《紫陽花》逸れた心であっても側に(あき缶 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●フィヨルネイジャの悲しい夢
「好きな人ができたんだ」
 でも君じゃない人だよ、と幸せそうにパートナーは君に言った。
 なるほどウィンクルムでも、ウィンクルムではない者と結婚していたり恋仲だったりすることもあるらしい、とは聞いている。
 だから君とパートナーの仲が、『仕事仲間』だとか『相棒』だとか『友達』だとか、そういう関係であっても、オーガを倒すことに支障など全く出ないのだろう。
 でも君の気持ちはどうなる?
 君はモヤモヤとしながら、楽しそうなパートナーを眺めた。
 自分など居なくても、彼は幸せなのだろう。その『好きな人』とやらと一緒であれば。
 自分は『彼にとって一番ではない』ことを見せつけられながら、今後もウィンクルムとして、親密になっていかなくてはならないというのは――今の君には想像しがたい世界だった。

 君は、ここが白昼夢を見せるフィヨルネイジャだということを忘れている。
 そして本当のパートナーは、眠りこける君の横で、君が目覚めるのを待っているということすらも忘れている。
 今の君にとって、目の前で自分ではない想い人の話をするパートナーこそが本物なのだ。

 一炊の夢、とはよく言ったもので。君は夢の中で、ほんの数分なのに一週間もの時間を体験するハメになる。

解説

●内容:他に好きな人ができたパートナーと一週間過ごす
 当然内容はダイジェストになります。一週間を薄く広くでもいいですし、特定の日を濃くでも構いません。

●一週間について
 自由に過ごしてください。
 途中でデミオーガ討伐くらいの依頼をこなしても構いません。

●明記事項
 他に好きな人が出来たのは、神人なのか精霊なのか
 描写して欲しい日(指定日が多いほど描写は薄く広くなります)
 なお、好きな人が出来た方はフィヨルネイジャで起きていますが、プランは夢の中、つまり
「他に好きな人ができた状態」を書いてください

 好きな人は自由ですが、特定の人がいる場合でも『過去エピの参照はしません』のでプランにどんな人物か明記してください。

●ジェール消費
 フィヨルネイジャへの移動費用として300jr消費します。

ゲームマスターより

お世話になっております。あき缶でございます。
フィヨルネイジャ便利。
なお、この「他に好きな人ができたんだ」エピは、《紫陽花》でゆるく連動しています。
同じようなシチュエーションのエピが、《紫陽花》タグでこれからちょこちょこと出てくるかもしれません。
紫陽花の花言葉は、「移り気」「無情」「浮気」「変節」です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  *好きな人が出来た方

あー……イグニス
話がある、時間いいか?
(閉店後に切り出し)
あの、な
紹介したい人がいる
いや家族じゃない、そういうんじゃなくて
……か、彼女?(照れ臭そうに視線を泳がせ)
ちょ、まてまて落ち着け!
あいつ(元婚約者)じゃない誰があれと復縁なんぞするか!
あーその、別の人だ!

……お前の、おかげだよ
こうして前に踏み出せたのも、誰かと歩こうと思えたのも
ありがとな、イグニス
(笑顔を見せて)

……お前にも、会ってほしいし、どういう人か知ってほしい
大事な「相方」だからな

……どうした?
って結構いい時間だな、詳しくはまた今度……
(携帯の着信を確認、嬉しそうに笑みを浮かべ)
悪い、また、な……もしもし?


スウィン(イルド)
  いつかこんな日がくると思ってた
一時的にでもイルドと恋人になれたのが奇跡よね
楽しい時間はあっという間
夢はもう終わり
「…全然気にしなくていいわよ
可愛い子なの?きっと両思いよ
これからは普通の仕事仲間に…友達になりましょ
今までありがとね!」
(内心の悲しみを少しも出さず笑顔で
一人になった時無意識に涙が一筋流れすぐ消える)

(任務時トランスしようとして固まる
好きな人がいるのにキスするのは申し訳なくて)
「あ…その
敵はデミオーガだし、トランス無しでいいんじゃないかしら?」
今回はよかったけど
相手がオーガだったりしたらトランスしなきゃいけない
今まで通りって…難しいわよ…
でも、イルドを好きな人の所に無事に帰さなきゃ



信城いつき(レーゲン)
  前提:レーゲンが彼女と結婚。その前夜

恋人じゃなくても俺の事は大事に思ってくれてるんだ
レーゲンが幸せになるんだ
だから……笑えっ

にっこり笑ってテーブルにつく
いよいよ明日結婚式だね
頑張ってレーゲンの好きな料理いっぱい作ったよ
こうやって俺が作るのも最後だろうし

謝らないで。謝るようなことしてない
でもこらえきれずに涙がでてしましまった

意地悪だね、ごめんなさい。
俺はレーゲンが幸せになれば嬉しいんだ。本当だよ
明日はちゃんと笑ってお祝いするよ

だから……今は何も聞こえないよね
レーゲンにしがみついて泣く。

目覚め後:
レーゲン、俺の事好き?……よかった、夢だったんだ
ほっとして、彼にしっかりとしがみつく



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  え…?
僕の事、はどうしたの?告白は
ううん。はっきりさせなかったのは僕だ。無理ないよ

…彼女とはどこまで?
(ぼやけて見えない。耳に入らない
一緒に喜んで応援してあげるのが、きっと。でもこれ以上は)
頑張って。僕、調子悪いから…今日は帰るね

■避けて久々戦闘
…今日は頑張ろうね
体調優れない日が続いてさ(よかった。喋れる)

トランスし行くタイガの背にどうしようもなく寂しく
タイガ…!!
あ。…裾が曲がってて気になって
ごめん

■物思い
どこか行ってしまいそうで
考えるたび辛い。どれだけ好きか思い知るなんて
心が苦しい、こんな感情はなくさなきゃ
ずっと傍にいたいから苦しいのは辛いから


お疲れ様。彼女の所いってあげて

…ずっと友達だ


むつば(めるべ)
  (※穏やかな雨降る朝、廃校の教室内でめるベとオセロ対決。
突然、めるべから衝撃的な発言を聞く。
鼻で笑いとばしているが、内心は徴かに動謡している。
オセロの役は後攻で白)

ふん、滑稽じゃのう。そもそも解せぬ、何が『人を好いてしもうた』じゃ。
めるよ。お主、脳に花でも咲いたか。

聞きとうない。
やめよ。

お主という奴は……紛らわしいにも程があるぞ。

「……別に構わぬ、合縁奇縁じゃからな」
寧ろ好きにせよ。
お主の好く奴がおのごでもおなごでも、
わらわが干渉する事ではなかろう。

じゃが、これだけは言っておく。
誰が誰を好いていようと、わらわ達はウィンクルム。
人を脅かす悪を討ち、時には正さなけばならん。
決して忘れるでないぞ。




●揺らぎ揺らがぬ黒白
 しとしとという音すら感じられない柔らかな雨が降っている、太陽の光が厚い雲というフィルターを通して柔らかに白く世界を染める朝。
 縦横に引いた線で六十四のマス目に区切られた板の上に乗せた円い石を、ぱちん、ぱちん、とひっくり返していく、見た目は幼い指。
 木と鉄で出来た学習用椅子に腰掛け、むつばは石を三つほど黒から白に変えた。
「さ、お主の番じゃ」
 すると黒の石を握るめるべは、笑みを浮かべて盤面を眺めたまま――なんでもないことのように言う。
「人を好いてしもうた」
 ぱちん。今度は白が二つほど黒に染まった。
「ハッ」
 むつばは彼の告白をとっさに鼻で笑う。信じがたい話だったから、一笑に付して冗談にしてしまいたかった。
「ふん、滑稽じゃのう。…………そもそも解せぬ」
 顔に浮かべなかった動揺は指した手にあらわれてしまったらしい。
 白は愚策とも言える場所に石を置いてしまい、あっという間に角を黒にとられた。ぱちぱちぱちと一列真っ黒に染まる。
 得意気に視線だけでむつばを見やるめるべを、むつばは不機嫌に睨みつける。
「何が『人を好いてしもうた』じゃ。めるよ、お主、脳に花でも咲いたか」
 盤の状況を見るだけなら、むつばのほうに花が咲いているようだが。
「ほう? さては聞きたいか?」
 想い人は深き夜の如く黒の長い髪靡かせた麗しき小姐だ、とめるべは歌うように言いかけたものの、むつばにピシャリと撥ね付けられた。
「聞きとうない。やめよ」
 一端はめるべも口をつぐんだが、タガが外れたか栓を抜いた酒瓶を逆さまにしたかのように想い人たる女性の話をし続ける。
 出会いから、芽生えた感情、そして恋の自覚……。
 止めても止まらぬめるべの語りを聞くしかない、むつばの握った石の置き場に悩む思考が千々に乱れる。
 彼の口をふさげないので、自分の耳をふさげればよかったがそんなあからさまな拒絶の態度はどうしても取れなかった。そんな態度をとったら、まるでむつばがめるべのことを好いているようにしか見えないではないか……。
「というわけで、むつ。今夜は、す」
「やめよ」
 とうとう耐え切れずに声を上げたら、
「酢豚に鳳梨で祝ってくれ」
 と夕飯のメニューの話だったらしい。
「……お主という奴は」
 紛らわしいにも程がある、とむつばは呆れ返った。
「酢豚にパイナップルな、あい分かった」
 ため息をつきつき、白黒の石を片付けだすむつば。いつしか勝負は明白に決していた。むつばの心中と同じような色に。
「むつよ」
「今度はなんじゃ」
 胡乱な目をむけると、めるべは少し気遣わしげにむつばを見ていて、むつばはきょとりと眇めていた目を丸に戻す。
「ひとつ聞く」
「だからなんじゃ」
「……お主、本当にわしに好きな奴がいても許せるか?」
 先ほどまでの余裕ぶりはどこにいったのだ、と言いたくなるようなめるべの気弱な問いに、むつばは肩をすくめた。
「……別に構わぬ、合縁奇縁じゃからな」
 相手が気弱になってくれれば、むつばもいつも通りに戻る余裕が出てきた。不敵に笑みすら浮かべて、むつばは言ってのける。
「寧ろ、好きにせよ」
 めるべが好きになる相手が男だろうが女だろうが、自分には関係がない。とすらむつばは、言ってのけた。
「じゃが、これだけは言っておく」
 遊び終わった盤と石を元通り箱に収め、むつばはめるべを強い視線で穿った。
「誰が誰を好いていようと、わらわ達はウィンクルム。人を脅かす悪を討ち、時には正さなけばならん。決して忘れるでないぞ」
 虚を突かれたような顔でそれを聞いためるべは、何を言い出すのだと言わんばかりに目を閉じて息を吐いた。
 そして笑う。
「わかっとるわい」
 そして箱を元の位置にしまいこむために、めるべは立ち上がると、むつばを見下ろし得意気に言い放った。
「逆にお主の恋人が誰であろうと、パートナーは、わし以外つとまらんからな」
 互いの視線が交差する、しずかなしずかな雨の朝。

●今までもこれからもずうっとトモダチ
「好きな奴できたんだ」
 セラフィム・ロイスは喫茶店のボックス席で、がつんと後頭部を思い切り殴りつけられた気がした。
「すぐバレるし言っておこうと思ってさ」
 と照れくさげに頭を掻くタイガに、セラフィムは呻くように言う。
「僕の事、はどうしたの?」
 うぬぼれたような台詞になってしまったけれど、はっきりさせておかねばならない。
 なぜなら自分の記憶が正しければ、タイガに先日告白されたのは自分だったはずだ。
「セラも好きだけど……もっと好きになった。告白しといて悪い」
 セラフィムは真っ直ぐな緑の視線を受けきれずに、目線を逸らした。
「ううん。はっきりさせなかったのは僕だ。無理ないよ」
 しばらく互いに黙ったままで時間が過ぎて、セラフィムは居心地悪げに身を僅かに捩る。今までなら、黙ったままでも平気だったのに。
「……彼女とは、どこまで?」
 沈黙に耐え切れずにセラフィムは聞きたくもない話を振った。
「あ、写真見るか?」
 待ってましたとばかりにタイガは写真を取り出す。
「ほら、この右にいるストレートの子!」
 と指差す先には理知的な雰囲気を漂わせる美しい女性が微笑んでいる。
 ぺらぺらとタイガは楽しそうに彼女の話をし続けるのだが、セラフィムには三割も伝わってこない。
 言葉が脳を上滑りしていく。照れているタイガの顔もよく見えない。
(一緒に喜んで応援してあげるのが、きっと。でもこれ以上は)
 セラフィムは俯き、立ち上がった。
「頑張って。僕、調子悪いから……今日は帰るね」
 震えそうになる声を抑えるだけで精一杯で、顔まで作れていたかどうかわからない。
「あ……無理すんなよ」
 と視線だけでセラフィムを見送ってくれるタイガ。
 セラフィムの喉の奥がひりひり痛くなった。

 しばらくセラフィムはタイガを避ける日々が続いたが、ウィンクルムとしての仕事は容赦なくやってくる。
 デミオーガを数体片付けるだけの簡単な仕事だ。セラフィムは現場でタイガと落ち合う。
「今日は、頑張ろうね」
 上手くいつも通りの表情を作れているだろうか、とセラフィムは不安に思いながらタイガに話しかけた。
「おう! でも締め出しはねーだろ」
 いつも窓から出入りして楽しく談笑していた仲だったので、急にセラフィムがタイガの訪問を受け入れなくなったことに対して、タイガは不満らしく眉をひそめている。
「その、体調優れない日が続いてさ」
 セラフィムは言い訳を口にする。いや、ずっと苦しい思いをしていたから、あながち嘘ではないけれど。
「ならいいけど」
 タイガが不審がっていないようなので、いつも通り喋ることはできているようだ、と胸を撫で下ろすセラフィム。
 トランスをして、気負いこんだタイガが敵に向かって走り始める。
 自分に背を向けて走って行く姿が、どうにも寂しくて、セラフィムはとっさにタイガの名を呼びながら、彼の服の裾を掴んでしまった。
「わ?!」
 と驚くタイガに、セラフィムも自分の行動に驚いたように手を裾から離す。
「あ……ごめん。裾が曲がってて気になって」
「なんだ。驚いた」
 軽く笑ってタイガは今度こそ敵を打倒しに走って行ってしまった。
(そのまま、何処かに行ってしまいそうだ……。辛い。どれだけ好きかなんて今更……思い知りたくない……)
 セラフィムが物思いにふけっている間にあっという間に片が付いて、タイガは晴れやかに笑いながら戻ってくる。
「終わった終わった」
「お疲れ様」
 それ以上に重ねる言葉が見つからない。
「彼女の所、いってあげて」
「おう後は任せた」
 帰っていくタイガを、セラフィムは切なく見つめる。
(ずっと傍にいたい。だから苦しいのは辛いから、好きなんて忘れたい……)
「ずっと……友達だ」
 その呟きはまるで血を吐くように。

●笑ってお祝いしたかった
 最後の皿を持ち上げかけて、信城いつきは一旦皿を調理台に置くと、ぱんっと自分の頬を張った。
「恋人じゃなくても俺の事は大事に思ってくれてるレーゲンが幸せになるんだ。だから……笑えっ」
 契約精霊のレーゲンが他の人と結婚するのだと聞かされてからのいつきの毎日はまるで、濁流に飲み込まれて流されるようだった。ろくに何も出来ないまま、あれよあれよという間に明日が結婚式の日になってしまっていた。
 シンクの蛇口に映る自分とにらめっこして、ようやく納得できる笑顔を作ったいつきは、その表情を崩さないようにして、皿を持ち直して素早く食卓へと向かう。
「頑張ってレーゲンの好きな料理いっぱい作ったよ」
 こうやって俺が作るのも、最後だろう。と内心寂しく思いながら、いつきは、レーゲンの前に皿をおいた。
 ずぅらりとテーブルいっぱいに並んだ料理は、心尽くしのものだった。温かいものは温かく、冷たいものは冷たいように、最も美味しいタイミングで食べることが出来るようにと気を使って配膳されている。
「ありがとう、全部私の好きなものばかりだね」
 椅子に座ったレーゲンは微笑む。だが、いつきの作り笑いなどレーゲンにはお見通しだった。
(……辛いね、いつき。伝わってるよ)
 こんなに分かってしまう間柄なのに、レーゲンは別の女性と結婚することを決めたのだ。
「いつきは、いい子だね。……ごめん」
 いつきは、『裏切った』レーゲンや結婚相手をひとつも責めることなく、祝福すらしてくれようとしている。
「謝らないで。謝るようなことしてない」
 パッと顔をあげて、大きな声で言った後、ぼろりといつきの大きな瞳から涙がこぼれ落ちる。
「あ……」
 はっとしていつきは涙を拭うが、ちっとも涙が止まってくれなくて、焦ったように目をこする。早く止めなくては、レーゲンが心配してしまう。
「いつき……!」
 案の定、レーゲンは立ち上がり、いつきを抱きしめた。
「私だっていつきが大事なんだ。笑っていて欲しいんだ」
 この行動全て、言葉含めて、いつきを追い詰めてしまうと分かっていても、レーゲンはこうするしかなかった。
「意地悪だね、ごめんなさい」
 しゃくりあげ、いつきはレーゲンの背に腕を回した。明日からは別の人のものになるけれど、今日はまだ。
「俺はレーゲンが幸せになれば嬉しいんだ。本当だよ。明日はちゃんと笑ってお祝いするよ」
 だから今だけは、とレーゲンの婚約者に心のなかで言い訳をして、いつきはレーゲンにしがみつく。
「だから……今は何も聞こえないよね」
「うん、何も聞こえないよ。安心して」
 レーゲンは優しく言って、いつきの頭を撫でる。
 抱きしめることも、頭を撫でることも、必死で自分の気持ちを抑えようとしているいつきを迷わせるような行動だと、大人のレーゲンは解っている。
 どうか彼が幸せになりますように、と願う資格もないのに祈ってしまう。自分がいつきを苦しめて泣かせているくせに。
(本当に私は図々しい偽善者だね……)
 レーゲンは内心自嘲した。
 彼女もいつきも裏切った行動をとっている自分。こうしかできない自分。もっと上手く立ちまわることができていたら、いつきは泣かずに済んだだろうか。
 どんどん温かい料理が冷めて、冷たい料理がぬるくなっていく食卓。
 いつきの最後の気遣いすらも台無しになっていくけれど、レーゲンは泣きじゃくるいつきを手放せなくて、ずっと彼の頭をことさら優しく撫で続けた。

●しあわせ、しあわせ?
 初瀬=秀は自分の喫茶店の店じまいをしながら、
「あー、……イグニス。話がある、時間いいか?」
 イグニス=アルデバランを呼び止めた。
 シャッターを閉め、すっかり客が居なくなった店で秀はイグニスに面映そうに告げた。
「あの、な、紹介したい人がいる」
 頬を染めて、幸せそうな顔で言う彼を見て、イグニスはうっすら何の話をされるのか察していた。
「ご家族ですか?」
 それでも僅かばかりの逃げ道を探るように水を向けてみたが、
「いや家族じゃない、そういうんじゃなくて……か、かの、じょ……?」
 ますます事態が案の定悪い方向に走っただけだった。
「はぁ。あの逃げた人戻ってきたんですか。だったら一発ちょっとゴアイサツをしなくてはなりませんね」
 イグニスのどこか上滑っている口調にも気づかず、秀は柄にもなく一人大騒ぎをしだす。いつも冷静な秀なのに、空回り気味になっているのは、それだけ彼の心が浮ついているからだろう。
「ちょ、まてまて落ち着け! あいつじゃない。誰があれと復縁なんぞするか! あーその、別の人だ!」
 秀は、結婚式間際に婚約者に逃げられた過去がある。そのショックで顕現したくらいの大きな事件だから、イグニスも知っている。
(大騒ぎする秀様もかわいらしいですね)
 とイグニスはどこか冷えた頭でぼんやり思いながら、年甲斐もなく照れる秀を眺めている。
「お前のおかげだよ」
「はぁ」
「こうして前に踏み出せたのも、誰かと歩こうと思えたのも。ありがとな、イグニス」
 私は私と歩いて欲しかったんですけどね、とは言わず、イグニスは秀の笑顔を見て、やはりカワイイとだけ思う。
「その……お前にも、会ってほしいし、どういう人か知ってほしい。大事な『相方』だからな」
 と頬を掻く秀は、イグニスが返事をしないことにようやく気づいたらしい。
「どうした?」
 だがひょいと視界に映った時計が、それなりに深い時間であることに気づき、秀は苦笑する。
「って結構いい時間だな、詳しくはまた今……」
 不意に鳴り出した秀の携帯電話に、秀は顔をほころばせる。着信相手は恋人だったらしい。
「悪い。また、な……。もしもし?」
 イグニスにおざなりに手を振って、秀はすっかり電話の向こうの世界に夢中になっている。
 それでも礼儀として会釈だけ返したイグニスは、喫茶店を後にする。
 街灯のポツンポツンとした灯りの下、イグニスは肩を落とした。
「適当に相槌打ってたんですがばれたでしょうか……」
 適当な相槌でも気にはしそうにないが、とイグニスはため息を吐く。
 見上げれば、ルーメンの月がまんまるに南に鎮座していた。
「秀様の幸せが私の幸せで笑ってくれれば私も嬉しいとそう思ってたんですが……」
 その幸せの枠内に自分が居ないと、寂しくて、苦しいものだったのだ。とイグニスは初めて知った。
 しょぼんと肩をすぼめて足元を見ながらイグニスはしばらく歩いていた。
 が、
「……いえ!」
 ふいにがばあっとイグニスは顔を上げた。深夜だったので往来には人こそいなかったが、香箱を組んでいた野良猫が驚いて駆け去る。
「落ち込んでいる場合じゃありません。まだ諦めませんよ!」
 ぐっと拳を握って、イグニスは月に誓う。
「好意を持ってくれているならまだ十分チャンスありですよ!」
 うんうんと一人頷き、イグニスは思い浮かべた秀に宣言する。
「見てて下さい、絶対振り向かせて見せるんですから! 『相方』のままで私が納得すると思ったら大間違いですから!」
 好きな人がいようがイグニスは、へこたれるつもりなど毛頭ない。
 近日紹介されるであろう秀の彼女を、いつまでもその座に座らせておくつもりはないイグニスだ。
「秀様の隣は私が頂きますからね!」
 晴れやかな笑顔で、イグニスは星空に向けて両腕を突き上げた。

●悲しい歯車は咬み合わない
 スウィンは、不思議とイルドの言葉を素直に受け入れている自分に気づいた。
(いつかこんな日がくると思ってた)
 目の前には、
「悪い、他に好きなやつができた。……別れてほしい。自分が最低なのは、勝手な事言ってるのは分かってる。気が済むまで殴ってくれてもいい。でも気持ちに嘘はつけねぇ!」
 と一気に言い切って、机に手をついて土下座めいた形で頭を下げたまま微動だにしないイルドが居る。
 スウィンは目を閉じ、ゆっくり息を吸う。
(一時的にでもイルドと恋人になれたのが奇跡よね。楽しい時間はあっという間だったわ)
 でも夢は終わったのだ。
 だから、ゆっくりと目を開いてスウィンは優しい声音で、平伏したままのイルドに言った。
「……全然気にしなくていいわよ」
 イルドが顔をおずおずと上げるのを、スウィンはそんなに怖がらないでよ、と一笑に付す。
「……そう言ってくれると助かる、ありがとな」
 ほっとしたようにイルドはようやく強張った表情をゆるめた。
「それより、可愛い子なの?」
 いかにも『友人として』興味津々です、という雰囲気でスウィンはイルドに尋ねると、イルドは、遠くを見つめるように焦点をスウィンからずらし、微笑んだ。
「すごく……いいやつなんだ」
(よほど好きなのね、顔に出てるわ)
 スウィンはうそ寒い思いを打ち消すように、ことさら大きい声を出し、満面の笑みでぱちんと手を叩いた。
「きっと両思いよ!」
 スウィンは愛らしく首を傾げ、明るく言ってのける。
「これからは普通の仕事仲間に……友達になりましょ。今までありがとね!」
「ああ。落ち着いたら紹介する。仕事はちゃんとやる。今まで通りあんたを守る」
 じゃあ、約束があるから。とイルドは立ち上がってしまった。
「あ、うん」
 と笑顔で手を振って見送って……、イルドが完全に見えなくなってからことんとスウィンは表情を失った。
「……いままで、ありがと、ね……」
 つうっと一筋だけ涙が流れた。
 ――さよなら、俺様の恋心。

 早々に次の任務の日がやってくる。
「相手はデミオーガか。あっという間に終わりそうだな」
「そうね。ぱぱっとやっつけちゃいましょ」
 という言葉を交わした後、おおまかな動き方を再確認してから、イルドは当然のようにスウィンに頬を差し出した。
 スウィンも一旦は唇を寄せようとしたが、ハッとして固まってしまった。
(イルドには他に好きな人がいるっていうのに、おっさんがキスしちゃっていいのかしら……)
 まったく動こうとしないスウィンに焦れ、イルドはスウィンに不審げな視線を向ける。
「おっさん、トランスを……。どうした?」 
「あ、えっと。その……敵はデミオーガだし、トランス無しでいいんじゃないかしら?」
 へらりと笑って、スウィンは今日はトランスには及ばないと言う。
「……分かった。気をつけろよ」
 イルドは一瞬、ハイトランスをしたほうが楽なのではないか、と言いかけたが、確かに今日の敵はハイトランスしなければ勝てないような相手ではないから、納得する。
 ぎくしゃくした空気に少し居心地の悪さを覚えながらも、イルドは武器を構えて敵へと向かっていく。
「はぁっ……」
 なんとかごまかせた、とスウィンは肺腑の底から息を吐く。しかし次はない、とスウィンは分かっていた。
 相手がオーガであれば、トランスしなくては勝てないからだ。スウィンやイルドの練度であれば、近いうちに必ずトランス・ハイトランスしなくてはこなせない仕事が回ってくる。
 ――今まで通りあんたを守る。
 先日のイルドの言葉を思い出し、スウィンは苦く眉を寄せた。
「今まで通りって……難しいわよ……」
 でも、とスウィンも武器を握った。
 ここで呆けている訳にはいかない。自分も戦わなくては。
 今までのように『恋人』を守るためではなく、これからはイルドを好きな人の場所に無事に帰すために守る。
 そのスタンスの違いに慣れる日がいつか来るのだろうか?

●夢の浮橋
 フィヨルネイジャで目覚め、今までのことは夢幻だったと気づいて。
 どうしたの、と尋ねる精霊に、セラフィムは
「傍にいて。それだけでいいから」
 と訴え、
「もう心配ねぇ。俺が守ってやる」
 とタイガにしっかりと手を握られた。
 いつきは、
「俺の事好き?」
 と尋ね、
「……好きだよ。誰よりも好きだよ」
 とレーゲンにしっかりと断言された。

 ああ、現実の君は優しいね……。



依頼結果:成功
MVP
名前:スウィン
呼び名:スウィン、おっさん
  名前:イルド
呼び名:イルド、若者

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あき缶
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月15日
出発日 06月22日 00:00
予定納品日 07月02日

参加者

会議室

  • [5]セラフィム・ロイス

    2015/06/21-21:52 

    :タイガ
    おう!よろしくなー!

    セラが眠っちまった。待つことしかできねーって辛れぇな(PL:やっと決まった)
    プランは提出済みだけど・・・いい結果になるの願ってるぞ

  • [4]むつば

    2015/06/21-21:28 

    秀、いつき、セラフィムは初にお目にかかる。
    むつばと、精霊のめるべと申す。よろしく頼むぞ。

    一日の第一声に「好きな人ができた」とは、悪夢にも程がある。
    が、だから何なのじゃ?という返答はしないでおこう。
    とにかく、これが夢なら覚める事を願う。

    スウィンとは蝶衣で一緒になっておるが、改めてよろしく。


  • [3]スウィン

    2015/06/21-14:43 

  • [2]セラフィム・ロイス

    2015/06/21-14:28 

    プランが決まらないから挨拶できない・・・困った。まずどっちで行くかで悩んでいる(苦笑)
    もううっかりしても困るし先にしておくね
    僕、セラフィムと相棒のタイガだ。よろしく
    むつば達ははじめましてになるね。皆の健闘も祈ってるよ

  • [1]信城いつき

    2015/06/20-00:45 


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