


●君か世界か
ウィンクルム達は愕然としていた。
伝説級のオーガが封じられているという遺跡の封印が解け始めているという通報を受け、A.R.O.A.に調査を依頼されたウィンクルムは現地にて、A.R.O.A.から聞いていたこととは違うことを言われたのだ。
「ありがとうございます、皆様が封印を結び直すために贄になってくださる神人様ですね」
「は?」
遺跡の管理をしているという村の長アセビは、術者も兼ねているという。
彼女が言うには、確かにA.R.O.A.に封印を結び直す贄に適合する神人を派遣するように依頼したという。
にわかに信じがたい話に、ウィンクルムはA.R.O.A.に確認の電話をする。
すると、A.R.O.A.はアセビの話を事実だと認めた。
「君たちが贄になると聞いて、素直に行くとは思えなくてね。すまない。だが、君たち以外適合者が居なかった。他の者では意味がなく、君たちが拒否すれば早晩封印は解けて、世界は滅んでしまうだろう」
「それは、脅しですか」
「……そうとってもいいよ。だが君たちが一人でも拒絶すれば、世界が滅ぶことは確定する。封じられているオーガは、今A.R.O.A.に所属しているウィンクルムが全員でかかっても、到底勝てないのだからな」
駄々をこねずに諦めろ、と職員は電話口で凍りついたような声音で言うと、一方的に通話を切った。
「こんっ……こんなふざけた話があるか!」
精霊が叫んだ。
「お気持はわかりますが、世界のために皆様はウィンクルムをされておられますのでしょう。では、世界のために死んでいただくというのも、ウィンクルムとして正しいあり方だと思います」
アセビは毅然と言い返し、村人たちに合図をする。
「うわっ!?」
村人たちが皆、口に布を巻いていたことの意味をもっと深く考えておくべきだったか。部屋中に煙が充満し、ウィンクルム達は耐え難い眠気に勝てず、眠り込んでしまった――。
アセビの声が遠く響く。
「封印が解けるまで時間がありません。明朝、さっそく儀式を行います。急ぎ準備を! 神人様には浄めの部屋に入って頂いて……っ!」
精霊が目覚めた場所は、物置のような粗末な小屋の中だった。周囲を見回せば仲間の精霊たちもいる。
拘束具などはなかったが、武器などは奪われたのか手元にない。
小屋に窓はなく、ドアにも外から鍵がかかっていた。
ひゅうひゅうと立て付けの悪いドアから寒い風が吹き込んでくる。
「……体当たりでもすれば、ドアは開きそうだな」
神人は浄めの部屋とやらにいるのだろう。月の位置などから、明朝と呼べる時間まであと五時間もないことがわかった。
「……どうすれば……」
神人を連れて逃げることは、やろうと思えば出来るだろう。だが、もうA.R.O.A.には戻れない。それに、世界も滅ぶ。
世界をオーガによって滅ぼされることは、ウィンクルムとしてあってはならないことだ。ならば、尊い犠牲として神人には死んでもらう方が、いいのだろう。理性では、儀式を成功させるのが正しいと分かる。
今、精霊は、世界と神人を天秤にかける――。
ウィンクルムは、覚えていない。ここがフィヨルネイジャによる白昼夢の世界だと。


・趣旨
世界なのか愛なのか。そんなセカイ系な話。
・内容
精霊は神人を助けだしてもいいですし、世界のために諦めてもいいです。
神人は逃げてもいいですし、覚悟を決めてもいいです。
参加者は協力してもいいですし、単独行動をしてもいいです。
見つからないようにそーっと行動すれば、村人にはバレません。
大騒ぎすれば村人が出てきて乱闘になるでしょう。
浄めの部屋は、精霊の居る小屋と同じような構造です。場所はわかっているものとします。
・注意
ハピエピのため、所持品はデートコーディネートになります。どれだけ探しても武器は見つかりませんので悪しからず。
ハピエピのため、徒手空拳くらいの戦闘しか出来ません。オーガが出てこないので、トランスに意味はなく、ジョブスキルも武器がないので使えません。
これはフィヨルネイジャの白昼夢ですが、PCは気づきません。本当に世界が滅ぶつもりで行動してください。
フィヨルネイジャまでの移動料金で各人300jr消費します。(ウィンクルムで600jr消費)
お世話になっております。あき缶です。
本エピは、こーやGM主催の連動エピ《贄》の一つです。
なお、Pierisとは馬酔木のことで、花言葉は『犠牲』です。
YOU、世界のために死んじゃいなよ。


◆アクション・プラン
叶(桐華)
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部屋でぼんやり 他の子が出ていくなら手伝うよ 僕は、待ってる ほら、来たね、桐華 僕を浚って行ってくれるの? ふふ、半分あたり。少しね、迷ってる この死に方じゃ、行けないだろうし 生きるのを、願われてたし それに、君と離れるのも悲しいよ 君が、いつか僕とは別の神人と適合しちゃうのも、少し寂しい 君のせいだよ こんなにも、苦しいのは だから責任取ってよ 俺の事、忘れても良いけど、一年に一度くらい… そうだなぁ…誕生日の時にでも、思い出してよ そんで、その日は俺の為に泣いてよ そうだね、言ってない いいよ、知らないままで それなら、一年に一度なんて構えないで、ずっと忘れずに居られるでしょう? 知ってるでしょ。俺は、寂しがりで我侭なんだ |
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いつかとは思ってこそいたが 死ぬ前の挨拶なんて考えてなかった 掛けられたのが別れの言葉でないのが有り難い あれはリンが着てこそだ 俺の仕事だということには変わりないしな これで十分だと首から下げた鍵を見せる いや、これがいいんだ 捨てるなんて考えるなよ 好きなんだアンタの家 戦いから手を引く気はないんだろ A.R.O.Aを離れるのだって危険だ アンタは一人じゃないかとは言えなかった 間違えたとは思わない 失うものが多すぎる がこの選択も彼が「失う」には違いないのだと ここまで言わせて気付いた それでも送る為に来てくれた ぎゅっと背に腕を回す そういうわけじゃないが長話は出来ないだろう 言わずにいてくれて、ありがとう それだけで十分だ |
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なんというか、激動の人生だったな いや激動してたのはここ2年ほどで概ね平和だったんだが ……いきなり神人に顕現して あいつに、出会って ようやく。ようやく、少しずつ踏み出したのに これで終わり、か。 仕方ないよな、世界がかかってるんじゃ――!? イグニス……いや待てお前らどうやって、 まあ聞くまでもないか……落ち着け、ちょっと座れ 話は、聞いてたな 俺達神人5人、全員犠牲にならなきゃ世界が滅ぶ ……なぁ いい子だから、泣くんじゃないぞ (両手で頬を包んで額を合わせ) っていってえ!? おまっ、いきなりなにすんだ…… 泣くなって言っただろうが、馬鹿野郎が どうするつもりだよ 俺達大戦犯だぞ? ……どのみち滅ぶなら いっそ倒しに行くか? |
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■心情 適合者が俺だけじゃなかったのは残念だけど、一人は俺でよかった 犠牲は少ない方がいいものね 封印は永遠じゃない いつか伝説級のオーガを倒せる人が現れてくれるといいけど… イルド、悲しまないで。俺の分まで生きて 新しい神人や恋人ができるといいわね ■ 来てくれるって思ってたわ 俺は、残る 皆が残るなら尚更だし、逃げる子がいても 人数足りなくてももしかしたら封印できるかもしれないし イルドは死んじゃ駄目。俺にイルドを守らせて …さすがおっさんのパートナーね (肩を抱かれ寄り添って座り、悔いが残らないよう色々な話をする ふと会話が途切れ見詰めあい、静かに目を閉じる) 今まで本当にありがとう。愛してるわ、イルド… |
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端から『贄になって来い』と言われた方がよほど良かったな。 そうすりゃ面倒事が一個は省けた。 …この直情男を如何にかするという面倒がな。 「何しに来た」 聞くまでもないか…。 ウィンクルムとしての正しいあり方かなんて知りやしないが。 命か世界か――など、迷うまでも無い。 「お前もそろそろ分かってきたと思っていたがな」 それにもう、帰る場所なぞありはしないのに。 思った以上に俺を見ていた相棒に、微かに笑ってしまう。 「お前がパートナーで良かったよ」 立たせてくれと手を伸ばし。 近付いた所で鳩尾に一発、昏倒させ。 「だから…達者でな」 俺の最期の願いだ。 アル。お前は多分、一つだけ知らない。 お前に生きててほしいのは、俺も同じだ。 |
●君を見る
誰一人、小屋の中でしんねりと夜明けを待つつもりはなかった。立て付けの悪い扉は少し強く押せば、簡単に錆びた錠前が崩れて、精霊たちを自由にする。
全員が向かう先は一つだけ、浄めの部屋だ。
誰もが、無言で神人を失うつもりはなかった。
イルドは奮然と浄めの部屋に向かう坂道を登っていた。
彼の胸の中に渦巻くのは怒りだ。
(だます必要なんかなかった。騙さなくったってあいつはきっと来たんだ)
暴れたい気分だったが、騒ぎを起こすわけには行かないので、グラグラ煮え立つ思いを押し殺し、イルドは浄めの部屋の扉を破壊した。
「来てくれるって思ってたわ」
スウィンは立ち上がって、イルドを迎えた。スウィンの表情は穏やかだ。明日には死ぬというのに。
「封印の事は気にすんな。お前の思い通りにしていい。どうする? 逃げるか? 武器はねーが絶対守ってやる」
と勢い込んでイルドは言うのだが、スウィンは首を横に振ってしまった。
「適合者が俺だけじゃなかったのは残念だけど、一人は俺でよかった。犠牲は少ない方がいいものね」
と言うスウィンは、きっぱりとイルドに言い切った。
「俺は、残る」
と。
もし逃げる者が居ても、一縷の望みがあるならば封印の儀式を断行して欲しいのだ。とスウィンは言う。
「封印は永遠じゃない。いつか伝説級のオーガを倒せる人が現れてくれるといいけど……。それまでは、俺の力で守れるなら、残るわ」
(ある意味騙されて助かったのかもしれねぇな。分かってたらあいつは一人でここにきたかもしれねぇ)
イルドはスウィンの決意の強さを目の当たりにして、瞑目した。
「……そうか。じゃあ、お前が死ぬ時は俺も一緒に……」
「駄目!」
スウィンはイルドの心中申し出を大きな声で遮った。
「イルドは死んじゃ駄目。俺にイルドを守らせて」
感情が昂ぶっているのか、スウィンの瞳は潤んでいた。
「……お前はそういうと思った……。くそっ」
うなだれるイルドの頭を、スウィンは優しく撫でる。
「……さすがおっさんのパートナーね。ありがとう」
「なら……儀式までは一緒にいさせろよ」
イルドはせめて、と必死に訴える。スウィンは穏やかに微笑んで頷いた。
肩を寄せあって二人は部屋の隅に座る。
死ぬ間際の会話にしては、とりとめのないものだったけれど、悔いが残らないように明日、明後日、ずっと未来の分も話してしまおうと、二人は懸命に話した。
――新しい神人や恋人ができるといいわね。それは少し悲しくて悔しくて、羨ましいけれど。
「イルド、悲しまないで。俺の分まで生きて」
スウィンは苦く笑った。
ふいと話題が途切れて、どちらからともなく視線を合わせ、顔を寄せる。
そっと唇が触れ合った。口にするキスは、初めてだった。
「最初で、最後のキスね」
唇に指を当て、スウィンは切なそうに笑った。
「今まで本当にありがとう。愛してるわ、イルド……」
「俺も……愛してる」
最期の瞬間まで、見つめ合っていよう。
●君を送る
膝を抱えていたハティは、自分の前に影がさしたことに気づいてゆっくり顔を上げた。
「リン」
案の定、とさほど驚きもせずハティはブリンドを呼ぶ。
「わかってりゃおめーがイイっつってた服貸してやったのに、依頼っつうからよー」
意外にもブリンドの口調は軽くて、ハティはどこか救われた気がした。
死ぬ間際の挨拶なんて、考えたことがなかったので。いつか死ぬとは思っていたのに。
「あれはリンが着てこそだ」
と言いながら、ハティは少し横にずれる。ずれて空いた空間にブリンドが自然に腰を下ろす。
「これが俺の仕事だということには変わりないしな。これで十分だ」
自分の身を封印に使えば世界が救われるなら、それはハティの仕事だろう。
ハティは首元のチェーンを引っ張り、青いガラスがあしらわれた銀の鍵をブリンドに見せる。ブリンドが作ったものだ。
(後生大事に持ち歩いてたのは知ってるけどよ。今見せるか?)
ブリンドは眉をひそめ、
「何なら二本目だって作ってやるよ」
と言う。
「いや、これがいいんだ」
ハティは薄く唇だけで笑み、また大事そうに鍵を胸元にしまい込む。
「戦いから手を引く気はないんだろ、A.R.O.Aを離れるのだって危険……」
言いかけたハティを遮るように、
「勘違いしてるみてーだから言っておくが」
ブリンドはハティを見ず、真っ直ぐ前を向いたまま話し始める。
「組織に残るか残らねーかは俺にとっちゃ問題じゃねえ。でなきゃおめーを撃つ話なんて引き受けるかよ」
それは、マントゥール教団員をA.R.O.A.に引き抜く依頼の時の話だ。教団幹部を納得させるために、ハティは自らをブリンドに撃たせた。
「利用すりゃいいって言ってたおめーも覚悟はあったんだろ」
プレストガンナーであるブリンドが外すはずはなかったが、撃たれた場所が悪ければ、確実にハティは死んでいた。それでもハティは撃たれることを選んだ。
それだけではなく、ハティは――積極的に生きたがってはいない男だとブリンドには解っている。
死にぞこないなのだから。本当ならば、顕現する前に死んでいるべきだったとハティは思っているのだから。
(でも、アンタは一人じゃないか……)
ハティは言い返したくて、でも口は開かなかった。
ブリンドを一人にするのは、ハティの選択だ。
「封印がコケたら迎えに来たろーと思ってな」
と笑うブリンドは、ハティの選択を認めてくれた。そのうえで、送るためにここまで来てくれたのだ。
ハティは無言でブリンドの背に抱きついた。
「……未来が決まってるとか考えたことねえ」
そう言うブリンドの声は固い。
どこかで、ハティが死なない未来があると思っている。未練がある。
だが、それ以上をブリンドは言わない。
(ありがとう)
言われたら、きっとハティは迷った。いつか死ぬ、それでいいはずなのに。
無言でハティは額をブリンドの背に押し付ける。
(最後まで言わねーつもりか。墓場まで持ってくなんて別に格好よくねえよ)
「おめーはほんとバカだな」
ブリンドは頭を垂れ、悔しげに呟いた。
●君を残す
「何しに来た」
胡乱な目を月岡 尊はアルフレド=リィンに向けた。
尊はやれやれとため息を吐く。
(端から、贄になってこいと言われたほうがよほど良かったな)
これからこの直情的なアルフレドを相手するという面倒が省けるから。
「帰りますよ、ツキオカさん」
と不機嫌を隠そうともせず、腕をひこうとしたアルフレドは尊にその手を振り払われた。
だが、長い付き合いだ。そんな対応をされることは百も承知なので、アルフレドはさほど気にもしない。これくらいで腹を立てていると話が進まない。
「お前もそろそろ分かってきたと思っていたがな」
まるで聞き分けのない生徒を前にした教師のような物言いで、尊はアルフレドに言う。
「ああ、分かってますよ。ツキオカさんが思ってる以上にね!」
むっと眉を寄せ、アルフレドは言い返す。
仕事第一の性分で、尊は自身の命をやたら軽く扱うことも。
(命か世界かなんて天秤にかける人じゃねえんだ。一も二もなく世界を取っちまう。そういうどうしようもない男だって分かってますよ!)
ウィンクルムとしての正しいあり方なんて、知った事か、犬にでも食わせとけ。とアルフレドは腹立ちに任せて言う。
その言葉を聞いていた尊は、床に視線を流し、自嘲気味に笑う。
「もう俺もお前も、帰る場所なぞありはしない」
逃げたところでA.R.O.A.には戻れない。そしたら、どこへ行くというのか。
「……ツキオカさん」
アルフレドはイライラと顔をしかめ、尊の胸ぐらを掴んだ。
「まだ言って無ェことあるだろ」
合わない視線、いやみったらしい物言い、なにより『アル』と呼ばないことで、アルフレドは悟る。何か、尊は隠している。
「この前、言ったよな? オレ、ツキオカさんが相棒で良かったって」
しゃがみこんだアルフレドは、ぐいと胸ぐらを引き寄せ、尊に怒鳴る。
「御託なんかどうでもいい! ……生きててほしいです、アンタに」
願うように訴えるのに、それでも尊の表情が変わらないのが、アルフレドには不満で不満で、駄々をこねるように続けてしまう。
「帰る場所ならオレが作る。それじゃ不足スか……?」
図らずも縋るような気弱な口調になってしまったアルフレドを見て、尊はクスリとわずかに笑った。
予想外に、この精霊は尊をちゃんと見ていて、ちゃんと理解もしようとしていたのだ。と今更知って、それがどうにも尊の心を明るくした。嬉しかった、のかもしれない。
「お前がパートナーで良かったよ」
そして、立たせてくれと尊は精霊に頼んだ。
「ツキオカさん……」
伝わったのか、とアルフレドはパッと喜色を顔にのぼらせて、胸ぐらの手を離すとその手で尊を立ち上がらせる。
その途端、尊は無防備なアルフレドのみぞおちに拳を勢い良く埋めた。
「だから……達者でな」
「カハッ!?」
詰まる息、暗くなっていく視界の端でにじむ尊が唇を動かすのだけがアルフレドに見える。
『お前に生きててほしいのは、俺も同じだ』
――なんて、言ってるのか、わかんねぇよ……ツキオカ、さん……。
いっそ夢ならいいのに、アルフレドは呪詛のように思った。
●君を待つ
扉の近くに陣取ったのは、理由がある。叶には待ち人がいる。
「ほら、来たね」
のそりと立ち上がり、叶は自ら開いた扉をくぐった。
彼とすれ違うように他の精霊が走りこんでくるのには、目もくれない。
月明かりの下で仏頂面の精霊がいる。逆光の中、彼の赤い瞳だけが光っていた。
「桐華。僕を攫って行ってくれるの?」
ふふっと笑って叶は腕を組んで、桐華と対峙した。
「お前の考えてる事、当ててやろうか」
もともと仏頂面だった桐華はますます眉をしかめ、叶を睨む。普通の人間なら身すら竦むほどの強い視線を受けても、叶は真意を悟らせぬ優しい笑顔のままだ。
「これでやっと、あの人の所に行ける。……だろ」
叶は笑みを深くした。桐華の前に契約していた精霊のことを桐華は言っている。
「ふふ。半分あたりで、半分はずれ」
残念、と叶はまるでゲームの最中のような軽さで呟いた。
そして物憂げに目を伏せた。
「少しね、迷ってる」
静かに叶は言う。
「この死に方じゃ、行けないだろうし」
あの人は叶に生きるように願った。だから生きている。慕っていたがゆえに彼の願いは叶えたい。
「それに、君と離れるのも悲しいよ」
桐華は眉根を寄せた。叶の言葉は嘘半分。特にこういう甘い内容であれば尚更。鵜呑みには出来ない。
「君が、いつか僕とは別の神人と適合しちゃうのも、少し寂しい」
「迷ってる、なら……。悲しくて寂しいなら、一緒に逃げてやってもいいんだぞ」
戸惑い気味に桐華は言ってみる。手も伸ばしてみたが、その手をただ叶は眺めるだけだったので、素直におろした。
どうせ手を取り合って逃げることを叶は選ばない。彼の行動は分かるくせに、考えていることは桐華には分からない。最期まで。
「君のせいだよ」
自らの肩を抱きしめるようにして、叶は恨めしげに桐華に言う。
「は……?」
「こんなにも、苦しいのは君のせい。だから、責任とってよ」
叶は月光を浴びながら桐華を見据える。
「俺の事、忘れても良いけど、一年に一度くらい……そうだなぁ……誕生日の時にでも、思い出してよ。そんで、その日は俺の為に泣いてよ」
桐華は叶の言葉の意味をはかりかねて、困惑して、ようやく。
「お前の誕生日とか、知らないんだけど……」
とだけ返した。
こんなに長く一緒にいるのに、この男の生まれた日すら、桐華は知らない。何も何も知らないし知らせてくれない酷い男が、この叶だ。それを承服して一緒にいるのだけれど。いや、一緒にいたのだけれど。
「そうだね、言ってない。いいよ、知らないままで」
穏やかに微笑んで、叶は頷く。
「それなら、一年に一度なんて構えないで、ずっと忘れずに居られるでしょう?」
毎日俺の誕生日かもしれないと思っていてよ、と誂うように叶は桐華に言う。
「ハ。お前らしいわ」
呆れたように肩をすくめる桐華に、叶はケラリと笑った。
「知ってるでしょ。俺は、寂しがりでわがままなんだ」
「その、指輪。サラリスの涙。ちゃんと最期まで付けてろよ」
桐華は叶の指に光る指輪を指して、言った。
「え、あ。うん」
叶が頷くやいなや、桐華は叶に背を向けた。
「あ……」
桐華の背に、叶はなにか言いかけて、やめる。言うことはもう無いのだ。それに、今話しかけたらまるで『攫って行って欲しかった』みたいで。
叶はひとつ頭を振って、浄めの部屋に戻るべく、踵を返す。振り返って見えた月の色は冷たかった。
桐華は大股に村を後にしながら、呟く。
自分の指に輝く、アンウーの息吹はサラリスの涙と対で、呼び合う関係のはずだ。だから、指輪が互いの手に飾られている間はきっと、つながっている。
「世界平和にして魂解放してやるから、さっさと生まれ変わって来い」
それが何年でも、何十年でも、構うものか。桐華は契約するまでずっと叶を追いかけていたのだから。
「追うのと探すのと……待つのには、慣れてんだ。待って、探して、追いかけ続けてやるから……」
ぎりと拳を握りこみ、凶悪な表情で桐華は笑う。
「覚悟しろよ」
月光が冴え冴えと彼の上に降り注ぐ。
●君と往く
初瀬=秀は窓から差し込む月光を見るともなく見ながら、自分の足跡をたどっていた。
(なんというか、激動の人生だったな。……いや、ここ二年ほどに集中して激動してて、あとは概ね平和だったんだが……)
結婚式で花嫁に逃げられたというターニングポイントから、秀の人生は大きく回り始めたのだ。
神人になり、精霊に出会って、それから熱すぎるほどの愛情を向けられて。
(ようやく。ようやく、少しずつ踏み出したのに……)
「これで終わり、か」
世界がかかっているのだから致し方無い、と目を閉じかけた秀に、
「諦めませんよ!」
大声が降り注いだ。
ばちんと瞠目し、秀は目の前に必死の形相のイグニス=アルデバランを見る。
「い、イグニス……お前どうやって、まぁ訊くまでもないか……」
ドアが壊れてブラブラと揺れているのを目の端で捕らえ、秀は一瞬驚くも、予想の範囲内だったと納得する。このメンバーの精霊が、はいそうですか、と神人を手放すとは思えなかった。
「秀様! お迎えに上がりましたよ! お怪我はないですか? 意識ははっきりなさってます!? 全くえらい目に合わせてくれたものです。さて、長居は無用ですよ……秀様?」
一人興奮するイグニスの服の裾を、ぐいと秀は引いた。
「落ち着け、ちょっと座れ」
いったい秀は、今まで何度イグニスに『落ち着け』と言ってきただろうか。それも今日までかと思うと、苦労してきた割に寂しいものだ。
「何なのですか。こんなところに長々と居座る時間なんて無いんですよ……」
ぶつぶつ言いながらも、秀には忠実なイグニスはおとなしく秀の正面に腰を下ろす。
「あのな。アセビの話は、聞いてたな? 俺達神人五人、全員犠牲にならなきゃ世界が滅ぶんだ」
秀は優しい表情で言い聞かせ、そっとイグニスの頬に手をのばす。
両手で彼の顔をはさんだ秀は、ゆっくりとイグニスと額を合わせる。
「……なぁ、いい子だから、泣くんじゃないぞ」
するとイグニスはぐいと首を後ろにそらし、ゴンッと思い切り額同士を打ち付けた。
「っいってえええ?!」
鼻血が出るかと思った、と鼻の下を擦り、秀は痛みで涙目になりながらもイグニスを睨む。
「おまっ、いきなり何すんだ……」
抗議と説教はイグニスの震える叫び声で掻き消える。
「私はっ!!」
イグニスはすっくと立ち上がり、呆然と見上げてくる秀を見据えて、大声で言い募る。
「誰かを犠牲にして、『ああこれで平和になったよかったね』なんて笑うような世界なんてごめんです! いいこでなくて結構です。世界の為に死ぬ? 冗談じゃありません! 神人一人救えなくて何がウィンクルムですかぁ!」
ぼたぼたと精霊の涙が床を濡らす。鼻水すら垂らすイグニスに、秀はため息を吐いて立ち上がった。
「泣くなって言っただろうが、馬鹿野郎が」
とポケットからちり紙を出して、拭ってやると、
「秀様だって泣いてるじゃないですか。おあいこですよ……」
ぐすぐす鼻を鳴らしながら、イグニスは秀の目尻に手を伸ばし、言い返した。涙を拭う指は優しかった。
二人は、夜闇の中、村を歩いている。
「どうするつもりだよ。俺達大戦犯だぞ?」
もう戻る場所もない、と秀は、ズンズン進んでいくイグニスの背に問う。
「…………どのみち滅ぶなら、いっそ倒しに行くか?」
ふと秀は思いつきで言ってみる。
するとイグニスは顔だけ振り返って、いつものような優しいふやけたような笑顔を見せた。
「そのつもりです。どのみち、もう封印なんてできないんですから。腹くくってください」
それは、積極的な心中のお誘い。
「武器も無いのによ」
ケラケラと笑って秀はイグニスの隣に並ぶよう、足を速めた。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 普通 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 06月21日 |
| 出発日 | 07月01日 00:00 |
| 予定納品日 | 07月11日 |

2015/06/30-12:13
静かに速やかに扉ぶっ壊して後はばれない程度に好き好きに。って所かね。
分かりやすくて良いな。
うちは言い合いになる事ないだろうし、部屋の中で話す奴らの為に
扉の近くで番代わりでもしてようかね。
あぁ、聞こえても聞こえなかったことにするのは得意なんで任せろ。
2015/06/29-16:20
ブリンド:
…んだな。行くまでに気付かれちまってたらおちおち話もしてらんねえだろうからなー。
諸々リョーカイで扉はぶっ壊すで満場一致と。
2015/06/29-10:55
アルフレド:
チッス。アルフレドだ。ツレのツキオカさんもどっかに。
オレも、あの何考えてんのかサッパリわからん分かり易い人にモノ申したいんで、扉はぶっ壊す気で。
清めの部屋とやらに行くまでは騒ぎにするつもりは無ェが、着いてからは……まーちっと声は荒らげちまうカモ。
乱闘になるんだったら、そん時ゃ動けるぜ。
ああ。部屋ン中で話されてても、オレは気にせんよ。
つーかオレは多分部屋ン中で話す羽目になると思うし。
何より、聞いてるヨユー無ェと思うしな。
2015/06/28-17:18
イルド:
俺の考えでは
「扉は壊すがそれ以上の大騒ぎはしない(誰か乱闘するなら手伝いはする)」
「浄めの部屋に神人全員いる。他はたぶんいない」「A.R.O.Aに戻る気はない」
だな。聞かれたくない話か…聞いても聞かなかった事にする。お前らも忘れろ。
2015/06/28-14:05
ブリンド:
計画リョーカイ。俺は中で話することになりそうだが、落ち着いて話すんなら外のがいいだろーな。
まあいざ騒ぎになっても俺ァ動けるし、ハティのやつもほっとくってこたねーだろう。
俺も「浄めの部屋」に五人でいるんじゃねーかと思ってたわ。
浄めってのがその部屋に入れときゃいいもんなのか、それともいっしょに術師でもいんのかそのへんよくわかんねーけど。
この小屋と似たような作りっつーと中から外は見えねー感じなんかね。
2015/06/28-11:37
イグニス:
イグニスと秀様です。
大体何を考えてるか予測はしていますがそうは問屋が卸さないですからね秀様!
ともかくも話をしないことには始まりませんね、
必要とあらば荒事も辞さない覚悟で行く所存。
よろしくお願いしますね。
扉はぶっ飛ばす気満々でした。
そういえば浄めの部屋に神人の皆様一緒にいらっしゃるんでしょうかね?
他の方に聞かれたくない話とかもあるかもしれませんし
私は出来れば逃亡を試みて話はその先で、という計画です。
2015/06/27-22:15
よお。よく会うとは思ったが運命共同体だったとは思わなんだブリンドだ。
あのボケが特別とも思えねーんだがよ。因果なモンだな神人ってのは。
俺はA.R.O.Aに戻る気はねえ。封印が成功しようがしまいがな。
これでウィンクルムの鑑なんて言われんのも反吐が出るしよ。
我ながら縁のねー言葉だと思うわ。
そのへんアイツと話をしたこともなかったし、どういう結果になるとしても話はするつもり。
アイツにとっちゃA.R.O.Aが居場所みてーなもんなんだろうが…
2015/06/25-23:31
桐華:
桐華と、愉快な叶。まぁ、よく見かける面子だし今更な感じしかねぇけど。
…一応扉はぶっ飛ばす方向でいいんだよな。
俺も、話はしに行くけど…どういうつもりでいるんだろうな、あれは。
乱闘になる事はないと思ってるけど、その時は手伝うくらいは、すると思う。
2015/06/25-18:13
イルド:
イルドとスウィンだ…よろしく。
くそっふざけやがって…ッ!このまま話もできないで終わりなんて納得できねぇ!
俺は浄めの部屋に行ってスウィンと話す。でも、あいつは残るだろうな…。
逃げるやつがいるなら止めねぇ。悔いが無いようにしろよ…。

