


●担ぎ屋再び
喪服に顔全体を覆うガスマスク、露出した髪をかき分けるようにして生えた真っ直ぐな角。
君が対峙しているのは、まごうことなきデミギルティであった。
だが君とパートナーしか、ここにウィンクルムはいない。舌を打つ。圧倒的不利、死すら覚悟をせねばなるまいか。
しかし、
「やあ、そんな怖い顔しないでよ」
デミギルティは、ガスマスクで見えぬ奥の顔を笑みの形に歪めているようだった。
「大丈夫大丈夫、ちょっとした余興だよ」
デミギルティは、一枚の鴉の羽を取り出す。
ちょいと振って投げ捨てれば、羽根は輪郭を曲げて、変化した。
「大丈夫、こいつはすぐ殺せるとっても弱い羽根傀儡。まかり間違って君達を殺しはしない。肉体はね」
君は、変化した羽根を見て、呼吸すら止まる思いがした。
その羽根は――。
だから、デミギルティの次の句は、パートナーの耳にしか残らなかった。
「精神的には、殺されるかもしれないねえ」
けらけら愉快に笑って、デミギルティは掻き消える。
「もしかしたら、君たちの絆をも、殺してしまえるかもしれないなぁ。それは、担ぎ屋レイヴたる僕にとっては重畳なことだ」
君は動けない。パートナーの声すら今は届かない。
君の瞳孔は、羽根だったソレに釘付けだった。
ソレは……君が最も見たくない罪の形をしていた――。


●成功条件:羽根傀儡を倒す
●敵:羽根傀儡 1体
攻撃すれば、一撃で死にます。トランス不要。
ウィンクルムのどちらか、もしくは共通の『トラウマ』の対象の姿になっており、あなたをなじり、責めます。
(例)守りたかったのに守れなかった大事な何か、貴方の大事なものを奪った何か、貴方のせいでいなくなってしまった何か、等
なお、パートナーは、羽根傀儡がただの人形にしか見えません。
●趣旨:あなたのトラウマを描写します
パートナーにとって敵はただの人形ですが瞬殺すると、トラウマの描写やソレに対するあなたの反応が描写できません。
趣旨をご理解の上、ご参加ください。
なお、参加者同士は別々の場所で戦っているため、絡みません。相談不要。相談期間が短いのでご注意。
お世話になっております。あき缶です。
これはフィヨルネイジャの白昼夢ではありません。現実の出来事です。
トラウマに対するウィンクルムの対応如何によっては、今後に大きく響きますので、参加するかどうかはよく考えてくださいね。


◆アクション・プラン
叶(桐華)
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一颯、さん…? 羽根が作った人型に、息が詰まる 居ないはずの人なのは頭ではわかってるのに だって貴方はあの時死んだはずだ 俺を逃がして死んだはずだ 嫌だ、嫌だ、聞きたくない 声も姿も昔のままで、寒気がする ごめんなさい、ごめんなさい一颯さん… ―でも、あなたは、連れってくれなかったじゃないか 俺を、置いていったじゃないか いきろっていうからがんばっていきてきたじゃないか やめて、いいなら、むかえに… 桐華の剣があの人をけした けして、くれた ほっとしてる俺は、薄情だ ねぇ桐華。気付いたんだよね 俺が、神人なせいで、無くなった村 死なせた人 あそこには、桐華の家族もいたんだ 気付いたんなら、恨んでよ そのまま、ころしてよ もう、つかれた |
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…皆事件を忘れたがっている 村を守ろうとした自警団も 生前は認められることはなく 彼らは死んだからこそ仲間であり 俺は最後にその仲間になる事ができなかった 俺の顔を見れば思い出すだろう 関わったがためにリーダーを 夫を失った事を 彼女に殺意を向けられても不思議はないと、そう思っていた 手を上げないようリンに声を掛け 武器で攻撃を受け止めながら彼女と見合う リン、死人は迎えには来ない 彼女は生きている …小さい子供がいてな 村に帰った時には顔を出してる 逆だ 女神のような人だよ 恨み言の一つや二つあった方が自然だ でもこれは彼女じゃない わかっている こんなことが彼女の救いになるというなら それは俺の願望だろう 証明するように武器をふるう |
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*トラウマ:自分を裏切ったかつての親友 分かっている、あれが本人でないことなど クソ性格の悪い、ろくでもない「余興」なのだと だけど。それでも。 『逃げられたショックで今は精霊に縋ってんのか?』 ちがう、 『可哀想なこった! 生涯のパートナーが傷持ちのおっさんじゃあな!』 違う、俺は、 『適性あるから仕方なーく付き合ってるんだよ。 本気で愛されると思ってるのか、お前みたいな落伍者が?』 ――っ! (言葉の刃に耐え切れず膝をつき) (影が差したことに気付いて顔を上げ) イグ、ニス ……そう、だな。そうだったな いつだって、まっすぐで、正直で 伸ばされた手に、救われてきた (手を取って) これが、俺の選んだ道だ ……頼むぞ、「王子様」? |
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トラウマ:白い犬(マシロ) 白い犬がいるよ、こっちを見て鳴いてる……痛い、苦しいって。助けてって鳴いてる 白い犬がゆっくりと近づいてくる レーゲン?離して…行かなくちゃ、 だんだん頭が痛くなってくる、白い犬と仲良くしていた映像が脳裏にうかぶ レーゲンが何をするか分かった。 やめて!撃たないで! どんなに暴れてもレーゲンは離してくれない 「お願いマシロ、来ないで……来ちゃダメ!」 何度も銃声 頭痛は消えた。 振り返れば血を流して倒れている白い犬 そして自分の手も真っ赤だ…… ※傀儡の幻と過去の記憶が混ざり合っている そうだ、『僕』が撃ったんだ。僕も怪我してたよね ……ごめんね……マシロ一緒にいこう ※意識を失う |
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責められ側 ・紫髪の16歳の少女。神人の幼馴染み。友達以上恋人未満の関係だった なんだい、君は…? ツバキ、忘れたの? と少女 ツバキ…? それって僕、の…(本名) 幼馴染みのアネモネ、だと名乗る少女 まさか…君は僕を知って…? ツバキを信じて待ってたのに…と睨まれ ま、待って!“来てくれなかった”ってどういう… …わ、分から、ない… 僕は記憶が…(少女をほんの一部思い出す っすまない…! 謝れば良いわけじゃないのは分かってる なにより君が生き返れるわけじゃ、ない(片手で頭を抱え ・羽根傀儡を倒した後 僕が行かなかったから彼女は死んでしまった… …いや、僕が殺したのも同然…(爪を噛む すまない、本当にすまない…っ(涙 |
●Case.1 らくごしゃ
まやかしだ。
余興だ。それも、徹底的に性格の悪い、ろくでもない類いの。
初瀬=秀の理性はきちんと状況を把握していた。
デミ・ギルティの羽根傀儡が見せる幻覚だ、と。
「わかってる……っつぅんだよ……っ!」
なのに、なぜ動けない?
なぜ、偽物だと理性は叫ぶのに、心は慄く?
「よぉ、久しぶりだな」
幻の男は、ニタと笑って片手を上げて、秀に挨拶した。
かつては、親しい仲だった。彼女を奪われるまでは。
「ウィンクルムになったんだなぁ」
男はそう言って、目を細め、眼球だけで秀の後ろにいるイグニス=アルデバランを見やった。
「逃げられたショックで今は精霊に縋ってんのか」
間髪を入れず反論したかった。だが、どうにも声が出ない――まるで悪夢の中で必死に助けを呼ぶように、かすれた息しか出てこない。
男は、秀のやむを得ない無言を肯定と都合よく解釈し、両掌を天に向け、肩をすくめた。
「ハッ! 可哀想なこった!!」
『可哀想』というワードに秀はびくつく。
「生涯のパートナーが傷持ちのおっさんじゃあな!」
男は蔑むように秀を見下していた。
――違う、俺は。
反論しなければとあがくも、声はやはり喉をひりつかせるだけで終わってしまい、秀はただ目を見開いて、相手の次の言葉を待つしか出来ない。
「……やっぱり、人形ですよ、ねぇ?」
デミ・ギルティが去り際に言い残したことを信用するなら、あの傀儡は一瞬で破壊できるはずだ。
「さっさとやっつけ…………秀様?」
イグニスは、眼前の神人に攻撃を促そうとし、首をかしげる。
様子がおかしい。
(この感じ……覚えがありますよ。心抉る系ですね)
聡明なイグニスはすぐに、秀が幻を見せられていると理解する。
「いったい秀様の目には何が……」
彼を凍らせるようなトラウマとして、イグニスが思い当たるのはやはり、彼が顕現するきっかけとなった『結婚式』のことだろう。
「まさか、あの女?」
秀を式の当日に放置して去っていった不誠実な婚約者……にしては、秀の反応が妙だ。
「…………なるほど、そうですね」
女は一人では逃げない。
誰かが誘惑しないかぎり、女はあんな劇的な逃亡を見せることはない。
「そういえば。諸悪の根源がいましたね」
その『諸悪の根源』は、止めとばかりに秀の胸に暴言を突き刺した。
「適性あるから仕方なーく付き合ってるんだよ。本気で愛されると思ってるのか、お前みたいな落伍者が?」
ヒュッと喉が鳴る。
がくりと膝から力が抜けて、秀はとうとうへたり込んだ。
(そうだ、俺は……イグニス、には……)
だが、秀の乾いた視界に金が割って入る。
「秀様」
「イグニス……」
力なく見上げてくる秀に、イグニスは苦笑した。
(何度言っても自信を持ってくださらない。でも、私は何度でも言いますよ。もういいと言われたって、何度も何度も。諦めたりなんか、してあげませんから)
「私はいつだって自分に正直ですよ。言いましたよね、一目惚れですって」
そっとイグニスは座り込む『姫君』に手を差し伸べる。
「私とアレと、どっちを信じますか?」
呆然とイグニスの青い瞳を見つめ、そしてようやく秀の真っ青だった顔に赤みが戻る。
「そう、だな。そうだったな」
俯いて秀は肩を震わせる。
泣いているのではない、笑っているのだ。
「いつだって、お前はまっすぐで、正直で」
何度その手に救われてきただろう。白昼夢で死を見せられた時も、別の適合者を示唆された時も、別の恋人の存在をあてがわれた時ですら、イグニス=アルデバランというディアボロは、決して折れず、秀を光の方へとその手を引いて導いたではないか。
そして、今ここでも。白昼夢ではない現実でも、変わらずイグニスは秀の手を引き、守り救いあげようとする。
だから、秀はその白く優しい手をしっかと握って立ち上がった。
「これが、俺の選んだ道だ」
まっすぐに幻の裏切り者に向かって、秀は宣言してみせた。
そして握った手に力を込め、隣の精霊に言う。
「……頼むぞ、王子様」
イグニスは嬉しそうに笑って深く頷いた。
「もちろんです、私のお姫様!」
ぐっと霊錫を掲げ、イグニスは朗らかに、しかし強かに傀儡に告げた。
「さーて! 今日のところはあいさつ代わりです。御覚悟を!」
瞬間、傀儡は火柱に飲み込まれた。轟々と燃え落ちていく人形を見つめ、イグニスは壮麗に微笑んでみせた。
「本物に会ったらこの程度じゃ済みませんからね」
●Case.2 ほんとうのなまえ
紫色の髪を揺らして、少女は親しげに咲祈に笑いかけてみせた。
「ツバキ!」
咲祈は、首を傾げる。
「なんだい、君は……?」
少女は咲祈とは逆方向に首を傾げた。
「ツバキ、忘れたの?」
何度も『ツバキ』と呼ばれ、咲祈は戸惑う。
咲祈は咲祈の本名ではない。記憶を失った彼にサフィニアが付けてくれた呼び名だ。
「咲祈。なにか見えてるの?」
当の名付け親は、咲祈の隣で何度も咲祈を呼んでいるのだが、咲祈には聞こえない。
「もしかして……それって。僕、の……」
――本名?
少女はただただ微笑む。
「ツバキ、私よ。アネモネよ。ずっと小さい頃から知ってるじゃない」
忘れるなんて酷いわ、とアネモネと名乗った少女は頬をふくらませる。
「まさか、君は僕を知って……」
「知ってるも知ってないも幼馴染だって言ってるじゃない。あの日だって、私はツバキを待ってたのよ」
少女はふくれっ面をやめた。そんな冗談の怒りではなく、怒りと恨みをないまぜにした恐ろしい形相で、アネモネは咲祈を睨みつける。
「ツバキを、信じて、待ってたのに……。どうして来てくれなかったの?」
その形相の恐ろしさに咲祈はたじろぐ。
「ま、まって、来てくれなかったって、どういう……?」
アネモネはなおも口を開いた。
「来てくれなかったのよ。ツバキを私はあんなにも待ってたのに」
「わ、分からない」
僕は記憶が無いんだ、と言い訳しようとした瞬間、少女の表情が憤怒に歪む。
「分からない?!」
咲祈は恐怖に震え、大声で叫んだアネモネの迫力に一歩さがった。
「分からないですって?! ツバキのせいで、私は死んだのに?! ツバキが私を見殺しにしたのよ! 私を殺しておいて、全部忘れるなんて、ツバキは身勝手ね……!」
フラッシュバック。
咲祈の脳裏に、知らないはずなのに知っている光景が蘇る。
「ひっ」
悲鳴をあげ、咲祈は頭を抱え、許しを乞うように羽根傀儡の前でうずくまる。
「すまない……! 謝れば良いわけじゃないのは分かってる」
「そうね、謝ったってどうにももうならない。ツバキは来なかった! だから私は死んだ!」
「わかってる。僕のせいだ……。謝っても、君が生き返れるわけじゃ、ない」
「そうよ、じゃあどう償ってくれるの? ねえ、どうしてツバキは生きているの? 私は死んだのに? ねえ? ねえ?!」
詰め寄るアネモネに、咲祈はたじろぐ。
「それは……」
ずっとツバキというワードが気がかりで、じっと咲祈の独り言を聞いていたサフィニアは、眉をしかめて首を横に振った。
「違う。来てくれなかったんじゃない。行けなかったんだ」
咲祈を拾った日、彼は血を流して倒れていたが意識はあった。僅かな意識で、それでもどこかに行かなくてはと、誰かのために行かなくては、と藻掻いていた。
(結局、そのまま咲祈は気を失って、動けなかった。それに目覚めた時には全部忘れてしまっていたけれど……)
だが、咲祈が己を責めるのは違う。
これ以上はダメだ。と、サフィニアは棒手裏剣クレイジングラインを、羽根傀儡へと打った。
ぐさりと深々と刺さった手裏剣一本で、あえなく傀儡は壊れる。
断末魔をあげ、アネモネの幻が消え失せた。後には破砕された人形一体が転がっていた。
「あ、う……アネ、モネ……」
――またアネモネが死んでしまった。また自分のせいで……。
咲祈は光を失った目を見開いたまま、ゆらりと幽鬼のごとく立ち上がった。
「僕が……僕が行かなかったから彼女は死んでしまった……いや、僕が殺したのも同然……だ」
「違う……彼女さんは事故だ……」
サフィニアの反論など、耳の外。がじがじと手爪を噛み、片手で頭を抱えた咲祈は、よろりよろりと歩き始めた。
「すまない……本当に、すまない……」
「っ咲祈!!」
ぼろぼろと涙を流しながら、あてども無く歩き去ろうとする神人を、サフィニアは追いかける。
●Case.3 からっぽだ
ブリンドは神人に言われた言葉に耳を疑う。
「手を出すな」
「あぁ? 何血迷ったこと……」
眼前の羽根傀儡を放置しろとは、聞き捨てならない。
だが、ハティの瞳にはブリンドと同じものが映っているのではないようだ。
「……皆事件を忘れたがっている」
「ああ!?」
ブリンドは突拍子もないハティの発言に、声を荒げてハティの方を睨んだが、ハティの視線は傀儡に一直線で、先ほどのセリフはブリンド宛ではなかったらしい。
(……死人でも見たような面してやがる)
事件・死人とくれば、ブリンドが思い当たるのは『自警団』の関連しかない。
ブリンドは一旦銃を収めるものの、いつでも抜き撃てるように手は腰の近くに浮かせたまま、ハティと人形を注視する。
ハティはただ人形を見ていた。顔は青ざめていたが、不思議と表情は凪いでいた。
「あなたは、仲間などではありません」
人形は女の姿で、ハティに冷たく言う。
「死んでこそ、自警団は認められ、仲間になったのですから」
「……そうだろうな。俺は最後に仲間になることが出来なかった」
「貴方のせいです」
女は言う。
「夫を失ったのは、貴方のせいです。貴方が殺したも、同然ではないですか?」
「……」
ハティはただまっすぐ傀儡を見ていた。
「仇を討ちたいと思うのは、おかしなことですか?」
「……いや、不思議はないな」
(おいおいおいおい、まっとうにそんなモンと会話すんなよ。つーかそんなモンまで、まっすぐ見んな。受け止めようとすんな)
ブリンドは苛立たしげにハティをギリギリ睨めつけた。
傀儡はとうとう刀でハティに切りかかってきていた。児戯に等しい拙い動きだし、ハティも楽々と避けているので、まだブリンドは銃を抜かない。
すると、ハティはそんなブリンドの思いや視線が見えているかのように、人形を見据えながらも、
「リン」
と呼びかけた。
「あんだよ」
「死人は、迎えには来ない」
「……自警団のお仲間が迎えにでも来たのかと思ったが」
少し拍子抜けし、ブリンドは銃に伸ばしていた手を下ろした。
「いや、彼女は生きている」
「よりによって女かよ」
そこまで聞いて、ハティはブリンドには同じものが見えていないと悟る。
「ハティ、何が見えてる」
「リーダーの奥さんだ」
何のリーダーかとは言わなかった。だが、ブリンドは答えを知っている。ハティが所属していた自警団のリーダーであり、非業の死を遂げた男だ。
「小さい子供が居てな。村に帰った時には、顔を出してる」
「……そんな悪夢みてーな女と、帰る度会ってんのか」
呆れ返ったブリンドは、閉口してハティを見つめる。
(こいつに余裕なんてねえはずなんだが。わかんねぇ奴だ)
彼女を悪夢と呼ばれたハティは、不思議そうにブリンドを見やる。
「逆だ。女神のような人だよ。だが、恨み言の一つや二つあった方が自然だ」
――俺が殺したも同然だからな。
「その人形に何言われてんのか知らねえが、アレはその女じゃねえぞ」
ブリンドは銃をそろりと抜いた。
そろそろ幕を引くべきか。
「……わかっている。こんなことが、彼女の救いになるというなら」
(なるか、そんなもん。人形とその女に何の関係もない。おめーの方がよっぽど不自然なんだよ)
ブリンドは銃を構える。
(ただ好きって、好きでいたいってだけで……どこまで空っぽになれんだ、お前は)
痛々しいというより、もどかしくて苛立って、見ていられない。
だからブリンドは、傀儡に容赦なく銃弾を放った。
ハティは不満気にブリンドを見やる。
「俺の願望の証として、俺が倒すべきだった」
だがブリンドは冷たくハティを一蹴して、コートのポケットに手を突っ込んで、踵を返す。
「……お前の持ち物じゃねえだろ、これは。何でも受け止めようとしてんじゃねえ」
去り際に呟いた言葉は、ハティには届かなかったけれど。
「これ以上空っぽになられたら、困んだからよ」
●Case.4 まっかだ
「ねえ、レーゲン。白い犬がいるよ、こっちを見て鳴いてる」
ぼうっと信城いつきが呟く言葉に、レーゲンはぎょっとした。
白い犬など、レーゲンには見えない。
「落ち着いて。あそこには人形しかいないよ」
慌てて駆け寄るも、いつきはレーゲンの言葉など聞こえていないように、二の句を継ぐ。
「……痛い、苦しいって。助けてって鳴いてる」
「いつき、いつきしっかりして!」
レーゲンはゆっくりとこちらに近づいてくる人形を見て、眉をひそめる。
(あれがマシロに見えているのか? でも、マシロは『苦しい、助けて』なんて言わない……!)
レーゲンは、いつきが見ている白い犬をよく知っている。マシロという名前であることも知っている。マシロが、いつきの親友であり大事な家族だったことも知っている。
いつきは覚えていないが、レーゲンはマシロが元気な頃からいつきと親しかった。故に、マシロのこともよくよく知っている。
いつきは記憶を失っているから、マシロのことはもちろん覚えていないだろう。だが、いつきも感知できないいつきの心の深い場所が、マシロとその時の傷を知っていた……だから、人形を白い犬だと誤認しているのだ。
だがレーゲンは、その時の傷を思い出させたくはない。
あの白い犬は……いつきを顕現させた。己の命をもって、いつきの心に深い深い傷を付けて。
デミになったマシロが、いつきを襲った。大事な大事な存在の裏切りともいえる状況に、大きなショックをうけたいつきは、記憶を失った。レーゲンはそんな辛い記憶を呼び起こしたくはない。永遠に思い出さないまま、天真爛漫な信城いつきでいてほしかった。
(あの時だって、そうだった。マシロは絶対に助けを求めたりしない。……とにかく、あちらへ行かせる訳にはいかない!)
なぜなら人形は刃を握っている。この状態のいつきを近寄らせれば、怪我するに決まっている。だからレーゲンは抱きしめるように、いつきを押さえつける。
「レーゲン?」
しかし、いつきは不思議そうにレーゲンを見上げた。
「離して……行かなくちゃ、助けに行かなくちゃ……うっ」
と、もがくいつきは、急に呻いて頭を押さえた。
フラッシュバックするのどかな光景――あの白い犬と自分が楽しく戯れている様子――。
「マシ……ロ」
(ああ、いつき、ダメ! その記憶を開いては――!!)
レーゲンはクレセントムーンの引き金を引く。いつきに銃声を聞かせまいとしたが、もがくいつきを上手に押さえられない。
ぶれる照準、抑えきれない耳。
「お願いマシロ、来ないで……来ちゃダメ!」
いつきの絶叫を、銃声がつんざく。
ガウンッ……ガウンッガウンッ!! 何度も何度も、傀儡を壊しきるまでレーゲンは引き金をめちゃめちゃに引いた。
「あ……」
すうと頭の痛みが消えて、いつきは目を開く。血だまりに倒れる真っ白な犬が見えた。
汚れひとつない手を掲げ、いつきは呟く。
「僕の手、真っ赤だ……」
レーゲンはぎょっといつきを見下ろす。いつきは涙を浮かべて、綺麗な手を見上げている。
「そうだ、『僕』が、撃ったんだ……。僕も、怪我してたよね……」
消え入りそうに呟き、いつきはすうっと意識を手放す。
――ごめんね、マシロ……一緒にいこう……。
「いつき!」
きつく気絶したいつきを抱きしめ、レーゲンは虚空を睨みつける。
「いつきは殺させない、心も、絆も。あの時誓ったんだ、いつきを守るって。それはこれからもだ」
抱きしめたいつきの体は温かい。彼が『あの時』のような血まみれではなかったことだけが、レーゲンにとって救いだった。
●Case.5 ころしてよ
前の信じがたい光景を見る叶の瞳孔は開ききっていた。肩と頬がひくつく。
「一颯、さん……?」
息ができない。うまくできない。どうやって人間は呼吸をするのか上手く思い出せない。
「そんな、まさ、か……だよ、ね?」
叶はぶつぶつと呟く。
だって死んだはずだ。あの時死んだはずだ。僕を逃がして死んだはずだ。死んだはずだ。死んでいなくなったはずだ。僕をおいて死んだはずだ。居ないはずの人だ。あの人は僕に生きろと呪って死んだはずだ。
「久しぶりだねぇ」
「いっ、嫌だ嫌だ!」
叶はとっさに自分の耳を塞ぐ。
何も聞きたくない。声も姿も昔のままだ。寒い。凍える。
「元気そうじゃないか」
耳を塞いでも鮮明に耳に入り込んでくる『前の契約精霊』の声に、叶は手をそろそろと下ろした。見ろ、とまるで強制されているように涙目で前を見る。
「本当に元気そうだねぇ。のうのうと幸せそうだ」
叶の喉がヒュッと鳴る。
へたり込み、叶はうずくまった。まるで傍目からは土下座に見えただろう。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、一颯さん……」
一颯は叶の傍に膝を抱えてしゃがみ込み、にこにこと笑みを浮かべたまま、なおも言う。
「新しい精霊との生活は楽しいかい? まったく、君の変わり身の速さには舌を巻くよ」
「で、でも」
しゃくりあげて、上手く反論を声に出来ない。
――でも、あなたは、連れてってくれなかったじゃないか!
そう叫びたかったのに、叶の喉が痙攣して、呼吸すらままならない。
――俺を、置いていったじゃないか。
そう、僕ではなく俺を、あなたは置いていった。俺を置いていったから、俺は僕にならざるを得なかったんだ。あなたを重ねて、口調すら変えて。
「い、いきろって、いきろって、いう、から……っ」
ああ、息が苦しい。もっときちんと訴えたいのに。泣き声でなんとか言葉を絞りだす。
「いぎろって、いう、がら、が、がんばって、いきてきたじゃないがぁ……」
「そうかそうか、僕の言いつけ守って叶はいい子だねえ。じゃあ、もういいよ。僕が新しく言いつけるよ。もう死んでいい」
ニコニコしていたはずの幻は、ことりと笑みを落として、冷え冷えとした目で叶を見下ろしていた。
「なんで叶が、一颯の名前を」
人形が人形にしか見えていない桐華だが、彼も雷に撃たれたように立ち尽くしていた。
理由は、人形を見た叶が呼んだ名前だ。
叶の様子は誰がどう見ても異常だ。人形が原因なことも明白だ。だから、あの脆そうな人形に双剣を浴びせなくてはいけないのに。
頭ではわかっても、桐華は動けない。
「俺は、一颯を、知っている……」
今はもうない故郷にいたファータの名前だ。彼の姉は産婦人科医で、桐華の妹を取り上げてくれた人だった。
言われてみれば、叶の所作や言動は、一颯によく似ている。
思えば、一颯は頑なに左手を見せなかった。
「……でも、なんでだ?」
ふたりともが一颯を知っているのに、桐華と叶はお互いを知らない。
だが、桐華の思考もそこまでだった。
人形が刃を、うずくまる叶の首に振り下ろそうとしている。
「あんたが今更でしゃばるな!」
駆け寄って一閃。人形はあっけなく動かなくなった。
桐華が差し伸べる手を、叶はとる。
引き起こされた叶はもう泣いていない。
「ねぇ桐華。気付いたんだよね」
うなだれた叶は、眼球だけで桐華を見やる。
「俺が、神人なせいで、無くなった村は、君の故郷だ。死なせた人には、桐華の家族もいたんだ」
虚ろな目で桐華を見つめながら、叶は顔を上げる。
「気づいたんでしょ?」
へらっと叶は笑った。目は虚ろなまま。
「だったらさぁ、恨んでよ」
へらへらと叶は笑って、桐華に歩み寄る。
桐華は思わず後ろに下がりかけたが、ぐっとその場にとどまった。
「そのまま、ころしてよ」
がくりと桐華にもたれかかるように倒れこみ、叶は呟くのだ。
「もう、つかれた」
桐華はぐっと握りしめた拳を、ゆるゆると開き、叶を抱きしめる。
「笑って言うな。せめて泣きじゃくれよ」
ため息とともに、桐華は天を仰いだ。
「殺せるかよ……」
(故郷も家族もない俺には、もうお前しかいないのに)
喪失の原因がたとえ叶だったとしても。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | 恐怖 |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 普通 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | 少し |
| リリース日 | 11月05日 |
| 出発日 | 11月10日 00:00 |
| 予定納品日 | 11月20日 |

2015/11/09-23:41
こんばんは、信城いつきと相棒のレーゲンだよ
プランについてはなんとか提出したよ。
……内容的に穏やかではいられないけれど。
それでも、みんなが乗り越えられることを祈ってるよ

