梅雨明けまで生き残れ!(三月 奏 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

暑い。あなたの思考をそれが支配した。
(暑い、あつい、じめじめする、あつい……)
外は直射日光が照りつけているが、梅雨明けの報道はまだ流れていない。
実際。その湿度は部屋の中にいて、着ている服が肌に張り付いて感じる位にじめっとしている。
そんな今は、梅雨真っ只中だ。

夏に向かう通過儀礼ではあるが、一歩間違うと真夏より湿度が高い不快指数MAXのこの季節。
あまりの暑さに久しぶりに稼働したエアコンは、よりにもよって暖房から切り替わらずに、情熱的な温風を吹き出した。

──そんな室内は、今まさに地獄の様相を見せていた──

慌ててエアコンを停止させるも、この数日で急に上がった気温に体がついていかない。
「あ……つい……」
何とかエアコン修理を頼んでみたが、修理には早くとも今日の夜までは掛かるらしい。
室内なのに蜃気楼が見えた気がした。
もう、今にもリビングデッド化しそうな勢いで、部屋の中央で倒れ伏していた体をふらふら起こす。
「そ、外の方が涼しいかも知れない……!」
それは最後の賭けでもあった。しかし、もはや室内にはいられない。

そうして、あなたは部屋を飛び出した。
併せて、急ぎパートナーに連絡をつける。
「あつくて死ぬ、たすけて」

それは梅雨の中でも一際暑い、とある日のこと……

解説

湿度MAX、暑さは真夏日指定をゆうに飛び抜けた高気温。
死ぬほど暑いこの1日を、パートナーを巻き込んで、何とかやり過ごしましょう!

エアコンが復活する夜まで、いかに楽しく生き延びるのかがポイントです。

涼しいショッピングモールで夏に向けて買い物をするもよし、水族館で涼を取るもよし。
図書館で涼んで声をあげて怒られるもよし、敢えてパートナー共々自室に立てこもり我慢大会をするという危険行為に及ぶもよし。
行先や涼み方など、ご自由にプランにお書き添えください。

●しかしながら、熱中症で倒れないようにだけはご注意ください。

●エアコンの故障原因だった、リモコンの修理費として300Jr頂いております。

それでは、楽しく素敵なプランを心よりお待ちしております。


ゲームマスターより

この度は、ページを開いて頂きまして誠に有難う御座います。三月 奏と申します。

エアコンを付ければ即冷えて風邪を引くが、我慢していて気が付いたら熱中症という事が多くなりましたこの季節。
皆様も、是非お体にはお気を付けください。

相談期間を長めに取らせて頂いておりますので、お気を付け下さい。
それでは、少しでも楽しいお時間を過ごして頂けましたら、この上ない幸いで御座います。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)

  パシオン・シーで泳がないかと提案。
もしもの時は、施設の温水プールも候補に入れてる。

お茶入りのペットボトル、タオル大小各1枚、替えの服を持参し、
珊瑚と一緒に自転車で現地へ向かった。
脱いだ服を畳み、サンダルを脱ぐ。
予め着ていた水着とゴーグルを着け、
準備体操の後、水に飛び込び、クロールで泳ぐ。
「どこまで泳げるか試してみるか?」
遠くを指差し、そこを目指して珊瑚と競泳(スポーツスキル使用)。

その夜、直ったエアコンの下で珊瑚と乾杯。
有り難みを感謝しつつも、今まで頼りすぎた事を反省した。
体も冷やしがちになる、だから。
「今年の夏は……外で涼むようにしよう」

そしたら、エアコンも今より長持ちする……かもしれない。


李月(ゼノアス・グールン)
  この灼熱地獄を乗り切る手段…
涼めそうな施設は人でごった返しだろうし
図書館は相棒が大人しくしてる訳ないし
閃いた
必要な物とおにぎり準備し目指すは近隣の森
岩が天然の飛び込み台になってる川
子供の頃友達と行き自分だけ飛び込めなかった話を相棒にしそこへ

道がうろ覚えで迷子
でろでろ状態でなんとか到着

飛び込み岩で
相棒のダイナミックジャンプにさすが!
そうだあの中に安らぎが
準備運動しつつ気持ち落着け
恐怖との葛藤の末ジャンプ
ガボガボ死ぬ…
助けられ頼もしさ感じつつ
や、やったー
克服感と清涼感で嬉しい!
おう!何度でも
悪戯されても楽しい
やったなこのやろーははは

夕方近く
そろそろ帰るか
え?
生きて…帰れるだろうか
熱帯サバイバル敢行


胡白眼(ジェフリー・ブラックモア)
  (昼の冷し中華も旨かったし、ついて着て正解だな
平日だからか人も少なくてゆっくりできた)

(普段なら素通りする女性誌コーナーで立ち止まり)
(ウィンクルム特集…特別インタビュー?)

嫌です

つ、まらない人間なので話題提供できませんし!
同じ依頼ならオーガの討伐に専念したいので
(わたわたと取り繕い)

(変わった動物園の特集か
「木登りヤギと間近でふれあおう」…)
ジェフリーさん、山羊好きなんですか?
俺はかわいいと思うんですが、羊好きに比べると珍しいですよね
どこが好きなんですか?

(なんだろう、さっきの表情
一瞬だけど心ここにあらずという感じだった、ような)
ッだから!からかうのやめ…!

……うう。暑さがぶり返した気がする


楼城 簾(フォロス・ミズノ)
  「家のエアコンが壊れてしまってね」
リモコンを不注意で壊してしまった話をしつつ、水族館を歩く。
今度コラボ商品をするらしいからね、視察だ。
紅竜さんは本日非番、代わりはミズノさんいるから不要だと伝えてある。
紅竜さんの護衛でないというのも少々変な気分ではあるが、口にはしない。
水族館は順路通りに見て回る。
「意外に見所があるね」
イワシがいるのかと思ったが、大群で泳ぐ様は意外に見ごたえがある。
「海の中に近い状況というのもいいものだね、紅…ミズノさん。失礼した、いつも彼が後ろにいるのでね」
今何故紅竜さんの名前が出た。
評価は出来ても信用はまだ出来ない護衛に過ぎないのに。
…家に帰ったら頭を冷やした方がよさそうだ。


咲祈(ティミラ)
  …それが、僕を呼び出した理由?
エアコン、壊したのかい
どっちでも良いさこの際
…あ。頼まれてたもの、持ってきた
たくさんアイス持って来いなんて、なにごと?
……まあ、涼しくはなるだろう。ただ、熱中症にならなくてもお腹は冷えるよ
これだけあれば足りなくならないさ…
アイスを食べつつ
窓開ければ良いのに開けないの?
(かわいい弟って…王子顔の人に言われてもなんだか複雑だ…)
楽しくない。…熱中症になったらティミラの所為にする
酷くないさ。これが僕だからね

え、夜まで? …暇なのかい? 君は
泊まらない(即答



「家のエアコンが壊れてしまってね」
 視線は正面。零れたのは一つの話題。
 楼城 簾は、そんな何気ない会話の一つをフォロス・ミズノへ置いた。

 向かう建物は、3階建てにも至る水族館。
 近く、ここでは簾が働く会社とのコラボレーション企画が上がっており、二人は今回その視察に来ていた。
 ──聞いた簾の話によれば、エアコンのリモコンをテーブルから落としてしまい、結果エアコン操作を受け付けなくなったらしい。
「……不注意での故障ですか」
 フォロスはその話に一度首を傾げた。
『あまりそういう人には見えませんが』──浮かんだ内容を言葉にすることはなく。
 フォロスは水族館独特の静けさの中を、簾と共に歩き始めた。

 簾の父は、彼が勤めている会社の社長である。
 人心的な評価はともかく、成績も手腕も確かな簾はその次期社長の第一候補である。
 その為、精霊兼護衛に最初に契約した紅竜がいるが、本日彼は非番で不在。
「父には、護衛の代わりにフォロスがいる為、行動に支障はないと伝えている」
 簾の言葉に、心の中でフォロスが添えるように口にした。

「(デートではなく視察であるから、社長には私からも報告しますが)」
 フォロスはこうして、簾の外堀を少しずつ埋めていく。
 ……未来、簾が社長になった暁には、それを完全に自分の意のままに動かせるように。
「(……今は、彼を立てますが──その束の間を楽しめばいい)」
 フォロスの瞳を、薄暗い闇が染め上げた。

 通路順に進み、水族館の目玉である巨大水槽を目にして、二人はしばらくその場で立ち止まった。
 そこには銀に光るイワシの群れが、完全に統一された壮大な動きで遊泳している。
「意外に見所があるね」
 フォロスは、半歩下がった隣からそう告げる簾の様子を窺っていた。
 簾がどのような感情を瞳に宿しているかは分からないが、きちんと仕事として一つの展示をしっかりと見て回っている印象を受けて。

 それが彼の──簾という存在のあり方だと思っていた。
 彼から、その言葉を聞くまでは。

「海の中に近い状況というのもいいものだね、紅……ミズノさん」
 簾は、振り返りざまにフォロスを見て瞬きを一瞬。そして直ぐに名前を呼び変えた。
「失礼した、いつも彼が後ろにいるのでね」
 簾がすぐに変わらない冷静と併せ、謝辞と共に言葉を合わせる。
 彼が上げかけていたのは、最初の契約精霊の名前。

 フォロスの脳裏に、ガラス細工が繊細な音を立てて砕けるような音が響いた。
「……随分心を許されてますね」
「何の話だね?」
 彼の最初の精霊について皮肉を言ったが、本人は怪訝な様子で問い返す。
 しかし──以降の視察において、簾はその原因について度々思考を奪われた。
 何故、あの瞬間、自分の口から最初の精霊である紅竜の名前が出たのか……
「(……評価は出来ても、信頼はまだ出来ない護衛に過ぎないのに)」
 その様子を、隣にいたフォロスははっきりと目にしていた。
 簾の心が、そこには無い。
 気付かれないとでも思っているのか──それとも『本当に自覚が無いのか』
 それに、気がついた瞬間。
 フォロスの心は、湧き上がる煙のようにその胸を黒く染め上げた。

 夜。
 一人になった簾は今日の様子を振り返る。
 今日は『僅か』だが視察から意識が退いた。本来ならば、仕事にはあるまじき失態だ。
「(……家に帰ったら頭を冷やした方がよさそうだ……)」
 心の中で独りごち、簾は静かに玄関のドアを開けた。

 そして同時刻──
 フォロスは、まるでタールを抱えたような心と共に、その胸の不快な重みに眉を顰めていた。
「(面白くない)」
 フォロスの胸に、梅雨の気候などよりも桁違いの不愉快な波が、確かな存在感を持ってさざめいている。

「(コウリュウさんの名前を無意識に呼ぶレンさんも──
 ……その程度の事で、気を留めている自分も……面白くない)」

 夜は曇り。
 しかし、曇天を見上げるフォロスの表情は、いっそ雨が降った方がまだ清々しい程に、その聡明な茶色の瞳を鈍く曇らせたままだった。





「あ゛ぁぁ、あぢさんやーっ!!」
 沸騰した湯気の上を思わせるアパートの一室。
 ついに瑪瑙 珊瑚が暑さに耐えかねるように、ちゃぶ台をひっくり返すような勢いで絶叫した。
「確かに、これは暑い……」
 隣に座って団扇を扇いでいた瑪瑙 瑠璃も、流石に扇ぐそよ風では凌げない暑さに、ぼやくように呟いた。
 それでも瑠璃は、ぐったりしている珊瑚を自分の代わりに扇ぎながら──ふと、思いついた事を提案してみる。

「珊瑚、パシオン・シーで泳がないか。海に行けばちょびっとは楽になるかも知れない」
「わんは、ブルーサンクチュアリの方がぁ」
 ──確かに『もういっそ涼むなら海底にまで行きたい』
 珊瑚の気持ちは瑠璃にも切に分かってしまう程の暑さであったが、ひとまずはパシオン・シーだ。海開きしていなければ、目的地に施設の温水プールも考える。
「珊瑚、お茶と水どっちがいい?」
「みじが飲みたい……」
 それを聞き、瑠璃は急いで自分のお茶と珊瑚の水が入ったペットボトルにタオルと着替え一式を準備して、意識が溶けかけている相手の手を引くように部屋を飛び出した。

 それからしばらく──
「お、おお!! ちびらーさん!」
 見えて来た砂浜から広がる海を目にした途端、半分死体と化していた珊瑚の瞳に光が満ちた。
「やっほーぃ!!」
 壮大な海を目の前にして、珊瑚は服もサンダルも投げるように脱ぎ捨てる。
 そして、そのまま着込んでいた水着と黒で統一されたゴーグルを手に、勢い良く海へと飛び込んだ。
 さり気なく準備万端であった相手の様子に小さく笑ってから、瑠璃は珊瑚の脱ぎ捨てられた服とサンダルを整えて。
 珊瑚と同じく、着込んでいた水着で念入りに準備体操を行い、相手と色違いの白のゴーグルを伴って、その心地良い海へと足を進めた。

 浜辺に近いが脚のつかない区域まで、クロールで海の冷たさを全身で感じるように一気に泳ぎ切る。
 そうして顔を上げた瑠璃の背後に、派手に水流を乱して元気の良いバタフライで追い付いた珊瑚が後ろから思い切り抱き着いた。
「わっ!」
「へへっ、捕まえた!」
 振り向く瑠璃の目に、貝や真珠で組み上げられた煌くブレスレットが見えた。
 次いで目に入った、珊瑚の楽しそうな表情につられて笑い掛ける。
「珊瑚、似合うな。そのブレスレット」
「瑠璃やしが、うぬチュラサンなブレスレット、しに良く似合でぃるぜ!」
 瑠璃が不思議そうに自分の手を目にすれば、ブレスレットには水に浸って華を思わせる文様が浮かび上がっていた。
「水に触れるとこんなに綺麗になるのか、初めて知った」
 瑠璃は、自ら手を引き上げてその青を眩しそうに見つめ。
 それから、いい事を思いついた様子で珊瑚へと向き直る。
「この海、どこまで泳げるか試してみるか?」
 楽しくも、僅かに勝負事への自信を見せて瑠璃が笑ってみせた。
「おう! まーまでも泳いでやらぁ!」
 珊瑚は、瑠璃の笑顔を見て一も二も無くそれを受けて立つ。
 お互いに運動には自信があり、その加減も心得ている。
 二人は一旦お互いの目を見合わせると、一斉に沖へと泳ぎ出した。

「乾杯ー!」
 夜──
 直ったエアコンが無事に稼働する中、風呂上がりの二人が並んで涼みながら軽いお酒を共に乾杯としゃれ込んだ。
「思えば、今までこれに頼り過ぎていた気がするな」
 ほろ酔いの熱も心地良い涼しさに置き換えてくれるが、それでもずっと使えば体を冷やす事には変わりない。
「今年の夏は……外で涼むようにし──珊瑚?」
 瑠璃の左肩に、重みを感じる寄り添う感覚。
 そこにはお酒を片手に、安心して瑠璃へと身を預ける珊瑚の姿。
「何やさ、いいじゃねぇかぁ。体も動かせて、涼めるだろ~?
 電気代もかかんねぇし、一石二鳥どころか三鳥なんだからさ」

 しかしエアコンが壊れていれば……今伝わる相手の温かさに気づけなかったかも知れない。
 浮かんだ瞬間、途中まで言葉に浮かんでいた『使わない事でエアコン長持ち』の期待を、瑠璃はそっと『かも知れない』という可能性へと追いやった。





「エアコン壊れちゃってさー暑くて死にそうだったんだよねー」
 それでも家を飛び出す事無く、ティミラはやって来た咲折を、綺麗な花咲く笑顔で出迎えた。
 弟である咲折を出迎えるまでの間で、もはや滝のような汗が流れていたが、彼が来てくれた喜びからか、その汗も輝いて見える。
「……それが、僕を呼び出した理由?」
 対して、咲折は冷静そのものだった。むしろ、この暑さを更に耐えるかのように、その場にいるティミラを理解出来ない様子で見つめて、エアコンへ目を向ける。
「エアコン、壊したのかい」
「ちょ、オレが壊したみたいに言うなって! 自然と壊れたんだよっ」
「どっちでも良いさこの際。
 ……あ。頼まれてたもの、持ってきた」
 ティミラの必死の訴えは、あっさりと受け流されたが、差し出された袋を見て、ティミラはその目を輝かせる。
「さっすがツバキ!」
「でも、たくさんアイス持って来いなんて、なにごと?」
 咲折は、袋から次々アイスを出していく。
 ティミラは少し考えてから、その言葉を置いた。
「んー? 暑い中で食べるアイスは格別だし。
 あ、足りなくなったらうちの冷凍庫にも入ってるから、アイス」

 暑い中で食べるアイスは特別だから。
 沢山、一緒に食べるつもりで。無くなった訳でもないアイスを買って来てもらったが。

「……まあ、涼しくはなるだろう。ただ、熱中症にならなくてもお腹は冷えるよ。
 それに、これだけあれば足りなくならないさ……」
 咲折の的確過ぎる言葉にティミラが見れば、到底食べきれるとは思えない、テーブルの上に山積みとなったアイスタワーが白い冷気を漂わせていた。

 最低限以外のアイスは冷凍庫に詰め込んで。
 色々と話を振るティミラに対し、黙々とアイスを食していた咲折が、ふと気になった様子で閉め切られていた窓を見た。
「窓開ければ良いのに開けないの?」
 ティミラが反応する一瞬の間……咲折がそれに気づくよりも早く、
「……あ、そうか。それもそうだな……
 かわいい弟呼ぶのに気を取られてた」
 ティミラが立ち上がり、いつも通りの輝く眩しい笑顔で告げる。
「(かわいい弟って……王子顔の人に言われてもなんだか複雑だ……)」
 咲折に浮かんだ僅かな表情の揺れに、窓に向かったティミラが嬉しそうに告げる。

「なんだったら窓開けずに我慢大会っていうのも楽しいかもな!」
「楽しくない。…熱中症になったらティミラの所為にする」
「えーひどーい」
 飄々とした一連の言葉の向こう側。
 本来、面倒くさがりなティミラが、次々提案するのは咲折との時間を思って。
 様々に思いついた事を告げるのは、どれか一つでも自分の弟が興味を持ってくれたらと思って。
 それでも、現実は。
「酷くないさ。これが僕だからね」
「むう……」
 彼は、ツバキではなく、咲折として生きてきた。
 記憶を無くした五年の間に、それでも緩やかだが新たに己を成してきた。その間にも、咲折として堅実なパートナーと共に、確固たる想いや信頼も手に入れてきた。
 未だに思い出してもらえない事は辛い──それでも。
「あ、ちなみに夜にならないと直らないんだってエアコン。
 というわけでーもちろんいるよね? 夜まで!」

 それでも、ティミラはツバキという自分の弟を諦めない。
 ──何よりもツバキは、大切な家族であるから。

「え、夜まで? …暇なのかい? 君は」
「なんだったら泊まってっても構わない!」
 呆れたような咲折に、ティミラはまさに王子様スマイルでお姫様を迎えるように『さあ、この胸に飛び込んでおいで!』ばりの様子で両手を広げてみせる。
「泊まらない」
 返事は、即答。見事なまでの即答だった。
 ティミラは、広げた両手の行き先を失くしつつ……オーバーなまでの仕草で、咲折の前でがっくりと肩を落とした。


 今日の提案は、ほぼ全て棄却。
 次こそは楽しい一緒の時間を、という意欲も落ち着いた夜。
 ティミラは一人、エアコンが直った部屋で余ったアイスを静かに食べた。

 アイスは──何の味もしなかった。





『涼みたい? モール行くけど一緒に来る?』
 エアコンが壊れた本日。
 意識朦朧としていた胡白眼の元に届いた、精霊であるジェフリー・ブラックモアの連絡は、まさに天からの救いであった。
 ──空調が心地良い涼しさで利いたショッピングモールの中を歩く。
「(昼に食べた冷やし中華も旨かったし、ついて来て正解だな)」
 命からがら救われた白眼は平日で人もまばらな通路を歩き、ようやく一息。
 そうしてジェフリーについて行った先、彼が買物を終えて向かったのは広い本屋のテナントだった。

 何気なく雑誌を手に取るジェフリーから少し離れた所で、白眼は普段ならば全く無縁の女性向け雑誌の一冊に目を留める。
「(ウィンクルム特集……特別インタビュー?)」
「ああ、それ」
 怪訝そうに首を傾げた白眼の様子に気付いたのか、ジェフリーが側に来て雑誌を手に取り、そのページを開いてみせる。
 そこには『愛を育み強くなる!』という見出しと共に、ウィンクルムの日常がコメントを中心に、プライベートが迷子、と思わせる位に事細かに載っていた。
「たまに取材依頼があるらしい。
 A.R.O.A.の広報活動も兼ねてるんだろうねぇ」
 一瞬、ジェフリーの瞳がとてもつまらないものを見るように眇められた。

「俺達にもお鉢が回ってくるかもしれないよ?」
 それに気づかず内容を硬直するように凝視している白眼に、ジェフリーは先程の様子が嘘のように楽しげに話し掛けた。
 だが、返って来た白眼の言葉は。

「嫌です」

 それは強い意志を伴った完全なる拒絶。
 ジェフリーはそれに驚いた様子で白眼の顔を見やる。
 その視線にハッと我に返った様子で、白眼は慌てながらも言葉を探した。
「い、いえっ! 俺はつまらない人間なので話題提供できませんし!
 お、同じ依頼ならオーガの討伐に専念したいので……」 
「……ン。それはよかった。
 俺も目立つのは苦手でね」
 うろたえる相手の様子を見たジェフリーは、彼へじっと観察しなければ分からない程の無意識の安堵を添えて、ゆっくりと本に視線を戻した。
 そして再び、ジェフリーは雑誌のページを指で滑らせ捲って──ふと山羊の載った写真のページで手を止める。
 視線が止まった。
 ……それはまるで、心に残る、大切な記憶を追うように。

 不思議に思った白眼が、雑誌のページに『不思議動物園! 木登りヤギと間近でふれあおう』という文字を見つけ、何気ない様子で問い掛けた。
「ジェフリーさん、山羊好きなんですか?」
「──!
 アー……。まあ、ね」
 一瞬驚いたように瞬きをして。ジェフリーが、まるで油断し見せてしまった失態を取り繕うかのように、曖昧に言葉をぼかす。
 その様子に僅かな違和感を覚えつつも、白眼は言葉を続けた。
「俺はかわいいと思うんですが、羊好きに比べると珍しいですよね。
 どこが好きなんですか?」
 ジェフリーの指が、そっと写真の中にいる山羊の角をなぞった。
「そうだね……意外と優しい目元とか、見かけによらず器用なところ、かな」
 写真に向けられた優しげな眼差しに、白眼が先程の写真を見つめる彼の姿を改めて思い浮かべる。
「(なんだろう、さっきの表情……
 一瞬だけど心ここにあらずという感じだった、ような)」
「フーくんはやっぱりゴリラがお気に入り?」
「確かに任務でしたがゴリラは素敵な──え……?」
 気が付けば、密着を錯覚する距離にジェフリーがいた。

 至近距離。白眼の耳元で、そっとジェフリーが囁き掛ける。

「……猫のことも好きになってよ」
 胸が──どくんと跳ね上がる音が聞こえた。
「……ッだから! からかうのやめ……!」
 白眼は最後まで言葉を紡げなかった。
 ジェフリーは、そっと白眼の唇に指を当て。沈黙を諭すジェスチャーを伴い、その指の反対側を自分の唇に当て、にっこりと微笑んだのだ。
「他のお客さんも居るから静かに、ね」
 その仕草は何かを煙に巻くかのようで。
「……うう。暑さがぶり返した気がする」

 白眼はそれに気づかないまま……話題は、綺麗に逸れて隠された。





「暑い……」
 蒸し暑い灼熱の部屋から、李月が堪えかねるように呟く。
 その傍ら。
 相方のゼノアス・グールンは、それを気にせず李月に抱き着こうとして──鬼を思わせる形相により、心を力一杯に叩き伏せられた。
「なんだよ! 料理中じゃないだろ!」
 暑くたってじゃれつきたい──二人のルールはきちんと守っているのに!
 全身から訴えるゼノアスを余所に、李月は対処を巡らせた。
「(涼めそうな施設は人でごった返しだろうし……図書館は相棒が大人しくしてる訳ない)」
 そして、閃く。
「近くの森──あそこには川がある。そこに行こう」
「森? 一緒ならどこだっていいぜ」
「あそこには、川に大きな岩が天然の飛び込み台になった滝壺があるんだ。
 ……子供の頃、友達と皆で行って、僕一人で飛び込めなかった事があって」
 思い出の場所なんだ──李月が準備をしながら少し懐かしそうに告げた。
 その言葉を聞いたゼノアスは、嬉しそうに表情を緩める。
 ……大好きな相手の、思い出の場所を知れたのは、嬉しい。
 
「なぁ、この岩さっき見たぜ」
「……」
 しかし、いくら思い出の場所でも、その位置までは曖昧なのが人間というもの。
 その結果、完成したのは二人の迷子……
「ん? 水場のにおいがする。
 リツキ、こっちだ!」
 そんな李月の手を掴み、ゼノアスが勢い良く走り出す。
「お、おいっ! 茂みの中入るなって! は、はぐれ──……!」
 開けた景観に、李月はその目を見開いた。
 滝壺の水は透き通り、見下ろす飛び込み岩は大人になった今でも高い。
 そこは、正に記憶そのままの光景──

「やほーっ!」
 ゼノアスは水着に着替えて、滝壺へ躊躇い無くダイブした。
 恰好良く、ワイルドに──しかし、李月には……出来そうにない。
「俺の故郷にもこんな場所あったんだよなー! テンション上がるぜ!!
 気持ちいーぜ! 天国がオマエを待ってんだ! こいよ」
 李月の気持ちを察したようなゼノアスの掛け声。李月がその言葉にはっとする。
「(あの中には安らぎが……!)」
 李月は、準備運動をしながら心を落ち着けて──
 そして、一気に滝壺へと飛び込んだ。

 瞬間、李月が感じたのは激しい水音、そして上下が一気に分からなくなる感覚──
「(死ぬ……!)」
 混乱から、李月がとっさに死を覚悟した瞬間、強く手を引かれてその背が支えられた。
 水面に顔が出ると、そこにはゼノアスの姿。
「おいっ! なにパニくってんだよ、大丈夫か!」
 ──ゼノアスが、自分を助けて支えてくれたのだ。他には考えようもない。
 湧き上がる彼への頼もしさ。ゼノアスが精霊で良かったと思える安心感。

 顔を上げた水面は、太陽の光が煌きとても眩しかった。
 それは、過去に出来なかった事を、ゼノアスの力を借りて、成し遂げた瞬間。
「や、やった……!!」
 それは、一人で克服するよりも、遥かに嬉しい瞬間だった。

「オマエもやるじゃねーか。
 よし、もっかい行くぞ!」
「よし! 何度でも!」
 それからの李月とゼノアスは、全力で水遊びを楽しんだ。
 ゼノアスが、岩の上から両手両足を開いたまま滝壺へと落ちる。
 また、泳いでいる李月の足を引っ張ってみたり。
「ガボッ! やったな、お前! この……っ!」
 楽しくて、いつもは冷静な李月も、やられたらやり返す。
 お互いが、全力で悪戯されても愉快で仕方がない。
 ゼノアスは、その幸福を心の中で全力で叫んだ。
「(エアコンぶっ壊れて万歳だぜ! ひゃはー!!)」


 そして日も暮れて、楽しさの余韻を残しての引き上げ時──
「帰るのはいいけどよ。
 道、覚えてるか?」
「え……?」
 二人の中を沈黙が支配した。
「生きて……帰れるだろうか」
「いざとなったらおんぶしてやる」
「暑い、冗談じゃない」

 しかし、案の定。
 李月は道半ばで力尽き、ゼノアスのおんぶのお世話になって帰宅した。
 道中、会話は無かったが、それでもゼノアスは嬉しかった。
 こんなサバイバルの時間は、そして今日一日は、自分と李月を二人きりにしてくれたから。

 その表情は、その胸は。ずっと幸せで一杯だった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:李月
呼び名:リツキ
  名前:ゼノアス・グールン
呼び名:ゼノアス/ゼノ

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 七小町  )


エピソード情報

マスター 三月 奏
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月21日
出発日 06月29日 00:00
予定納品日 07月09日

参加者

会議室

  • [4]瑪瑙 瑠璃

    2016/06/27-01:55 

    毎年夏になると、エアコンに頼っていたのが裏目に出ましたね……。
    水分を取って、夜まで凌ぎましょう。

    改めましてこんばんは。
    神人の瑪瑙瑠璃と、精霊の珊瑚です。よろしくお願いします。

  • [3]咲祈

    2016/06/27-01:19 

    ティミラに呼び出された。
    なんでも、暑さを共有したいらしい。…うーん…

    …おっと。僕は咲祈で、今回はティミラだ。よろしくね

  • [2]胡白眼

    2016/06/26-22:17 

    暑いだけならまだしも、べっとりしたこの湿気には参りますね…。

    ……あ。胡白眼(ふぅ・ぱいいぇん)と申します。
    パートナーのジェフリーさんがモールへお出かけされるそうなので、涼みについていく予定です。
    昼はぜったい冷たいものをと決めています。そばにするか冷やし中華にするか…うぬぬ。

  • [1]李月

    2016/06/25-14:40 

    どうぞよろしくお願いします。
    ……暑い……


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