


今日は、君にとって特別な日になるだろうか。
今日は、僕にとって特別な日になるだろうか。
出会った瞬間から、ずっと特別だったけれど。
いつしか当たり前になっていたこと。
君が隣にいることは奇蹟に等しい。
そんな風に考えるようになったのは、いつからだっただろう。
星の数ほどある出会いの中で、君との縁を結べたのは偶然だろうか。
考えて、考えて――でも、答えなんてどこにもない。
偶然も必然も、運命ですらもが関係ない。
ただ。
君が生まれたことに感謝をする。
君と出会えたことに感謝をする。
君の隣にいる日常に感謝をする。
ああ、なんて愛しい日々。
どんな言葉で君を祝おうか。
どんな顔で君を見つめようか。
どんな笑顔を見せてくれるだろう。
幾千の愛しさを折り重ねて、向かい合う。
ひとつの想いを込めて、伝えたい言葉がある。
ねえ、聞いてくれるかい?
愛を紡ぐには早すぎて。
恋をするほど切なくて。
守るほど愛しさは募るのに。
守られてはじめて気づく。
――君が大切だよ。
一緒に泣いて、一緒に笑っていこう。
どんな未来も君と創っていく。
不可能が希望へと変わりますように。
希望が、願いを届けますように。
両手に溢れるほどの幸せが訪れますように。
ずっと、側にいられますように――。


『特別な日』がテーマであれば、どのようなプランでも大丈夫です。
誕生日をお祝いする。
出会った日を祝う。
もしかしたら、恋人になった日かも。
今日が特別な日になるかもしれません。
どんな特別な日にしましょうか。
●
アレンジ、アドリブと言った要素が多大に含まれると思われます。
寛容に受け入れて頂けますと幸いです……!
絶対にこれはしないで! と言うものがございましたら、文字数を割いていただくことは大変心苦しいですが、ご記入ください。
放っておくと勢いで泣き出しますので。主に精霊さんが……!
●
プレゼントを一つ用意していただきます。
そのため、少し高価ではありますが1000Jrの購入代が必要です。
お返しプレゼントをご用意される場合は、二つ分で2000Jrです。
●
白の書ではありますが、必ずしも幸せなものでなくても大丈夫です。
アドリブの傾向としましては、まるっとひとつ、描写がぶっこまれる感じです。
(章立てた時に、1章分は話を捏造されると思ってください)
真っ白な本を、ウィンクルムさんの特別な日で綴らせてください。
アドリブ具合が不安な場合は、女性側の白の書をチラ見していただけると、
雰囲気は伝わるかなと思います。
文字数が通常よりも多くなりますので、
ぶっこまれた話に泣かない強いお心をお持ちください。


◆アクション・プラン
信城いつき(レーゲン)
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「雨やどり」?うんやるやる! レーゲンなんだか色々考え込んでるみたいだから少しは気晴らしになるかな カーテン閉めて、キャンドルの明かりの中、二人寄り添って まるで世界中に二人だけな感じ。 ぽつぽつと何でもない会話をする 気がついてたの?俺が色々考えてたこと。 (もしレーゲンがオーガ化してしまったら、とか言いたくない) そっか…レーゲンもだよね。 顔に出さないように手を強く握りしめるから分かるよ キャンドル終わっちゃうね。 雨はいつかやむよね……だから雨やどりもいつか終わるんだ 大丈夫、雨がやんだらちゃんと歩き出すよ だからあともう少しだけ そっとレーゲンの手を握る。少しでも気持ちが楽になりますように。 |
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フィンは覚えてないかもしれないけど…去年の今頃だったか、初めて激しく喧嘩をした 「一緒に出掛ける人が他に居ないの?友達とか恋人とか作った方が良い」と言われ腹が立って その喧嘩がきっかけで…俺はフィンが好きなんだと自覚したんだ だから、俺にとってはささやかな記念日 学校帰りにケーキを買って帰る 時刻は15時前 フィンは仕事中のようだ…珈琲を入れて、ケーキを並べ…ティータイムの用意が出来たら、部屋にフィンを呼びに行く …準備に気を取られて、制服着替えるのも忘れてた ケーキが食べたかったんだ、いいだろ? …記念日なんだ 俺にとっては大事な ああ、本当、俺はこういう時に嘘が吐けない フィンを好きだと気付いた記念日…悪かったな |
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■深夜に気づき朝一に乗り込む トキワ!空けるなら一声かけて …予定だけでも教えてよ (寂しいだろ。昔は泣いて待ってたんだ…なんて言えない) 拗ねてない。食べてるか心配なんだ 仕事、まだあるの…? でもそれ 根っからの絵描きなんだね あ、これこの間作ってみたケーキ。よかったら食べて(抹茶ケーキ置き 机下の銀の輪に気づき)何これ?指輪? 左手)小指にぴったりだ え!?いいよ!高価な物だし でも悪いよ ? モデル…本当にするなんて(依頼履歴7 だって!?見られるのは苦手で…トキワの眼差しが 好きな事 この庭での思い出を考えオカリナ吹き ■繊細な緑一色の濃淡の水彩画 すごい僕じゃないみたい サインと日付書いて。またしてもいいから なにそれ(笑 |
●
去年の今頃、喧嘩をした。
何気ない一言に、激高してしまった。
その理由に気付いたのはすぐ後のことだったけれど。
*
今日は、蒼崎 海十にとってささやかな記念日だ。
ペンを手に、はかどらない授業。
(早く終わればいいのに……)
今日に限ってはそんな悪態を、毎時間のように繰り返す。
ノートを広げて、授業を書き写さなければならないのに、どうしてかペンが勝手に『ケーキ』とか、『コーヒー』とか、挙句に『フ』とまで書いてしまって、慌てて消す作業を繰り返す。
(俺、なにしてるんだ……)
ケーキもコーヒーも百歩譲るとして、最後の一文字は何事だろう。
机に突っ伏して、青い空を見上げる。
(この青空のせいだ。きっとそうだ)
全ては空が青くきれいなせい。
どこかの誰かの目の色を思い出して、うっかり書いただけ。そう言い聞かせて、終鈴を待つ。
放課後の海十は、忙しく荷物をまとめていた。級友の誘いに、まるで靡かなかったかと言われれば、多少は揺らぎもした。
が、今日はやりたいことも、好きなことも、とりあえずは後回しだ。
それ以上に大切な用があったから。
フィン・ブラーシュは一年も前のことを憶えていないのかもしれないが、海十にとって蔑ろにはできないこと。
あくまでも、冷静を装って丁寧に誘いを断り、荷物を手に学校を出る。
あの日の喧嘩は一年を過ぎようとしている今も、鮮明だ。
フィンの言葉に無性に腹が立ったことも。
その時の気持ちも。
その日作ってくれたご飯が美味しかったことも。
海十には、フィンほどの料理を作ることは今のところ難しい。だから、記念日を祝うために、ケーキを買って帰る。
時刻は15時、少し前。
おやつにはいい時間だ。
*
旅行雑誌のルポをまとめていた手を止めて、時計に目を向ける。
海十が帰ってくるにはもう少し時間がありそうだし、そろそろ夕食の買い出しに出掛ければ、ちょうどいい時間。
そう考えていると、扉を打つ音がした。
扉を開けて、そこにいる海十に、少しだけ驚いた。
「海十?」
帰ってくるのはもう少し後だ、とつい今しがた思ったところだったから。
「おかえり、早かったね」
「仕事中?」
「大丈夫だよ、ちょうど休憩にしようと思ってたとこ……あれ? 海十、制服着替えてないけど……どうしたの?」
いつもは帰ってきたら早々に着替える海十が、珍しく制服姿のまま。
海十はそのことに今気づいたらしく、少し焦った様子だ。
「……忘れてた」
「え、忘れてた?」
これに驚いたのはフィンだ。
着替えるのを忘れるなんて、そうあるものではない。まして制服など、動きづらいことこの上ないのだから、さっさと着替えてしまいたいのが本音だ。
「どうして?」
と、つい畳みかけてしまったのだが、海十が恨めしそうにフィンを見ている。
それ以上聞くなと言いたげだ。
苦笑いを取り繕って笑顔を海十に向ける。
「着替えておいで」
着替えを促して、先にリビングへ向かう。
そこで初めて、海十が着替え忘れた理由を理解した。
――ケーキ? それにコーヒーまで……。
リビングに用意されたケーキと、湯気の立つコーヒー。
帰ってきてすぐに海十が用意したのだろう。でも。
「今日、何かのお祝いの日……だっけ?」
着替えてリビングに来た海十に、肩越しに尋ねる。
「別にそういうわけじゃないけど」
「じゃあ、どうして?」
言って、しまったな、と思いながら海十の方へ身体を向ける。
つい、理由を尋ねてしまうが、先ほど海十に恨めし気に見られたばかりだ。
「ケーキが食べたかったんだ、いいだろ?」
海十をじっと見つめて、それが嘘だと気づくにはあまりに容易だった。
他でもない海十のことだ。嘘かどうかくらいの判断はつく。
指摘をするのは簡単だが、海十がわざわざ嘘を吐くのだから、ここは敢えて聞かないほうがいいのだろうと、浮かんでは消える言葉を飲み込む。
「俺も食べたかったんだよね、ケーキ」
テーブルについて、海十が座るのを待ってから淹れたてのコーヒーに口を付ける。
「また上手くなった?」
「そうかな」
コーヒーを褒めれば、海十は照れくさそうにケーキを突く。
「海十が淹れてくれるなら、俺もケーキを作っておけばよかったかな」
「別に、作らなくてもいいだろ」
「うん、まあ、このケーキも美味しいからいいけど」
ケーキを口に運んで、やはり少し浮ついた感じのする海十が気になる。
聞かない、と言うのも大人の対応かもしれないが、こうも落ち着かないのはどうやっても気になる。
――さて……どうやって聞こうかな。
*
「今日の夕飯は何がいい?」
食器を片付けながら、海十に尋ねる。
決めた献立があったわけではなかったし、それなら海十の食べたいものをと思ったのだが。
「なんでもいいよ」
「あ、それオニーサンが一番困る回答だって分かってて言ってる?」
本当に困るかと言われると、さほどと答える。
「じゃあ餃子とチャーハンにする?」
「いいけど、なんで突然の中華推しなんだよ」
「だったらパスタにしようか?」
「別になんでもいいって。フィンの作るものなら」
――まったく、海十はいつも……。
何気なく言っている言葉なのだろうけれど、こういう不意打ちには弱い。
片付けを終えて、海十の隣に座る。
「海十は無意識にそういうこと言うよね」
「そういうことって?」
聞き返されると、今までの一連の流れからの、フィンがうっかりときめいてしまった瞬間までを語らなくてはならなくなるので、「なんでもない」とかわすだけにする。
さすがにそれを口にするのは恥ずかしい。
「夕飯の買い出し、行くんだろ? 俺も行っていい?」
「いいよ」
――なんだろうな……この何とも言えない距離感。
海十がフィンとの距離を詰めたがっているような、そのくせわざと距離を取るような。もどかしくて、微妙で、曖昧。
「海十。本当にケーキが食べたかっただけ?」
「……そう言っただろ」
「うん、でもあれは嘘じゃないかなってオニーサンは思ったんだけど」
海十の目を真っ直ぐ見つめる。
困ったように膝を抱えて、海十は顔を伏せた。
「あれ、そんなに困ることだった?」
何も、意地でも聞きだそうというわけでもない。言いたくないのなら、聞かないということも、フィンは弁えている。
「本当に、俺はこういう時に嘘が吐けない」
「海十?」
どこか悔しそうな声に、焦る。
「……記念日なんだ」
「え?」
「俺にとっては大事な」
先程尋ねた時は何も言わなかった。
なのに、これだ。
フィンの思考回路が止まりそうになる。
海十はフィンの分もケーキとコーヒーを用意した。つまるところ、それはフィンに関係することでもあるということで……。
「海十、ごめん。オニーサンにも分かるように説明して貰ってもいいかな」
もう、これは考えるより聞いたほうが絶対に早い。
白旗を上げるがごとく、フィンは説明を求めた。すると、海十はやはり、少し悔しそうで、恨めしそうにも見えて。
――この顔、可愛くて好きなんだけどなあ……。
と、少しあさってなことを考える。
「フィンは、覚えてる? 初めて喧嘩した時のこと」
言われて、記憶を探る。
「あの時、フィンに必要とされてないみたいで、悲しかったんだ。その理由を考えてたら、気付いた」
何を?
尋ねかけて、海十の顔が赤く染まっていることに気付く。
「フィンのことが好きだって、気付いたんだ。だから、今日はその記念日……」
恥じらいながら、顔を真っ赤にして、今日は好きだと気づいた記念日だ、と。そんなことを言われて、さらりと流せるほどフィンも大人にはなれず。
海十の腕を取って、引き寄せる。抱き締めて、口付けて。驚いている海十の耳元に、そっと声を落とす。
「海十って……ズルイよね」
「ズルイってなん……」
ぐっと力を込めて、その身体を抱きしめる。
「これ以上、俺を惚れさせてどうする気?」
どれだけ好きになっても、新しい一面に心が乱される。
切ない。苦しい。甘い痛みを伴って、それが心地いいと思う。
「一回くらいなら許してあげようかと思ったけど、海十が悪い」
啄むように呼吸を塞ぐ。
ゆるゆると縋る海十の手を搦め取って、暫くキスを繰り返した後。
「俺が悪いって、どういうことだよ」
海十はやはりどこか恨めしそうにフィンを見つめていた。
――そんな顔で言われても説得力ないんだけどなあ……。
「オニーサンも、そんなに我慢強くないってこと」
「意味わかんないんだけど」
あくまでも、それは海十に限っての話。
「それより、海十って記念日とか憶えてるんだね」
「……悪かったな」
完全にむくれた海十に、笑みを零す。
「……夏の初めに、またお祝いしないとね」
「夏の、初め……」
少し考えて、悟ったのか海十が頬を紅潮させる。
「今度は、二人の想いが通じ合った記念日。これからたくさん記念日を作ろう」
「うん……」
その日の夕飯は知ってか知らずか、一年前と同じメニュー。
●
目が覚めたのは、偶然。
けれど、トキワが戻っていないことに気付いたのは必然。
昔は泣いて待っていたこともあった。
そんなことを、言えるはずはなかった。
(明日、文句言いに行こう……)
さすがに、もう泣くことはなかったが。
それでも胸の奥に湧き上がる、虚ろな気持ちを今はゆっくりと押し留める。
その後は気になって、上手く寝付けなかったけれど。
トキワが戻ってきたことが分かると、面白いほどすんなりと寝付けた。
朝、一番にトキワに文句を言いに行くつもりだ。
*
酷い音だ。
ドアを叩く音が響く。
――こんな時間に誰だ……。
トキワは枕に突っ伏し、そのまま居留守を決め込む。
だが、ノックは止むことがない。
もはやこれは、ノックという名の暴力だ。
ドアを開ければ済むのかもしれないが、起き上がる気にもなれない。今しがた浅い眠りについたところなのだ。
それを、今も続くこのノックは早く起きろと言わんばかりに浅い眠りに揺蕩う意識を引き上げた。
「トキワ!」
ドアの向こう側にいる人物が、名前を呼ぶ。
――セラ坊……?
声に、渋々起き上がる。
開いたドアの向こう側から、セラフィム・ロイスが顔を見せる。とほぼ同時に口を開いた。
「空けるなら一声かけて」
「開口一番それかよ、セラ坊……」
日差しは容赦なく降り注ぎ、朝陽はずいぶんと目に痛い。
「とりあえず入れよ。目がおかしくなる」
「それはトキワが寝不足なだけだよね」
「しょうがないだろ。泊まり込み前提や筆が乗らんもんは」
ふらふらと生活しているのは今に始まったことではない。
不規則な仕事柄、どうしても留守がちであったり、一日の時間の長さがおかしかったりする。
「……予定だけでも教えてよ」
セラフィムの言葉に、トキワが目を向ける。
一瞬で消えたが、そこに見えた表情はとても寂しそうな色をしていたように見えた。
「拗ねてるのか、セラ坊」
頭をぽす、と撫でて笑えば、セラフィムはふいと顔を背ける。
「拗ねてない。食べてるか心配なんだ」
そういえば、最後に食事をしたのはいつだっただろうか。
昨日? 一昨日?
自問自答をしながら、とりあえず今何かを胃に流し込んでおけばいいかと、キッチンに目を向ける。
そもそも、何かあっただろうか。
――コーヒーしかない、とか言ったら怒るんだろうな、セラ坊は。
ともあれ、コーヒーを淹れにキッチンへ向かう。
「仕事、まだあるの……?」
「いいや」
マグカップを手に戻ると、セラフィムは不思議そうにキャンバスを見つめている。
「依頼や売込みしなきゃ暇してるさ」
「でもそれ」
描きかけたままのキャンバス。
――そうか。
画家が描いているのは、おおよそ商売品であることが多いが、必ずしもそうとは限らない。
絵描きは、絵を描くことが好きでそれを生業としている。何となく描いてみたら売れた、なんて、奇跡に等しいことはほとんどの場合、起こり得ない。
つまるところ。
「趣味」
あっさりと言ったトキワを、セラフィムは見上げる。
「描かんと落ち着かん」
「そういうものなの?」
「俺はな。他の奴がどうかは知らん」
納得したように、セラフィムが再びキャンバスに目を向ける。
「根っからの絵描きなんだね」
キャンバスの前に座って、筆を取る。
無心になって絵に向かっている瞬間は思いのほか心地よく、没頭すれば何時間でも向き合っていられる。
「あ、これこの間作ってみたケーキ。よかったら食べて」
セラフィムはそう言って抹茶ケーキを置く。
「ああ」
返事はするものの、作業中は上の空になりがちだ。
人の気配はないに越したことはないのだが。
――まあ、セラ坊ならいいか。
不快なわけではなかったから、特に何かを言うことはやめて筆を走らせる。
重ね、混ざり合って色を変える、そんな様子にセラフィムが釘付けになっている。
「そんなに面白いか?」
「え? うん。トキワの絵ってすごい」
「そうか?」
すごいと言われて、その通りだと言うつもりもなく。
描いても描いても足りないと思うのは、絵描きゆえだろう。終わりのない欲に、向上心が引き出される。
「ここの色とか、すごくきれいだ」
満足そうに褒めたあと。
セラフィムはキャンバスから視線を外し、部屋を眺める。
絵具の跡。スケッチとクロッキーを見比べて、色を付けてあるものに殊の外興味を示す。
筆を置いて、冷めかけたコーヒーを煽る。
部屋をセラフィムの気が済むまで眺めて、机のあたりで視線を止める。
「なにこれ?」
机の下に屈みこむと、何かを手に首を傾げている。
「なんかあったか?」
「……指輪?」
「あ?」
思いがけないものを言われて、セラフィムに目を向けた。
「独り身にそんなものあるわけ……!」
ないはずなのだが。
――あ、そういえば。
心当たりがまるでないわけでもない。
「小指にぴったりだ」
セラフィムが指輪を左手に滑らせて眺めている。
「……やるわ」
その姿に、面影が重なる。
その姿を、見たかった人がいた。
「え!? いいよ! 高価なものだし」
「昔渡し損ねてしまい込んだやつ。捨てるのももったいねぇ」
捨ててしまうには、あまりに大切な記憶。
「でも悪いよ」
「菓子はもらった。親子そろって世話になってる。不満か?」
「不満ではないけど……」
気が引ける、と言いたげだ。
何か理由があれば、いいのだろう。
少し、考えて。
「こうしよう」
「?」
セラフィムが気兼ねなく受け取れる理由付け。トキワにも、利のあること。
*
ロイス家のテラスで、セラフィムが居心地悪そうに身を固くしている。
「そんながちがちのモデルがどこにいる」
「だって!?」
「お前は石膏像か。自然にしてろ」
いつか、トキワがセラフィムをモデルに、と言ったことがあった。
セラフィムはモデルなどできない、と自信なさげだったが、トキワから見れば、十分な逸材だった。
トキワの描く世界の片隅には、いつもその人がいて。
その人は穏やかにその世界に溶け込み、幸せそうに見えた。
「見られるのは苦手で……」
それに加えて、トキワの真剣な眼差しが、セラフィムをなおさら固くさせているのだが、それをどうにかしてほしいと言えるはずもない。
画家はいつでも、被写体に対して誠実で真摯なものだ。
「好きなことしててもいい。とりあえずリラックスしろ」
「好きなこと……」
考えて。
この庭に散りばめられた思い出を逡巡して、ふと。
「オカリナ吹いてもいい?」
「――ああ」
頷くと、セラフィムはオカリナを静かに奏でる。
独特の柔らかな音色が空気を震わせ、旋律へと変わる。
「そうだ」
セラフィムの緊張がほぐれていくのが分かった。
一筆目は、さっと走らせる。
どこかあどけなさを残す顔立ち。そのくせ、大人びた表情を見せる。
睫毛の長さも、鼻筋も唇も。
瓜二つの顔。
愛してやまなかった、愛しい人の顔――。
セラフィムをモデルにすることに、少しの躊躇いはあった。
違うのだとどれほど理解をしたところで、気持ちは思考ほど冷静ではなかった。
――俺の愛した顔、その子供。お前にしか出せない姿……。
セラフィムに重なる面影。
愛しいと。
切ないと。
今もどこかで焦がれる想い。
繊細な線で。
燻る想いを落とし込んだような色彩で。
穏やかな色で、遠い日の幻に重ねる。
オカリナの音色が止んで、セラフィムが近寄るのを、トキワが静かに制した。
「セラ坊。もう一曲いいか?」
「いいけど」
淡い慕情に彼を重ねていたことを知られたくなくて、とりあえずの完成までは見せないことにした。
別に違う誰かを描いたわけではない。けれど、誰をも重ねなかったわけでもない。
線を少しずつ変えて、重なった想いを隠すように色を交えていく。
おそらくは誰の目にも、それはセラフィムに映って見えるだろう。
小さく苦笑いを漏らして、最後の色を乗せて筆をおく。
見計らったのか、セラフィムが声をかけた。
「トキワ、出来た?」
「ああ」
セラフィムに仕上げたばかりの絵を見せる。
緑一色で描いた水彩画。
「すごい……僕じゃないみたい」
さすがに少し、どきりとした。
やはり途中で見せなくて正解だったかもしれない。
何より、こんなにセラフィムが喜ぶとは思わなかった。描き出された姿に、セラフィムは目を輝かせている。
「……ま、帰る目測はつけとく」
「え?」
「セラ坊が拗ねないように」
「拗ねてないって言っただろ」
頭をぽふ、と撫でると、セラフィムが絵の、空いた場所を指差した。
「サインと日付書いて。またしてもいいから」
「記録にか?」
笑って、サインを入れる。
「あ」
日付を書き込もうとして、気付いた。
――今日は……ソフィと別れた……
「どうかした?」
「あ? ……いいや」
そっと日付を書き入れて。
――記憶の上書きか。
「今日は、セラ坊のモデル記念日だな」
トキワの言葉に、セラフィムはきょとんとした。
そして。
「なにそれ」
花が綻ぶように笑う。
●
雨が降る。
心に言い知れぬ不安を抱えて、晴れやかな色を覆い尽す。
そんな時は、明かりを灯して二人きり。
他愛もない話を繰り返して、取り留めのない時間を過ごして、雲間に覗く太陽のようなものになればいいと思う。
いつかしたように。
時々するように。
今は足を止めて、少しの屋根を借りて。
――気持ちが安らぎますように――。
*
「久しぶりに『雨やどり』しようか」
レーゲンが信城いつきを見てそう言えば、いつきは表情をぱっと明るくした。
「『雨やどり』? うん、やるやる!」
嬉しそうに頷いたいつきに、ふわりと笑って、カーテンを閉める。『雨やどり』は二人の合言葉。
果物型のアロマキャンドルを灯し、そっと互いに寄り添う。
まるで世界に二人だけ。
そんな錯覚を起こす静寂と、緩やかに流れる時間。
特別なことをするわけではない。
ただ、他愛のない話しをするだけ。
「今日は少し寒いよね」
いつきがレーゲンに、さらに身を寄せる。
肌寒さに、自然と温もりを求めるかのように。
「もっと側においで。一緒に温まろう」
人の温もりとは、どんな高価な衣服よりも温かく、安らげる。
ぴたりとくっついて。
いつきは目を伏せて記憶を辿る。
まだレーゲンに話していないこと。最近の、当たり前の時間に落ちている景色の切れ端を探して。
「この間、公園に行ったら子供たちが木の下に集まってたんだ」
そう。
公園で小さな子供たちが集まって、そわそわと上を見上げていた。
「なにかあったの?」
いつきを覗き込んで問うレーゲンに、うん、と頷く。
「ボールが引っかかったらしくて、取れなくて困ってたんだって」
「ああ、よくあるよね」
風船が引っかかったとか。紙飛行機が引っかかったとか。
木にはいろんなものが引っかかる。
「それで、取ってほしいって言われたんだけど」
いつきは突然むぅ、とむくれる。
レーゲンが首を傾げると、不満げに言った。
「届かなかった」
「……え」
「あとちょっとだったんだよ」
吹き出しそうになったレーゲンは、いつきの隣でふるふると肩を震わせている。
木はそんなに高いものではなく、手を伸ばせば届きそうだったのだ。
だが、残念ながらあと少しが届かなかった。
それが何となく悔しかった。
普段なら特に気にしないのだが、期待に満ち満ちた目で見られた上に、届くと思っていただけに、何となく恥ずかしかったということもあった。
いっそ、今のレーゲンのように笑ってくれたなら、なんとでも返せたのだが、「頑張って」とか言われると、何とも言えない気持ちが込み上げる。
「レーゲン、笑いすぎだよ……」
「ごめん。そんなことでむくれるいつきが可愛くてつい……」
届く届かないは別の問題として、そのことににわかにショックを受けているいつきが、レーゲンにはどうにも可愛い。
「それで、どうしたの? いつきのことだから、どうにかして取ってあげたんだろうなと思うんだけど」
「うん、棒を探して、突いてたら落ちた」
「なるほど。子供たちも喜んだんじゃない?」
「そう! すごい喜んでくれて! やっぱり子供って可愛いよね」
その時のいつきの姿が目に浮かぶようだ。
子供たちと一緒に遊んだのだろうな、と容易に想像できる。
「そういえば、通りに出来たお菓子屋さん……」
思い出したようにレーゲンが言う。
「あそこ、時々行列になってるのを見かけるけど、美味しいのかな」
まだ開店したばかりで物珍しいのか人が多く、もう少し落ち着いてから、と思っていることもあっていつきもレーゲンも店に入ったことがない。
いつきは興味津々な様子で、店の前を通るたびに気にはなっているのだけれど。
「もう少し落ち着いてから一緒に行ってみよう」
店自体が大きくないこともあって、すぐに手狭になる。
スイーツならいつきが作ってしまいそうだが、買ってくるのも楽しい。
他にも、些細な出来事を話した。
今日の夕飯は何にするか。
明日の予定はどうするとか。
本当に、ごく些細なことばかりだった。
そんな会話の中で、いつきが向ける笑顔にレーゲンはふっと目を細める。
ひとしきり笑って、静寂に包まれると、
「少しは気が紛れた?」
そう尋ねてみれば、いつきは不思議そうな顔をした。
その言葉の意味するところ。
いつきが、何かをずっと考えて、悩んでいるということ。
「気付いてたの? 俺が色々考えてたこと」
「分かるよ」
レーゲンが薄く微笑む。
いつきが、良く笑っていた。いつも以上に笑顔が多かった。
本当ならば、それは喜ぶべきことなのかもしれないが、いつきがよく笑うということ。それは――。
「心配かけまいと一生懸命笑うからね」
そんなこと、しなくてもいいのに、といつも思う。
心配は、かけられるくらいの方がいい。心配をさせてもらえることは、実際この上ない喜びだ。
「そっか」
言って、いつきもレーゲンに曖昧な笑顔を向けた。
「……レーゲンもだよね」
と。
ぽつりと言葉を落とす。
「私も?」
反芻して。
瞳を伏せた。
同じだった。
いつきも、レーゲンも。
「顔に出さないように手を強く握りしめるから分かるよ」
「……そうか。私もまだまだだね」
苦笑い混じりに言えば、レーゲンが手を重ねる。
無意識の癖というものは、本人には分からずとも、他人にははっきりと分かってしまうもの。
ましてそれが、ずっと傍にいる大切な人であればあるほど。
労わる気持ちが、嬉しくありがたい。
*
ずっと気がかりだったことがあった。
怨嗟の金平糖の一件から得た情報。精霊のオーガ化――。
それは思っている以上に衝撃的で、どこかで安心していた心を震撼させるには、十分だった。
まさか、自分のパートナーがオーガになってしまったら……。
思っては否定をして、否定をするたびに不安になる。
もしも。
信じてはいるがもしも。
(レーゲンがオーガ化してしまったら……)
――私がオーガ化してしまったら……。
もしも、黒い霧に取り込まれてレーゲンがオーガ化してしまったなら、一体どうするだろうか。
怖くてたまらない。
真実を受け入れる自信がない。
いつきがレーゲンを失うかもしれないことも。
レーゲンがいつきを傷つけるかもしれないことも。
可能性はゼロではない。何一つ、大丈夫だと言えない不安定な感情。
言葉にすればもしかしたら楽になれるのかもしれない。一緒に、道を探せるのかもしれない。
けれど、それを言葉にできないのは、口にした途端に真実になりそうで。
大切な人を傷つけてしまいそうで。
とても、言えなかった。
だから『雨やどり』をしたのだ。
少しでも気を紛らわせるために。少しでも、想いを重ね合えるように。
降り落ちる雨が、一刻でも早く上がるように、願って、祈って。
全てのウィンクルムに訪れた恐怖。
それは、二人にとっても同じこと。だから寄り添って。だから迷う。
もしもその時が訪れたら――。
自分たちはどんな答えを導き出すのだろう。
その時に立ち向かうために、今はただ、そっと屋根を借りる。
*
「キャンドル、終わっちゃうね」
いつきがアロマキャンドルをぼんやりと眺める。
その横顔が寂しそうで、胸を締め付けられる。
「雨はいつかやむよね……」
レーゲンに身を寄せて膝を抱えるいつきが、とても苦しげに見えた。
「だから、雨やどりもいつか終わるんだ」
突然の雨を凌ぐために、屋根を借りる。
晴れ空を待ちわびて見上げる空がどんなに灰色でも、いつか青く色を変えると知っているから、待っていられる。
けれど、心の雨は本当に上がるだろうか。
泣き出した心の空模様は、世界が描き出す圧倒的な色のように青くなるだろうか。
考えて、それでも答えはなかった。
ただ一つ言えるのは、人の心に降りしきる雨は、自らの手で晴らしていかなければならないということ。
それだけは変えようのない真実に思えた。
「大丈夫、雨がやんだらちゃんと歩き出すよ」
あともう少しだけ――。
苦しそうに呟くいつきの声。
無理に雨を止める必要はない。
無理に踏み出す必要もない。
だから、やんわりと声をかけた。
「いつき」
レーゲンがいつきに包みを差し出す。
「これ、プレゼント」
柔らかく微笑むレーゲンに、いつきは微笑み返して包みを開ける。
「キャンドル……新しいの?」
「うん。終わりそうだったから、新作買ってきたんだ」
世間の喧騒から切り離しながら。
二人きりの世界で、キャンドルを揺らして、取り留めのない会話を繰り返す。
互いを感じるための時間。その空間。
「また何かあれば、いつでも『雨やどり』しよう」
止まない雨に立ち止まったとしても、それが二人なら、立ち止まることも悪くないと思えるかもしれない。
いつきがレーゲンの手を握る。
(少しでも気持ちが楽になりますように)
レーゲンが、いつきの手を握り返す。
――少しでも、彼の気持ちが楽になりますように。
同じ思いを抱いて。
伝わる想いに、じんわりと胸が熱くなる。
雨は、きっといつか上がる。
それまでは、もう少し、このまま――。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 真崎 華凪 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | ハートフル |
| エピソードタイプ | EX |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,500ハートコイン |
| 参加人数 | 3 / 2 ~ 3 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 04月19日 |
| 出発日 | 04月27日 00:00 |
| 予定納品日 | 05月07日 |

2016/04/26-23:57
2016/04/26-23:56
いつきさんとレーゲンさん、よろしくお願いします!
俺達もプラン完了しました。
どうなるか…少しドキドキします。
2016/04/26-23:55
2016/04/24-00:31
2016/04/24-00:30
蒼崎海十です。
パートナーはフィン。
セラフィムさん、トキワさん、よろしくお願いいたします!
特別な日…そういえば、去年の今頃って…。
フィンは知らないと思うけど、俺にとっての特別な日を、祝えたらなと思います。
よい一時となりますように。
2016/04/22-23:04
:トキワ
(煙草吸い)久しぶりに帰って着てみれば・・・
ああ。神人のセラフィムはいつも居るな。俺の話。もう一人の精霊トキワだ。どうも
ま、出発はできると思うし、プランも既に完成済み。ゆっくり待とうかねぇ
・・・どうでもいいが。
『いつかやろうと思ってたけどできる機会が来ないから特別な日にしてみた』だと
背後談。俺としては首かしげるがな(ぷは)感謝しないでもない

