


●デミ・ギルティの忘れ形見
君は久々のオフを、楽しくイベリンで過ごしていた。
花と音楽の都は、色とりどりの花に包まれ、楽しげな音楽がそこかしこで演奏されて、春真っ盛りである。
ふと、君は道端の花に気を取られてしまい、パートナーとはぐれてしまった。
「あれっ……」
周囲を見回すも、行楽日和で人がごった返す観光都市では見知った顔であっても見つけるのは難しい。
君は困り顔でキョロキョロと首を振りながら、歩き出す。そのうち、良く分からない路地まで出てしまった。本格的に迷子になってしまったようだ。
「参ったなぁ」
「おやおや、ウィンクルムじゃわ。片方しかおらぬがの」
ころころと鈴を転がすような笑い声が石造りの建物の壁に響いて、君は肩をビクつかせながら振り向いた。
銀髪の少女と女性の合間にある若い女が立っていた。
君の誰何に、女は首を傾げる。
「んー、誰であってもよかろうに。おうそうじゃ、お主には、これだけがわかれば良かろう。わしはマントゥールの手の者じゃ」
君は一気に青ざめる。トランスしたいが、ここにパートナーはいない。
女は腹を抱えた。
「あっはっは、いい狼狽えようじゃ。愉快愉快。そう恐れずとも良い。わしは面白いことがあればそれで良し」
そして彼女は香水瓶のようなものを取り出し、たまご型のポンプを握った。ぷしゅうっと紫色の煙が君を包む。
とっさのことで思いっきり吸い込んでしまった。
「おおー、これはとあるデミギルティ様より賜りし妙薬じゃが、なかなかどうして、効果は覿面じゃったのう」
女は何度も頷く。
「なにを言って……!?」
君は声を荒らげようとして驚愕する。声が甲高い。それに少し視界も低いような……?
慌てて自分の体を見下ろすと、服装まで女子高生のソレに変わり果てていた。
「これはのう、女子高生に変身できる薬じゃ。二日もすれば元に戻るが、それより早く戻りたければ、お前の相方と口と口で接吻をせよ。……とはいえ、そのナリでは、相方はお主のことをお主だとは思わんだろうなぁ」
ケラケラ笑いながら女は路地を出て行く。
思わず走って追いかけたが、あっという間に彼女は人混みに消えてしまった。
大通りのショウウインドーに自分を映す――髪と目の色は同じだが、やはり髪型や体型、服装に至るまで女子高生に成り果てていた。
「服装まで……なんつー薬だよ……」
君は落胆する。これではまるで別人だ。こんな姿では、パートナーは到底信じてくれないだろう。
どうしようとオロオロする君は、タイミングがいいのか悪いのか、今この瞬間探しまくっていたパートナーを見つけてしまった。
「あ」
さあ、どうする。


●概要
急に女子高生になった。キスしないと元に戻れない!
●状況
どちらかが女子高生になっています。
女装ではなく女体化であり、服もブレザーかセーラーか、とにかく肉体も含めてハイティーンです。
髪型も女の子として不自然じゃない長さです(ヘアアクセもついているかもしれません)
パートナーは「あなた」を探しています。急に見知らぬ女子高生(あなた)に出会っても、「あなた」だとは認識できません。
どれだけ親密度が高くても、「愛の力でどんな姿をしていても自分だと彼は分かるんだ!」はナシです。
パートナーと口と口でキスをすれば、服装も肉体も全て元に戻れます。
自分だと言葉を尽くして説得するのか、見知らぬ女子高生としてキスをねだるのか、もう時間が解決するのを待つのか、はお任せします。
●ジェール消費:イベリンまでの交通費で500ジェール消費しました。
お世話になります。あき缶です。
>とあるデミギルティ様より賜りし妙薬
実はこの「とあるデミギルティ」とは「担ぎ屋・レイヴ」のことですが、もう故人ですので、どうでもいいことですね。
最後の最後まで要らんことをして消えていく輩でございますね。


◆アクション・プラン
叶(桐華)
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僕そのデミギルに凄く心当たりがある にしても…(硝子の前でくるくる)僕もなかなか可愛いじゃないか これはぜひ桐華さんを誑かして遊…僕への愛を確かめるしか無いね! 唸れ僕のフェイクスキル! 探しにきた桐華さんと遭遇して超絡む、うざいくらい絡む 僕だとは言うまい ちょっと遊ぶくらい良いじゃない。そんなにその人のこと大事なんですかぁ? って、うわ…近い近いそんな怒らなくても 仕方ない種明かしだ 僕だよ、叶だよ。見えないだろうけど 色々あって2日はこのままなんだって 別に信じてくれなくてもいいけど…ちゅーすると戻るらしいよ? 2日待つか、ここでするか どっちが良い? …選べないか。仕方ないなぁ 胸倉掴んでちゅー。これで戻るかな? |
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何で俺の名前。 「どこかで会ったっけ?」 「クロちゃんのことも知ってんの? あんたと全然見た目違うけど」 俺と同じくらいの身長で、男で。筋肉質でフードに口布の黒尽くめだよ? ……うん。特徴上げるだけで怪しい。 ちょっと契約破棄したくなった。(げんなり んで、「なんで人の精霊だって言い張るの?」 理由あるなら話ぐらい聞くけど。 マントゥールねえ? 無表情っぷりは確かに。でも前と違って更に面影がないし。 「キスは無理だけど、二日で戻るんならいいんじゃない?」 成り切りか、本当に本人か。わかんないけど。 「真面目だね」(小さく笑う 「二日ぐらいなら付き合うよ。それなら(本人でも)安心だろ」 じゃ、デートと行こうか。(手を差し出す |
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セーラー服で女体化ですか。これは…困りましたね。 でもまあ二日すれば元に戻るなら、何とかなるでしょう。 …そう思うしかないですよね。 あ、一太!僕、アオイです。 まあそんな反応になりますよねえ。 女の人が変な薬のような物の瓶を開けたらこうなって……(と、説明) 口にキスするか、二日たてば治るそうなんですが。 あ、信じませんか。そうですよね。 まあいいです。 この前のレストランみたく、どこでもよければよかったんですが。 そうしたらクマで練習してる一太でも…。 そこで信じるんですか。 いや、さすがにあなたのファーストキスは…。 だってそうじゃなきゃクマとキスしないでしょって。 ほらもう騒がない。 (手を掴み)行きますよ? |
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☆女子高生 ・金髪で耳元二つ結び ・セーラー服 ・158cmで美少女 ・真面目な委員長風 ☆心情 「うぅ…どうしよう… でもカズちゃんなら直ぐに気付いてくれる、よね… あぅ、だけど、ちゅーなんて…(赤面」 ☆行動 ・遭遇後呼び止め気付いてくれると信じて話しかける ・気付かないのでショック ・話そうとするが精霊が断り離れるので追いかけようとしたら躓く ・躓くが精霊に助けられ腕を引っ張られ前に倒れた拍子に事故ちゅー 「か、カズちゃん!ユズだよ、分かる!? ……ホントだよっこんな姿だけどユズなの! なんで、信じてくれないの…?(泣きそうな顔 あっ、待って、カズ…きゃぁっ!?(ちゅっ (色々疲れ戻ったと同時に気絶し精霊におんぶされ帰宅」 |
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足元スースーする…早いところ元に戻らないと… ハル、こっち!…いや誰ってテオドアだよ! 冗談な訳あるかって! お前の教科書の登場人物が何故か全員闇の力に目覚めてたり、 石膏像の写真に体書き足して艶かしくしてることとか、 ハルの部屋入って右の本棚奥の二重板に 一昨日2点のテスト隠したのとか知ってるんだぞ! 確かに今回は運がよかっただけだよな…気をつける。 方法は聞いてはいるんだけど…その…キスって… ごめん、やっぱ無理だよな!2日間どうにか耐えるよ。 悪いな迷惑かけて、俺大丈夫だから… 迷わず口にするとかお前ちょっとは躊躇えよ! 落ち着け、俺が女子高生の姿だったからハルはそうしただけで! …泣きたい気分なのは何でだろう |
●事故ではあるものの
イライラしながら、十六夜和翔は周囲を眺め回しては走っていた。イライラというよりは焦っている方が近いかもしれない。
「ったく、ユズの奴!」
思わず口をつくのは、急に行方をくらませたパートナーへの悪態である。
「なぁんではぐれちまうかなぁ!?」
こんな広くて人で沢山のイベリンでは、小さな西園寺優純絆は紛れてしまって、見つけられそうにもない。
あーもう、と頭をかきむしりかけた和翔を、高い声が呼び止めた。
「カズちゃん!」
声の方を振り向けば、金髪のセーラー服美少女がおどおどしながらも、微笑んでいた。
だが、見知らぬ女子高生に微笑まれても不信感しか無い。和翔は剣呑な目を彼女に向け、誰何した。
「……貴様は誰だ」
「ええっ」
がーんと頭上に大きなフォントを浮かべ、美少女は涙目になった。
「か、カズちゃん! ユズだよ!」
と必死に訴えるも、和翔が知る優純絆は、金髪なのは同じだが、もっと小さくて……そもそも女装はしているものの男だ。
「あ゛? ユズだぁ?」
故に、返答は非常に不審をたたえた険しい声になる。
「貴様、俺様を騙そうたって騙されねぇぞ」
低い声で威嚇するように言われ、美少女――正真正銘、優純絆なのだが――はアワアワと首を振りながら、和翔にすがりつこうとする。
「ホントだよっ。こんな姿だけどユズなの!」
だが、愛らしくても赤の他人である女子高生にいきなりしがみつかれようとされた和翔は、マタドールよろしくヒョイッと身軽に彼女をかわす。
「ふぇ……」
まさかこんなに拒絶されるとは……、優純絆の顔が泣きそうに歪んだ。
「なんで、信じてくれないの……」
ぽつんと呟く声は震えていた。
(うう、カズちゃんなら直ぐに気付いてくれるって……思った……のに…………)
うつむいてしまう優純絆には気づかず、和翔はそっぽを向き頬を染めながら、
「そもそもユズはそんじょそこらの女より可愛……って何言ってんだ俺様は!?」
とがなっている。
勢いに任せてちょっとデレられたのだが、心のなかが暴風雨な優純絆は気づけなかった。
そのまま、和翔は『と、兎に角俺様は忙しい! 他を当たれ!』と叫んで、身を翻そうとする。
「あ、待って、カズ……!」
折角和翔を見つけたのに、このまま雑踏の中に放って置かれるのは困る。イベリンは広い。
もう二度と見つけられないかもしれないと思うと、優純絆は居ても立ってもいられなかった。
優純絆は大慌てで、和翔を追いかけようとするも、いきなり動き出そうとしたので心が急きすぎ、足がもつれてしまう。
「きゃあっ!!」
このままでは顔から石畳に激突してしまう――!
「あぶねえ!」
彼女の悲鳴に思わず振り向いた和翔は、とっさに女子高生へと手を差し伸べる。
そのまま彼女の手をぐっと掴んで引き寄せた拍子に、彼女の唇と和翔の唇とがくっついた。
――戻りたければ、お前の相方と口と口で接吻をせよ。
偶然ではあるが、元に戻る条件を満たした瞬間、女子高生は和翔の見知った西園寺優純絆に戻る。
「!? っ! ……ユズ?」
信じられない展開に、和翔が恐る恐る覗きこめば、やっぱり正真正銘見紛うことなき優純絆だ。
「つ、かれたぁ……」
色々あった後でホッとしすぎたのだろう。優純絆は安堵の息を吐くなり、気絶してしまった。
「な、なにが……なん……」
呆然としつつも、とにかく往来の中で座り込んでいる訳にはいかない。和翔は神人を背負うと帰路につく。
しばらくして、和翔はそっと自分の唇に手を当ててみる。
「お、俺様、ユズとキス…………やっべぇ、嬉しい……」
にへと緩む顔のまま、和翔は歩き続けるのだった。
●困りますか?
アオイは途方に暮れて、自分を見下ろした。
「セーラー服で、女体化ですか……」
至極落ち着いているが、自分のことである。
急に性別から年齢まで何もかも変化したのだから、もう少し慌ててもいいと思うのだが、アオイはどうにもこうにもいつでも冷静沈着というか、何事にも動じないというか、何でも他人事のように捉えてしまう性格であった。
「まぁ、二日すれば元に戻るなら、何とかなるでしょう」
うんと頷き、アオイは歩き出す。あまりにも平然に見えるが……。
「そう思うしかないですよね」
と呟く辺り、諦めのようなものも多分にあるようだった。
しばし歩いたアオイは、見知った兎耳を見つけ、目を輝かせる。
「ったく、どこ行ったんだよ……」
と顰め面でキョロキョロしているのは、アオイの契約精霊の一太だった。
「あ、一太!」
と声をかけるものの、一太は怪訝そうだ。
「はい?」
ずいぶんと他人行儀の返事をして、まじまじとアオイを見つめている。
「僕、アオイです」
「アオイ……という名前なのか? 俺の探しているアオイと一緒だな。すごい偶然だ」
と言い、それから一太はへにょと困ったように耳を下げた。
「だがすまない、俺はあなたにいきなり名を呼ばれる理由がわからないのだが」
「まあそんな反応になりますよねえ」
アオイはウンウンとまるで、科学実験の結果を確認しているような口ぶりである。
一太は、見知らぬ女子高生が一人したり顔なので、途方に暮れていた。
無下にする訳にはいかないが、アオイが見つかっていない以上ここで油を売っているわけにもいかず……。
「あの」
「女の人が変な薬のような物の瓶を開けたらこうなって……口にキスするか、二日たてば治るそうなんですが」
「…………トラブルに巻き込まれたのか?」
一太の反応は至極一般的であった。誰だって往来で急に見知らぬ人に呼び止められ、荒唐無稽な話をされては、こんな反応にもなる。
むしろ、一太は『危ない人だ』と思って無視して逃げない辺り、親切に対応している方である。
「あ、信じませんか。そうですよね」
アオイはウンウンとまた頷いた。
「気の毒だが、俺にはどうすることもできないな……警察にでも」
一太はこれ以上彼女に応対している暇はないと判断したのか、それとも面倒に巻き込まれたくないと思ったか、公的機関にアオイを任せようとした。
だが、そうやって会話を終了させようとする一太の言葉を、
「まあいいです」
とアオイは遮った。
「この前のレストランみたく、どこでもよければよかったんですが。そうしたらクマで練習してる一太でも」
「ん? レストラン?」
一太は不思議な女子高生の言葉を聞きとがめた。
先日、そういえばキスを迫られるニンニク料理店に行ったばかりだ。
「クマで練習って……アオイ? アオイか!」
「そこで信じるんですか。さっきからそう言ってるじゃありませんか」
急激に一太がアオイの言葉を信用し始めたので、アオイはちょっと呆れたように肩をすくめた。
「な、なんでそんな恰好……」
泡を食ってアオイのセーラー服を指差す一太に、アオイは呆れ返る。
「それもさっき言いましたよ。聞いてなかったんですか? だから女の人が……」
「聞いてたよ! って、じゃあさっきのキスすると治るって話も本当……」
腕組みして急に考え込み始めた一太を、アオイは心配そうに見つめた。
「いえ、その二日もすれば……」
アオイが長考に沈む一太を慮り、言葉を継ごうとした瞬間、一太はガバリと顔を上げた。
「し、仕方ねえからしてやるよ、キス」
アオイは目を大きく開くと、眉を下げた。
「いや、さすがにあなたのファーストキスは……」
遠慮をしようとした途端、一太は噛みつく。
「な、なんで初めてって知ってんだよ!」
「だってそうじゃなきゃクマとキスしないでしょって」
お見通しですよ、と言うアオイの顔はすっかり保護者のそれである。
「だから、いいです」
と無碍に断るアオイに、一太は目を見開き食い下がる。
「だってそのままじゃ困るだろ、ふ、風呂とか、トイレとかっ」
「困りませんよ……」
「困んねえって、なんでだよ! 困れよ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ一太の手を掴んで、セーラー服の女子高生は随分と大人びた口調で言った。
「ほら、もう騒がない」
手を掴まれ、頬を赤くして一太は羞恥からか黙る。確かに衆目は集めつつあった。
「行きますよ」
奇妙な手つなぎデートが始まった。
●女の子だから……俺だから? まさかね
(足元スースーする……)
女子高生の格好は、どうにも落ち着かない。テオドア・バークリーは困惑を思い切り顔に浮かべて、早く元に戻りたいと切に願う。
縋るように周囲を見回し、テオドアは救世主の顔を見つけ、大声で救世主の名前を呼んだ。
「ハル! こっち!」
若い女子に急に親しげに名前を呼ばれ、ハルトは首を傾げた。
(誰だっけ……この間のカラオケ合コンの女子だっけ?)
思いだそうと、彼女をハルトは上から下まで眺め回す。ロングヘアで、制服の着こなしは真面目。
(ん?? これ、どこの制服だ?)
思い出せない……。ハルトは首を捻る。
(テオ君のねーちゃんズに似てなくもねーけど…………制服着てるわけねーし)
だめだ、やっぱり思い出せない。素直にハルトは彼女に尋ねた。
「どちらサマー?」
「いや誰ってテオドアだよ!」
ツッコミよろしく叫ぶ女子高生に、ハルトは笑うしかなかった。
だって目の前にいるのは女の子だ。テオドアは正真正銘男子だったはずだ。小学校時代から知ってるのだから間違いない。
「まーたまたご冗談を」
「冗談な訳あるかって!」
必死にテオドアは食い下がる。
「お前の教科書の登場人物が何故か全員闇の力に目覚めてたり、石膏像の写真に体書き足して艶かしくしてることとか、ハルの部屋入って右の本棚奥の二重板に一昨日、二点のテスト隠したのとか知ってるんだぞ!」
黒歴史や現在進行形の秘密まで往来で大声で暴露され、ハルトは大いに焦った。
「何でそれ知ってんの!? 二人っきりでゆっくり話したいからそこの路地裏入ろうかァ!」
大慌てで女子高生を人気のない路地裏に引き込むハルト……と傍目から見るとなんだか怪しい光景だったが、人が多すぎるイベリンで、咎めだてするような人はいなかった。
「はぁはぁ……ほ、本当にテオく……ん?」
「だからさっきからそう言ってるだろ!」
「胸とかよくもまあこんな自然に盛れ……」
と触ろうと伸びてきたハルトの腕をテオドアは慌てて弾いた。
「本物だよ!」
「え、これ本物? マジで?」
ばっと手を引っ込める。流石に本物の乳を揉む訳にはいかない。
「で……なんでこんなことに?」
ハルトの疑問も御尤もである。テオドアは先程までの経緯を素直に説明した。
「……テオ君」
全て聞き終わったハルトの表情は険しい。
「今回はこの程度で済んだけど、路地裏で出くわしたのが危険な敵だったらやばかったぞ?」
あのマントゥールの女に噴霧されたのが猛毒だった日には、テオドアは死んでいたのだから。
「確かに今回は運がよかっただけだよな……気をつける」
しゅん、と目を伏せ、テオドアはうなだれた。ハルトの言うとおりだ、ぐうの音も出ない。
神人の反省を見たハルトは、ふうと息を吐いて表情を緩める。
「分かればよろしい、んでどうすれば戻るんだ?」
「方法は聞いてはいるんだけど……その……キスって……」
頬を赤らめ、テオドアはキスをすれば治るのだと答えた。
「随分メルヘンチックな戻し方だな、オイ!」
どこのお伽話だ。ハルトは思わず叫んだ。
その反応をどう受け取ったか、テオドアは食い気味に両手を顔の前で打ち合わせた。
「ごめん、やっぱ無理だよな! 二日たてば自然に戻るっていうし、二日間どうにか耐えるよ」
ハルトが虚をつかれていると、その沈黙を肯定をとったか、テオドアは続ける。
「悪いな。迷惑かけて、俺大丈夫だから……」
と踵を返そうとするので、その腕をハルトはがっしとつかむ。
「迷惑な訳あるか、むしろもっと頼れよ。馬鹿!」
強引にテオドアを引き寄せ、ハルトは彼女の唇を奪う。
「んむっ……迷わず口にするとか……お前ちょっとは躊躇えよ!」
瞬時にいつもの男子姿に戻ったテオドアは顔を真っ赤にし、唇を腕で隠しながら叫んだ。
「いや、戸惑うトコなかったわ……」
照れるテオドアが可愛いと思いつつ、ハルトは頭をかく。
「いーじゃん、元に戻れたんだから!」
ぷいっとテオドアは今度こそ踵を返す。ずかずかと大通りに出ながら、眉をひそめた。胸の鼓動がやけに煩い。
(落ち着け、俺が女子高生の姿だったからハルはそうしただけで!)
テオドアは痛む胸を押さえ、足を速める。
――泣きたい気分なのは何でだろう。
●嫉妬よりも澱んだ何か
ショウウィンドウを鏡代わりに、叶は自分の変貌を楽しんでいた。くるくる回れば翻る愛らしいスカート。
「僕もなかなか可愛いじゃないか!」
満足そうに叶は頷く。そして、ほくそ笑んだ。
(これはぜひ桐華さんを誑かして遊……ちがった、僕への愛を確かめるしか無いね!)
叶は誤魔化す事に長けている自負がある。
だから、必死に雑踏に目を凝らす精霊を見つけるやいなや、大手を振って駆けつけた。
「こーんにーちはー!」
「うっ」
思わず桐華は唸った。
(よりにも寄って苦手なタイプの女子と遭遇とか……)
助けろ叶と桐華は切に思うが、その叶を探している最中なのだ。というか、眼前の目を輝かしている女子高生が叶なのだが、桐華がそんなことに思い当たるわけもなく。
「ねえねえ、お兄さんあそぼーあそぼー!」
うっとおしくまとわりつき、周囲をくるくる回る女子高生を桐華は顰め面で見ていた。
セーラー服の上に羽織ったカーディガンの袖が長く、彼女の手の甲まで隠している。その服の趣味は叶と似ていた。
(少し気になるのは、そのせいだな)
だが、女に構っている暇など桐華にはないのだ。また神人にかくれんぼを仕掛けられたので、探さなくてはならない。
「結構だ」
「ええーつーれーなーいーー。ひっどーい、ちょっとくらいいいじゃん、ねえねえ」
「忙しいから」
「えええー何してるのー? さっきから見てたけど、歩いてるだけじゃん? ねえねえ何してるの、教えて教えてー」
しつこい。引き下がらない。引かぬ媚びる省みぬ。
「……人を探してるんだ」
「ちょっと遊ぶくらい良いじゃない。そんなにその人のこと大事なんですかぁ?」
――そんなにその人のこと大事なんですかぁ? だと?
逆鱗に触れられ、桐華は怖い顔で女子高生に迫って、壁に追い詰める。
「ちょ、うわ、近い近い……」
「女子じゃなきゃ殴ってるところだ」
「そんな怒らなくても~」
あはは、と笑ってみせる女子高生に、桐華は低い低い声で言う。
「大切だよ。見てたんなら知ってんだろ。あんたに構ってる暇とか、ねーんだよ」
(あわー、こりゃあ怒らせすぎちゃったなぁ)
叶は観念することにした。
「仕方ない、種明かしだ」
「は?」
「僕だよ、叶だよ。見えないだろうけど」
「……は?」
急展開すぎて桐華は唖然と口を広げた。頭に上っていた血が一気に駆け下りていく。
「どう見ても別人なんだけど……」
「そうなんだけど、僕は僕なんだから仕方ないよねえ」
叶は苦笑し、肩をすくめた。
「いろいろあって二日はこのままなんだって」
こんな薬作っちゃうデミギルティの心当たりはありありなんだけどね。と心中で呟く。だがもう彼は叶の目の前で逝ったから、今更なにも言えない。
「別に信じてくれなくてもいいけど……ちゅーすると戻るらしいよ?」
小首を傾げ、叶は挑戦的に桐華を見つめた。
(これとキス?)
馬鹿げている、と桐華は思った。だって、どう見ても叶ではないのだ。
中身が叶であっても、叶とは思えない人間とキスをするなんて、考えたくなかった。
「二日待つか、ここでするか。どっちが良い?」
叶は容赦なく選択を迫ってくる。
(でも、それで戻るなら……いやいや本気で別人だったら……でもこのノリは叶っぽい……)
迷いに迷っている桐華を見て、叶は苦笑した。
「……選べないか。仕方ないなぁ」
だから強引に桐華の胸ぐらをつかむ。悲しいかな、女子高生の腕力では桐華を引き寄せることは出来なかったから、叶はぶら下がるように彼の口を吸った。
「……」
「あは、戻ったぁ。ね? 僕だったでしょ?」
見知った姿を見ても、桐華の心中は複雑だった。
(なんだこれ……)
罪悪感しか残らないキスだった。
好きでもない人とのキスを疑似体験したのだ。二人目と生きるという意味を実感した気がした。
叶ではない人間とキスをする生活――。
(なるほど、これは……拒絶したくもなる)
戻ったというのに暗い顔の桐華を見やり、叶は薄く笑った。
●優しい貴方と二日間
「大樹」
呼ばれて柳 大樹は振り向き、目を眇めた。
「どこかで会ったっけ?」
銀髪褐色肌の女子高生に覚えはない。
女子高生は、女子とは思えない口調で名乗った。
「私はクラウディオだ」
「クロちゃんのことも知ってんの? あんたと全然見た目違うけど」
「……どう証明したものか。私の服装はそんなに不審だろうか」
クラウディオだと名乗った女子高生は、困ったように眉を寄せる。
彼女はセミロングの髪をシュシュでサイドテールにくくって、セーラー服でそれなりに大きな胸を包んでいる。大樹が今朝見たクラウディオとは何もかもが違うのだ。
「クロちゃんはね、俺と同じくらいの身長で、男で。筋肉質でフードに口布の黒尽くめだよ?」
と特徴をあげつらった大樹は、ちょっと内心げんなりした。
どう想像してもこれではクラウディオが不審人物である。つまり、今までずっと傍から見て不審人物を引き連れて歩いていたということになる。
(ちょっと契約破棄したくなった)
しかしここでげんなりしていても仕方がない。目の前の女子高生の処理が終わっていない。
大樹は気を取り直し、尋ねた。
「なんで人の精霊だって言い張るの? 理由があるなら話ぐらい……」
クラウディオの寄っていた眉の間隔が広がる。
(大樹の精霊だと認識されていた……!)
だがその反応を大樹は、話を聞いてもらえることに対しての喜びだと受け取ったようだ。
「そんなに嬉しいかなぁ」
大樹は首を傾げながらもベンチに腰掛け、クラウディオに隣を勧めてから、まぁ話してご覧よ、と続きを促した。
大樹と拳一つ分離れてベンチに座ったクラウディオは、素直に端的に先程あったことを述べた。
「……マントゥールねえ?」
大樹の表情が一瞬曇る。だがすぐに不機嫌さは隠された。
(私を一般人と思っている為か)
まだ信用されていないのか、とクラウディオは困る。これ以上に証明も説明もしようがない。
大樹はクラウディオを見つめる。
(無表情っぷりは確かに。でも前と違って更に面影がないし)
クラウディオは以前にも女体化してしまったことがある。あの時は、マントゥールではなく妖狐のせいだったが。
「……キスは無理だけど、二日で戻るんならいいんじゃない?」
ひょいとベンチから立ち上がり、大樹はサラリと言ってのけた。
クラウディオは食い気味に言う。
「だが、その間に大樹に何かあればどうするのだ」
今のクラウディオの身体能力は一般の女子高生と同等だ。オーガが襲ってきたら、トランス出来ない上に、素早さを活かして間に入り、身を挺して守るという事もできない。
「真面目だね」
大樹は苦笑した。
律儀というか職務に生真面目なところは、クラウディオだ。
(なりきりにしては、上手だね。本当に本人かも。……わかんないけど)
「じゃあ、二日ぐらいなら付き合うよ。それなら本当にあんたがクロちゃんでも安心だろ」
(大樹が優しい……)
クラウディオは目を見開いた。
以前に女になってしまった時の大樹も優しかった。女には優しい対応を無意識にする男なのだ、とクラウディオは大樹を分析する。
まだ大樹は、女子高生をクラウディオ本人だと認めたわけではない。
だが、同行を許してくれるなら、なんとでもしようがある。これで良しとすべきだ、とクラウディオは判断した。
「ほら、お手をどうぞ?」
すいと差し出された手をクラウディオは不思議そうに見つめ、そして周囲のカップルたちに気づき、ようやく大樹の手をとった。
くいと軽く引いてクラウディオを立たせた大樹は、手を握ったまま笑った。
「じゃ、デートと行こうか」
花の良い香りを乗せた風がそよいでいく。今まさにイベリンは春爛漫である。
| 名前:叶 呼び名:叶 |
名前:桐華 呼び名:桐華、桐華さん |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | コメディ |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 04月19日 |
| 出発日 | 04月25日 00:00 |
| 予定納品日 | 05月05日 |


