


●最後通告
トランスできなくなった。
A.R.O.A.は君達に言った。
「原因は分からないが、ウィンクルムとしての適合が消えてしまったようだ。
……こうなっては仕方がない。ウィンクルムを解消し、神人は新しいパートナーと契約するまで待機、ということにしてくれ。
ああ、大丈夫。君に適合している精霊は既に見つかっている。明日には契約出来るようにこちらも早急に準備をするよ」
ぞっと血の気が引いた。
今や、ふたりはただの未契約の神人と、何の力も持たない精霊。
一緒にいる意味は、公式には、ない。
「あたらしい、パートナー……」
君はなんだか現実味を感じられない朱色の空を眺めながら、ぽつりと呟いた。
まだどんな人物かは分からないが、少なくとも今のパートナーと再びオーガと戦うことは二度と無い。
なんだか、胸の真ん中に穴が開いたような気がした。
精霊はもっと心中穏やかではないだろう、と君は慮る。
戦力外通告を受けたも同然なのだから。もっと辛辣に言い換えれば『役立たず』だと言われたのだ。
君は言葉を探す。パートナーに何か言わなければと思った。もしかしたら、最後の言葉になるかもしれない。
沈鬱な夜が更けていく。
君は忘れている。
君達は、夢を見せる浮島『フィヨルネイジャ』にいて、夢を見ているだけだということを。
この、現実としか思えないリアルな悪夢の中、君とパートナーは『絆』を試されている。


●内容:ウィンクルムとして失格になった二人が最後の夜、どう行動するかを描きます。
精霊は家出をするかもしれないし、最後の挨拶をするかもしれません。
ウィンクルムでなくなっても一緒にいますか?
でも、すぐに新しい精霊と契約することが決まっていて、神人の傍に別の精霊がやってくるのに、一緒にずっといられるのでしょうか?
●注意
フィヨルネイジャで見ている夢オチですが、PCに夢である自覚は一切ありません。
現実にウィンクルムをクビになったと神人も精霊も認識しています。
朝を迎えた時、夢が覚めます。(夕方~夜明けまでの描写になります)
お世話になっております。あき缶でございます。
神人にとって精霊の価値は何でしょう?
精霊は自分の価値を何だと思っているのでしょう?
戦闘要員? それとも……?
戦えなくなって、精霊がA.R.O.A.に居られなくなったら……?
と妄想すると、私はタギります。故にエピを出しました。
夢オチですが、とってもシリアスになると思っています。多分。
存分に心情を語り合って下さい。
皆様の絆への想い、お待ちしております。


◆アクション・プラン
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
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通告を受けて、夜の帰り道 騒ぐかと思っていた相方は随分と大人しく、それが怖い 帰ろうとする腕を掴んで引き留め ここで離せば二度と会えない気がする 足掻かせろよ、これで終わりになんかするものか 正直な話、「俺が神人でなくなったら」みたいな話は 何度も考えた そうなったらきっと、お前は新しい「お姫様」の下へ 行くのだろうと そう、思っていた ……あぁ。違ったな。お前はいつでも「俺」を見ていた 神人ではなく、こんなおっさんを、な どん底から俺を救ってくれたのはお前だ ウィンクルムとして、次の精霊が来ても 俺の「騎士様」は。お前だけだ、イグニス だから今度は俺がお前を護る 運命も逆境も捻じ伏せてやる これしきで負けてなるものか |
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やだ。 レーゲンがウィンクルム(以下、『W』)じゃなくなるの、いやだ AROAの一室に籠城 そうだよ、俺我儘だよ レーゲンも我儘になっていいんだよ 俺の為じゃなくて、レーゲンはどうしたいの? まず前提がおかしい W同士は強い絆で結ばれてるんだよね、俺とレーゲンが該当しないなんて そんな世界の方がおかしいっ (レーゲンの気持ちを確認後、部屋からでてくる) ……明日他の人と契約するよ。俺がレーゲンの分までオーガからみんなを守るから 同時に再契約する方法も探そう 契約時の逆で、今度は俺がひざまずいて俺からの契約 さよなら、なんて言わせない (俺は強い訳じゃない。頑張ってもダメかもって不安もある……だけど諦めたくないんだ) |
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ああ、そっか じゃあ仕方ないね あの家を出て行かないと。 荷物、多いな。 同居始めてから色々増えたから。 捨てちゃえばいいか。 全部。 ただいまー ごめんごめん、荷造りすぐに済ませる。 買い物してたんだよ ちょっと買いすぎたかな……でもキミ、野菜好きでしょ 好き嫌いする人もいなくなるし 調理方法で悩むこともなくなるだろうしさ 最後にゼクの手料理堪能しておこうと思って。 深刻そうな顔してるけど転職だと思えば? 大丈夫だよ。キミ格好良いし優しいし。 いつも僕を気遣ってくれたよね まあ御人好しが過ぎるところはあるけど だから大丈夫 キミはこれから何があっても 隣に立つのが、僕じゃ、なくても ……ゼク? えーと、あの、うん。 ありがとう、 さよなら |
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夜明け前出ていこうとするフィンを、扉の前に立ち塞がって止める ウィンクルムじゃなくても…これまで通り一緒に… 俺はまだ出会ってもいないパートナーより、フィンと一緒に居たい 嫌だ、行くな 実際俺は子供だ、悪いか! …フィンだけなんだ 俺が俺で居られるのは、フィンの前でだけなんだ フィンが居なくなったら俺は… (駄目になる フィンに軽く肩を押されて…俺を置いて行ってしまう 駄目だ、絶対に行かせない! その背中に縋り付くようにして、止め 大丈夫って何だよ どうして決め付けるんだ 俺の気持ちはどうでもいいのかよ 俺が一緒に居たいのはフィンだけだ 俺はフィンの事が… (好きなんだと言いかけた所で目覚め 安堵の余り泣きそうに) 夢で良かった |
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アドリブ歓迎 …どうして… 先生はなんでそんなに冷静なんですか もう駄々をこねるような歳じゃありませんよ …僕は先生にふさわしくなかったってことでしょうか… やっと、ちゃんと向き合えるようになったっていうのに… 先生、また勝手にどこかに行ったりしませんよね…? …嫌です 新しいパートナーなんていりません 僕がここまでやってこれたのは、先生がいてくれたからです 先生じゃなきゃ嫌です!先生の隣に立つのは僕の役目です! それが無理なら…僕、神人辞めます! すみません…分かってます、どうしようもないってことは でも、それでも僕は… ★夜明け(夢で安堵 …先生、僕を置いていくつもりだったでしょう 本当にそんなことしたら許しませんから |
●言わせたくなかった
――こんな不意打ちの幕切れとは。
呆然とゼク=ファルはA.R.O.A.職員からの通告を聞いていた。
立ち尽くすゼクの隣で、柊崎 直香は平然と頷く。
「じゃあ仕方ないね」
そして直香は一人どこかへと立ち去って行った。
ゼクもその後を追うように、ふらふらと自宅へと戻る。
ゼクが戻ると、先に出たはずなのに、直香はまだ帰宅していなかった。ゼクはまだ呆然と一人、部屋の中で立ち尽くす。
まだ、直香との仲を示す言葉も見つからないのに。もう終わりなのだ。明日には、ウィンクルムでもなくなる。
不意にドアが開き軽い足音が近づいてきたのを聞きつけ、ようやくゼクはふらりと振り向く。
「ただいまー」
スーパーのビニール袋をテーブルに置き、直香は『いつも通り』の表情でそこに立っていた。
「ごめんごめん、出て行かないとね。荷造りすぐに済ませる」
小走りに直香は自分の所有物をまとめていく。
「荷物、多いな。同居始めてから色々増えたから」
などと呟きながら。
「捨てちゃえばいいか。全部」
途中で不穏な言葉を真顔で呟いたけれど、ビニール袋を覗きこんでいるゼクには聞こえていないようだった。
それを横目で確認し、直香は荷造りを続けながらことさら大声で言う。
「ちょっと買いすぎたかなー。最後にゼクの手料理堪能しておこうと思って」
袋の中身を確認したゼクが、物言いたげに直香に向き直るも、直香はゼクに何も言わせないうちに先手を打つ。
「でもキミ、野菜好きでしょ。よかったじゃん、好き嫌いする人もいなくなるし、調理方法で悩むこともなくなるだろうしさ」
ゼクは何も言えずに、袋の中身の野菜を見下ろした。
直香の表情はいつも通りすぎて、まるで日常だ。なのに。最後だ、と言う。
知らず険しい顔をしているゼクに、直香は一旦荷造りの手を止めて、近寄った。
「深刻そうな顔してるけど、転職だと思えば?」
ひょうひょうとした表情のまま、直香は続ける。
「大丈夫だよ。キミ格好良いし優しいし。いつも僕を気遣ってくれたよね。まあ御人好しが過ぎるところはあるけど」
ぺらぺらといつも通り流暢に喋る直香を見下ろし、ゼクは(違う)と感じる。
直香は野菜なんて買わない。どんな策を使ってでも、野菜をピーマンを回避しようとする。
直香はゼクを穏やかに評すなんてしない。軽口でからかって、ゼクの神経を逆撫でるようなことを優先的に口に出す。
「だから大丈夫。キミはこれから何があっても」
ゼクは直香を真っ直ぐに見た。
すべてが軽口。すべてが嘘。すべてが誤魔化し。直香が化かし、ゼクが疑う。
それが二人の『いつも通り』だから。
(なら、今この時のお前でさえも)
直香はゼクの視線を受け、それでも笑顔すら浮かべて口を動かす。
「隣に立つのが、僕じゃ、なくても……っ」
「直香」
ぐっと抱きしめられ、直香は目を瞬かせた。――流石に少し詰まってしまったのを、悟られてしまっただろうか。
「……ゼク?」
そういえば、ゼクから直香を抱きしめるなんて、初めてだった。
直香はたまにゼクに抱きついていたが、それも戯れの一つで。
こんな情感をこもらせた抱擁は、二人にとって初めてだったのだ。
「えーと、あの」
無言のゼクに、直香は戸惑ったように言い。
そして、視線を彷徨わせた挙句。
「うん。……ありがとう」
次に続く言葉、ゼクには予想がついた。
言わせたくない。
終わらせたくない。まだ二人の間に通う感情が、なんという名前かも、わからないというのに!
だが、ゼクには直香を止める言葉が見つからなくて、とうとう直香は喉を震わせる。
――さよなら。
●困らせたくなかった
鍵のかかった小会議室の中から、少年の大声が廊下にまで響き渡る。
「やだ!!!」
レーゲンがウィンクルムではなくなり、契約を解消するということに、信城いつきはどうしても承服できなかった。
「絶対に嫌だ!」
「未契約状態の神人は、危険なんだ。判るだろう?」
とドアの前でかき口説く職員の困り果てた表情を見て、衝撃的な通告に真っ白になっていたレーゲンは我に返る。
職員の肩を叩き、自分に任せてくれと頼むと、職員は半ばホッとしたように頬をゆるめ、深く頭を下げて席を外してくれた。
深夜のA.R.O.A.の、非常灯といつきがこもる会議室から漏れる蛍光灯の光だけがある暗い廊下で、レーゲンはドアに向かって話しかける。
「いつき、大丈夫。ウィンクルムじゃなくても、そばにいるよ」
「嫌だよ! レーゲンがウィンクルムじゃなくなるなんて、絶対に嫌だ」
いつきは駄々っ子のように理不尽な文句を言う。レーゲンは幼子を宥めるように根気よくドアに優しい声をかけた。
「我儘言わないで、いつき……」
「そーだよ、俺我儘だよ」
ふてくされたような声が戻ってくる。
「そもそもレーゲンはどうしたいの? レーゲンも我儘になっていいんだよ。俺の為じゃなくて、レーゲンはどうしたいの!?」
レーゲンが、いつきの言葉にハッとしていると、いつきはなおも言葉を重ねる。
「そもそも! まず前提がおかしい。ウィンクルム同士は強い絆で結ばれてるんだよね、俺とレーゲンが該当しないなんてそんな世界の方がおかしいっ」
ぷふっとレーゲンが吹き出したのが聞こえたのか、ようやくいつきは黙った。
レーゲンは言葉を選びながら、ドアの向こうのいつきに吐露する。
「……くやしいよ」
いつきは黙っていた。いや、一言一句聞き逃すまいと、ドアに耳をつけてレーゲンの言葉に集中していた。
「自分の手でいつきを守れないことが悔しい」
「本当は一緒に戦いたい」
「いつきを守りたい」
言いながらも、レーゲンは自己嫌悪していた。――こんなことを言っても、いつきを困らせるだけなのに。自分にはもう、一緒に戦う力がないのに。
しん、と静まり返った暗い廊下で、レーゲンは無力感に打ちひしがれた。
いつきを説得するということは、いつきは新しい人と契約することに納得するということだ。
自分とは違う精霊と、一緒に戦って、デートをして。
そう思うと、身を切られるように辛い。でも、自分にはもうどうすることも出来ない。歯がゆい。悔しい。
レーゲンの胸に、もやもやと黒い感情が湧き上がる。
どれほど暗い場所で立ち尽くしていただろうか。
がちゃんとドアの鍵が開き、いつきがドアを開けた。小会議室の光が廊下に差し込み、レーゲンを照らす。
「……明日、他の人と契約するよ」
ああ、やっぱりそうなるのだ。レーゲンが黒い感情を抑えこみ、無理に納得するべく頷こうとすると、いつきは続ける。
「俺がレーゲンの分までオーガからみんなを守るから。同時に再契約する方法も探そう」
「え……っ」
予想外の言葉に、レーゲンの黒い感情が鳴りを潜める。
びっくりしているレーゲンの前に、いつきが膝をつく。
そしてそっと精霊の手をとって、甲にくちづけた。
あの時とは、逆の契約。
「さよなら、なんて言わせない。俺は強いわけじゃないけど、だけど諦めたくないんだ」
意思の強い瞳に射られ、喜びに震えるレーゲンはいつきの思いを知る。
(いつきだって不安なんだ)
でも、いつきは強い決意でレーゲンと向き合った。
(ただ、懸命に前を向こうとしてる……!)
レーゲンは立ち上がるいつきをそっと抱きしめ、震える声で告げる。
「うん、二人で立ち向かおう」
●いなくなりたかった
ふたり、間接照明が薄暗く部屋を暖かな橙色に照らす部屋のソファで、並んで座る。
暁 千尋はチラリと盗み見た隣の精霊の顔が、平然としていることが信じられなかった。
「……どうして……」
くぐもった声で千尋は呻く。
「先生はなんでそんなに冷静なんですか」
詰るように言えば、ジルヴェール・シフォンは上を見上げ、己の顎に指を当てながら答えにならない答えを返した。
「さぁ、どうしてかしらねぇ……」
ジルヴェールはふいと千尋に顔を向け、コケティッシュに首を傾げる。
「チヒロちゃんこそ、昔みたいに駄々をこねてはくれないの?」
千尋は一瞬顔を歪めたが、すぐに拗ねたようにそっぽを向きボソボソと答える。
「もう駄々をこねるような歳じゃありませんよ」
千尋は視線を落とす。ラグの模様を眺めながら、千尋は自分を責めた。
なぜトランスできなくなったのだろう。
(僕は先生にふさわしくなかったってことでしょうか……。……やっとちゃんと、向き合えるようになったっていうのに……)
努力は届かなかったのだろうかと、千尋は空虚感と無力感に包まれる思いがした。
思考の螺旋階段をぐるぐると降りて行き、千尋はハタと思い当たって、弾かれたようにジルヴェールに向き直る。
「先生、また勝手にどこかに行ったりしませんよね……?」
不安げな視線を受け、ジルヴェールはまた首を傾げた。
「そうねぇ、今はお店もあるし難しいわねぇ……」
不安げな視線が非難するような視線に変わったのを鋭敏に受け取り、ジルヴェールは苦笑すると、ようやく千尋を見た。
「冗談よ。……貴方、意外と根に持つタイプだったのね、知らなかったわ」
まだジルヴェールが女性らしい格好をしていなかった頃、また千尋の『先生』だった頃、一度ジルヴェールは千尋の前から姿を消している。千尋はまたあの時の二の舞いにならないかと警戒しているのだ。
ジルヴェールは苦笑を深めた。そして目を閉じて正面を向いた。
「……次のパートナーとはもっと早く仲良くなれるといいわね」
だが、それに返ってきたのは想像以上に強い言葉。
「嫌です。新しいパートナーなんていりません」
千尋は思わず立ち上がり胸を叩きながら、きょとんと見上げてくるジルヴェールに言う。
「僕がここまでやってこれたのは、先生がいてくれたからです。先生じゃなきゃ嫌です! 先生の隣に立つのは僕の役目です! それが無理なら……僕、神人辞めます!」
大きな声が深夜の部屋にウヮンと響いた。
はぁっと大きくため息を吐き、言い切った千尋はぼすんとソファに身を沈めた。
「駄々をこねる歳は、もう終わったんじゃなかったの?」
苦笑を浮かべ、ジルヴェールは優しく言いながら、千尋をそうっと抱きしめた。
「本当に……」
――どうしてワタシじゃないのかしら。
ジルヴェールは千尋の背中越しに壁を睨んだ。
明日になれば、千尋はジルヴェールの知らない精霊と契約してしまう。
知らない者に奪われるくらいなら……。
(許されるなら、消してしまいたいものだわ)
険しい顔で不穏なことを考える自分に、ジルヴェールは自嘲の笑みを浮かべて、千尋から身を離した。
「あぁ、駄目ね……ワタシ先生失格だわ」
それをジルヴェールが千尋を宥めきれないことを『失格だ』と思っていると、捉えたのだろう。千尋はシュンとうなだれた。
「すみません……分かってます、どうしようもないってことは」
でも、それでも。
「それでも、僕は……」
言い募ろうとする千尋の唇にひたりと人差し指を押し当て、ジルヴェールは微笑む。
「ねぇ、最後に我儘言ってもいいかしら。今夜はずっと一緒にいてほしいの」
――もう少しだけワタシのチヒロちゃんでいて。朝になったら、居なくなるから。
千尋はぼんやりと悟る。この人は、きっと千尋を置いていく。
(本当にそんなことしたら、許しませんから)
窓の外が白んでいく。夜が明けていく。
安堵が待つとは誰も知らない。
●お別れしたかった
ぽつんぽつんと街灯がともる夜の道を並んで歩く。
初瀬=秀は隣のイグニス=アルデバランをちらちらと気にしていた。
あんなに秀を慕っていたイグニスが、ウィンクルムを解消せよと言われたのに、イヤに大人しく頷いたのだ。
絶対騒ぐと思っていたのに……と、秀はうそ寒い気持ちになる。
いや、端的に言えば怖い。このまま別れたらもう二度と、会うことがない、気がする。
「それでは」
と言葉少なに、イグニスは三叉路で会釈をして歩き出そうとする。
その腕をはっしと秀は衝動的に掴んだ。振り向くイグニスを、秀は真っ直ぐに見据える。
(足掻かせろよ。これで終わりになんかするものか)
秀の強い視線を受け、イグニスは困り果てた。
先程A.R.O.A.職員から言われた言葉はほとんど覚えていない。ただ、もう秀を守る立場にはいられないということだけは分かった。
だからすぐに別れてしまいたかったのに。
(一緒にいれば離れられなくなる……。これは私のほんの小さな意地でしたのに)
小さな意地ですら、秀は許してくれない。
秀は逃がすまいとイグニスの腕を掴んだまま、口を開く。
「正直な話、俺が神人でなくなったら、みたいな話は……何度も考えた」
秀は辛そうに続きを話す。それをイグニスは俯き加減に静かに聞く。
「そうなったらきっと、お前は新しい『お姫様』の下へ行くのだろうと…………そう、思っていた」
「そんな! 私のお姫様は、秀様だけです!」
ばっと弾かれたようにイグニスは顔を上げると、秀の弱々しい話を強く大きな声で否定する。
それを聞いた秀はほっとしたように口元を緩める。
「ああ、違ったな」
頷いて、イグニスの青い瞳を見つめた秀は幾分軽い調子で言った。
「お前はいつでも『俺』を見ていた。こんなおっさんを、な」
イグニスはずっと契約した『神人』ではなく、『初瀬=秀』という一人の男を見ていた。
「私は最初から、秀様しか見てませんよ?」
とイグニスは当然のことのように答える。
「どん底から俺を救ってくれたのはお前だ」
幸せの絶頂寸前で裏切られて心が傷ついた秀を、愛で包んでくれたディアボロに、秀は真剣な口調で告げる。
「ウィンクルムとして、次の精霊が来ても、俺の『騎士様』は。……お前だけだ、イグニス」
「……はい。トランス出来なくても、魔法が使えなくても……私は『お姫様』の……貴方の『騎士』です、秀様」
更に真剣な口調でイグニスは秀に誓う。
秀はそれを聞いて、深く頷くと、また口を開いた。
「だから今度は俺がお前を護る。運命も逆境も捻じ伏せてやる」
決意を聞いて、イグニスはむぅ、と唸った。
「お姫様に守られるとは……」
だが、イグニスはすぐに笑顔になって、明るく宣言する。
「それなら私も、秀様の力になれるように頑張ります!」
「ああ。これしきで負けてなるものか」
「……だからもう、怖くないですよ」
信頼しきった表情を向けあって、二人で同時に頷く。
ウィンクルムよりも強い絆を、確かに感じたから。
●離れたくなかった
出ていこうとする者がドアノブに手をかけるよりも早く、ドアに手をつく。
ダァンッと夜明け前にしては迷惑な大きな音が生じたが構うものか。
蒼崎 海十は俯いたまま、ドアを押さえつけた。
「新しいパートナーが出来るんだ。俺が居ると邪魔だろ」
静かで冷静な声が海十を宥める。
フィン・ブラーシュの声が冷静なことが、逆に海十の感情を高ぶらせた。
絞りだすように海十は訴える。
「ウィンクルムじゃなくても……これまで通り一緒に……。俺はまだ出会ってもいないパートナーより、フィンと一緒に居たい」
だがフィンは苦笑するだけだった。
「大丈夫だよ、海十なら直ぐに好かれると思うし、上手く行くさ……俺がそうだったみたいにね」
かっと頭に血が上った。フィンとドアの間に身を滑り込ませた海十は、キッと精霊を睨む。
「嫌だ、行くな!」
「子供みたいに駄々をこねないで」
フィンのたしなめるような口調が気に食わない。
「実際俺は子供だ、悪いか!」
開き直って海十は叫び――、それからフィンから目をそらして震える声で言い募る。
「……フィンだけなんだ。俺が俺で居られるのは、フィンの前でだけなんだ。フィンが居なくなったら俺は……!」
駄目になる。
目を彷徨わせながら、海十が必死に訴えた言葉を、フィンは苦笑で受け止めた。
「それはね……海十が俺しか知らないからだよ」
と受け流す。
泣きそうに顔を歪める海十の肩にそっと手を置き、フィンは言う。
「海十はさ、変わった。今の海十なら、何も心配する事はないさ」
だから、ね。とそっと海十をどかせ、フィンは今度こそドアノブに手をかけてドアを開く。
一歩踏みだそうとしたフィンの背中に、海十はすがりついた。
びたりと硬直するフィンに、海十は必死に叫ぶ。
「駄目だ、絶対に行かせない!」
――置いて行かないで。
「大丈夫ってなんだよ……」
泣きそうな声で海十はフィンの背中に必死に訴える。
「どうして決め付けるんだ。俺の気持ちはどうでもいいのかよっ」
海十の手を振り払え、とフィンの理性は叫ぶ。
自分も離れたくなくとも、そんな我儘を通す訳にはいかないのだ。と。
フィンは辛そうに目を閉じる。
――最初は。
最初は、少しの心配と義務感だった。張り詰めた海十を、手伝ってやりたくて、部屋にも転がり込んだ。
家族のように共に過ごした日々で、救われていたのはどちらだ?
どうしても、背中から回る海十の腕を振り払えなくて。
フィンはとうとう海十に向き直って、抱きしめてしまう。
きつく抱き返し、詰まる湿った声で、海十はフィンに言う。
「俺が一緒に居たいのはフィンだけだ。俺はフィンの事が……」
海十が決定的な言葉を言いかけた時、朝日は登りきり、白昼夢は覚めて。
全てが夢であったのに、フィンが見た現実世界の海十は泣きそうな顔をしていた。
「…………夢でよかった」
| 名前:蒼崎 海十 呼び名:海十 |
名前:フィン・ブラーシュ 呼び名:フィン |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 普通 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 05月07日 |
| 出発日 | 05月15日 00:00 |
| 予定納品日 | 05月25日 |


