んでいるから。
「……来たかったんだ」
彼は困ったように笑った。だから、すねた口調で君は言ってみる。
「面白くないよ、こんなとこ」
彼は静かに反駁する。
「でも、大事なところだろう」
「…………」
君は答えに詰まる。答えというよりもこみ上げてくる涙めいたもので息が詰まって声が出ない。
「ついていっていいだろ」
君は無言を返した。
君はこらえるように、空を振り仰ぐ。
今にも降り出しそうな、重く垂れ込めた雲は、もはや灰色を越して、黒。


●内容
故人を悼む場所にパートナーと行く個別エピ
大事な何かを悼む場所であれば、悼むものは人に限定しません
●消費ジェール
交通費や供え物などの諸経費で500ジェール使いました
●プラン必須事項
1、場所の詳細(墓、慰霊碑、村の跡、事件現場など)
2、悼む対象の詳細(自分との関係、亡くなった状況など)
3、パートナーは偶然ばったり?君を追いかけてきた?一緒に来た?
4、パートナーは事情をどの程度知っている?
●注意
参照エピがある場合は番号でよいので明記してください
「あの時」とぼかした場合、その部分はリザルトに採用しません
お世話になっております。あき缶です。
このエピが本作PBWにおいて、最後の担当エピです。
長い間お世話になりました。
本当にありがとうございました。
またどこかでお会いできましたら幸いです。
Adieu.


◆アクション・プラン
ハティ(ブリンド)
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イチカの様子がおかしくて、後をつけてきてしまった…… 何もないところで独り立ちつくすイチカに恐る恐る声をかける 「急にいなくなったから、心配して」なんてありきたりな言葉しかでてこない 思い切って聞いてみる 「……ここで何かあったのか」 昔住んでいたってことは、もしかしてイチカの弟さんが亡くなったところだろうか イチカは気にしてない、と笑う 笑顔がいつも以上に嘘っぽい 弟さんじゃないなら、イチカは誰をみているんだろう 「大事な人……だったのか?」 イチカが泣いたの初めて見た よっぽど大切な人だったんだろうな 泣き続けるイチカの手をぎゅっと握る こんなに近いのに、遠くにいるような気がして、なぜだか胸が苦しくなった |
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簡単な任務の帰りに、森の中を嬉しそうに歩くディナス その先、連れて来られた廃墟と化した街から、少し離れた所の一件の廃屋が実家だと ディナスに紹介された時には、瞑目を隠せませんでした 私は、彼の家族について何かあったのだろうと知りながら、聞く事はありませんでした 朽ちた家屋の入り口で、隣からは少し嬉しそうな声音の言葉 まるで何かを必死に訴える様に 幼い子供の頃の様子を語る彼の表情を僅かに覗けば ……それは、今にも泣きそうな表情でした 涙と共に 強く言いすがる様に、繰り返し告げられた「どうしたら」 全てを解し、そっと頷きます 「今の思いは、私が預かりましょう いつか、あなたが本当に、この現実と向き合えるようになる時まで」 |
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☆参照 14 1 墓参り 2 写真でしか逢った事無いが母と慕っている 3 一緒に来た 4 14で知った程度 「うん!だってママの墓参りでしょ? ユズ、ちゃんと挨拶したいのだよ それにもっとパパとママの思い出話聞きたい!」 ☆墓地 ・墓掃除をしてから線香をあげ手を合わせる 「ここが、ママが眠ってる所? うんそうだね!綺麗にしなくちゃ!(ニコ」 「綺麗になったのだよ! パパもお疲れ様なの♪ はぁい!」 「(手を合わせながら) えっと初めましてなのだよ ユズは西園寺優純絆、パパとはウィンクルムで家族! だからママとも家族なのだよ♪ それに夢でだけどママが優しく抱っこしてくれた気がするんだ 私がママよって言いながら! ぱ、パパ? 顔色悪いよ?大丈夫…?」 |
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先生の大事な人って一体…ていうか、ここはお墓? お祖母様…以前(no.24)ちらりと聞いた事はありましたが、亡くなられてたのですね どんな方だったのですか? …とても素敵な方だったのですね もしかして先生の女性らしい所作などは、この方の影響もあるのでしょうか だとしたら、そんな方に紹介してもらえるのは、とても光栄です 墓前に向かって) 初めまして、暁千尋と申します まだまだ未熟者で、先生のパートナーとしては頼りないかもしれませんが 先生の事はこの先何があっても必ず守って…支えていきます だから、その、…よろしくお願いします(一礼 (いつか貴女に認めてもらえるような立派な男になりますから どうか見守っていてください |
●曇天
ハティとブリンドが見上げる空は鉛色で、垂れ落ちてきそうなほど雲が低い。
今にも泣き出しそう、と感じる空から雨の香りがした。でもまだ……降り始めてはいないから。
二人は無言で歩き出す。
●誓いの墓参
「大事な人にチヒロちゃんを紹介したいの」
と、ジルヴェール・シフォンが誘うので、暁 千尋は彼の後を黙ってついてきた。
だが、ここよと立ち止まられた場所に千尋は戸惑う。
「先生の大事な人って一体……ていうか、ここはお墓?」
墓石を前に、千尋は躊躇いがちにジルヴェールの方を見やる。
そうよ、とジルヴェールは微笑み頷く。
「ワタシの祖母よ、今日が命日なの」
「お祖母様……」
千尋は咀嚼するようにもう一度繰り返し、ふと薔薇の庭園にてちらりと聞いた記憶を呼び覚ます。
貧しかった子供時代、遊ぶ間もなく働くしかなかったジルヴェールに、学業だけはきちんとせよと厳しく指導したという女性だ。
その時に聞けた話はたったそれだけだったけれど、大事な人だと彼が言うならばもっと詳しく知りたい。千尋はジルヴェールに尋ねる。
「どんな方だったのですか?」
「そうねぇ……」
ジルヴェールは懐かしむように遠くを見やる。
そして色々と思い出したらしく、穏やかに笑みを浮かべて答えた。
「優しくて温かくてタンポポみたいな女性だったわ」
「おや」
千尋は目を瞬かせる。
薔薇の迷路で聞いた時は厳しい人だと思ったのに――想像していたジルヴェールの祖母像が揺らいで、千尋はさらに彼の話に耳を傾けることにした。
ジルヴェールは先を促される前に、言葉を継いできた。
「両親の代わりに女手一つでワタシを育ててくれてね。生活は楽じゃなかったけど、彼女と一緒なら何でも楽しめた」
ふふっとジルヴェールは笑い、こう締めくくる。
「家族というより同志って感じだったわ」
遊ぶ間もなく働き詰めの生活で、学業にも励んでいたとだけ聞いていた千尋が、想像していたジルヴェールの幼少期は思ったより辛いものではなかったようだ。
いや、傍目から見れば辛い幼少期だったのだろう。第三者が見れば、可哀想な子供時代だったと評価する。だが、ジルヴェールがそれを大事な思い出だと思えたのは、ひとえに彼の祖母が心を砕いてきたからだ。
そう得心した千尋は、万感の思いを込めて、この一言で感想をまとめる。
「……とても素敵な方だったのですね」
ジルヴェールは嬉しそうに笑みをたたえていた。
「もしかして先生の女性らしい所作などは、この方の影響もあるのでしょうか。だとしたら、そんな方に紹介してもらえるのは、とても光栄です」
そこまで言われるとなんだか気恥ずかしいわね、とジルヴェールは肩をすくめるも、すぐに顔を曇らせた。
「だからかしらね。……最期までワタシを独りにしてしまう事をずっと気にしていたわ」
つらそうにジルヴェールは目を伏せた。彼女の最期を思い出すと今も胸が痛むのだろう。
「沢山心配かけてしまったから、今更だけど安心して眠れるように……」
ジルヴェールは千尋に向き直る。
「貴方を会わせてあげたかったの」
泣きそうな顔で、それでも微笑みながら彼はここに来た理由を告げた。
千尋は雷に打たれたようにハッとした表情で、それを聞き、そして真剣な顔でぐっと胸の前で手を握りしめた。
墓前に相対するように千尋は足を踏み出し、そして腰を下ろした。
「初めまして、暁千尋と申します」
墓石に話しかける千尋の声音は真剣だ。
「まだまだ未熟者で、先生のパートナーとしては頼りないかもしれませんが、先生の事はこの先何があっても必ず守って……支えていきます」
それを見下ろしたジルヴェールは、喉の奥が痛む。慌てて天を仰ぎ、熱くなってくる目頭を落ち着ける。
空中に立ち込める雲はまだ雨雲だが、銀に輝いているともとれた。
千尋は背後のジルヴェールの動揺に気づかず、立ち上がると、墓石に向かって深く頭を下げる。
「だから、その、……よろしくお願いします」
振り向いた千尋に気づき、ジルヴェールはさっきまでの泣きそうだった自分を大人のスキルでごまかすと、艶然と余裕の笑みを浮かべた。
「…………ふふ、ありがとうチヒロちゃん」
今度はワタシの番ね、とジルヴェールは千尋の代わりに墓前にしゃがみこんだ。
そっと手を合わせ、ジルヴェールは目を閉じる。
(ねぇ素敵な子でしょう? ワタシの自慢の教え子で大切な人)
自慢気に心のなかで千尋を自慢してから……先生は『ジルヴェール・シフォン』に戻る。
(……ばぁちゃん、オレはもう大丈夫だよ。もう独りじゃないから……だから安心して眠ってね)
ジルヴェールの背越しに墓石を見つめ、千尋は誓った。
(いつか貴女に認めてもらえるような立派な男になりますから。どうか見守っていてください)
雲の切れ間からカーテンのように暖かな熱を持って日光が差し込んでくる。つややかな墓石が僅かに光った気がした。
●おかあさん?
ルーカス・ウェル・ファブレは目的地の直ぐ側に来てもなお、惑っていた。
「ユズ、本当に良かったんですか?」
覗きこむように尋ねてくる精霊に、西園寺優純絆は何の迷いもなく即座に大きく頷いてみせる。
「うん! だってママの墓参りでしょ?」
ママとはルチアという名の令嬢である。ルーカスが以前愛し、妻とした女である。幸せな結婚生活はすぐにルチアの病没という形で幕を下ろしてしまったが。
ルチアが没したのは優純絆がルーカスと出会うよりもずっと前だ。しかし、ルーカスから彼女の話を聞いた優純絆は、ルチアを母だと言って慕っているのだ。
未だにルチアの墓参りに神人を連れて来てよかったのかと迷うルーカスに、優純絆は此処で翻意されては困るとばかりに食い下がる。
「ユズ、ちゃんと挨拶したいのだよ! それにもっとパパとママの思い出話聞きたい!」
「そう言えばちゃんと紹介してませんでしたね。……ならば行きましょうか」
ようやく彼の決心も固まったようだ。霊園の門を二人でくぐる。
「ここですよ」
とある区画でルーカスは足を止めた。
「ここが、ママが眠ってる所?」
「ええ。さあ、お墓を綺麗にするところからはじめましょうね。手伝って下さいますか?」
ルーカスは穏やかに尋ねながら、掃除道具の袋を掲げてみせる。
もちろん、優純絆が反対する理由はない。一も二もなく頷く。
「うんそうだね! 綺麗にしなくちゃ!」
汲んできた水で、ルチアの名が彫られた墓石を二人で清める。しばらく来なかったからか、墓石の周囲には雑草が茂っていたので、根っこごとむしる。
有り体に言ってしまえば優純絆にとってここは見知らぬ者の墓だが、ルーカスと同等以上に丁寧に墓を扱った。
その様子を見て、ルーカスは胸の奥が熱くなる思いがした。最愛の妻が眠る場所だ。大事にされて嫌な気はしない。
「綺麗になったのだよ!」
額の汗を拭い、優純絆は達成感を声ににじませる。
「ええ、このくらいでいいでしょう。ユズ、お疲れ様です」
「パパもお疲れ様なの♪」
二人、顔を見あわせ、笑い合う。
「では次はお線香をつけますね」
「はぁい!」
まるで父と実子が母の墓参りに来たような空気に、ルーカスは墓参りだというのに少し幸せすら感じていた。
なんて穏やかな墓参だろう。ここに来るときはいつももっと……一言で言ってしまえば辛かったのに。
「ルチア、最近来れずすみません」
線香を供え、ルーカスは微笑みすら浮かべて、手を合わせた。
それを見て、優純絆も手を合わせる。
「えっと初めましてなのだよ。ユズは西園寺優純絆、パパとはウィンクルムで家族! だからママとも家族なのだよ♪」
弾む声で自己紹介する神人に、ルーカスは微笑ましい思いをたたえる。
「ユズは良い子でしょう? 自慢の息子ですよ」
とルチアに自慢気に語りかけた。
だが、次に優純絆が放った言葉に、ルーカスはギクリと身を震わせた。
「それに夢でだけどママが優しく抱っこしてくれた気がするんだ。私がママよって言いながら!」
「ルチアがユズの夢に……? っ!」
唐突に脳裏に浮かぶ映像に、ルーカスは驚愕した。
――ルチアが穏やかに微笑みながら赤児を抱いている……。どことなく、優純絆に似た子を。
「そんなはずは……」
思わずルーカスは呻くように呟く。ルチアと自分の間に子供はいないはずだ、一人たりとも。
「パパ……?」
急に頭を押さえて青ざめたルーカスを見て、優純絆は驚く。必死にルーカスを呼んだ。
「パパ! パパ、しっかり!」
ハッと我に返り、ルーカスは取り繕うように微笑みながら優純絆を見下ろした。
「あ、あぁ大丈夫です、すみません……」
「顔色悪いよ? ほんとに大丈夫……?」
心配そうな優純絆に、ルーカスはもう一度大丈夫だと繰り返し、しかし、そそくさと荷物をまとめる。
「ユズ、そろそろ帰りましょうか」
「え、あ……うん」
優純絆は何度も後ろを振り返りながら、ルーカスは前を向いて早足で、墓を後にする。
(あの記憶は一体……?)
空よりも暗い暗雲がルーカスの胸中に湧き始めていた。
――何か、私は忘れている……? それも大事な何かを……。
●空虚の悲しみを預けて
ディナス・フォーシスは楽しげに森を行く。彼の背を追いかけながら、エルド・Y・ルークはどこに行くのだろうと聞きあぐねていた。
簡単な討伐任務を済ませ、仲間たちが報告に戻ろうと言い始める頃、ディナスは言い出したのだ。
「申し訳ありませんが、僕達は現地解散でもよろしいですか? 簡単な依頼でしたし……全員で報告に行かずとも事は足るでしょう?」
言葉は丁寧だが有無を言わせない圧力があった……とエルドは感じた。
ディナスの言い分も最もだ、と現地解散したウィンクルムの一人が彼に尋ねた。どうして今日に限って、と。
だがディナスは真意を読ませぬ穏やかな表情で答えた。自然がとても美しい場所だから、と。
契約神人の勘だが、エルドはそれは嘘だと思っていた。ディナスは明確な理由があってこの森を歩いている、とエルドは確信していた。
「子供の頃、とてもよく遊んだ森なんですよ」
ディナスは跳ねるような足取りで迷わず足を進めている。
「そうなのですか」
と相槌をうちながらも、エルドは彼の足取りがしっかりしすぎていると感じた。これは、どこか目的地がある歩みだ。
(十年以上経つのに……何も変わっていないんですね)
ディナスは周囲の光景が記憶と寸分たがわぬことを思い知らされていた。誰一人あの場所を整備どころか足すら踏み入れていないのだろう。
森を抜けた先には廃墟の街があってエルドは驚愕する。こんな場所があるなど、知らなかった。
その街の中へ迷いなくディナスは足を踏み入れた。彼の目的地はまだ先らしい。見失わないように追いかけながらも、エルドは周囲を見回した。
(これは……オーガ、かそれに類するモノに襲われた跡ですね……)
惨劇の舞台のどこかがディナスの目的地なのだろう。エルドは話が不穏になってきたことを悟り、身を引き締めた。
(彼の家族に関すること、でしょうかね……)
なにかあった、とは年の功の経験値により敏いエルドは分かっていた。だが明確な話を精霊に求めたことはない。
「ここです。ここ、僕の実家なんですよ」
何事もないような風に、ディナスは朗らかとも思える口調で一件の廃屋の前に立った。
「そ、れはそれは……」
エルドは流石に言葉を失ってしまった。目を見張るしか出来ない。眼前には、惨劇の跡が残りつつも朽ち果てた廃屋があるのだから……。
しかも、ディナスは廃屋の中へとエルドを誘うのだからますますエルドは戸惑ってしまった。
「さあ、どうぞ中へ。大丈夫、僕の家ですから!」
少し嬉しそうにも聞こえるほど弾んだ声で、ディナスは中を案内する。
「ここでは、母がいつも美味しいクッキーを」
などと部屋を紹介しつつその場所にまつわる幸せな幼少期の思い出をディナスが語る声を聞きながら、エルドは思う。
(何か、訴えたいことがあるのですね)
そっとディナスの表情を窺い、エルドは息を呑んだ。
精霊の声は楽しげなのに、表情は今にも泣き出しそうだった。
「ディナス……」
思わず声をかけたエルドに、ディナスはまるでスイッチを切ったかのように思い出話をやめ、平坦な口調で話しかける。
「ねぇ、ミスター」
「僕は、追悼に、来たんです」
「楽しいだけでなく、未来を見たくて」
言葉が進むごとに、ディナスの声がくぐもっていく。
「でもやっぱり、この目の前の現実は、悲しくなくて」
「むしろ、その事がかなしくて」
ぼろりと白皙の頬を転がっていく涙。
「ねぇ、ミスター」
「僕は、どうしたら……どうしたらいいんですか?」
縋り付くように、どうしたらと繰り返すディナスに、エルドは穏やかに頷いた。大体、察することが出来た。これ以上を彼に言葉にして貰う必要は、ない。
「今の思いは、私が預かりましょう」
真っ赤な目で見つめてくるディナスに、エルドは優しく包み込むように告げる。
「いつか、あなたが本当に、この現実と向き合えるようになる時まで」
そっとエルドが背を撫でると、ディナスは俯いて一度だけ頷いて、目を拭った。
●君が遠いんだ、それが辛くって
天原 秋乃は戸惑いながら、遠目に見えるイチカ・ククルの後ろ姿を見つめていた。
彼の様子が心ここにあらずとおかしいので、思わず尾行してきてしまったが、まさか何もないところで立ち尽くすとは思っていなかった。
声をかけるタイミングが掴めなくて、秋乃は先程からずっと躊躇している。
このまま二人して立ち続ける訳にはいかないのだと分かっているのだが。
「ええい、くそ!」
空虚をはらむイチカに、秋乃は思い切って駆け寄った。
「イ、イチカ……」
だが気合を入れた割に、彼を呼ぶ声はとても控えめになってしまったが。
「あれ、あきのん。どうかした?」
急にいつも通りになってしまったイチカに秋乃は逆にうろたえてしまった。
「だからあきのんって言うなって。……その、急にいなくなったから、心配して」
ありきたりの言葉しか出てこない。
だがどこか怖かった。イチカの空虚を取り繕わんとする態度がこれならば、『いつもイチカは空虚を取り繕っている』ことになる。
それを認めたくなくて、秋乃は話を逸らした。
「……ここで何かあったのか」
イチカは少し逡巡してから、へらりと答えた。
「……昔、ここに村があったんだ。オーガに襲われて何も残ってないけど」
「住んでたのか」
「昔ね」
秋乃は顔を曇らせる。
「ってことは、もしかして……弟さんが亡くなったところなのか」
イチカは意外な名前を聞いた、と言わんばかりに目を瞬かせる。
(そういえば、弟の話はしていたんだっけ)
ウィンクルムになったのに、何も守れずに死んでいったイチカの弟。好きでも嫌いでもなくて、彼の死に思うものは何もない。
「前にも言ったけど、僕は気にしてないんだ」
イチカは笑顔で繰り返す。むしろ、ここを弟に関連した土地だと思われるのは、どこか癪だった。
イチカにとって家族の死など些細……否、どうでもいいことである。ここは、それよりももっともっと大事な人を失ってしまった場所なのだ。
思い出が汚されるような気がして、イチカは自覚している以上に不愉快であった。
イチカに不愉快さを塗り込めた笑みを向けられ、秋乃は気後れする。
(弟さんじゃないなら、イチカは誰をみているんだろう)
肉親よりも大事な人を失った。そんな場所なのだとイチカは言外に告げている。
ならば。
それは。
「大事な人……だったのか?」
イチカの顔を覗き込んでくる秋乃の瞳、彼女と同じ美しい緑色。
イチカは秋乃の瞳を見据え、答えた。
「…………僕のすべてだったんだ」
イチカの目からぼろりと流れた涙に、秋乃は驚く。彼が泣く姿を見るのは初めてだった。
(よっぽど大切な人だったんだろうな)
イチカの中の大部分を今もその人が占めているならば、イチカの空虚さの理由の一端が秋乃にもわかった気がした。
「すべて……だった……」
泣き続けるイチカに、秋乃はおずおずと近寄り、そっと手を取り、強めに握ってやる。
「ごめんね、秋乃」
首を横に振る秋乃に、イチカはしゃくりあげながら言う。
「明日にはいつもの僕に戻るから。どうか今だけは……」
秋乃は無言で空を見上げる。ぽつりぽつりと小雨が降ってきたけれど、動きたくはなかった。
呼吸が苦しいのは気圧が低くて湿気が多いからだけでは決して無い、と秋乃は唇を噛みしめる。
ああ、体はこんなに近くて握った手も温かいのに――イチカ自身は秋乃が追いつけないくらい遠くにいる。
夏なのに、吹き抜けていく風はうすら寒い。
何もない場所に、何も言葉は漏らさず胸の中に秘めたままのイチカがすすり泣く声だけが聞こえている。
| 名前:天原 秋乃 呼び名:秋乃、あきのん |
名前:イチカ・ククル 呼び名:イチカ |
| 名前:エルド・Y・ルーク 呼び名:ミスター/エルド |
名前:ディナス・フォーシス 呼び名:ディナス |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 07月12日 |
| 出発日 | 07月20日 00:00 |
| 予定納品日 | 07月30日 |


