


「たまには、のんびり散歩でもしようか」
そう思って、一人タブロスに程近い所にある町を散策したのは、
秋の終わりが近づくとある日だった。
『あの人』の居ない時間が、
何だか少し新鮮で、少し落ち着かない……様な気がしなくもない。
相手の顔を思い浮かべながら、足の赴くまま町中をゆっくりと巡り――
その内に歩き疲れて、町中にある公園を訪れた。
公園の隅に幾つも設置されているベンチの一つにそっと腰掛ける。
少し冷たくなってきた風が、色付いた葉を揺らして舞い落としていく。
公園中央にある噴水では、打ち出された水が、幾度も幾度も舞い踊る。
その噴水付近には、色鮮やかな蝶が何匹も舞い飛んでいた。
――そろそろ、あの人の元へ帰ろうか。
十分足を休め、そう思い始めたその時。
此方へ真っ直ぐやって来る一人の男性の姿を見つけて、じっと視線をやる。
彼は自分の目の前までやって来ると、軽く一礼した。
「どうも。僕は、この町で郵便配達員をしているアモルと申します。
少しだけ、お時間頂けないでしょうか……えっと、ウィンクルムの方。
唐突なのですが、貴方には『伝えたくとも伝えられない言葉』はありませんか?
例えば、そう……何時も行動を共にされているというパートナーの方に、だとか」
本当に唐突な話だな、と思いつつ適当な相槌を打ちながら話を聞く。
彼は、鞄から徐に蝶の形をした紙とペンを取り出して、それを自分に見せてきた。
「もし『あれば』で良いのです。この紙で、その想いを書いてみませんか?
これは、同僚のプシケという者が作り出した全く新しい形の便箋なのですが。
『専用のペン』で普通に内容と宛名、貴方の名前を書いて、
秋風でも吐息でも、兎に角何かの風に乗せて飛ばして頂きますと、
蝶の様に舞って、宛名の人物の元へ飛んで行くのです。
相手の方が読み終えれば、紙からは文字が全て抜け落ちて――」
言いながら、ちらと噴水へ――
というより、先程目を留めたあの色鮮やかな蝶の群れへと視線を移す。
「あの様に、『只の紙の蝶』になってしまう代物です。
後数刻もすれば、やがて地に落ち、元の紙きれに戻るでしょう。
口に出そうとすると、緊張で頭が真っ白になってしまったり、素直になれなかったり、
どもってしまったり、言い間違えてしまったりして伝えられなかった言葉も、
時間を掛けて、伝えたい事・使う言葉を整理できれば、
きっと上手く相手に伝えられると思うのです。
貴方にもそういった経験があれば、是非この便箋を試してみませんか?」
秋風が吹く公園で、ペンと不思議な形の便箋を差し出された。
差出人の姿は、頭に何時だって浮かぶ『あなた』。
『伝えたくとも伝えられない言葉』――これを機に、書いてそれを伝えてみようか?
面と向かっては言い辛いから、貴方の元へと帰る前に。
秋風に、吐息に託して、音の無い言葉をあなたへ――


※ペア別に執筆させて頂きます。
他PLとの交流はできません、予めご了承下さいませ。
*-----*
普段のデート系とはちょっと違った、
『言いたくても言えない言葉』を、手紙で伝えるエピソードとなります。
不思議な便箋に思いを綴り、風に乗せて届けましょう。
何か事情が書かれていない限り、
送り手には手紙を飛ばした後で、手紙の届いた相手の元へ帰って頂きます。
【手紙を送る側】
1.プラン冒頭に『☆』の記入
(送り手・受け手把握の為です。必ずプラン内にお書き下さい)
2.手紙の内容
3.手紙を書く時&相手の元へ帰った時の気持ち・行動等
【手紙を受け取る側】
1.手紙をどう読むか
(受け取る場所・読むタイミング等何かこだわりたい点/無ければ未記入でもOK)
2.手紙を読む時&相手が帰って来た時の気持ち・行動等
以上の事をお書き下さい。
字数が余れば、更に自由に書き加えて頂いて結構です。
(相手に○○な事をしたい!△△と言いたい!等々)
☆プラン文字数には制限があります。
特に【送る側】のプランは、文字数が圧迫する可能性が考えられます。
手紙の内容に文字数を割くか、気持ちや行動面に文字数を割くか、
よく考えた上で書かれる事を推薦します。
☆NPCは無視して頂いて結構です。
≪費用≫
不思議なお手紙の代金として、500jrを頂戴します。
※注意※
1.文字が抜け落ちた蝶の便箋に、再びペンで記入する事はできません。
2.蝶の便箋は役割達成後逃げてしまうので、記念として手元に残す事はできません。
3.送り手の初期位置は、『タブロスに程近い所にある、とある町』となっています。
タブロス市からなら、歩きでも十分行き来できる距離です。
今回は、初ハピネスエピソードに挑戦させて頂きたく思います。
「こう言いたいのに言えない!言ったのに伝わってない!もどかしい!!」
――口下手さんや、素直になれない方なら
この気持ち分かるのではないかなぁ……とか。
ちょっとだけこの辺りで、正直になってみませんか?


◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
|
☆ ディエゴさんは昨日の夜、仕事に行ったきりです もしかしたらもう家に帰ってるかもしれませんが 笑顔で送り出すようにはしてるんですけど…この気持ちは知っておいてもらいたい。 【手紙】 お仕事お疲れさまでした もう家に帰ってる頃ですよね? ウィンクルム活動の中で得た経験や知識を活かして人を助けたいっていうディエゴさんの気持ち、とても素晴らしいと思います、頑張ってもらいたいとも。 ですけど…これだけは心に留めておいてください あなたが心配でたまらない時があります、怪我をしてないか、無理をしてないかとか…。 だから、私と過ごす時間を増やしてくださいね。 【帰宅】 ディエゴさんの無事を確認して抱き着く 仕事の話は快諾する |
|
心情 この手紙からは打算の香りがしますね。 行動 良い部分しか見てないなんて、なぜそう思ったんですか? ご安心ください! 私の恋心に気づきながらはっきりした返事をせずに先延ばしにしている時点で、ラダさんは優柔不断な人だと、悪いところもちゃんと認識していますよ! 不確かなもの、という言葉が突き刺さる。 悲哀混じりの苦笑で。 あなたのことが好きですが、つらいです。 ……愛情を試す行為は、そもそも私の気持ちを信じていないと言っているようなものだと気づいていますか? すがすがしいほどクズな本音ですね! って、それは告白と解釈してもよろしいでしょうか!? うふふ……。 怖い顔に似合わず、ラダさんはムダにロマンチストなんですから。 |
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☆ 手紙内容 『ミュラーさんへ。 いつも傍にいてくれてありがとう。 一緒に居るととても楽しいの。 そして色々と新しい体験が出来るのも嬉しいわ。 世界には私の知らないこと、まだまだ沢山ありますね。 いろいろな出来事を一緒に過ごしてゆきたいです。 ずっと一緒に過ごせますように』 手紙を書くときいつも思います。 私、こんな事を考えているのね。 改めて自覚してしまいます。 面と向かって言うのは、無理。恥ずかしいです。 どんなタイミングで言っていいのかも判らないし。 でも手紙なら大丈夫。 書いた文面を見て、少し迷って。 決意して。 白い蝶さん、私の気持ちをミュラーさんにそっと伝えて下さいね、と祈るようにイチョウの葉を揺らす風に乗せます。 |
|
☆ …伝えたいこと、ね… あの時はからかわれて、言えなかったし…(EP9 まあ、試してみる価値はあるわね… “契約してあなたと上手くやっていけるかどうか不安だった 今もやっていけるか分からないし、 依頼で足手まといになることもあったかもしれない それでも、あなたは私の心の支えになってくれてる ありがとう” …こんな、感じで良いわよね。本当に届くか分からないし あ…良い風が吹いてるわね……えい(飛ばす ・帰宅 後先考えずに書いたけど…まあ、普通にしてれば良いわよね …なによ? え? …そ、そう……さあ、知らないわ そんなことないはずよ。書いたあと誤字がないか確認したわよ… ……あら、ハメるなんて良い度胸ね…(笑み |
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☆ 逸れてしまい慌て探している所 故に手紙の仕様を把握し切れぬまま言えない願い事を書く したためた内容を見て内心 ウィンクルムになった事でお側付メイドとして雇われる事になり お優しい旦那様と日々のお仕事 そして今日はウィンクルムとして一緒にお出かけして そんな充実した日々を送らせて頂いているのに私ったら こんな事を思うなんて厚かましい‥ 合流 彼の言葉に 「とんでもございませんご迷惑を‥(赤面 紙を見てぎょっとする 「はわわっももも申し訳あり‥ 自責恐々で俯き言葉が出ない (まさかあれが旦那様に届くものだったなんて!私何て事を 嬉しかったよの言葉にハッと 「それでは‥? 少し期待顔 |
秋風が吹く。ひらり、ひらりと蝶は、風に乗って舞う。
●白い蝶に託して
≪ミュラーさんへ。いつも傍にいてくれてありがとう。
一緒に居るととても楽しいの。そして色々と新しい体験が出来るのも嬉しいわ。
世界には私の知らないこと、まだまだ沢山ありますね。
いろいろな出来事を一緒に過ごしてゆきたいです。
ずっと一緒に過ごせますように≫
几帳面で丁寧な文字が白い蝶の羽の上にスラスラと記されていく。全てを書き終え、瀬谷 瑞希は並んだ文字を見つめて思った――「私、こんな事を考えているのね」と。手紙を書く時は、何時もそうだった。文字にしてみると、改めて自分の抱えている想いを見つめ直せる事がある。瑞希は考える事が好きであったが、感情的な部分を表すのはどうにも苦手だった。だから、もし今手紙に綴った言葉を「面と向かって言え」と言われれば、恥ずかしくてできなかっただろう。どんなタイミングで言っていいのかも判らなかっただろう。けれど、手紙ならばきっと上手く彼に伝えられる。
公園には、黄色く色付く銀杏の葉を揺らす優しい風が吹いていた――この風なら、そっと彼の元へこの想いを届けてくれる筈。手放す前に、書いた手紙を読み直す。そうすると、ほんの少しだけこれを手放す事が躊躇われた。風に撫でられて、蝶の羽が僅かにパタタ……と羽ばたく。それはまるで、「早く自分を行かせてくれ」と言っている様であった。瑞希は、一時迷った後に決意して便箋を秋風に乗せた。
「白い蝶さん、私の気持ちをミュラーさんにそっと伝えて下さいね」
祈る様な言葉を受けて、白い蝶の手紙はふんわり飛び立った。その後ろに、枝から離れた銀杏の葉をお供として引き連れて。
*
秋晴れの、気持ちの良い日。フェルン・ミュラーは、自室で静かな音楽を聞きながらゆったりとした時を楽しんでいた。ふわり……と、開け放した窓からは心地よい風が何度も出入りしている。
ふと、白い何かの姿が目の端に見えた気がして、視線を寄越してみた。机の上に、白い蝶が一羽とまっている。この蝶は、一体何処から入って来たのだろう?ゆっくり羽を動かす蝶に、フェルンは興味を惹かれて手を伸ばす――不思議な蝶だ。じっくりその蝶を眺める内に、彼はそれが『手紙』である事に気が付いた。几帳面そうで丁寧な文字が並んでいる。この文字は、紛れもなく――
「――ミズキのものだ」
一目見て、直ぐに『彼女のもの』だと分かった。『文字には人柄が表れる』というが、まさしくその字には彼女の思慮深く真面目な面が表れていた。そんな文字で綴られていたのは『いつも』への感謝と『いつまでも』というささやかな願いであった。
「手紙で伝えてくる所がミズキらしいな」
読みながら、彼は思わずくすっと笑んだ。言葉で何度でも好意を伝えたくなる様な彼とは違い、彼女は「面と向かって言うのは恥ずかしい」と思う様な人だった。だから、こうして手紙で想いを寄越してきたのだろう。それに、嫌な気はしなかった。寧ろ、そんな彼女がこうして想いを伝えてくれた事が嬉しかった。
「向けられる好意を耳で確認するだけじゃなくて、
こうして文字で表わして貰うのも、改めて見ると良い物だね」
消えてゆく文字を見守りながら、フェルンは呟いた。今日、彼女からまた一つ新しい見方を教わった。自分と正反対な彼女からだからこそ学び取れる、新しい視点だった。
*
「ミュラーさん」
扉の開いた音と共に、瑞希が少し気恥ずかしそうな顔をして部屋へ入ってくる。そんな彼女を迎え入れ、フェルンは瑞希を優しく抱きしめた。
「君の気持ちは、良く分かってるよ……お手紙ありがとう」
優しい声に、瑞希は嬉しそうに笑った。伝えられて、伝わって良かった――その思いと共に、フェルンを抱きしめ返す。これからの『ずっと』という時の中で、二人はどれ程の体験を共にしていくのだろうか。
●言えなかった『感謝』を
「伝えたい事、ね……」
呟きながらシャルティはとある記憶を思い返していた――二人きりの浜辺で、伝えたかった感謝の言葉があった。けれど、あの時はからかわれて結局伝えられなかった。それが、ずっと胸に引っかかっていた。
「まあ、試してみる価値はあるわね」
『魔法の手紙』等という不確かな物だ、本当に届くかは分からない。けれども、試すだけなら。そう思って、あの時口にできなかった言葉を綴っていく――
≪契約してあなたと上手くやっていけるかどうか不安だった。
今もやっていけるか分からないし、依頼で足手まといになることもあったかもしれない。
それでも、あなたは私の心の支えになってくれてる。
ありがとう≫
こんな感じで良いかしら、と書いた手紙を眺める。その間に、丁度良い風が吹いてきていた――飛ばすなら、今だ。
「――えい」
紙の蝶を風に乗せる。蝶は、初めは頼りなさげにフラフラと、けれど直に綺麗に風を捕まえて飛んで行った。
*
丁度借家の前に居たグルナ・カリエンテは、頭にパサリと降って来た物に気付き、それを摘み上げた。
「……何だ、これ?」
蝶の形をした、奇妙な紙であった。文字が書き込まれている所を見るに、どうも『手紙』らしい。「一応見ておくか」と読み始めてみれば、すぐにそれが誰からの物なのかが分かった。片眉を上げて不思議がりながらも、一先ず黙って最後まで読み進める。
「……ったく、直接言えねぇのかアイツは」
読み終えた第一声には、少しだけ呆れの色が混じっていた。
「いや。アイツが直接こんな事言ってきたら言ってきたでこえーか」
続く言葉には、可笑しげな笑いが混じっている。試しに、そんなシャルティの姿を思い浮かべてみるが――あり得ないな、グルナは直ぐにそう思ってまた笑う。別に不安がる事などないのに、性格に似合わず意外と彼女は心配性らしい。
「しかし、アイツ『心の支え』とか何だとか書きやがって……あーくそ!むず痒いっての!」
手紙に書かれた言葉が、グルナには照れ臭く擽ったかった。誤魔化す様に、片手で髪を掻きむしりながら改めて手紙を見る。既に殆どの文字は消えてしまっていて、只一言『ありがとう』の文字だけがうっすら残っていた。
「…ありがとう、か」
完全に消え去るまでその字を見つめ、グルナがぽつりと呟く。
「…その言葉、シャルティで初めて受け取ったかもしんねぇな」
初めて送られた感謝の言葉。それにグルナはふっと苦笑した――そんな言葉を、まさか自分が貰う日が来ようとは。彼の心に、その言葉が不思議な重みを伴って残った。それは、何とも落ち着かない重みだった。
*
「なあ」
「なによ?」
帰宅して早々。短く声を掛けられて、シャルティは短く返答する。
「手紙が届いたんだけどよ。あれ、お前か?」
「さ、さあ?知らないわ」
冷静を装いながらシラをきるシャルティに、グルナが「ふぅん」と胡散臭そうな視線を寄越す。
「確かあの手紙、字間違えてたなぁ……」
「そんな事ない筈よ。書いたあと誤字がないか確認し……」
ハッとして、慌ててシャルティは口元を抑える。そんな彼女の様子を見て、グルナは愉快そうに笑った。
「ははは!上手く引っかかったなぁ!」
「……ハメるなんて良い度胸ね」
そう言いながらも、シャルティの顔には笑みが浮かんでいる。結局こうしてからかわれる事になったが、伝えたかった事はもう伝えられたのだ。
「……ほら!いつまで笑ってるのよ!」
ゲラゲラ笑うグルナに、シャルティは水晶玉を投げつける。グルナは、相変わらず笑いながらもそれを受け止めた。『上手くやって行けるか不安だった』――でも、今ならその自信が少しある。投げつける水晶玉を受け止めてくれる様に、あの言葉を彼は受け止めてくれたのだから。
●もっと共に居たいから
受け取った便箋に、ハロルドはペンを走らせていた。昨晩仕事に出かけたきり帰って来ない人の顔を思い浮かべながら、『言いたくても言えずにいた事』を書き綴っていく。
≪お仕事お疲れさまでした。もう家に帰ってる頃ですよね?
ウィンクルム活動の中で得た経験や知識を活かして人を助けたいっていう
ディエゴさんの気持ち、とても素晴らしいと思います、頑張ってもらいたいとも。
ですけど……これだけは心に留めておいてください。
あなたが心配でたまらない時があります、怪我をしてないか、無理をしてないかとか……
だから、私と過ごす時間を増やしてくださいね≫
書き終えて、一つ息を吐く――仕事熱心な彼の事を、ハロルドはきちんと理解しているつもりであった。だからこそ、何時だって仕事に向かう彼を笑顔で送り出せる様努めてきたのだ。けれど、一緒にいられない時間が多くなると寂しくなる。独りでいると、悪い考えが頭を過って無性に不安になる。「もっと一緒の時間があれば良いのに……」とは思う。けれども、それを言うのが何時だって躊躇われた。彼の意志を尊重したかったから。
(でも……やっぱりこの気持ちは知っておいて貰いたい)
このまま、帰りを待つ日々を過ごし続けるのは辛い。だから、ありのままの気持ちを手紙に託して、今こそ彼に届けよう、そう考えた。
書き終えた蝶の手紙を手の平に乗せる。『知っておいて貰いたい気持ち』が、羽に規則正しい模様の様に書き込まれている。促す様に、蝶を乗せた手の平を宙に差し出した。蝶は一度だけ羽を開閉すると、やがて風に乗って静かに去って行った。
*
日がすっかり昇った頃。調査を終えて帰宅したディエゴ・ルナ・クィンテロは、家に同居人の姿が見えないのに気付いた――買い物にでも行っているのだろうか?何時もはそこにある筈の姿が見えないのが少し気になった。
仕事でかいた汗をシャワーで流し、疲れを取る為に少し眠ろうかとしたその時。どこからか一羽の蝶が迷い込んで来た。それはディエゴの前で暫くひらひら舞い、彼の手の上へゆっくりと降りる。そして、そっとその羽を開き、そこに書かれた文字を彼に見せてきた。「手紙だったのか」と少し驚きながらも、並んだ文字に目を通す。そこには、ディエゴの身を案じ気遣うハロルドの思いが綴られていた。「いってらっしゃい」――その言葉と共に笑顔を浮かべて自分を見送るハロルドの姿が頭に浮かぶ。何でもない様子で『綺麗に』笑んで見せるその裏にあった想いに、ディエゴは手紙を読んでようやく気が付いた。
「……はぁ、俺もまだまだだな」
自分に気を遣わせない為の彼女のその行動。何時も傍にいて、何故それに気づいてやる事が出来なかったのだろうか。手紙を読み終えた今、寝ている場合ではない――笑顔で見送ってくれていた分、今度は自分が彼女を出迎えてやる番だった。
*
「おかえり」
玄関へ行き、帰って来たハロルドにディエゴはそう声をかける。その声を聞き、姿を見つけて、途端にハロルドが安堵の表情を浮かべた。そして、ディエゴに飛んで抱き付く。
「ディエゴさんも、おかえりなさい!」
その身をしっかり受け止め、ディエゴは安心させる様にそっと抱きしめ返す。
「……なぁ、エクレール。少し考えたんだ。
この仕事は一人だと大変だ。だから、俺には気の合う助手が必要なんだ。
お前が手伝ってくれると嬉しい」
仕事の話を打ち明けるディエゴにハロルドは視線を合わせる。そして「勿論です」と、心底嬉しそうに笑んで見せた。
「これからは、一緒に過ごせる時間が増えるんですね」
「そうだな」
そんな彼女に釣られて、ディエゴも優しげな笑みを返した。かけがえのない人と共に過ごせる時間。どんな形であれ、それもまたかけがえのない物に違いない。
●愛を試す手紙
≪エリーはボクに好意を向けてくれるけど不安なんだ。
アンタはボクの良い部分しか見えてないんじゃないかって。
ボクの中の汚くて醜い部分を見た時に幻滅しない?≫
ラダ・ブッチャーが風に乗せた思いは、無事にエリー・アッシェンの元へ届いていた。ラダが日頃から感じていた不安――それは、エリーが自分に向ける愛情への不安だった。彼には、エリーの思いをどう受け止めれば良いのかが分からなかった。
そんなラダの不安を知り、エリーはクスクスと可笑しげに笑う。受け取った手紙から彼女が感じたのは『打算の香り』だった。ならば――軽いノリで返してみせようか。
「ご安心下さい!私の恋心に気づきながらはっきりした返事をせずに先延ばしにしている時点で、
ラダさんは優柔不断な人だと、悪い所もちゃんと認識していますよ!」
彼女の思っていたのとは大分違う反応に、ラダは面食らった。『そういうのとは違う、もっと醜い部分を見つけたら?』そう尋ねたくて口を開く。しかし、その言葉をエリーの問い掛けが遮った。
「逆にお聞きしましょう、ラダさん。
私が貴方の良い部分しか見てないなんて、なぜそう思ったんですか?」
微笑を浮かべてラダの答えを待つエリー。ラダは、「それは……」と何か言いかけながらも、結局口籠ってしまった――いざ、言葉にしようとすると、喉元に痞えて中々出てこない。返答を待ち続けるエリーの視線を受けながら、ラダは冷や汗が噴き出してくるのを感じた。エリーの想いを確認する為に手紙を送ったのに、何時の間にか自分の想いをエリーが確認する形になってしまっている。きっと彼女は、自分が答えるまで待ち続ける事だろう……言わなくては。
暫く後、漸くラダは観念して口を開いた。
「……怖いんだ。恋愛って壊れやすくて怖い。不確かなものに翻弄されて傷つくのも嫌だ」
ラダが少しずつ零していく言葉に、エリーの表情が少しずつ悲哀交じりの苦笑に変わった。
「……あなたの事が好きですが、その言葉は辛いです」
エリーの胸には、先程ラダが発した『不確かなもの』という言葉が突き刺さっていた。自分の想いがその様に彼に捉えられていたと思うと、胸が痛む。
「愛情を試す行為は、そもそも『私の気持ちを信じていない』と、
そう言っているようなものだと気づいていますか?」
「それは違う!」
悲しげに発せられる問いに、ラダは即座に否定する。瞬き、微かに驚いた様子を見せるエリーに、彼は必死に言葉を繋ぎ、訴えた。
「違うよ。ボクがどんなに臆病で卑怯な仕打ちをしても、
エリーなら受け止めてくれるって見通しがあるから試せるんだよぉ!」
一瞬の間が空いた。その後に「……あれ?」と、ラダは自分の発した言葉を頭の中で反芻し始める。エリーの手の内にあった紙の蝶が、三度羽を開閉させて文字を落とすその僅かな間に、ラダは漸く気が付いた。
「これってエリーの愛を超信じてる前提なんじゃ……」
エリーの愛情を『不確かなもの』だと思っていた筈なのに、心の何処かでは『確かなもの』だと信じていた――それに気付いた時、不安が少しずつ胸の中で小さくなっていった。
「うふふ……っ!すがすがしいほどクズな本音ですね!」
そういうエリーの顔からは、既に悲哀の表情が消えていた。彼女は、間髪入れずに「それは告白と解釈してもよろしいでしょうか!?」と、ラダに問いかける。そんな彼女の様子に、ラダは照れてみせた。
「それについては……今日はドタバタしちゃったから、落ち着いた雰囲気の時に改めて話したいなって」
「うふふ……怖い顔に似合わず、ラダさんはムダにロマンチストなんですから」
「顔のことは言わないでよぉ、エリー」
緊張が解けた様子の二人。『落ち着いた雰囲気の時』が何時になるかは分からないが、それはきっとそう遠くない日なのだろう。
●厚かましい願い事?
共に来た人と逸れてしまい、途方に暮れていたマーベリィ・ハートベル。彼女もまた、便箋にペンを走らせていた。しかし、逸れた事に慌てた彼女は、この便箋が『宛名の元へ勝手に飛んでいく代物』だという事を把握しきれていなかった。
(内容は、こんな物で宜しいのでしょうか?)
短い一文をしげしげと眺める――メイドとして働く自分の主人であり、ウィンクルムとして契約を交わすパートナーでもある彼に宛てた文。優しい主人の元で日々仕事をこなし、ウィンクルムとして一緒に外出させて貰える、そんな毎日は彼女にとって間違いなく充実の日々だった――それなのに。
(私ったら、こんな事を思うなんて!)
読み直してみれば、それはとても厚かましい物に思えた。こんな事を彼に願っても良いのだろうか?否、良くは無い!けれども……なんて悶々としている間に、突風が彼女の手から蝶の便箋を攫う――秋風は、とても気紛れなのだ。
「……あ!」
慌てて手を伸ばすも、届かない。あっという間に遠くへ飛んで行ってしまった便箋を、マーベリィは諦めて見送るのだった。
*
共に来た人と逸れてしまい、町中を探し回っていたユリシアン・クロスタッド。温かい飲み物を買う僅かな間に姿が見えなくなった彼女が、中々見つからない。不慣れな地で逸れてきっと心細く思っているに違いない。「早く見つけてあげないとな」そう思っていた矢先、ひらひらとした物が舞い降りて来て足を止めた。蝶の様だが体は紙である。
「おや。兄さんの所に、誰かが魔法の手紙を寄越した様だね。
コイツは宛名の所に自分で飛んで行って、相手が読み終わったら白紙に戻るんだよ」
偶然通りかかった気さくそうな小母さんが、手紙とユリシアンを面白そうに眺めている。
(ふむ……魔法の手紙、か)
蝶に書かれているのはたったの一文。それを読んで、彼は思わず笑った。
「成程。これはマリィの……」
蝶は、相手が読み終えたと分かると文字を落としながら何処かへ飛んでゆく――蝶の行く先を追えば、彼女がそこにいるかもしれない。そう考えたユリシアンは、その後を追う。
*
蝶を追ってやって来た公園で、ユリシアンは安堵の息を吐いた。探し人はやはりそこに居た。
「マリィ!一人にさせてすまなかったね」
「とんでもございません!ご迷惑を……」
赤面するマーベリィの視線を、ユリシアンはどこかへ去っていく蝶に向けさせた。
「あれを送ったのは君だろう?」
一瞬不思議そうな顔をしたマーベリィだったが、直ぐにそれが何か悟った様だ。
「はわわっ!ま、まさか届くなんて……」
酷く慌てた様子で「ももも、申し訳ありません!」と謝ってくる彼女の言葉を遮り、ユリシアンは悪戯な表情を浮かべて顔を寄せる。
「……朝の僕はそんなに刺激的かい?」
途端に、マーベリィは赤かった顔を更に赤くして俯いた。そんな彼女の様子を、ユリシアンが楽しげに笑う。少し悪戯が過ぎたかな?と思いつつ、彼女に顔を上げて欲しくてホットドリンクを手渡した。
「けれど、嬉しかったよ。マリィの本音が聞けたのは。
君とは是非率直な言葉を交し合える関係になりたいね」
「!それでは……?」
期待に満ちた表情を浮かべるマーベリィに、ユリシアンはウィンクを送る。
「考えておくよ――さぁ、行こうか」
そうして、自然な動作でマーベリィの肩を抱いて歩き始めた。
(期待しても宜しいのでしょうか……)
並んで歩くユリシアンの顔を伺い見ながら、マーベリィは手紙に書いた『願い事』と何時もの朝を思い返す。
≪お休みの時はパジャマ着て!≫
手紙に託したのは、何時も上半身裸で休む主人に対する、彼女の厚かましい(?)願い事。
起こしに行く度赤面する自分をからかってくる主人に対する、小さな願い事だ。
――それが叶うかどうかは、明日の朝が来るまで分からない。
*
秋風が吹く。ひらり、ひらりと蝶は、風に乗って舞う。
何処かの言葉では、『蝶』と『心』は同じ語を使うらしい。この手紙もまた、蝶の形をした誰かの心であった。
ひらり、ひらりと蝶は、きっとこれからも誰かの心を運ぶのだろう。
| 名前:瀬谷 瑞希 呼び名:ミズキ |
名前:フェルン・ミュラー 呼び名:フェルンさん |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 永末 そう |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 女性のみ |
| エピソードジャンル | ハートフル |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 11月11日 |
| 出発日 | 11月19日 00:00 |
| 予定納品日 | 11月29日 |

2015/11/18-00:25
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのミュラーさんです。
皆さま、よろしくお願いいたします。
さて、何をしたためましょうか。
2015/11/18-00:09
2015/11/16-21:01
ま‥
マーベリィ・ハートベルといいます。
よろしくお願いいたします。
えっと、この紙に人に言えない願い事をしたためればよいのですね?
(いまいち趣旨を理解していないようだ)
プランを提出 えいっ
2015/11/14-22:48
…シャルティ。どうぞよろしく。
一応書くのは私になる、けど
べ、つに…感謝の気持ちが言えないから書くんじゃないわ。絶対に絶対(焦
2015/11/14-21:49
うふふ……、エリー・アッシェンです。
リザルトで交流することはないようですが、皆様どうぞよろしくお願いします。
不思議な手紙は、精霊のラダさんが書くそうです。

