【月幸】呼ぶ声(真名木風由 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 セレネイカ遺跡、ネイチャーヘブンズ。
 オーガはここにいないそうだが、瘴気の影響で原住生物へ影響が出ているらしい。
 遺跡周辺の瘴気も深刻で、祓うには『月幸石』が必要だとか。
 とりあえず、現状を理解する意味もあり、『あなた』達はここへやってきた。

 燕に似た紺色の鳥が頭上を舞っているのが見える。

 ウライ、というらしいその鳥は、変質前の月幸石を好むとか。
 この鳥を追えば、月幸石があるかもしれない。
 変質するまでは見分けがつかないそうだが、行けば変質したものも混ざっている可能性はあるだろう。
 『あなた』達は、ウライを見失わないよう注意して追っていく。

 その時だ。

 周囲の木が、風に揺れた。
 その拍子に木々に咲いていた花々の花粉が空を舞う。
「!?」
 突然、パートナーが倒れた。
 名を呼んでも身体を揺さぶっても反応はない。
 息もしておらず、脈もない。
 体温すら感じられない。
 あるのは、静寂。

 何が、起きた?

 突然のことに頭が働かない。
 自分が、ひどく混乱しているのが分かる。
 契約してから、協力し合ってきたパートナー。
 さっきまで、普通に話していたのに。笑っていたのに。一緒にウライを追っていたのに。
 どうして、いきなり。
 『あなた』は泣きそうになるのを堪え、歯を食い縛った。

 こんなの、認めるものか。

 『あなた』は、パートナーをじっと見据える。
 口を開き、紡ぐのは、呼び戻す言葉。

解説

●状況
・変質前の月幸石を好むウライを追っている最中、木々の花の花粉を吸い込んだらしい精霊が倒れた。
・現在、死んでいるように見える。
(PL情報:瘴気の影響を受けた花の花粉を吸ったことで擬似的な仮死状態に陥っています)
・神人は精霊を呼び戻す言葉を投げます。

●プランの書き方
神人
精霊への想いを書きましょう。
具体的行為はキスまでとし、キス以上の行為や肌で彼を温めるというような行為はNGです。
後を追って自分もとか木を切ってやる鳥の羽を毟りに行くとかも精霊が放置されるので精霊への専念をお願いします。

精霊
擬似的な仮死状態に過ぎない為、生きています。
身体は動けませんが、声は普通に聞こえます。
擬似仮死状態中は話せない為、精霊が神人へその事実を教えることは出来ません。
神人の言葉を聞いて感じたことや状態が解除された後のことを書いてください。

●消費ジェール
・軽食と飲み物(300ジェール相当)を持ち込んでいます。

●注意・補足事項
・今回は個別描写です。
・瘴気を受けた花の花粉の影響だけあり、ウィンクルムの絆が状態解除の鍵である模様。普段は隠していることも思い切り言ってみましょう。
・自ら脱いで肌で温める行為は萌えるのですが、瘴気の影響を受けた原住生物がいるという場所的に危ないですし、全年齢の範囲を逸脱し易い為、NGとなり、記載あっても不採用となります。
・実は聞こえていたとバラすか内緒にするかは皆様次第です。

ゲームマスターより

こんにちは、真名木風由です。
今回は、神人が精霊を呼び戻すことが主題です。
普段から愛情を確かめ合っている方も普段は素直ではない方も精霊へ思いの丈をどうぞ。
が、動けないだけで聞こえていますし、聞こえなくとも本人に聞かせるものですから、普通に聞いたらビックリしてしまうような内容ではない方がいいかもしれません。
隠している想いが、今後を変えるかもしれませんね。

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  誰がリンと呼び始めたのか知らない
出会った時からリンはリンで、
それを忘れないよう名前もあまり呼ばなかった
それでもアンタを中心に回った
回ってしまった、だけど
アンタに負けるつもりのなかった事が一つある
リンが俺を思うより俺の方がリンを思ってる
墓まで持っていく予定だったがアンタは尽く俺の予定を狂わせた
教えろよ…俺をどうするつもりだった?
…ブリンド
さっきまで何も聞こえなかったのに
よかった
離れていくのを追うように自分から触れる
された時に何か言われたような気がするが時間が飛んでいた
リンの沈黙に気付いてそそくさと離れる
……仕事があってよかった
外したら余計見えないだろ
それは初耳だ
う…ライのところに決まってる
居たぞ


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  咄嗟に体を抱える
呼吸と脈を確かめる

!?

思考と心が乖離する
思考が止まる
体は身に染み付いた知識をなぞる
気道確保、人工呼吸…

時が凍る

胸郭に手を重ね強く心臓を押す
口移しで新鮮な酸素を入れる
耳を当てる

くそっ
何でだ
何で戻って来ない!

首筋
体温が無い!?

突然死でも急に気温と同温にはならない
つまり魔法的作用か
…ならまだ救いも可能性もある
月幸石の本物でもありゃ奇跡も願えるってのに…

そう空回りする思考の間にも
体はひたすらに人工呼吸を続ける

遠くから聞こえるのは俺の声だ

戻って来い
戻って来い
ランス!行くな!戻って来い!

畜生!行くな!
あんだけ先に行かないって約束しといて

バカヤロウ!

この…バカ狼!
俺を一人ぼっちにするなよ!!



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  フィン、聞こえるか?
俺の声を聞いてくれ
戻って来い
お願いだ 答えてくれ

肩を掴み、必死に揺すりながら声を掛け続ける

絶対に逝かせやしない

言葉を止めてしまったら、このまま永久にフィンを失う
そんな恐怖と戦いながら

なぁ、頼む
目を覚ましてくれ
約束しただろ?一緒に幸せを探すって
フィンなしで、どうやって探せって言うんだよ
フィンが居ない世界なんて、俺は…
(大粒の涙が溢れる)

フィンが変えてくれたんだ
フィンが居てくれたから
俺は俺を取り戻した

フィンの孤独を知って、フィンの事を見つめて

誰かを好きになる事を知り
生きる事が楽しいって思えて…

俺はフィンを独りになんて絶対にしない

フィンが好きだ
お願いだ
俺を見て、もう一度笑ってくれ


安宅 つぶら(カラヴィンカ・シン)
  えっと…何が起きて…?
…やばいの?むしろ手遅れなの?こんな突然?

…つぶらサンどうすればいい?
泣く?縋る?
そんな仲じゃなかったよねつぶらサン達?
むしろ知らない事ばっかりで、今知ろうとしてる所で
アンタの台本、今まだ読んでる所で(EP3)
…悲しいって言うか、悔しいよ
「理解できるとは思えない」とか言われて、絶対理解してやるって思って
でも、できないままなんて…そんなのアンタの勝ち逃げじゃないか

…許さないよ俺(本来の一人称)
人を踊らせるだけ踊らせて、謎ばっかり残して…
年長者なら責任くらい取れよ…!(薄ら潤ませながら)

(目が覚めたら)
ばっ…泣くもんか!
つぶらサンはいつだって笑顔だっての…(安堵で泣き笑い)



日暮 聯(エルレイン)
  …さっきまで、鬱陶しいくらいのちょっかい、かけてきてたじゃん
なのに、いきなり……なんだよ
「今はウィンクルム、頑張ろう」って言ったクセに…

…アンタに、言わねェとゼッテー後悔すること、…
オレ、アンタのこと、認められるようにしようって、
アンタが隣にいるの…慣れてきたし、
アンタ、のこと…いつの間にか、ともだち、みたいに思えてたのに

一人にすん、の? ……(相方の文様がある手を握り

アンタが…オレと契約すんの乗り気だったじゃんか
こんなまじつまんねェ不登校な引きこもりと

解除後
…聞いてた、か?
ふぅん……チッ後で嫌になるくらい、
耳に胼胝ができるほど聞きやがれっつーの
一言も聞き逃したら許さねェから
 ウライ追うぞ…



●涙の声
 アキ・セイジは、倒れたヴェルトール・ランスを咄嗟に抱えた。
 呼びかけてみても反応がなく、行ったことは呼吸と脈の確認───信じたくない事実に思考が停止する。

 何が、起きた?

 突然のことに思考が追いついてこない。
 が、本能が身体を突き動かす。

 気道確保……それから、人工呼吸。

 混乱している、と自分でも思う。
 時間が意味を成さない。
 ヴェルトールが動かない時間が凍っているのに酷く長い。

 心臓マッサージ、再び人工呼吸───

 けれど、ヴェルトールの反応はない。

「くそっ。何でだ、何で戻って来ない!」
 アキが苛立ちを口に出す。
 こうしている間にもヴェルトールの身体はどんどん冷たく……冷たく?
 アキが首筋に手を伸ばすと、温もりが一切ない。
 おかしい。
 温もりが全くない。
 突然命が喪われたからと言って、これはおかしい。
(普通じゃない……)
 ここがセレネイカ遺跡であり、ネイチャーヘブンズにはオーガの瘴気の影響を受けた動植物があると思えば、精霊に対して何か特別な効果が発揮されている可能性はある。
 それならば、手立てはある筈。
 そう思うのに、その手立てが思い浮かばない。
「月幸石の本物でもありゃ奇跡も願えるってのに……」
 珊瑚のお守りを握って漏れたのは、そんな言葉。
 これを作った時、こんなことを自分が言うとは思ってなかった。

 心と身体が繋がらない。
 倒れたヴェルトールは、正にそういう状況だった。
(何、必死になってんだセイジ)
 アキが酷く混乱しているというのは、人工呼吸と心臓マッサージの手順で分かる。
 『心臓マッサージと人工呼吸の仕方』がその混乱具合の最たるもの、医療知識が豊富なヴェルトールは人工呼吸よりも心臓マッサージの優先が重要だと知っている。
 現在アキが取っている方法はそうではなく、だから余計にアキの混乱が伝わってくるのだ。

 戻って来い…
 戻って来い……!

(セイジ、泣いてる?)
 いつもの声じゃない。
(畜生、何だってんだよこれ)
 自分だって何が起こったのかよく分かってない。
 ただ、周囲の風に揺れた花の花粉を認識した時には倒れていた。
 恐らく、周囲の木々の花が原因によるものだろう。
(愛する人を泣かせたまま寝てんじゃないよ。俺の馬鹿野郎)
 アキが呼んでいる。
 泣きながら、俺を呼んでいる。

 ランス! 逝くな! 戻って来い!

 畜生! 逝くな!

 あんだけ先に逝かないって約束しといて……バカヤロウ!

(セイジ……セイジ……)
 今すぐ目を開いて、いつものように笑ってやりたい。
 けれど、身体は動かない。
 その時だ。
 ヴェルトールの頬に、暖かい水が落ちた。

 この……バカ狼!

(セイジの、涙……?)
 一粒だけではなく、後を追うように幾つか落ち、自分の頬を流れていくのが分かる。
(あたたかい……)
 不意に、自分の身体が持ち上げられた。
 抱きしめられている。
 感情のままに抱きしめられている。

 俺を一人ぼっちにするなよ!!

 叫びの間から見える剥き出しの心。
 伝わっていることを伝えるには、どうすればいい?
 身体は、自然と動いた。
 今まで凍っていた身体が、抱きしめられた熱で取り戻されたように。

 お前が、呼んでくれたからだ。

「誰が馬鹿狼……だよ」
 わざと大きく溜め息を零す。
 ヴェルトールは頭を撫で、アキを腕に中に閉じ込めた。
 ありったけの愛と想いを表すように、少し荒々しく、けれど自分の愛も想いも零れないよう一直線に力強く。
 こうすれば、アキは泣き顔を俺に見られない。
 自分だって、照れくさくて正面からその顔を見ることが出来ない。
 アキの言葉があったから、戻ってこれたような気がする。
「ホント、ビックリしたぜ」
 そう笑ってみせると、アキは「驚かせるな」とまだ顔を見せずにそう言った。
 胸に顔を押しつけ、ヴェルトールは呟く。
「しねぇよ……1人になんて……」
 小声は聞こえずとも、その腕が全ての想いを伝えている。

 そんな彼らが変質した月幸石を幾つか脇に見つけるのは、もう少し後。
 運んできたウライも、そこは察してくれたようだ。

●誓う声
 エルレインは、自分に何が起こったのか理解出来なかった。
(あれ? 何だろ? 動けない?)
 先程までのことを考えれば、自分が病気でいきなりということではないとは思うけど。
(……レンたん近くにいるの?)
 閉ざされた視界で思うのは、パートナーである日暮 聯のこと。
 意識があっても身体は動かない……そのことを伝えたくとも伝える手段がない。
 突然の事態だ、今も呼吸や脈を確認しているらしい聯も何が起こったか分からないだろう。

「……さっきまで、鬱陶しい位のちょっかい、かけてきてたじゃん」

 やがて、聯の声が聞こえてきた。
 一通り確認し、エルレインが気絶している訳ではないと気づいたのだろう。
「なのに、いきなり……何だよ……」
 その声は、エルレインが知らない響きだ。
「今はウィンクルム、頑張ろうって言ったクセに……」
 ウィンクルム……神人と精霊で成り立つ存在。
 自分は、聯のパートナーである精霊だ。
(このまま、目覚められなかったら目の前の彼はどうなるんだろう?)
 死んだと思われて埋葬されることよりもそのことが気になった。
 精霊は複数の神人と契約するケースは聞いたことがないが、神人は複数の精霊と契約するケースがある。
 つまり、聯は他の精霊と契約が可能……自分がいなくなれば、他に精霊と契約していない彼は確実に次の精霊と契約することになるだろう。
 適合している精霊と契約すれば、聯は───
(だめ、そんなの絶対!)
 エルレインは、想像した未来を即座に否定した。
(レンたんのパートナーは私、エルレイン! 他の精霊にレンたんは渡せない)
 だから、何としても目覚めたいのに身体は動かない。
 と、聯が呼吸を整える音が聞こえた。
 何だろう?

「……アンタに、言わねェとゼッテー後悔すること……」
 聯は、意を決して話し始めた。
 何が起こったか分からないが、エルレインは息をしていない。
 言うには遅いかもしれないけれど、今言わなかったら後悔する気がして。
「オレ、アンタのこと、認められるようにしようって」
 今まで自分が構築していた世界に強制的に入り込んできた存在。
 この世界がいいのに、連れ出そうとする。
 契約したから? よく分からない。
 苦手でも、認められるようにしようと決め……自分なりに頑張った。
「アンタが隣にいるの…慣れてきたし、アンタ、のこと…いつの間にか、ともだち、みたいに思えてたのに」

(え!? レンたんが私のこと友達みたいって!?)
 エルレインは、聞けた本音に感動する。
 更に驚いたのは、次の瞬間。
 聯の手が、自分の手を握った。
 文様のある手であるというのはすぐに分かる。

「独りにすん、の?」

 しない。
 私、ウィンクルム頑張ろうって言ったもの。
 レンたんを知らない精霊となんて契約してほしくない。
 私が、レンたんの精霊だもの。

 声を出して言いたいのに言えない。
 いつもは当たり前のようにしていたことが出来ない、それがこんなにもどかしいなんて。
「アンタが……オレと契約すんの乗り気だったじゃんか。こんなまじつまんねェ不登校な引きこもりと……」
 聯は、そこで言うのを止めた。
 エルレインがぱちっと目を開けたからだ。
「……聞いてた、か?」
 タイミングが良過ぎる。
 呼吸も脈も確認してるから、寝た振りではないのは頭では分かっているけれど。
 聯は立ち上がり、「ウライを追うぞ」と歩き始めた。
「ん? 聞いてた……って? あ、レンたん待って!」
 エルレインが慌てて後を追ってくる。
 足を止めた聯は、たまたまのタイミングだったのかとエルレインを見る。
「……後で嫌になる位、耳に胼胝が出来る程聞きやがれっつーの。一言も聞き逃したら許さねェから」
 舌打ちも交えてそう言った聯は、エルレインが心の中で呟いたのを知らない。
(知らない振り、しちゃおう。そうしたらまたレンたんの本音、聞けるもの)
 あなたのこと、独りにしないと誓ったその時、聯が何かに蹴躓いて転んだ。
 見ると、ウライが運んできたらしい、変質した月幸石が幾つか足元にあった。

●響く声
「フィン、聞こえるか?」
 蒼崎 海十は、フィン・ブラーシュへ声を掛けた。
 呼吸も脈もないことは確認した、
 自分をいつも包んでくれる優しい体温も感じられず、心地良い響きの声も返ってこない。
 あるのは、静寂だけ。
「俺の声を聞いてくれ。戻って来い、お願いだ 答えてくれ……」
 意識がないことは分かってる、でも、震える手は肩を掴み、必死に揺さぶる。
 今そうしなかったら、フィンはそのまま俺を置いて旅に出てしまう。
 フィンに届かせるように掛ける声は、全身を支配する恐怖が色濃く出ていた。

 絶対に逝かせてなんかやらない。
 諦めるものか。

(海十……大丈夫だから、心配しないで)
 フィンは海十の声を聞きながら、指1本動かせない状況をもどかしく思っていた。
 掴んでくれる手が熱くて震えてる。
 声が悲しそうに震えてる。
 切ない響きに、胸が締めつけられた。
(そんな風に悲しい声を出さないで)
 海十の声は、誰かに喜びを与える歌になるんだから。

「なぁ、頼む。目を覚ましてくれ」
 懇願して逝かないなら、幾らでも懇願しよう。
「約束しただろ? 一緒に幸せを探すって。フィンなしで、どうやって探せって言うんだよ」
 縋りついて逝かないなら、幾らでも縋りつこう。
「フィンがいない世界なんて、俺は……」
 泣いて逝かないなら、幾らでも泣いてやる。
 だから、俺を残して逝かないでくれ。

(ごめん、海十)
 フィンは、海十へ謝った。
 今この状況で海十を悲しませていることに。
 そして、そんな海十へ胸を痛めながらも、自分の為にここまで必死になってくれる姿を嬉しく思っていることに。
 海十の涙が、俺の頬を濡らしているというのに。
「フィンが、俺を変えてくれたんだ。フィンがいてくれたから、俺は俺を取り戻した」
 自分の間違いを指摘してくれた人。
 のほほんと笑っているけれど、本当は孤独を抱えていた人。
 そうしてフィンを見つめていった、誰かを好きになることを知った。
 生きることが楽しいと思えるようになったのも、フィンのお陰。
 世界を変えてくれた人。
 海十は、涙に負けまいとして声を絞り出している。
(……海十だけが、変わった訳じゃないよ)
 フィンは、身体が動けばそう言って抱きしめてやりたいと思った。
(誰にも一生語ることはないと思った過去を話せたのは……海十が俺の孤独に気づいてくれたから)
 救われたのは、俺の方。
 だから、自分だけなんてことはないよ?
 今、そう言えたらどんなにいいのに。
「俺はフィンを独りになんて絶対にさせない」
 一緒に幸せを探すのだから。
 海十は、フィンの身体を抱きしめた。
 自分の温もりがフィンへ移ればいいとさえ思って。
「フィンが好きだ。お願いだ。俺を見て、もう1度笑ってくれ」

南の風が薫る
君が響いてる
空青く君はいつもそこに在る
君こそ僕が帰りゆく場所
想いの故郷

「……新作?」
 繋ぎ止めるような海十の歌声へ、柔らかい響きで問いが投げられた。
 歌うのを止めた海十が見ると、青い空が見える。
 帰りゆく場所、俺の───
「心配かけてごめんね。ありがとう、海十」
 フィンが強く抱きしめ、背中を撫でてくれる。
 戻ってきた優しい温もりが嬉しくて、海十はその温もりを感じるようにしがみついた。
 顔を上げると、フィンがいつもより不器用に笑ってる。
 多分、泣きそうなのを堪えているのだろう。
「どう? 俺は上手く笑えてる?」
「50点だ」
「厳しいな」
 いつもの笑顔じゃないと言ってやると、嬉しくて泣きそうなフィンが海十の額に自身の額を重ね合わせる。
「俺も、海十を独りになんてさせない。海十が好きだよ。離さない」
 だから、笑顔が100点を貰っても卒業しないから。
 そう言うと、海十はぷいっと顔を背けた。
「卒業するって言ったら、永遠に100点やらない所だった」
「あ、酷い」
 そうすればフィンは自分と離れないと言いたげな海十へ、フィンが笑った。
 視線の端にウライが変質したっぽい月幸石を積んで遊んでるみたいだけど、海十へ教えるのももうちょっと後でいいよね?

●世界を変える声
 ハティは、ブリンドをじっと見た。
 一通りの確認はした。
 時間が停止したかのように彼は動かない。
「誰がリンと呼び始めたのか知らない、けど……出会った時からリンはリンだった」
 それを忘れないよう名前もあまり呼ばなかった。
 それでもアンタを中心に回った……回ってしまった、だけど。
(どうやら俺は、リンが俺のことで困ると安心するらしい……そう思ったこともあった)
 あれは、鍵の町ターレンへ出かけた時だったか。
 氷を思わせる薄青の色硝子を填め込んだ銀色の鍵をその顰め面の横に並べてみたら、「鍵は1本、クッキーは1枚」と言っていた彼がノロいから先に買っておくと店を出て行った。
 何だかんだで気遣ってくれる。
 口も悪くて、手もすぐ出るけど。
 彼は彼のやり方で思ってくれている。

 けど。

「アンタに負けるつもりのなかったことがひとつある。リンが俺を思うより俺の方がリンを思ってる」
 その言葉を、動けないブリンドは聞いていた。
 お前もロクデナシになればいいと言ってやった男は、必要なことは言わないのに、どうでもいいことばかり聞いてくる。
 けれど、子供ではなく。
 あの夜、あの燐光のような目に映った自分は獰猛な悪い狼……子供を見ているようには見えなかった。
(俺がハティの生活を変えようとしたなら……)
 死にたがりのアホに何だかんだで口を出したのが自分なら───
(こいつは関わらないことで俺の生活を守ろうとしたんだろう)
 首を突っ込まなくてもハティはハティなりにやっていけたんだろう。
 それが、解らない訳ではない。
「墓まで持っていく予定だったが、アンタは尽く俺の予定を狂わせた」
 だから、何も言わなかったのか。
 心ン中で、いつもああ言ってたのかよ。
 手を握るなど、眠っている夢じゃなければ無理……飴を舐めてなかったら、気づく機会などなかっただろう。
「教えろよ……俺をどうするつもりだった?」
 ハティの声が、揺れた。
 瞬間、ブリンドは『それ』を再生した。

 ハティがトライシオンダリアに寄生された時のことだ。
 最終的に散らしたが、浅く腹は捌かれた。
 戻ったハティは泣きそうな声で痛くないかと聞いてきた。
『痛くねーよ、こんなの』
 それを聞いてハティはしゃくりあげて泣いていた。

 忘れられない、1度きりの涙を見た時の声に似ている。

「……ブリンド」

 ハティが、普段リンと自分を呼ぶハティが、自分の名を呼んだ。
 身体は自然と動いた。
 けれど、それよりも早く頬にそれが落ちた。
 間に合わなかったことに舌打ちする思いだが、伸ばした手はそのままハティの顔に触れる。
「……さっきまで動かなかったのに。良かった……」
「目ェ閉じるな、開けてろ」
 ブリンドはそう言って、開いたままの目から新たに零れそうな涙を拭う。
 されるがままのハティは、静かだ。
(話すつもりがなかったってことは、これでまた元通りのダンマリか……ちと惜しいが)
 ブリンドはハティに顔を近づけた。
 燐光の瞳を見つめて口づければ、ハティの時間が停止する。
「やっぱり、お前の負け」
 合間にそう言ってやったが、聞こえているかどうか。
 やがて、離れようとすると───
「……ッ」
 追ってきたハティが、自ら触れてきた。
 初めてされた返答にブリンドが時間を停止していると、ハティがそそくさと離れようとした。
「ウ、ライを見つけなきゃ。……仕事があって良かった」
「良くない、おめーの涙でぼやけて見えなかった」
 ハティにそう言うと、ブリンドは眼鏡を外した。
「外したら見えないだろ」
「いいこと教えてやるよ。この眼鏡は伊達だ」
「それは初耳だ」
 ハティは立ち上がろうとして、周囲に気づく。
 変質した月幸石が幾つも転がっていて、上空には飛び去っていくウライが見える。
「いたぞ」
「置いてったなら、いいだろ」
 追いかけそうなハティへ、変質した月幸石の回収が必要だとブリンドは説く。
 これがなかったら、さっさと走り出して、「はえーなおい」と言う所だったのだろうと思いながら。

●求める声
 安宅 つぶらは、目の前の事態についていけない状態だ。
「えっと……何が起きて……?」
 カラヴィンカ・シンが、突然倒れて動かない。
「……やばいの? 寧ろ手遅れなの? こんな突然?」
 何の前触れもなしに、とはこのことだ。

 さて、そのカラヴィンカと言うと。
(身体が動かんな……どうしたものか)
 意識はあるが身体が動かない事態を理解し、状況打破に思考を巡らせていた。
 しかし、方法が分からない。
(……道化が)
 先程から動揺している声を上げる自らの神人は、自分の状態を一通り確認していた。

「……つぶらサン、どうすればいい?」

(くっ、これが愛し合う恋人同士だったなら後世まで残る名作になっただろうがなぁ)
 こう考えている辺り、カラヴィンカは骨の髄まで演出家魂に彩られている。

「泣く? 縋る? そんな仲じゃなかったよね、つぶらサン達?」
 つぶらも自分達は泣いて縋る間柄ではないことを知っている。
 泣いて縋る親しさはなく、まだ互いのことだってよく知らない。
「寧ろ知らないことばっかりで、今知ろうとしてる所で、アンタの台本、今まだ読んでる所で」
 終電に乗り遅れた自分を傑作だと大笑いして連れて行ってくれたちびすけの家は1人で暮らしているとは思えなくて。
 でも、水場には彼の為の踏み台があって。
 中身は性悪ジジィだけど、やっぱり外見に合った家具(踏み台が家具というのかは分からないが)があると思ったりしたけど。
 でも、それがもうないってこと?
 これ以上知ることは出来ないってこと?
「……悲しいって言うか、悔しいよ」

(わしを理解しようという努力は否定しないが、今更他人の理解は求めていない。……たかがそれしきのことが、泣く程悔しいか)
 カラヴィンカは、そう返す。
 他人の理解を求めるには、自分は───

「理解出来るとは思えない、とか言われて……絶対理解してやると思ったのに。それが出来ないままなんて……そんなの、アンタの勝ち逃げじゃないか」

(勝ち逃げ? 土俵にも上がっていないのに何を言うか)
 気づかないとでも思っているのか。
 それとも気づいていることに気づかないのか。
 だから、道化だと言っている。

「……許さないよ、『俺』」

(ほう)
 カラヴィンカは、つぶらの声も口調も変わったことに気づいた。
 お前は、それに気づいているか?
 気づかぬ役者は舞台に立ち尽くすだけだ。
 『お前』は、舞台に立ち尽くすだけのつまらない役者か?

「人を踊らせるだけ踊らせて、謎ばっかり残して……年長者なら責任位取れよ……!」
「ならば、その見るに堪えん顔、何とかしたらどうだ?」
 つぶらが顔を上げると、カラヴィンカが目を開けていた。
「綺麗に泣けぬのは舞台栄えせんのじゃが」
「ばっ……泣くもんか! つぶらサンはいつだって笑顔だっての……」
 けれど、つぶらは安堵で泣き笑いの表情。
「道化、いや、今は『つぶら』と呼ぶべきか」
 盛大な溜め息と共に、その名を呼ばれた。
 つぶらが目を瞬かせていると、カラヴィンカは起き上がってつぶらを見据える。
「いつも笑顔でいたいのは『道化』のお前だろう。踊らされながらも笑いを取ろうとする、まさに道化だ」
 カラヴィンカは、つぶらの表情の動きを見て取る。
 自覚があったのかなかったのか、気づいたことに気づいていなかったのか……それらをカラヴィンカは問う気はない。
「わしに責任を取れと言うなら、お前も『つぶら』になれ。道化に理解を求める程、わしも落ちぶれてはおらんのでな」
 そこまで言うと、「さっさと拾わんか」と周囲を指し示す。
 いつの間にか、月幸石が幾つも転がっている。
 自分と違って、カラヴィンカは飛び去るウライが落としていったことに気づいていたようだ。
 拾うつもりもなく、持ってきたサンドイッチを木の花の風上で食べ始めるカラヴィンカの目に、今映るのは道化か『つぶら』か。
 それは、彼の台本にも綴られていないだろう。
 まだ、舞台にも立てない役者は、やっとスタートラインに立ったのだから。

 その声は、目の前のパートナーを必要としている。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハティ
呼び名:お前、ハティ
  名前:ブリンド
呼び名:リン、ブリンド

 

名前:安宅 つぶら
呼び名:道化
  名前:カラヴィンカ・シン
呼び名:カーラ、ちびすけ

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 糸巻茜  )


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月18日
出発日 09月24日 00:00
予定納品日 10月04日

参加者

会議室

  • [6]蒼崎 海十

    2015/09/23-23:54 

  • [5]蒼崎 海十

    2015/09/22-00:05 

    皆様、宜しくお願い致します。

    蒼崎海十です。
    パートナーはフィン、なのですが……。

    一体、何が起こって…?
    …絶対に引き戻して見せる…。

  • [4]ハティ

    2015/09/21-21:54 

    ……ウライは待っていてくれるだろうか。
    安宅さん達は初めまして。ハティという。
    出来るだけ早く戻る。

  • [3]安宅 つぶら

    2015/09/21-19:27 

    やっほーつぶらサンです!
    見覚えのある旦那方も無い旦那方もよろしくゥ!

    で、えーと…どうしようかね、って言うか何が起きてんのかねおちび…?

  • [2]日暮 聯

    2015/09/21-11:25 

    あー…どーもー…。ヒグラシ・レン、と…精霊はエルレイン。
    絡み、はねェな。今後とも、よろしく…。
     ……(ギリッと歯軋り)突然すぎて段々と腹立ってきた。

  • [1]アキ・セイジ

    2015/09/21-00:17 


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