


●ぽつり
その日の天気予報は、降水確率30%。傘を持っていくべきか悩んだけれど、家をでるときは確かに空は真っ青だったのだ。
降らないと思っていたのに……。
ぽつん。
上機嫌で街を歩いていた君は、冷たい感触を覚えてふと立ち止まった。
ぽつん。
再び君の頭に冷たい雫が落ちる。
ふと天を仰げば、薄い薄い雲が青空に点在していた。
「天気雨だ……」
すぐ止むだろう。まだ傘が必要なレベルではない。
そう自分に言い訳して歩き続けていたけれど、なかなかどうして雨はやまずむしろ勢いを増してきている。
用意周到な通行人がちらほらと折り畳み傘を開き始めた。
だけど今日に限って君には傘が無い。
どうしたものやら……。
傘を買おうか。
いやいや、どこかの軒先を借りようか。
雨宿りと言い訳して店を冷やかそうか。
ちょっとお茶でもしていこうか。
いっそ思い切って濡れていこうか。風邪をひくかも知れないが、その時はその時だ。
……それとも、『あいつ』の部屋にでも転がり込んでやろうか。
君は雨を見上げ、少し考え、そして……君の中の選択肢は一つに選ばれる。
「よしっ」
君は走り始めた。
そこで『あいつ』と行き会うとは夢にも思わずに。
ほんの数時間の小雨。
君は――どうする?


●趣旨:突然の雨にかこつけて日常を描きます。
●偶然?
精霊と神人は別行動をしていましたが、雨に降られたことで偶然行き会います。
もちろん、はじめから一緒に行動していたことにしても構いません。
「最終的にパートナーと出会う」行動をとってください。出会わない場合、親密度が上がりません。
(親密度度外視で別行動を取るのは自由です)
●ジェール消費
もろもろの行動で500ジェール消費したことにします。
まだ梅雨には早いんですが、雨宿りエピを出してみます。
突然の雨に降られてどういう行動するか……って結構性格が出るような気がします。
ちなみにタブロスに居なくても構いません。
「雨宿り」というキーワードで自由に行動してみてください。


◆アクション・プラン
叶(桐華)
|
桐華さーん、雨凄いんだけどー 僕傘持ってなくってさー…いや、桐華さんも持ってないのは知ってるけどー だからさー、迎えに(通話ぶつん) …切りやがった ちぇー …桐華ー。僕二時間待ったよぉ? そろそろ痺れを切らしてメールの一つくらい寄越してくれてもいいじゃないかー …ていうか、僕の居る場所くらい、君ならすぐ判るでしょーが… 早く来てよ。雨音が、喧しすぎる もう、桐華さんなんてしーらない! ぷんすこ会計済ませてカフェから撤退 …しようとして、入口の脇で雨宿りしてる人影に気付いておめめまんまる …何してんの? あまやどり。ふーん、そう …傘持ってるくせに 手、冷たくなってる …ばかだなぁ、もう 仕方がないから、暖めてあげる。手、繋ご |
|
雨に降られたリンの不機嫌顔を思い出して、なんとなく 待ち伏せのような真似をしているが約束があるわけじゃない 人に傘を借りているかもしれないと思えば あまり目にしたいものではなく 帰るか迷っている内に探した姿を見つけた どこか寄って行くのか? だったら傘を買っていかないか 一つでいいよな 差すのが下手だからと取り上げられて、傘の中 俺には上着のフードがあるし濡れるのは苦じゃない それよりリンの肩が濡れているのが気になり傘を傾ける 直され平気だと言い返すが、なお濡れる肩を見て 今度はわからないように少しずつ押し傾ける …俺はパンだったな いつもより少し高い位置にある傘から空を仰ぎ見る 行きは感じた寒さを帰りは感じなくなっていた |
|
「やっほー。雨宿りさせてくれる?」(クラウディオの家にお邪魔 こっち側散歩してたらいきなり降られて参るよね。 中入るの初めてだ。すっげぇ殺風景。 こいつが越して来て、もうすぐ一年経つのに。 生活感が微塵も感じられねーわ。 「丈は足りてんのにだぼだぼ」(体格差 (何にも無い家で、いつも何してるんだか) 護衛とか言って、俺について回ってばっかりで。 疲れないのかね。 「俺、クロちゃんの生活がさすがに心配になってきたんだけど」(受け取った湯呑みを眺めて こいつの事なんにも知らないなあ。 知る気も無かったし。 とりあえず「偶に遊びに来るわ」 目の事知ってて何も言わないし、態度にも出さないから。 落ち着くといえば落ち着くんだよね。 |
|
AROAへ向かう途中で降られた 苺柄の透明な傘を買う 子供用の傘はやっぱり俺には窮屈だ 肩や膝がびしょびしょ でも構わない シンバルを叩く猿や光に反応して踊るひまわり ミストはそういうバカげたものが好きなんだ 傘を回しながら想像する 今の俺を見たら彼はどんな顔をするか 呆れて笑う顔を思い浮かべたら心細さが少し紛れた 彼がそばに居ない時は不安が濁流のように押し寄せてくる 笑顔が強張る スコットは晴れても曇っても笑っていなくてはならないのに だから偶然会えて嬉しかった…安心した 彼へ傘を差しかけて、彼が好きな笑顔を浮かべる 世界が安定を取り戻す 二人で窓から通りを眺める 彼の隣なら、雨垂れの街も宝石箱だ このまま降り続けばいいのにな |
|
自宅は独り暮らし 疲れて寝オチしてたら雨音で目が覚める 窓をみたら君がいたから思わず名前を叫ぶ どうしたんですか。家の前でずぶ濡れで 「奇遇ですね、ちょうどいい場所を知ってますよ」 さ、早くあがってください。君が風邪を引いてはいけない 今タオル持ってきますね 暫く会わなかったから書斎兼客室に本が散乱 最近独りだったからか、君がいてわくわくしてる 慌てて片付け席を勧め、お茶入れようとして指を火傷 あ!この本山は気にしないで下さい 後で自分で片付けますし…そのうち、多分! そ、それは…少しだけ…(赤面 とにかく、座ってくださいな 本を受け取り感謝、満面の笑み 早速一緒に読みましょうよ!ね (せめて読み終わるまで雨が止みません様に |
●へたくそ
雨が降ると昼間でも世界は何だか灰色がかって見える。
そんなねずみ色の世界で差し色のような赤を見つけて、ブリンドは目を瞬かせた。
あの赤は多分、自分の神人である。最近、彼は人前に出ることを嫌っているようだったが。
(……珍しいこともあるもんだ。だから雨降ったのか?)
赤は見るでもなくショウウィンドウを眺めていたが、パシャと水たまりを踏む音に反応してブリンドの方に振り向く。
「何だハティ」
ブリンドが仕事帰りにこの店の前を通ることは知っていたから立っていた――と言ったら、このマキナは何と言うだろう?
約束があるわけでもないのに、ハティはここに立っていた。
雨に降られるとブリンドは不機嫌になる。
……でも、もし誰かに傘を借りていたら……? そう思うと居ても立ってもいられなくて。
だったら自分も傘を届けに来たような顔をしていればいいのに、ハティも手ぶらだ。
本当に傘を借りられていたら嫌だから、やはり帰ろうかなどと逡巡していたら、ブリンドがやってきたのである。
悩みすぎた。時間切れ。
どう声をかけようかとハティが立ち尽くしていたら、あっという間にブリンドが距離を詰めてきてしまった。
「見ての通り傘ならねーぞ」
ブリンドは、ハティも傘なしで出てきて雨に降られたのだと解釈し、空の手をひらりと振ってみせる。
「……どこか寄っていくのか?」
少し言葉を探してから、ハティは首を傾げて尋ねた。
傘が無いなら、雨宿りするか、それとも。
「いや。時間潰すって趣味じゃねーんだよな」
眉をひそめてブリンドは返す。
そんな時間があるなら、もっと他にできることがあると考える。理知的なマキナらしい思考だ。
「だったら傘を買っていかないか?」
ひとつでいいよな、と言いながらハティは手近な店で一本のビニール傘を買う。
ブリンドはそれに、おうとぶっきらぼうに返事をしつつも、ハティと気が合う、と感じていた。
(独りだったら濡れて帰ったが。二人なら一本くらい良いよな)
ばっと開いた透明傘の下、二人が肩を寄せあって歩き出す。
だが。
「~~~ッ」
我慢ならんとばかりにブリンドは、傘の柄をハティから奪い取った。
「このヘタクソ」
「……下手か」
きょとんとしているハティに、ブリンドは歯を剥きだした。
「ド・下・手。ふらっふらじゃねえか、つーか低いし! 寄越せ、俺が持つ」
と、ブリンドが傘の主導権を奪って再び歩き出す。
ハティはそっとフードをかぶると、傘の柄を押してブリンドの方へ傾けた。
ブリンドが押し戻して、吐き捨てる。
「風邪引いても知らねえぞ」
「平気だ。フードがあるから苦じゃない」
「フードがあるから、じゃねーよ。それ以上濡らすな」
乾くのに時間かかんだよそういうモンは……とブツブツ言うブリンドの肩がどんどん濡れていく。やはり大の大人二人の相合い傘には、この傘は小さすぎる。
ハティは、今度は一緒に持つようなふりをしてジワジワとブリンドの方へ傾ける。
「……昼飯何食った? 俺パスタ」
ブリンドが前を向いたまま話しかけてくる。
そして、ハティがかけてくる力に対抗するように力を込める。
「俺はパンだったな」
ハティも負けじと押し返す。
「んじゃ今日は米にすっか」
結局フラフラする傘をハティを見上げた。まだ空は鈍色で、降り続く雨も一層ひどい。
でも、濡れているはずなのに――寒くなかった。
●ほうせきばこ
ダイナーのボックス席から、ミステリア=ミストはぼうっと雨に濡れて滲んでいく窓の外を眺めていた。
そこに、奇妙な光景を見る。
大丈夫がいちごの愛らしい子供用の傘をくるくる回しながら歩いている。
透明のビニールに水玉のようにあしらわれた真っ赤ないちご、合わせるように握りも赤。
だが哀れ小さな傘は、頑健な彼の頭くらいしか守れない。だから肩やら膝やらびしょ濡れの。
そんな滑稽な男が、ミストの神人であるスコット・アラガキだった。
見つけたのも行き会ったのも全くの偶然。でも、まるでミストに見つけて欲しかったと言わんばかり。
だから、ミストは店を飛び出して、スコットに駆け寄った。
「あ」
と口を中途半端に開けて、スコットはミストに笑顔を向ける。
(嬉しそうな顔しやがって)
「傘の意味が無いだろ」
とミストが上機嫌にスコットを小突く。
「あはは」
……?
ミストは違和感に気づいた。スコットは笑っている。
笑っているが、まるで作り物のようだ。
――嫌わないで置いてかないで、ひとりぼっちはいやだよぉ!!
真実のみを語る虚像の言葉を思い出したミストは……笑い返せない。
雨の音が世界をくるんでいく。
スコットは笑みを浮かべ続ける。
(シンバルを叩く猿や光に反応して踊るひまわり。ミストはそういうバカげたものが好きなんだ。そうだよね?)
だから、バカげた傘を買った。
ミストの居ない間、どれだけ心細かったか。離れていると不安の渦に巻き込まれて溺死しそうなことを、ミストは知らない。知らなくていい。
スコットのこわばる笑顔なんて、気づかなくっていい。
『スコット・アラガキは、いつ何時でも、晴れても曇っても笑っていなくてはならない』のだから!
視界に映る精霊を見て、ようやくスコットの心のコマは直立した。
(ああ、ミストだ。ミストがいる……)
支えを失ってぐらついていた世界がようやく安定した。
だからスコットはようやく『笑った』。
スコットは、無邪気にいちごの傘をミストにさしかける。
「ミスト?」
と小首を傾げて。
「あ、ああ」
なにやら思考に沈んでいたミストは、ハッと我に返ってスコットを見た。
「相合傘だねっ」
と相好を崩すスコットからミストは目をそらす。
「そこのダイナーで雨宿りしてくか」
と肩をすくめ、元いたダイナーを指さして誘えば、もちろんスコットは一も二もなく頷いた。
というわけで、数分前と同じ。元通りのダイナーのボックス席。
舌の焼けそうな珈琲を口に運びながらも、ミストはうそ寒い気分だった。
(いやな雨だ……早く止まねぇかな)
――世界が灰色に見える。
そんな淋しげな目をしているミストに気づかないように、スコットはニコニコと窓の外を眺めている。
鼻歌すら歌い始めそうなくらいの上機嫌なスコットには、この雨にけぶる街もまるで宝石箱だ。
(このまま降り続けばいいのにな)
隣同士、気温も見える景色も全く同じはずなのに――。
●もういいかい
雨はにわか雨とは思えないくらい激しく降ってきている。
「だーーかーーらーー、雨凄いんだけどー!」
雨音に負けないように叶は携帯電話に向かって叫んだ。
「桐華さーん、僕傘持ってなくってさー」
叶の耳に、精霊の返答が飛び込む。
「いや、桐華さんも持ってないのは知ってるけどー」
次は桐華の返事を待たずに、送話部分に叶は声をねじ込む。
「だからさー、迎えに…………」
ブツッと、非情な音が耳に飛び込み、あとはツーツーと虚しい話中音。
「切りやがった」
自分も電源ボタンで通話を切り、叶は口をとがらせた。
「ちぇー」
つまらない――だから、『かくれんぼ』に変更だ。
無言で終話ボタンを押した桐華は、電話をしばらく睨めつけてからため息を吐いて、ポケットに電話を戻した。
「勝手に一人で迷子ごっこしておいて……」
挙句、迎えに来てーとのうのうとのたまう年上の男。
桐華はもう一度大きくため息を吐き、コンビニに入ると一本だけ傘を買った。
叶がいるところなんて、解っている。
どうせそのへんの喫茶店。
叶の好みは細かい。人気店よりは隠れた穴場。
例えば、一本路地に入ったところの、個人店。
そして、多すぎず少なすぎない茶葉を揃えていて。
ショウケースに切り売りのホールケーキやこぶりなタルトが数種類並んでいる――。
「……ほら、居た」
桐華は店の外から、奥の席でぼんやりと紅茶とケーキを口にしている叶をまっすぐ見据えて言った。
何年も追いかけたのだ。何年も何年も。拒絶する彼を放っておけなくて追いかけた。
あの時の叶は本気で逃げていたのだから、こんな『かくれおに』なんて桐華にとっては文字通り児戯だ。
だが、桐華は店には入らなかった。ドアの脇で、何度も携帯電話を確認する叶に背を向け、狭い幌屋根の下で待つ。
何時間だって待つ。……あの頃に比べたら、随分楽だ。
(……二時間たったなぁ)
ため息を吐いて、叶はソファの背もたれに背を投げ出した。
天井のくるくる回るシーリングファンを眺めながら、叶はまたため息を吐く。
そろそろぶっきらぼうなメールの一つでも寄越してくるかと思ったが、なかなかどうしてあの意地っ張りは強情だ。
「……っていうか……。僕のいる場所くらい、君ならすぐ判るでしょーが……」
もうすっかり空になってしまったケーキ皿とカップは下げられてしまって、いまは水のコップしかないテーブルに伏せる。
「早く来てよ……」
ぼそりと暗く叶は呟いた。
喧しすぎる、雨音。耳から入って脳を埋め尽くしてしまいそうな。
「……ちぇ」
先程から店主の視線も痛くなってきた。叶は伝票を握って思い切って立ち上がると、
「もう、桐華さんなんてしーらないっ!」
負け惜しみのように大きめの独り言を吐いて、大股でレジへ向かった。
カランカラン……。
ぷりぷり膨れた叶が、叶の気分とは裏腹の爽やかなドアベルを鳴らして外にでる。生ぬるい湿った風が叶を包んで、不快だ。
「ちぇ…………?」
もう一度舌を打とうとして、すぐ側に立っているディアボロを発見した叶は目を見開いた。
「何してんの?」
「あまやどり」
投げ捨てるような乱暴な返答。
「ふーん、そう」
叶は目を細め、桐華の手元を指さす。
「傘持ってるくせに」
「……傘があっても、足元がぬれるだろ」
桐華は頑として雨宿りだと譲らない。
「ふぅん?」
肩をそびやかせる叶に、桐華は言う。
「今なら少し弱いし、帰れそうだ」
少しその声が嬉しそうなのは、きっと我慢比べに勝ったと思っているからだ。
ほら、と幌屋根の外を指す桐華の手を触り、叶は眉をひそめた。
「冷たくなってる。……ばかだなぁ、もう」
苦笑して、叶は触った手を握りこんだ。
「仕方がないから、暖めてあげる。手、繋ご」
「馬鹿で結構」
と仏頂面の割に素直に桐華は手を叶に預けたまま歩き出す。
一つの傘の下、手をつないだ二人が行く。
「……なぁ、叶」
しばらく歩いてから、桐華はぼそりと切り出しかけ……。
「…………なんでもない」
自ら話すのをやめた。
(お前、雨嫌いだろ)
(冷たい俺の手じゃなくて、お前のが震えてるぞ)
言いたいことは、色々ある。
でも、まだ、それは――この意地っ張りを仮面で隠す厄介な大人には早い質問だから。
桐華はただ小雨の中、叶と肩を寄せあって歩き続けた。
●さゆとゆのみと
インターホンが鳴ったから、出てみれば。
護衛対象が濡れ鼠で玄関に立っていた。
「やっほー。雨宿りさせてくれる?」
文面の気軽さとは裏腹の感情のこもらない顔と声を、柳 大樹はクラウディオに向ける。
クラウディオは冷静に自宅から大樹の家までの距離を鑑み、拒絶すれば大樹の体調が崩れると判断すると、頷いた。
「構わない」
「じゃあ、お邪魔しまーす。こっちがわ散歩してたらいきなり降られてさ。参るよね」
などと聞かれてもいない濡れた言い訳を言いながら、ぐしゅぐしゅびちゃびちゃと靴を鳴らし、大樹はクラウディオの家に上がり込む。
「うわ、すっげぇ殺風景」
はじめて見たクラウディオの家の中の生活感のなさに、大樹は思わず声を上げた。
クラウディオがこの家に引っ越してから、そろそろ一年が経過する。普通ならば、もう少し物が置かれて、人のぬくもりめいたものが生まれてくる頃だ。
大樹が無遠慮に部屋の中をキョロキョロ見回していると、クラウディオがタオルを渡してくる。
「風呂は沸いていないが、シャワーを使うと良い」
と風呂場を指さすクラウディオに、確かに着替えないと部屋も濡れるし自分の具合も悪くなる、と大樹は素直に従った。
クラウディオがミニキッチンで湯を沸かしていると、ほこほこと湯気をまとった大樹が困ったような顔をして戻ってきた。
「丈は足りてんのに、だぼだぼ」
とクラウディオの部屋着の裾を掴んで、ゆさゆさ振ってみせる。
クラウディオはそれを一瞥すると、
「筋肉量の違いだ」
と端的に答えて、鍋に向き直ってしまった。
大樹は少しだけ立ち止まっていたが、てくてくとリビングのラグの上にあるミニテーブルの前に座る。
薦められても居ないが、ベッドの上に座るわけにも行かず、ここしか腰を落ち着けて良さそうな場所がなかったのだ。
だが、それで正解だったらしく、追ってクラウディオがやってきて、ミニテーブルに湯のみを置く。
「白湯になるが、体を温める為にも何も飲まないよりは良い」
「ああ、さっきのお湯沸かしてたんだ」
茶葉やインスタントコーヒーの類の嗜好品など、クラウディオの家にはなかったのだろう。合点がいき、大樹は湯のみに手を伸ばす。
シンプルな湯のみだ。客用には見えないから、おそらくクラウディオの普段使いのものだろう。
(ほんっとに何もない家。……いつも何してるんだか)
大樹が知るクラウディオは、大樹の護衛として大樹の後ろについてまわる姿だけだ。
(疲れないのかね……)
湯のみに口を当てると、熱いが飲めないほどではないので、ゆっくり喉に流していく。
口から離した湯のみを手で包み、しげしげと眺めた大樹は、とうとう思っていたことを口に出した。
「俺、クロちゃんの生活がさすがに心配になってきたんだけど」
「……特に問題はない」
クラウディオは何故そのようなことを聞くのか、と本気でわからないらしく、困惑したように答えた。
「あ、っそ」
大樹は無表情にクラウディオを眺めまわす。
(こいつのこと、なんにも知らないなぁ)
そもそも大樹は、クラウディオに何の興味もなかったのだ。
護衛だ護衛だとうっとおしく付きまとう契約精霊……大樹にとっての『クロちゃん』とは、そんなものである。
一方、こんなにも長く大樹に視線を向けられていたことがないクラウディオは、居心地悪げに眉を下げた。
いたたまれない気持ちになったのか、クラウディオはスイと視線を窓に向けた。まだ雨はやまないようだ。
(直に止むとは思うが、長くなるならば大樹の家に連絡を入れるとしよう)
などとクラウディオが業務的な思考を巡らせて、この場を凌いでいると。
「とりあえず、さ」
と大樹がまた声を出したので、クラウディオはハッと我に返って大樹に目を向ける。
「偶に遊びに来るわ」
大樹は僅かに朗らかさを混じらせて、言う。
「あそび、に……?」
なぜそんな発想に至ったのか、クラウディオには皆目わからない。ここには大樹が好きそうなものなど一切置いていないからだ。
大樹はクラウディオの困惑など素知らぬふりで白湯を口に運んでいる。
(目のこと知ってて何も言わないし、態度にも出さないし。……落ち着くといえば、落ち着くんだよね)
その下に眼球がない眼帯を、大樹は苛立ったり不機嫌になると掻く癖がある。
しかし、クラウディオの家でまだ一度も大樹は眼帯を掻いていない――だから、居心地は悪くない。
●ほんのかおり
「ん……?」
やさしく窓を叩く雨音で、ゆっくりと新月・やよいは意識を浮上させた。
どうやら眠り込んでしまっていたらしい。
目をこすりこすり、ソファから身を起こしたやよいが、何時ぐらいだろうと窓に目をやると、見知った精霊を見かけて、思わず叫んだ。
「バルト!」
窓越しでも声は届いたらしく、眼帯のテイルスはくるりと声の方に向き直り、少しだけ愁眉を開いた。
やよいは慌ててソファから下りて、玄関へと駆け、扉を開く。
「どうしたんですか、ずぶ濡れで」
本当はやよいの家に寄ろうと思っていたのだ。特に急ぐ用事ではなく、やよいの様子が気になっただけなのだけれど、寄りたかった。
だが急な雨のせいで、みるみるうちにずぶ濡れになってしまったので、上がるに上がれず、帰ろうとしていた所だった。
だから、家主に見つけてもらえたのはとても嬉しかったはずなのに、バルトは何事もないような口調で答える。
「雨宿りのできる場所をさがしててな」
だがやよいは優しく微笑むと、
「奇遇ですね、ちょうどいい場所を知ってますよ」
と扉を大きく開けてバルトを招き入れる。
「さ、早く上がって下さい。君が風邪を引いてはいけない」
タオルを持ってくる、とばたばたと慌ただしくやよいは家の中に引っ込む。
すんと息を吸うと、家主が好むたくさんの本の香りがバルトの鼻腔をくすぐる。
その香りに何となく安らいでいると、やよいがタオルをたくさん持って帰ってきた。
「さ、拭いたら上がって下さい。お茶淹れますね」
またばたばたと奥へ走るやよいを見送り、バルトは小さく呟く。
「雨の間だけ……お邪魔します」
やよいはやよいで忙しい。書斎であり客間である部屋は、一人で過ごすことが長かったせいで、すっかり足の踏み場もないほどの本の山だ。
とりあえず端によせたり、積み上げたり、本棚に突っ込んで、床の上はなんとかした。
ふぅとひと安心したやよいは、
「適当に座っていてください!」
とまだ玄関で体を拭いているバルトに叫んだ。
お次はもてなしのお茶だ。台所へ駆けて、ヤカンを火にかけようとして。
「あちっ」
火傷しかけて指をくわえる。
(はしゃいでますね……僕)
久々の客人、しかもバルトが一人暮らしの家にやってきたのだ。心が弾む。
(君が家にいると思うと、わくわくします)
無意識に笑んだやよいは、てきぱきと茶器を用意して、茶筒の蓋を開けた。
「……また散らばってる」
やよいとしては片付けたつもりの客間だが、バルトにとってはまだまだ本が散乱している状況だった。
(片付けたい……けど)
キョロキョロとバルトは周囲を見回し、獣耳をへたりと下げた。
(怒られるんだよな……)
と嘆息したところに、ちょうどいいタイミングで茶の入った盆を持ったやよいが戻ってくる。
我慢しているつもりだったが、バルトの視線は本山に向いていたらしい。
「あ! この本山は気にしないでください」
やよいが慌てて声をかけ、バルトを牽制する。
「後で自分で片付けますし……そのうち、多分!」
どうやら望み薄である。
「まだベッド下まで片付けたこと怒ってるのか?」
「そ、それは……少しだけ……」
と頬を赤らめたやよいは、そんなことより、と声を大きくする。
「とにかく、座ってくださいな」
「……やれやれ、我慢するか」
かろうじて本の侵食から逃れているソファにバルトは腰を下ろした。
茶を飲んで落ち着いた所で、バルトは床においていた鞄を引き寄せ、戦利品を取り出した。
ビニール袋に包まれていたから、雨には濡れていない。
「これ」
「あっ、これ!」
包みの中身を見て、やよいは顔を輝かせる。
彼が欲しがっていた推理小説の新刊だ。
「仕事で躓いてたと聞いたから、ご褒美にさ」
やよいの本業は文筆業だ。スランプに陥ることもある。
ようやくそこから脱却したと聴いたので、バルトは自分にできることを考え――この本を買ったのだ。
はい、と手渡されたやよいは、本を抱きかかえて満面の笑みを浮かべた。
「早速一緒に読みましょうよ! ね」
とすんとバルトの隣に腰を落とし、やよいは早速ハードカバーの表紙をめくる。
「一緒に推理するの楽しいよな」
と言うバルトの声に喜色が混じる。
一緒に読もうと言われるとは思っていなかった。隣で同じものを読んで感情を共有できるのは、嬉しい。
寄り添って行を追う。
(もう少しだけ、こうしていたいな)
(せめて読み終わるまで、雨が止みません様に)
ぺらり、ぺらり、読み進める音と雨音が、静かに二人を包んでいた。
| 名前:新月・やよい 呼び名:新月 |
名前:バルト 呼び名:バルト |



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | あき缶 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | ロマンス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 05月05日 |
| 出発日 | 05月11日 00:00 |
| 予定納品日 | 05月21日 |

2015/05/08-23:55
ブリンド:
30%ってよぉ降るのか降らねーのかハッキリしろとは思ったが、降らねーと思ったら降ってくんのが天気雨ってやつなんだよなァ…
ハティとブリンドだ。新月とバルトとは初対面になんな。よっしく。
2015/05/08-20:13
折角のスタンプをペタコンしたかっただけー。
改めて宜しくねぇ。
傘の無いのに雨に降られちゃってやんなるねぇ。
確かにお風邪を引いちゃ大変だ。
濡れちゃうにしろ濡れないにしろ、おうちに帰ったら暖かくしなきゃだなー。
2015/05/08-13:40
新月です。初めまして、とよろしくお願いいたします。
初夏とはいえ、風邪を引かないように気をつけませんとね。
2015/05/08-12:37
ミステリア=ミストだ。よろしくー
にわか雨ってなんで傘がない時に限って降るんだろうな…
2015/05/08-07:21
ちわー。
柳大樹です、よろしくー。(右手をひらひら振る
傘持ってくればよかったかなあ。
びしゃびしゃ。
2015/05/08-06:09

