


『あなた』達は、祭りで賑わう町並みを歩いていた。
ここは、パシオン・シーに程近い町。
任務を終えた『あなた』達は、依頼主の厚意でこの町の宿で宿泊することになっている。
この町では、今夜花火大会が開催される。
時期的にそれ自体は珍しくないが、この町では海に向かって灯篭を乗せた小舟を流すらしく、他とは少し違うらしい。
この幻想的な光景を見て欲しいというのが依頼主の言葉で、A.R.O.A本部からも許可が出た『あなた』達は素直にその厚意に甘えることにしたのだ。
時は、夕暮れ。
屋台も多く立ち並んでいることより、これらを楽しんでも悪くない。
屋台は食べ物系が多く、種類も豊富だ。見ているだけで空腹が刺激される。
食べ物系程ではないが、遊戯系の屋台もあり、子供だけでなく大人も楽しんでいる姿が見える。
依頼主の厚意で貰った無料券を使って、食べ物の屋台で空腹を満たすのも悪くないが、童心に返って遊ぶのも悪くない。勝負なんかしたら面白いかもしれない。
灯篭流しもするなら、屋台に夢中になり過ぎないように注意しないと。
あとは、少々混雑してるからパートナーとはぐれないように注意することだろうか。
向こうも男だから、変な連中に声を掛けられるということはないだろうが。
だからと言って、はぐれてもいいという問題ではない。
依頼主はパートナーと楽しんで欲しいと言ってくれたのだし、はぐれた後花火を見るまで合流出来なかったというのは、何だか寂しい。
折角だし、楽しまないと!
パートナーへ諸々相談しようと振り返ると、パートナーもこちらを見ていた。
同じタイミングだった所を見ると、あちらも何か同じことを考えていたようだ。
混雑してるなら、手を握るのも悪くないけれど。
さて、どうしようか。


●出来ること(花火大会以外は任意)
・屋台を楽しむ
立ち並ぶ屋台を1軒ずつ見て回ります。
日本の祭りの屋台にあるものならあるとします。
ジャンル(ガッツリ系や甘いもの、遊戯系等)指定のみでお任せの場合、日本以外で少し珍しいものが入る場合もあります。
・灯篭流しに参加
1人1つずつの参加。
灯篭にはプレート1枚に任意で絵やメッセージ(50文字程度)も描けます。
(マジック・アクリル絵の具の貸し出しあり)
・花火大会
ウィンクルム達は、依頼主が確保してくれた良い場所で見ることになります。
※プランで重点的に書いてあるものに比重を置いて描写します。
●消費ジェール
・参加費用1組300ジェール
・灯篭費1人50ジェール
参加費用は宿泊料金です。
屋台は、依頼主から貰った無料券を持っていることより、5つまでは発生しません。
それ以上は、1軒につき50ジェールの追加料金が発生します。
●装い
・浴衣、下駄
デートコーディネートになくとも、依頼主の厚意で借りたとして浴衣姿となります。
●注意・補足事項
・多くの人が出ております。TPOにはご注意を。
・屋台で景品等を入手してもアイテムとしての配布はありません。
・花火大会では他のウィンクルムと同じ場所で見ることになりますが、絡みはOKがあるかたのみの対応となります。
(自分達だけ他の場所で見るということは出来ません)
・宿に帰る描写は基本行いません。
こんにちは、真名木風由です。
初のEXは、男女両方からリリースさせていただきます。
EXである為、いつもよりアドリブが多くなるものと思います。
が、色々出来ることがあるので楽しんでいただければ幸いです。
それでは、お待ちしております。


◆アクション・プラン
ハティ(ブリンド)
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屋台で買い物 来てすぐに持ち帰れるものを探すのは間違いなんだろうな 祭りは外でするものだと知っているのに 玩具のあたりで案の定刺さる視線 ついでと言っても…希望はあるのか? ああ、初めて見る物だったので見学を まだこれからだ あ、林檎飴…有難う あの灯篭は何を流しているんだろうな この風景にはなかなか出会えないと思うが また…屋台だけでも、行かないか アンタは外で食べるから良いもんだって言うが、俺も林檎飴が好きというか リンが(ドーン)買ってくれたから(ドーン)好き だからアンタが買ってくれたから好 花火の音に紛れてビンタが飛んできた気がするが虫か? まだ見ぬ屋台もありそうだから…な? う、じゃあみんなで…みんなで行くのは… |
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逸れないように、そう逸れないように(強調)フィンと手を繋ぐ 顔が熱い 屋台:ガッツリ系でお腹いっぱいになった後、遊戯系でフィンと勝負 どうせなら何か賭けないか? そうだな…勝った方が一つ相手の言うことを聞くとか 勝ち→フィンの書いたものを読んでみたい。いつもはぐらかすから 負け→約束は約束だからな… 灯篭流し:アクリル絵の具で絵とメッセージ 青空(フィンをイメージ) 「これからも幸せ(フィン)の傍に居られますように」 フィンと見せ合う 花火大会: 絡みOK お互い見てきた屋台の話をする(おススメとか) 花火を見上げて、そっとフィンの手を取る 皆、上を見上げててこちらは見てないだろうから… この景色をフィンと共有出来て嬉しい |
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絡みOK 時間は有効に、チケット5枚使い切るぞ 屋台をざっと見まわしてからターゲットを絞る…ってオイ待て! まあ振り回されるのは嫌じゃないけど… それじゃあのオーギョーチってやつからいこうぜ 残りはお前のおすすめで頼む 今日のネカ、何かちょっと違うな いつもはこっちの都合なんて聞かないのに 灯篭にはピンクの絵の具で牡丹の絵を描く 季節じゃないが、ネカの好きな花だ 少し迷って、その横に黄色の花を添える 好意を受け入れるだけじゃなくお互いに想いあえるようになれればいい、との願いを込めて 花火は皆でわいわい…いや邪魔しちゃ悪いかな ふと横を見るとネカと目が合った な、なんだよ、花火見ろよ… それでも手は除けずにぎゅっと握り返す |
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精霊共に絡み可 わーい!花火大会だ 始まる前に腹ごしらえしたいよね 蘇芳、屋台行こうよ え?迷子?誰が? いくら何でもそこまで子供扱いしなくて良いじゃないと蘇芳の発言にふくれっ面 わかった 蘇芳の袖掴んで歩けばその心配もないよね(にっこり) とりあえずお腹減ったなー あ、たこ焼きがある 1箱ください- 蘇芳もほら、半分食べてよ なんでだろ、誰かと一緒に食べるのって美味しいよね 2人で射的に挑戦 2人とも見事に大はずれ ちえ、蘇芳には勝てると思ったんだけどなー 林檎飴差し出され え!良いの!? なんか嬉しいね、ありがとう 囓りつつ花火見学の場所へ あのさ、蘇芳 蘇芳と契約したおかげで、今まで知らなかった事を体験できているんだ、ありがとう |
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アドリブ歓迎 絡みOK 綺麗ですね、浴衣 …よくお似合いですよ ■屋台を見て回ったあと射的で勝負 せっかくだから賭けをしませんか お祭りですから、少しははしゃいだ方が楽しいでしょう では、一番良いものを落とした方が勝ちってことで 苦手って言ったのは嘘ですか… 買ってくるから待っててくださいね お知り合いですか?……は? (あぁまぁ…この外見なら仕方ないのか とはいえ、なんか…モヤモヤする) 勝負はしますよ でも次からは、負けて買いに行く時も一緒にいきましょう …人ごみも多くなってきましたから ■花火 なら僕は鍵屋と叫びましょうか (花火も景色も素晴らしいけれど、一番美しいのは…) えぇ、本当に…綺麗ですね !?……浴衣のことですよ |
●俺と彼の照れる温度差
同色の縞が入った青の浴衣をグレーの帯で締めた蒼崎 海十は、フィン・ブラーシュの手を握っていた。
(逸れないように、だからな)
手をしっかり握ってくるフィンではなく、自身に言い聞かせるように海十は心の中で呟く。
そのフィンは濃紺の無地の浴衣に白の帯という大人の着こなしをしていたが、その内心は外見の大人とは程遠かった。
(海十に悪い虫がついてはダメだ。海十は自分の魅力を分かってないから……)
海十は渡さないとばかりに警戒しまくっている為、海十の照れとの温度差は半端ない。
「結構色々あるな。この辺では割と規模が大きいのかも。……アレーパ?」
「何だろう、白いパンのサンドイッチ?」
海十が会話をしようと視線を巡らせると、馴染みない名前の屋台が目に留まった。
フィンも足を止めると、何かパンのようなものを焼き、そこへ具を挟んでいる。
聞いてみると、とうもろこしの粉と水と塩で作ったパンとのこと。
「面白そうだな。俺はこのレイナ・ペピアーダを食べてみる」
「それなら、俺はサルピコン・デ・マリスコス。半分ずつ食べよ?」
海十はフィンの提案に「その方が楽しめるからと」真っ赤な顔で頷く。
やがて、海十が鶏肉とアボガドの、フィンがシーフードマリネを挟んだパンを差し出される。
アレパの味自体はシンプルだが、具の味付けがしっかりしていて気にならない。
続いて食べたパッタイは米粉で作られた麺の焼きそばだそうで、干しエビや豆腐といった焼きそばには見られない具に仕上げに掛けられたライムは、自分達の知る焼きそばとは違うと感心した。
「色々な屋台があるんだね。ビックリした。次何食べようか?」
「何か美味しそうな匂いがする」
ふと海十が目線を向けた先には、串焼き肉を売っている屋台。
焼き鳥と思ったが、ジャークポークという名の豚の串焼き肉だ。
「食べてみようか」
「そうだな。これが終わったら……食べる以外の屋台にも行きたい」
フィンの提案に海十はそう返す。
受け取ったジャークポークは、予想以上に香ばしくてスパイシーな味。
秘伝のタレに漬け込んだものを焼いたらしく、とても美味しい。
「さて、海十のリクエストにお応えして、何で遊ぼうか」
「あまり見ないものとかがいいかな。……あ、あれいいかも」
フィンに話を振られた海十が見たのは、型抜きの屋台。
お菓子の型を割らずにくり抜く遊びだ。
「デザートにもなるかな?」
「折角だし、早く型を抜いた方が相手の言うことをひとつ聞くってのは?」
「いいね。受けて立つよ。そういうことなら、オニーサン、負ける気ないし?」
フィンが海十に笑うと、海十も「俺だって負けないから」と笑い返し、ふたりで型抜きに挑戦。
結果───
「約束は約束だからな……」
「オニーサンの勝ち♪」
悔しそうな海十の前で、抜いた型を食べるフィン。
「オニーサンの望みはひとつ!」
フィンは海十の手を引き、ある屋台の前で止まった。
「サングリアをノンアルコールでひとつ! あ、ストローはふたつで!」
「約束は約束だからな……」
やってみたかったんだよね、と笑うフィンへ海十は繰り返す。
2人で飲むひとつのサングリアの味なんて、絶対分からない自信がある。
海十は人気のない場所などないと真っ赤な顔で諦め、上機嫌のフィンと向かい合わせでストローに口をつけた。
●今日は特別に
「時間は有効に、チケット5枚使い切るぞってオイ待て!」
灯篭や花火の時間も確認した俊・ブルックスは、白のかすれ十字の浴衣姿のネカット・グラキエスが自分の手を取って雑踏を歩き出したので、慌てて呼び止めた。
「……え、あ、すみません」
「ターゲットを絞った方がいいだろ」
「珍しそうな食べ物を重点的に攻めませんか?」
「それなら───あれはどうだ?」
ネカットの提案を受けた俊は、目に留まったオーギョーチの屋台を指し示した。
見ると、涼しげなスイーツが売られている。
「ゼリー……なんでしょうか?」
「いや、よく分からないけど、暑いし、あんまり見ないし」
「シュンのお目当てなら、まずはそれにしましょうか」
ネカットが俊に微笑むと、俊は頭の後ろを掻く。
何か、いつもと違う気がする。
半透明の、ゼリーを思わせるオーギョーチは赤いクコの実の彩りが美しい。
レモンシロップを掛け、食べれば、甘過ぎない清涼な味が口の中に広がる。
「さっぱりしてるな。美味かった」
「次はどちらにしましょうか?」
そう問われ、俊は気の所為ではないと思った。
(今日のネカ、何かちょっと違うな。いつもはこっちの都合なんて聞かないのに)
「今日は私だけで強引に決めるのはなしです」
俊の表情が分かり易く変化したのだろう、ネカットはそう言った。
ネカットは俊の手を再び取り、「シュンをしっかりエスコートさせてくださいね」と微笑みを深める。
いつもと違うけれど、でも……素直に受け入れよう。
「残りはお前のお勧めで頼む」
「はい」
どこか嬉しそうにネカットは微笑んだ。
アヤム・ペルチックという、唐辛子とココナッツのソースで食べるちょっと変わった焼き鳥を食べながら、2人は屋台を覗いていく。
定番の屋台以外の屋台も多く、多くの業者がこの花火大会で稼ぐ為にやって来ていると推察出来る。
「点心などもあるんですね」
「屋台って案外出せるのが多いんだな」
米粉で作られた薄い生地に肉、魚介類や野菜を包んで蒸されたチョンファンという点心を食べつつ、2人は他にもないかと見て回る。
(私はこの時間、今すごく楽しんでいます)
ネカットは自分の胸が躍っていると自覚している。
躍る原因は、言うまでもない。
「あ、これ、面白そう」
「食べてみましょうか」
俊が何気なく見た屋台に興味を示したので、ネカットは足を止めた。
チャートというスナックらしく、色々な味があるようだ。
試しに買ってみると、揚げた薄いスナックの中に酸味のあるヨーグルトとソースが入っている。
「外は熱いのに、中は冷たいな」
「不思議な味ですよね」
種類がかなりあるようだから、食べる機会が今後あれば、今度は違うものを食べてもいいかもしれない。
「残り1枚か。灯篭の時間もあるし、どうしようか」
「それなら……」
ネカットは少しだけ、視線を泳がせた。
「珍しくはないのですが、食べたいものが……」
「いいぜ。ネカットに任せるって言っただろ」
俊が笑うと、ネカットはある屋台を指し示した。
「かき氷、そんなに好きだったのか?」
俊は自分にぴったりと言っていたことを思い出しながら、イチゴのかき氷を食べる。
隣で同じかき氷を食べるネカットは、くすりと笑った。
「そうかもしれませんね」
あの時食べたかき氷とは違う味だけど、あなたの隣で食べることに意味がある。
●初めての夏祭り
ハティは、立ち並ぶ屋台をひとつひとつ眺めた。
「オイ、足止めてるんじゃねえよ」
すかさず、ブリンドが声を掛けてくる。
見て回るにしても、度々足を止められたのでは話にならないと言いたげだ。
(来てすぐに持ち帰れるものを探すのは間違いなんだろうな)
そもそもメインは花火大会で、後で皆と合流するのだから、すぐに宿へ帰る訳にもいかないのだが。
祭りは外でするものというのは知っているが……。
「オイ」
ブリンドが不機嫌そうに声を掛けてくる。
そう、ハティは再び足を止めていたのだ。
「まさか、んなもん欲しいとか言い出すんじゃねーだろうな?」
眼鏡の向こうに鋭い眼は、より一層鋭くハティを見る。
そんな突き刺さるように見なくてもと思いながら、ハティは輪投げの景品である光を放つ、玩具の剣を見ている。
「くだらねーもんに貴重な券使うんじゃねえ」
ブリンドはハティの奥襟掴んでずるずる引き摺る。
着付けて貰った和服「ムサシ」は揃いでも、その中身の対称が変わる訳がないのだ。
(……林檎飴、通過)
ブリンドは引き摺られているハティが前に買ってから気に入ったらしい林檎飴を視界に収めつつ、さっさと立ち去る。
一通り見る為だが、ハティが林檎飴の屋台を見ているだろうことは想像がつく。
そんなもんは一通り見てから決めればいいことだと思うが、ハティはそういう思考ではない。
「こんなものか」
立ち並ぶ屋台を一通り見たハティはそう感想を漏らす。
かなりの屋台が出ており、どれも人が賑わっている。
勿論、その中でも一際賑わっているものもあったが───
「気になるもんがあんなら見てきたらどーだ。ついでに食うもん買ってこいよ」
「ついでと言っても……希望はあるのか? 買えるものなら……」
「そこまでお前に期待してねえ」
そう言いつつも、ブリンドが所望したのは焼きそば。
出ている屋台の中では、かなりの人気である。
が、ハティは夏祭りに馴染みがなく、見学感覚で屋台を見に行きたいこともあり、ブリンドの依頼をあっさり受けた。
(フラフラさせたら迷子になる未来が見えてっから)
雑踏の中に消えていくハティを見ながら、ブリンドは呟く。
目的地があれば、迷子になることもないだろう。
これで迷子になったら、ぶん殴る。
……が、ハティは戻ってこない。
「あの天然のクソガキャ……」
灯篭の受付開始時間に関するアナウンスを聞く限り、時間はそれなりに経過している。
混雑しているのを差し引いても遅過ぎる。
(これは、ぜってー……あそこだ)
ひくつくこめかみを押さえ、ブリンドは雑踏の中に足を踏み入れた。
●先生と僕
「綺麗ですね、浴衣。……よくお似合いですよ。僕のものより華やかですね」
暁 千尋は、涼しい湖畔の風景がデザインされた浴衣「しぼり花」を身に纏うジルヴェール・シフォンを見た。
すると、ジルは艶のある微笑を浮かべ、千尋を見る。
「あら、綺麗なのは浴衣だけ?」
「いえ、そういうつもりでは……」
「分かってるわ、ちょっと拗ねただけよ?」
慌てる千尋にそう言うと、ジルは千尋の浴衣を見る。
さりげなく模様染めされた浴衣は、清涼感と風を感じさせるデザインである。
千尋は、浴衣「彩染」をきちんと着付けて貰っているけれど。
「ふふ、チヒロちゃんはいつもきっちりしてるから、浴衣姿は新鮮でいいわね」
「少し……落ち着きません。歩くと、雪駄の鈴が鳴りますし」
「あら、可愛くていいじゃない。私もチヒロちゃんの雪駄が良かったわ」
会話を交わしながら、屋台を一通り見ていく。
屋台を見るジルの横顔を千尋は見る。
(あの時の答えもどんな関係になりたいかもまだ見えてはいないけれど……)
でも、今、一緒に歩いていることを嬉しく思う。
これからどんな変化があり、どんな名称の関係になるかも分からないけど。
変わらない気持ちは、ここにある。
(ワタシは、今どう映っているのかしらね)
ジルは千尋の視線に気づきながら、気づかない振りをしてあげている。
気持ちが決まるまで、長期戦と思っているけれど、その視線に無関心という訳ではない。
あの日の花弁の砂糖漬けの味が、ジルの中で鮮やかに蘇る。
ヴィオラの花言葉が、胸の奥まで息づいたかのように。
(チヒロちゃんは、息づいている?)
聞けないけれど、心の中でそっと問う。
きっと、赤と白の花弁の砂糖漬けを手にした彼は知らない。
『僕は嫌いな人と一緒にいられるほど心の広い人間ではありませんよ』
あの言葉が、どれだけワタシを救ってくれたか。
全てを込めて、ありがとうと言ったことを……知らないだろう。
だが、ジルも知らない。
猫になってしまった千尋へ、彼と気づかず内緒の本音を漏らしていることを。
「先生、一通り屋台を見て思ったんですが……」
千尋がジルを見て、そう前置いた。
「折角だから、賭けをしませんか?」
「あなたからそんな提案されるとは、珍しいわね」
「お祭りですから、少しははしゃいだ方が楽しいでしょう?」
「ふふ、乗った」
ジルが笑うと、千尋は射的の屋台を指し示した。
こちらで勝負しようということらしい。
「1番良いものを落とした方が勝ちってことで」
「負けた方が好きなものをご馳走しましょう」
ジルが千尋にそう応じると、千尋は「負けませんよ」と琥珀の瞳を楽しそうに細める。
綺麗だと思うその琥珀の輝きにジルは桜色の瞳を細めた。
●刺激されるコンプレックス
「子供じゃないんだ。少しは落ち着け」
蘇芳は、萌葱が身に纏う笹柄の浴衣の奥襟を掴んだ。
落ち着いた深緑が台無しと思う位、萌葱ははしゃいでいる。
さっきも、「花火大会だー!」と集合時間や見る場所も聞かずに屋台を巡ろうとしたのを慌てて止めたのだ。
「でも、腹ごしらえしたいし、混んでるから急がないと。蘇芳、早く屋台へ行こうよ」
「人混みの中にその勢いでつっこんでいったら迷子になるだろうが」
急かす萌葱に蘇芳は呆れた声を出す。
この年齢で迷子放送なんてことはしたくない。
迷子で呼び出されて来る方はそうではないかもしれないが、呼び出す方の身にもなってほしいものだ。
が、蘇芳の心の呟きを他所に萌葱は目を瞬かせた。
「迷子? 誰が?」
「あんた以外誰がいる」
即答。
蘇芳としては、萌葱に必要以上干渉されたい訳ではない。
大人気ないと思うから、付き合ってやることも多いが……萌葱は、自分とは違って恵まれているように見える。
そのことに、思うことがない訳ではない。
「そこまで子供扱いしなくて良いじゃない?」
「そういう所が子供だと言うんだ」
劇的に年齢差がある訳ではないのに、萌葱の膨れ面を見ていると、やけに年下を相手にしている気になると蘇芳は苦笑を浮かべずにはいられない。
そう思っていたら、萌葱が手を伸ばしてきた。
蘇芳の名を表す色の浴衣の袖をしっかり掴む。
「分かった。なら、蘇芳の袖を掴んで歩けばその心配もないよね」
「……好きにしろ」
たじろぐ気持ちはあったが、振り解ける程酷薄にも振舞えず、蘇芳はそう返すしかない。
すると、萌葱が蘇芳の浴衣をじっと見て、不思議そうに言った。
「浴衣の柄はお揃いなのに、色が違うと別物みたい」
「それ以上に中身が違い過ぎるだろ」
「えー、それどういう意味!?」
蘇芳の言葉に反応しながらも、その袖を離そうとしない萌葱は屋台を吟味している。
お腹が空いたとさっき連呼していたから、空腹を満たす屋台を探しているのだろうというのは説明されずとも分かる。
(任務の後でもあるしな)
萌葱程ではないにせよ、何か食べておきたいのは蘇芳も同じだ。
「あ、たこ焼きがあるー! 蘇芳、たこ焼き食べよう!」
萌葱に袖を強く引かれ、蘇芳は促されるようにたこ焼きの屋台へと歩いていく。
購入したたこ焼きを手にすると、萌葱は爪楊枝で2つのたこ焼きを刺した。
「蘇芳もほら、半分食べようよ」
「ああ」
蘇芳は屈託なく差し出されたたこ焼きを受け取ると、萌葱と共に食べ始める。
「何でだろ、誰かと一緒に食べるのって美味しいよね」
「まぁ、そうだな」
周防はどこか懐かしさを滲ませる萌葱の声の響きに違和感を覚えながらも、たこ焼きをもう1個口の中へ運んだ。
●託すべき想いを
灯篭の申し込みを行うと、俊とネカットは受付からプレートを受け取った。
半透明で中の蝋燭が見えるデザインとなっており、蝋燭の灯りがプレートの絵や文字を彩るのだろう。
(絵心はあるとは思ってないけど)
筆にピンクのアクリル絵の具をつけると、牡丹を意識して描く。
知っているのは名前だけということはなく、その姿はきちんと思い描ける。
(季節じゃないが、ネカの好きな花)
それが、描く理由。
俊の手元を見ていたネカットは、もしやと思った。
何となく、描くものが分かるような気がする。
(シュン、大好きです……何か違いますね)
書こうとしていたメッセージを心の中で呟き、俊が絵を書いている姿を見、緩く頭を振る。
今の気持ちは、そうじゃない。
俊を見て、思うことはひとつ───
『あなたの喜ぶ顔が見たい』
(よし、これでいいです)
偽らざる言葉をプレートに書いたネカットは、係員の教えに従ってプレートを灯篭に嵌め込んだ。
ネカットがプレートを嵌め込んでいる時、俊は少し迷っていた。
ピンクの牡丹は描き上がっていたが、その横には空白のスペースがある。
(好意は、受け入れるだけじゃなくて)
俊は意を決して、筆に黄色を乗せた。
描いたのは、開花時期が微妙にずれてしまうが、同じ春の花レンギョウ。
(お互いに想い合えるようになれればいい)
そう願うからこそ、この花を選ぶ。
言葉にはせず、これからそうなるようにと出来上がったプレートを嵌め込めば、完成だ。
「舟に乗せて灯篭を流すというのも何だか不思議ですね」
「そうだな。綺麗だけど」
それぞれの舟に灯篭を乗せながら、ネカットと俊は言葉を交わす。
思い思いに描かれた灯篭が舟に乗り、ひとつ、またひとつと海へと流されていく。
ゆらゆらと揺れる舟に乗る灯篭には、流した人の想いが乗っているのだろう。
(私が、そうであるように)
ネカットは、隣の俊を見た。
藍色の、かすれ縞柄の浴衣姿は普段見ないからか、俊はいつもと違うように見える。
「ネカ、そろそろ移動しようぜ?」
けれど、明るく笑う俊はいつもの俊。
いつもと違う姿、いつもと変わらない表情が嬉しい。
そう思う日が来るとは思っていなかった。
「行きましょうか」
ネカットが、俊へ微笑みを返す。
俊が希望を託した灯篭の光は、ネカットの想いが乗る灯篭を今は淡く照らすのみである。
●独占の姿
「苦手って言ったのは嘘ですか……」
「嘘はついてないわ、運が良かっただけ」
千尋の言葉にジルはふふ、と笑う。
射的勝負の結果は、ジルの勝利だった。
「何なら……もうひと勝負してもいいわよ? でも、その前に甘いものが食べたいわね」
「分かりました。買ってくるから待っててくださいね」
千尋はジルのリクエストに答える形で屋台へ向かう。
お祭りと言ったのだし、お祭りの定番がいいだろう。
(綿飴とか? 甘いし、それにしよう)
そう思った千尋は、綿飴を買いに行くことにした。
一方、ジルは千尋を待っていた。
(人が沢山出てるのね)
この分だと、はぐれたりする者もいるだろう。
はぐれた場合、合流するのは難しそうな気がする。
「あの……おひとりですか?」
ジルは声を掛けられ、振り返った。
見た所、地元の女性に見える。
(チヒロちゃんと同い年位かしらね?)
ジルがそう思っていると、「連れとはぐれてしまったのですが、一緒に見て回りませんか」と頬を染めて切り出される。
(あら、ナンパかしら)
積極的な性格を反映した女性の顔を見、ジルが口を開こうとしたその時だ。
「先生、お知り合いですか?」
「いいえ、知らない人」
千尋が綿飴を持って、こちらへやってきた。
ジルが千尋にそう答えていると、「お、教え子さんと一緒だったんですね。失礼しました」と女性が雑踏の中へ消えていく。
「ナンパっていうのかしら、ワタシも捨てたものじゃないわねぇ」
「ナンパ……」
綿飴を受け取るジルの言葉に千尋が眉を寄せる。
ジルの容姿を考えれば、1人を放って置く女性はいないだろう。
仕方ない───そうは思う、が。
(何か……モヤモヤする)
前にも、こういうことがあった。
あの時は、ジルの知り合い(オネエ)だったけど。
「ところで、チヒロちゃん。ご馳走なんだから、一口は食べさせて頂戴?」
「え」
「だって、券だからチヒロちゃんが支払ってる訳じゃないしね」
この後攻防戦があるも、結局負けてる千尋が折れて、千切った綿飴をジルへあーんした。
「それで2回戦はするのかしら?」
「勝負はしますよ。でも……」
ジルから借りたハンカチで綿飴を千切った指を拭く千尋は、意を決して切り出した。
「次からは、負けて買いに行く時も一緒にいきましょう。……人ごみも多くなってきましたから」
千尋の申し出に目を瞬かせたジルだったが。
「……ふふ、そうね。はぐれてしまっても困るものね」
ナンパされるのも、案外悪くない。
尚、射的2回戦も千尋は負けてしまい、ジルへクレープをあーんすることになる。
あーんばかりもと笑うジルがシャーピンを千尋へ差し出し、逆に固まらせてしまうが、その姿はジルだけのものである為、ここでは語らないでおこう。
●結局世話焼き
「わ、わ、わ」
「落ち着いて食べろ」
萌葱がわたわたと中の汁を手に零すと、蘇芳は借り物の浴衣を汚すなと屋台にあるペーパーナプキンで萌葱の手を拭いた。
2人が今食べているのは、プチュカと呼ばれるスナック菓子だ。
人がやけに集まっていると覗いてみると、中が空洞の揚げパンに穴を開けた屋台の主が液状の具(パーニーというらしい)を入れて客へ渡している。
5個で売っているそうだが、直前でパーニーを入れる為、1個ずつ手渡されるのだとか。
が、パーニーを入れる主に後れを取らないよう食べるのが難しいらしく、結果、挑戦者と見物客が多いという話。
萌葱が興味を持たない訳がなく、蘇芳と共に挑戦したが、話通りに難しかった。
「でも、楽しかった。わんこそばみたいだったし!」
「浴衣汚さないで良かった」
楽しんでいる萌葱と異なり、蘇芳はそちらに安堵していた。
厚意で借りた浴衣を汚すとか申し訳なさ過ぎる。
蘇芳が心の中で溜め息をついていると、萌葱が袖をくいくい引っ張ってきた。
「あれ、美味しそう!」
「ソーセージサンド?」
「チェバビって言うみたい!」
行ってみようと萌葱に誘われるがまま足を運ぶと、小ぶりのソーセージが玉葱やチーズをピタパンに挟み、ペースト状のソースをかけている。
「本当に色々あるね」
「パシオン・シーに近いからな。あっちのレストランが出張しているのかもな」
萌葱に蘇芳がそう言うと、屋台の主が正解と笑う。
定番の屋台は地元や屋台専門の業者が多いそうだが、あまり馴染みがないようなものに関しては、あちらに店を構える飲食店がここまで屋台を出張してくるらしい。
灯篭流しと花火を楽しむことが出来る為、リゾート客の目を引き易く、アテにしているのかもしれない。
「香辛料が利いてるな。肉汁が割とあるから、気をつけろよ」
「そこまで子供じゃないよ」
「プチュカ零しただろう」
そんな会話を交わし、チェバビを楽しむと、空腹が満たされてきたことに気づく。
集合時間まで余裕あるから、遊戯系の屋台を楽しもうと2人は射的の屋台へ足を運んだ。
「勝負しようよ!」
「いいぞ」
が、2人共見事に外れ。
「蘇芳には勝てると思ったんだけどなー」
「根拠のない自信はよせ」
蘇芳は残念そうな萌葱の頭を軽く小突くも、同じ結果に苦笑する。
自分と全く違うのに、何だかそれがおかしかった。
「そろそろ移動する?」
「そうだな。……あ」
萌葱に答えた蘇芳は、何かに気づいた。
「甘い物好きだったよな?」
「え! 覚えててくれたの!? 何か嬉しいね、ありがとう」
蘇芳から差し出された林檎飴を受け取ると、萌葱は嬉しそうに笑って齧る。
こういうのも、悪くないかもな。
蘇芳は、ふとそう思った。
●この心は君の空の下に在る
海十とフィンも灯篭流しの申し込みを済ませ、プレートを受付から受け取っていた。
「人手があるね。皆色々な想いを託すのかな」
「そうかもしれない。灯篭を舟に乗せて海へ流し、その上を花火が彩るってあまり聞かないし」
フィンが周囲を見回すと、海十は海を見、呟く。
やがて、灯篭の灯りが海を埋め尽くす。
その上を花火が彩り、灯篭の灯りとは異なる光で夜の海を照らすのだろう。
「俺達も仲間に加わらないとね?」
「出来上がるまで、見るなよ」
フィンの言葉に照れる海十はアクリル絵の具を持って、フィンから背を向けて作業開始。
「終わったら、ちゃんと見せてね」
海十の背中に言葉を投げかけ、フィンも背を向けて灯篭のプレートと向き合った。
(願うのは、たったひとつ)
海十は筆に青を乗せ、プレートをその色へ染めていく。
澄んだ青空となるよう、けれど、単調にならないよう。
複数あった青を組み合わせ、海十は自分の心に広がる青空を描く。
(結構難しいな)
絵心がないからか、海十は思った以上に難しいと思った。
でも───時間を掛けた分だけ、フィンへの想いが込められるから、頑張ろう。
『これからも幸せの傍にいられますように』
そう願いを添えて、海十は筆を置いた。
海を旅するクリーム色の小石に届くように流すけれど───幸せそのものには、自分で伝えたい。
(……海に託すなら、贅沢なお願いをするよ? そこには、先客がいるんだし)
フィンは、藍色の絵の具を乗せながら呟いた。
描きたいのは、夜空。
海十の瞳のような、包み込む優しい夜空だ。
彼が今まで簡単に生きてきていないように、ただ色を塗るのではなく、沢山の表情を持つ夜空を描きたい。
絵が巧い人からしたら、自分の絵は絵と呼べるものではないかもしれない。
けれど、この絵に込めた想いが海十に届けば、誰に評価されなくてもそれでいい。
『可愛い恋人とこれからも幸せでいられますように』
これが、偽らざる贅沢なお願い。
そして、灯篭に嵌め込む前に2人はプレートを見せ合った。
「……ごめん、今すごい嬉しくて……海十を抱き締めたくなってる」
フィンが手で顔を押さえ、少し距離を取る。
手の隙間から見える顔は真っ赤で、それから口元が嬉しそうで。
海十も耳まで真っ赤になっていたけれど、同じだったこと以上に今のフィンの反応が嬉しい。
「互いのプレートを嵌めて、流そうか」
海十がフィンのプレートを寄越せと手を差し出す。
すると、真っ赤な顔のフィンが最高に嬉しそうな顔でプレートを差し出した。
想いを受け取るかのように交換したプレートを灯篭に嵌めこみ、舟へと乗せる。
灯篭を乗せてゆっくり流れていく舟は、『先輩』に出会えるだろうか?
●天然マイペース
(見学と焼きそば購入にどんだけ時間掛けてるんだ)
ブリンドはハティへの文句を準備しながら、雑踏を急ぐ。
渡した券の枚数を考えれば、大量購入はありえない。
混雑も考えられるが、屋台で度々足を止めていたのを思い出せば、混雑以外が原因だと想像するのはそこまで難しくない。
(そろそろ場所移動の時間だろうが)
ブリンドは呆れ果てつつ、見当をつけている場所へ向かう。
「オイ」
やっぱりここかとブリンドが声を掛けた先にハティはいた。
輪投げの屋台の前にハティは佇んでいたのだ。
視線の先には、光る剣の玩具。
「そんなにやりてーなら好きにしろ。その代わり1回で決めなかったら、ぶちのめす」
「いいのか?」
「気が変わる前にさっさとやれ」
ハティが目を瞬かせたが、ブリンドが鋭い眼を更に鋭くすると、ハティは輪投げの屋台の主へ券を1枚渡した。
結果、ハティの輪は見事、1回で光る剣の玩具へ掛かった。
「後はもういいだろ。時間だ」
光る剣の玩具を貰うハティへブリンドが言うと、ハティはちょっと名残惜しいのか、輪投げの屋台をちらちら見ている。
「もうそろそろ時間だ」
「そうか。……あ、焼きそば、まだこれからだ」
「だろうと思った」
輪を屋台の主に返したハティがようやく焼きそばをまだ買っていないことを思い出したが、ブリンドは予想がついていた。
「とにかく、券1枚あんだろ。さっさと俺の用事を果たせ」
「分かった」
この後、メニューが1つしかない焼きそばの屋台で悩んだハティはブリンドに「何で1つしかねえのに悩んでんだおめーは」と言われるが、ハティが焼きそばを購入した時にはブリンドが残りの券を使って買い物を済ませていた。
「何を買ったんだ?」
「ファラフェルっつー豆を揚げたのと野菜のサンドイッチみてえなのとラムネ、あと林檎飴な」
「あ、林檎飴……ありがとう」
「言っとくが、ここで食うんじゃねえぞ。もうそろそろ移動の時間だ。向こうで食え」
ハティが林檎飴をじっと見るが、ブリンドはそんな暇はないと却下する。
気がつけば、もうそろそろ花火が打ち上がる時間になっており、集合場所に行かなければ皆が心配するだろう。
「ったく、手間掛けさせやがって……」
ブリンドはブツブツ言っているが、ハティは率直な感想を漏らした。
「でも、リンって面倒見いいよね」
「誰の所為だと思ってやがる」
両手塞がるブリンドが、ハティを蹴飛ばす。
「??」
思ったことを言うと、ブリンドから理不尽なことをされ易い?
最近、水も掛けられたと思い返すハティは首を傾げつつ、ブリンドと共に集合場所へと向かうのだった。
●空に描かれる光の華の前に
「間に合った。混雑が半端ねえな」
ブリンドがハティと共に依頼主が確保した場所へ到着した時には、彼ら以外全員集まっていた。
「まだ、こっちは食ってねえ。悪ぃな」
ブリンドは言い置き、屋台の食べ物を広げる。
焼きそばを食べ始めるブリンドに対し、ハティはファラフェルを食べ始めた。
彼らが急いで食べている間、他のウィンクルム達は屋台の話に花を咲かせる。
「千尋、それで連敗しちゃったんだ……」
「情けない限りです」
フィンが射的対決の話を聞くと、千尋は深く溜め息をついた。
「俺も実は……」
「そうなんですか?」
海十が会話に加わると、千尋と対決の話になり、何やら2人共顔を赤くする。
その反応にフィンとジルは顔を見合わせた。
「ふふ、可愛い恋人さんに何をしたの?」
「大したことじゃないよ。そういうジルは?」
「あら、それなら、ワタシもそうなのかしら」
海十も千尋も反論したかったが、藪蛇になりそうなので、話題を変えることにした。
「結構色々な屋台あったと思うけど、何の屋台行った?」
「私達は珍しいものを重点的に行きましたよ。色々な種類があって、驚きました」
「パシオン・シー周辺の飲食店が出張に来ているらしい」
海十の問いにネカットが行った屋台の名を出しながらそう言うと、蘇芳が聞いた話を皆にも伝える。
「それなら、納得行くな。あんま見ない屋台多かったし」
「見てるだけでも楽しくなっちゃうよねー」
「分かるかも。こんなのあるのかって俺驚いちゃった」
俊が蘇芳の話に納得すると、萌葱が買わなかった屋台も十分面白かったと笑顔を向ける。
すると、フィンも見慣れない屋台が多かったと話に加わった。
「私達は珍しいものを中心としましたが、定番のものも多く出ていましたね」
「そうね。ワタシ達は逆に定番が多かったかしら。あれはあれで良かったわよ?」
「僕達は半々! たこ焼きも美味しかったけど、プチュカも美味しかった!」
ネカットとジルの会話に萌葱が飛び込むと、プチュカを食べる苦労について話し始めた。
「珍しいですし、楽しそうですね。行かなかったのは残念です」
「そうね。……ふふ、でも、あーんが出来ないから、今回は良かったのかしら?」
ネカットがそう微笑むと、ジルが意味ありげに千尋を見、千尋は「し、知りません」と動揺した声を出す。
それだけで海十は千尋が何をしたか見当がついたらしく、千尋に肩をぽんと置き、何事か耳打ちした。
「ねー、何話してるの? 僕達は引き分けだったから、そういう意味じゃ両方負けだよ?」
「萌葱、色々あるから察しておけ」
萌葱が不思議そうな顔で海十と千尋へ話を振るが、察してくれたらしい蘇芳が萌葱を止めに掛かる。
「けど、皆、はぐれたりしなくて良かったよな。これだけ人が多いと、ここに来るのも分からなくなりそうだし、最悪宿で再会とかあったかもだし」
「はぐれ……そうですね」
俊が全員揃っているのが何よりと言うと、ジルへのナンパを思い出した千尋はちょっとだけモヤモヤを復活させたらしく、複雑そうな顔を浮かべる。
「僕は蘇芳の浴衣の袖掴んでたから大丈夫だった!」
「俺も海十と手を繋いでいたし、はぐれなかったな」
「あら、皆仲良しさんなのね。いいことだと思うわ」
萌葱がはぐれなかった秘訣をそう言うと、フィンも微笑で続く。
居た堪れない様子の蘇芳や顔を赤くする海十が微笑ましく映るジルは、ふふと笑みを浮かべた。
(手……繋ぐものなのだろうか)
千尋は、思わず自分の手を見てみる。
離れないで行動は考えたけれど、手を握ることは考えていなかった。
握りたくないというより、別の考えが独占していたといった方が正しいのかもしれない。
「俺に了承取る前に掴んでただろうが」
「ダメだった?」
「そういう問題じゃない」
蘇芳がツッコミすると、萌葱は不思議そうな顔になる。
頭を抱える蘇芳を見て、ネカットが呟いた。
「蘇芳さんは、結構苦労しそうな気がします」
「ネカが言うと、信憑性あるな」
「何の話?」
俊が顔を引き攣らせていると、萌葱が加わってきた。
蘇芳の耳に入ったら、何か可哀想に思えたので、俊は無難に「蘇芳(の精神状態)は萌葱次第」と言っておき、追及を逃れる。
傍で聞いていたネカットは、(シュンらしい逃亡)と思ったが、蘇芳を気遣う俊の為に黙っておいた。
「んなもん見てる場合か」
焼きそばを食べ終わったブリンドは、ファラフェルを食べ終え、林檎飴を齧るハティを見た。
ハティの空いた片手は輪投げの戦利品、光る剣の玩具が握られている。
ブリンドが顎で指し示した先は、海へ向かうぼんやりとした光。
「あれが皆沖へ向かうんですね」
「灯篭の淡い光が花火の輝きに重なる……ふふ、貴重な光景ね」
千尋とジルの会話の通り、沖へと向かう光は花火のような鮮烈さはない。
「あの灯篭は何を流しているんだろうな」
中々出会えない光景とハティが漏らす。
灯篭を流したウィンクルム達が顔を見合わせた。
「……秘密」
「だって、ごめんね?」
「私達も内緒にしておきましょう、シュン」
「そうだな。当事者だけってことで」
海十の言葉にフィンが笑い、彼らに同意するネカットが俊から同意を貰う。
よく分からないが、色々あるのだろう。
ハティは林檎飴を食べながら、そう思う。
(俺が乗せるとしたら、何だろう?)
ハティは、ラムネを飲むブリンドを見た。
何となくだから、理由聞かれても答えられないけど。
やがて、空に灯篭の光とは異なる光の華が描かれ始めた。
●あなたと笑うひと時
夜空を光の華が彩っていく。
一瞬の鮮やかな色彩が沖へ向かう淡い光を照らすこの景色は、そう簡単に見られるようなものではない。
皆綺麗だと賑やかに会話を交わす中、ふと萌葱が蘇芳の浴衣の袖を引っ張った。
「どうかしたか?」
「蘇芳……ありがとう」
いきなりどうしたと蘇芳が尋ねるより早く、萌葱は言葉を続ける。
「蘇芳と契約したから、今まで知らなかったことを体験出来ているんだ。だから、ありがとう」
蘇芳は、その言葉で何となく気づいた。
萌葱はどちらかと言えば裕福ではない家庭で育った自分と違い、根がそうだとは言え楽天家気質がそのままでいられた程度には、良い所の坊ちゃんなのだろう。(程度は分からないが、少なくとも自分より絶対いい)
恵まれていると言えば恵まれているだろうが、それ故に与えられるしかなかったのかもしれない。
(どっちがいいのか)
蘇芳は心の中で呟き、溜め息をつく。
鳥篭で死の恐怖なく生きる小鳥と外敵の危険に晒されても自由の空を飛べる小鳥のどちらが幸せかを定義するようなものだと、そう思った。
逡巡の末、したことは───
「悪くない」
そう言うと、萌葱は、「蘇芳、本当にありがとう」と嬉しそうに笑った。
「たーまやーって言うべきなのかしら?」
「僕は鍵屋と叫びましょうか?」
ジルが花火を見ながらそう漏らすと、千尋が花火を見ながらそう言ってくれた。
「折角だし、いいわね」
「打ち上げられるみたいですよ」
「いいタイミングね」
再び打ち上がった花火に合わせ、ジルと千尋がそれぞれ声を上げる。
声に応じるかのように開いた光の花は、キラキラとした余韻を夜空に残していた。
「綺麗ね……」
ジルが吐息を零して、微笑む。
千尋はジルの横顔を見た。
(花火も景色も素晴らしいけれど、1番美しいのは……)
そのどちらでもない。
それを見る───
「どうかした?」
「僕も……本当に綺麗だと思います……」
すると、ジルが艶やかに笑った。
「それは花火? それともワタシ?」
「!?」
ジルの問いに千尋は目を見開いた。
沈黙する間に、次の花火が打ち上げられる。
光と共に響く音で千尋は我に返った。
「……浴衣のことですよ」
「つれないわねぇ」
けれど、気分を害した様子もなく、ジルはそう笑った。
(僕は、さっき……)
千尋は、再び打ち上げられた花火へ掛け声を上げるジルを見て思う。
花火よりも花火に照らされる灯篭の灯りよりも───その浴衣を身に纏う人が。
綺麗だと、そう思った。
けれど、何故そう思ったのか、千尋は自分でもよく分からない。
理由が分かったら、何が変わるのだろう?
「また、屋台だけでも、行かないか」
「あ?」
ブリンドがハティを見ると、ハティは林檎飴を大事そうに食べていた。
「あんだソレをねだる気だったのか。外で食うから良いもんってだけだろ」
「……アンタはそう言うが、俺も林檎飴が好きと言うか」
ハティが林檎飴をもぐもぐさせながらそう言うが、ちょうど連続で花火が打ち上げられ、ブリンドの耳にハティの声が届かない。
「聞こえねーよアホ」
「だから、リンが」
花火の音が絶え間ない。
「聞こえねーっつってんだろ」
「買ってくれたから好───」
言う前に、花火の光と音に紛れて、ハティの頬に衝撃が走った。
一瞬、タイミングが悪いと花火を見てしまったハティは何が起きたか分からない。
虫かと言うには、衝撃が走り過ぎている。
(くだらねぇ告白だった)
耳を澄ませて聞いてやれば、林檎飴が好きという告白だった。
殴りたいという欲求に従って手が出たブリンドは、花火の合間に先程の言葉への返事を返す。
「そんなに屋台行きたいのかよ」
「話を聞いてたら、色々あるし、まだ見ぬ屋台もありそうだから……な?」
「そりゃ2人じゃ回りきれねーなあ」
ブリンドが返事を渋ってやると、ハティが身を乗り出してきた。
「皆で……皆で行くのは……」
屋台の話が余程新鮮だったのか。
ブリンドがそう思っていると、ハティがこう言った。
「林檎飴も欲しいし」
まだ言うかとブリンドが手を出す前にハティがぽそりと言った。
アンタが買ってくれたから、好きなんだ。
ブリンドは、「変なこと言いやがるから、絶対行かねぇ」という言葉と共にさっきよりも強烈な衝撃をハティの頬に与えた。
天然は、無自覚に恥ずかしいことしやがる。
周囲の賑やかさとは裏腹に、海十とフィンは静かに花火を見上げていた。
最初重ね合わせていた手は、今はゆっくり握られている。
灯りの下にいる訳でもないし、皆自分達の手元よりも花火や海上の淡い光へ目を奪われているだろう。
だから、海十は自ら手を伸ばしたのだ。
(ありがとう、海十)
けど、少しだけ……我が侭してもいいかな?
フィンは海十の指に自らの指を絡める。
一瞬、緊張したその指は、フィンを拒まない。
手を伸ばしてくれた時以上に、それが嬉しく、そして愛しい。
「綺麗だね」
花火を見つめる海十が。
フィンが想いを込めてそう言うと、海十は嬉しそうに笑った。
「フィンと一緒に見られて、嬉しい」
一緒だから、より幸せを感じるんだ。
俊が何気なくネカットを見ると、その目が合った。
花火ではなく、自分を見ていたと気づき、俊は驚く。
「な、何だよ、花火見ろよ……」
「任務の後に良い幸運に恵まれましたよね」
皆と一緒に見ていれば、そっと横顔を見ていても気づかれないかと思っていたのに。
本人が、気づくなんて。
ネカットは手を伸ばすと、俊の手をそっと握った。
花火の輝きが、俊の顔を一瞬照らす。
驚いた表情が色彩の光に彩られ、また夜の中へ消える。
「花火、見逃しただろ」
俊はそう言いながら、ネカットの手を除けることなく握り返してきた。
ぎゅっと握られた手から、俊の体温が伝わってくる。
(初めてです)
ネカットは、俊の手が緊張で汗ばんでいることに気づいて微笑んだ。
花火がまた上がり、握られた手にも色彩の光が落ちる。
この手を握ってくれる彼に、最初は一目惚れしたと思っていた。
でも、そうではなくて。
(こんなにも満たされた気持ちになったのは……今日が、初めてです)
傍にいるだけなのに、満たされていく。
確信を持って、言えるのは───
(今ようやく、本当の恋をしています)
それは、花火のように鮮やかに、けれど、灯篭の光のように優しい。
あなたの傍にいるだけで……幸せです。
やがて、空を彩る花火も海へ浮かんだ淡い光も夜の彼方へ消えていく。
けれど、過ごしたひと時は彼方へ消えることはない。
それぞれの心へ息づき、色褪せない幸せとなる。
| 名前:蒼崎 海十 呼び名:海十 |
名前:フィン・ブラーシュ 呼び名:フィン |
| 名前:俊・ブルックス 呼び名:シュン |
名前:ネカット・グラキエス 呼び名:ネカ |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 真名木風由 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | ハートフル |
| エピソードタイプ | EX |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,500ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 08月01日 |
| 出発日 | 08月07日 00:00 |
| 予定納品日 | 08月17日 |

2015/08/06-23:15
2015/08/06-23:15
けっこうギリギリまで迷ってしまったんだが、俺達は屋台で買い物してから花火を見に行く予定。
灯篭は字数があればと思ったが見る専でプラン提出に至ったむねん。
絡みも歓迎と言いたいところなんだが字数(以下略)でGMさん任せになってしまいそうだ。
苦し紛れで一言絡んでみたくらいで申し訳ないんだが、当日はよろしく頼む。
2015/08/06-22:21
2015/08/06-00:14
ご挨拶が遅れました。
蒼崎海十です。パートナーはフィン。
皆様、宜しくお願いいたします!
俺達も絡みは大歓迎ですので、お会いしましたら宜しくお願いします!
楽しい一時となりますように。
2015/08/05-13:13
俊・ブルックスと相方のネカットだ。
俺達も絡みはOKなんで、会った時はよろしく頼む。
さて何しようかな…
2015/08/05-08:30
暁千尋とジル先生です。
絡みOKなので、ご一緒した方は宜しくお願い致します。
お祭り、楽しみましょうね。
2015/08/05-05:49
こんにちは
萌葱と相方の蘇芳ですー
屋台も花火も楽しみだねぇ、よろしくお願いしますー!
2015/08/05-00:25
ハティとブリンドだ。みんな少しぶり。おつかれさま。
流石に人が多そうだが、席の心配はないのがありがたいな。
花火といっしょに灯篭を見られるんだろうか。
ヤタイメシもユカタも楽しみにしている。

