【例祭】月光に花開く(真名木風由 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 『あなた』達は、ゆっくりと腰を落ち着けた。
 フェスタ・ラ・ジェンマは、ここルーメンでも開催されている。
 少し早い豊穣の宴は、以前自分達の為に力を尽くしてくれたウィンクルム達にも楽しんで貰いたいという心遣いに溢れていた。
 『あなた』達は祭の中心で一緒に楽しんだかもしれないし、少し外からそれを眺めていたかもしれない。或いは、のんびりとどこかで過ごしたかもしれない。
 それは、『あなた』達次第だろう。
 いずれにせよ、今はこの場で落ち着くように2人腰を下ろしたのは変わりない。

 『あなた』達の手には、それぞれガラスカップがあった。
 この中に蕾が入っており、適度な温かさのお湯が注がれている。
 所謂、工芸茶と呼ばれるものだが、ルーメンでの祭り、それもウィンクルムへと差し出されたものは、普通の工芸茶と少し違うらしい。
 曰く、月の光を浴びて咲く花が用いられているのだそうだ。
 見上げれば、もうひとつの月、テネブラが見える。
 常に北の空に在るこの月は、契約を行った神人と精霊にしか見ることが出来ない。
 以前は見ることが出来なかった月、そして、契約をしなければ足を運ぶことはなかったであろう場所───そうした場所にいられるのは、胸に抱く感情はどのようなものであれ、ウィンクルムになったからだろう。
 欠けることのない円を描いた月は、暗い濃紺。
 けれども、ガラスカップの蕾はゆっくりと花開こうとする。
 まるで、長い時間を掛け、ここに在る自分そのものを示すように。

 『あなた』の『花』は、今、咲いているか───

解説

●出来ること
・下記の中から工芸茶(1人1種ずつ)を選び、花開くのを見ながらパートナーと一緒の時間を過ごします。

選べる工芸茶
・月光輝夜
淡いクリームを帯びた白の蓮に似た花。
香りは甘め。味も仄かに甘いがくどくはないそう。カモミールティー系とのこと。

・紅空美月
鮮やかな赤の芍薬に似た花。
香りは芳醇。まるで香水のような変化を感じるような紅茶(フレーバーティー)系の味わいだとか。

・蒼水浮月
深い青の矢車菊に似た花。
香りは清涼感がある。後味がすっきりした飲み口でミントティー系。

・夜月朝紫
淡い青紫の桔梗に似た花。
香りは爽やかで瑞々しい。緑茶に良く似た味わいでクセがない。

・月星静夜
純白の花梨に似た花。
香りはどこかフルーティー。独特の甘みがあるのに後味が爽やか。黄茶に近い味。

●消費ジェール
・今日1日過ごすのに、600ジェール消費。

●注意・補足事項
・今回は個別描写ですが、周囲に人がいない訳ではありません。会話が聞かれることはなくとも、TPOには十分ご配慮ください。
・パートナーと共に過ごす時間、『自分に関連すること』をパートナーにお話いただいても構いません。
『自分に関連すること』であれば、話題の制限はありませんが、ワールドガイドや実際のリザルトとは異なる内容の自由設定・プランは問題ない範囲まで暈されます。
・言葉を交わさず過ごす場合も、花開く様を自分になぞらえ、自身を振り返ってください。
・強行してプランを作成しても残念な描写となる場合もありますので、プロローグ本文・解説の熟読をお勧めします。

ゲームマスターより

こんにちは、真名木風由です。
今回は、ルーメンでテネブラ見つつの2人だけのお茶会です。
他では見られないちょっと特別な工芸茶の中から、1種選び、花を開く姿を見ながら、ゆっくりとした時間を過ごしてください。
工芸茶自体には特別な何かがある訳ではないので、好みで選んでいただいて大丈夫です。
こういう時だからこそ、自分自身を知る、相手を知るいい機会かもしれませんね。

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  『デート行こう!』て言われて驚いた
いつも出掛けていたけど改めて言葉にすると…
両想いになったんだ


■紅空美月
(ガラス越しに目が合って挙動不審)
つ、月の光で花が咲くなんて面白いね
うん、覚えててくれたんだ
どれだけの光で咲くんだろう
でも月みながらって咲く瞬間見逃してしまいそうだ
それもそうか
……
(会話が持たないっ 話してたのに何で)
え!?いや蕾からして花びら多いし鮮やかな花がみれそうで
タイガは?
あ…
僕もタイガみたいって選んだんだ
もし僕が月ならタイガは太陽だね

月は太陽の光を反射して光るから
タイガがいて僕も元気になれるところが、なんて(赤面
テネブラで隣にいてくれるのも捨てがたいけれど

あ、咲くよ
うん?(首かしげ


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  蒼水浮月にする。
すっきりミント系がウマそうじゃん。
こういうお茶ってのもあるんだな。感心しきり。
どうやって作るんだろ?(単なる好奇心)

こういうミント系のお茶飲むとさ。
以前の任務を、幾つでも振りかえってしまうんだよな。
頭がすっきりで反省モードになるのかな?
何とか敵は退けても色々とウマく行かなかったのとか特に。被害をもっと抑えて解決できなかったかとか。
これ、経験を巧く生かせて無いのか?
…要するに、オレ達、精進が足りない?
とラキアと2人で反省会。
お茶のせいか。何か真面目に考え込んだぞ。

ラキアが落ち込む結果は嫌だ。
酷い目に逢う人を少しでも減らしたい。
うん、オレの原点はここだ。
つねにそれを頭に置かなきゃ。



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  悩んだ結果
見た目、深い青が気に入った『蒼水浮月』を選ぶ

暗い濃紺の月
初めてテネブラを見た時も、隣にフィンが居たっけ
覚えてるか?

紅い月を、俺は気持ち悪く感じると言って
…血の色みたいだったから
でもフィンの言葉を聞いたら…何だか自分の考えが小さいなと思ったんだ

今は?
…嫌いじゃない
だってさ…この月が見えるって事は、フィンと繋がっているって事だから
フィンと同じ景色が見れる

お茶飲もうと話題を変える
開いた花が凄く綺麗だ
フィンのはどんな花だ?(覗き込む)

ああ、いい香りだ
俺の好みに合わせて選んでくれたのだろうかと、顔が熱く

俺がこのお茶を選んだ理由もお見通しかも

慌ててお茶を飲んで、清涼感のある香りと味に和む
良い夜だ


新月・やよい(バルト)
  お茶:夜月朝紫

バルトに声をかけられて振り向く
ありがとう
つい、月に魅入っておりました

月、ですか?
…少し前まで、苦手でした。と苦笑い
ちょっと昔話をしましょうか

バルトと会う前のこと
デミ・オーガの群れに襲われた事がありました
その時、周囲の人を一人でも助けないと、なんて
自分が囮になって走り出して、そのまま敵と一緒に行方不明
今思えば無謀でしたね

逃げて、走って
満身創痍になっても生きて
夜は隠れて…
でも、月は苦手でした
余に眩いから、敵に僕の居場所を教える道標になるのではと
熱したレンガの上を歩く猫の如く、怯えたものです

「でもね、今は嫌いじゃないですよ」
君が居るから
そんな言葉の変わりに呟く
『こんなに、素敵ですから』



信城いつき(ミカ)
  蒼水浮月×2

お祭り色々あって楽しい!
!?無理矢理って何する気!?……あ、お茶か、びっくりした。

お茶すっきりしておいしいね、なんだか香りで落ち着く
花もすごく綺麗だね……ん?
ミカを見たら、黙って花が開くのを見てる。
静かにしてた方がいいかな

今、何考えてたの?
見て感じるだけじゃなくて、表現したいんだ。なんだかすごいな
……仕事に関する事は結構真面目なんだね。な、何にも言ってないよ!

俺?えっと……花火?
普通、花火って夜だから青は目立ちづらいよね
だけど、このカップの中で綺麗に咲いてる
まるで手の中に花火があるみたい。
変かな?

同じ物を見てるけど、同じ事を考えてるわけじゃない

それが少し楽しいと思ったりして。



●違うからいい
 信城いつきは、ミカの隣へ腰を下ろした。
 見上げれば、不動のテネブラが夜空で契約した者達だけにその姿を見せている。
「今日も楽しかった! フェスタ・ラ・ジェンマ、本当に場所によって違って面白い!」
「チビちゃん少し静かにしような」
 少し興奮気味のいつきへミカが宥めの言葉を掛ける。
 周囲に全く人がいない訳ではなく、それぞれの時間を過ごしている。
 その時間に水を差すのは野暮というものだろう。
「それとも無理矢理黙らせようか?」
「!? 無理矢理って何する気!?」
 ミカがにやりと笑えば、いつきが咄嗟に身構える。
 先方にはその気がないと態度で分かるが、サンドイッチの件は忘れない。
 が、いつきに差し出されたのは、ガラスカップだ。
 中には花の蕾があり、工芸茶であるというのは説明されずとも分かる。
「これでも飲んで落ち着け。月の光を浴びて咲くらしいから、蕾のまま全部飲むなよ?」
「……あ、お茶か、びっくりした」
 いつきは安堵の言葉と共にガラスカップを受け取る。
 カップを顔に近づけ、香りを確かめてみると、清涼感ある香りが鼻腔を擽った。
「良い香りだろ? 舌を火傷しないようにな」
「分かってるよ。……でも、何か落ち着く香り」
 そう会話をしている間にガラスカップの花が緩やかに開いていく。
 蒼水浮月、という名らしいこのお茶の花は深い青が鮮やかだ。
 地上の植物に例えるなら、ヤグルマギクが1番近い。
(すごく綺麗……。何か……見せてあげたかったな)
 いつきはちょっとだけそう思って視線を落とした後、ミカへ声を掛けようと彼へ顔を向ける。
 いつきと同じ蒼水浮月の工芸茶を手にしたミカは、先程のやり取りからは想像もつかない静寂を纏って、花が開く様を見ていた。
(静かにしてた方がいいかな)
 何かに重ねて想いを馳せているかもしれない。
 そう考えていたら、ミカがいつきに気づいた。
「今、何考えてたの?」
「仕事柄、気になってな」
 いつきが話したくなければ話さなくていいという前提で尋ねると、ミカは何でもないことのようにそう言った。
「単純に再現するだけなら自然の美しさの方が上だ。だけど、それが人に栄えるとは限らない」
 どうすればアクセサリーとして その美しさを、自分が感じたことを表現出来るか。
 いつきにはない発想である。
「見て感じるだけじゃなくて、表現したい……何だか凄いな」
(……仕事に関することは結構真面目なんだ……)
「チビちゃん、何か言ったか?」
「な、何にも言ってないよ!」
「顔に出てるからな?」
 ミカがそう言うと、いつきは誤魔化すように工芸茶へ口をつけた。
 後味がすっきりした飲み口が口の中に広がっていく。
「あ、すっきりして美味しい。ミカ、ありがとう。これ飲めなかったら、惜しい思いしてた」
 誤魔化すつもりで言っている訳ではないというのは、出会って日が浅くとも分かる。
 いつきも、ミカには持っていない発想があるのだ。
 それが、表現者として少し興味があった。
「チビには、蒼水浮月がどんな風に見える?」
 ミカが問いを投げると、いつきは目を瞬かせ、しばし考え込む。
「えっと……花火? 花火って、普通夜にやるから、青って目立ち難いけど……このカップの中で綺麗に咲いていて、手の中に花火があるみたいな……変かな?」
「いや? 手の中の花火ね……それも面白いんじゃないの?」
 いつきの言葉をミカは否定しない。
 それどころか肯定する。
 ひとつとして同じ表現を行う者がいないからこそ、いいのではないか。
 いつきはそう言われているような気がした。
(同じ物を見てるけど、同じことを考えてる訳じゃない)
 自分とは違うミカの隣でお茶を一口。 
 ミカも自分とは違ういつきの隣でお茶を一口。
(どうやったら、『手の中の花火』を表現出来るだろうか)
 もし、それを表現出来たなら、どんな表情をするだろうか。
 考えてみて、ミカは口元に笑みを浮かべる。

 それが、少し楽しい。

 同じお茶を飲む2人の、唯一同じ見解。
 それ以外は、違うからいいのだ。

●まるでこの花のように
 セラフィム・ロイスは、ガラスカップを手に緊張していた。
(日中はお祭りが賑やかだったから意識しなかったけど……デ、デートなんだよな)
 火山 タイガから、「デート行こう!」と言われて驚いてしまったけれど、でも……待たせ過ぎてしまったけれど、両想いになったのだと改めて思い、そして───
(って、今、ここで思い出したら……っ)
 初めてのキス、直後に重ね合わされた額、タイガとの距離……リアルに思い出した。
 ガラスカップでは赤い芍薬に似た花が開こうとしていて、更にその向こうにタイガの姿がある。
 タイガと、目が合った。
「お、お茶、何にした?」
「俺? 月星静夜。白くて綺麗だよな」
「僕は、紅空美月選んだんだ」
 純白の花梨に似た花は、タイガのガラスカップの中で静かな佇まいを見せている。
(セラ、やけに緊張してんな)
 夢に見た恋人同士、恋人としてのデート。
 らしいことが出来ればと思ったが、セラフィムは緊張しているようで、挙動不審だ。
(俺の所為か!?)
 タイガは、思い当たる節に行き当たってどうしたものかと考え出す。
 すると───
「つ、月の光で花が咲くなんて面白いね」
「おう、こういうの好きだろ」
 セラフィムが静寂を破るようにそう言うと、タイガはそう笑った。
 すると、セラフィムの顔が綻ぶ。
「うん、覚えててくれたんだ。……嬉しい」
「セラのことだからな」
「……っ。ど、どれだけの光で咲くんだろう。月見ながらだと、咲く瞬間を見逃してしまいそうだ」
 タイガの言葉に跳ねる心臓を必死に宥めつつ、セラフィムは緩やかに咲こうとしている花に目を落とす。
「一気には咲かねぇだろ。きっと気づくって」
 タイガはそう言って、笑う。
「その花、気に入ったんだ?」
「え!? い、いや、蕾からして花弁多いし……鮮やかな花が見られそうで」
 まるで、タイガの笑顔みたいな花が咲くんじゃないかと思って。
 それは言葉にすることは出来なかったが、タイガは自身の花に目を落として笑った。
「俺はセラのイメージで選んだ! 蒼水浮月も迷ったけど、静かな夜に浮かぶ月や星ってセラっぽい名前だなって」
「あ……」
 タイガの屈託ない笑顔が、セラフィムへ向けられる。
 するりと、さっき飲み込んだ言葉が口から出た。
「僕もタイガみたいって思って……これを選んだんだ」
「マジ? ……そっか、セラにはこう見えてんのか……」
 タイガが嬉しそうにセラフィムの手の中でゆっくり開こうとしている花を見つめる。
「もし僕が月ならタイガは太陽だね」
「どういう意味?」
 タイガが目を瞬かせると、セラフィムは花を見て微笑んだ。
「月は太陽の光を反射して光るから。タイガがいて僕も元気になれるところが、なんて……」
 言っていて恥ずかしくなってしまい、セラフィムは自分の顔が赤いことを自覚した。
 でも───
「テネブラで隣にいてくれるのも捨て難いけれど……僕にとっては、そう」
「どれもいいな。まあどんな形でも駆けつけてやるけど!」
 タイガはそっと手を伸ばし、あの夜とは違って肩を引き寄せた。
 セラフィムは視線を逸らすように落とした花がもうすぐ咲くことに気づく。
「あ、咲くよ」
「んじゃ、セラの笑顔で咲いてくれた工芸茶、飲むとすっか」
「!? 大それてるから!」
 セラフィムが否定するが、すごく小さな声で「嬉しいけど」と付け足してくれる。
 タイガがガラスカップに口をつけると、フルーティーな香りと共に独特の甘みが口の中に広がっていく。
「美味い。後味も結構爽やかだし。……あ。こいつら、子供かな。太陽と月の元に咲くし」
 芳醇な香りを楽しんだ後、香水のような変化がある紅茶に似た味を楽しんでいたセラフィムがお茶を噴いた。
「うお、セラ、どうした!?」
「ね、狙ってない?」
 首筋まで赤いセラフィムにタイガが笑う。
「ちょい、可愛いセラ見たいし……交換したい。口移しでもいいぞ?」
「ターイーガー」
 恥ずかしさの臨界点に達したセラフィムがタイガを叱ったのは言うまでもない。

●良い夜の定義
 蒼崎 海十は、フィン・ブラーシュの隣に腰を下ろした。
「海十は、結局何にしたの? 随分悩んでたみたいだけど」
「蒼水浮月。フィンは……月星静夜、だよな?」
「海十、好きそうだよね。フルーティーな香りだし」
 フィンがそう言って目を落とすと、海十はそうと分かるレベルで顔を赤くした。
 海十はフィンの視線から逃れるように夜空を見上げ、テネブラの姿を捉える。
 契約しなければ見ることも出来ない、ルーメンとは異なる月。
 暗い濃紺の月を見ていると、初めてその存在を認識したあの日を思い出す。
 初めてテネブラを見た時も、フィンは隣にいた。
「覚えてるか?」
 海十が、口を開く。
 あの日を、蘇らせるように。

『気持ち悪い月だな』
『どうして?』
『あの紅が、血の色に見える』
 あんなものが見えるようになったのか。
 まるで、あいつの血の色のような───
『そうかな? 俺は綺麗だと思うよ』
 驚いた自分へフィンが笑った。
『2つも月が見られるなんて、お得じゃないか。しかも、テネブラは色が変化するらしいし、今まで見られなかったのが勿体無い位』
『そういう、ものか?』
『そういうもの! それに、赤には苺やトマトだってあるんだし、そう思えば、何だか美味しそうじゃない?』
『変な奴』
 でも、フィンと違って、自分の考えが何だか小さい気がした。

 海十の話に耳を傾けながら、フィンは優しく尋ねた。
「今はどう? まだ血の色に見える?」
 血の色に見えた理由は、フィンは気づいている。
 だから、気になった。
「今? ……そういうのは感じない。嫌いじゃない」
 そこまで言ってから、海十はフィンへ顔を向けて笑った。
「だってさ、この月が見えるってことは、フィンと繋がっているってことだから。フィンと同じ景色を見ることが出来る。……今感じるとしたら、絆の色、かな」
 すると、フィンが顔を抑えた。
 指の隙間からの顔色は赤くて、イチゴやトマトのよう。
「……イチゴやトマトではなくなったかも」
「海十って、そういう殺し文句を無自覚でさらっと言っちゃうから、オニーサンは将来が心配です」
 俺をどれだけ喜ばせれば気が済むのか。
 フィンが漏らす言葉で海十も気づいて赤くなるから、フィンにとってあの色は海十の色になるのだろう。
「あ…も、もうすぐ完全に咲くな!」
 海十は話題を変え、ガラスカップに目を落とす。
 自身のガラスカップにはヤグルマギクによく似た花、フィンのガラスカップには花梨によく似た花が咲こうとしている。
「……すごく綺麗だ。フィンのもよく見せてくれ」
「白で、綺麗でしょ」
 フィンが覗き込む海十にもよく見えるようにガラスカップを示す。
 顔を近づければ、フルーティーな香りが鼻腔を擽った。
「いい香りだな」
「やっぱり、海十、こういう香り好きだね。そっちの香りはどう?」
「俺のもいい香りだ」
 海十がガラスカップを指し示すと、今度はフィンが顔を近づけてくる。
 香りを楽しむかのようなフィンとの距離が少し近くて、海十は意識してしまう。
 太陽を思わせる、フィンの金の髪……手を伸ばせば、太陽にも手が届きそうだと錯覚してしまいそうな気がする。
(俺の好みに合わせて、香りを選んでくれたのかな……)
 顔の熱さが脳にまで行ってしまったのだろうか、手を伸ばしていた。
 驚いたフィンの青空の瞳が海十を映す。
「あ……」
 フィンの青空を見て、海十は何故自分がこのお茶を選んだかお見通しかもしれないと思った。
 それは、花梨のような『唯一の恋』……この花は花梨ではない、けれど。
「ごめん! 何でもない!」
 海十はぱっと手を離すと、ガラスカップへ口をつける。
 それから、その香りと味に顔を和ませた。
(俺は自惚れてもいいかな?)
 青を選んだ理由が『そう』なら、俺はヤグルマギクのような『幸福感』を覚えるけど?
「いい夜だ」
「うん。いい夜だね」
 フィンがそっと手を伸ばし、指を絡める。
 数秒の静寂の後、海十が応えるようにその指を絡めてくれた。
 唯一の恋は、この上もなく幸福。

●原点回帰
 セイリュー・グラシアとラキア・ジェイドバインは、ガラスカップの中の花に目を落としていた。
 セイリューが蒼水浮月、ラキアが紅空美月とそれぞれ異なる色合いの花はガラスカップの中でゆっくり花開こうとしている。
「こういうお茶ってのもあるんだな」
「家で飲まなかったの?」
「こういうのはなかったな」
 そこそこいい家柄の当主弟であるが、セイリューはこの方面にはあまり興味がなかったのか、知らなかったようだ。
「どうやって作るか分からないけど……すっきりミント系ってウマそうだよな」
「俺は味の変化がどういうのか味わいたくて。今日のテネブラは違う色だけど、きっと赤い日のような色合いの美しい花が咲くんじゃないかって思って」
 好奇心旺盛なセイリューとは違う方向だが、ラキアも味に興味があって選んだようだ。
「へぇ……セイリューの蒼水浮月はヤグルマギクに似ているけど、俺の紅空美月は芍薬に似てるな……」
「ラキアは流石だなー」
 ラキアの呟きにセイリューは感心して笑う。
 口をつけて飲んでみれば、触れ込み通り、ミントティーのような味が口の中に広がった。
「こういうミント系のお茶飲むとさ」
 セイリューが、そう切り出した。
「頭の中すっきりするからかな、以前の任務を幾つでも振り返ってしまうんだよな」
 そうして、以前の任務で至らなかった点を反省するのだと言う。
 何とか敵を退けても、色々上手くいかなかった───そうした結果だった任務は特に。
 被害はもっと抑えられたのではないか。
 もしかしたら、被害がもっと大きくなったのではないか。
 解決したとは言え、こうすれば良かったのではないかと後になって思うのだそうだ。
「幾つもあるってことは、経験を巧く生かせてないのかなって」
 生かせなかった分、誰かが酷い目に遭う。
 助かった自分とは違い、助からない人が出てくるかもしれない。
 そんなのは嫌だ。そのことでラキアが傷つくのは自分が傷つく以上に嫌だ。
 少しでもそんな目に遭う人を減らしたい───それこそが自分の原点だと思うから、頭に常に入れておきたい。
「俺も、任務の後は色々反省するね」
 ラキアも最初は軽やかさを感じる爽やかな甘みが、やがて、成熟した酒のような深みを持つ味へ変化する過程を口の中で感じながら、自身も同じなのだと口にした。
 自分はライフビショップ……誰かを『怪我させない』『殺させない』のが重要である。
 誰かが深手を負ったなら、それは自分の動きに問題があったのではないかと思うのだ。
 どう動けば、怪我人を出さずに済んだだろうか。
 任務の際の自身の行動を振り返り、至らない所を採点……いや、ダメ出しする。
 『次』は、怪我人で済まなくなるかもしれない。
 『次』を生まない最大の努力をしなくてはならない。
「俺も振り返ることが沢山あるから、まだまだだね」
「……オレ達、精進が足りないってこと?」
 ラキアの言葉にセイリューが眉を寄せる。
「2人で反省会になってるよな。周囲が静かで、こういうお茶飲んでるからか? 何か、改めて真面目に考え込んだ感じだな」
「巧くいかないことが続くと、焦ってしまうけど、多分、俺達は少しずつ、以前よりは前に進んでると思う」
 ラキアはそう微笑む。
(俺が次回、もっとちゃんとしなきゃと前に目を向けられるのは、君が俺の為に心を砕いてくれるから。君の心遣いがなかったら、俺は立ち止まってるかもしれなかったよ?)
 どれだけ感謝しているか。
 そして、そうしてくれるセイリューのことがどれだけ好きか分からない。
 俺は君の隣にいたい。
「こういうお茶も時間を掛けて成熟させる。経験も無駄なものは何もないと思う。もっと巧く生かしたいと思う欲が俺達にはあって、歯痒く思う時もあるけど……一緒に頑張ろう。セイリューと一緒なら、俺は頑張れるよ」
 ラキアがそう微笑む。
「オレもラキアと一緒なら、頑張れる。よろしくな!」
 だって、『今』隣でラキアとテネブラを見ているのは、オレだから。

●花開くような心
 バルトがガラスカップを手に新月・やよいの所へ向かうと、やよいはテネブラをじっと眺めていた。
「待たせたか?」
 やよいが顔を向ければ、バルトは夜月朝紫と呼ばれる工芸茶をやよいへ差し出す。
「ありがとう。つい、月に魅入られておりました」
「疲れてるだろうし、休もうか」
 バルトは、グラスカップを受け取ったやよいへ座るよう促す。
 周囲は無人ではないが、静かな場所……テネブラを見ながら茶を飲むに向いている場所だ。
 バルトは咲きかけの紅空美月へ目を落とし、やよいへ問いを投げた。
「……新月は、月は好きか?」
「月、ですか?」
「あなたの名前が『新月』だから……聞いてみたいと思った」
 やよいが目を瞬かせると、バルトはそう言った。
 特別深い理由があると言うより、何気なく聞いたものだろう。
 やよいはバルトの表情からそれを察し、彼の質問へ苦笑と共に答えを返した。
「……少し前まで、苦手でした」
 バルトが一瞬目を見開いたのを確認しつつ、やよいは桔梗に似た淡い青紫の花が咲いていく様を眺める。
 しばし沈黙が舞い降りるが、やよいはそれを話すいい機会だと口を開いた。
「ちょっと昔話をしましょうか」
「……昔話?」
 それは、やよいの視点で語られるバルトと出会う前の昔話───

 バルトと出会う前、やよいはデミ・オーガの群れに襲われたことがあった。
 生まれた時から神人であるやよいは、契約しなければ、真っ先に狙われる。
 自分が原因で何も知らない人達が巻き添えになる───周囲の人を1人でも助けないと。
 やよいは、自ら囮になるべく走り出した。
 デミ・オーガから逃げる為、とにかく走って、走って……もう走る力なんかないのではと思っても、ぼろぼろの姿になっても、生きる為に逃げて、走り……気づけば、自分も行方不明の扱い。
 今思えば無謀でしかなかったと思う行為だが、当時はそう思っていなくて。

「あの時、夜の闇に隠れようと思ったから、闇を照らす月は苦手でした。闇の中であまりにも眩いから、彼らに僕の居場所を教える導となるのではないかと……熱したレンガの上を歩く猫の如く怯えたものです」
「……そうか」
 静かに話を聴いていたバルトが、そう漏らす。
(あなたは、そうして月の導に怯えていたのか)
 バルトは、新月の失踪について多少、客観的な情報のみ知っていた。
 A.R.O.A.から適合する神人が見つかったという連絡を受け、すぐに起きた事件……バルトは顔も知らない神人の失踪を案じていたのだ。
 やよいの主観から語られるその事件は、彼が独りで外出することを不安に思う理由を明確にさせている。
(俺も、あなたを捜していた)
 バルトは、心の中でそう呟く。
 契約していない神人は、とても弱い……弱い者は守る、どうか無事でいてほしいとバルトはやよいを捜していたのだ。
 けれど、全ては言葉に出来ない。
 目蓋を閉じれば、あの日のやよいが蘇る。
 病院に収容されたやよいの、あの姿が。
「嫌なことを聞いたな。……すまない」
 契約前であったが、バルトはその時、『弱いものを守る』というモットーを強く意識した。
「……でもね、今は嫌いじゃないですよ」
 バルトが辛い感情を呼び起こしたのを打ち消すかのように、やよいがそう言った。
 顔を向けた先で、やよいは微笑んでいて。
「こんなに、素敵ですから」
 呟くような言葉……けれど、バルトには、君がいるからと言われたような気がした。
(俺が、いるから?)
 そう言われていないのに、バルトにはそう感じられる。
 やよいの視線を追えば、ガラスカップの花はどちらも美しく咲いていた。
「綺麗ですね」
「そうだな」
 バルトがやよいの言葉に口元を少し綻ばせる。
 開いていくこの花が、新月の心のように見えた。
 ゆっくりでも、少しずつでも開いてくれたなら……とても、嬉しく、そして───
「綺麗だな」
 月光に開く花も心も。
 まだ語る時ではない言葉は心に秘め、今はただ、このひと時を楽しもう。
 いつか、このひと時が原点となるように。

 『花』は、咲いている。



依頼結果:大成功
MVP
名前:セイリュー・グラシア
呼び名:セイリュー
  名前:ラキア・ジェイドバイン
呼び名:ラキア

 

名前:新月・やよい
呼び名:新月
  名前:バルト
呼び名:バルト

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 7.7.4  )


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月04日
出発日 09月10日 00:00
予定納品日 09月20日

参加者

会議室

  • [8]蒼崎 海十

    2015/09/09-23:55 

  • [7]蒼崎 海十

    2015/09/09-23:54 

    遅くなりましたが、改めまして、蒼崎海十です。
    皆さま、宜しくお願い致します!

    月の光で開く花…何とも素敵ですね。
    のんびり楽しみたいです。

    よい一時になりますように!

  • [6]セラフィム・ロイス

    2015/09/09-23:43 

    うん、これからよろしくね(ほっ・・・ミカが話のわかる精霊でよかった・・・)
    『タイガ:ん?おう?(周り見て)何かあったのか?』
    なんでもないからプランの最終確認しよう(おしおし)

    みんなも思い思いのよい時間が過ごせますように
    『タイガ:おう!俺らも過ごすぞー!』
    うん、楽しもう

  • [5]新月・やよい

    2015/09/08-01:01 

    遅れましてこんばんわ。新月とバルトです。
    初めての方も、お久しぶりの方もよろしくお願いいたします。

    月見酒ならぬ月見茶というステキな香りに誘われてきました。
    冷え込んで来ましたが、どうか風邪をひかぬよう。
    お互いに良き時間になりますように。

  • [4]信城いつき

    2015/09/07-22:59 

    ?セラフィムこのまーーーうぐっ(ミカの手で口ふさがれる)

    ミカ:はじめまして、タイガさん セラフィムさん
       (小声で)チビちゃん、もう少し空気読むって事覚えようなー

    いつき:(慌ててうなずく)。

    ミカ:他のみんなも改めて、どうぞよろしく。風情のある素敵な時間を過ごせますように。
    いつき:ふがふぐぐっ(よろしくねっ)

  • [3]セラフィム・ロイス

    2015/09/07-00:33 

    :タイガ
    うまったな。俺、タイガとセラだ。花のお茶が飲めるときいてセラ好きそうだし
    はじめましてさんはーーーとミカか。噂の複数精霊だな。よろしくな!
    『セラ:Σ(前回あ・・・ったのは会議室はトキワとだった)そ、そうだね』

  • [2]蒼崎 海十

    2015/09/07-00:17 


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