《贄》勿忘草(真名木風由 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 たったひとつの我侭。
 聞き届けられる時など、来なければいいのに。

 『あなた』は、月を見上げて溜め息をついた。
 円を描く月は美しく、けれど無常だ。
 この月が頭上で輝く時、自分はパートナーと結婚する。
 それが、普通の結婚であればどんなに良かったことだろう。
 同性であっても、パートナーを愛する心に偽りはない。
 共に歩む幸せに胸を震わせるだろう。
 だが、この心には今、絶望しかない。

 どうしてこんなことになったのだろう。

 『あなた』は、今までを思い浮かべる。
 任務で向かった村は、ギルティの支配が長く続いたことで恐怖から善悪の判断を失っていた。
 騙まし討ちに遭ったウィンクルム達は囚われ、隔離されるように幽閉される。
 そして、聞かされたのだ。
 満月の夜、パートナーと結婚式を挙げさせる、と。
 ただし、永遠の愛を誓い合った瞬間、ギルティへの捧げ物とする、と。
 ギルティは、一部始終それを観賞するらしい。
 永遠の愛を誓い合った瞬間に振り下ろされる刃が、純白の結婚衣裳を血に染める。
 それが、この上もなく美しく見えるのだとか。
 悪趣味な、と口の中で呟くも、村の中にギルティの力が十分に及んでいるせいか、トランスすることも叶わない。
 自分達が歯向かえば、村人達は間違いなく殺される。
 その村人達も善悪を見失い、自分達を殺そうとしているのだ。
 もう、どうすればいいのか分からない。
「時間です」
 投げかけられた言葉に、緩慢な動作で応じる『あなた』。
 身に纏う純白の結婚衣裳は、残酷なまでに美しかった。

 フィヨルネイジャが見せる酷薄な夢は、『あなた』の白をどう染めるだろうか。

解説

●状況
・任務で赴いた村で、ギルティに支配された村人達に捕らえられた。
・ギルティへの捧げ物として、結婚式を挙げ、直後に処刑される。

眉目秀麗なギルティが望むまま、結婚式を挙げさせ、直後に処刑されます。
ギルティの特殊な力により、トランス出来ない状況、且つ、武器になるようなものは所持していません。

●衣装
・純白の結婚衣裳

タキシード・ロングタキシード・フロックコートの三択ですが、ウエディングドレスを着たいなら止めません。

●結婚式の流れ
・ギルティの前まで連行される。
・神父の前で愛を誓う。
・誓いのキスの後、背後に控えている村人達が槍で死ぬまで貫く。

共に逝くまでの心情を中心に描写しますので、死ぬ瞬間の具体的な描写はありません。
最期の邂逅となりますので、心置きなく言葉を交わしてください。

●消費ジェール
・200jr

あまりの悪夢にブチ切れてカラオケ(オールナイト)へ行く為。

●注意・補足事項
・他のウィンクルムの絡みは行いません。
・夢を見終わった後の描写は原則行いません。
・このギルティは、村のことなら何でも分かるようです。
・村人達は、本来武器も持たない一般人です。

ゲームマスターより

こんにちは、真名木風由です。
こーやGM主催の連動エピソード、《贄》より勿忘草にてお届けさせていただきます。
「ウィンクルムにしか視認できない天空島」であるフィヨルネイジャは、「現実ではありえない不思議な現象」の白昼夢を見せることもあり、これもウィンクルム達が見た白昼夢。
現実の肉体には影響がないので、ご安心ください。

絶望に彩られていますが、どのような選択をするかは皆様次第。
悔いのないようにご選択ください。

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  ロングタキシード着用

相手の結婚衣装姿に溜息
恰好いいなぁって、見惚れてたみたい
やっと素直な想いを伝えられるのに…あまりに時間が無さすぎる

隣に並んでバージンロードを歩く
今は一言でも二言でも、何でもいいから話をしていよう
覚悟を決めた体で二人過ごした思い出を語り合い
最後に目に焼き付けるものは、彼の微笑む顔がいい

俺は村人の皆に人殺しなんてしてほしくない
支配者に囚われ、誰かの命を奪う事で生き残れるのなら
きっと、俺でも同じ事をするだろう

口付けの瞬間、彼の腕から逃れようと試みる
村人から武器を奪って自らの胸を貫こう
俺の命で誰かの役に立てるなら、と

見つめ合った瞳に背筋が震える
彼の名を呼ぶ俺の声は、聞こえただろうか



信城いつき(レーゲン)
  ※Lタキシード(二人共)

レーゲンきっと自分が残って、俺を逃がすつもりだね
ダメ。一緒だよずっと
姿を見つけたらギュッとしがみついて離れない
(そして小声で打合せ)

☆でも一つだけ
「村の人達」に殺されるのだけは嫌だ
教団員とかじゃない、普通の人達なんだよ
慣れない人殺ししたら…助かってもきっと自分を責めるよ

ごめんね今は助けられないけど、必ず他のウィンクルムが助けに来るからもう少し待ってて
俺達の死に際は忘れていいから
お願い、希望だけは捨てないで(村人達に笑いかける)

よし、じゃあ行こうか
最後のキスの代わりにレーゲンの左手を強く握り笑いかける

キスしなくても、誓いはもう交わしてるよ
『俺もレーゲンの味方だよ、ずっと』



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  ロングタキシード

フィンをフィンだけは助けたい
なのに、俺はまた何も出来ないのか
こんな…悪趣味な見世物になって、殺されるなんて

俺が死んでフィンを助けられるなら、喜んでこの身を差し出すのに…!

本当の結婚式だったら…一生掛けてフィンを幸せにすると、そう誓える…誓いたい、のに

泣くものか
俺は村人やギルティの為に、誓うんじゃない

この身が朽ちても、この俺の想い、意思だけは誰にも曲げさせやしない

微笑め
決して絶望に染まるな
それが俺の最後の抵抗
そして、フィンへ心からの想いを届けたい

馬子にも衣装だな
微笑んで、囁く

俺の想い…全部フィンに渡す
だから、フィンも俺だけを見てくれ
誰かに強制されたからじゃない
フィンを…愛してる


瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  壁一点を見つめながら、心で叫ぶ。
一瞬でいい。
月が映るあの窓を叩き割って、珊瑚と抜け出したい、と。

黒のタキシードを羽織り、胸に白いハマナスを挿す。
珊瑚の姿を目で追い、口を開いた彼の苦しみを静かに聞いた。
答えない代わりに、どうしたらその気持ちを拭えるのかを問う。

徐に立ち上がり、珊瑚に顔を近づける。
今なら、この部屋二人きり何をしようと、
世間に何を言われようと、隠し撮りされようと構わない。
だから。

「惨劇で塗り替えられる前に……愛で……塗り尽くす!」
躊躇いを捨て、珊瑚の『して欲しい事』をした。

それからというもの、
死を告げる時が来るまで、相方の体を離さなかった。
このまま時が止まればいいのに、と思いながら。




明智珠樹(千亞)
  私と出会わなければ、千亞さんはこんな目に合わなかった
私が居なければ、千亞さんはもっと幸せな人生を送れていた
私が…
…俺は、また…大事なものを…失うのか…
(ほんの少し思い出す、記憶)

服装:フロックコート

●対面
(震える千亞にいつもの調子で)
「千亞さんなんでドレスじゃないんですかっ!?
私の最期の願いです、着替えてきてくださいっ」
小声で
(着替えるフリして千亞さんだけでも逃げてください…!)
嫌、という千亞に

「千亞さん…」
切なさと、共に逝ける歓びを帯びた複雑な表情

●愛
「千亞さん…ごめんなさい。
 ですが、貴方に出会えて私は幸せでした。
 愛しています」

微笑み、初めて千亞の唇に口付けを。
しょっぱいのは己の涙



●重なる夢、消えゆく夢
 全て夢ならいいのに。
 瑪瑙 瑠璃は、ぼんやりと月を見上げた。
 ここに、瑪瑙 珊瑚の姿はない。
 捕らえられ、隔離されるように幽閉されている。
 2人きりであれば、まだ希望を持てただろう。
 だが、隔離の幽閉は希望を持つことすら許さなかった。
 幽閉されている空間は、逃げ出せる程甘くはない。
 試みようとしたが、トランスも出来ない状態だからか、強化された窓ガラスは椅子を叩きつけても壊れなかった。
 ギルティの前で永遠の愛を誓い合う……そう、聞かされたが、珊瑚と出会う時は、永遠の愛と別れの時。
 今身に纏う純白のタキシードは、その色を変えるらしい。
 ……純白。
 瑠璃は、改めて鏡に映る自身を見る。
 この姿は、思い描いていた理想じゃない。
(もし、許されるなら───)

 身に纏うタキシードは、純白ではない。
 自身の黒のタキシードに幸せを誓うよう白のハマナス。
 珊瑚の黒のタキシードに自分達の夢を示すよう紅のデイゴ。
 世界2人きり、誰に咎められることもなく互いの望みのまま愛し合えれば───

「時間だ」

 槍を手にした村人達がやってきた。
 ここを出れば、珊瑚に会える。
 けれど、ここを出れば、珊瑚と別れる。
(珊瑚と抜け出したい……)
 逃げ場はなく、心の叫びは虚しく響くだけなのだけど。

 夜空に満月が浮かんでいる。
 月夜と篝火が広場を照らし、中央に祭壇、神父……更にその奥、玉座へ優雅に腰掛ける眉目秀麗な……ギルティ。
 祭壇まで、赤ではなく白のカーペットが伸びている。
「悪趣味」
 瑠璃はその趣旨を理解し、呟いた。
 足音が、対の方向から響いてくる。
「瑠璃……」
 珊瑚の目には、やるせないものが映っている。
 きっと、自分と同じように窓ガラスを割ろうとしただろう。
 一緒にいたら止めたかもしれないが、隔離されて幽閉されていたからか、同じが嬉しい。
 隣に並ばせられると、背中には槍が突きつけられた。
 ギルティが楽しんでいるように目を細めたのが見える。
「もし……このまま死んだらオレは……」
 隣の珊瑚が口を開き、声を絞り出す。
 苦しみを分かち合いたい瑠璃は、珊瑚を見つめた。
「オレは、何に生まれ変わってでも復讐しなきゃ気がすまねぇ……!」
 許されれば、珊瑚の肩を抱いてやりたかった。
 泣き叫びたい彼の気持ちを拭ってやりたかった。
 今、ここでそれをやれば、恐らく───
 珊瑚に最も絶望を与えるやり方で自分を殺すことは想像が出来たから、瑠璃は敢えて踏み止まった。
 ギルティを一瞥し、神父に促されるまま誓いの言葉を述べる。
「……キス……してくれよ」
 珊瑚が、ぽつりと言った。
 永遠の愛を誓う最後の行為。
「この……惨劇に……負けねぇだけの……キスを……!」
 直後、珊瑚が口を歪めた。
 気を遣おうと笑おうとしたのかもしれないし、そうではないかもしれない。
 今、ここで問うことではないのは確かだ。
「これから何があっても……離れないだけの愛を……!」
 瑠璃は驚く珊瑚へ顔を近づけ、永遠の愛の証を送った。
 直後、熱さが全身を走る。
 何が起こったのかは、理解出来る。
 珊瑚が腕を伸ばし、抱きしめてきた。
 触られるのが苦手だと、そう話してくれた珊瑚が自ら。
(泣いている……?)
 キスの味が変化したことに気づき、瑠璃も珊瑚の背を強く抱きしめた。

 遠くで誰かが哂っている……どうでもいい。
 近くで誰かが叫んでいる……どうでもいい。

 この身を走る熱ささえ、抱きしめてくれる温もりの前には意味をなさない。
 時が停まればいいのに。
 今、自分がどんな表情をしているか分からない。
 けれど───
 怒りも悲しみも。
 この生命が悲しい美しさとなろうと。
 離れ離れにならないよう、次も巡り会えるよう。
 思い描いたハマナスとデイゴに願う。
 この夢は消えたとしても、離れない。

●誓いは、既に
 純白のロングタキシード。
 こんな形で身に纏うとは思わなかった。
 レーゲンは、隣を歩く信城いつきの横顔を見る。
(いつきだけなら逃すことが出来るかもしれない。私がここに残れば……)
「ダメ」
 いつきの声が、レーゲンの思考を遮った。
 その瞳は、いつの間にかレーゲンを見つめている。
「一緒だよ、ずっと」
 気づかれていた。
 レーゲンは、いつきへ苦笑する。
 いつきの腕が伸び、レーゲンの腕へぎゅっとしがみつく。
 村人達の槍の距離が狭まるが、離れないだけで逃げようとはしないからか、祭壇に行き着くまでに貫かれることはない。
 好き勝手させようとしないのは、あのギルティがそれだけの恐怖で支配しているから。
 少しでもギルティの機嫌を損なえば、殺されると分かっているのだろう。
「俺、『村の人達』に殺されるのだけは嫌だ」
 いつきが、小さな声で呟く。
 村人達は極度の緊張で聞こえていないだろうが、ギルティには聞こえているだろう。
 そうと分かっていても、いつきはそこまで追い詰められた村人達を案じる気持ちを口にした。
「この人達は……普通の人達なんだよ。ギルティがいなかったら、普通に泣いたり笑ったりして暮らしてた。……慣れない人殺しなんかしたら……助かってもきっと自分を責めるよ……」
 レーゲンは、いつきの肩に腕を回し抱き寄せた。
 その力が強いのは、いつきの優しさに触れたからだろう。
「いつきは……優しいね」
 目を閉じて思い出すのは、『あの時』のこと。
 記憶があってもなくても……『いつき』は、『いつき』だ。
 だから、いつきの為ならばと思うことが出来る。
「……誓いの口づけの直前なら、皆油断する」
 レーゲンがいつきに囁く。
 貫く瞬間を窺っている時が、最大のチャンス。
 槍を奪い、ギルティへ立ち向かえば───村人達が手を下すまでもなくギルティが力を振るう。
 槍を奪われた村人達がどうなるかは賭けになるが、少なくとも彼らが自分達を殺すことはない。
「早く行け」
 村人達が急かすように槍の穂先で背を突いてくる。
 いつきとレーゲンは頷き合い、祭壇まで歩いた。
 祭壇の奥に、愉悦の表情を浮かべるギルティが見える。

「誓いの言葉を」

 神父の声が満月の夜に響く。
「要らないよ」
 いつきの声は、あくまで優しかった。
「言葉もキスも要らないよ。誓いはもう、交わしてる」
「強いられなくても、誓いは既にね」
 瞬間、2人は反転し、戸惑っている村人の1人から槍を奪った。
「ごめんね。今は助けられないけど……必ず、他のウィンクルムが助けに来る。だから、もう少しだけ待ってて。俺達のことは忘れていいけど、それだけは忘れないで。希望を捨てないで」
 微笑んだいつきは、躊躇うことなくレーゲンへ手を伸ばした。
 レーゲンも手を伸ばし、その手は強く強く握られる。
「じゃあ、行こうか、レーゲン」
「行こう、いつき」
 笑い合う2人へ、ギルティが嘲笑う。
「その槍で英雄にでもなるつもりか! 貴様らに味方はおらんぞ!」
「ここにいる」
 ギルティの言葉にいつきもレーゲンも互いを見つめた。
 互いが味方であること。
 それは、ずっと何も変わらない。
 例え、最期を迎えようと……最期の先まで変わらない。
「2人の英雄か、勇ましいことだな! その槍で何が出来る!」
 玉座から立ち上がるギルティが向かってくる。
 レーゲンは村人達を見、それからギルティを見た。
(いつき、苦しむ顔は私が隠す)
 倒れる中、レーゲンはいつきを抱き寄せる。
 いつきの笑顔と言葉が彼らの希望となるように。
 砕かれることなく息づくよういつきの死に顔は絶対に見せない。
 それが、今出来る精一杯。

 ありがとう、レーゲン。

 最期に、いつきの声が優しく響く。

 私の方こそ、ありがとう。
 大好きないつき───

●最期も次も───
(落ち着かんな)
 ラセルタ=ブラドッツは、自身を見た。
 最期の衣装にと選ばれたフロックコートの色は、純白。
 普段黒に拘っているからか、違和感がかなりある。
(が……)
 ラセルタは、ロングタキシード姿の羽瀬川 千代へ手を伸ばす。
「ラセルタさん……?」
「俺様の隣にいるんじゃなかったのか?」
 驚く千代へラセルタはいつも通りに笑ってやる。
 儚くて消えてしまいそうに見えたことなど……この手を伸ばして最期まで確かめたままならば関係ないこと。
「せいぜい楽しませてもらおうか」
 余興のように楽しむギルティ相手でも恐怖に縛られる村人達相手でも。
 ラセルタがラセルタを崩すことはない。
(格好いいなぁ)
 千代はラセルタに見惚れ、溜息を零す。
 夢の話と見逃されなかった時……抱きしめられたのを思い出す。
 隠そうとした想いを気づくべきだったという夢の中の言葉のまま。
 後ろ髪に口づけられたことを思い出し、千代は思わずその箇所に手を触れた。
「何をしている。俺様は、ここだ」
 その一言で、千代はラセルタが気づいていることに気づく。
(やっと素直な想いを伝えられるのに……)
 時間は、あまりにもなさ過ぎる。
 こんな形ではなく───
「そういえば、食事は取ったか」
 その思考を遮るように、ラセルタが千代へ問いかけてくる。
「食べた記憶ないね」
「だろうな。俺様もお前のおにぎりを食べた記憶がない」
「……好きなおにぎり、握るね」
「デザートは譲歩して、栗きんとんでいい」
 ラセルタが希望を出すと、千代が小さく笑みを零した。
 白いバージンロードを歩く会話は、別れと無縁の他愛ないもの。
(お人好しだな)
 零れた笑みで、ラセルタは察した。
 千代は、自ら死ぬつもりだ。
 恐怖に縛られてしまうような村人達に人殺しをしてほしくないと思っているのだろう。
 自分が同じ立場であったらと共感して。
(お前は、俺様の『物』だろう)
 誰の許しを得て、その優しさを配っているのだ。
 覚悟を決めているであろう千代は、憶えているだろうか。
 一時でも記憶を失くしたあの日、忘れたことが切ないと笑っていた時のことを。
 幸福で在って貰わねば困るとヤドリギを模したピンブローチをマフラーに留めてやった時のことを。
 差し出された両手にハンカチで包んだ花弁を掛けてやった時のことを。
 『しあわせの欠片』を渡してきた時のことを。
(俺様が欲した関係性は───)
 神父の前で愛を誓う今も、千代はずっと自分を見つめている。
 最期まで、目に焼きつけるように。
 お人好しめ、お見通しだ。
 ラセルタは誓いのキスから逃れようとした千代をきつく抱きしめる。
「……何処へ行く? お前は俺様の『物』だろう?」
 耳元で囁けば、千代の身体は大きく震えた。
 村人から槍を奪い、自らの胸を貫こうなど許す筈もない。
 お前の命は、誰の物だ。
「ラセルタさん……」
「ずっと隣にいると、誓った約束を破らせるな」
 至近で見つめれば、千代の背筋がぞくりと震えたのが分かる。
「後悔は無い。お前と、最期まで共に在れればそれで構わない」
「ラセルタさん……」
 千代の声が震えている。
 この名しか言葉を知らないように。
 この名を自分自身へ最期まで響かせるように。
 だからこそ、『千代』であり、自分だけの『物』。
 ラセルタが千代に向ける笑みが、彼にしか見せない───あらゆる全てが篭った純粋なものであることにギルティも村人達も気づくことなど出来ないだろう。
「千代と出会えたことが、俺様の今生で一番の幸福だった」
 ラセルタは、千代の強張った頬を撫でる。 
 何か言いたげな唇も呼吸さえ奪うように封じれば───
 約束を破らせないように閉じ込めるだけ。

 閉じ込めれば、『次』もこの腕に千代はいる。
 『次』も───お前は、俺様の物。

●想いこそが鋭き抵抗
 純白のロングタキシード、フロックコート。
 蒼崎 海十とフィン・ブラーシュは、祭壇に進む互いを見つめた。
(また……俺は助けられないのか)
 フィンの脳裏に過ぎるのは、滅んだ家のこと。
 何も守れなかったあの時のこと。
(こんな風に袖を通すとは思わなかった。一生袖を通さないだろうと思っていたし)
 頭の片隅で、兄が怒っている。
 兄がそのようなことを望む人ではないと分かっている。
 でも、そう思えなかった。
 逃げた自分が、何もなかったような顔をして幸せに生きるなど……してはいけないと思って生きてきた。
(俺を変えてくれたのは───)
 フィンは、一緒に幸せを探そうと約束をした海十を見た。
 静かで強い視線が、じっと見つめてくれる。
 だから、幸せになってもいいのかと思えるようになった。
(実際、俺は幸せ。今も唯一の救いは、海十と共に逝けることだと思ってる。……きっと、怒られるだろうけど、本心だ)
 その意思を伝えるように、フィンは繋いでいる手の力を強めた。
 はっとした海十が、こちらを見つめてくる。
(そうだな。俺達の想いが屈する必要はない)
 フィンだけは助けたいと思っていた。
 自分が死んでフィンが助かるなら、喜んでこの身を差し出す。
 悪趣味な見世物になど、させない。
 そう思っていた、けれど───
(俺は、『また』何も出来ないんじゃない。俺は俺の想いを、フィンに渡せるじゃないか)
 泣くものか。
 本当の結婚式だったら、などと思い描くものか。
 この身が朽ちても、フィンへの想いも心まで屈しないという意思も……誰にも変えられはしない。
 ───微笑め。
(だから、今俺は幸せなんだ)
 フィンは、微笑を向ける海十を眩しそうに見た。
 本物の式だったら……そんなことは考えない。
 村人達やギルティの為ではなく、自分達自身の為に誓いたいと願う海十は、輝いている。
 その輝きは、彼自身の強さがあってのことだ。
(そうだね。俺達の想いは、誰にも曲げられない)
 決して、絶望に染まらない。
 それこそが、ギルティに出来る唯一にして最大の抵抗。
「普段と違うから……緊張する。綺麗だな」
「そう言う海十も……学生には見えないよ」
 海十が微笑んで囁くと、フィンがくすりと笑った。
 心からの想いを届ける。
 この全てを渡す時に、互いの存在以外見る必要はない。
 共に幸せを探そうと決めた、たったひとりの人よ───

 誰かに強制されたから、俺は誓うんじゃない。
 フィンを愛してるから、俺は誓う。
 俺の想いは、全てフィンへ。

 俺の大切な人。
 共に幸せを探す……俺は俺の人生を歩んでいいと思えるように変えてくれた人。
 俺の想いは、全て海十へ。

 出会いに意味があるならば。
 共に往く、共に生きる。

 ───愛してる。

 誓いの言葉が交わされる。
 海十が、フィンの両手を包むように重ねた。
 素顔を見せられる唯一の存在を見、その想いを解き放つ。

 それは、『歌』。

 フィンが、一瞬目を見開く。
 幼馴染を想うならば、自身の幸せを。
 そう気づかせてくれたフィンを青空に擬えた歌。
 それは、フィンを想う全てが詰まった歌であり───ギルティへ心までは絶対に屈しないという反抗の意思。
「貴様……」
 ギルティが、海十を睨みつける。
 だが、海十は歌うのを止めない。
 手を重ねるフィンも続くように歌う。
 絶望に染まらないという意思を突きつけるように。

 何があっても、この想いは変わらない。
 幸せだよ、愛してる。

 歌うことが出来なくなる刹那、お互いの歌声を拾うように唇を重ね合わせる。
 愛しているという言葉が頭を埋め尽くした、その先───

 雨が上がった青空が見える。
 青空の下に広がる海には、あの日波に攫われたクリーム色の石が今もどこかを旅している。
 この想いも、あの石のように───

●私を忘れないで
 千亞は、鏡に映る自分を見た。
(今、珠樹はどうしているだろう)
 隔離されている明智珠樹は、何を想っているだろう。
(死は、平等にやってくる……そう思ってた)
 大好きな兄は、海の向こうに消えた。
 生死も分からぬ兄は、今───
(いつ死んでもおかしくない、怖くなんてない。だけど……)
 死にたくない。
 珠樹との日常が、こんな風に壊れるなんて嫌だ。

 朝が早いド変態。
 通常営業ド変態。
 とにかくド変態。

 でも───

『千亞さん。私は、貴方の傍にいても良いですか?』

(僕は───)
 反則だと思った目を思い返し、千亞はあの時の答えを反芻した。
 やがて、時がやってくる。

 一方、珠樹の支度も整っていた。
 純白のフロックコートは、彼の心の何も反映していない。
(私と出会わなければ、千亞さんはこんな目に遭わなかった)
 可愛らしい人。
 いつも、いつでも……真剣に怒ってくれる。
 『生きる』を感じたい私は、あなたに怒られるのをいつも待っていた。
(私がいなければ、千亞さんはもっと幸せな人生を送れていた)
 一生懸命になってくれるあなたを、私は離せなかった。
 あなたに離れられるのが、怖いと思っていた。
 記憶より、記憶を取り戻そうとしてくれる『あなた』が、私は───

 頭に、何かがフラッシュバックした。

「……俺、は……ま、た……」

 大事なものを、失う、の、か。

 戦慄く唇が、何を紡いだか自分でもよく分からない。
 だが、顔を押さえる珠樹は、何かこじ開けようとする痛みに抗う。
 喉がひりつく、言葉を出そうとするのに出せない。
 私は誰だ。俺は誰だ。私は俺は───

 瞬間、味気のない日記帳が、脳裏に蘇った。

(……ああ、そうだ……待っている。千亞さんが、待っている……)
 珠樹は扉を開ける音に気づき、振り返る。
「支度は整っていますよ。ふふ……!」
 普通にしていれば美しい顔立ちで、珠樹は微笑んだ。

 白いバージンロードの前、珠樹と千亞は再会した。
「千亞さん、何でドレスじゃないんですかっ!?」
 珠樹が開口一番告げたのは、千亞への衣装への不満。
 やつれた表情の千亞は、それを聞いて珠樹を見つめた。
「気を遣うな、馬鹿」
「私と千亞さんの仲で水臭いですね……! 私の最期の願いです、着替えてきてくださいっ」
 珠樹は、震えを止めた千亞を引き寄せ小声で囁く。
(着替えるフリして千亞さんだけでも逃げてください……!)
 私から、解放されていい。
 だが、千亞の答えは簡潔だった。
「……嫌、だ。こんな時に女装なんて出来るかド変態!」
 綺麗な飛び蹴り、クリーンヒット☆
 呆気に取られる村人達を他所に、千亞は穏やかな笑みを珠樹へ向けた。
(僕には、珠樹がいない世界に遺される方が辛いこと)
 こんな時になるまで、珠樹が自分にとって大きな存在だったなんて気づかないなんて。
 もっと、優しくしてやれば良かったと思うけど───
「千亞さん……」
 見つめてくる珠樹の目が、切ないのにどこか嬉しそうな複雑な色帯びていて。
(気づけよ、馬鹿)

 白のバージンロードを進む。
(逃げてほしいのに、生きてほしいのに───)
 今、喜んでいる自分がいる。
 珠樹は、だから千亞を死に追いやってしまうのではと歯を食い縛る。
「謝るな、馬鹿」
 その思考を遮るように、千亞が隣で笑った。
「僕がここにいるのは、僕の意思だ」

 だから、私は───

 愛を誓い、最初で最後のキスを交わす、その直前に珠樹は微笑んだ。
「千亞さん……ごめんなさい。ですが、貴方に出会えて私は幸せでした」
 愛しています。
 千亞は囁くようなその言葉を聞き、拗ねたように珠樹を見上げた。
「謝らなくていいって言っただろ? 僕も、愛してるよ、珠樹。生まれ変わっても傍にいさせてくれよ?」
 涙が、零れた。
 本当に欲しかったのは、千亞からのその言葉だった。
 千亞の手が、頬に伸びてくる。
「どうか、私を忘れないでください」
 最初で最期のキス。
 幸せで、しょっぱい……優しいキス。

 忘れないで。
 忘れない。

 この命が途絶えようとも、この想いは離さない。

●夢の終わり
 ウィンクルム達は、それぞれ目覚めを迎える。
 そして、全てが夢だったことを知った。
 ギルティと自分達が認識したあの存在は、恐らくそれぞれに思い描くギルティだっただろう。
 あれがギルティであったと証明する術はなく、そして、この世界に存在するギルティである保障はない。
 そう、全ては夢の中の存在。

 けれど、重要なのは、そこではない。

 隣のパートナーが、『生きている』ということ。
「カラオケはムード歌謡派です、ふふ……!」
 カラオケオールナイトを決めたらしい珠樹の横で千亞が「僕は歌わないからな」と呆れてる。
 一晩熱唱を受けて立つ海十、盛り上げ役を買って出るフィン。
 いつきはレーゲンと絶対に歌うと意気込み、千代はペンライトを振ろうとか思っているようだ。(そしてラセルタが面白くなさそうな顔)
 瑠璃と珊瑚は、明日の講義の為珠樹からどう逃れるか相談を開始した。

 その彼らの足元では、勿忘草が風に吹かれて静かに揺れている。
 私は、あなたを、忘れない。



依頼結果:成功
MVP
名前:明智珠樹
呼び名:珠樹、ド変態
  名前:千亞
呼び名:千亞さん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 鬼騎  )


( イラストレーター: 白金  )


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月07日
出発日 07月13日 00:00
予定納品日 07月23日

参加者

会議室

  • [16]瑪瑙 瑠璃

    2015/07/12-23:59 

  • [15]羽瀬川 千代

    2015/07/12-23:39 

  • [14]羽瀬川 千代

    2015/07/12-23:39 

    改めまして、羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
    プランは先程提出しました、これで人心地つけそうです。

    やるせない思いをカラオケにと思いつつ。
    精一杯ペンライトを振って合いの手入れますね…!(ぶんぶん

  • [13]信城いつき

    2015/07/12-23:09 

    プラン提出したよ!
    さあこれでカラオケ行けるぞ!(目的違ってる……)

    歌の上手い下手は置いといて、テンション上げるために、
    まずは今はやりの(え?)『うっかり戦隊・誤字レンジャー』の主題歌歌います!
    レーゲンもタンバリンたたきながらでいいから一緒に歌おうよ!
    (レーゲン、強引にマイクを持たされる)


    ……プランの方はまじめに書いたよ、ちゃんと。
    楽しい展開ではないけど、自分達なりに頑張った。
    みんなもお疲れ様でした-

  • [12]蒼崎 海十

    2015/07/12-22:43 

  • [11]蒼崎 海十

    2015/07/12-22:43 

    蒼崎海十です。
    皆様、宜しくお願い致します。

    オールナイトのカラオケなんて、フィンはほとんど歌わないから、俺が一人で熱唱するしかないじゃないですか望むところだ←
    ジャンルは色々歌いますけど、やっぱりロックでしょうか。

    フィン:
    だって、海十の歌を聴いてた方が楽しいし。
    あ、ちゃんとタンバリンとかマラカスとかで盛りあげるよ!
    食べ物と飲み物の注文は任せて(キラッ)

    海十:
    …まぁ、悪夢の後だし、思い切り歌えば気は紛れるよな…

    コホン、頑張りましょう!(ぐっ

  • [10]瑪瑙 瑠璃

    2015/07/12-00:44 

    珊瑚:
    珠樹ー、いつきだけ名前が平仮……あがっ!
    (※瑠璃に卍固めをかけられる)

    瑠璃:
    改めまして、どちらかといえば日本民謡派の瑪瑙瑠璃です。
    どれだけの悪夢でも夜通しのカラオケは
    翌日の講義に響くので後日、珊瑚とひっそりと行います。

    ……何と言っていいんでしょう。
    メモリアルピンナップで悲しい(?)リザルトシーンを発注するか、
    カラオケボックスでオールナイトな絵を発注するかで悩むエピソードだと思いました。

  • [9]明智珠樹

    2015/07/11-22:20 

  • [8]信城いつき

    2015/07/11-21:40 

  • [7]明智珠樹

    2015/07/11-11:24 

    いつもお世話になっております、明智珠樹と兎っ子倶楽部の千亞さんです。
    神人、名前が漢字ーズですね…!何卒よろしくお願いいたします、ふふ…!!

    打ち上げ(?)のカラオケオールナイトが今から楽しみでたまりません…!
    そんなムード歌謡派明智珠樹でした。
    しりあすに頑張ります、ふふ…!!

  • [6]明智珠樹

    2015/07/10-11:37 

  • [5]信城いつき

    2015/07/10-08:45 

  • [4]羽瀬川 千代

    2015/07/10-01:44 

  • [3]蒼崎 海十

    2015/07/10-00:37 

  • [2]瑪瑙 瑠璃

    2015/07/10-00:21 

  • [1]明智珠樹

    2015/07/10-00:16 


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