


君にとって、忘れられない日になるだろうか。
僕にとって、忘れられない日になるだろうか。
寂寥を照らすのは、闇に沈む黒き光。
君の心を抉る、無慈悲な刃。
振りかざし、笑いかける。
君はどんな道を歩んできたのだろうか。
光に満ち溢れていたのだろうか。
――だったら。
君を奈落まで突き落としてあげよう。
深淵から伸びる手に搦め取られて、堕ちてしまえばいい。
壊れてしまえ。
狂い、もがき、喉が裂けるほど叫んで、慈悲などないと思い知ればいい。
君の心を屠る白銀の刃に身を委ねてしまえ。
砕け散る、最期の瞬間まで。
ああ、なんと甘美なのだろう。
愛しい君が崩れる瞬間を、どうか僕に刻ませておくれ。
愛しい君が消える瞬間を、どうか僕の手に委ねてくれ。
泣いて――。
苦しめて、追いつめて――。
ねえ、聞いてくれるかい?
愛を歌うには満たされなくて。
恋をするほど切なくて。
守られるほど喜びに満たされるのに。
守りたいと願う心は捻じれてゆく。
――狂おしいほど君を愛しているよ。
頬を伝う涙も、君が愛しいから。
どんな過去も君の生きた時間。
絶望が未来へと続きますように。
未来が、僕の傍に巡りますように。
両手に抱えきれない孤独な闇が訪れますように。
ずっと、側にいられますように――。


『忘れられない日』がテーマであれば、どのようなプランでも大丈夫です。
過去の出来事を振り返りましょうか。
記憶の奥底に眠るトラウマを掘り起こしましょうか。
もしかしたら、忘れられない傷を抉られるかもしれません。
今日が、忘れられない日になるかもしれません。
どんな忘れられない日にしましょうか。
●
アレンジ、アドリブが多めに発生いたします。
寛容に、強い心で受け止めて頂けますと幸いです。
●
黒の書はダークなお話を想定してはいますが、必ずしも暗いお話である必要はございません。
ハッピーな忘れられない日を綴って頂いても問題ございません。
●
黒の書のご利用にあたり、レンタル料として1000Jrが必要です。
以前出した白の書と対を成すかもしれない、黒の書バージョンです。
黒い本に皆様のエピソードを綴っていくイメージで、
2ページ目は男性神人の皆様の忘れられない日を記させていただければと思います。


◆アクション・プラン
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
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先日のリズブールとの決戦が忘れられない。 自分達の実力で心の器を壊して戦った訳でもなく。 『デミ・ギルティにお膳立てしてもらわなければ倒せなかった』 内容的に結局奴の勝ち逃げ状態に近くてさ。 『オレ達の実力だけでは倒せなかった』って事実を覆す事も、もう出来ない。 更にオレは肝心の決戦時でも結局敵の一撃喰らって倒れただけ。 皆を護る盾として立ち続けることすらできなかった。 結局俺が倒れてから仲間を危険にさらし続けてたって事なんだぜ。 皆のお蔭で奴を倒せて良かったんだけれど。 己の不甲斐なさにもう悔しくて悔しくて。 思い出す度に超腹立たしい。 オレってまだまだ弱いんだと痛切に感じたぜ。 まだ努力が全然足りないのか。悩。 |
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忘れられない日 幼馴染に救われ、幼馴染を失った日 五つ年上の幼馴染、蛍(ケイ)は格好良かった 歌もギターも上手くて いつものように裏山で遊んでいた 二人で見つけた洞窟に、色んなガラクタを集め 音楽の話をして、二人で歌い笑って 急に空が黒くなり 獣のような咆哮がした そして、オーガは現れた 二人で逃げたけど、とても逃げ切れないと悟った時 俺は諦めた そんな俺の背中を熱い手が押して 俺は木の根元に出来ていた穴に落ちていた そのまま動くなと蛍が叫ぶ声がした そして、暗くなって 温かいナニカが落ちて来て 俺は気を失った 幼馴染は俺を落とした木の根の穴を守るようにして、息絶えていたという 俺は幼馴染の血で真っ赤に染まった手を握り 復讐を誓った |
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過去が? これに? …大丈夫だ (過去の自分の口調 EP36) 毎朝なにかの石像に祈りを捧げる村人 それを冷めた目で見る過去の自分 宗教めいた村な為、祈りを捧げるのは何も不思議ではない 明後日は精霊と契約する 契約するの緊張してるの? と自分に幼馴染の少女は笑いかける 「そうだ。明日デートしようよツバキ」 なんで? と問えば「分かんないかなぁ乙女心が」と返ってくる 彼女は別の村出身で、待ち合わせ場所を決めるようになる 次の日、約束の場所に向かおうとしたが、 道中、オーガに襲われた 軽い怪我だけで済んだけれど、 目を覚ました頃には総てを忘れていた (あの周辺にオーガがいたなんて聞いてない…) 好きかどうかなんて…もう、今更だ… |
●
悔しい……。
そんな思いを残しながら、セイリュー・グラシアは今日も眉根を寄せる。
つい先日の戦いだ。
Bスケールオーガ、リズブールとの戦いは、セイリューにとって忘れられない戦いとなった。
「今でも悔しいぜ……」
思い出すたびに、あの時の悔しさが蘇ってくる。
無論、これまでも悔しい結果となった戦いはあった。
けれど、ここまで尾を引いて、思い出すたびに暴れだしたくなる衝動を抱えることはそう多くはない。
それほどまでに後味が悪かった。
ラキア・ジェイドバインはぽつり、ぽつりと感情を吐き出すように言葉を紡ぐセイリューを静かに見つめる。
「あいつは強かった。でも、勝てないなんて思ったこと、一度もなかったんだ」
正しく言えば、勝てる糸口を探せると信じていた。
リズブールの強さの前に歯噛みすることはあったし、勝てるのだろうかと一瞬も迷わなかったわけではない。
だが、仲間がいたから勝てると思った。
幾度も対峙し、その度に逃げられはしたけれど。
必ずこの手で倒す。
リズブールを、自分たちの手で倒す。そう、決めていた。
それなのに。
「デミ・ギルティに御膳立てしてもらわなければ倒せなかった」
「うん……、そうだね……」
高位オーガが持つ驚異的な力を与えるオーラは、リズブールと対峙する際には一番厄介なものであった。
そのオーラを消滅させるためにも、心の器を破壊しなければ先に進めないと分かってはいたのだが。
そこまでの一手がなかなか届かず、交戦を長引かせてしまった。
挙句、リズブール戦の核となる心の器の破壊も、デミ・ギルティであるヒヅキが、リズブールを煽って自ら壊させたようなものだ。
心の器すら、自分たちの手で壊せなかった。
しかし、皮肉なことにその後の戦いは確かに、圧倒的に楽になった。
これまでダメージなど皆無だと思っていたものが、すんなりと通るようになった。
仲間との連携も、これまでにないくらい上手くいった。リズブール自身を倒すこともできたのだが。
「内容的に、奴の勝ち逃げ状態に近くてさ」
戦いには勝った。けれど、快い勝ち方ではなかった。
今でも、鮮血に染まったリズブールの姿を思い出して、拳を握りしめてしまう。
「オレたちの実力だけでは倒せなかった」
勝ちたかった。
正々堂々と勝負をして、心の器を破壊し、リズブールに真正面から勝ちたかった。
今でも、再びリズブールと戦いたい。心の器を壊し、一切の引け値なく互角の勝負を繰り広げたいと思う。
けれどそれはもう、二度と叶わない。
二度とあの狂気の鬼と対峙することはない。
だからこそ、戦いの内容に何一つ満足できないことが悔しくてたまらない。
一つくらい、妥協できるものがあれば少しは違ったのかもしれないが、それすらもない。
最後にリズブールの前に立った時のことが、苦い感情と共に呼び起こされる。
「肝心の決戦の時も、敵の一撃を食らってオレは倒れただけだった」
「セイリュー……」
仲間たちの盾となるつもりだった。
しかし、結果として、セイリューはリズブールの一撃に伏すこととなった。
ハードブレイカーと酷似した技を操るリズブールの強さに、膝をついてしまったことへの計り知れない後悔と口惜しさ。
その一撃がひどく重かったことを差し引いても、あの場面で、あそこまであっさりと戦線から引き剥がされてはいけなかったはずなのだ。
「みんなを護る盾として立ち続けることすらできなかった」
最前に立ち、仲間が最大限の力を発揮できるように立ち回ることこそがセイリューの望んだ役目だったのに。
だが、現実はあまりに無情だった。望んだはずの役目すら、果たせなかったのだから。
心なしか気を落としていたセイリューに、仲間がくれた言葉はせめてもの救いだったとは思う。
あの一撃は、セイリューだから受け止められたのだと。でなければ、もっと甚大な被害に繋がっていたと。
勿論、ラキアの力も大きかった。
だけど。
「結局、オレが倒れてから、仲間を危険に晒し続けてたってことなんだぜ」
そんなこと、許せるはずがない。
考えれば考えるほど、その瞬間が蘇って、瞼の奥に焼き付いた光景と、剥がれ落ちない感情とが入り乱れて震えてしまう。
「みんなのお陰でリズブールを倒せたけど……それは、良かったんだけど……」
セイリューが唇を噛み締める。
心の底から、こんなに悔しいと思うことなど、一体どれだけあるだろうか。
幾度となく戦場に足を向けてきた。悔しいと感じることは幾度となくあった。そのたびに鍛錬を重ねてきた。
自信があった。自負があった。
だから余計に――。
「己の不甲斐なさに、悔しくて……悔しくて……」
至極シンプルに考えた時、戦って勝つことは正義だ。勝てばすべてが正義になる。
だが、人が戦っていく以上。
人と同等、時にはそれ以上の思考を持つ相手と戦う以上。
勝つことが戦いの答えではないと改めて思い知る。
もしかしたら、清々しい勝ち方などこれから先、苛烈を極めて行くであろう戦いには難しいことなのかもしれない。
だからこそ。
「オレってまだまだ弱いんだと痛切に感じたぜ」
もっと高みを。
もっと強さを。
もっと――。
「うん。スッキリできない結果だったね……」
ラキアがゆっくりと口を開く。
「リズブールが関わる事件すべてに言えるけど、解決できてよかった、なんて思ったことは一度もないよ」
いつも心の中にわだかまりがあった。
なにか、大きなしこりを残して、すんなりと解決はさせてくれない。
突き付けられる感情の味に、苦く顔を顰めることが多かった。
「だけどね、セイリュー」
ラキアがそっとセイリューを抱きしめる。
「俺は、セイリューがアレにもう煩わされることがなくなることだけが救いだと思ってる」
「ラキア……」
リズブールと対峙した後。
セイリューは決まって悔しそうに顔を顰めていた。
そんな姿を見ていることが辛くなかったと言えば嘘になる。
けれど、いつもセイリューは前を向いているから、次は大丈夫だと思えた。
ようやく一つの胸のつかえが下りたような、そう言った意味での安堵はあった。
包み込むように抱き締めるラキアの胸に、セイリューは頬を寄せる。
「君が無事でよかったよ」
「……ああ」
癒し手として戦場に共に立ったラキアは、セイリューがリズブールの一撃に倒れたことを平然と受け止められるはずがなかった。
護りたい気持ちは同じ。
無事であってほしいといつも願う。
だから、ラキアもセイリューと同じように、できる最善を常に考えている。
「まだ、努力が全然足りないのか」
セイリューが呟く言葉に、ラキアは頭を振る。
「そんなことはないと思うよ」
高みを目指すことを怠ったことはない。
それを証明するのが――。
「先日の旧タブロス市街演習でも、手応えはあった」
「ああ……あいつら……」
演習だったはずが、実戦へと変わったあの日。
驚異的な強さを誇ったゼノアールとの対峙の時も、力は及ばなかった。
「あの時も、自分たちの手では倒せなかった」
セイリューが、思い出して顔を顰める。
ゼノアールとの戦いでは、心の器を壊すことはできたが、そこから先の追撃は叶わなかった。
シンパシー・リバレイトで一掃するのではなく、この手で――。
時間を稼ぐことが目的であったから、ある意味で作戦は成功したのだと言えたが、叶うなら、と考えてしまう。
ラキアは穏やかに微笑んで続ける。
「でも、俺は色々と貢献できたと思ってるよ」
ゼノアールの一撃は、仲間に甚大な被害をもたらした。
容赦のない重くのしかかる一撃で戦線を外されてしまった仲間たちの命を繋ぎ止めたのは、他でもないラキアだ。
ラキアがいなければと思うとぞっとする場面もあった。
綿密に立てた計画を力で覆された。強引なほど無理やりに、ねじ伏せられた。
その上、望んだ形では何ひとつ戦えなかった。
それでも、手応えはあった。戦える力があると思えた。
「俺たちは、無力じゃないよ」
様々な感情が入り乱れて、時としてそれは心を乱しはするものの。
まだ、戦える。
まだ、立ち止まってはいない。
そんな風に思える。
「これから先も、こんな思いをするのかもしれないけど、俺たちは俺たちに出来ることをやって行こう」
「そうだな」
少しずつ、進んでいくしかない。
急激に強くなることはできなくても。
再び、彼らのような高位オーガと遭遇し、打ちのめされたとしても。
「ちょっと楽になった。ありがとな、ラキア」
「ううん。俺は何もしてないよ」
ぎゅっと抱きしめて。
――本当に、君が無事でよかった……。
二度と思い出したくもない案件。
それでも、ふとした拍子に思い出してしまうのだろうけれど。
リズブールやゼノアールは確かに強かった。
けれど、勝てないとは思わなかった。
いつか高位オーガをも凌駕する力を持って、立ち向かいたいと切に願う。
今はただ、その戦いで傷付いた身体と心を癒したい。
●
過去を写し出す黒い本。
咲祈は黒の書を手に取り、訝しげにそれを見つめる。
「過去が? これに?」
知らない過去をも綴るという。そんなことが現実に起こり得るのだろうか。
不思議ではある。けれど、それらの細かなことは実に些細なことでもある。
「……咲祈、無理して読む必要はないよ?」
サフィニアは、咲祈が過去を垣間見ることを強く勧めたいわけではない。
「……大丈夫だ」
けれど、咲祈が望んでいるのなら、どこかに零れ落ちてしまった記憶を探るのもいいかとも思う。
「そっか、それならいいんだけどね」
薄く笑みを刻んで、サフィニアは頷いた。
咲祈が、黒いページをそっと捲る。
*
毎朝のことだ。
石像の周りをぐるりと人影が囲む。そして、それに向かって恭しく伏す。
あれは何の石像だろう。
あの石像に祈る意味が、どうしてもわからない。
宗教心の強い村だったから、それを別段おかしいとは思わなったが、どうしても、理解だけができない。
今日も、木の側でそんな村人の様子を冷えた目で見つめる。
(あの石像に祈れば、いいことでもあるのか……?)
村人が熱心にひれ伏す、その理由を考えながら。
「ツバキ!」
少女の声に目を向ける。
「こんなところでまたサボって」
「サボってない」
礼拝を怠ると言うのは、もともと熱心に崇拝する心があってのものだ。
ツバキには、その肝心の信仰心は村人から比べれば、幾許かは希薄。
それをサボっていると言われれば、サボっていないと言うのが当然正しい。
「じゃあ、逃げて来ちゃった?」
「は?」
悪戯っぽく笑う少女は、村こそ違っていたがよく遊びに来るツバキの幼馴染。
「契約するの、明後日でしょ?」
「ああ、そうだけど」
「だから、緊張してるのかな、って」
「別に、そんなんじゃない」
生まれついての神人だったツバキは明後日、適応したと言う精霊と契約することになっている。
顔も、名前も知らない精霊との対面にまるで緊張をしていないかと言われれば、答えは否だ。
だからと言って、この幼馴染にその緊張を知られるのも何となく嫌だった。
少女はふわりとした藤色の髪をやや弄んで思案顔をする。
「ねえ、ツバキ」
ツバキの目を覗き込んで、少女はぱっと笑った。
「明日、デートしようよ」
「なんで?」
「契約したら遊べなくなるじゃない」
「だからって別にデートなんてしなくても」
「もう!」
少女はむっとしたように唇を尖らせる。
その表情に、ツバキはそっと顔を背けるだけに留めて。
「分かんないかなぁ、乙女心が」
という言葉を聞き流した。
デート、と言われると少し照れくさいが、幼馴染とこれまでのように会うことは難しくなるかもしれない。
だからせめて、と思う。
「……仕方ないな……」
「ホント!?」
ぱあっと明るくなる表情。
少女の、そんな嬉しそうな表情は、嫌いではなかった。
待ち合わせ場所は、お互いの村のちょうど中間くらいの場所を定めた。
少し浮足立つ心は精霊との契約への日が迫っているからなのか。あるいは少女とのデートという響きへなのか。
その正体が分からないまま、翌日――。
幸いにも空の機嫌は良好。時間を確認してから村を出る。
精霊と契約をすれば、この辺りの景色を見ることは難しくなるだろうか。
考えながら足を進める。しばらく進んで、何か低く唸るような声が耳に届いた。
思わず、その唸りの原因を探すべく、周囲に視線を巡らせる。
少しして、ツバキを覆い隠すような影にはっとして目を向けた。そこには、狂気に色を染めるオーガの深淵の瞳があった。
高く、はるか頭上から剛腕と共に鋭い爪が降り落ちてきた。
「! ぐっ……!」
咄嗟に後ろにさがったのが功を奏したのか、爪はツバキの皮膚を掠めて切り裂いただけだった。
だが。
「っ……!?」
足が、動かない。
逃げなくてはいけないことは、本能で理解をしている。
この場に留まってはいけないと、警鐘を鳴らしてくるのに身体はまるで動かない。
せめて一歩、と思っても、まるで縫い付けられたように、ただの半歩ですら動かないのだ。
再び爪が振り下ろされる。
辛うじて動いた上半身は、動くことを忘れた下肢との不均衡に揺らいだ。そのまま、どさりと地面に倒れ込む。
風を切る音と、黒い影が視界の端から迫った。
一撃――。
頭部を殴りつける衝撃。
薙いだ方向へと吹き飛ばされ、身体は横へと回り、地面を転がる。
どしりと一歩を詰めるオーガに、反射的に身体を丸めて身を庇う。それが、今のツバキに出来る精一杯の抵抗と、防衛。
しかし、剛腕は容赦なくツバキの身体を殴り、切り裂き、文字通り殺そうとしているように思えた。
恐怖が喉元をせり上がってくる。痛みに朦朧としながら、この苦痛の一瞬が一刻も早く終われと願った。
けれど、現実とはあまりに残酷で。
地響きに似た地を這う音を全身で感じた。その音は、ツバキを通り越えてその奥――今しがたツバキが通ってきた道を進んでいく。
その行き先は、容易に察せた。
(村、に……)
ツバキの村へと群れを成し、駆け抜けていく。
痛みに震える身体を起こしながら、何が起きているのかを見定めるべく、首を捻り視線をさまよわせる。
北も、南も、東も西もすべて――。
火の手と黒煙と、けたたましく響く人の怒号。阿鼻叫喚の声。
「あ……」
村へ戻らなければ。
少女を迎えに行かなくては。
どうすれば――。
(俺が、神人……だから……?)
こんなところにオーガがいるなんて聞いたことがない。
聞いていない。
ならば、この押し寄せてくるオーガの群れは、ツバキが招いた災厄なのではないか。
「ち、違……あ、ああぁぁっ!」
思考が、爆発寸前まで追い詰められ、発狂したように叫んだ。
そして。
強い衝撃に打たれ、そのまま意識がぷっつりと切れた。
*
オーガの襲撃を聞き付けてやってきたウィンクルムが、掃討に当たる。
だが、既に絶望的な状態だった。
サフィニアは思わず目を背ける。直視に耐えられない惨状だ。
「……、……」
声が、聞こえた気がした。
辺りを見回しても、誰も生きているとは思えないような気配ではあったが、声が聞こえた気がしたのだ。
――気のせいかな……。
歩き出そうとした時、再び、微かな声が聞こえた。
周囲を探して、そして、見つけた。
「大丈夫!? 今助けるから……」
「行かないと……」
「え?」
「……待ってる……」
ぽたりと流れる赤い雫。
這うようにどこかへ向かおうとするその人は、けれど半ばで倒れ込んで動かなくなった。
――どこかへ、行こうとしてる……?
けれど。
――だめだ。こんな怪我で行かせられない。
動けるはずすらないのだ。それを、起き上がって向かおうとする、その執念。
何か事情がるのだろうとは思うが、サフィニアには彼を見捨てることはできなかった。
幸い、ウィンクルムがオーガと交戦中だ。今なら彼を連れて退避することができる。
担ぎ上げて、少しでも遠くへ。安全な場所へと逃げる。
横たえられる場所を探して彼を下ろすと、とりあえず間に合わせ程度の応急処置を施した。
傷そのものは決して深くはない。けれど、出血はかなりあった。
それでも、命を繋いだことに安堵する。
しばらく様子を窺いながら彼が目覚める時を待った。
どこかへ向かいたがっていたようだったし、できるなら叶えたいとも思ったから。
不安に逸る気持ちを押さえながら、見守って。
微かに睫毛が震えると、ゆっくりと瞼が持ち上がる。
「……気が付いた……?」
サフィニアは、彼を覗き込んで問う。
「誰……?」
「俺はサフィニア。君は?」
「――……」
しばらくの沈黙。
そして。
「わからない……」
「え?」
「ここは……、君は……、……」
「大丈夫? 落ち着いて思い出して……」
彼は――。
「僕は、誰……?」
記憶のすべてを失っていた。
*
黒の書に綴られる文字を追っていた咲祈が、ぱたりと本を閉じた。
――咲祈は死なずにすんだけど……彼女さんは……。
あの時の咲祈の行動が、サフィニアはようやく理解できた。
待ち合わせていた少女の元へと向かおうとしていたのだ。
けれど、彼女はもう……――。
「咲祈。聞いてもいいかな」
咲祈が黒の書をそっと置いて、視線だけをサフィニアに向けた。
「この頃の咲祈は好きだったのかな……彼女さんのこと」
幼馴染以上の感情があったのか。
それとも……。
思って。
「……好きかどうかなんて……もう、今更だ……」
「そっか」
好きだったとしても。
その気持ちに気付いたところで彼女はもう、いないのだ。
咲祈の言う通り、もう今更。
サフィニアは咲祈に言葉に、今は曖昧に笑って見せるだけに留めた。
●
五つ年上の幼馴染。
蛍は格好良くて、ずっと憧れていた。
歌も、ギターも上手くて、蛍が奏でる音は、どこか人を魅了する力があった。
蒼崎 海十はいつも蛍の隣にいて、蛍も海十の隣にいた。
2人で遊ぶときは決まって裏山。偶然見つけた洞窟にガラクタ同然の宝物を集めて持ち込んだ。
大好きな音楽の話をして、取り留めもなく歌って。
そこには、夢が溢れていた。
光が、絶え間なく溢れているようで。
――いつかプロになりたい――。
蛍はそんなことを口にしていた。
その声が紡ぎ出す旋律に耳を傾けて。
その指先が爪弾く音の滴に酔いしれた。
いつか。
蛍の歌が世界中で聞けるといい。
その日が訪れることを、疑うこともなかった眩しい記憶の日々。
その日も、いつものように裏山で蛍と過ごしていた。
集めた希望の玩具を弄びながら、いつもの洞窟で時間も忘れて夢中になっていた。
「そろそろ帰る?」
蛍に訊ねた。
茜色に染まり始めた空を見遣って、蛍が頷いた。
「時間なんてあっという間に過ぎるよな」
楽しい時間は、瞬きをするくらいの速さで脇を通り抜けて行く。
また、明日――。
いつもの台詞。いつもの笑顔。
けれど。
赤と青の空に、墨を落としたように急激に茜色が黒くなった。
程なくして、けたたましいほどの咆哮が、辺りに響き渡る。まるで、獣のように。けれど決して獣ではないその、不穏なハウリング。
「なんだ……?」
咄嗟にあたりを見回した。
何か。
いつもと違う何かが、その日の断片にはあった。
「海十、逃げよう……」
「なん、で……」
聞きかけて、海十の後ろに目を向ける蛍の顔が、硬く青ざめていることに気付いた。
そして、反射的に振り返ったことを後悔した。
(こいつは……)
目が合った。
高く伸びる黒い生き物と、不気味に伸びる影。
(オーガだ……!)
理解してからでは遅い。
オーガを認めた海十はそのまま、動けなくなっていた。
呆然としながら、けれど次をどうするべきかを懸命に考えて。けれど。
(どうすればいい……?)
何ひとつ思い浮かばなかった。
ぐっと、腕が強く引かれた。
「海十!」
蛍の力に引っ張られ、ようやく我に返ると、何とか動いた身体で懸命にオーガから逃げた。
わけもわからず逃げて、逃げて、逃げて。辺りの音が消滅して、呼吸だけが世界の音になる。
顔が熱い。吹き出す汗と、迫る恐怖に、時間も場所も忘れていた。
空気を求めた立ち止まった足。もう……、オーガは追ってこないはずだ。
「足を止めるな、海十!」
「え……」
振り返って、眼前に迫りくる黒い影を呆然と見つめていた。
(ああ……逃げられない……)
今を避けたところで、オーガから逃げ果せることなどできない。
もう、走ることにも疲れてしまった。
目を閉じて。
風を鋭く切り裂く音がして。
一拍――。
「……っ!?」
背中を強く押され、勢いよく転がった。
天地も分からないほど転がって、身体中をぶつけながら、何かに吸い込まれるように落ちた。
背中には、熱い、熱い温度だけが残っている。
「そのまま動くな!」
蛍の声にびくりと身を震わせて、暗闇の中じっと、息を殺していた。
小刻みに震えていると、生温い液体が海十の顔に、手に、首に――落ちてきた。
触れて、ぬるりとするその液体の正体。
「ッ、……、ッ……」
意思とは無関係に吐き出しそうになる叫びを、口を押えて必死に殺した。
ガタガタと震える身体。糸が切れるようにあっさりと手放した意識。
どれほどの時間が過ぎたのか。
意識を取り戻した海十の視界には、見知らぬ人の顔があった。
オーガは殲滅され、辺りには平穏が戻っていた。
身体中の不快感に手を遣り、ぬるりとした感触に息を止めた。
「……これ……」
手が真っ赤に染まっている。
海十を救出した見慣れぬ彼らは、重々しく口を開いて言った。
――木の穴を守るようにして……――。
蛍は、息絶えていた。
木の穴に吸い込まれるように落ちて、蛍が叫んだあと、ずっと……。
「――――――ぁッ!!」
赤く染まった手のひらを握りしめて、声にならない声を喉が裂けるほど叫んだ。
――殺す。
蛍を殺したオーガを。
必ず、復讐してやる――!
*
――どこへ行こう。
フィン・ブラーシュは、考えながらふらりと入った食堂で適当なものを注文した。
何を注文したのかすら、覚えていない。
それほど、頭の中は靄がかかり不鮮明で、重かった。
兄との家督争いなど、望んでなどいない。
身内で争わなくてはならないことにも嫌気がさしているが、それがよりにもよって兄となど。
――冗談じゃない。
テーブルに運ばれてきた料理を、何ともなく口に運ぶ。
味も、匂いも、熱さも感じない。
喧しい周囲から、フィンだけが切り取られたように音もなく。声もなく。
最低限を詰めただけの荷物を視界の隅に捉えながら、フィンの抵抗は些細なものなのかもしれないと思う。
でも。
――もう、二度と戻らないと決めたんだ……。
暮らすには不自由のない家。
生きるには不自由すぎる家。
何も感じない料理を口に運んだ、幾度目かには手を止めていた。
喉を通っていく感覚だけが、ひどく不愉快だった。
「街がオーガに襲われてるらしい!」
虚無だったフィンの世界を一瞬で切り裂いた、その言葉。
投げ出すように身体が動いていた。
急いで街へと戻る。途中、街から逃げ出してきた人々とすれ違いながら、時には肩を掴まれ、強く制止をされたが、それらをすべて振り切った。
街には。
その先には父も、母も兄もいるのだ。
黙って見ていられるはずがない。
街へ戻ってからも、制止の声はフィンの背中に投げられたが、構わず丘の上の屋敷を目指した。
屋敷は、最後に見た時とはまるで違う、荒れ果てた姿をしていた。
扉を潜って、惨状が飛び込んでくる。
「父さん……っ! 母さん……!」
逃げ出そうとしていた半ばだったのか。
父も、母も石へと変わり、動かなくなっていた。
呆然とその光景を見つめながら、はっと我に返る。
「兄さん……」
兄の姿は、そこにはなかった。
とりあえず、探せそうな場所から片っ端から扉を開く。
獣の咆哮のような、そんな声が時折聞こえる。おそらくオーガはまだ屋敷の中にいるのだろう。
分かったところで兄を探すことをやめることはできなかったけれど。
幾つめかの扉を開いて、ようやく兄の姿を認めた。
「兄さん、大丈夫……」
「来るな!」
鋭い一声に足を止める。
倒れ込んだ兄の周りは黒い染みがいくつもできていた。
兄自身も赤黒く染まっていて、ひどい怪我をしていることはすぐに分かった。
「兄さん、早く逃げよう」
フィンは兄にすぐさま駆け寄ると、肩を貸すように担いだ。
数歩、歩きだした刹那。
フィンの背中に激しい痛みが走った。
「……っ!?」
「フィン!」
前へと倒れそうになるのを堪えて、兄が制止した理由を悟った。
――オーガが、いた……?
「ひとりで逃げろ、フィン!」
「そんなことできない……!」
ひとりで逃げれば助かるかもしれない。
ひとりで逃げれば兄を見殺しにすることになる。
そんな選択肢を、なぜ兄は投げかけるのか。
「できるわけない! 兄さん、一緒に逃げよう」
悲鳴にも似た声に、兄は苦しそうな顔をするだけだった。
引きずるようにその場からのろのろと進む。
オーガは容赦なく二人を襲い、その度に兄の盾となった。そうすることが、生き残る最善だと思ったから。
どこに潜んでいたのか、オーガの数は玄関までくる頃には増えていた。
一体だけならあるいは逃げられたかもしれないが、取り囲まれるように迫るオーガの数に心が折れてしまう。
身体中を走る痛みと、絶望的な現実。
オーガの群れが二人を目掛けて襲い掛かる。
その攻撃を受け止めようと、フィンがオーガと兄の間に割って入った。
けれど。
「っ――!!」
突然、強い力で腕を引かれ、後ろへと倒された。
振り上げられたオーガの爪が振り落とされる。
思わず、目を瞑った。
一拍――。
ぽたりと、生温い何かがフィンに落ちてきた。
頬に、身体に、手に伝わるぬるりとした何か。
「……?」
目を開けると、そこには苦悶の表情の兄がいた。
オーガの爪が突き刺さっている。
「兄さん……、兄さん!?」
縋るように手を伸ばすと、兄はその腕を掴んだ。
「フィン。生きるんだ」
「なに、言って……」
扉を開く。
「フィンはフィンの人生を歩め」
そう言って、兄はフィンを突き飛ばした。
再び扉に縋ろうとしたフィンを拒むように、兄は扉を閉ざす。
「兄さん――っ!!」
激しく扉を叩いても、その扉は開かれることはなかった。
中から、無情な音だけが響く。
その音から逃れるように耳を塞いだ。
*
大切な人に繋ぎ止められた命。
負い目を感じて。
彼のために生きて。
――生きていていいのか?
何度も投げかけた疑問符。
「フィンと一緒にいられて幸せだ」
「……うん、俺もだよ、海十」
抱き締めてくれるその温もりが、生きていくことの答え。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 真崎 華凪 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | ハートフル |
| エピソードタイプ | EX |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,500ハートコイン |
| 参加人数 | 3 / 2 ~ 3 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 06月09日 |
| 出発日 | 06月18日 00:00 |
| 予定納品日 | 06月28日 |

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