【薫】可能性を匂わす香り(木乃 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「A.R.O.A.の依頼窓口ってここか? しけてやがるなぁ」
 ぼやく不遜な態度の若い男に、受付にいた小柄な女性は眉を顰める。
 少し汚れた白衣をまとう金髪の男、変わり者の学者なのだろう。
「どういったご用件でしょうか」
「俺様の実験に付き合わせてやろうと思ってな、光栄に思え」
(面倒臭ぇ……)
 偉ぶった態度の男に『面倒ごとを持ち込まれそう』と直感的に悟る。
「ここはなんでも屋ではありません、お引き取りください」
「そう邪険に扱うな、説明しに来ただけありがたいと思って欲しいな」
 職員がすげなく追い返そうとするが、男は高慢な態度を変えることなく勝手に話を続ける。

「そうそう、俺は魔法学研究所の所長。名をウルフェンと言う」
 ウルフェンと名乗る男は、椅子にふんぞり返りながら腕組みする。
「いわゆる魔法の香水ってやつを作ってな、身に着けるとちょっとした効果が数時間ほど出るものだ」
 香りは身に纏った人物の好きな香りに変化するという。
「……どういった効果で?」
「老いる」
 ――時が止まった気がした。
「は?」
「一時的に大人になる、ないしナイスミドルかロマンスグレーになる」
 その効果は、一体どこに需要があるんだ。
 年を取って得をするような人が居るのか!?
 むしろそんな需要はあるのか!?
「自分がこのまま年をとればどうなるか、気になるだろう。 そういった可能性に対する将来設計に大いに役立つとは思わないか?」
「なにまともっぽいこと言って、言いくるめようとしてるのですか! 誰得すぎますから!?」

 そんなもの、協力する訳にいかないと断固拒否する姿勢をみせる職員にウルフェンは愉快そうに目を細める。
「先ほど受け取った者達が居るのにか?」
「ううう、受け取った!?」
 なんということでしょう、こともあろうにウルフェンはウィンクルムにすでに渡していたのです!
「さっきも言ったが、効果は数時間だ。実害はないし、見た目は老いても体に不調は出ない。 俺様が先に試しているからな」
 どうやら個人差を調べるために協力を要請するつもりだったようだ。
 しかし、事後報告であって今から止めることは出来ない。
(じ、実害がないとはいえ……大丈夫なのでしょうかぁ)
 巻き込まれたウィンクルム達を心配する職員を余所に、ウルフェンは豪快に笑っていた。

解説

香水をもらう最中、お買い物していて300Jr消費しております。

●年をとる香水について
効果は数時間ほどです、肉体変化は見た目のみで精神年齢は元々のままです。
使うとぽん!と煙が立って一気に変わります。

個数は1個のみです、使用する方のプランに★を入れてください。
香りは使用者の好むものに変化します、こちらもプランに明記してください。

変化する外見年齢は+10~40です。
上昇する外見年齢や容姿についてプランで説明をお願いします。
外見年齢7~9歳でも最低20歳くらいになります。

●状況
休日を楽しんでいる最中に闖入者(ウルフェン)に押し付けられた、もしくは自ら受け取ったのでしょう。
ウルフェンがあんな感じなので説明があったか、なかったかはそれぞれ違います。

体格が大幅に変わっても、魔法の力で変化した体型に合わせてお洋服も一時的に大きくなります。
(外見年齢10歳の恰好のまま30歳の体に合う服に変化する、といった感じです)
服そのものはサイズ以外のデザインなどは変化しません、効果が切れると同時にサイズも戻ります。

●ウルフェンについて
魔法学研究所の所長さん。
眼鏡をかけた知的なイケメンですが、中身が非常に残念。
リザルト内には基本的に登場しません。

●諸注意
・多くの方が閲覧されます、公序良俗は守りましょう
 (過度な性的イメージを連想させる恐れがある場合は、厳しめに判断します)
・『肉』の1文字を文頭に入れるとアドリブを頑張ります

ゲームマスターより

木乃です、春の陽気につられてお昼寝したら日付が変わってました。

今回は一時的に年をとる香水を受け取って(押し付けられて)しまいました!
10年経つと雰囲気がガラリと変わる人もいれば、見た目がちょっと変わったくらいの方も居ますよね。
このエピソードでの出来事もあくまで『こうなる可能性がある』のであって、ならない可能性も充分ありますので!

それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

 

またお前は珍妙なものを……
知らない奴から物をもらうんじゃないって、聞いてる……か……
(目の前で起こった変化に)
え、誰?
イグニスか?
あー、年齢操作とかそういう効果、なのか?なんでまた……
隣、か

俺がかつて「もっと若ければもう少し見た目に釣り合ったかもしれない」
と思ったように
こいつももっと大人になりたいと思ったんだろうか

なあ、イグニス
前にお前が俺に言ったこと、覚えてるか?
『俺が俺だから慕っている、見た目は関係ない』って
その言葉、今そっくりそのまま返してやるよ
……まあ、正直落ち着かないけどな、立派すぎて(ぼそり)
くそ、耳聡いな!
いいだろう、受けて立った
その見た目に恥じぬようなエスコートしてくれよ?


信城いつき(レーゲン)
  肉★
+10歳(少し髪長め 年相応の青年)

見て見てレーゲン、背が伸びてる!

これだけ成長したらお酒飲めるかな…ダメ?
他に出来る事って…そうだ!ねぇ、ちょっとここに立って
壁際に立たせて両手伸ばして壁ドン
(いつも背が低くて自分からはキスできないけど、レーゲンより年上の今なら逆の立場で出来るはず!)

……?あれ?少し俺の方が低い?
なんでっ、年上なはずなのにどうしてあと少し足りないの!?
俺の身長の根性無し!(意味不明の八つ当たり)
レーゲン笑ってる…(しょぼん)

でもね、背が足りなくても俺からだって出来るんだ!
(背伸びして唇を寄せる)どーだっ
…勢いでやっちゃったけど
時間たつとだんだん恥ずかしくなってきた(真っ赤)


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
 
+10歳
柑橘系の香

魔法の香水…好奇心で(数時間で元に戻るって言ってたし)試したら…これって大人になったって事か?

身長はそれでもフィンには届かないのか…ちょっと悔しい
うーん、どうせなら服も変わって欲しかったかも…これじゃ若作りっぽくないか?
兎に角、折角だから行くぞ、フィン
何って…フィンと釣り合う年齢になったんだから、何かしないと勿体ないだろ?

そうだ、バーに行ってみよう
別に酒は飲まないからいいだろ?フィンは飲んでもいいから

う…煙草の匂いって慣れない…
え?もう出るのか、おい、フィン

もしかしなくても俺を気遣ったんだよな…
外見ばかり大人になっても俺はまだガキで…

うん、格好良い大人になるから…覚悟しとけ


鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
 

「なっ……!」
いくら大人になりたいからといって、変わりすぎる琥珀ちゃんに呆然。
開いた口が塞がらない。

でも、肩を並べて釣りをするのもいいよねと思い立ち、誘ってみる。
(釣りする際は、フィッシングスキル使用)

まあ、出来なかったら出来なかったでいっか。
ここの道をさ、適当に散歩しようよ。
琥珀ちゃんの傍を離れないように近づいておく。

「危ない!」
転倒する琥珀ちゃんを抱き止めようとする。
怪我がないか心配する。
ある場合は、ハンカチで止血。

「あれ?もういいの?」
肩を貸し、琥珀ちゃんに捕まってもらいながら、ゆっくり歩く 。
不満を言うも、すぐに謝ってしまう琥珀に笑ってしまう。
「別にいいよ、背伸びしてて可愛いかったし」



葵田 正身(いばら)
 

老いる、の説明に若干身構えてしまったのは
自分が年嵩に見られる事が多いからでしょうか

しかし興味を持ったらしい傍らの少年。
大人に見られたい年頃ですからね
……プラス20……そこまで歳は離れていませんが。
悪気は無いのでしょうし笑顔で流します

果たして少年は青年に。
流石に私程の身長は無いとは云え、近くなった顔に掛かる
ヴェールを除ければ……僅かに息を詰め。

――ああ、これは少々、参りました。

表情の変化に気付いたらしいいばらには
うん、なかなか男前じゃないかな。と笑って答えて。
促されるまま歩き出しつつ。

(美人、と素直に言うのが憚られたのは、
弟のように思っていた彼へ
別の感情がふと過ぎってしまったから、でしょうか)


●大人は疲れる
 傍から見れば『不審者が怪しい小瓶を、子供に手渡している取り締まり事案』だっただろう。
 問題は、少年――琥珀・アンブラーが胡散臭い金髪眼鏡から香水を受け取った場面を、誰も目撃していなかったことだ。
『この香水を身に吹きかけると、年を重ねた姿になる』
 待ち合わせ場所に遅れてやってきた鹿鳴館・リュウ・凛玖義も、琥珀がそのような怪しい物を受け取っていたと知らず、今日の予定について考えあぐねいていた。
「今日はどこへ遊びに行こうかねぇ、琥珀ちゃんは行きたいところある?」
「え、う、ううん」
 俯いて首を小さく横に振る琥珀の姿に、凛玖義は「そうかぁ」と天を仰ぎながら、妙案を見つけようと宙に視線を巡らせる。
 琥珀はポケットに入れていた香水と、背を向けている凛玖義を交互に見比べる。
(あのおじさん、はくでも大人になれるって言ってた)
 運が良ければ、凛玖義と同じくらいになることも可能だと……琥珀が意を決して、自身に香水を吹きかけるには理由として充分すぎた。
 ――ぽんっ!
 ワインボトルからコルク栓を引き抜いたような、軽快な音に驚いた凛玖義は慌てて振り返る。
「り、りくぅ!」
「琥珀ちゃん!?」
 もうもうと湧き上がるグレープフルーツの爽やかな香りと白煙が風に流されていき、薄れていく中から琥珀の姿が現れる。
「なっ……!」
 凛玖義は琥珀の姿を認めると同時に、開いた口が塞がらなくなった。
 ――そこにいたのは、52歳くらいの中年紳士だったのだ。
 背丈にしてみれば、凛玖義自身を5cmほど上回っている。
 しかし服装に角と尻尾、呼び方まで自分の知る少年と全く同じもので。
「わぁ……!」
 自身の変貌に驚いたようで、飛んだり、跳ねたり、走ったりしていた。
 身体を確かめるように動き回る琥珀(仮)の姿に、凛玖義は目を白黒させる。
「こ、琥珀ちゃん? その格好は一体……」
 あまりの様変わりに状況を把握できずにいる凛玖義が問いかけると、気づいた琥珀はもじもじしと体を揺らし、大人になる香水を受け取っていたことを告白。
「なるほどねぇ……ひとまず、服、変えよっか」
 50代の容姿で12歳の時と同じ服装では、かなり悪目立ちする。
 凛玖義は自宅から服を見繕ってくると提案し、着替えさせてから出かけることにした。

「こうして肩を並べて釣りをするってのも、乙なもんだねぇ」
 気を取り直して、凛玖義は釣りにいこうと誘った。
 二人分の釣り具を借りて釣堀までやってくると、折り畳みチェアに腰掛けて餌を付けた釣り糸を垂らす。
「出来なかったら出来なかったで、遊歩道でも適当に散歩しようよ。陽気も暖かくなってきたし」
「うんっ……じゃなかった、わかった」
 声色は渋みがあるにもかかわらず、中身は子供のままで。
 返事を言い直す様子に、凛玖義も思わず笑みが浮かぶ。
 早くかからないかと待つこと数分、竿を握る腕が疲れてきたのか琥珀の腕がプルプルと震え始める。
「釣れないねぇ」
「うん……」
 釣り場の調子が悪そうだ、場所を移そうか――移動の準備を始めたそのとき、琥珀の竿がしなりだす。
「わぁっ!?」
 驚いた拍子に竿を手放しそうになるが、なんとか掴み直した琥珀は勢いよく水中から引き上げる。
 引き抜く勢い余って、琥珀は後ろに転げてしまう。
「危ない!」
 釣り具を片付けていた凛玖義は、倒れそうになる琥珀を慌てて抱きとめた。
 ぽかんとした表情を浮かべる琥珀には、普段の無邪気な面影が感じられる。
「大丈夫か?」
「腕が、痺れるぅ……」
 勢いよく一本釣りされた魚は活きが良かったようで、琥珀の後ろでビチビチと跳ね上がっている。
「……やっぱ、はく、子供でいい。大人、なりたくない」
 香水の効果はあくまで『容姿を変えるだけ』であって、身体能力が変化する訳ではない。
 しかしそこまで説明を受けていなかった琥珀からしてみれば、ただ不便なだけに感じられた。
「あっはっはっは! 子供の時間なんてあっという間に過ぎちまうモンだよ、琥珀ちゃん。焦らずゆっくり、今を楽しめばいいさ」
 豪快に笑い声をあげる凛玖義の言葉に、琥珀は照れくさそうに頬を掻く。

●気になる差
「魔法の香水、か」
 蒼崎 海十は買い物中に押し付けられた香水の瓶を見つめる。
(……数時間で元に戻るって言ってたよな)
 好奇心をくすぐられた海十は、そのまま自身に吹きかけてみる。
 ――ふわりと柑橘系の香りが鼻腔をくすぐり、同時に白い煙に全身を包まれた。
「海十!? どうかし――えぇぇ!?」
 謎の爆発音に驚いたフィン・ブラーシュが海十の私室へ駆け込むと、部屋には大人びた姿の海十が。
「あ、フィン」
 本人はさして気にした様子もなく、姿見を覗き込んで全身の変化を確かめていた。
 見た目は27歳くらいか。
 幼さをほのかに残していた横顔は、洗練された落ち着きを感じさせる。
(いや、それ以上に)
 ――大人びた海十が、こんなに美しいとは。
 様変わりした雰囲気にフィンの心臓は喧しくはやし立て、ときめく胸を高鳴らせる。
「どうせなら服も変わって欲しかったかも」
 魔法の効果はあくまで容姿の変化のみ……やはり似合うものに自然と変わっていたら、と思ってしまう。
「これ、若作りっぽくないか?」
 現実に引き戻されたフィンは慌てて笑顔を取り繕う。
「確かに見た目に比べたら若い格好だけど、大丈夫! 大人な海十も可愛いから」
 フィンは大袈裟に笑ってみせて、自身の動揺を誤魔化してみる。
「まぁ、無理に着飾らなくていいか……とにかく、折角だから行くぞ。フィン」
 何処へ行こうというのだろうか?
 フィンが不思議そうに見つめていると、察した海十は小さく溜め息を吐く。
「フィンと釣り合う年齢になったんだから、何かしないと勿体ないだろ?」
 照れくさそうに髪をかき上げる仕草は、普段の海十と全く同じで……それが少しだけフィンに安心させる。
「そうだ、バーに行ってみよう。一度行ってみたかったんだ」
「確かに今の海十なら入れると思うけど……」
「別に酒は飲まないからいいだろ? フィンは飲んでもいいから」
 海十の期待がこもる眼差しを前に、フィンが断固として断ることは出来なかった。

 ドアの掛けられたベルが揺れ、店中に音を響かせる。
 いぶし銀の効いたマスターは言葉少なに歓迎してくれた。
 物珍しそうに周囲を見渡す海十を連れて、フィンはカウンター席に着く。
「白ワインと……えと、ジュースを」
 連れは下戸なので、と伝えるとマスターは承諾の意を会釈で示し、手早く用意を済ませ二人の前にグラスを置く。
 最初は大人の隠れ家に入れたと、こっそり喜んでいた海十だったが――。
「……煙草の臭いって、慣れない……」
 子供が居るとどうしても気を遣ってしまうが、ここは大人の社交場。
 バーで一服、嗜もうと思う者も居る訳で。
(慣れないと辛いよね、煙が肺や喉にも良くないって言うし……)
 意気消沈している海十の様子に、フィンは自身の財布に手を伸ばす。
「マスター、お会計お願いします」
「もう出るのか?」
 驚く海十をよそに、フィンは手早く支払いを済ませると海十の手を取る。
「ここの空気に酔っちゃったみたいだしね、出ようか」
 見送るマスターの声を背に受けながら、海十とフィンは足早にバーを後にした。
 まだ春先とあって夜風は肌寒かったが、澱んだ気分をスッキリさせるには心地よい。
「もしかしなくても、俺を気遣ったんだよな」
 海十は少しバツが悪そうに眉をハの字に下げ、足を止めた。
「ごめん。外見ばかり大人になっても、俺はまだガキで……」
 軽率だったと小さく溜め息を吐く海十に、フィンは頬を緩める。
(もしかしなくても、俺との年の差を気にしてるんだよね)
 埋められない差を気にしていたのは、海十だけではなかった。
「俺も思ってたんだ、海十は俺みたいな年上でいいのかなって」
「フィン……」
「そのままでいいよ、俺は海十が好きなんだ」
 これまでの。今までの。そしてこれからの海十が。
「ゆっくり海十が大人になっていく様子を、傍で見られることが嬉しいんだよ」
 だから自信を持って、焦らないでほしい……そう言ってフィンは微笑んだ。
 そんな余裕のある態度が海十には『大人』だと思えた。
「うん、格好良い大人になるから……覚悟しとけ」
「待ってるね」
 数年後の恋人を想いつつ、フィンは唇を重ねた。

●背伸びしたい年頃
「見て見てレーゲン、背が伸びてる!」
「いや、変わったのは身長だけじゃないんだけど……」
 香水の香りを漂わせながら、27歳ほどに変貌した信城いつきは表情を輝かせていた。
 髪は少し伸びて肩につくかどうか、目線も僅かに高くなったような気がする。
(そうだよね……年を重ねれば立派な大人になるよね)
 傍目から見ても明らかに年を重ねた姿に、レーゲンも驚きを隠せずまじまじと見つめてしまう。
「これだけ成長したらお酒飲めるかな……ダメ?」
「お酒はダメ、一時的な効果なんだろ?」
 見た目は成長しても、いつきが未成年であることに変わりはない。
 少し残念そうないつきだったが、他にもまだまだ試したいことは一杯ある。
「他に出来る事って……そうだ!」
(いつも背が低くて自分からはキスできないけど、レーゲンより年上の今なら逆の立場で出来るはず!)
 内心、ニヤリとほくそ笑むといつきは手招きする。
「ねぇ、ちょっとここに立って」
「? ここに立てばいいのかい?」
 不思議そうに首を傾げるレーゲンだったが、いつきに言われた通り壁際に立つ。
 ――ドンッ!
「……!」
 いつきは壁との間にレーゲンを挟み込むように、勢いよく手をつく。
 迫られるような体勢に、レーゲンは驚いて目を丸くした。
 強気な笑みを浮かべるいつきと対照的に、レーゲンは曖昧な笑みを浮かべながら視線を泳がせていたが、すぐにいつきの表情は変わった。
「……あれ? 俺の方が少し低い?」
 自身の目線はいつもより高くなった気がするのに、レーゲンの視線はやはり上から注がれている。
「なんでっ、年上なはずなのにどうして変わってないの!?」

 香水が万に一つの可能性を引き寄せたのか、奇跡的に身長は伸びた。
 いつき本人はすでに10代後半、身長が伸び悩む時期に差し掛かっていてもおかしくはない。
 これも魔法が起こした奇跡なのだろう――しかし伸びたものの、レーゲンの視線はいつものように上から注がれていて。
「いつきくらいの年だと、あまり伸びない気が……」
 レーゲンが気まずそうに呟くと、ショックを受けたいつきは床に手と膝をついてガクリと項垂れる。
「俺の身長の根性無し!」
「……ふ、くっ」
 床にゴンゴンと拳を打ち付けて八つ当たるいつきの頭上で、レーゲンは吹き出してしまい、笑いを堪えようと肩を震わせる。
(レーゲン、笑ってる……たまには立場逆転したいって思ってもいいじゃないか)
 居た堪れない感情がこみ上げてきて、いつきは落ち込みそうになる。
(でもね、背が足りなくても俺からだって出来るんだ!)
 ガバッ! と勢いよく立ち上がるいつきを見て、レーゲンはようやく笑いを抑え込んだ。
「ごめん、バカにした訳じゃ――」
 レーゲンの弁解する言葉は、言い終わる前に唇を塞がれて封じられた。
 不意に訪れた柔らかい感触と、首に回された腕が引き寄せていることに気づき……ようやく自分の身に何が起きたか解った。
「どーだっ」
 ストンとカカトを地につけて、背伸びしていた体勢を戻したいつきは、勝ち誇った笑顔を浮かべる。
 ――レーゲンは呆気にとられたように、再び目を丸くしていた。
 気まずい沈黙がいつきとレーゲンの間を流れていく。
(……勢いでやっちゃったけど、俺、恥ずかしいことした?)
 時間が経つにつれ、いつきの顔は赤みを帯びていき、ゆでダコのようになっていく。
「ふ、ふふ」
 いつきの変化する表情を見て、レーゲンはクスクスと笑みを浮かべ始める。
「外見は変わっても、中身はかわいいいつきのままだね」
 急に大人びた姿になってしまい、不安だったのだろう。
 ようやっと安心出来たとレーゲンはいつきを腕の中に引き寄せ、背中を撫でる。
(いつかちゃんと大人になるけれど)
 もう少しだけ、このままでいて欲しいな――レーゲンは胸の内でひっそりと呟いた。

●立派な大人に
「眼鏡の方から面白いものを頂きました!」
 イグニス=アルデバランは「じゃーん!」と声で効果音をつけながら、香水瓶を取り出して初瀬=秀に見せる。
「またお前は珍妙なものを……」
 返ってきた秀の反応は、盛大な溜息がひとつ。
「知らない奴から物をもらうんじゃないって――」
「ふふふー、見てて下さいね!」
 痛む頭を押さえる秀をよそに、イグニスは香水を自身にひと吹き。
 バニラの香るミストを浴びたイグニスは一瞬にして、その身を煙に包まれた。
「うわっ!? おい、聞いてる……か……」
 ポップコーンが弾けるような音と、周囲に広がる濃厚な甘い香りの煙に驚く秀。
 イグニスに『話を聞け!』と叱り飛ばそうとしたものの……目の前で変貌した姿に目が点になる。
 見た目で言えば、秀と同じ年の頃だろうか。
 ふわふわの金毛や真っ白な肌も、普段とさほど変わりはない。
 ――明らかに違うとしたら、身の纏う雰囲気だ。
 歳を重ねれば出てくるであろう、貫禄というべきか……王子様のような柔らかさの代わりに、地に足のついた王のような落ち着きを感じられる。
「え、誰? イグニスか?」
 あまりの変貌ぶりに、秀は思わず瞼をこすっては老いたイグニスを何度も見直す。
「ふむ、大体秀様と同じくらいの年になりましたね。秀様、如何ですか?」
 計画通りだ、と言わんばかりに上機嫌な笑顔をみせるイグニスに、『眼鏡の方』に渡された代物の正体をようやく理解した。
「あー、年齢操作とかそういう効果、なのか?」
「そうですよ、『年を取る香水』だそうです」
(なんでまた、そんなものを……)
 歳を取ったところで、なんの得もないというのに――秀にはイグニスの意図が図りかねた。
「で、どうでしょう? 貴方の隣に並べる立派な大人になれてますか?」
 秀の複雑な心情とは裏腹に、イグニスは秀に見合うだけの『大人』になったか気になっているようだ。

(隣、か)
 秀はどうしてイグニスがそんな怪しい物を受け取ったのか、なんとなく理解できてきた。
(俺がもっと若ければ、もう少し見た目に釣り合ったかもしれない……そう思ったことがあったな)
 イグニスとの年齢差は『親子ほど』と表現しても差し支えがないほど、大きいものだ。
(こんなおっさんと並んで歩くのなんか……とか、散々悩んだけど)
 こいつももっと大人になりたいと思ったんだろうか。
 案外、イグニス自身も若いことを気にしていたのかもしれない。
「……なあ、イグニス。前にお前が俺に言ったこと、覚えてるか?」
「秀様に、ですか?」
 聞かれてもすぐに答えられないだろう、そう予想していた秀は苦笑交じりに返す。
「『俺が俺だから慕っている、見た目は関係ない』って、言ったよな?」
 ――その言葉、今そっくりそのまま返してやるよ。
 秀の返答にイグニスは僅かに目を見開いたが、すぐに目尻を下げた。
「ふふ、やっぱり私のお姫様は世界一素敵な方です」
 大切な宝物を掘り起こしたように、イグニスは満足げな笑みを浮かべる。
 年老いた姿にも関わらず、変わらず屈託のない笑顔に秀の胸がドキリと強張る。
「……まあ、正直落ち着かないけどな、立派すぎて」
 気恥ずかしいあまり、目を逸らして呟く秀の言葉をイグニスは聞き逃さなかった。
「立派ですか!?」
「! くそ、耳聡いな!」
 秀は顔を真っ赤にするが、当のイグニスは秀に認められたことがよほど嬉しかったのだろう。
 細長い尻尾を左右にゆらゆらと揺らしている。
「それでは一時の夢。楽しみましょう、お姫様……目一杯、緊張してくれていいですよ?」
 クス、と悪戯っぽく笑うイグニスの雰囲気はやはり王者の風格を感じさせるもので。
 珍しく強気な態度を見せられて、秀もニヤリと笑みを返す。
「いいだろう、受けて立った」
 見た目に恥じぬようなエスコートをするよう注文すると、イグニスは恭しく手を取った。

●焦がれる感情
「老いる、か」
 数分前、葵田 正身はいばらとの買い物中に、白衣の不審者に声をかけられた。
『これは魔法の香水でな、使うと老いた姿になる……そこの少年なら大人と呼ぶに相応しい姿に数時間だけなれるぞ!』
 そう言いながら押しつけられてしまい……残された香水を前に、眉間に深いシワを作っていた。
(自分が年上に見られる事が多いからでしょうか)
 それなりに年嵩であることは自覚があるだけに『老いる』という表現を含んだ説明には、いかんせん身構えてしまう。
 しかし、隣に立つ少年は興味をそそられたようで、手の中にある小瓶を見つめ続けている。
(大人に見られたい年頃ですからね)
 自分にもそんな時期もあったかなぁ、と思いながら微笑ましい気分で横顔を見つめる。
(大人の姿になれる)
 いばらは正身の推測通り、魔法の香水に胸をときめかせていた。
(こういうところではしゃいでしまうのは、やはり僕がまだ子供だからでしょうか)
 チラと正身を横目で見ると、乗り気ではなさそうに見えた。
「興味があるなら使うかい?」
 しかし、口から出てきた言葉は意外にも勧めるもの。
「あ、はい……プラス20歳ぐらいになれば、葵田さんと同年代に見られますかね?」
 反射的に頷いたいばらは、香水でどこまで変わるのかすでに期待に胸いっぱいの様子。
「……プラス20……そこまで歳は離れていないが」
(まぁ、悪気はないのだろう)
 正身は当たり障りなく、微笑を浮かべてみせる。
 いばらは緊張した面持ちで香水を一瞥すると、スプレーノズルに指をかけた。
 ――薔薇の香りに包まれながら姿を変えたいばらに、正身は視線を巡らせる。
(ふむ、20代後半くらい……かな)
 背丈は190もある自身より低く、体の線も細い。
「お、とと」
 いばらは煙が晴れていくと急に目線が高くなり、驚いた拍子に転げそうになるがなんとか踏ん張ってみせた。
「葵田さん、どうです?」
 鏡をキョロキョロと探しながら、いばらは正身に感想を求める。
「僕、ちゃんとかっこいい男の人になってます? あまり筋肉はついていないみたいですけど……」
 成人男性となった割りに、華奢な体格が気になるのか。
 いばらは自身の身体を見下ろして、少し残念そうに呟く。
「ふむ、どれどれ」
 ヴェールで隠れているいばらの顔を確かめようと、手で払いながら覗き込んだ。
「……!」
 ヴェールの中から現れた、白い肌と薄い髪色の間に、夕焼け色の瞳を収めた美貌に息を呑んだ。
(――ああ、これは少々、参ったな)
「どうしました?」
 正身の反応が気になったのだろう、いばらは不思議そうに首をかしげる。
「……うん、なかなか男前じゃないかな」
 これ以上、悟られまいと正身はニッコリと笑みを深めて取り繕う。
「そうですか?」
 正身の答えにまんざらでもなかったようで、いばらも目を細め微笑を浮かべる。
「せっかくなので効果が切れる前に、買い物の続きにいきましょう」
「そうだな……あ、ちょっと待て」
 心なしか足取りの軽いいばらに、正身はあることに気づき呼び止めた。
 いばらが何事かと振り返ろうとすると、肩にパサリと上着をかけられた。
「気にならないならいいけど、服装が釣り合ってないように見えたから」
 体は20代後半に変わっても、服装は10代前半の少年がまとうもので……言われてみれば、といばらも少し違和感を感じた。
「お気遣い、ありがとうございます」
 戻ったらすぐに返しますと言って、いばらは再び歩き始める。
 後ろ姿を微笑ましく見つめながら、正身はその後ろをついていく。
(美人、と素直に言うのは憚られてしまったな)
 弟のように思っていたはずなのに、別の感情が過ぎってしまったことに正身は苦笑を浮かべる。



依頼結果:成功
MVP
名前:初瀬=秀
呼び名:秀様
  名前:イグニス=アルデバラン
呼び名:イグニス

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月10日
出発日 03月20日 00:00
予定納品日 03月30日

参加者

会議室

  • [6]葵田 正身

    2016/03/19-23:34 

    出発間近ですが、宜しくお願い致します。
    葵田と申します。精霊はいばら、と。

    普段から大分年上に見られる自分は遠慮して、
    精霊が興味を持ったようですので、彼が香水を使用する側ですね。
    さてどんなサプライズになりますやら。

    皆さんの時間も、良き物となりますよう。

  • [5]蒼崎 海十

    2016/03/19-01:24 

  • [4]蒼崎 海十

    2016/03/18-00:15 

  • [3]蒼崎 海十

    2016/03/18-00:15 

    蒼崎海十です。
    パートナーはフィン。
    皆様、宜しくお願い致します!

    香水は、俺が使う予定です。
    これで、この時だけはフィンに子供扱いされない…筈(ぐっ)

    良い一時になりますように。

  • [1]信城いつき

    2016/03/13-01:58 


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