《贄》ラケナリア(木乃 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 気づいたとき、精霊と神人はリビングルームに居た。
 精霊の見慣れた家具、見慣れた天井、見慣れた壁……精霊にはそこが自分の家であることがすぐに分かった。
「いつから居たんだ……?」
 驚きを隠せない精霊だったが思考を巡らせている最中に呼び鈴が主人に訪問者が訪れてきたことを知らせる、疑問の尽きない状況だったが無視するわけにもいかない。
「ちょっと待ってくれ」
「解った」
 神人に一言断ると精霊は玄関まで向かい、扉を開く……目の前には見覚えのある制服姿の人物。
「A.R.O.A.本部の者です、こちらに神人は来ていますか」
 厳しい口調で精霊に問い詰める本部職員、口調だけでなく視線や態度にも厳しいものを感じられる。精霊は訝しんだ様子で視線を返す。
「あいつに何か用ですか?」
 精霊の問いに対して職員は予想外の返答を返してきた。

「我々A.R.O.A.はオーガに完全敗北し、オーガに仇なす存在であるウィンクルムを完全排除する意向をスペクルム連邦議会が表明した」

 一瞬、思考が停止した。 オーガに敗北?ウィンクルムを完全排除?連邦議会が表明?……そんな根も葉もない話、聞いたことがない。
困惑する精霊をよそに職員は話を続けていく。
「ウィンクルムは神人が居なければ成立させることができない……そこで神人を発見次第抹殺するようA.R.O.A.本部に通達が来ている、君の神人も例外ではない」
「……は?」
 精霊は耳を疑った。神人を抹殺しろ?……A.R.O.A.が、ウィンクルムを滅ぼそうとしている?
「オーガに苦しめられて最期を迎えるより、楽に死なせてやりたいという所が本音だ……命令に違反した場合は君の命も保証しかねる。 こちらとしても不必要に死傷者は出したくない。発見次第、連絡を受けたら出動して即刻、略式処刑を行う。君自身で手にかけるのも辛いだろう」
 神人を発見次第、連絡するように再三通告した職員はその場をすぐ後にした。

(神人を抹殺……A.R.O.A.が、あいつを、殺す?)
 義務として『契約』をさせられた神人の、人としての最期までも強要するのかと。あまりにも理不尽な通告にこみあげてくる怒り。強く握り締めた拳は血の気がなくなり白んでいく。
「……なぁ」
 背後から神人が声をかけてくる、気まずそうにしている様子を察するに……いまの会話を聞いてしまっていたようだ。
「……っ」
 精霊は言葉を詰まらせた、自分は彼になんと伝えればよいのだろうか?彼は何を思っているのだろうか?……自分は彼の為に何も出来ないのだろうか?

 これはフィヨルネイジャのみせる残酷な白昼夢の一幕、理不尽な夢の物語。
 ウィンクルムはいま、夢を見ている最中である。

解説

※フィヨルネイジャを訪れる前に300Jr分の軽食を食べてきました

●状況
精霊の家にいつの間にかおり、精霊が呼び鈴を聞いて訪問者を迎えに行くとそこには本部職員の姿。
本部職員から「オーガに完全敗北し、連邦議会が神人を抹殺する決定を下した」と告げる。
職員と精霊の話を聞いていた神人は職員がその場を離れたのち、精霊に声をかけてみた。

神人も精霊も「神人抹殺の通告」について認識しております。
本部に連絡すればすぐに処刑部隊がやってきて神人に略式処刑を行うでしょう。
(略式処刑=手続きを行わず、その場で処刑する)
神人が処刑される場合、息を引き取る直前に夢から目覚めます。
処刑されなかった場合でも一定時間経過すると夢から目覚めます。

●プランについて
神人が精霊と職員の話を聞いた直後からスタートします。

お互い、どんな気持ちでしょうか?
お互い、本部の要請に応じますか?
理不尽な要求を受けた、神人の選択。
理不尽な通告を受けた、精霊の選択。
『神人狩り』に対するウィンクルムの決断を教えてください。

武器は置いてありません、トランスも不可です。
目覚めた時点の描写はしない予定ですが、描写を希望される方はプランに明記してください。

●その他
本部に連絡する、本部に連絡しないなどさまざまな選択肢があります。
もし本部に連絡しない場合でも、どのような行動を取るか明記してください。

また、来訪した職員は再確認しに他の職員を数人連れて武器を手にして精霊の家にやってきます。ご注意ください。

ゲームマスターより

木乃です、メンズでもシリアスです。
こーやGM主催の《贄》シリーズの末席にこっそり参加させて頂きました、
男性側にもぶっこんでいきます。

ラケナリアの花言葉は《決断》
導き出した選択が神人の運命を変えます。
オーガの支配が確立したifの世界の夢、神人と精霊はどのような決断を下すのでしょうか?
国の決定に従い理不尽な死を受け入れるか、国の決定に背いて理不尽な死に抗うか。
世を取り巻く不条理に対する心の葛藤を描く心情エピソードでお送りしていきます。

それでは皆様のご参加をお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

  抹殺…?
突然の話に頭がついていかないけどレーゲンに言われて
最小限の荷物をまとめる

あと持って行きたいのは、レーゲンがくれた鍵と…日記帳
うん、実は書いてた。記憶が戻るとその間の記憶がなくなる場合があるって聞いたことあるから
もしそうなっても、みんなとの思い出消したくないから

鍵も、せっかくレーゲンがくれたのに…きっとここには帰れないね
……いいんだ、俺はレーゲンがいる場所が俺の居場所なんだから
そんな辛そうな顔しないで。大丈夫だよ(心配かけないよう笑いかける)

本当なら殺されるのは俺だけだ。レーゲンはここにいれば助かる
「行こう」
だけど。わがままだけど一緒にいたい
二人で一緒に逃げよう、二人で生きよう



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  黙って殺されてやるほど馬鹿じゃないぞ(笑

逃げ延びて仲間を探し抵抗組織を作らねばならない
殺そうと躍起なのは危険性を理解している裏返しだよ
だから、可能性はまだある
さあ、これから忙しくなるぞ

ランスの行動は一瞬で、俺は止められない!

しかしその直後、俺もまた
台所のコンロに着火し顕現印を翳して、焼く!

キャンプで火傷したって事だ
無茶はお互い様だろ

ランスの手当て謝る

これからはシンと名乗る
セイジに戻るのは世界を取戻してからだ

怖くはない
俺を誰だと思ってる
(それに…1人じゃないからな)

落着き先は電話するよ
フリーの携帯買って此処に送るから、以降はそれで

★目覚め
突然の支配ってのが夢だよな(笑
でも、きっと、同じ事をするよ



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
 

処刑か
親は心配…しないか。世間帯を気にする人だしわかりあえなかったな
……タイガ、ありがとう。数え切れないほど助けられたね
一緒にいれてよかった。伝えれて…よかったよ
(言葉じゃ足りない。好きだと返す?でも今から何ができる死ぬ身で)気丈にみせて震え

■振り回されフード越し
無理だ…世界が敵なんだ。タイガも罪に命が危険になる

日々生きるのも表も歩けなくなるんだよ!?
僕の命はいい。死期が早まっただけだタイガまで負う必要ーー


痛い…
夢?
『世界を周ろう』って…アレ?(僕が見てタイガが賛同した)


馬鹿、自信過剰、無鉄砲……責任とれないからね
駆け落ち、してもいいよ(照

無謀だと思う、でもその顔をみると信じたくなる
続きを



瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  「珊瑚……一緒に来るか?」
行く宛てなどないが、ここでないどこかなら。
ひっそりと隠れられる所なら、どこでもいい。

職員さん達を敵に回す事はわかっている。
けど、おれは抗う。
自分の結末が見えているなら、逃げ回っていた方がいい。

だから本部には要請しない。
職員さん達に発見されるまでお前と一緒に過ごす。

行動:
・珊瑚と手分けして、冷蔵庫や洋服ダンスの中を調べる。
食料、飲み物、変装する為の洋服を探す為だ。
飲食が無い場合は、変装した上で珊瑚と買いに行く。
変装できなければ、珊瑚に買いに行かせる。

けれども、
職員さん達に見つかって処刑される前に珊瑚に伝えよう。
ありがとう、と。
お前が忘れていなければ、おれも忘れない、と。



西園寺優純絆(ルーカス・ウェル・ファブレ)
 
「神人が、いらない…?
オー、ガに…、食べられちゃう、ですの……?
ルカ、さま…
今の、話…、本当…?
ユズ、死んじゃうの…?
ルカ様と、もう一緒にいられない…?
そんなの、嫌なのだよっ!
ユズはまだルカ様と一緒にいたいっ!
姉様も探したい!
もう、一人は、嫌なのだよぉ(泣き出す
でもね、ユズのせいでルカ様が痛い思いや殺されるのはもっと嫌だもん
ルカ様、最後の最期に我が儘で、悪い子で、御免なさい…
ユズは本部に行く、それでルカ様が助かるならユズは嬉しいもん(泣笑
ルカ、さ、ま…
ユズ…死にたくない!
姉様達を見付けて、大人になってルカ様と一緒にお酒飲みたいもん!
ルカ様…ううん、パパとまだまだ遊びたい!
ユズ、パパと逃げる!」



●タチムカウ
(セイジを見殺しにするなんて……そんなの、俺には出来ない)
 ヴェルトール・ランスは数分前に受けた本部からの通告に対してショックを隠せなかった、恋人をこのまま見殺しにするしかないのか? 自分はなにも出来ないのか?ぐるぐると思考が堂々巡り、行き場なく右往左往している。
「ふ、ふふ」
「セイジ?」
 アキ・セイジは俯いたまま声を漏らし、ランスは訝しんで見つめた。肩を震わせている様子は泣いているようにも見えたが
「黙って殺されてやるほど馬鹿じゃないぞ」
 顔を上げたセイジは不敵な笑みを浮かべており、ランスは呆気にとられてしまった。
「ここは一度逃げ延びて仲間を探し、抵抗組織を作らねばならない。それに殺そうと躍起なのは危険性を理解している裏返しだよ。連邦議会も掌を返して大した事を考えたものだ」
 セイジは踵を返しリビングの方へと戻っていく。
「セイジ……」
(グラついた自分が情けないぜ)
 告げられた選択肢でしか考えていなかった自分がいた事にランスは恥ずかしくなったと同時にセイジの行動力には少し嫉妬を覚える。
「可能性はまだある……さあ、これから忙しくなるぞ」
 まずは逃亡する手立てはどうしたものかとセイジは考え始める、ランスもなにかしなければなるまいと思考を巡らせる。
(セイジを他人に殺されたくないから俺が殺したと報告するか、しかしその場合は死体があったことを証明しなければならない)
 死体の存在を仄めかすにはどうしたらいいか……ランスが考えていると、ふとセイジの背中が目に留まる。
「……セイジ、上着を貸してくれないか?」
「何をするつもりだ」
ランスがセイジに意図を伝えるとセイジは難色を示した。
「俺の上着に自分の血を付けて刺殺したと見せかけ、ランスが死体を海に捨てたと報告する……それは危険だ」
「どうして?」
「死体があったならまず家の中を確認するだろう。掃除したとしても室内に血の臭いがなければ怪しいし、上着と刃物以外にもランスが返り血を処理した証拠がなければ不審だ……それに」
 セイジは一言置いてランスの目を見つめた、ランスもセイジの赤い瞳を真っ直ぐ見つめ返す。
「自分を傷つけるような手段を、お前にとって欲しくない」
 セイジの言葉にランスはハッとして耳を垂れた。セイジを想う余りに考えた方法が、セイジも快く思うはずがないことを失念していた。
「俺も文様を焼いて一時的に消そうと思ったがやめだ、ランスも俺と同じ気持ちになる……包帯、巻いてくれないか」
 負傷したように見せかければ安易に確認されないだろう、そう言ってセイジは左手を差し出す。ランスは小さく頷くと棚から救急箱を探し包帯を取る、セイジの手に深い傷があるように見せかけるため色付きの消毒液をガーゼに染み込ませ包帯を巻きつけていく。
「俺は家に帰らず逃げたことにしてくれ、これからはシンと名乗る。セイジに戻るのは世界を取り戻してからだ」
「怖く、ないのか?」
「俺を誰だと思っている」
 セイジの様子に頼もしさを感じながらランスは包帯を巻いた手にキスを落とす、せめてセイジが無事で逃げきれるように。
「行くぞ、落ち着き先は決まったら電話するよ」
 セイジとランスは住居から出て外へ……しかし、一点失念していた。
「こちら――、ウィンクルムを発見した。これより刑を執行する」
――相手が『組織』であることを。
***
「もし現実になったら、どうする?」
 夢から醒めた後もランスは落ち込んでいた、しかしセイジは変わらず不敵な笑みを浮かべる。
「起きる訳ないだろ? でも……きっと、同じ事をするよ」

●鍵と日記
「抹殺、って……?」
 信城いつきは呆然としていた、見つめる先に立つレーゲンと同じ表情をしているのだろうとふと思った。
「いつき、今すぐここを出る準備して」
「え?あ、ああ」
 ハッと気を取り戻したレーゲンは慌てていつきの手を取り私室へと向かう。
(A.R.O.A.が……いや世界が敵にまわろうが、いつきを殺す選択なんてできるはずがない)
 表や裏口は見張られているかもしれない、窓から経由して隣から出られれば。レーゲンは逃げきれる方法はないかと思考を巡らせこの状況から抜け出せる方法を考える、しかし相手が組織だって動いていることもあり焦りだけが募っていく。やり場のない怒りを感じながらレーゲンは荷造り用のバッグを二つ出すと急いで詰め込みだす。
(いつきが何をしたと言うんだ!)
 彼の言葉は嘘ではない、あの目と態度を見れば解る事だし冗談で済むような話でもない。
(ここで周囲の人達に優しくされて、どれだけ大事な居場所と思っていたのか……!!)
 呆然としていたいつきの悲哀を代弁するかのような、レーゲンの胸中を燃やし尽くすような怒りの炎が燃え盛る。激情を出すタイプではなかったもののレーゲンの逆鱗を刺激するには充分過ぎた。

(何を入れよう……)
 いつきは突然の話についていけなかったが、レーゲンの言葉を信じて自身の荷物を最小限にまとめようと視線を巡らせる。
(家の鍵、持っていこう……それと日記帳も)
 記憶が戻ると無くしていたあいだの記憶がなくなる場合があるらしい、そう聞いていたいつきは密かに日記を書き溜めていた。仲間のみんなとの思い出を消したくないから。少しの日も、沢山書いた日も、いつきには大事な記憶の一片。
(この家の鍵も、せっかくレーゲンがくれたのに……)
 半年くらい前だろうか?レーゲンのいるこの家が帰る場所になったのは……あの時は本当に嬉しくて密かに涙を流した事を思い出す。それもつい最近の出来事のように思えた。
「……いつき、ごめん。ここにはもう帰って来られないと思う」
 家の鍵を見つめているいつきに気付いたレーゲンは悲しげに言葉を絞り出す、再び帰る場所を奪われたいつきの心情をレーゲンは察する事しか出来ず歯痒かった。
「……いいんだ、俺はレーゲンがいる場所が俺の居場所なんだから」
 いつきは鍵を大事そうにバッグの奥にしまう、ここに帰る希望を持っているというよりレーゲンがくれた大事な御守だと思っていたから。
「そんな辛そうな顔しないで。大丈夫だよ」
 心配をかけまいといつきは明るい笑顔を作る、せめて前向きな気持ちでいるんだとレーゲンに伝わればいいと思った。いつきの言葉にレーゲンも笑顔を無理やり作ろうとするが……それが却って彼の辛さを際立たせてしまったように感じた。
(本当なら殺されるのは俺だけだ、レーゲンはここにいれば助かる)
 神人が居なければウィンクルムは成立しない、だから神人の……自分だけを処刑すると通告されたのだ。
(だけど。わがままだけど……一緒にいたい)
 連邦議会の決定ということは、偉い人が決めたんだろうな……となんとなく解る。自分の決断で多くの人に迷惑をかけてしまうのも、なんとなく解る。それでも、一緒にいたい。
「用意は済んだか?」
 レーゲンはバッグに荷物をまとめ終えるといつきの方に向き直る、レーゲンの決意はすでに固まっている。いつきも慌てていくつか衣類をしまいこむとバッグを抱えて立ち上がる。
「行こう」
 いつきが手を差し出すとレーゲンもギュッと握り返してくれた、この手を絶対に離さないという決意を感じられ、ざわついていたいつきの感情がほんの少し落ち着く。
(二人で一緒に逃げよう、二人で生きよう)
 外に平穏はないけれど、キミの隣が俺の帰る場所だから。繋がれた手に決意を込めて前へと進んでいこう、今は行くしかないのだから。

●記憶の中で
「意味解んねぇよ……!」
瑪瑙 珊瑚は壁に拳を打ち付けるとドンッ!と大きな打音が響き渡る。リビング内の時計に視線を向けるが時間をどうこうの問題ではない、気持ちだけからまわっていた。瑪瑙 瑠璃はしばし思案すると口を開く。
「……珊瑚、一緒に行くか?」
 どうせ行く宛てはないのだから、何処かへ逃げることに躊躇いなんてない。珊瑚がどう考えているかが瑠璃には重要だった。
「当たり前だろ! 本部にだって報告しねぇよ!?」
「……済まない、気が動転しているようだ」
 職員さん達……いや、連邦中の人達を敵に回す事は解っている。
 神人を匿う市民が出ればオーガは神人を見つけ出すついでに破壊と殺戮を繰り返し、蹂躙し、市街を焦土に変える。連邦議会は市民の為に神人を殺すつもりなのだ……けど、自分は抗う。結末が見えているなら、逃げ回った方がいい。
「発見されるまでお前と一緒に過ごす、変装出来そうなものと食料がないか探してみる」
「じゃあオレは少し外の様子を見てくるぜ」
 瑠璃が準備している間、珊瑚は窓下を覗き込む。眼下に見覚えのある制服姿が数人走っていた、依頼を受ける際にいつも見るA.R.O.A.の制服。
(目を盗むなんて出来る状況じゃねぇな)
 想像以上に組織規模がデカいと珊瑚が頭を抱えていると瑠璃が戻ってきた。
「帽子と眼鏡はあったが、食料は缶詰2個しかなかった。急場を凌ぐには足りない」
 珊瑚は慌ててカーテンを閉めると瑠璃をクローゼットまで押し込む。
「オレ、食料と服を買ってくるから瑠璃は隠れてて」
「珊瑚」
 飛び出す勢いの珊瑚の腕を掴み、何事かと驚いて振り向くと瑠璃は静かに眼差しを向けていた。
「ありがとう」
「は? 当たり前だろ、なに言ってんだよ」
 瑠璃は一言だけ伝えると手を離し、珊瑚は首を傾げながら飛び出していった。
(……言えた)
 珊瑚が隠れるよう自分に言ったのは、多くの職員が捜索しているからだろう。一生、自分を匿いながら珊瑚は生活しなければいけないのかと改めて痛感する。
(走る珊瑚の姿を職員さんが見たら、声をかけるだろう……神人はどこだ?って)
 瑠璃はもう一度思考を研ぎ澄ませて考える。外からは発砲音が何発も聞こえてきた。
(きっと珊瑚が戻る前に職員さんは来る)
 A.R.O.Aは.連邦議会の指示という大義名分があり、それに逆らう自分に珊瑚は付き合っている。違反が発覚した場合どうなる?『死傷者を出したくない』と言った職員の言葉が全て物語っている、発覚すれば珊瑚も殺される。いつ殺されてもおかしくない状況に巻き込むことになる。
(……自分から聞いておいて、卑怯だな)
瑠璃はクローゼットから抜け出すと部屋を見回す……同時に呼び鈴が鳴り響く。訪問客を出迎えようと瑠璃は玄関のドアを開いた。
「瑪瑙瑠璃さん、ですね」
予想通り職員が立っていた、先ほどと違うのは後ろに銃を手にした者が数人。瑠璃は小さく頷く。
(お前が忘れていなければ、自分も死なない)
 記憶の中で生き続けられる、だから忘れないでくれよ。
「胸中お察しします、せめて苦しまぬよう」
 職員さんも本意ではないようで悲しげな瞳に少し安心した、憎まれ役を買って自分達で手討ちしているようだ。職員の後ろから複数の銃口が瑠璃に向けられ、耳をつんざく発砲音が鳴り響く。
「瑠璃!?」
音に気付いた珊瑚が荷物を抱えて走ってくると我が家のドアが開け放たれ銃口から硝煙が上がる様子が見える。
「なんで……なんで瑠璃だけなんだよ!瑠璃が何したって言うんだよ!オレは悪くねぇのか!?どうせ殺るなら、オレも殺ってくれよ……なぁ、なんでだよ……っ」
 珊瑚は職員の胸倉を掴んで詰め寄った、職員の憐憫の眼差しに虚しさを覚える。
ありがとう。瑠璃の最期の言葉を思いだし珊瑚は泣き崩れた。

●『夢』
「処刑、か」
セラフィム・ロイスの瞳から全てを悟ったような諦めが感じられる。
(親は心配……しないか。世間体を気にする人達だし、結局分かり合えなかったな)
 厳格な家庭において『息子』という立場は酷く息苦しかった、病弱だったこともあり両親から快く思われていなかった部分がいくつかあった事も否定できない。追いやられた立場に居る僕のことなんて何も思わないのだろうな、と頭の片隅で思った。
「……タイガ、ありがとう。数え切れないほど助けられたね」
 処刑を通告されたのは神人のみ。契約した精霊は神人が死亡した時点で再契約するまでウィンクルムの本領を発揮できなくなる。そうなればオーガからも狙われにくくなるのかもしれない。セラフィムは別れの言葉を続ける。
「一緒にいれてよかった。伝えられて……よかったよ」
(言葉じゃ足りない。好きだと返す?でも、今から何ができる?これから死ぬ身で)
 伝えたいことはまだ沢山ある、しかし気丈に振舞おうとすればするほど言葉が震える。神人に顕現したときのように神に祈れば変わるのか?……なんとも皮肉だと自嘲したくなる。
「……」
 無言を貫いていた火山 タイガはセラフィムの手を掴むと家の奥へと進む、不意を突かれたセラフィムは手を引かれるままある部屋に連れ込まれるとタイガはタンスの中からフード付のコートや眼鏡を取り出しセラフィムに無理やり身につけさせ始める。
「逃げるぞ」
 困惑するセラフィムに対しタイガは短く答えた、その表情は今まで見たことがないほど険しく真剣味を帯びていて、苛烈な怒りを含んでいる。
「どっか遠くに行こう、二人で」
「無理だ……連邦中が敵なんだぞ? タイガも罪に問われて危険に晒される」
 タイガの言葉にセラフィムは押さえ込んでいた声の震えが止まらなくなる。その言葉がどんな意味をもつか解っているのかとセラフィムは問い質す。
「罪がなんだ。危険には何度も晒されてきた」
 今更戦うことは怖くない、と言う風なタイガは怯えるように肩を震わせるセラフィムを叱咤し真っ直ぐ見つめた、決意の強さは鮮やかな緑の瞳を見れば容易に感じ取れる。
「ッ……日々生きるのも、表も歩けなくなるんだよ!?」
「だからって俺にはセラが死んでいい理由にはならない」
 視線に耐え切れなくなったセラフィムは叫んだ、そうまでしてタイガを巻き込みたくない一心で叫んだ。それでもタイガは引かない、目を逸らさない。
「僕の命はいい、死期が早まっただけだ。タイガまで付き合う必要は――」
 セラフィムが目を逸らすように俯こうとした瞬間、ゴンッという音と額に軽い痛みが走る……タイガに頭突きされたらしい。
「諦め癖も大概にしろ、俺だってセラが大事なんだ!そんな顔されて見送るなんて絶対無理だ……足掻かせろよ」
 タイガは一息に口走り物分りの良すぎるセラフィムを叱りつけ、必死で恐怖を押し隠そうとするセラフィムを行かせるなんて出来る訳がないと吐露する。
「……俺、欲張りだからさ。足掻いて全部、夢叶えて終わりたい」
「夢っ?『世界を周ろう』って……アレ?」
 いつか話した夢の話を出されるとは思わず驚くセラフィムにタイガはニカッと笑みを浮かべる。
「今から行こうぜ? 駆け落ちの旅だ!」
 あくまで前向きなタイガの姿勢に呆気にとられたセラフィム……しかし、そんな彼の姿勢が酷く羨ましく思えた。
「馬鹿、自信過剰、無鉄砲……責任とれないからね?」
 セラフィムの強張っていた顔からようやく笑みが溢れてタイガもにっかり笑みを返す。
「駆け落ち、してもいいよ」
「!……へへ、行くか!」
 照れくさそうに笑みを浮かべるセラフィムに対し、一瞬驚いた表情を浮かべたタイガだがすぐに笑顔に戻り自身もメイクを拭い落とし帽子を被る。
(無謀だと思う、でもタイガの顔をみると信じたくなる)
 だから、もう少しだけ……続きを。裏口から飛び出すセラフィムとタイガは未知の世界を求めて森へと走り出す。

●本心は
 西園寺優純絆の心を引き裂くにはあまりにも充分すぎた、通告を耳にして呆然とする優純絆はルーカス・ウェル・ファブレに真偽を問おうと真っ直ぐ見つめる。
「神人は、いらない?ルカ様、今の話……」
 また自分は見捨てられるのか。また自分は不要とされるのか、また、また、また、また、またまたまた。
――思考がギチギチと音を立てて軋み頭が痛む。
「ユズっ!?」
 ルーカスはよもや優純絆の耳に届いていたと思わずなんと言葉をかけたものかと戸惑ってしまう、それが却って聞き間違いではないと実感させられる。
「ユズ、殺されちゃうの? ルカ様ともう一緒にいられないの?」
「私だって信じたくありません!何度嘘だと思いたかったか……ですが、嘘ではないようです」
 わなわなと震える優純絆の傍に駆け寄り膝をついて視線を合わせたルーカスは残酷な事実を誠実に伝えた。その場しのぎの嘘は優純絆を傷つけるだけだと思った。
「そんなの嫌なのだよっ! ユズはルカ様と一緒にいたいっ!姉様も探したい!」
「私もです!私も、ユズと一緒にいたいです!ユズが大人になるまで見届けたい……それに、ユズのお姉さん達も……」
 青ざめ首を激しく横に振る優純絆をなだめようとルーカスはぎゅっと抱きしめた。
「もう一人は、嫌なのだよぉ……っ!!」
 優純絆はすがりつき顔を埋めて泣いた、こんな悲しい思いは二度としないと思っていたのに。二度としたくないと願っていたのに。ルーカスは背中をなでて落ち着かせようとする。
(でも、ユズが逃げたら……ルカ様は?)
 ルーカスの腕の中で少しずつ冷静さを取り戻し始める優純絆の思考に疑問が浮かび上がる、ルーカスが神人を逃がしたとなればどうなるか。
(職員さん、なんて言ってたかな……死傷者を出したくない?)
 優純絆はハッとした。死傷者という言葉の意味は解らなかったが、死や傷という単語の意味は解かる。泣き腫らす優純絆は嗚咽を漏らしながらルーカスの肩から顔を離す。
(……ユズのせいでルカ様が痛い思いや殺されるのは、もっと嫌)
「ユズ?」
「ひ、うぅ、ルカ様……ごめんなさい、ユズは本部に行く」
 顔を覗き込むルーカスに対し、無理やり笑顔を浮かべて告げた言葉と裏腹に優純絆の双眸から涙は止まらない。こうすることでしか守れないと酷く悲しかった。
「ダメです!ユズは絶対に死なせはしません」
 そんな申し出は受け入れられないとルーカスは一喝する、泣きじゃくる優純絆の目を見て静かに問いかける。
「ユズ、本当の事を言いなさい……ユズは本当に行きたいのですか?」
 深い青色の瞳は真実を見抜こうと優純絆の涙で濡れる瞳を覗き込む、責めるような言葉ではなく悪戯をたしなめるような優しい声色に優純絆は心動かされる。
「ルカ、さ、ま……ユズ、死にたくない」
 死にたくない、ルカ様と離れたくない。姉様を見つけて、大人になったら一緒にお酒を飲みたい、もっと色んなことがしたい!
「ルカ様……ううん、パパとまだまだ遊びたい」
「そうですね、私もユズとまだまだ沢山思い出を作りたいですよ」
 父のように想うルーカスが嬉しそうな微笑を浮かべて頷いてみせる姿に、優純絆は押し込めていた本当の気持ちを口にする。
「ユズ、パパと逃げる」
「ちゃんと言えましたね、ユズ……さぁ、その為にも見つかる前に逃げましょう。しばらく遊ぶ時間はとれませんが我慢できますね?」
 付け加えられた一言に優純絆は寂しそうな表情を浮かべながらしっかり頷き、ルーカスは優しく頭をなで立ち上がる。

 理不尽な夢にも屈しかけた幼い少年は精霊の言葉にまたひとつ心の成長を遂げたのだろう、親子ほど年の離れた精霊に手を引かれ成長していく姿はまだまだ頼りないが……いつかきっと、隣に立てるように。



依頼結果:成功
MVP
名前:瑪瑙 瑠璃
呼び名:瑠璃
  名前:瑪瑙 珊瑚
呼び名:珊瑚

 

名前:西園寺優純絆
呼び名:ユズ、ユズキ
  名前:ルーカス・ウェル・ファブレ
呼び名:パパ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月01日
出発日 08月08日 00:00
予定納品日 08月18日

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