


●あと一日で然様なら
しくじった、としか言い様がない。
敵のオーガの牙に、特殊な毒があったらしい。
精霊は、後二十四時間で眠るように死ぬという。
医者は匙を投げた。A.R.O.A.職員は冷徹かつ事務的に、次に適合する精霊を探しておくと神人に告げた。
なんともひどすぎる発言に、神人は食って掛かったが、職員の目に感情はなかった。世界の敵と命のやりとりをしている機関だ。A.R.O.A.職員というのは、いちいちと感情を乗せていたら潰れてしまう仕事なのだろう。
彼と喧嘩をしている暇はなかった、と神人は早々に落ち着いた。
ウィンクルムに残された時間は少ない。精霊が毒などなかったかのように元気なのが救いだ。
……あと二十四時間で死んでしまうなんて、嘘のように。
「あと一日、どうしようか」
そもそも、死ぬところまで彼に見せていいのだろうか。と精霊は思う。これからも生きていかなければならない神人に、死を目の当たりにさせるのは酷ではないか。だから、早々に別れを告げて、まるで猫のように誰も知らないところで死ぬほうがいいのかもしれない。
だが、最後までいっしょにいたい気持ちもある。
――さようなら、と言わなくてはいけないのに。
「……悪い夢だったらいいのに」
神人が呟く。
これは本当にフィヨルネイジャの悪い夢なのだけれど、二人は知らない。


・趣旨:二人の最後の一日を過ごす
・内容
精霊は別れを告げて一人で過ごしてもいいです
肉体的に苦痛はないため、激しいスポーツなどをしても構いません
既にA.R.O.A.としてはウィンクルムとして扱われていないので依頼を受けることは出来ません
精霊の死後、すぐに神人が次の精霊と契約できるように準備は整っています
・注意
フィヨルネイジャで見ている夢オチですが、PCに夢である自覚は一切ありません
現実に精霊は死ぬのだ、と神人も精霊も認識しています。
精霊が死んだ直後、夢が覚めます。
フィヨルネイジャへの交通費として一組600ジェール頂戴します。
お世話になっております。あき缶です。
贄の精霊版です。
以前出した『さよなら、を言わせないで』に似ていますが、確実に精霊が死んでしまうので、状況はひどくなっていますね。
本当の意味での最後の一日、大事にお過ごしください。


◆アクション・プラン
叶(桐華)
|
桐華の服を掴んでしがみついてだんまりのまま 離したらどっかに行っちゃいそうで、ずっとぴったり 24時間経つ頃、急に抱えられて ちょっとどこ行くの…って、僕の部屋… ねぇ、ちょっと桐華、桐華! やめてよ、冗談でしょ。出して。出してよ! さいご…さいご、くらい、一緒に… おねがい、やめて やめて、桐華 聞きたくない。聞きたくない! 約束、しただろ… 俺の前から勝手に居なくなったら許さないって、言っただろ! 喚く度に返ってくる静かな声が、段々短く小さくなってく …何とか言ってよ… 桐華?ねぇ、ねぇ! …いっそ、ころしてよ 君の手で、俺も終わらせてよ 置いて、逝くくらいなら 置いて逝かれるくらいなら あなたの手で、終わらせてよ! ねぇ、―― |
|
(イルドの膝を枕に寝そべり反対側に顔を向け口数少なく) 残った時間は少ないからもっと色々話をしたいのに 口を開けば傷つける事を言ってしまいそうで。 俺のせいで…俺が毒を受ければよかったのに… 俺を置いて行ってしまうの…俺も連れて行って… 無理だって、悲しませるだけだって分かってる 演技もフェイクも得意なはずなのに 壊れたように溢れる涙を止められない せめて見えないように 「…新しい精霊なんていらないわ」 イルドじゃなきゃ… 腕をとり、巻かれた包帯の上からそっと口付ける 毒を吸い出せたらいいのに… (自分の袖で乱暴に涙を拭き無理やり止めて 最後まで寄り添っている) 今までありがとう、お疲れ様 いつか俺が逝く時は迎えに来てね… |
|
やっぱ、オーガ嫌いだ。 (眼帯の上から、左目を掴むように爪を立てる 最後。最後か。 いつも通りの方が心配かけなくていいのかな。 心配? 誰に。 ……『いつも』通りってなんだっけ。(視線を揺らす 明日から視界に入ることも、登下校送迎してくるヤツもいないのに。 また慣れた『いつも』が変わるのか。(視線が下がる いいや、帰ろう。「クロちゃんち泊まる」 寝れる訳無いだろ。 起きたら、もう動かないかも知れないのに。 「クロちゃんこそ、寝なくていいの?」最後の睡眠なのにさ。 あっそう。 「俺が死んだら殴りに行くから、待ってなよ」 それまで寝てればいい。だから、「おやすみ」 覚醒後: クラウディオの腕を取り、傷を確認。 「夢か……」(息を吐く |
|
千亞さん。 私を殺してください…!(明るく満面の笑み) 冗談じゃないです(真顔) 千亞さんの居ない世界なんて要りません。 さぁ…! (短刀を持ち、渡そうとするも平手打ちされ) 千亞さん… すみません、取り乱しました ケーキ、ですか? 構いませんが…一緒に行きましょう 千亞さんと一秒たりとも離れたくありません…! …わかりました。 ずっと家に居てください、ね (ケーキを買いに。千亞が死んだら後を追う気) 普段通りにケーキを食べる千亞 気が狂いそうになるのを必死に抑える ●最期 千亞さん…私を、置いて行かないでください… (涙が頬伝い 千亞の言葉に泣きながら笑み) ふ、ふふ… 千亞さん愛しています…!(抱きしめ) 日記を見 声を上げ、号泣 |
|
「帰るぞ」 イェルと帰宅 出て行く(そこらで野垂れ死にとか普通に迷惑)以外は好きにしろ 睡眠薬…好きなようにしろ 手を握ってて欲しい? 分かった もう寝ろ、怖いことは何もない…てめぇはよくやった(娘にしていたように額へキス) イェルが逝くのを見届ける (時計を見、逝く時間付近になったら) 「たったひとつの願いよ」 (頬にキス) 「何で…皆俺を置いて逝くんだかな」 (優しく抱き起こし、頭を撫でる) 「てめぇの女にも、俺の嫁と娘にも謝っておいてくれ」 てめぇを苦しませて逝かせる 1年前(妻子が事件で殺されたのは去年の6月)みてぇに俺は何も出来なかった 「おやすみ、イェル。いい夢見ろよ」 (唇に触れるだけのキス、一粒だけ涙が落ちる) |
●一滴をなんと呼ぶ
精霊の二十四時間後の死を宣告した者達に、カイン・モーントズィッヒェルは背を向けた。
「帰るぞ」
と呆然としている精霊に声をかけると、はっとしたように頷いて後をついてきた。
二人共に住んでいる家に戻ってきて、イェルク・グリューンは途方に暮れたような顔でカインを見やった。
カインはその緑の視線を受け、ぶっきらぼうに言い放った。
「出て行く以外は好きにしろ」
出て行ったところでイェルクに行く宛などないのだ。どこかで行き倒れになるのは、人様に迷惑だろう、とカインはイェルクに非難めいた視線を返した。
「……そう、ですね」
イェルクは素直に頷いた。カインの意見はごもっともだと思ったのだ。それに……この場所が終の場所になることにも異論はない。
――私は死ぬ。
イェルクは誰にも聞こえない音量で呟いてみるけれど、まったくもって実感が無い。いざ死ぬとなれば取り乱したり、悲しくなったり、自暴自棄になったりするのが一般的だろうに。心はどこまでも平坦だった。
目の前に居る神人がいつも通りすぎるからだろうか。
(悲しんでくれないんですね)
それを認めたイェルクの心に冷たい風が吹き抜ける、そんな気がした。
「でも、死んでしまうんですよね」
さあ、どんなふうに死のう。
イェルクは考える。考えるだけで時間が過ぎていくけれど、不思議に焦りはなかった。
日が傾く頃、イェルクはカインの傍らに戻ってきた。
机につき、新聞を読んでいるカインの横に立ち、穏やかにイェルクは切り出す。
「考えたのですけれど」
「何だ」
カインが新聞から顔をあげ、イェルクの顔を見上げた。
「……苦しむかもしれませんから、眠っている間に逝こうと思うんです」
とイェルクは睡眠薬の瓶を取り出してみせた。振ると錠剤がガラスにぶつかってジャラジャラと音を立てる。
「…………好きなようにしろ」
カインはやはりぶっきらぼうに答えた。まるで、何故俺にわざわざ言うと言わんばかりに。
案の定の反応に、イェルクは苦笑するも続けた。
「眠るまで、手を握っていて貰えませんか?」
一つだけ、我侭です。とイェルクは笑みを深めた。
カインは眉根を寄せるも、すんなりと頷き、椅子から立つ。
「分かった」
薬を飲み下してから寝台に横たわり、布団に潜ったイェルクは、枕元に椅子を据えるカインを認めて満足そうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
「もう寝ろ」
愛想のない声が飛ぶので、イェルクは頷いて目を閉じる。もちろん左手を布団から出して、カインに差し出しながら。
その白い手を取り、しっかりと握りしめ、カインは言った。
「怖いことは何もない」
まるで幼子を寝かしつけるような声音に、イェルクはふと力を抜いた。
「離さないでくださいね……」
念を押す精霊の声がとろけていて、薬が効いてきたことがわかった。
「……てめぇはよくやった」
おやすみのキスは額に。これはカインが今はもう亡き娘にしてやっていた慣習だった。
すうと安らかな寝息が聞こえてくる。永遠の眠りへの第一歩。
――遠くで、カインさんの声が聞こえる。
優しくて悲しい声が。
なにか温かいものが私に触れているのだけれど、その感覚さえもう遠い。
全てが億劫で、遥か彼方にある。
このまま意識は消えていくのだろう。
頬に何か落ちた気がする。カインさんの涙……?
まさか。あの人が泣くだなんて? 彼は人前で悔恨するところなど、絶対に見せない人ですよ。
でも――カインさんの涙なら、嬉しい……です……ね……。
優しく抱き起こしたイェルクの体は既にぐったりとしていて虫の息だった。
「なんで……皆俺を置いて逝くんだかな」
つやつやした黒髪を撫で、カインは呟く。
「てめぇの女にも、俺の嫁と娘にも謝っておいてくれ」
また何も出来ないまま、同じ場所に送ってしまうのだから。
「おやすみ、イェル。いい夢見ろよ」
もう息をしない唇に、カインは己の唇で触れる。したたった熱い一滴を何と呼ぶ。
●君の腕の中で絶える
自宅の近くを回った。
一緒に買物に行った市場。見慣れない食材を買って、あれこれ調べながら手探りで料理した。
一緒に食事をした酒場。店主が薦めた酒が存外に美味くて調子に乗って飲み過ぎて、ちょっとだけ二人で後悔した。
いろいろな思い出がすべての場所にあって、それを二人で話しながら歩いて。
賑やかな道中だったはずだ。
なのにようやくイルドの部屋に帰ってきて、イルドの膝枕でソファに寝転がるなり、スウィンはスイッチが切れたように黙りこんでしまった。
いつもと違う神人の様子に、イルドは困惑してしまった。
「なぁ」
無言。
「おい」
無言。
「おっさんったら」
やはり無言。
はぁ、とため息を吐くと、ビクと肩を揺らすから聞こえていることは聞こえているのだろう。
「スウィン」
またびくとスウィンの体が揺れる。
どんどん自分の膝が濡れていくので、背を向けているスウィンが泣いていることは分かっている。
しかたがないことだと、イルドはどこか諦めていた。
なんたって、もうすぐイルドは死ぬのだから。
(いつか克服して、とっとと笑顔になれよ)
さすがに今は無理だろう、と慮り、イルドはスウィンの頭をぎこちなく撫でた。
いつだって年上らしく自分を翻弄した彼が、今はまるで迷子のように頼りない。
(駄目だわ、何を言っても傷つけてしまいそう……)
スウィンはその慰撫を受けながら、いたたまれない気持ちでいっぱいだった。
『俺が毒を受ければよかったのに……』
『俺を置いていってしまうの……?』
『俺も連れて行って……!』
浮かんだどの台詞もイルドと喧嘩になってしまうだろうことが予想出来て、口にできない。
残り少ない二人の時間を喧嘩で埋めたくないのだ。
(笑顔で楽しくお話して、送ってあげたいのに!!)
だが、無理だ。今は演技もフェイクも使えない。涙を止める術がスウィンには無い。
せめて、泣いているところは見せまいと、スウィンはイルドの膝に顔を埋めた。
「新しい精霊、いいやつだといいな」
会話に困ったイルドが切りだすと、スウィンは跳ね起きる。
「新しい精霊なんて……!」
叫びかけたスウィンは、ぐうっと眉根を寄せて目を伏せた。そしてボソボソと言う。
「……新しい精霊なんて、いらないわ。…………イルドじゃなきゃ」
イルドの腕を恭しくとって、巻かれた包帯を解く。痛々しい傷跡を見下ろし、スウィンは昏い目で呟いた。
「毒を吸い出せたらいいのに……」
医者も匙を投げた毒に、素人のスウィンは何も出来ないことは分かっているけれど。
イルドはそんなスウィンを見て、瞠目した。
どうかこんないい人を、次の精霊も大事にして欲しい。面と向かって頼めないことが歯がゆい。いや、こんな健気な男を自分が最後まで守れないことが歯がゆい。
イルドはスウィンの腕を引き、抱きしめた。
「イルド……」
スウィンは自分の肩口に顔を埋めて動かない精霊を認め、なにか悟ったように、顔を乱暴に拭ってから微笑んだ。
「今までありがとう、お疲れ様」
ぎゅうと抱きしめて、スウィンは願う。
――いつか俺が逝く時は迎えに来てね……。
それまでは安らかに、さようなら。
●ジェリコの壁
鉛のような空気のなか、しっかと桐華の衣服の裾を握りしめて、叶は黙りこんでいる。
これではどこにもいけない。それが叶の願いなのだろうけれど、桐華はため息を吐いた。
どうしようもないのだ。
桐華が死ぬという事実は、こんなところで黙りこんでいても変わらない。何をしても変わりはしない。
(……もうあと数十分か)
時計を見上げ、桐華は最期の二十四時間が『何もせず』終わってしまいそうなことに気づく。
かと言って、何かすることもないのだけれど。
だがこのまま、裾をつかまれたまま、ばったりと死ぬなんて結末で良いものか。
桐華は唐突に叶を抱き上げた。
「!?」
急に動いた精霊に、叶はうろたえる。
「ちょっとどこ行くの……?!」
桐華が駆ける先がようやく思い当たり、叶は悲鳴をあげた
乱暴にドアを開けられ、放り込まれて、そのままドアを閉められた。
「あ……」
呆然と後ろを振り向けば窓からの街灯の光でぼんやりと調度が浮かび上がっていた。床には散乱した絵本や積み木に折り紙、部屋の隅にテディベアと木馬とおもちゃのピアノ、窓辺には恋占いをした後の無残な鉢植え。
ここは叶が誰の侵入も許さぬ一人遊びの部屋だった。
はっとして叶はドアに向き直り、開けようと試みるがびくともしない。どうやら何かドアの前に置かれたらしい。
「ちょっと、冗談でしょ! 桐華! 桐華!!」
ドンドンと扉を叩いて、叶は叫ぶ。
「ねぇ、ちょっと! やめてよ、冗談やめてったら!」
返事はない。だけれど、気配はあった。
「出して、出してよっ!!」
必死に、そう……珍しく叶が『必死に』訴えたのに、桐華は応えてくれない。
ずるずると扉に取りすがってずり落ち、膝で立って叶は詰まる声を絞り出す。
「さいご……さいご、くらい、一緒に……」
叩かれて、引っかかれて、揺れる扉の振動を背で感じながら、桐華はうなだれた。
結局この中がどうなっているのか知らないままだ。
「いつだって踏み込めなかったな」
彼の中にも。
「踏み込めないまま、終わりか……」
ずっと追いかけてきたというのに、あっけない終わりだ。
桐華は乾いた笑いを漏らして、後頭部を扉にぶつけた。天井が霞んできた。――そろそろ、らしい。
「なぁ、叶」
声をかけると、扉の向こうが急に静まり返る。
「お前はちゃんと」
「おねがい、やめて。やめて、桐華」
扉の向こうから切羽詰まったような制止が飛ぶが、桐華は構わない。
「お前はちゃんと生きろよ」
聞きたくない、と喚く声など気にせず、桐華は言いたいことを言う。最後の最後だ、合わせてやる必要なんてまるで無い。
「神人なんだから、ちゃんと、護って貰えよ」
「きりかっ!!」
絶叫。
「約束、しただろ……」
泣きそうな声が桐華を詰る。
「俺の前から勝手に居なくなったら許さないって、言っただろっ!」
「約束、守れなくてごめん」
桐華の声がどんどん小さくなって、ぼやけていくことに気づいた叶の背筋が凍る。
「許してくれなくて、良いけど……新しい精霊とは、せめて仲良くやれよ」
桐華の言葉に返事もできず、叶がぐすと鼻を鳴らす音を聞いて、桐華はふと息だけで笑った。
「……お前でも、泣くのな」
叶になにか言ってやりたかった。優しい言葉をかけて終わりたかったのに、ああもう桐華の思考はまとまらない。
細く細くなっていって、ふつりと切れそうな玉の緒。
「なんとか言ってよ、桐華? 桐華? ねえ、ねえ!」
叶の声にも、もう口が重たくて返事ができない。
「……いっそ、ころしてよ」
叶は床にうずくまって、呟く。
「君の手で、俺も終わらせてよ。置いて、逝くくらいなら」
置いて逝かれるくらいなら。
「あなたの手で、終わらせてよ! ねぇ、 !!」
桐華は意識の途絶える瞬間、叶の絶叫を聞いた。
知っている名前な気がした。
――どこか、寂しかった。ただひたすらに、寂しかった。
俺とお前の間の崩れない壁は最後まで……?
●足元からイツモが崩れる
がりがりと眼帯をひっ掻く。偽物の左目をつかむように。
「やっぱ、オーガ嫌いだ」
柳 大樹は吐き捨てる。
まさか不治の毒でパートナーが死ぬことが確定することになるとは。
左目だけでなくオーガは大樹から色んな物を奪っていく。
また無意識に眼帯を掻こうとして、大樹ははっしとその腕を掴まれた。
「傷がつく」
端的に述べ、首を横に振る男こそ、『今日中に死ぬ』クラウディオだ。
「……ん」
素直に腕を下ろす大樹にうなずき、クラウディオは思う。
この癖を治すようにもっと早期に言っておくべきだったろうか。自傷につながりかねない。
クラウディオは、大樹を観察した。彼を観察するのは、クラウディオにとって普段通りの行動だ。なぜなら大樹はクラウディオの神人であり、護衛対象なのだから、常に状況を把握しておくことは、クラウディオの任務である。
(……動揺している)
表情だけはいつも通りの平静さをたたえた無表情だが、眼帯を何度も引っ掻こうとしているあたり、かなり精神的に安定していない状況にある。
「常に覚悟はしていた」
クラウディオは大樹を安定させようと試みる。おそらく不安材料は自分の死だろうから、自分は気にしていないと伝えればいいだろうか。
「精霊は他にもいる。希少な神人より余程多い。私に拘る必要は無い」
「……」
大樹はぼうっとクラウディオを見て、困ったように首を傾げるだけだった。
確かに、クラウディオの死は揺るがない確定事項だから、こんな程度の言葉では安定まで持って行くことは出来ないのだろう。
大樹は、ぼうっとしたまま思考を巡らせる。
――最後。か。
いつも通りに振る舞うべきだと、大樹は考える。いつも通りならば、心配させることもないだろうから。
そこまで考えてハタと気づく。誰に心配されるというのだろう。
また無意識に眼帯に手が伸びたらしく、クラウディオに阻止される。
「……『いつも』通りってなんだっけ」
クラウディオから顔ごと視線をそらし、大樹は呟いた。
明日からは、もうこの顔の半分以上を隠したマキナに登下校時につきまとわれることはないのだ。
せいせいする……わけでもなくて、なんだか大樹は気持ちの持っていきように迷って混乱する。目が揺らぐ。
うっとおしいと思っていたのに、いつのまにか『いつも』になってしまった。
慣れた『いつも』を変えたくないのだろうか。しかしそれだけではない気がして、大樹は地面を睨みつけた。
うまく思考がまとまらなくてイライラする。
この状況をどういう気持でいればいいのか分からなくてイライラする。
また眼帯を掻こうとして、クラウディオに止められてイライラする。
「いいや。帰ろう」
大樹は考えることを諦めた。
「クロちゃん家泊まる」
ここでハイサヨウナラと言うわけにはいかないことだけ、分かっていた。
相変わらず生活感のない、というよりも殺風景すぎるクラウディオの家。
一つきりの寝台を指さし、クラウディオは言う。
「大樹、使うと良い」
大樹は眉をひそめた。
「寝れるわけ無いだろ」
寝て起きたら、隣に死体は勘弁して欲しい。何のために泊まりに来たのかわからなくなる。
「クロちゃんこそ、寝なくていいの」
大樹の胡乱な視線に、クラウディオは怪訝そうに首を傾げた。
「必要ないだろう」
死ぬのだから、睡眠をとって体調を整える必要がない。死んだら何もなくなるのだから、健康も何も無い。
「大樹こそ、これからも生きるのだから睡眠をとるべきだ。睡眠不足は体調に良くない」
「あっそう。でも今日は寝ないよ、俺」
大樹は、クラウディオの効率ばかり考える思考に呆れたように目を眇めると、首を横に振った。
まんじりともせず向かい合って座っていたが、だんだんクラウディオの瞼が重たくなってきた。
「俺が死んだら殴りに行くから、待ってなよ」
「死の先には何もないと思うが」
と戸惑ったようにクラウディオは大樹を見つめるも、彼の視線が存外真剣で、クラウディオは一つ頷いた。
「大樹が言うのならば、待つ程度は出来るのやも知れん」
「それまで寝てなよ」
「ああ、そうしよう」
小さく、不明瞭な返事だけれど、きちんと聞き取れた大樹は、声音を少し柔らかくして最後の挨拶をした。
「おやすみ」
ふっとクラウディオは口布に隠された唇を笑みの形に曲げた。
大樹の金色の瞳に己を映しながら死んでいく。
――私には上等な部類だな。
墜ちていく意識に抗うことなく、クラウディオは斃れた。
●狂気の淵でアイを叫ぶ
パァンッ、と乾いた音が部屋に響いた。
「そんなこと出来るワケないだろっ」
眉を吊り上げ、千亞は明智珠樹に叫んだ。
頬を押さえ、珠樹はへらりと笑った。
「……千亞さん……。すみません、取り乱しました」
ダランと垂れ下がった珠樹の手には短刀が握られたままだ。
千亞のいない世界になど存在する意味が無いのだと、満面の笑みをたたえた珠樹が千亞に『殺してくれ』と懇願したところ、この顛末である。
「冗談やめろよな」
と千亞はプイと顔を背けた。それに珠樹が真顔で、
「冗談じゃないです」
と言ったのは見えなかったし聞こえなかったことにしておく。
千亞が首を珠樹の方向に戻したところ、既に珠樹はいつも通りのへらへらした笑みを浮かべた表情に戻っていた。
「最期の瞬間は、お前の側にいたいんだ。頼む」
と千亞は言う。
「ふ、ふふ、嬉しいですね。わかりました」
全くいつも通りの返事を珠樹は『機械的に』返した。
違和感には気づいていたが、千亞は気づかないふりをし、珠樹に背をむけると、うーんと伸びをする。
「二十四時間かー。そうだな……」
ふと思い出したように、千亞は珠樹に向き直った。
「ねぇ、珠樹。お願いがあるんだけど」
「なんでしょう。愛する千亞さんのためなら何なりと!」
にこにこと笑う珠樹は、
「駅前のお店のケーキ買ってきて。チョコの」
にっと笑って告げる千亞の頼み事に、
「ケーキ、ですか?」
表情を不安げに揺らした。
「構いませんが……一緒に行きましょう?」
微かに震えた声で、珠樹は言う。
「千亞さんと一秒たりとも離れたくありません……」
珠樹は、捨てられた犬のような目で千亞を見つめる。
千亞は苦笑し、首を横に振った。
「……家族に、手紙書きたいんだ。ごめん」
絶望に目を染める珠樹に、千亞は苦笑し宥めるように優しく言う。
「大丈夫、どこにも行かないよ」
「…………わかり、ました」
珠樹は色々を飲み込んだらしい。珠樹は大人だ。千亞にも大事な家族がいて、死ぬとなれば告げたいこともあるだろうと理解はしている。
財布を握りしめ玄関に向かおうとした珠樹は、振り返って千亞に哀願した。
「ずっと家にいて下さい、ね」
「うん、約束するよ」
気をつけてね、と手を振って珠樹を送り出した千亞は、思いつめたような表情になって、深く一回頷いた。
「……よし」
「うん、やっぱここのチョコケーキは最高だな」
笑顔でケーキを頬張る千亞の顔は少しこわばっている。精一杯いつも通りを演じている彼を見て、珠樹は気が狂いそうだった。
(ああ、明日にはもう千亞さんが居ないなんて……!)
やはり自分には耐えられない。千亞が果てたら自分も同じ場所に逝こう、と珠樹は心に決めることで、自分の精神をかろうじて正常のラインに保っていた。
「ごちそうさま……っ」
食べ終わった千亞の手からフォークが滑り落ちる。
「千亞さん……っ!」
駆け寄る珠樹に、千亞は情けなく笑った。
「やばい、ごめん、もう、だめっぽい……」
「千亞さん……私を、置いて行かないでください!」
頬をびっしょり濡らして珠樹は、千亞の肩を抱いて叫ぶ。
「……泣くな、よ」
千亞は笑って、震える手で珠樹の頬を拭った。
「おまえ、そんなキャラじゃない、だろ……?」
そう言う千亞も泣いている。
「珠樹……いつものように、笑って……」
震えて上手く動かない表情筋を必死に取り繕って、珠樹は笑った。精一杯、『いつものように』笑ってみせた。
ほっとしたように千亞は頷く。
「日記、書いたから……後で、見ろよ?」
「はい、はい……っ」
こくこくと頷く珠樹を、千亞は焦点が合わぬ瞳で見つめた。
「珠、樹……あ、いし……て」
かくりと千亞の首から力が抜けた。
ずっと珠樹の涙を拭っていた腕も、今はだらりと垂れて動かない。
「ふ、ふふ……千亞さん愛しています……! 愛しています……!!」
ぎゅうと千亞の躯を抱きしめ、珠樹は心から叫んだ。
それから何時間たっただろうか。ずっと千亞だった体を抱きしめていた珠樹は、そっと千亞を床に横たえると、ふらりと幽鬼のように立ち上がった。
ふらふらと机の上に置いてある千亞と珠樹の交換日記に近寄り、ページを捲る。
最終ページに書かれた文字は、ところどころ濡れてふやけてインキが滲んでいた。
それを読んだ珠樹は、その場に崩れ落ちると天を仰いだ。
「千、亞、さん……ふ、ふふ、ふふふ……。う」
魂ごと吐き出すような慟哭が、珠樹の喉からほとばしる。
『僕はいつも、珠樹の側にいる。だからお前は死ぬな。僕の命令だ』
| 名前:柳 大樹 呼び名:大樹 |
名前:クラウディオ 呼び名:クラウ、クロちゃん |
| 名前:明智珠樹 呼び名:珠樹、ド変態 |
名前:千亞 呼び名:千亞さん |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 普通 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 07月23日 |
| 出発日 | 07月29日 00:00 |
| 予定納品日 | 08月08日 |

2015/07/28-23:53
2015/07/26-16:03
スウィンとイルドよ、よろしくね。
皆はどう過ごすのかしら…。悔いのないように、ね。
2015/07/26-12:01
やっほやっほー。今日も元気で愉快な桐華さんと楽しく遊びに出かけてる叶だよー。
相も変わらず賑やかな面子とご一緒で、楽しさ増し増しだね。
まぁ。
そんな事言ってる場合じゃないのは重々承知なんだけどね
凄いねぇ、フィヨルネイジャって所は
ともあれともあれ、宜しくねぇ?
2015/07/26-11:13
>珠樹
お、おう、よろしく。
(スイーツは踊り食い出来るのか、いや、そもそも、男体盛り? 蹴られているからないだろうがと葛藤の末)
い、活きのいいスイーツが食えるといいな、残さず食えよ。
その、何だ、世の中、色々あらぁな。
(千亞を見ないようにして)
2015/07/26-09:45
はーい、柳大樹でーす。
皆さんよろしく。(右手をひらっと振る
フィヨルネイジャは初めてだけど。
聞きしに勝るってヤツ? なんか違うか。
2015/07/26-00:51
現実逃避に女体化スタンプを押そうかと思いましたが
珍しく良心が勝ちました、明智珠樹です。
隣のツンデレ兎っ子は千亞さんです。今日もピンピンしてます、ふふ。
カインさんご両人は七色食堂ぶりですね、よろしくお願いいたします…!ふふ!
叶さんご両人とスウィンさんご両人はオクトパスマッサージぶり、
大樹さんご両人は春のTFCぶりでしょうか……!
皆様、何卒よろしくお願いいたします、ふふ。
気晴らしは千亞さんとスイーツ踊り食い予定です。
私の身体でスイーツ男体盛りを提案したいと思いま(蹴られ)
2015/07/26-00:43
2015/07/26-00:26
…カインだ。
パートナーは、イェルク・グリューン。
……チッ、相変わらず悪趣味な。
お互い接触はねぇと思うが、悔いなく過ごしてぇものだな。
後で、気晴らしでも行くかな。
(猫カフェの営業時間確認しつつ)
ま、適当によろしく。

