


観光会社ミラクル・トラベル・カンパニー本社の一室では、今、企画会議が開かれていた。
「春だから、花見……というのは、いささか安直すぎないかね?」
部長然とした中年男性の言葉に、ホワイトボードを背にして立つ若手社員は大きくかぶりをふった。
「いえ、春だからこそ! です。もちろん、どの季節でも、花は咲いています。ですが、桜の花には特別な何かがあるのです。このタブロスでも、その近郊の都市でも、桜の開花時期の花見は人気です。毎年、会社ぐるみや町内ぐるみでそうした行事を行うところもあるとの調査結果が出ています。ましてや、プリメール公園は桜の名所として名高い所です。ここで、花見ツアーをやらなくて、どうしますか」
熱くまくしたてる社員に、男は小さく吐息をついて、他の者たちに意見を求めるかのように、そちらをふり返る。
「いいんじゃないですか。プリメール公園はいい場所ですし、今回の企画が成功すれば、毎年同じ時期に花見ツアーを開催ということもできますよ」
一人が賛成の意志を表明する。
「花見自体はそう珍しくはないが……銀色の桜を探す、というのはカップルには受けるんじゃないかね?」
別の一人も言った。
プリメール公園には、銀色の花の咲く桜が一本だけあると言われ、その前で告白すると成立したカップルは永遠に幸せになれるという伝説があるのだ。
若手社員は、その伝説を目玉に、カップルを中心とした花見ツアーの企画を立案したのだった。
やがて、若手社員の出した企画は採用され、『プリメール公園お花見ツアー』として商品化されることとなったのだった。
一ヶ月後。
タブロス市内のミラクル・トラベル・カンパニー各店には、『プリメール公園お花見ツアー』のポスターが貼られ、同時にパンフレットが並んだ。
それをたまたま見かけたA.R.O.A.の職員が、面白い企画だと、本部に持ち込んだ。その結果、ウィンクルムたちに参加を募ることになった。
そんなわけで。
その日はミラクル・トラベル・カンパニー本社の社員が一人、A.R.O.A.本部を訪れ、説明会を開いていた。
会場は本部の一画にある、中規模程度の会議室。
部屋を埋めたウィンクルムたちを前に、カンパニーの社員が説明の最中だ。
「こちらは、桜の名所として有名なプリメール公園でのお花見のツアーになります。出発は、一番近いもので、三日後ですね。当社が用意したバスで駅前を出発。昼前にはプリメール公園に到着しまして、そのあとはお食事やお花見、公園の散策などを楽しんでいただきます」
カンパニーの社員は、背後の大型モニターに映し出した写真を示して、にこやかに続ける。
「公園内には短い距離の散策路が二つあり、どちらも広場に通じています。今の時期は、いずれの散策路も種類の違う桜をご堪能いただけます。また、このツアーでは夜間、特別にライトアップされる桜を楽しんでいただくことができます」
夜間と聞いて、日帰りではないのかとの質問が飛ぶ。それへカンパニーの社員は、微笑んで答えた。
「もちろん、日帰りでございます。ただ、帰路に着く時間は、夜の九時ごろとなります。……というのも、このツアーの一番の目玉が、夜の桜を楽しんでいただく、というところにあるからなのでございます」
カンパニーの社員は秘密めかして言うと、手元のパソコンを操作して、モニターの映像を変える。今度のそれは、写真ではなく銀色の桜のイラストだ。
「プリメール公園には、ちょっとした伝説がございまして……この銀色の花の咲く桜を、夜桜を楽しんでいただきながら、みなさんに探していただこうという趣向なのです。……いかがでしょうか?」
意中の人がいるなら、楽しくなりそうなツアーでございますよ? と付け加えて、カンパニーの社員は微笑んだ。
そのあとは、事前に配られたパンフレットを参照しながらの、説明となった。
パンフレットによると。
参加費用は一人200ジェール。
弁当や飲み物は持参可能だが、現地で一つ50ジェールでの販売もあると書かれている。また、参加費用の中には、公園の広場に並ぶ屋台で使える買い物券10枚の代金も含まれていて、ここでの買い物は一応、タダということらしい。
その他にも、公園側がこの時期、売り出している野菜や肉、タレと道具一式がセットになった『お手軽焼肉セット二人用』は、1000ジェールで買えるとある。
さて。
あなたは、どうしますか?


春の一日、お花見を楽しんで下さい。
■場所:プリメール公園
■日帰り
■参加費用:200ジェール
■弁当代:50ジェール(持参される方は、この分は不要です)
現地にて、屋台でのお買い物券10枚綴りが一人一つずつ配布されます。
これを利用して、屋台での買い物をお楽しみ下さい。
なお、『銀色の桜』はあくまでも伝説です。
あなたの見つけたそれは、もしかしたらミラクル・トラベル・カンパニーがこの企画のために用意した偽物かもしれません。
もちろん、『本物』の可能性もありますが――それは、あなたの運次第、ということで、ご容赦願います。
お世話になっています。
マスターの織人文です。
このページを閲覧いただき、ありがとうございます。
今回は春らしく、お花見のツアーを企画してみました。
春の一日、お花見と伝説の桜探しを、どうぞお楽しみ下さい。


◆アクション・プラン
高原 晃司(アイン=ストレイフ)
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花見かー!やっぱ春といったら花見だよな 銀色の桜がありそうな場所を情報収集しておくかな ここで働いてる人とかだったら何か知ってそうだし 銀色の桜探しは集まった情報を元に探してみるぜ 人気のない所に行かないとやっぱねぇのかな? 「なぁなぁアインちょっと道外れて探してみようぜ」 ちょっとした遠足にもなるしな! それに銀色の桜を独り占めにできるしな もし、銀色の桜を見つけたらブルーシートを広げて弁当を食べようかな 「よっし、アインここいらで弁当にしようぜ」 んでもって酒も出しておく 俺は飲まないけどな 「ほれ、花見といったら酒だろ?折角だし呑んでおけ」 ほら、花見だし楽しみたいだろ? |
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春の桜…って肉食うようなモンだっけ? どっちかっつーと弁当だった様な。 まあ美味いからいいけどさ (お手軽焼肉セット二人用買ってmgmgウマー っても花粉症な奴には地獄だろうけどな。 あ、タレ取って。 所で精霊って花粉症とかなんの? 銀の桜だってさ。 何というかありえなさそーな話だよな。 んー…や、行く。 眠くなってきたし、少し運動? ガロンも行く? ってもドコ探すかだよなあ。 んな花とか見つかる気しねえわ。 ん? 銀色の花の咲く桜だっけ? なら木ごとに見て行けばいいのか(ぶつぶつ考え出す まあ春は花見、ってぐらいだし。 悪くは無かった…よ、な? |
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憂げ。ぎこちなく返答 花見は初めてで楽しみだった… 思い出す コンクールの密集した空間、詰まる息。失態 視線、鏡の暗い自分 集団でいると違いを実感する 何ももってない…僕は 写真をさけ 「悪い。時間までには戻る…」 つかむタイガに 「タイガとは違うんだよ!」 振り払い逃げる 何やってるんだ もらった命を逃げて生きて 悲しませて…? ■ 木の陰で泣けて 「…居づらくて、 タイガ…一緒にいてくれるか? 当たる事があるかもしれないけれど 甘えてたんだ…冷たくしてもきてくれるか試してた 最低だ」 (また助けられたな) ◆ 「崩れたメイド特製洋風重箱)ごめん… 花見、きて良かった」 一緒なら後ろ向きな僕でも前を向ける気がするから 生きたいと思った時のように |
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「おし、伝説とやらを探しに行くぞ、坊主!」 久しぶりの興味深い題材にテンションが高い 弁当とお茶入り水筒は持参、内容は甘味の詰め合わせ、坊主の場合は飯よりこっちのが喜ぶからな 伝説と言われるだけあって人目のつくような場所にはないだろうからなぁ、あまり人が行かないような場所を訊ねて歩いてみるかね まぁ、見つかれば儲けもの、無ければ無いで適当な所で坊主を休ませてやるかな、眺めの良い場所を見つけて二人でシート広げて休むとしよう 見つかれば…そうだな、それを肴に二人で夜会もいいかな 「ま、坊主には華より団子かねぇ…ちゃんと作ってきたぜ、お前さん好みの菓子をいくつか」 |
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■心情 契約直後に仲良くなるためツアー申し込み 俺はクレメンスってイケメンだと思うけどな ■行動 銀の桜を探そう そこで告白してOK貰えたら永遠に幸せになるんだって でも見晴らすにも高い所ないし、走り回るしかないか? もし無くても時間を見て話をしよう 契約受けてくれてありがとう 大事にするし、後悔させないって約束する だから、友達からよろしくな? クレメンスって長いからクレミーでいいか? 俺の事もアレクスで それと一緒に暮らそう 毎回森から出てくるの、大変だろ 握手した瞬間に思い切り引き寄せ 事故起こさないように顎先を持って頬にキス これで赤面って可愛いな トランス時は強引に行くから問題ないし、可愛いから是非そのままで |
●銀色の桜を探して
お花見ツアーのバスは、予定どおり昼前にプリメール公園へと到着した。
バスから降りた高原晃司に、精霊のアイン=ストレイフが尋ねる。
「着いたが、どうする?」
「銀色の桜を探そうと思うんだ。……俺は情報収集して来るから、アインは弁当買ってきてくれ。あと、酒も」
「酒?」
眉をひそめるアインに、晃司は笑って付け加えた。
「俺が飲むわけないだろう。おまえ用に」
「ふん。気を遣わなくてもいいんだぜ」
小さく口元をゆがめて返すアインに、晃司は告げる。
「そうじゃなくて。花見って言ったら、大人は酒だろ。好きなの買ってくればいい。弁当もな」
「わかった。行って来る」
うなずくと、アインは立ち去って行く。
一方晃司は、公園で働く人たちに、銀色の桜について尋ねて回った。
だが、これといった手がかりは、何も得られなかった。
「伝説っていうだけに、手強いな」
元の場所に戻って、晃司がぼやいているところへ、アインが弁当の袋を手に戻って来る。
それへ結果を伝え、今思いついたことを、晃司は提案した。
「人気のない場所を、探すんだ」
伝説の桜というぐらいだから、きっと人目につかない場所にあるはずだと。
アインも賛成したので、二人は広場から続く二つの散策路を避け、道らしい道もない木々の間に分け入って行った。
長身の精霊に遠くと上方の担当を振り分け、晃司自身は下方や近くを探すことにする。
アインは言われたとおり、遠くへ目をやった。
二メートルの長身から見渡す視界は、一面が桜色の雲に覆われてでもいるかのようだ。そこに咲いているのは、形も種類もさまざまで、色も薄いものは白から薄墨、濃いものはピンクに紅と色とりどりだ。
だが、銀色というのは見当たらない。
一方、晃司も相棒よりは低い位置から、あたりを忙しなく見回しながら歩いていた。
やがて。
「あ……! あれ……!」
歩き始めて、三十分は過ぎただろうころ。晃司が一本の桜を指さした。
「あれ、銀色に見えるだろう?」
問われてアインは、軽く目を眇める。
「銀色というか……何か光っているように見えるぜ」
慎重に答える彼に、晃司は「確かめてみる!」と叫ぶなり、駆け出した。
たどり着いた桜はしかし、銀色ではなかった。
「光っていたのは、あれだぜ」
アインが、木の上方を示して言う。そこには、丸まったアルミ箔が引っかかっていた。誰かが放置したゴミが、風で飛んで来たのだろう。
「残念。……でも、まあいいや。ここで昼だ」
それを見やって、晃司は小さく吐息をついたものの、すぐに笑って言った。
「ああ」
アインもうなずく。
桜の根方には、二人が座るのに充分なスペースがある。二人はそこに持参したブルーシートを敷き、さっそく弁当を広げた。
「この弁当、小学生の遠足みたいだ」
晃司が笑う。弁当のご飯の部分は、鶏そぼろと炒り卵、桜でんぶで三色に分けられていた。おかずは、タケノコと山菜の煮物に菜の花のおひたし、フキノトウのてんぷらと桜エビを散らした掻き揚げが入っている。
「華やかだし、いろいろなものが入っている方が、あんたは喜ぶだろ?」
アインが返した。
「ああ」
子供のように笑ってうなずき、晃司は弁当を食べ始める。
それを小さく目を細めて眺め、アインも自分の弁当を開けた。
●仲良くなるために
アレクサンドル・リシャールがこのツアーに参加したのは、契約したばかりの精霊、クレメンス・ヴァイスと仲良くなりたいためだった。
到着したら、まず銀色の桜を探そうと彼は考えていた。その前で相棒に、話したいことがあるのだ。
「あんさん、パンフよう読んだん?」
バスを降りて、桜探しについて話すと、クレメンスは呆れ顔で訊いて来た。
「適当な場所探して、そこで弁当食べる方が、ずっと建設的や思うけどな」
「いいだろ、別に。……伝説の桜がどんなのか、興味あるんだ」
伝説の桜を探す理由を今は言いたくないアレクサンドルは、小さく口を尖らせて返す。そのまま、足早に二つの散策路のうちの一つへと向かった。クレメンスも、溜息を一つ落として、あとを追う。
しかし、銀色の桜は見つからなかった。
公園内には、たくさんの桜が植わっている。色も白やピンクや紅とさまざまだ。
彼は、精霊と二人で公園中を走り回って、銀色の桜を探した。
だが、そんな色のものは、どこにもない。
そんな中。
「あ……!」
疲れ果てて寄りかかった木を見上げて、アレクサンドルは思わず声を上げた。
その木に咲く花が、銀色に見えたのだ。だが、すぐに気づいた。それは光の加減でそう見えただけだと。
落胆して、思わず彼はその場に座り込む。
「そんなに簡単に見つかったら、伝説言わんの違う?」
慰め顔に言う精霊に、彼もそれもそうだと思い直した。それに、自分の目には銀色に見えたのだ。それでいいのかもしれない、とも思う。
立ち上がると、彼は相棒に向き合った。
「契約受けてくれて、ありがとう。大事にするし、後悔させないって約束する。だから、友達からよろしくな。……クレメンスって長いから、クレミーでいいか? 俺のこともアレクスって呼んでくれればいいから」
言われて、クレメンスは目を見張る。
「これ言うために、あんなに真剣に桜を探してたん? あほらし」
「あほって……」
言葉を失う彼に、クレメンスは小さく吐息をついた。
「別に、それでええよ」
あっさり了承されて、アレクサンドルはホッとして笑う。そして、続けた。
「じゃあ、もう一つ。一緒に暮らそう。毎回森から出て来るの、大変だろ」
聞いた途端に、精霊は眉をしかめる。
「そっちは却下やね。……知らん相手と、いきなり同居とか言われても、困るんよ」
「でも……」
「却下」
何か言いかけるアレクサンドルに、クレメンスがぴしりと返した。
「……わかった。じゃ、これからもよろしくな」
しかたなくうなずいて、アレクサンドルが手を差し出す。
「あ……。うん」
うなずいて、クレメンスもその手を取る。
途端。
「わっ……!」
強く引っ張られて、そちらへ倒れ込みそうになった。足を踏ん張ってこらえ、彼の手をふり払う。
「何すんのえ!」
「ちぇっ……! 失敗した」
思わず声を上げる精霊に、アレクサンドルは笑って頭を掻いた。
「悪い。悪戯して、びっくりさせてやろうと思ったんだ」
「悪戯て……悪質すぎるえ」
精霊の方は、頬を赤く染めて言い募る。
「だから、悪いって」
少しも悪いと思っていない顔で謝って笑うアレクサンドルに、クレメンスは深い溜息をついた。
●眺めのいい場所で
「おし、伝説の桜とやらを探しに行くぞ、坊主!」
テンション高く叫んで、ツアーに参加した相良光輝に対して。
「はあ? ちょ、一人で行けよ!」
彼の精霊、ライナス・エクレールは、けんもほろろに拒絶した。というのも、こちらは花にも伝説にも、まったく興味がなかったからだ。それでも同行したのは、一人になるのが嫌だったからにすぎない。
なので、見事な桜で一杯の公園を見ても、さほど感動した様子もない。
「ここまで来たんだ。伝説の桜探しに付き合ってくれよ。弁当は、おまえさん好みの菓子詰めだ。そいつを、伝説の桜の下で食べるってのは、悪くないだろう?」
「本当か? そういうことなら、付き合うぜ!」
甘いものが好きなライナスは、たちまち機嫌よくうなずく。
そんなわけで。二人は銀色の桜探しを始めた。
相良は、桜は人気のない場所にあるだろうと考えた。そこで、二つの散策路を逸れて、道のない、人の少ない場所を訪ね歩く。
公園の桜の数はかなりのもので、色も形も種類もさまざまだ。
だが、銀色のものなど、どこにもない。
「相良~ぁ、腹減った。そろそろ、弁当にしようぜ~」
公園内を歩き続けるうち、ライナスがへこたれた声を上げる。
「そうだな」
桜はみつからないが、たしかに腹は減ったなとうなずき、相良はあたりを見回した。
そこは公園のはずれのようで、少し行ったところに公園の出口らしい門がある。その門の向こうに、ゆるい登り坂が見えた。
「どうせなら、眺めのいい場所で食べようぜ」
言って相良は、そちらへ歩き出す。
「おう!」
食べると聞いて、ライナスもうなずき、あとに続いた。
坂は短く、それほど高い場所ではなかった。だが、眺めは悪くない。公園の桜が、たなびく紅色の雲のようだ。
さっそく二人は、持って来たシートを敷いて弁当を広げた。
相良が持参して来た弁当は、なるほど菓子の詰め合わせだった。いちご大福に桜餅、ベリータルトに、フルーツサンド。バスケットには、甘い香りのする菓子類が、たっぷりと詰め込まれている。対して水筒の中身はそれらに合うよう、濃く入れたお茶だ。
「うぉ! 相良、がんばったなあ!」
菓子弁当に、ライナスは目を輝かせて、感嘆の声を上げた。
「美味い! 相良、天才だぜ!」
さっそく手を伸ばして、ベリータルトを口に入れ、絶賛の叫びを上げながらそれを咀嚼する。
「坊主には、花より団子ってとこだなあ」
その食べっぷりを楽しげに眺めて、相良は呟いた。
バスケットの中の菓子たちは、またたく間にライナスの胃袋に消えて行く。
そうして食事が終わると、彼らは広場に戻り、屋台を見て回った。
「なー、相良。あれいいだろ?」
あれだけ菓子を食べたにも関わらず、ライナスは屋台の甘いものにも手を伸ばす。ソフトクリームに、綿飴、リンゴ飴と、まるで子供のようにはしゃいで手にし、いかにも美味そうにそれらをたいらげる。
バスを降りる前にもらった無料券は、たちまち減って行った。が、相良の方も、楽しげだ。
「ほんっと、坊主には花より団子だなあ」
笑みと共に呟いて、あれもあれもと次の屋台に向かう相棒のあとを、のんびりとついて行くのだった。
●雨降って……
バスを降り、セラフィム・ロイスは人の多さに小さく唇を噛んだ。
「セラ?」
精霊の火山タイガが、心配げに声をかけて来るのへ、大丈夫と微笑んでみせる。
ツアーに参加しようと誘ったのは、タイガの方だった。セラはぎこちなく了承したものの、初めての花見を、楽しみにしていた。
けれど。
戸外の開放的な空間のはずなのに、人の多さに息苦しさを感じる。過去に犯した自分の失態が、その時の周囲の人々の射るような視線が、ふいに脳裏によみがえり、彼の胸をしめつけた。
「セラ、大丈夫か?」
顔色の悪いセラフィムを、タイガは心配げに覗き込む。
銀色の桜を見せてやりたいと、勢いだけでここに彼を連れて来たタイガだ。どこか苦し気な姿に、不安になる。
「大丈夫だ」
答えてセラフィムは、なるべく人気の少なさそうな方へと歩き出した。タイガも慌てて、そのあとを追う。
二人が足を踏み入れたのは、二つの散策路の内の一つだった。人の姿は少なく、どことなくひっそりしている。
少し歩くと、一際艶やかに咲く紅色の桜に出くわした。
「セラ、笑って」
低い位置にある花に手を伸ばすセラフィムに、タイガはデジカメを構えて声をかける。ふり返ったセラフィムの顔が、カメラを目にした途端、こわばった。写真が、苦手なのだ。
「悪い」
低く言うなり、タイガに背を向け、歩き出そうとする。
「おい……!」
慌てて駆け寄り、肩をつかむタイガの手を、彼は邪険にふり払った。
「僕はタイガとは違うんだ。写真とか、楽しいと思えない。……つきあいきれないよ!」
叫ぶなり、そのまま駆け出す。
「セラ!」
タイガの呼ぶ声が聞こえたが、かまわず走る。
ようやく彼が足を止めたのは、一つだけぽつんと離れた場所に咲く、白い枝垂れ桜の傍だった。
幹に背を預け、上がった息を整えているうち、涙がにじんで来た。
「何やってるんだ……僕は……」
低い呟きが、口をつく。タイガが自分を楽しませようとしていることは、わかっている。なのに……。きっと、彼を傷つけてしまったに違いない。
そこへ、タイガが追いついて来た。
「セラ!」
彼の姿を見つけて、駆け寄って来る。
「セラ、ごめん。オレ……ただ、記念に何か残したくて……」
しどろもどろに謝るタイガに、セラフィムはかぶりをふった。
「悪いのは、僕の方だ。……僕がタイガに、甘えてたんだ。……ごめん」
「そんなの、気にしてないって。だってオレたち、友達だろ」
怒っているわけではないと知って、タイガは明るく笑って返す。そして、広場で弁当を食べようと、誘った。
セラフィムもうなずき、二人は並んで広場へと戻る。
広場の一画にある桜の根方に、シートを敷いて弁当を広げた。弁当は、ロイス家のメイドたち特製の洋風重箱だ。
だが。中は、ぐちゃぐちゃだった。
「ごめん……。僕が、持ったまま走ったせいだ……」
「大丈夫だって。食べればいっしょ」
しょんぼりと肩を落とすセラフィムに、タイガは唐揚げを一つ、口に放り込んでみせる。あっという間に咀嚼して飲み込み、にっと笑った。
その笑顔にセラフィムは、ふと思う。彼と一緒ならば、自分もこうして太陽の下、同じように笑っていられるに違いないと。
●焼肉と腹ごなし
広場の一画から、煙と共に香ばしい肉の焼ける匂いが漂って来た。
プリメール公園内で売られている『お手軽焼肉セット二人用』を買って、さっそく焼肉に取り組んでいるのは、大槻一輝とガロン・エンヴィニオの二人だった。
「春の桜……って、肉食うようなモンだっけ? どっちかっつーと弁当だったような」
肉をほおばりつつ、一輝が首をかしげる。
「そういう趣向もあるんじゃないか?」
焼けた肉と野菜を、一輝の皿に取ってやりながら、ガロンが言った。
「ふうん。……まあ、こうやってセットを売ってるんだから、そういうのもありか。それに、美味いもんな」
曖昧にうなずいて、一輝は皿の肉に箸を伸ばす。
「肉ばかっりじゃなくて、野菜も食べろ」
それを見咎め、ガロンが声をかける。
「へいへい」
いい加減にうなずいて、一輝はおざなりにピーマンのかけらを箸でつまんで口に入れた。
「にしてもここ、本当に桜まみれだな。……花粉症な奴には地獄だろうな」
思いついたように言って、一輝はガロンにタレを所望する。
言われたものを差し出すガロンに、またまた思い付きで一輝は訊いた。
「ところで、精霊って花粉症とかなんの?」
「さてさて。少なくとも、俺は違うな」
答えつつ、ガロンは自分も焼けた肉と野菜を皿に盛り、食べ始める。
あれこれと、たわいのない与太話を交わしながら、二人は次々と肉と野菜をたいらげた。ほどなくそれらは全て二人の胃袋におさまり、彼らは満足して息をつく。
「ふう。食った食った」
腹をさすって、吐息をつく一輝の目は、少しだけとろんとして見えた。満腹したら、眠気が襲って来たようだ。
「銀色の桜の伝説があるようだが、探しに行くか?」
それへ、ガロンが問う。
「なんというか、あり得なさそーな話だよな」
「伝説、というぐらいだからな。だが、宝探し感覚で探してみるのも、面白いだろう」
小さく欠伸をしながら言う一輝に、ガロンは返した。
「んー」
少し考え、一輝はうなずく。
「伝説の桜探し、行ってみるか。眠くなって来たし、腹ごなしにちょうどいいや。ガロンも行く?」
「ああ、せっかくだ。一緒に行くよ」
問われて、ガロンもうなずいた。
二人は焼肉をかたずけると、腰を上げる。
「っても、ドコ探すかだよなあ」
歩き出そうとして、一輝はふと考え込んだ。
「銀色の花の咲く桜……ってことは、木ごとに見て行けばいいのか?」
「ふむ。そうだな」
うなずいて、ガロンは小さく笑う。
「カズキ、とりあえず、歩きながら考えようか」
「あ、うん」
言われてうなずき、一輝は歩き出した。
その隣に並んで歩きながら、ガロンはふと思いついたように言う。
「誰かが銀色の桜を見つけていれば、それらしい騒ぎが起きそうなものだが、何事もないということは、まだ見つかっていないということだろう。……なら、人が少ない場所を探してみるのも、いいかもしれないな」
「なるほど。……じゃあ、説明会で紹介されてた散策路は、ダメだな。他を探そう」
一輝は小さく口元をゆがめて見せると、散策路の入口を逸れて、道として整備されていない木々の間へと進路を取った。
●エピローグ 夜桜
やがて暗くなり、公園の桜がライトアップされた。
広場に集まって来たウィンクルムたちは、それを見て感嘆の吐息をつく。
そんな中、タイガが広場の一画に銀色の桜を見つけた。
全員でそちらに駆け寄ったものの。
「こいつは、とんだ子供騙しだ」
アインがぼやいた。
「まったくだ」
ガロンも肩をすくめて、うなずく。
それも道理、彼らの前に立つ『銀色の桜』は、青白いライトに照らされているせいで、そう見えるだけのものだったのだ。近づいてよく見れば、その花が白に近い薄紅だとすぐにわかる。
「うん、でも……春は花見ってぐらいだし。……悪くはないって思うけど? とりあえず、偽物の『銀色の桜』でも綺麗だしさ」
ガロンの隣に並び、それを見上げて一輝が言った。昼間は結局、銀色の桜を見つけられなかった彼らだ。
「カズキがそれでいいなら、俺に文句はないさ」
うなずいて、ガロンもそちらに目を向ける。
同じように、クレメンスも桜を見上げていた。それへ、アレクサンドルが声をかける。
「今日は、一緒に来てくれてありがとう」
「別に、礼を言われるようなことやないよ」
一度は相手に向けた視線を、再び桜の方に逸らして、クレメンスは返した。そのまま、ポツリと付け加える。
「……あたしも、楽しませてもろたしね」
「クレミー……!」
一瞬目を丸くしたものの、アレクサンドルはすぐに笑顔になった。
「子供騙しでも、いいんじゃないか?」
他の参加者たちのそんな様子を見やって、晃司はアインの傍へと歩み寄り、言った。
「昼間は伝説の桜を探したおかげで、いろんな桜がたくさん見られたし……アインも、酒飲めて楽しかっただろう?」
「ああ」
アインがうなずく。
「桜……綺麗だ……」
一方、セラフィムは小さく目を見張って、銀色に輝く桜を見上げている。
「……うん」
同じように桜を見上げてうなずくと、タイガは彼をふり返った。
「銀色の桜を見つけられたら、記念にセラと一緒に撮ろうと思って、デジカメ持って来たけど……それはもういいや。それよりセラ。これからも、ずっと一緒だぜ。木は偽物でも、俺の気持ちは、本物だからな」
「ああ」
少しだけとまどったようにうつむいて、それでもセラフィムはうなずいた。
「おぉ……。よくわかんねーけど、綺麗だな」
彼らから少し離れた場所で、花を見上げて呟くのは、ライナスである。花そのものに興味のない彼には、これが偽物でも本物でも、関係ないらしい。そんな精霊を見やって相良は、肩をすくめた。
「ある意味、幸せだよなあ……」
苦笑と共に、呟く。そして、ポケットからひょいと板チョコを取り出した。
「伝説の桜が見つかったら、二人で夜会としゃれ込もうかと思ってたが、持って来た菓子詰めは、全部食べちまったからな。とりあえず、屋台で買ったこれで勘弁な」
「チョコか! 全然、俺はこれで問題ないぜ!」
ライナスは、満面の笑顔で尻尾をゆらゆらさせながら、差し出されたチョコを受け取る。さっそく箱を開けて食べ始める彼に、相良はまたも苦笑する。
「銀色の桜は、チョコの味と共に……ってとこか」
呟いて、相良は桜に目をやった。
あたりを吹き過ぎて行く風に、花びらがひらり、ひらりと舞い落ちる。
青白い光で銀色をまとう桜は、さながら本物の『伝説の桜』のごとく、その下に佇むウィンクルムたちを、優しく見守っているかのようだった――。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 織人文 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | ロマンス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 普通 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 03月26日 |
| 出発日 | 04月03日 00:00 |
| 予定納品日 | 04月13日 |

2014/03/30-03:05
肩の力が抜けた、かな・・・ありがとう
・・・したいことがあってプラン起こしたら文字数埋まったな(眉根を寄せ)
またツアーなど機会ある時に図ってみるよ。お誘いは
銀の桜か・・・全員が見られれば一番だが。さて
2014/03/30-02:12
晃司だ。よろしくな!
俺も個人行動でいいと思う
銀色の桜がどんなのか興味があるからちょちょいと探してみるぜ
2014/03/29-09:14
アレックスだ。同じツアーに参加する同志、よろしくな。
俺は相棒と一緒に銀色の桜探しに行こうと思う。
見つかったらとりあえず、「お友達からよろしく」って告白(?)しておこうかな。
相棒になったばかりで初対面に近いから、親睦を深めようって所だ。
まあ……うん、お寒いギャグで折角の花見をブリザードにしないよう気をつける。
2014/03/29-08:58
あぁ、個人行動で大丈夫だと思うぞ?
折角の機会なんだ、相棒とゆるりと見て回るといいんじゃないかな
もち、誰かと御一緒したいようなら御誘いしてみるもの一興、同じ仕事柄仲良くしておくのもいいもんだからな。
相良だ、伝説と聞くとどうしても目がないもんでね
坊主にゃ悪いが俺は銀の桜を探して回ろうと思うよ。
2014/03/29-03:07
どうもセラフィムだ。タイガにのせられて来てはみたが
ツアー、ね。・・・考えるところはあるがハピネスだし個人でいいのかな・・・?
それとも団体行動と思った方がいいのか
バスは一緒だけど、長時間だし自由もあるよね
・・・楽しめるといいな

