


●シャンプーしましょう
白磁がテーマカラーのサロン『星山茶』は、一風変わった趣向の店であった。
「ここはシャンプーバーなんです」
と店員は微笑む。
店に入ると、まずシャンプーとコンディショナーがぎっしりと並んだ壁いっぱいの棚が目に飛び込んでくる。
廊下を進むと、まるでホテルのようにドアが並ぶ。
オーク色のドアを開くと、細長い部屋。部屋には、美容院によくある寝そべって髪を洗ってもらうシャンプー台が、鎮座しており、ウォーターサーバーやドライヤーなども完備されていた。
「髪を洗ってもらうって、美容師さんでもない限り、結構親しい仲じゃないとやらないじゃないですか。髪を触らせる仲――それは、かなり仲の良い証拠だそうですよ。それに、シャンプー台でシャンプーするときって顔をタオルで隠すでしょう? 洗髪で気持ちよくなって心がほぐれている時なので、面と向かって言えないことも喋れるらしいです」
ここは、シャンプーをすることで普段できない会話が出来る場所だという。
「当店では、いろんな薫りのシャンプーを取り揃えております。お好きな香りに包まれて、大切な人に頭を洗ってもらいませんか?」
とてもリラックスできますよ、と店員は微笑んだ。


●概要:シャンプーしてあげる・してもらう
●料金
片方を洗ってあげる:300ジェール=どっちが洗われるのか明記してください。
あらいっこする:600ジェール
●シャンプー
いろんな薫りがあるようです。
好きな薫りをプランの冒頭に記載しておいてください。
何も書いていない場合、適当に何か決めます。
お世話になっております、あき缶です。
寿ゆかりGM主催の【薫】エピです。香水がランダムでゲットできるようなので是非ご参加ください。
このシャンプー屋さん、ものすごくニッチな店ですけど、あったらいいなーって思うお店です。
お風呂に入るよりは気軽じゃないですか?


◆アクション・プラン
叶(桐華)
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素敵な香りで桐華さんを洗ってあげよう 甘いよりは柑橘系がいいなぁ。爽やかなのがいいね ふふー、桐華さん、かゆいとこはありませんかー?なんて 改まってするのも楽しいね。はい、お疲れ様 …うん?僕も? いや、僕は別に…嫌なわけじゃないけど… もう、分かったよ。どのシャンプーにするかも決めてるの?ふぅん …薔薇の香りだ …ねぇ、桐華さん。もしかして薔薇園のこと思い出してる? 随分ロマンチックな告白をくれたよねぇ 思い出したんなら、もう一回言ってくれてもいいんだよ? 終わったらなって…いやいや、今言おうよ 心がほぐれてる今だから言えるってやつでしょ くっ、最近の桐華さんが狡い… …… …好きだよ 「うん」じゃないよ、もう…(顔覆い |
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つれない反応は予測していたが座ってくれて一息 この後何か予定が? …予定は入れてないんだな シャンプーの事はわからないながら真剣に 香りの強くないものでおすすめを聞く いや、この店が目当てだ 寝ててもいいぞ 声をかけて触る ああと頷きながら考える 俺の寝付きが悪いなら、それを知ってるリンだってそうなんじゃないだろうか 柔らかそうな髪は俺の起きる頃にはいつも整えられていて 一緒に暮らすようになっても隙の無さは変わらなくて 少しだけその理由を知っているような気がしてた 髪を触られるのは嫌いか? 俺は人と同じじゃなくても別にいい それがアンタの意見なら考えるけど そうか?きれいな色だと思ってた それにふわふわしてかわ… いやここで頼む |
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洗う 種類一杯あるね。悩むなぁ 店員にリラックスする香りのシャンプーを教えてもらおう 眠っちゃうぐらいリラックスさせたい 綺麗な髪だから、からまないようにそーっと丁寧に洗おう。 もちろん頭皮のマッサージも どこかかゆい所ないですかー レーゲン、もう眠った? うーん、まだ眠くならないか……よし(子守歌を歌ってみる) ついに眠ったかな? 静かだなぁ……良い香りもするし、こっちまで穏やかな気分になる タオル越しとはいえレーゲンも眺め放題だし(くすくす) ……ずっとレーゲンに守ってもらってるな、俺。 昔も、今も。 ありがとう そっとレーゲンの額にそっと口づけ レーゲン起きてたの!? い、今のは香りをかいでただけ! |
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シャンプーはゼクが選んでよ 僕にはどんな薫りが似合うと思う? まあ洗うのはキミの髪だけど。 とシャンプー台にゼクを追いやって。 一通り設備を確認。 残念ながら鋏は無いみたいだねーなんて言いつつ 怖い顔は隠しちゃおう。ゼクの顔にタオルびたーん 改めて触れてみるとゼクの髪って本当に長いからさ 洗うの面倒だしちょっとカットしちゃおうかなって? 角飾りはそっと外してタオルの上に置いて。 髪を梳いて水に晒し、シャンプーで丁寧に洗ってゆく うん? 僕はちゃんとここにいるよ? 白髪増えたかなって探してただけ。 元から白髪みたいなものだけど そういえば髪の色、いつも訂正してくるよね ふうん。本気で切りたいわけじゃないって 綺麗な銀髪なんだから |
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(洗いっこの予定) 心情: ……先輩はナニヲカンガエテイルンダ……(連行もとい誘われたようです はっ、落ち着け俺。大丈夫。顔、見えないし今回は。うん、大丈夫何も見られない。「観察」されない(混乱していてどうやら視野が狭くなっているようだ (洗いっこだと聞いて) 先輩の髪を、俺が(緊張にこわばる顔と手 ……こんなサラサラで綺麗な髪を…… 行動 洗われたり洗ったりだよな。普通に。 先輩の髪はできるだけ丁寧に洗おうそうしようできるかわかんないけど! 「えぇ、猫じゃないんで」(好きな香りに触れられた折 「……ふぁ」(洗われてる時。つい声が 「し、失礼シマス……」(洗う時。めっちゃ緊張してる ・好きな香り 柑橘系……かな。 |
●どうだか
ハティが指さした建物がなにものか悟り、ブリンドは顔を盛大に歪めた。
「はぁ? シャンプーバー?」
その歪んだ彼の表情を眺めつつ、ハティは案の定だな、と無表情の中で思う。つれない反応されることはわかっていた。むしろいい香りのするシャンプーが選びたい放題なお店に目を輝かせられたら、逆にブリンドの体調――主に頭の――を疑う。
「お前が? お前を?」
ブリンドは顔を歪めたままハティに尋ねる。
「俺が」
とハティが答えれば、ブリンドは苦い顔で自分自身を指した。
「俺を」
こくんと頷きを返し、ハティは不安げにブリンドを見つめる。
「はぁ~~」
目を閉じて長い溜息を吐き、ブリンドは頭を掻くと、のろのろと店に入っていく。
いいのか、と尋ねる余地もなく、ハティも慌てて彼の後を追った。
おとなしくシャンプー台に収まったブリンドを信じられない思いで眺めつつ、ハティは籠からシャンプーとコンディショナーを取り出した。
薫りが強すぎないものを、と店員に頼むと石鹸の香りが微かにするタイプのものを渡された。
「この後何か予定が?」
「それはこっちが聞きてえんだがな。依頼関係なく出掛けんのも久々だろ」
「……予定は入れてないんだな」
そーだよ、と苛立たしげにブリンドが返す。
回りくどいハティに、端的を好むブリンド。ここがラグジュアリーなシャンプーバーであろうが、二人の会話は変わらない。
「むしろお前のこの後の予定は」
「いや、この店が目当てだ。倒すぞ」
シャンプー台を傾けながら、ハティは返事をする。てきぱきとタオルをブリンドの顔にかけつつ、
「寝ててもいいぞ」
とハティは声をかけると、洗髪を始めるべく蛇口をひねった。
予洗いを丁寧に済ませて、泡立てたシャンプーを髪につける。ふわっと香るかすかな清潔感を覚える香りは、なんだか気分が良かった。
「……最近……寝付きの悪さはちったあ改善したのか?」
しゃこしゃこと地肌を揉まれながら、ブリンドはタオルの下から尋ねる。
「ああ」
反射的に返事をしたハティは、ふと思い当たった。
自分の寝付きの悪さを口に出した覚えはない。ハティが眠れないことを知っているなら、ブリンドは自分と同じくらい眠っていないのではないだろうか。
そもそもブリンドはハティより先に起きる。
いつも朝に見るこの灰色の髪は、丁寧に整えられている。
(いつも、隙がないな)
出会った時から、一緒に暮らす今も、ブリンドは隙を見せてくれない。
シャンプーをしている今も、なんだかブリンドは落ち着かない様子だ。少しでも気分がこれ以上悪くならないように――途中でやめろと言われたら流石に辛い――ハティは殊更丁寧に手を動かす。
ようやくシャンプーを洗い流し、コンディショナーを髪に塗っていく途中で、
「髪を触られるのは嫌いか?」
とハティは今更尋ねた。
「ああ? 髪型崩されんのは誰でも……」
とまでブリンドは言いかけて、黙る。そういう話ではないのだろうと、タイミングを察して気づいたのだ。
「…………記憶をなくす前はどうだったか知らねえが。好きも嫌いも……似合わねえ事はやめただけだ」
似合わない?
髪を触られるのは似合わないのだろうか?
ハティは首を傾げる。
髪を洗い流しながら、
「俺は人と同じじゃなくても別にいい」
と言ってみる。ブリンドは髪を触らせるような甘えるような関係は自分にはふさわしくないと思っているのだろうか、と思ったからだ。
「それがアンタの意見なら考えるけど」
本当にそう思っているなら、考えるが、ブリンドは本心はそうではない気がして。そう付け加えた。
「きれいな色だと思ってた」
水気をタオルで取り、タオルの中で揺れる灰色をハティはまじまじと見下ろした。
ブリンドは顔のタオルで隠れた頬が熱くなるのを覚える。なんとか、
「物好き」
と言い返せば、淡々と平然とした声が返り、
「そうか? さ、乾かすぞ」
と流れるようにシャンプー台を起こされた。
「それにふわふわしてかわ……」
ドライヤー中にハティが呟くのを、暴風の中で聞き取れてしまったブリンドは、
「なんだって?」
眉を寄せてハティを獰猛な笑みを伴って鏡越しに睨む。
「お前も可愛くしてやろうか? 帰ってからでもいいけどよ」
「いやここで頼む」
なんとも暖簾に腕押しというか。
ハティはどこか嬉しそうに、いそいそとシャンプー台に座った。
●冗談だってば
シャンプーが所狭しと並ぶ巨大な棚の前で、笑顔で、
「僕にはどんな薫りが似合うと思う?」
と柊崎 直香はゼク=ファルに尋ねた。
「……甘い薫りが、いいんじゃないか」
「なるほど。じゃあこのコットンシュガーとかいうやつにしよう」
と頷き、籠にシャンプーとコンディショナーを詰めた直香は、上機嫌でシャンプーの個室へと向かう。
そして入室するなり、
「まあ洗うのはキミの髪だけど」
とゼクの背をシャンプー台めがけて押したのだった。
「いや待て俺が使うのか。なぜお前に似合うかを訊いた」
と押されながらゼクも訊くが、長年の付き合いでこの質問に返答がくるとは思っていない。
そして抵抗も意味が無いこともわかっている。
(俎板の鯉とはこのことか)
と内心ぼやきながら、ゼクは素直にシャンプー台に座った。
その間に、直香はひょいひょいと跳ぶように部屋の備品をチェックしている。
「残念ながら鋏は無いみたいだねー」
と不穏なことをつぶやいているが、ゼクはあえて聞こえなかったことにした。
いちいち引っかかっていても時間だけが浪費されるので。
「怖い顔は隠しちゃおう」
びたーん。と上機嫌な効果音を口にしながら、直香はゼクの顔にタオルをかける。
「んー、改めて見ると、ゼクの髪って本当に長いからさ。洗うの面倒だなって。ちょっとカットしちゃおっかなって」
「面倒なら洗うなんて言い出すな」
ため息がタオルの繊維をすり抜けて外界へあふれた。
壊さぬよう慎重かつ丁寧にゼクの角飾りを外し、安全な場所にそっと置く直香の動きが見えないゼクは、先ほどの直香の言葉に言い返していた。
「長いのは、生まれた村のしきたりだ。普通は成人したら切るんだが、タイミングを逃してな。別に、お前が切りたいなら切っても構わんが」
それを返答もせずに、直香は真剣な面持ちでゼクの髪を梳り、溜めた湯に広げて、そっと洗っていく。
水音とシャンプーがこすれるシャコシャコという小気味いい音だけが部屋を満たす。
(……普通に洗われている)
何かいたずらされるのでは、と身構えていたゼクは拍子抜けした。
むしろ、手つきは優しく、とても静かだ。いつもの彼らしくないくらい。
(本当に直香なのか?)
ふいに不安がよぎる。なんせ、視界はタオルで奪われているから。
「直香」
不安に押し出されるように、ゼクの唇が神人を呼んだ。
「うん?」
聞き慣れた声が返ってきて、ゼクは気抜けしたような気分になった。知らず、緊張していたらしい。
「僕はちゃんとここにいるよ」
笑いがこもっているような、しかし真剣な声音。
「白髪増えたかなって探してただけ。元から白髪みたいなものだけど」
「増えるも何も白髪は無いし俺は銀髪だ」
憮然とゼクが返す。しかし、憮然としつつも声に安堵が交じる。ああ、これでこそいつものやりとり。
「そういえば髪の色、いつも訂正してくるよね」
白髪と言えば、必ず銀だと訂正してくる。
「……昔、綺麗な銀髪って言った奴が居たんだよ。それで、何となく」
と言った後、ゼクはすぐに二の句を継ぐ。
「今はさほど気にしてない。お前が切りたいなら切ればいいって言っただろ」
「ふうん。本気で切りたいわけじゃないって」
気のないような返事をして、そして直香はひとりごとのように呟いた。
「綺麗な銀髪なんだから」
●何考えてるんだか
シャンプー台に寝かされ、日下部 千秋は内心思っていた。
(……先輩はナニヲカンガエテイルンダ……)
半ば強引にオルト・クロフォードに連れ込まれたシャンプーバーで、千秋はあれよあれよと洗髪されることになってしまった。
(……落ち着け俺。大丈夫。顔、見えないし今回は。うん、大丈夫何も見られない。『観察』されない)
と心のなかのひとりごとは矢継ぎ早。
逆にオレンジの香りのシャンプーを手に取りながら、オルトは落胆していた。
興味深い反応をする千秋を見てみたかったのに、顔がタオルで隠れてしまう。ここにくるまでオルトには、そこまで想像が至っていなかったのだ。そもそも誰かの髪を洗う事自体、オルトにとっては初体験である。
「……まぁ反応は顔だけではないからな」
と千秋に聞こえない声量で呟き、気を取り直してオルトは手にとってシャンプーを泡立て始めた。
鼻先で弾けるオレンジの香りに、オルトは尋ねる。
「……日下部は柑橘系が好きなのか」
「えぇ、猫じゃないんで」
やたらとオルトが千秋のことを猫だ猫だというので、千秋はいい機会だと思って言い返してみる。
オルトは黙りこんで何やら思案しているようだった。
そのまま見よう見真似に近いぎこちない洗髪が進む。
だがしばらくすれば、オルトも要領を掴んできて、気持ちのいいマッサージができるようになる。
「……ふぁ」
「……」
思わず千秋があげた声に、オルトの手が一瞬止まる。
(?)
なぜ止まったか自分で自分を理解できず、オルトは気を取り直して洗髪作業を進めた。
「……終わったぞ。次は俺だ」
「えっ」
千秋は目を見開く。
「洗いっこをすると言ったろう」
「あっ……ソウ、デシタネ……」
あれよあれよの間にそんなことを言われた気もする。千秋はビチリと固まった。
(先輩の髪を、俺が)
全身こわばる思いがする千秋。
亜麻色の短い髪だが、オルトのそれはさすが精霊という美しさを誇る。さらさらと気持ちのいい滑らかさを湛えていることは、見るだけで分かった。
(先輩の髪はできるだけ丁寧に洗おう。そうしよう。できるかわかんないけど!)
ぐ、と決心し、
「い、いいですよっ。どうぞっ」
気合の入った様子で、千秋はオルトにシャンプー台を譲った。
「し、失礼シマス……」
そおっと壊れ物にカバーをかけるように、タオルをオルトにかける千秋の手は緊張で震えている。
「……? そこまで緊張するものか?」
タオルの下でほくそ笑み、オルトは怪訝そうに言ってみた。
「そりゃあ……こんなサラサラで綺麗な髪を……触るかと思うと……」
と千秋は口の中でもごもごと返答するも、オルトには聞きとれない。
とりあえず、千秋はシャンプーを手にとった。
マリンの香りと書いてある海色のボトルだった。
「ところで、先輩、なんでこのシャンプーを?」
マリン系の香りが好きなのか、と思って問えば。
「いや、特にこだわりがないんだが。……適当に手にあたったのを取った」
「…………あ、そうですか……」
相変わらず、オルトは千秋以外のことに関して、極端に興味が無いのだ。自分自身をも含め。
千秋はとにかく『洗いっこ』を完遂させねば、と意を決してシャワーのカランをひねった。
●ずるいよ
爽やかなグレープフルーツの香りが部屋に満ちる。
「ふふー、桐華さん、かゆいとこはありませんかー? なんて」
シャンプー台に横たわるのは桐華だ。普段から、銀の髪を飾り付けのために弄られたり、洗髪されたり、は日常茶飯事なので、場所が変わっただけで特段何か特別な気にはなれない。
「改まってするのも楽しいね」
ただ、いつもと違うシャンプーの香りだけが非日常を二人に思わせていた。きつい香りだと酔ってしまうから嫌だ、と思っていたが桐華が何も言わなくても、叶がチョイスしてきたシャンプーは品のいい爽快な香りを漂わせるセンスの良いものであった。
寝そうだ、と気分のいいまどろみのような安らぎに包まれながら、桐華はつらつら考える。
(髪を触らせるのは、かなり仲のいい証拠、か……ふぅん)
出会った当初から、叶は桐華の髪をいじるのが好きだったが。
「はい、お疲れ様」
シャンプー台を引き起こした叶は、タオルで丁寧に桐華の髪を包んで、ポンと軽く叩く。
「終わったか。なら、次は叶の番な」
と振り向く桐華に、叶は少し戸惑う。
「……うん? 僕も?」
そんなつもりはなかったので、叶は目を彷徨わせた。
「いや、僕は別に」
「嫌なのか」
どこか悲しそうな目で見られたら、叶も弱い。
「……嫌なわけじゃないけど……」
と否定する。
後ひと押し、と悟り、桐華はしょげた口調のまま続ける。
「……『かなり仲の良い証拠』なら、俺もって思ったんだけど……」
「もう、分かったよ」
ふぅと息を吐いて、叶はすんなりとシャンプー台に収まった。
(……意外とちょろいな)
桐華は内心クスリと笑むと、籠からシャンプーを取り出す。
それを眺めた叶は、用意周到だな、と呟いた。
「どのシャンプーにするかも決めてるの? ふぅん」
髪を湯で濡らし、ボトルのポンプを押せば、優しい高貴なアロマが広がった。
(……薔薇の香りだ)
叶は鼻腔をくすぐる香りの名前を想い、そして思い出す。
あのむせ返るような芳しい薔薇の香りに包まれたあの夜を。
「……ねぇ、桐華さん。もしかして薔薇園のこと思い出してる?」
叶の声掛けに、桐華は作戦成功だと微笑んだ。
嗅覚は人の記憶の最も根幹をなすもの。だから、薔薇の香りを嗅げば、あの告白した日のことを思い出すだろうと思って、このシャンプーを選んだのだ。
「随分ロマンチックな告白をくれたよねぇ」
「ああ」
叶はフフッとタオルの下で笑った。
「思い出したんなら、もう一回言ってくれてもいいんだよ?」
「あの時は俺が言ったけど、お前から言ってくれても、いいだろ」
えっと叶が予想外の返答に戸惑うのが、タオル越しでも桐華にはよく分かる。
「いやいや、ほら、これこそ、心がほぐれてる今だから言えるってやつでしょ」
「ほら、いま『心のほぐれてる』のは、お前の方なんだから」
「うぐう」
正論で返されて叶が黙りこむ。
だから桐華は、助け舟をだしてやる。
「別に、終わってから言ってくれてもいいけどな?」
(くっ、最近の桐華さんがずるい……)
叶は逃げ場がないことを悟る。
「終わってからって……いやいや……そんなの、ますます言いづらいよね……」
ぶつぶつ呟いてから、叶は物凄く長い時間を置いて、
「…………好きだよ」
ととうとう言った。
「うん」
「う、うん? うんって? ……うんじゃないよ、もう……!」
タオルの上から顔に手を押し当てて悶絶する叶を見下ろし、
(下手くそ)
桐華は思う。叶は好意の伝え方がどうにも下手だと。
照れているだけならいいのだが。
(……どんな育ち方したんだよ……)
親代わりのあのファータを思い出し、桐華は眉をひそめた。
●ありがとう
店員に教えてもらったリラックスできるシャンプーは、ラベンダーの香りだった。
いっぱいありすぎてシャンプーの森で迷子になりそうだった信城いつきは、素直に店員にアドバイスを求めたのだ。
「いいの? 大丈夫? 私の髪は長いから大変だよ?」
と恐縮するレーゲンに、いつきは洗ってあげると強く言ったのだ。
「じゃあ、お願いするね」
と嬉しそうに微笑んだレーゲンに喜んで欲しくて、『眠ってしまうくらいリラックスしてもらうのだ』と気負っているいつきである。
シャンプー台に寝そべったレーゲンの青い長い髪をそっとそっと絡まぬように解きほぐす。
まるで宝物のようにいつきは丁寧な手つきでレーゲンの髪を洗った。
「どこかかゆい所ないですかー」
「あはは、そう言うとなんだか本職みたいだね」
と朗らかにレーゲンが言う。
「それにしても、レーゲンの髪は綺麗だね。色も、艶も……」
と感嘆の声をあげるいつきに、レーゲンは今度は苦笑する。
「特に手入れや色を染めてる訳じゃないよ。ただ、薄い青色は亡くなった母の髪に近いと言われるね」
などと雑談していれば、リラックスしても眠りはしない。
「レーゲン、もう眠った?」
といつきが訊いてくるしで。
「いいや?」
と返事をすると、いつきは困ったようにしばらく思案の後、
「よし」
と頷くなり、子守唄を歌い始めたので、流石にレーゲンも吹き出してしまう。
「リラックスして欲しいのは分るけど、さすがに子守歌は反則だよ」
しかしいつきは一生懸命歌いながら、丹精込めてレーゲンの髪を丁寧に丁寧に洗い続ける。
(頑張ってくれてるし、ね……)
レーゲンはタヌキ寝入りを決め込むことにした。
気持ちが良くて、まどろもうと思えば簡単だが、いつきがレーゲンのために懸命なところはあまさず感じていたいのだ。
だが、逆に一生懸命眠ってもらおうといつきが頑張っているのだから、がっかりさせたくもない。故に、寝たふりである。
静かな中、ラベンダーのアロマが広がり、湯は温かい。
いつき自身もリラックスして、いい気分で、レーゲンを見やる。タオルが顔にかかっているが、こんなにじっくりレーゲンを見つめられる機会もそうそうない。
「レーゲン……眠った、かな?」
いつきにぽしょぽしょと囁かれ、返事をしてしまいそうな自分を必死に抑えるレーゲン。
ついに眠った、といつきは判断し、微笑んだ。
「……ずっとレーゲンに守ってもらってるな、俺。昔も、今も」
過去を思い出して、折れそうになった時も、ずっとずっと支えていてくれたレーゲン。
感謝の気持ちに後押しされるがまま、いつきはレーゲンの額に口付けた。
「えっ!?」
寝たふりも限界だった。レーゲンは慌ててタオルをはぎ取る。
「わわっ!」
すっかり眠っていると思って油断していたいつきも、驚愕に目を見開く。
「レーゲン起きてたの!?」
寝たふりだったが、それを白状するわけにも行かず、レーゲンはごまかしつつ話をそらす。
「あっえっ、いや、その今目が覚めたところで……ところで今、何かした?」
いつきの顔が真っ赤に染まる。
「い、いい、今のは香りをかいでただけ!」
わたわたと言い訳をするいつきを見て、レーゲンはクスクス笑う。
「してない?」
「してないっ!」
レーゲンの『何もかもお見通しだよ』と言う笑い顔は、慌ててブンブン首を振っているいつきには見えていないけれど。
愛らしいな、と思いながらレーゲンは、いつきを見上げていた。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | ロマンス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 01月04日 |
| 出発日 | 01月14日 00:00 |
| 予定納品日 | 01月24日 |


