


●担ぎ屋レイヴの遊戯
ウェディングをテーマにしたイベントの成功により、すっかり花と音楽に加え、恋人の街として有名になったイベリン。
季節の花が咲き乱れ、美しい音楽がそこかしこから聞こえてくる夢のように美しい街は、今日も恋人達であふれている。
そんなカラフルな空間に、まるでインクを落としたように黒が現れた。
「いやぁ、楽しそうだね」
喪服姿にガスマスクをかぶった角のある男……先日セレネイカ遺跡をうろついていた『担ぎ屋』ことレイヴというデミギルティである。
阿鼻叫喚となるイベリンの広場に、通報を受けた君たちは駆けつけた。
「あ、ウィンクルム。お仕事お疲れさまー」
レイヴはニコニコと君たちに手を振る。
「んー、でも今日は趣旨を変えてみよう」
とレイヴは君たちの攻撃をぬるぬると避けながら、白いミカンくらいのボールを取り出す。
「ご存じのように、僕らオーガの敵はウィンクルムだ。だから僕らは君たちさえ何とかできればいいんだよね。で、ウィンクルムの力の元は、二人の絆。つまり、絆を消すことができれば僕らの勝利は確約される」
まるで授業めいた口調でレイヴは一人で喋り続ける。
「トライシオンダリアは人の好意を殺意に変える。ちょっとそれは物騒だよね。この力を利用して、人の好意を嫌悪に変えることができれば、いいんじゃないかって僕は考えて――これを作った」
君たちは青ざめる。まさか、このボールは。
しかしレイヴは肩をすくめて苦笑し、
「でも失敗」
ぽとんとボールを足元に捨てる。
「どんなにがんばっても人の好意を消すくらいしかできなかったし、効果も半日程度だったんだよねー」
ぶわりと白い煙がボールから吹き出し、君たちは思わずそれを吸ってしまった。
「……僕と勝負しよう。今、君たちはガスの毒のせいで、お互いのこと何とも思ってないだろう。でも、ときめけば、ガスの毒は消えるんだ。効果が切れる日没までに、君たちが絆の力を取り戻せたら、君たちの勝ち。効果が切れるまでにどうにもできなかったなら、僕の勝ち。よーい、はじめっ」
ぱんと手をたたき、レイヴは目にも留まらぬスピードで逃亡する。
消えざま、風に乗って彼の言葉が届いた。
――君たちが勝ったなら、今まで以上に絆の力がぐんと深まるだろうね。だからこそ、これは僕にとっての失敗作なんだけど。


●成功条件:一組でも日没までに絆を取り戻す。
全員がレイヴの挑戦に勝てたら大成功です。
●レイヴの挑戦
参加者全員が親密度0に戻っていますが、記憶は消えていません。
片思い設定であっても、完全に好意は消えていて、お互いの認識は「仕事仲間」程度になっています。
(恋がさめきった状態です)
今は午前10時です。日没の午後6時には自然と元に戻ります。
午後6時より早く絆を取り戻せたなら、成功条件クリアです。
絆は、お互いがお互いに と き め く ことで元に戻ります。
なお、『容姿をみて一目惚れ』はNGです。
●特別ルール
日没までに絆を取り戻すことに成功したウィンクルムは、親密度が大幅アップします。
(失敗した場合は、「親密度0のウィンクルム」としての判定をします)
●ジェール消費
イベリンへの交通費や諸経費で400ジェール消費しました。
いつもお世話になっております。あき缶でございます。
親密度0になるという、ちょっと変則的なハピネスですが、リターンも大きいですよ。
好きでも何でもない人にときめくのは難しいと思いますが、がんばってください。


◆アクション・プラン
叶(桐華)
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感情が冷めたところで、行動に支障がない 僕ら、何にも進展してないみたいだね …ま、知ってたけど ねぇ桐華。担ぎ屋さんに負けるってのも癪だし、ちょっとくらい挑戦してみようよ。ときめき ほら手繋いでー…駄目か じゃあハグー…これも駄目? ちゅーは…あはは、流石に好きでもない相手には無理か ふふ、無理しないでいいよ。半日で解けるんだし、他の子に託そう え?うん、両想いのはずだったよね 恋人って言う事になってたよね まぁ、だから何だって感じなんだけ、ど… ……ねぇ もういっかい あんなの、ずるい 俺ばっかり動揺させられて、狡い どうせ信じてないんでしょ ちゃんと、好きだって うるさい馬鹿。桐華の馬鹿 泣きやませたかったら、ちゃんとしろよ |
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帰る先は同じだ 出る前と変わったところはないのに 自分の持ち物が彼の部屋を侵食しているように見えた どう見えているのだろうと思ったが 不安より先に怒りなのが彼らしい アンタは忘れる事を望まれていたのか 相応しい回答とも思えないが思うままを返す そういう怒りっぽいところ アンタ、人のことでしか怒らないから 今だってそうだろ 「誰も助けを求めない」って 俺と初めて会った時の事だってそうだ でなければ俺もアンタに好きに言われてないさ …言っただろう、俺の方が考えてるって 茶化すような物言いをする男だと思っていたが 彼の怯えだったのかもしれない …荷物、片付けるの手伝ってくれないか 忘れろなんて言わないからアンタも手放せなんて言うなよ |
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(恋人で友達であんなに過ごしたのに…虚しいな) ■デートスポット渡り ボート初めてで …わかった(手とってもいいんだよね…?)っ! (暖かい。まっすぐ見てくれるんだ) 揺れっ座れば何とか。恐る恐る体伸ばし 子供みたい(カップル多いな) … …うん いつもみたいに呼ばないんだ? (大事に感じてくれたんだよね…でも)さっきはありがとうタイガ 見てほしいから (いつも遠巻きに敬語で言われてたから口下手が考えた虚勢術) 仲良くなりたいから、言ってるんだ わかってよ(照 あ、魚 タイガ!!(咄嗟に掴む) ◆バランス崩したタイガごとセラも被害 タイガこそドジ (頼もしくてほっとして笑顔が好きで) …やっぱりセラってタイガに呼ばれるのが一番好きだ |
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思い出は確かにあるのに、感じていた筈の感情が抜け落ちた感覚 俺は…フィンの事が本当に好きだったんだろうか? 敵の思う通りになるのだけは嫌だ 食事をしながら、お互い思い出を話してみよう 俺から…告白したんだよな、アンタに 確認して どうしてそう思ったのか… 理由は思い出せるけど、肝心の感情が伴わない …悔しい こんな簡単に奪われてしまうのか 鞄に入っている作詞ノートを取り出す フィンの事ばかり綴った歌詞 その瞳を青い空に見立て 歌えば、思い出せる? 立ち上がり、言葉を辿るように口遊む 空は君 君が居てくれるなら そこが僕の居場所 真っ直ぐに手を伸ばそう フィンを振り返り、その顔を見たら自然と笑みを返す ああ、俺はアンタのそういう所が… |
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とりあえず通りを歩きながら考えてみる、かなァ… ときめくってつまりどういうこと? ・呆れられ そういう演出家様こそ、観客がときめかなかったから現場追い出されたんじゃないの? ・否定されず ふーん… じゃあこの演出(EP3の台本・持歩中)、何の為に組んだの …正直、つぶらサン的には悪かないとは思いますけど? 世界に引き込まれる…っていうの? 役者も話も、ホントは観客も大事にしたいんだなーって… …演出の話だからね!?(テンパる) 確かにこんな演出組む奴の性根もそう腐っては無いだろうし、役者志望のつぶらサンとしても気にならなくは無いけど! ・嫌味の無い表情を見つめ …ツンデレとかは納得いかないけど イイ顔できんじゃん、アンタ |
●ときめくとはなんぞや
安宅 つぶらとカラヴィンカ・シンは好意を消された心を抱え、通りを歩く。
「ときめくってつまり、どういうこと?」
とつぶらが首を捻って独り零した言葉を、カラヴィンカはため息を持って拾い上げる。
「ときめきの何たるかも知らずに役者を志していたと?」
じろりと紫の瞳を上目にあげ、カラヴィンカは皮肉っぽく言う。
「呆れたものだな」
むっと眉をひそめたつぶらは、口を尖らせ皮肉を返す。
「そういう演出家様こそ、観客がときめかなかったから現場追い出されたんじゃないの?」
ことごとく演出を却下され、舞台の話から去らざるを得なかった男がカラヴィンカ・シンである。先日、終電を逃した日に知ったパートナーの過去をつぶらは容赦なく混ぜ返す。
だがカラヴィンカは平然としていた。
「否定はせんよ。それが事実だからな」
と涼しいものだ。
「ふーん……」
思ったよりも打撃を与えられず、つぶらは不満気に口を尖らせたまま、ごそごそとオレンジ色の書籍を取り出す。カラヴィンカから借りたままの演出用台本だ。
「じゃあこの演出」
パンと軽く手の甲で台本の表紙を叩き、つぶらはカラヴィンカを見下ろす。
「何のために組んだの」
どこか声が刺々しい自分につぶらは気づいていた。
つぶらの言葉を受けたカラヴィンカは、しばし黙りこんだまま歩んでいた。その沈黙をつぶらは固唾を呑んで見守る。喧嘩はあまりしたくないが、さっきのつぶらの態度では苛立たれても文句は言えまい。
だがカラヴィンカの返答の調子は、平坦だった。
「わしにとってはそれが、役者や話の味を一番伝えられると思った」
カラヴィンカは冷淡とも思えるほど冷静に己を分析して返答する。
「特定の反響を狙ったものではないからな、監督はさぞやりにくかったろうよ」
それは確かにつぶらが危惧したような怒りではなかったが――まるで事務的だった、ともいえるかもしれない。
距離を感じる返答に、つぶらは少し焦って言葉を返す。
「正直、つぶらサン的には悪かないとは思いますけど?」
またカラヴィンカの視線を感じ、つぶらは取り繕うように続けた。
「世界に引き込まれる……っていうの? 役者も話も、ホントは観客も大事にしたいんだなーって……」
それから、勢い込んでつぶらは、ことさら大きな声をあげる。
「……演出の話だからね?!」
「何を言っておる。役者、話、観客。どれも演劇の演出の話だろう」
カラヴィンカの淡白な答えに、つぶらはガシと頭をかき回す。
違うんだ。そうじゃない、言いたいことはそうじゃない。だから焦って言葉を重ねる。
「確かにこんな演出組む奴の性根もそう腐っては無いだろうし、役者志望のつぶらサンとしても気にならなくは無いけど!」
カラヴィンカは、焦る神人をじぃと見上げていたが、一つ瞬いて、不意に笑った。
「く、くっ、はは!」
「……なんだよ」
「ここまでお粗末なツンデレも無いぞ。飾らぬ君に喝采を、か……」
カラヴィンカは先日つぶらが決めたインスパイアスペルを呟き、得心したように呟く。
「ツンデレ? 諸々納得いかないけどさ」
つぶらは、険悪な空気にならなかったことに安堵し、ふぅと息を吐くと腰に手を当てて、穏やかに微笑んだ。
「イイ顔できんじゃん、アンタ」
ずっとつぶらは、精霊の態度に腹が立つと思っていた。が、カーラは不遜な態度以外も出来るのだ、と再発見した気分だ。
「口説き文句なら出直せよ?」
呆れ声でカラヴィンカは言い、つぶらより先を歩き出す。
「あ、おい、じーさん?」
つぶらにはカラヴィンカの背中しか見えないが、カラヴィンカは口元が少し緩んでいる。
「わしの演出をそう解釈したか、ふふ」
だが、彼の喜びはときめきにはほど遠い。ただ親愛の心が少し近づいた程度。
●空虚を歌は埋められたか
蒼崎 海十は冷えきった気持ちに、気味の悪い思いをしていた。
(俺は……フィンの事が本当に好きだったんだろうか?)
ぞっとして、海十は首を振った。デミギルティの思い通りにだけはなりたくない。
フィンもまた海十と同じ気持だった。思い通りにはなりたくない。その気概はあるのに、どうにも心の熱は湧き上がってくれない。
「フィン」
海十に話しかけられ、フィンは慌ててパートナーの方を振り向く。
「食事をしながら、お互い思い出を話してみよう」
「そうだね」
重ねてきた恋慕の思い出を語りあえば、何か糸口がつかめるかもしれない。
フィンは特に反論もなく頷いた。
イベリンのファーストフード店でハンバーガーのセットを求め、静かな場所を探す。
公園の人気の少ない一角にあるベンチを見つけ、二人は並んで腰を下ろした。
「俺から……告白したんだよな、アンタに」
「そうだね、海十が告白してくれた」
フィンは神人の言葉を肯定する。
「……だよな」
あの雨の日を海十はきっちり覚えている。なのに、その感情が心の隅々まで探しても見つからないのだ。
「その前に……」
フィンは空を見上げ、過去を思い出しながら言う。
「俺は酔って、海十に過去の事を告白して……キスしたっけ」
「うん」
酒精ではなく薔薇に酔ったのだけど。
『俺はフィンと出会えて嬉しい。一緒に居られて幸せなんだ』
海十の言葉を聞いたフィンはキスをしたのだ。
フィンは困惑したように言う。
「そうするのが当たり前のような気がしたのは覚えてる」
キスの後、フィンも海十と同じ気持ちなのだと、告げられた。
(幸せ……幸せ? わかるような、わからない、ような)
くそっと悔しげに吐き捨てた海十は項垂れ、ぶるぶると震える拳を見下ろす。
(こんな簡単に奪われてしまうのか……ッ)
なんとかしたい、と焦る気持ちのまま、海十はカバンをあさる。
取り出したのは、常日頃持ち歩く作詞ノートだ。
フィンの瞳を蒼穹に見立てた歌のページを開き、海十は立ち上がるなり、アカペラで歌い出す。
それを眺め、フィンは海十の歌声の上手さに目を閉じた。
心地いい旋律だ。悪くない、とフィンは息を吐く。
(焦らなくていいさ……一歩ずつ、俺達のペースで。これまでそうだったように)
悔しくないわけではない。それでも、また重ねればいい。
フィンはそっと目を開く。
窺うように振り向いていた海十と目があったから、フィンは微笑んだ。
鏡のように海十も微笑みを返す。
親愛の気持ちはある。フィンは手を差し伸べ、海十はその手をとった。
「温かいね」
微笑むフィンの声には、友情のそれしか乗っていなかったけれど。
海十は苦笑して、頷く。
(ああ、俺はアンタのそういう所が……)
今はどうしても感じられないけれど。それでも、確かに。
好きだったはずだ――。
●離れたからこそ見えた物
敵はもうここに居ない。ならば、帰還する以外にないだろう。とハティはどこまでも平坦に言う。
「……ああ」
と頷きつつも、ブリンドは内心驚く。
互いの心の距離が一気に離れてしまった今時点でも、二人にとって一緒にひとところに帰ることが当然なのだ。
(俺は……こいつと離れる事を考えた事がなかった、のか)
慌ててきっちり残っている記憶を漁るのだが、やはりそれらしきことを考えたことはなかったようだ。
心のなかはまるで嵐のように千々に乱れているが、それを表情には出さず、淡々とブリンドはハティのすぐ後ろを歩いて行く。
(必要としてたのは、俺じゃなくてこいつだろ? ……また忘れたのか?)
ブリンドは記憶喪失者だ。再びなのか、と一瞬ぞっとしたブリンドだが、きちんとハティとの出会いから今日までの軌跡は覚えている。
ハティは元より口数が少ない。二人の会話は大概ブリンドが発話し、ハティが受ける形で進む。だからブリンドが口を開かなければ、自ずから二人は静かなままなのだ。
故にことさら言葉少なに、二人は帰路をたどった。
自宅のドアを開けるハティは、当然ながらこの家を朝出た時と何も変わらないことを脳では理解していた。
だが、心では『自分の持ち物がブリンドの部屋を侵食している』と感じていた。
ブリンドはこの状況をどう見ているのだろう、とハティは隣のブリンドを見やる。
ハティの視線に気づいたブリンドは、苦々しげに吐き捨てる。
「腹が立たねえのか、お前は」
ブリンドの目には、ハティが『いつも通り』に見えているらしい。
(リンは、怒っているのか……)
不安より、怒りが勝つ。ハティが理解しているブリンドはそういう男だ。心の距離が離れても、自分の見知ったブリンドであることに変わりはないと確認して、ハティは安堵する。
ブリンドはずかずかと部屋に上がり込んで、どっかとソファに腰を下ろす。
ハティもその向かいに座った。
「前に忘れた時はよ、忘れろって言われたんだ」
唐突にブリンドは言う。断片的な記憶を辿って、浮かんだままに言葉に変える。
「誰も助けを求めなかった。手を引かれて冬の川ん中だ」
ブリンドの声音は怒りのそれだ。怒りにまかせて、吐き捨てていくような苛烈な調子。
助けを求めなかった、と言えば聞こえは勇敢だ。だが、実質はもっと寂しい――誰もブリンドを必要としなかった。
唐突すぎる話に、ハティは何と答えるべきか悩む。
だが、悩んだとて気の利いた言葉が出せるような性格ではないと、ハティは自覚しているから思うままに返す。
「アンタは忘れる事を望まれていたのか」
ハティはなんとなく悟っていた。ブリンドは、『誰も助けを求めなかった』ことに怒っている。
(今だってそうだろ)
腹が立っていないように見えるハティに怒っている。ハティの代わりに怒ってくれている。
(俺と初めて会った時の事だってそうだ)
そこまで思考していたハティを、ブリンドは睨みつけ恫喝した。
「都合よく忘れろなんて言いやがったら殺す」
何を言うのだ、という気持ちを視線に込めて、ハティはまっすぐに彼の銀の目を見返してやる。するとブリンドは、怒りが少し凪いだのか、視線をそらしてから勢いを失った声で尋ねた。
「おめーは……俺のどこが好きだったんだよ」
「でなければ俺もアンタに好きに言われてないさ」
「……は? んなこと言ってねぇよ」
質問への回答には思えなかったらしく、ブリンドは眉を釣り上げた。
それでいい、と思いながらハティはフと笑う。
「……言っただろう、俺の方が考えてるって」
「…………そんなに前からかよ」
もはやいつ言われたか、正確には思い出せない台詞を持ちだされ、ブリンドは俯いた。
(まさか答えが返ってくるとは)
あの質問に答えるということは、『好きだった』ということではないか。
(口にしたことねえくせに! 今言うかよ!)
動揺するブリンドを見て、ハティは面白そうに口元を緩める。
ずっと茶化すような物言いを続けていた彼は、もしかしたら怯えていたのかもしれない。
――ハティの感情を読みかねて、近過ぎはしないかと怯えていた?
そう気づくと、なんだか胸が暖かくなった気がした。急速に戻っていく距離に、『勝った』と気づく。おそらくブリンドもだろうが、彼は動揺しているから気づいていないかもしれない。
思わずハティの口元の笑みが深まるが、ハティは意識して笑みを消した。
「荷物、片付けるの手伝ってくれないか」
平然と声をかけると、ブリンドはハッとしたように立ち上がる。
「おう」
箱に手をかけたブリンドに、ハティは言う。
「忘れろなんて言わないからアンタも手放せなんて言うなよ」
それを瞠目して聞いたブリンドは、観念したように目を閉じた。
(……ああ、甘やかされてんのは俺の方か)
惚れた欲目ってやつかと思ってた。
●漕ぎ着ける先に
心のなか、消え失せてしまった恋の炎に、セラフィム・ロイスは悲しいくらい虚しさを感じていた。
(恋人で友達であんなに過ごしたのに……)
瞳を揺らしているセラフィムの隣で、火山 タイガは信じがたいと言わんばかりに手を開閉させて頭を振る。
「駄目だー」
タイガは無駄に独りあがくことを諦める。
「っロイス!」
「っ」
タイガにいつもの『セラ』と呼んでもらえないことに、少なからずセラフィムは心を痛める。
「思い出しに行くぞ!」
「うん……」
タイガに勢い良く言われて、セラフィムは頷くも、どうも心が浮き上がらない。
デートめいたことをすれば、と二人はイベリンのデートスポットの池へ向かう。
花畑に囲まれた池は、既に数組のカップルがボートを借りて水上で談笑している。
「ボート……」
乗るのは初めてだ、とセラフィムはキョロキョロと周囲を見回した。
その間に貸出手続きを済ませてきたタイガは、
「最初は皆初めてだって!」
とセラフィムに乗船を促す。
「漕ぐのならやったことある。任せろ」
意気揚々とタイガはボートに乗り込み、セラフィムに手を差し伸べた。
「ほら」
伸びた手を眺め、セラフィムは戸惑いをあからさまにだした。
その手を握っていいのだろうか?
その躊躇に焦れたか、タイガは大きな声を出した。
「いいってば!」
セラフィムはおずおずとタイガの手を取る。
その暖かさと、まっすぐな視線は以前と変わらない。セラフィムの引けた心が少しだけ緩む。
「わ、揺れ……」
ゆらゆらと揺らぐボートになんとかセラフィムが腰を落ち着けると、タイガは思い切り櫓を漕ぎだす。
ぐいぐいと池の真ん中へとボートは進んでいく。
「いい風、陽気に釣られて主とかでねーかな」
とタイガは軽口を叩きながら、水面を覗き込んでいる。
「子供みたい」
とぽそりと笑いまじりに呟いたセラフィムに気づき、タイガはばっと顔を上げた。
「セ……ロイスは楽しいか?」
尋ねられて、セラフィムの心は沈む。
沈みながらも、無視は出来ないと、セラフィムは頷いた。
セラフィムの表情が曇ったことに気づいたタイガは、ヘタンと虎耳を伏せる。
(どうして?)
さっきまで楽しそうだったのに。
「……いつもみたいに呼ばないんだ?」
――セラ、って。
非難めいた語調でセラフィムが尋ねると、タイガはきっぱりと答える。
「今は言っちゃいけない気がする」
タイガにとって、『セラ』は、心から愛情を込めて呼ぶべき大切な呼び方なのだ。
それは理解できるのだが、心の距離を見せつけられているようで、セラフィムは悲しい。
セラフィムは気を取り直して、弱く微笑む。
「さっきはありがとうタイガ」
「いいって。そういや同僚にも名前呼ぶの多いよな、『さん』付けしそうなのに」
彼の性格ならば、他人を呼ぶに敬称をつけそうなものなのに、とタイガは首を傾げる。
「……見てほしいから」
ぽつりとセラフィムは答える。
敬語は心の距離をとる言葉だと、セラフィムは思う。いままでずっと、誰からも敬語で接されて遠巻きにされていた。
「仲良くなりたいから、言ってるんだ。……わかってよ」
恥ずかしそうに言うセラフィムに、タイガは呟く。
「俺とも?」
セラフィムも呼び方に考えがあったとは、とタイガは今更気づく。もう一度呼んで欲しいと言おうとした時。
「あ、魚」
セラフィムは水面を指さす。
「え! どこっ?! うおわっ!?」
魚と聞くなり、タイガが探そうと身をかがめたのが悪かった。バランスが崩れ、大きく揺れる。
「タイガ!!」
とっさに伸ばしたセラフィムの手がタイガの服を掴むも、時既に遅し。
ざばーん、とボートは転覆してしまった……。
(どうして)
タイガはばしゃばしゃと水面を掻きながらも思う。
(そうだ。弱虫なのに一生懸命で……)
そういう彼が――。
なんとか助けあげられ、陸で服を絞りながら、タイガは笑う。
「あはは、ひっでー。鍛えろよ!」
ケラケラ笑い転げるタイガに、セラフィムは肩をすくめ、言い返す。
「タイガこそドジ」
少し仲良くなった気がして、セラフィムは笑む。
ぎこちない空気は失せて、気安い友情が二人の間に流れていた。
恋心まではまだ戻らないけれど。
●変わるようで変わらず
しげしげと二人を眺め回し、叶は肩をすくめて首を振った。
心の何処かが麻痺したように動かないのに、何ら問題を感じていないのだ。
「僕ら、何にも進展してないみたいだねー。……ま、知ってたけど」
シニカルに言ってのける叶を、桐華は睨めつけた。
(恋は盲目ってのが、今なら良く判る)
冷め切った目で見れば、この男はなんともまぁ面倒くさい。
変わってないと言う叶にとって、桐華とは恋があろうがなかろうが変化のない存在なのだろうか。
(……知ってたけど)
二人して同じことを考えて、一人は冷笑し、一人は顰め面を作った。
「ねぇ」
なんとも重苦しい空気が漂う中、叶は唐突に桐華に声かける。
「担ぎ屋さんに負けるってのも癪だし、ちょっとくらい挑戦してみようよ」
「は?」
何を言い出すのか、この面倒くさい男は。と桐華は顔にデカデカと書いて叶を見るも、それしきで叶はショックも受けなければ動じもしない。
笑顔のまま最後まで言ってのける。
「と・き・め・き」
「挑戦って……あのな、そんなん」
桐華は呆れ果てるのだが、その合間に、
「ほら手繋いでー」
と叶は桐華の手をとって握りしめる。
「……ダメか」
人の話を聞け、と桐華は苛立たしげに、
「あのな、だから、いくらやったって」
と続けようとするも、
「じゃあハグー」
叶は桐華に抱きついてくる。
「これもダメ?」
「だから罰ゲーム感しか……」
眉根を寄せる桐華に、叶は顔を突き出す。
「ちゅーは……」
のけぞり気味に絶句している桐華に、叶はあははと笑って身を引いた。
「流石に好きでもない相手には無理か」
「……されたいとも、思ってないくせに」
叶の冗談めいた言葉には、いつもながら苛立つ。と桐華は思う。今は、恋慕が消え失せているから苛立ちも倍増だ。
叶はその怒りにも近い苛立ちに感づいているのか、優しい目で桐華に言う。
「ふふ、無理しないでいいよ」
気遣いのつもりか、と桐華はますます苛立つ。
「このままで、良いのかよ、お前は」
「ん? どうせ半日で解けるんだし、担ぎ屋さんとの勝負は、他の子に託そう」
叶は飄々と笑ってみせる。
あてどなく歩く叶の背に、耐えかねて桐華は声をかける。
「なぁ、ガス吸う前は両想いだったよな」
え? と振り向いた叶は、平然と頷いた。
「うん、両想いのはずだったよね」
「……恋人、なんだよな」
険しい顔で、桐華は質問を重ねる。
「うん、恋人っていうことになってたよね」
夜の薔薇の庭園で、桐華は『好きだ』と端的に伝えてくれた。その後ラブレターも交換した。
だから、両想いの恋人のはずだ。
とはいえ、今はあの時の感情など消え失せているが。
「まぁ、だから何だって感じなんだけ、ど……」
ヘラリと流そうとした叶の唇に、暖かくて柔らかなものが触れる。
「じゃあ、許されるよな」
桐華は挑戦的に叶を見つめていた。
(ただの嫌がらせだ)
どこまでも『どうでもよさそう』で、腹が立った。だから意趣返しを。
(俺から仕掛けたら黙るって、知ってるんだからな)
あの減らず口を抑制できればそれでいいと。
――なのに。
叶の表情は、呆けたようにきょとんとしていた。
想像していた表情とは違うものを返され、桐華は戸惑う。
「……なに、その顔」
やっとそれだけ言えたと思ったら、叶は信じられない言葉を告げる。もういっかい、と。
まさかの言葉に、桐華は動揺を隠せない。
「だって、お前……こういうの、嫌、じゃ……」
と言えば、
「あんなの、ずるい」
叶はくしゃりと顔を歪めた。
「俺ばっかり……」
呆気にとられる桐華に構わず、叶は顔を伏せる。
「どうせ信じてないんでしょ」
なじる言葉に、桐華は肩を震わせる。
「僕が。ちゃんと、君を……好きだって」
(……初めて理解した。……ちゃんと、好かれてるって)
ぐす、と鼻を鳴らす音が聞こえて、桐華はハッと我に返る。
慌てて叶に駆け寄り、背を擦る。
いつのまにか桐華には、叶を愛しいと思う気持ちが戻っていたが、今はそれに感動する暇などない。
「お、おい、叶……」
「うるさい馬鹿。桐華の馬鹿」
ぐしゅぐしゅと鼻をすすり、肩を震わせ、長い袖で何度も目を拭い、叶は涙声で桐華を非難する。
「悪かったから、泣くな。な?」
しゃくりあげ、苦しげに、それでも叶は言う。
「な、泣きやませた、かったら、ちゃ、ちゃんとしろよ」
桐華は一瞬戸惑い、そしてそっと叶の頤を掬って唇を奪う――。
ちゃんと好きだよ。
| 名前:叶 呼び名:叶 |
名前:桐華 呼び名:桐華、桐華さん |
| 名前:ハティ 呼び名:お前、ハティ |
名前:ブリンド 呼び名:リン、ブリンド |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても難しい |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 10月03日 |
| 出発日 | 10月09日 00:00 |
| 予定納品日 | 10月19日 |

2015/10/08-23:30
2015/10/07-21:39
セラフィムと・・・精霊のタイガだ。そういえば、つぶらとカラヴィンカは初めましてだね
他の皆もよろしく。直接シナリオでは会えないと思うけど健闘を祈ってるよ
変な感じだよね。虚しいといえばいいのか・・・
ときめくってどうすればいいんだろう。絆があるはずなのに・・・
2015/10/07-05:34
ハティだ。よろしく。顔馴染みの面子だがいつもとは何か変わった、のか。不思議な感じだ。
そうだな。忘れたわけじゃないが…思い出せないものがある。
まあ…帰る家は同じなんだ、慌てても仕方ないか。
担ぎ屋とは早い再会になったな。
ときめきは俺もピンとこないが、お互い負けず嫌いなことはわかっている。今はそれでいい。
2015/10/07-00:29
蒼崎海十です。
パートナーはフィン。
皆様、よろしくお願いいたします!
記憶は確かにあるのに、その時の感情は綺麗に消えていて…
途方に暮れつつ、取り敢えず、負けるのは全力で気に入らないので、
何とかしようと試みます。
頑張りましょうね!
2015/10/07-00:26
2015/10/06-19:53
とまあ冗談は大概にしたとしても、親密度が0だろうがカンストだろうが、
驚くほど通常運転な僕と愉快な桐華さんだよ!
ときめきかー、ときめきねー、って色々考えてるけど…割とさっぱりだよ。
…ま、担ぎ屋さんが楽しいばっかりもつまんないし、何やかや、考えてみるよ。
お互いがんばろーね。どうぞ宜しくー
2015/10/06-19:49
2015/10/06-19:13
どーもつぶらサンでっす。
デミギルティだっけ? 奴さん方は揃いも揃ってこう人をおちょくるのが好きなの?趣味なの?
ひとまずよろしくお願いしまァす、と。
ときめきねェ…元からそう仲がいいワケでも無いけど、それだけにときめく自分も相手も想像できないわ…あれ、つぶらサンやばくねこれ。
2015/10/06-00:44

