時には昔の話を(あき缶 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●話そう
 そういえば、と君は思うのだ。
 彼と契約する前の話を、自分はあまり聞かないな……と。
 そして、反対に彼にも自分の昔の話をしていないな……と。

 なにかきっかけでもあれば話したのだろうが、なかなかどうして過去の話をする契機というものは、やってこないものだ。

 ならば、と君は思うのだ。
 きっかけは作るものだと。

 だから君は、彼をこのホテルのスカイラウンジに呼んだ。
「時には昔の話をしよう」
 と。
 彼が快諾したのは、きっと彼も君の話を聞きたかったからだろう。
 君と同じようなことを彼も考えていたのだろう。
 どちらが先かなんて、どうでもいい話だ。

 手持ち無沙汰も何だし、場所を借りる礼儀として何か頼もう。
 ここはタブロスの街が一望できる高層階。
 今日は快晴で遠くの山までよく見える。
「パシオンシーまで見えそうだ」
 なんて軽口を言っていたら、頼んだ品物が給仕されてきた。
 ウェイターが去っていけば、ほらもう契機だ。
 君は口を開く。
「……なんでもない話、なんだけど」
 話し始めることが、なんでもない話ではないかもしれないけれど、そんな軽さで口火を切らないと、きっと永遠に話せない気がした。

 さあ始めよう。
 君と彼がウィンクルムになる前の話。

 時には昔の話を。

解説

●目的:契約前の話をする
 過去を語るハピエピです。
 神人、精霊どちらの話でも構いませんし、ふたりとも語ってもOKです。
 EXではないので、長くなりそうならどちらか一方だけのお話にしたほうがよさそうです。
 ただし、ワールドガイドに照らし合わせ、無理のあるような話の場合マスタリングしますので、ご了承下さい。

●場所
 タブロスのホテルのスカイラウンジ
 個室ではありませんが、互いの声は聞こえません。

 何か飲み物を頼んだということで、合計300ジェール頂きます。

ゲームマスターより

お世話になっております。あき缶です。
契約の時の話、契約の後の話、とくれば契約の前の話があったっていいって思ったんだ。
打ち明け話でもいいですし、思い出話でもいいです。
時には昔の話をしましょう。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  外で会うのは冷静に話すためだろうが
それ以外は正直さっぱりだ
俺のいた家…、施設には行方不明者の捜査が入る予定だったが
脱出を手引きしたのは自警団のリーダーだ
行われなかった捜査と彼が一人だった理由はどうやら隠されようとしていた
排除する動きに集まったのが自警団の始まりだ
俺達はバラバラだったがリーダーを守るという目的だけは一致していた
聞きたい話で間違いなくて良かったが…後をつけでもしたのか?
嫌いなんじゃなかったのか
根に持ってるわけじゃないが
言われなくても俺はろくでなしだ
無理するなよ
アンタそんなやけくそな…覚えてたのか
あの日は今日を祝えるとは思わなかったが
これでもいつか祝えたらいいと思ってた
アンタと


初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
  そういえばあいつの昔の話って聞いたことないな
……折角だ、聞いてみるか

うんまあ大事に育てられたのは想像ついたが、
っていうかさらっと伴侶とか言うな!
そうじゃなくってな、もっとこう……
いやその面白エピソードも気にはなるが!何故乗った!

……(ため息一つ)なあイグニス
お前、彼女とかいなかったのか?
精霊なんて美形揃いだろ、お前見た目王子で中身 まあいい奴だし
モテたんじゃないのか

……自分で聞いといて後悔が押し寄せた
聞いたところでどうにもならんというのに
っておい、何かすごく勘違いしてないか大丈夫か?
っ、そう、か
最初で……最後、か(照れ臭そうに)

ほんの少しでも、お前の事が分かったから
たまには昔の話も、悪くないな


クルーク・オープスト(ロベルト・エメリッヒ)
  昔の話…か
ってもそんな話すことねーけど…あー…あ
「あそこあたりに小さい頃住んでたんだぜ」
とどこかの街を指差すぜ
今の住所は進学の都合で引っ越したしな
あとは学校とか部活のこととかしかねぇ…
「行けばいいじゃねえか」
…それより
俺はロベルトがどうしてこんな極端な美しいもの好きになったか気になるんだよな
あと学校の話すると羨ましがるし
「俺もお前の話は気になるぜ」
(昔に何かヤバいことがあったんじゃねえかと勝手に思ってるけど違うのか…?)
「ふーん…」
(最後まで聞いてみて)
…あれ、意外と普通…でもないか
でも学校の話したときの反応の理由はわかった
なんかすげーなぁ…想像もつかねぇ
「……まあ……話してくれてありがとよ」



西園寺優純絆(ルーカス・ウェル・ファブレ)
  ☆心情
(パパ、この前何かの写真見ながら悲しそうにしてた…
パパが泣きそうになるの、初めて見たのだよ…)
「ねぇパパ?
この前、写真を見ながら泣きそうになってんだもんね
誰が写ってたの?
ユズね、パパの事もっと知りたい
もっとパパの息子になりたい!」

☆静かにルーカスの話を聞く

☆視聴後
「その人、ユズに、似てるですの?
パパ、いつも持ち歩いてる写真に写ってる?
見せて欲しいのだよ!
(写真を見せてもらい…)
わぁ、この人がパパのお嫁さんなの?
パパの言う通り綺麗な人~!
それにユズに似てるのだよ!
この人がユズの本当のママだったらな…
そしたらパパと3人で仲良く暮らせたのに…
パパ…
うん!ユズはママとパパの息子なのだよ(ニコリ」


日暮 聯(エルレイン)
  オレにとってはどうでも良いし、アンタにとってもどうでも良いかもしらねェんだけど、

…オレは中2から3年の頃、いじめられてた
仲良かったヤツも見て見ぬふりだったし
…けど、見て見ぬふりしたヤツもいじめてたヤツも、
どうでも良い、

なんて思ったらガッコーなんて行かなくなってた
通ってるトコ、中高一貫だったし高校とか難なく入ったわけだし

格好? …前はすんげぇ地味だったけど?
髪は完全に黒かったし

…はぁ、もうオレの話はどーでも良いっつーかァ……
これからも学校、行く気ねェし

ウィンクルム、か。そういや、そう…だったな
…オレも……頑張ろ…
んだよその顔(デコピン



●蒐集の理由
 よく晴れた空の下、タブロス市街がひろがっているのを一望できる窓際の席で、ロベルト・エメリッヒは歓声を上げる。
「わー! よく見えるね、ここ」
 爽快な光景へほころばせた表情のまま、ロベルトはクルーク・オープストに向き直る。
「クルークは今日も美しいね」
 クルークはいつも言われている戯言は流し、ひょいと窓を通し、下界の一点を指した。
「あそこあたりに小さいころ住んでたんだぜ」
 今住んでいるところは、進学のために引っ越した場所なのだ、とクルークは言い添える。
「へぇ……進学?」
 白いテーブルクロスをきちりとかけたテーブルに肘をつき、ロベルトはクルークの顔を眺めながら相槌を打った。
「ああ、学校が……」
 クルークは促されるままに普段の話をする。とはいえ学生にとっての日常の世界は狭い。学校のことと部活のことくらいが精一杯。
 だが、それでもロベルトは楽しげに話を聞いていた。視線はクルークの美貌に釘付けだったが。
「いーなー、僕も学校行きたい」
 クルークは気軽に返す。
「行けばいいじゃねぇか」
 だがなぜ学校の話をするとうらやましがるのだろう、という疑問はクルークに湧いていた。
 それに、どうしてこんなにもロベルトが美を蒐集することに執着するのかも。
「それより、お前の話が気になるぜ」
「え? 昔の話?」
 蒐集物に肯定され、ロベルトは戸惑った様子で眉を寄せた。
「別にいいけど……」
 クルークは生唾を飲み込んだ。ロベルトの過去はどうにも危なそうな気がしているのだ。
 そんな彼の様子にロベルトは苦笑を漏らす。
「期待してるような話はできないと思うなぁ……」
 ロベルトは供されたドリンクを口に運び、それから昔話を始めた。
 エメリッヒの家は美術商だった。ロベルトは教育はすべて家庭教師から受けていて、学校には行ったことがないという。
「家が美術商だったから、もちろん、周りは美術品だらけだったよ。つまり、美しいものに常日頃から囲まれていたということだね」
 そしてロベルトは、とある美少年に出会う。
 家業のツテで出会った彫刻家を目指す男だった。
「初恋?」
「恋……とはまた違ったと思うんだよね」
 ただ、コレクションに加えたいとは思った。
 己の傍において、愛でたい。愛し愛されるというような情を交わす仲ではなく、ただただ彼の美しさを賛美していたい――。
 人はいつか老い、美を失っていくのだけれど……。
(これからのこともあるし、そこまで話さなくっていいよね)
 ロベルトはクスと笑って、
「僕の昔の話はこれでおしまい。期待していたような話じゃなかったでしょ」
「ふーん……」
 クルークは拍子抜けしたように、息を吐いた。
(意外と普通…………、でもないか。美しいものをコレクションしたいーってなった話なんだし)
 だが、ロベルトが学校生活に憧れるような言動をとった理由は分かった。
「なんかすげーなぁ……想像もつかねぇ」
 平々凡々とした一般的生活を送ってきたクルークには、ロベルトの環境は理解の及ぶ範囲からは少し遠かった。
 凡人らしく、凡人のような感想を述べ、しかしクルークはせっかく打ち明けてくれたのだから、と微笑む。
「……まあ……話してくれてありがとよ」
「あはは。僕もどうして美しいものが好きなのかよくわからないや」
 ロベルトは反応に困っているらしきクルークを笑い飛ばす。
「でもいいじゃんいいじゃん」
 再びドリンクを飲み、ロベルトは外の景色を眺める。
「この景色も美しい。クルークも美しい。それでいいじゃん」

●家族になりたい
 かちゃ、とカップをソーサーに戻し、西園寺優純絆は意を決して、対面で静かに紅茶を嗜んでいる精霊に話しかけた。
「ねぇパパ?」
 ルーカス・ウェル・ファブレは優純絆の呼びかけにすぐ反応し、微笑しながらカップを音もなく下ろした。
「はい、何ですかユズ?」
 笑顔のまま優しく問いかけられ、優純絆は先日の彼を思い出して胸を痛めた。
 ――写真を見つめ、悲しげな表情をしていたルーカスを。
「この前、写真を見ながら泣きそうになってたよね」
 真剣な青い瞳に射られ、ルーカスははっとしたように一瞬目を見張ったが、笑みに苦味を含ませつつも、穏やかに返した。
「おやおや、まさか見られていたとは……」
 やはり悲しい表情をしていたのは事実なのだ。優純絆は思い切って尋ねた。
「誰が写ってたの?」
 不躾な質問かもしれない。何でもない仲なら、深く聞いてはいけないことなのかもしれない。
 だが、優純絆はルーカスを父を慕う者だし、契約したウィンクルムだ。だから、聞きたい。
「ユズね、パパのこともっと知りたい。もっとパパの息子になりたい!」
 必死に食い下がる優純絆を、ルーカスは笑みを持って受け止めた。
 一口、紅茶を飲み込んでからルーカスは頷く。
「そうですね、ユズには話しておきましょう」
 私の過去を――。
「私は十七歳で家督を継ぎました。両親が亡くなったからです」
 そして二十歳の時、周囲に勧められ結婚することになる。相手はルチアという令嬢。
 いわゆる政略結婚というものだが、幸いにもお互いが一目惚れ、愛しあう仲での婚姻だった。
「結婚生活は順調でした。しかし……」
 幸せは長くは続かなかった。ルチアが病で倒れたのだ。闘病も虚しく、ルチアはこの世を去ってしまった。
「ルチアはユズに似ていましたよ」
 と見つめられ、じっと静かに彼の話を聞いていた優純絆は驚きの余り少し大きな声を出してしまった。
「その人、ユズに、似てるですの?」
 ルーカスに優しく首肯され、
「パパ、いつも持ち歩いてる写真に写ってる? 見せて欲しいのだよ!」
 おねだりされ、ルーカスは大事そうに一葉の写真を優純絆に渡した。
 じっと見つめ、優純絆は確かにと納得する。
「わぁ、この人がパパのお嫁さんなの? パパの言う通り綺麗な人~! それにユズに似てるのだよ!」
 大喜びではしゃぐ優純絆を眩しそうに眺め、ルーカスは過去を思い出すように懐かしそうな顔をした。
「えぇ、そうです。ルチアは綺麗で可愛く清楚でした。少しおっちょこちょいでしたが、いつも笑顔の絶えない人でしたねぇ」
 子供はいなかったが、幸せだった。とルーカスは言う。
「この人がユズの本当のママだったらな……。そしたらパパと3人で仲良く暮らせたのに……」
 優純絆は夢を思い描いて、しかし叶わないことにため息をつく。
(しかし、ルチアが病に倒れる前の記憶が曖昧ですが……)
 ルーカスは過去を思い返し、どうも靄がかかっている部分にひっかかっていた。
 だが、心配そうに優純絆がルーカスを見つめていることに気づくと、いつも通りの優しい微笑をたたえ、優純絆の頭を撫でる。
「ユズ、あなたはあの日から私とルチアの大切な息子ですよ」
 大きな手に頭を優しく包まれ、優純絆は、ぱぁっと表情を明るくさせた。
 優純絆は満面の笑みを持って頷く。
「うん! ユズはママとパパの息子なのだよ」

●どうでもいいはなし
 エルレインは、神人の言葉を聞いて首を傾げていた。
(どうでも良い? ……どういう、話?)
 というのも、日暮 聯が中学時代の話をしたいと言ってエルレインをホテルのラウンジに呼び出したのだが、話の切り出しというのが。
「オレにとってはどうでも良いし、アンタにとってもどうでも良いかもしらねェんだけど」
 だったからである。
 エルレインにとって、聯の中学時代の話は初耳だ。故に、興味津々ではあった。
 エルレインが本題に入るのを待っていると、ポツリポツリと聯は話し始める。
「……オレは中2から3年の頃、いじめられてた」
 衝撃的な話である。だが、エルレインには信じがたい。
(優しいレンたんが、どうして……?)
 エルレインにとって、神人は運命の人である。素晴らしい人物なのである。いじめの対象になるとは到底思えなかった。
 エルレインの混乱に気付かず、聯は話し続ける。
「仲良かったヤツも見て見ぬふりだったし……けど、見て見ぬふりしたヤツもいじめてたヤツも、どうでも良い」
 なんて思ったら、不登校になった。中高一貫校だったので、不登校であっても高校に問題なく進学できたのだ。
「そういえば、レンたんの格好……グラデーションのパーカーに学ランだよね。髪の毛は黒と白のグラデーション……前からそうだったの?」
 エルレインが尋ねると、
「格好?」
 聯はチラリと己の袖に視線を落とすも、
「……前はすんげぇ地味だったけど? 髪は完全に黒かったし」
 とエルレインの予想を否定する。
「地味?! 信じられない……!」
 思わずエルレインが声を上げると、ジロリと非難の視線を向けられ、エルレインは慌てて否定する。
「あ、悪い意味じゃなくてね」
 聯は、神人の機嫌を損ねまいと一人大慌てのエルレインを眺めていたが、面倒そうにため息と共に吐き捨てる。
「……はぁ、もうオレの話はどーでも良いっつーかァ……。これからも学校、行く気ねェし」
「学校は行かなきゃダメだよ」
 と大人の意見をエルレインは言いかけるも、聯の空気を読み、
「って、言いたい所なんだけどね……無理して行くこと、ないよ。うん!」
 と場をとりなした。
 そして可憐な美少女めいた顔をほころばせ、ぐっと両手を握って見せる。
「今はウィンクルム、頑張ろう?」
「ウィンクルム、か」
 聯はぼーっとエルレインの方を眺め、
「そういや、そう……だったな」
 と頷いた。そもそもウィンクルムだから、エルレインとこうして顔を突き合わせているわけだ。
「……オレも…………頑張ろ……」
 ――頑張ろ!? レンたんが頑張ろうって!??
 期待していなかった台詞が聯の口から出てきたことに、エルレインは驚く。
 目を瞬かせて、言葉を失っているエルレインを見て、聯はむっと眉を寄せた。
「んだよ、その顔」
 バチンと指でエルレインの額を弾いた。
「いたっ」
 と額をさすりつつも、エルレインは感動に浸る。
(レンたんがそう言ってくれるなんて……!)
 これからもより一層、頑張らねば! とエルレインは契約精霊としてのモチベーションを燃やすのであった。

●最初で最後の運命
 ラウンジでドリンクを手に、イグニス=アルデバランは笑顔であった。
(ラウンジデート……!)
 初瀬=秀からお誘いを受けて、ここに座っているのだ。こんなに嬉しいことが他にあるだろうか!
 だが、秀は秀で、このラウンジに呼び出したのには理由があった。
(そういえば、あいつの昔の話って聞いたこと無いな)
 だから、聞いてみようと思ったのだ。
「イグニスの昔の話を聞かせてくれ」
「……スカイラウンジデートと思いきや昔の話、ですか?」
 ちょっと残念そうな色を瞳に滲ませつつも、イグニスは律儀に、うーんと話す内容を考えている。
「そうですねぇ、やさしい両親の下ですくすくと成長し、生涯の伴侶に出会い……今に至る、的な?」
 もちろん生涯の伴侶とは秀様のことですよ! と笑顔できっぱりと言い切られ、秀はなんとも言えない顔をした。
「うんまあ大事に育てられたのは想像ついたが、……っていうかさらっと伴侶とか言うな!」
 とりあえず恥ずかしい台詞には噛み付いておいて、それから秀は複雑そうな顔のまま、付け足す。
「そうじゃなくってな、もっとこう……」
「え、違う? では……あ、小さい頃に牧場で羊を乗り回した事なら……こういう話です?」
「そうじゃない。いやその面白エピソードも気にはなるが! 何故乗った!」
 ツッコミ気質なので、気にはなるが、今日はその話を聞きたいのではない。と秀はまだるっこしげに頭を掻いた。
 そして長くため息をつく。
「……なぁ、イグニス」
「はい」
「………………お前、彼女とかいなかったのか? 精霊なんて美形揃いだろ、お前見た目王子で中身も、まあいい奴だし……モテたんじゃないのか」
 ああ聞きづらい。
 秀は一気に言い切ってから、自己嫌悪に沈む。
 仮にイグニスに甘酸っぱい青春エピソードがあったとして、どこの誰ともわからぬ彼女とのキャッキャウフフな思い出を聞いて、どうしようというのか。
(聞いたところでどうにもならんというのに……)
 むしろ、嫉妬に狂うような。時間をねじ曲げる能力者ならいざしらず、他人の過去の話などどうすることもできないのに。
 目の前で沈む秀を見て――もちろん、秀とて大人だ。彼としては気取られぬように平然を装っているつもりである。だが、ずっと彼だけを見つめてきたイグニスにとって、今の秀は『あからさまに』沈んでいた。
(……なんでこの人は自ら自分の地雷踏み抜きに来るんでしょうねえ)
 イグニスはこの愛らしい神人を憐れむ。
(これで、私が彼女居ます、居ましたって言ったら、少なからずショック受けるでしょうに)
 秀は、そういうショックに意外と弱い男だ。そして引きずるタイプである。
 自分で自分の心を傷つけるような質問をする男。だが気になって気になって訊かずに入られなくて、それでいて『何事もないのだ』とイグニスの口から言って欲しい男。
(可愛らしい)
 イグニスはふっと微笑んだ。そして、
「ま、いませんけど……はっ?!」
 思い当たったように目を見開く。
「これはあれですか、私の好みをリサーチして近づこうという!? えっ何それ可愛い! さすが私のお姫様!」
「なっ……」
 急なイグニスのテンションアップに、秀は気圧され驚くも、メガネをかけ直し、尋ねる。
「っておい、何かすごく勘違いしてないか、大丈夫か?」
「ですが心配ないんですよ秀様、だって私が好きになったのは、貴方が最初で、最後ですから!」
 言い切ってやる。
 そうすれば、秀は呆気にとられつつも、イグニスの言葉を咀嚼して飲み込み、
「っ、そう、か」
 その甘美さに顔を蕩けさせるのだ。
「最初で……最後、か」
 嬉しそうで照れくさそうな秀を見て、イグニスは、ああよかったと胸を撫で下ろす。
(あ、照れてる照れてる。可愛い)
 秀を悲しませることなく、彼の質問に答えられたようだ。イグニスは照れる秀の可憐さに胸をうずかせた。もちろん嘘偽りなく、イグニスにとって秀は『最初で最後の運命の人』である。
「たまには昔の話も、悪くないな」
 と秀が微笑むので、イグニスは同じくらい微笑みを返した。

●キネンビ
 時間と場所だけ言い残され、ハティは指定されたホテルのスカイラウンジにたどり着いていた。
 周囲を見回し、先に来ているはずのブリンドを見つけて、足早に近づく。
(正直さっぱりだ)
 一緒に住んでいるのに、外に呼び出されたのは冷静に話し合うためだろう。とハティは当たりをつけている。つまり、話題は『冷静になりづらい』話なのだろうか。少し不安を抱きつつ、ブリンドの前のソファに腰を下ろした。
「来たか」
 ブリンドの前には既にドリンクがあり、ウェイターはハティに注文を聞いてくる。何もなしではここに座っていられないので、ハティは問われるままに適当に注文をした。
 ハティの前にドリンクが置かれ、ウェイターが一礼して去っていった後、ブリンドは単刀直入に尋ねる。
「おめー、何か俺に話すことあるんじゃねえか」
「……」
 碧色の瞳がブリンドをまっすぐ見つめる。
「お前の昔話、終わった話じゃなく、まだ続いてるんじゃねえか」
 ハティには回りくどい話は出来ない。なんでもズバズバと切り込むに限る。
「……お前の仲間を殺したのはオーガなのか?」
 ハティはその問いに、見当違いに思えるような答えを返した。
「俺のいた家……、施設には行方不明者の捜査が入る予定だったが。脱出を手引きしたのは自警団のリーダーだ。行われなかった捜査と、彼が一人だった理由は……どうやら隠されようとしていた」
 隠蔽され、排除される。そのことに抗うために、ハティが所属していた自警団は出来た。
「俺達はバラバラだったがリーダーを守るという目的だけは一致していた」
「いつまでもボロ家を手放さねえのはそれを追ってるからか?」
「聞きたい話で間違いなくて良かったが……後をつけでもしたのか?」
(おいおい、案の定手放してなかったのかよ)
 ブリンドは呆れ返る。
 さっきの質問はカマかけだ。ハティはブリンドと一緒に住んでいる癖に、今まで住んでいた家を手放していなかったようだ。
「引き払え、即引き払え」
 ソファの背もたれにどすんと背を投げ出し、ブリンドはハティに言う。
「バレたんだからいい加減諦めろって」
 引き払えということは、それはハティとブリンドが一緒に住むことを全面的に肯定することになる。
「……嫌いなんじゃなかったのか」
 ハティは怪訝そうに尋ねた。
「そりゃおめーだろ」
 ブリンドは苦虫を噛み潰したように、顔を歪めた。二人は、なんだかんだと意見が合わなくて、言い合いになることが多い。秘密主義というよりも必要以上に自分のことをさらけ出さない上に糞真面目で死にたがりのハティに、苛立つブリンドという構図。とはいえ、ブリンドもやはり何もハティには明らかにしないのだからお互い様といえばお互い様だ。
 ブリンドには、普通の人のようにおおっぴらにつまびらかにできるような過去を持っていないという理由はあるのだが。
「根に持ってるわけじゃないが言われなくても俺はろくでなしだ」
 ハティが拗ねたように言う。
「何なら今からでも部屋取ってきてやろうか。誕生祝いに」
 へっと笑ってブリンドがフロント階がある下を指さすと、
「無理するなよ」
 と言いながらも、ハティは少し嬉しげに眦を下げる。
(んだよ、妙な感じ)
 嬉しいのかよ、とブリンドは胸がざわつくのを覚えて眉をひそめる。
「身元がわかんねーもん同士誕生日っつっても形だけなのはわかってる」
「アンタそんなやけくそな……覚えてたのか」
 九月九日、ハティが誕生したとされる日。そして。
「……何で今日なんだよ」
 ブリンドとハティがウィンクルムとして契約した日でもある。
 ブリンドはガシガシと頭を掻き掻き、嬉しそうにするのだから決まりだとばかりに、チェックインしに行くべく、席を立つ。
「あの日は、今日を祝えるとは思わなかった」
 ハティは呟く。
 それでも。
 と、ハティは頬を緩ませ、
「いつか祝えたらいいと思ってた」
 立ち上がったブリンドを見上げる。
「アンタと」



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あき缶
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月30日
出発日 09月09日 00:00
予定納品日 09月19日

参加者

会議室

  • [5]ハティ

    2015/09/05-19:19 

    ホテルって…ここか。秀さん以外とは初めてだな。ハティだ。以後よろしく頼む。
    …一瞬ホテルを間違えたかと思った。すごい眺めだな。

  • [4]初瀬=秀

    2015/09/03-23:18 

    初瀬と、相方のイグニスだ。
    初めましてが多いかね、今回は個別行動だがよろしくな。

  • [3]日暮 聯

    2015/09/03-13:14 

    エルレイン:
    初めましての方のみ、ですよね。
    ヒグラシ・レンのパートナー、エルレインといいます。

    別々のようですね、今後ともよろしくお願いしますっ

  • はじめまして。クルーク・オープストだ。
    よろしく頼む

  • [1]西園寺優純絆

    2015/09/02-22:45 


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