


「……」
「……」
二人の間に、会話は無い。
重苦しい空気が、流れている。
「……」
何かを言いかけて、やめた。
ため息が、やけに大きく聞こえる。
精霊は問う。
「なんだよ」
「なんでもないよ」
小さく、舌打ちが聞こえた。
こんなはずじゃなかったのに。
傷つけるつもりなんてなかったのに。
二人は、些細な事から口論となってしまった。
そこから、大人げなく今、こんな態度をとっているのだ。
『ごめんなさい』
その一言が、なかなか出てこなくて。
こんな雰囲気の中、一日を過ごすのはとても辛くて。
また、いつものように笑いあいたくて
だけど、素直になれなくて。
時計の音だけが、大きく部屋に響く。
(なんて、切りだせばいいんだろう……)
悩んでいるのは一方だけではなかった。
二人の気持ちはとっくに互いに向いて、もうその関係を修復したいと
そう思っているのに。
あと一歩が踏み出せないのだ。
『今日の夕飯何にしようか』
違う。
『いい天気だね』
なんで?
『次の任務の事だけど』
今話すこと?
――『ごめん』
今必要なのは、そのたった三文字なのに。
喉が石のようになって、声が出ない。
二人は、視線がかち合った時に同時に口を開いた。
『――――』
そのときに紡がれた言葉は、どんな言葉だった……?


●目的:仲直りしましょう
デート代とかなんやかんやで300Jr消費致します。
舞台は家でもお出かけ先でもOK。
なんらかのきっかけで二人は喧嘩をしてしまいました。
どんな他愛の無い事(楽しみにしていたプリンを奪われた)でも結構ですし、
とても重たい事(相手の過去やプライドに関わること)でも結構です。
喧嘩というほど派手なものでなくとも、なにか気まずい空気になった程度でもOKです。
喧嘩の内容と、その状態から二人がどうやって元に戻ろうとするのかをプランにどうぞ。
場合によっては仲直りできないこともあるかもしれませんが、頑張りましょう。
冒頭のウィンクルムの雰囲気は気にしないでください。
もちろん謝罪しなくてもOKです。
お二人の『方法』で元の関係、元の雰囲気まで戻りましょう。
仲直り、男性側でも。
ちなみに、この二人の喧嘩の理由は
『犬派か猫派か』です。
さっさと仲直りしろよ!!
こんな調子ですが、もちろんシリアスもコメディもOKですので
皆さんの『仲直り』をよろしくお願いいたします。
相談期間、短めですのでご注意ください。


◆アクション・プラン
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
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在宅勤務のフィンが今日は取材で外出 俺の方が帰りが早いので、頑張って夕飯を作ってフィンを待っていた けど、全然帰ってこない 電話も繋がらずメールの返事も無し 心配していたら、帰ってきたフィンから女性の香水の匂いがして… 思わず、何処行ってたんだよと低い声が出て 嘘つき…じゃあ、その甘い香りは何なんだよ 馬鹿!もう、フィンなんて知らない! カッとなって部屋を飛び出した 夜道を歩いて近所の公園に辿り着いて… ブランコに座ったら、自分が情けなくなった 俺ってやっぱり子供だ 今度こそ、フィン呆れたかも… 探しに来てくれたフィンに胸が熱い 謝らないと… …フィン、ごめん 俺…酷い事言って… 顔を上げられず謝罪を口に フィン…有難う…帰ろう |
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依頼11)母とトキワの事を知っても普段通りにしていたのがばれ 避けて会わないようにしてきた。落ち込み ■大学の勉強の息抜きに『優しくて楽しいはじめて料理』(仮)を読む これ、お肉好きのタイガによさそう 中華か。これは栄養満点で…トキワに食べてもらいたかったな 元気かな ご飯たべてる?出かけてる?いつもみたいに絵を描いてるだろうな。一心不乱に …僕の事なんて気にせずに 僕が一方的に近くにいたんだよね 似た感じがしたから。寂しそうで 話さなくても居心地よくて。一人の時間が楽しくて ■突然入るのに本で隠し(顔を見せたら嫌だと思った) トキワ!?何で… …自分勝手だ(受け取り だから甘えたくなるんだ。気をつけるけど(小声で不満 |
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前提:先日ミカを不快にさせた一件があり、その事を謝りたい ミカの家訪問「あの…ご飯作りにきた」 台所一見きれいだけど、ミカらしくない雑な掃除が目につく まだイライラしてるのかな ご飯を終えて、ミカに向き合う あの…俺『余ったからちょうだい』な気持ちで言ってない。 綺麗だって思ったんだ。俺、ミカのアクセサリーのファンだよ でも軽く見たと思われても仕方ないよね……ごめんなさい これ…この前デザイン話したやつ?[エピ17] あの時会話したささいな事とかもデザインに入ってる 俺に似合うようにって考えてくれたんだ… いつもいつも頑張って作ってるんだよね…誤解だとしても、嫌な思いさせるような事言ってごめんなさい(涙がこぼれる) |
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場所:ラティオの家 熱中し過ぎたようだ。(研究に興が乗り、研究室に篭ってた 「ああ、やっと区切りがついてね。これを食べたら少し寝るよ」(台所 「君が心配する事じゃないさ。それに、僕が死んだら好きに生きられるんじゃないかい?」 「だから、僕が頼んだ訳じゃな……」(寝不足の為、相手の様子に遅れて気づいた 寝る気になれない。(食事は済ませた おそらく、彼は心配をしてくれたのだろう。(合ってる自信は無い 「ノクス」(戸をノック後、話しかける 「先程はすまない。だが、君を縛り付ける気は本当にないんだ」 「だから……」後は何を言えば……? やはり、まだ不機嫌そうだね。 「ああ、わかったよ」(苦笑 お互い、言葉選びが下手なようだ。 |
「……」
蒼崎 海十は、普段は在宅勤務のフィン・ブラーシュが取材のため外出中なので、彼より早く帰宅したから一生懸命夕飯を作って出迎えてあげようと待っていた。テーブルの上には冷めかけの夕食。軽めにかけたラップに、水滴がついてしまっている。
(……全然、帰ってこないな……)
時計を見れば、もう夕食の時間なんてとうに過ぎていた。電話をかけてみても、つながらない。メールを送ってみても、返信がない。
その頃。
(……ああ、失敗した、早く帰りたい)
取材終わりに、いつもお世話になっている出版社の人達と付き合いで飲みに行くことになってしまったフィンはその笑顔を崩さないようにしながらも内心は焦っていた。
『付き合いで飲みに行くことになった』
という旨をメールしたかったのだが、仕事が終わるころにはもう携帯電話の充電は切れていて、連絡を入れることが出来なかった。流れでそのまま外に出て飲食店へというコースで、どこからも連絡する手段はなかったのだ。さすがに最後まで参加するととんでもない時間になってしまう。フィンは、途中で同席した人達に断りを入れて抜けることにした。
(……遅い、何かあったのか……?)
携帯の画面を不安な気持ちで見つめる海十。その時、玄関の鍵が回る音がした。
「フィン……!」
急いで玄関に走って出迎えに行く。
「海十、ごめんね……」
「心配したんだぞ、何かあったんじゃないかって……」
「うん、ごめん……携帯、充電切れてて、連絡できなかった」
そっか、と海十は無事に帰ってきたフィンの顔をホッとした面持ちで見つめる。が。
ふわりと彼から香ってきた香水の匂いに眉を顰めた。
(……女性物の香水の香り……)
「……何処行ってたんだよ」
ふと、海十の声が低い物へと変わる。
「何処って……仕事の付き合いで……」
どうして海十がそんなに不快そうな顔をするのかわからず、フィンは素直に答える。
「嘘つき……じゃあ、その甘い香りは何なんだよ」
「え?」
どう考えたってフィンが好んでつけるような香りじゃない甘ったるい女性物のフレグランス。フィンは自分の袖を顔の前に持ってくる。
(って、同席した出版社の女性社員の香水の匂いが移ってる?)
その仕草さえ海十には気に入らなかった。カッとなって叫ぶ。
「馬鹿! もう、フィンなんて知らない!」
玄関に立ち尽くすフィンを押し退け、部屋を飛び出ていく海十。
彼が飛び出していったことに、思わず呆然と立ち尽くしてしまったフィン。
放っておいたらもっとまずいことになる。なんという失態。慌てて追いかける。
(……誤解させて、不安にさせてしまった)
息を切らせ、彼を、探す。
夜道をあてどなく歩き、近所の公園に辿りついた海十は、なんとなく目についたブランコへと腰を下ろす。急に、情けなくなってきた。
(俺ってやっぱり子供だ……)
ぎゅっと握りしめたブランコの鎖が、冷たい。
(今度こそ、フィン呆れたかも……)
もう、嫌になってしまっていたらどうしよう、なんて考えていると、バタバタと足音が聞こえて。スラリとした影が海十の正面に落ちた。息が上がっている。ちらりと視線だけで見ると、そこには今一番会いたい人がいた。今、一番会いたい、自分が傷つけてしまったであろう人。胸が、熱くなっていく。
「海……十ッ……」
どのくらい走ったのだろうか、額に玉のように汗が浮いている。
(謝らないと……)
海十は、言うべきことはもうわかっていた。
「……フィン、ごめん」
顔を上げられず、自分のつま先を見たまま。
「俺……酷い事言って……」
先に謝られてしまった。フィンはゆるりと首を横に振り、息を整えて告げる。
「……俺の方こそごめん」
「フィン……?」
ゆっくりと顔を上げると、フィンは困ったように眉を下げて付け足す。
「誓って疚しい事は無いからね」
俺には、海十だけなんだから。と、事情を説明する。
「でも、俺が悪い」
誤解させてしまったのだから。と付け足し、フィンはもう一度頭を下げた。
「ん……」
海十はもう謝らないで、と言うように首を横に振る。
「……そして、もう一つ懺悔」
「?」
まだ、なにかあるのかと首をかしげる海十にフィンは白状する。
「海十が嫉妬してくれた事が……嬉しいんだ。幸せでにやけちゃうくらい」
「え……」
頬に熱が集まっていくのが解る。そんな、事。海十は嬉しいやら恥ずかしいやらで言葉を詰まらせ、そして立ち上がった。
「フィン……有難う……帰ろう」
帰るときは、手を繋いで。月明かりが、二人の行く道を優しく照らしていた。
トキワは、自宅のキャンバスの前で大きくため息をついた。空の弁当箱を見つめ、タバコに火をつける。紫煙を燻らせ、大きく息を吸って、再度、吐いた。
『まずい』
そう告げる相手は、いない。
『俺はついでかよ』
――もう一人の精霊につくるついでに弁当を作ってるのかと揶揄することも、できない。
今日何度目ともしれぬため息が、彼の唇から漏れる。
(『近づくな』と願ったのは俺なのに馬鹿だよな……)
軽く、頭を振った。
(でも後悔しちゃない)
セラフィム・ロイスは、トキワがかつて愛した、惚れこんだ女性であるソフィに瓜二つだった。その容姿は生き写しで、見るたびに胸が締め付けられた。無理もない。彼はソフィの息子なのだから。
――けれど、違いも、当人じゃないのもわかっている。そこを割り切れないほど子供じゃない。
(――捨てた想いだ)
なのに、セラフィム当人が、『俺』と『ソフィ』の関係を知っていたとは。
……引きづられて情がわきそうで苦しかった。捨てた記憶に焼かれるようで。
(知っていたのは渡りに船だったんだよ。お前も傷つかないと思ったのにな)
空っぽの弁当箱が、なんとなく、寂しい。
「絵を志し両親に勘当された俺の、拠り所だったのか」
苦虫をかみつぶしたような顔で、呟いた。
「……馬鹿らしい馬鹿らしい」
どこか吹っ切れたようなその声と共に、タバコを灰皿にこすり付ける。――さあ、持って行かないと。
セラフィムはというと。大学の勉強の合間に気分転換にととある本を広げていた。
『優しくて楽しいはじめて料理』
表紙には色とりどりの野菜や肉、魚の写真が盛りだくさんの、ビギナー向け料理本だ。
(これ、お肉好きのタイガによさそう)
がっつり豚肉のやわらか煮込み……鶏肉のニンニクしょうゆ照り焼き。このあたりかな、なんてぺらりとページをめくりながら次は何を作ろうか考える。
(……中華か。これは栄養満点で……トキワに食べてもらいたかったな)
自分の食事の栄養バランスに無頓着な彼にぴったり、なんて、小さく笑う。その笑みには、切なさが浮かんでいた。
「元気かな」
気付いたら、言葉が口をついて出ていた。
(ご飯たべてる? 出かけてる? いつもみたいに絵を描いてるだろうな。一心不乱に)
そこまで思って、ふと目を閉じる。
(……僕の事なんて気にせずに)
急に、胸にこみ上げてくる寂しさ。
「僕が一方的に近くにいたんだよね」
ぽそ、と呟く声は、だれにも聞かれず。
(――似た感じがしたから。寂しそうで、話さなくても居心地よくて。一人の時間が楽しくて)
だから、傍にいるのが自然だった。それで、良いと思っていた。
ばたん! と扉が開く。
「セラ坊!」
「!?」
驚いて振り向くと、そこには今しがた考えていた人の姿が。慌てて、レシピ本で顔を隠す。
「トキワ!? 何で……」
ずい、と目の前に出された弁当箱は、綺麗に洗ってある。――全部、食べてくれたのだろうか。
「あ」
トキワの手がセラフィムの頭に伸びてくる。
「誰が前以上に離れろ、と言った?」
ぽんぽん、といつものように撫でつけられる。
「代わらずいろ」
弁当箱を受け取りながら、セラフィムは少し口を尖らせた。
「……自分勝手だ」
「昔からの性分でな」
――子供のままで。芽生えた感情なんて塗りつぶす。
トキワは、クッと喉の奥で一つ笑う。ふいと目を逸らし、セラフィムはトキワに聞こえないよう、呟いた。
「だから甘えたくなるんだ。……気をつけるけど」
あの日、ミカは信城いつきの言葉に、というより、自分の不甲斐なさに酷く怒りを覚えた。――いや、傷ついた、とでも言おうか。
オーダーメイドで作成したアクセサリーを、客にキャンセルされたのだ。それは、自分の力が及ばなかったから。そんなことはわかっていた。けれど。
「もらってもいい?」
誰にも使われないのなら、俺にくれないかな、なんて、いつきがそのアクセサリーを触った物だから。ついカッとなって、それを勢いよくいつきの手から奪い返して。それから、いつきへは連絡していない。
その日の事を、いつきは大層気にしていた。自分が、彼を不快にさせてしまった。謝罪しなければ。その思いで、今日、彼の家を訪問することにしたのだ。チャイムを鳴らして家にあげてもらうと、いつきは用件を告げた。
「あの……ご飯作りにきた」
いつもより、少し遠慮がちな視線。ミカは出来るだけ平静を装って部屋に通す。――けれど、いつきが何かを察していることにも気づいていた。いつきは台所に立つと、すぐに支度を始める。一見、台所は綺麗だ。……けれど、綺麗好きで、いつも台所をぴかぴかに仕上げるミカらしくない雑さが目に付いた。
(まだイライラしてるのかな……)
ちらと見やったミカの顔は、いつもと変わらない、と言いたいところだけど、どこか違和感があって。
とりあえず、食事を仕上げ、二人で食卓に着く。
ぎこちなく食事を終えて、その時いつきが本題を切り出した。
「あの」
「なんだ」
少し言葉を詰まらせたものの、いつきははっきりと言葉にした。
「……このあいだの……俺『余ったからちょうだい』な気持ちで言ってない」
ああ、あの日の事だ。二人の空気がぎこちなくなってしまった、原因のあの出来事。
「綺麗だって思ったんだ」
ミカは真剣な眼差しに射抜かれる。そのまま、黙っていつきの声を聞いた。
「俺、ミカのアクセサリーのファンだよ。……でも軽く見たと思われても仕方ないよね……ごめんなさい」
頭を、下げる。
ミカは、グッと唇を噛んだ。
(違うだろ、なんでチビに謝らせてるんだ、俺は)
キャンセルされたのは、相手が欲しいと思っていた物を作れなかったから。全て、『自分の責任』なのに、どうして、いつきがこうして自分に頭を下げている?
「本当に、ごめ……」
言いかけたところを、制止する。
「待った、チビ」
「?」
顔を上げるいつきの目を見て、ミカはゆっくりと、そしてはっきりとこう言った。
「チビがそんな気持ちで言ってない事ぐらい分かってる」
「……」
「分かってたのに、八つ当たりしただけだ」
「え……」
「……悪かった、いつき」
そう告げると、ミカも深く頭を下げた。
「う、ううん、ミカは悪くない、頭、上げてよ!」
そうして、ようやくふたりもう一度視線を交わし、安堵したような表情になる。
「お前にはこっちだ」
ミカが取り出したのは、銀のプレート。青い紫陽花のモチーフの、美しいデザインの物だ。男性がつけるのにちょうどいい、甘くないデザインに、いつきはあっと声を上げる。
「これ……この前デザイン話したやつ?」
紫陽花の園で二人で話しながら考えたデザイン。ミカがメモ帳にサラサラと書き起こしていたのを、鮮明に思い出せる。
(あの時会話したささいな事とかもデザインに入ってる……)
嬉しくて、胸がいっぱいになってくる。
「誕生日に渡そうと思って……」
「あり……がと……」
いつきの顔が、くしゃっと歪む。
「俺に似合うようにって考えてくれたんだ……」
「ああ」
「いつもいつも頑張って作ってるんだよね……」
じわ、といつきの瞳に青い青い瞳に涙が滲む。
――まずい!
「誤解だとしても、嫌な思いさせるような事言ってごめんなさい……」
ぽろ、と水晶のように透き通った涙が、いつきの頬を伝った。
「~~っ、だから凹むな! その為に渡したんじゃない」
優しく、いつきの頭をぽんぽん、と撫でる。
「う、ん。ごめん」
ぽろぽろと次々零れ落ちる涙に、ミカはどうしていいかわからなくなる。
いつきの泣き顔を見たいのではない。からかうのは楽しいけれど、こんなふうに、泣かせたいのではない。
「本当に、泣くな……頼むから」
ほら、とハンカチでその涙を優しく拭う。
(怒られる方が数倍マシだ……)
怒られるのも、困らせるのも、楽しい。けれど。
こんなに気に入った相手には――できれば、笑ってほしい。
しばらく部屋にこもったきり出てこない男に、ノクスは小さくため息をついた。
一体、どれくらい顔を合わせていない?
ぱたん、とドアが開いた音がした。その方向を見ると、そちらにはラティオ・ウィーウェレが佇んでいる。
(熱中しすぎたようだ……)
はぁ、とラティオもひとつ、ため息をついた。どうも、研究が興が乗ると没頭してしまい、他の事が目に入らなくなる節がある。自分でも自覚はしているのだが、自覚しているとやめられるのとは話が違う。
そんなラティオを見て、ノクスは今度は長いため息をひとつ。
「終わったのか」
台所の入り口に凭れ、久々に見たラティオの顔ときたら酷く草臥れていた。目の下には黒々とした隈をこさえているし、顎や鼻の下には無精ひげが生えている。
「ああ、やっと区切りがついてね。これを食べたら少し寝るよ」
なんのことはない、というように、冷蔵庫の中の物を物色して適当に食事をとろうとするラティオに、ついにノクスは物申した。
「貴様、何度目だ。それではオーガに殺される前に死ぬぞ」
何の気なしにラティオは答える。
「君が心配する事じゃないさ。それに、僕が死んだら好きに生きられるんじゃないかい?」
別に、傷つけるつもりで言ったわけではないし、本当に死ぬつもりで言ったわけでもない。ただの軽口だった。けれど。
「ほう? 我がわざわざ貴様を護ると決めた事を無下にすると?」
声に怒気がこもっている。けれど、それにも寝不足のラティオは気付かない。さらりと返してしまった。
「だから、僕が頼んだ訳じゃな……」
「そうか。ならば勝手にするが良い!」
被るようにしてピシャリと言い放ち、ノクスは早足で自分の部屋へと向かい、勢いよく扉を閉めた。
「……」
なんとなく、気まずい空気が、あたりを包んだ。
それから。とりあえず食事を済ませ、ラティオは自室へ戻ったが、どうにも眠る気にはなれなかった。色々、考えてしまう。
――合っている自信は無いが、おそらく彼は心配してくれたのだろう。
彼の部屋の前へ行き、固く閉ざされた扉をノックする。
「ノクス」
「……」
返事は返ってこない。
(我が不要とも聞こえる言を発してなお、何の用がある)
むすり、と扉の向こうでノクスは口を一文字にして黙っていた。
「……先程はすまない。だが、君を縛り付ける気は本当にないんだ」
聞いているかはわからないが、どうしても謝罪したくて。ラティオは閉ざされた扉の向こうへと声をかけた。
(……声に覇気は無い。我に構わず寝れば良いものを)
ふん、とラティオのしょんぼりした声を聞きながら、ノクスは仏頂面のままだ。けれど。
(謝罪があっただけ良いのだろう)
そう思い直した。
「だから……」
だから……? その次の言葉が思いつかず、ラティオは口を閉ざす。
小さな音を立てて、扉が小さく開いた。
「一つ言うぞ」
不機嫌そうな顔のノクス。けれど、やっと扉を開けてくれたことに少しだけ安心する。
(やはり、まだ不機嫌そうだね)
ラティオはノクスの言葉を待つ。
「我は貴様を護ると既に決めたのだ。それは心しておけ」
仏頂面でそう告げるノクス。ラティオは眉をハノ字にして苦笑した。
「ああ、わかったよ」
お互い、言葉選びが下手なようだ。ただ、心配していただけなのに。ただ、負担になりたくなかっただけなのに。すれ違うのは言葉が足りないから。ノクスは複雑そうな顔で視線を逸らす。
(会話と言うのは、こうも難しいものか)
互いにこんな調子だから、なおさら。
分かり合うにはやはり言葉は必要で。
その『言葉』を上手に使うのは、二人にはまだ少し難しい事なのかも、しれない。
アキ・セイジとヴェルトール・ランスが口を利かなくなって、何時間が経過したろうか。それはバイトの帰りが遅いという理由だったろうか、洗濯物のことだったろうか、今となっては思い出せないのだけれど、とにかく、しばらく口を利いていない。
「……」
「……」
それでも、二人の限界が来るのはすぐだった。
(寂しい)
(なんで、同じ部屋にいるのに……!)
同時に、顔を見合わせる。
「セイジ」
「ランス」
二人同時に名前を呼んだ。
「な、何だ?」
「ランスこそ」
なんとなくぎこちない。そっちからどうぞ、いやいや、そちらから、というのを数分繰り返し、ようやくランスが切り出した。
「あのー、ごめん、な?」
「俺もそう言おうと思ってた。ごめん、ランス」
なんで俺たち喧嘩してたんだっけな。なんて、やっと笑いあえる。どうして謝ろうと思ったのか、それも、すぐに分かった。
「あー、よかった。許してもらえなかったらどうしようかと思った」
ぽんぽん、とランスの手がセイジの頭を撫でる。だって、こんなに愛おしい人とこれ以上距離のある生活をするのは、お互い、無理だったから。
顔を見合わせて笑えば、すぐに胸の中が温かくなるのが解った。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 寿ゆかり |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | ハートフル |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 07月06日 |
| 出発日 | 07月11日 00:00 |
| 予定納品日 | 07月21日 |

2016/07/10-23:53
2016/07/10-13:28
僕はラティオという。よろしく頼むよ。
うん、まあ。
全面的に僕が悪いのだけれども。
どうしたものかな。
2016/07/10-00:14
2016/07/09-23:14
2016/07/09-15:09
2016/07/09-13:00

