


彼は英雄となった。
長い長い戦いの末に、それらを討ち果たした。
それは、この地に生きるすべての悲願だった。
だから彼は、英雄と持て囃された。
街中が、国中が、世界中が――勝利の二文字に酔いしれる。
時が経ち、歓喜が終わりの兆しを見せ始めると、彼は異端となった。
賞賛はたちまち黒く染まり、羨望と嫉妬と恐怖と、憎悪に変わった。
ただ守りたかっただけなのに――。
君を。
あなたを。
その、すべてを。
浴びせられる罵詈雑言は、彼が英雄となったがゆえの裏返し。
『だって、あなたはこの世界を恐怖に陥れていたなによりも強いのだから――』
だから、そんな彼はこの世界の恐怖となり得るのだと、ありもしない可能性がつき立てられる。
日ごと浴びせられる罵詈雑言に、彼のただしく気高い心は壊されていった。
彼は魔物となった。
長い長い刃を振り上げて、殺戮の限りを尽くした。
それは、この世の人々を殲滅戦とするほどの力だった。
けれど彼は、たった一人を殺して我に返る。
どんな時もずっと隣で支えてくれていた、大切なその人を手にかけた刹那に。
腕の中で冷えていくその熱を抱いて、咆哮の如く叫ぶ。
世界を守りたかった。
貴方を守りたかった。
この、心を守ってくれていた、たった一人と幸福を願っていたかっただけなのに。
なににも惑わされずに、君の声が聞こえていたなら。
きっと君を失うことはなかったのに――。
ここはフィヨルネイジャ――。
暮れて、泣き明かす白昼夢。


フィヨルネイジャの白昼夢です。
基本の設定としましては、
『悪を掃討し、英雄ともてはやされるウィンクルムが、
賞賛され、あるいは罵声を浴びせられるうちに心が壊れてしまい、パートナーを殺してしまう』
となります。
また、前提として、すでに片方が英雄視されています。
英雄として賞賛されるのは神人、もしくは精霊のどちらかのみとなります。
パートナーを殺すことは回避できません。
プロローグでは英雄となった『彼』が罵声を浴びせられ、心が壊れてパートナーを手に掛けるような雰囲気にしましたが、
英雄視されている側が殺す必要はありません。
また、自我を失う必要もありません。
「賞賛されるパートナーに嫉妬して、英雄と呼ばれなかった側が殺してしまう」でも、
「憎まれ、自我を失って壊れていくパートナーを見かねて」などでも大丈夫です。
世界観の想定としてはオーガ殲滅後の世界を想定していますが、
別の世界で魔王を倒す、などを指定していただいても大丈夫です。
心理描写が多くなる可能性がありますので、視点を一人称に切り替える場合がございます。
(基本的にはどちらかに寄せがちですので変わらないかもしれません)
※フィヨルネイジャまでの交通費として300Jrが必要です。
基本的にはどのようなプランも大丈夫ですが、コメディプランだけはご遠慮ください。
今はオーガという明確な悪がいますが、それらがなくなった世界は本当に平和なのだろうか?
と、考えた結果が今回の白昼夢です。
実際、どちらかだけが賞賛されることはないでしょうが、そんな世界ももしかしたら存在するかもしれません。
救いは限りなく少なく、ほとんどないとも言えるかもしれません。
重すぎて、引かれることもあるかもしれませんが、なにか救いを見つけていただけたなら幸いです。


◆アクション・プラン
信城いつき(レーゲン)
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動かない身体を懸命に動かして笑いながらレーゲンの手に触れる メッセージ: レーゲンに笑ってほしいんだ、作り笑いじゃなく心から でもこのままだとレーゲンは俺を死なせる選択をするかもしれない 悲しんで恨んでギルティ化するかもしれない だからレーゲンに何か残せないかいっぱい考えたんだ 日記にある通り、俺はレーゲンやミカやマシロやご近所さん達…みんなと一緒にいられて幸せだったよ。 そしてスケジュール帳に未来の予定を。俺のお願いなら叶えようとしてくれるでしょ いろんな景色見たりやいろんな人と悲しみを話したりして あともう少しだけ頑張ってみて それでもどうしても辛いなら…いいよ、その時は迎えに行くから |
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世界や人の為、最期まで「英雄」になり続けようと足掻き英雄に殺された 20歳設定 身長176 黒の外套にクロスの王冠 ←側のみ傷隠す為のマスク有 部屋の花瓶に枯れた向日葵 悲願は果たせた 強すぎる力の代償ぐらい分かってる 俺はどう思われ何を言われようと構わない 独りじゃない、お前がいるから ナイフを横に放る ”また”お前に刃を向け本物の悪魔になる前に、俺を絶て いつか俺はお前さえも信じられず裏切るだろうと思う自分を抑えられない 怖い 俺はこの世界にもう不必要だ 必要なのは「英雄」だけ 本当はそんな存在になりたかった この世に永遠の平和を 最後の命令…否、頼みだ、― キスし微笑 自らナイフを己の心臓に突き立てる люблю тебя 契約終了 |
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オーガを全滅させても、心はぐちゃぐちゃのままで。 でも、少しは普通に暮らせると思ってた。 化け物、なんて誰が最初に言ったっけ。 オーガを殺せるなら化け物でもよかった。 でも、オーガがいないから俺だけ化け物だ。 「ねえ」母さんは無事? 妹は? ……兄貴は。 「……クラウディオ」(一度目を閉じ、クラウを見る 「殺して」俺がやらかす前に。誰かが家族に手を出す前に。 「誰かに殺されるなら、俺はあんたがいい」 あんたが死ぬまで、俺を覚えていてよ。 オーガはいない。だから、「護衛はもうおしまい」 思ったより、俺はあんたの中に居たんだね。(微笑 最期なんだ。顔見せて。(クラウの頬に両手を添え、額を合わせる 「ご苦労さま。先に休むよ……」 |
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英雄 殺される側 祭典に飾り物の英雄として駆り出される事が多くなった だが、いつからであろう そこに、相方の姿が無くなっていたのは 少しずつ取れなくなる連絡 それは いつしか音信不通になった 全てが終わり、二人で共に勝ち取ったはずの勝利を、たった独りで享受する それは、いつも 鉛の様に重い 数ヶ月振りに、突然姿を消した相方が家に現れた …話す言葉に、その言わんとする所を認識する ナイフを受け入れ微笑んだ 「殺して…渡せるものなら…金も、名声も…全部渡、そう だが…【過去、お前と共に過ごした時間】これだけは、俺のものだ…」 後悔はない 「ひとりは…もう、疲れたから…」 泣きそうで しかし心は嬉しく 胸は満ち足り 相手の腕の中で瞳を閉じた |
●
街の景色を見下ろす最上階の部屋。
英雄と呼ばれる青年が、窓の外を眺めながら口を開く。
「悲願は果たせた」
この世界は彼を望んだ。
強く、気高い心を持つ彼を。
けれど彼のその志は、過ぎた。
「強すぎる力の代償ぐらいわかってる」
人々が噂する。
過ぎる力を持つ彼を、異端と呼ぶ。
「俺はどう思われ、なにを言われようとかまわない」
彼は、音もなく部屋にやってきたアレクサンドルを振り返った。
「独りじゃない、お前がいるから」
黒い外套が翻る。
右側を覆い隠したマスクと、クロスの王冠を戴く、この世界が望み待ち侘びた人――ヴァレリアーノ・アレンスキー。
「アーノ、少し休め」
部屋に飾られた向日葵は色を失くし、生きる力を失っている。
それがどこか彼に重なって、アレクサンドルは枯れた向日葵から視線を外した。
「アーノ」
もう一度名前を呼び、ヴァレリアーノに近づくと、側のベッドに強い力で押し倒される。
「言っただろう。独りじゃない」
揺れて、翳る紫を見上げた刹那。
ヴァレリアーノの手元に白銀が閃き、容赦なくアレクサンドルを目掛けて振り下ろされた。
「――――!」
「……お前がいるから」
首筋を掠めるようにベッドにつき立てられたナイフは、ヴァレリアーノの手で引き抜かれ、脇へと投げられた。
一瞬に垣間見たのは、世界の終わりか、彼の終焉だったのか。その答えは――。
「”また”お前に刃を向け、本物の悪魔になる前に、俺を断て」
刃が掠めた首筋に、ヴァレリアーノがそっと指を這わせた。
「いつか、俺はお前さえも信じられず裏切るだろうと思う。自分を、抑えられない」
締めつけるように、わずかに力が込められても、アレクサンドルはじっと翳りをときおり覗かせる紫色の瞳を見つめた。
「我はそんな汝さえも享受する」
「怖い」
苦しげに伏せられた瞳が、再び開かれる。アレクサンドルが手を伸ばし、彼の頬に微かに触れる。
「俺はこの世界に、もう必要ない。必要なのは『英雄』だけ」
薄々、気付いてはいた。
この世界が望んでいるのは『彼』ではない。英雄だった。
それを、体よく彼に英雄という理想像を無理やりはめ込んだだけなのだということに、気付いてはいたのだ。
「本当はそんな存在になりたかった」
英雄の二文字を背負うには、彼は優しすぎた。
アレクサンドルの手がヴァレリアーノの頬を優しく撫でて、その手を取るようにヴァレリアーノは寄り添った。
「この世に永遠の平和を」
「アーノ」
「最後の命令……否、頼みだ、――――」
耳元でそっと囁き落ちた声に、アレクサンドルは息を詰めた。
口付けて、微笑む彼を呆然と見つめながら、その瞬間すらをもただ見つめていた。
「люблю тебя」
ヴァレリアーノがナイフを自らの心臓に突き立てる、その瞬間までもを。
クロスの王冠が床に転がり落ちた。
契約終了――。
翳る瞳の答えが、彼の終焉であったと知る。
なぜ、いま我の本当の名を口にした?
最初から、自分で終わらせるつもりで?
疑問符に答える声はない。
「既に汝は我の手中――」
我の願いも叶った筈。
なのに。
――守りたい、愛しいと思えた唯一の人だった。
涙が筋を描いて零れる。
「――……せぬ」
奴らが勝手に祀り上げた歪んだ英雄像に踊らされ死んだと?
――赦せぬ。
優しくて脆くて弱くて強い汝を殺したこの世界が。
汝が居ない世界になんの価値もない。
転がり落ちた王冠を被せ、自らの十字架も彼の胸にかける。
「本当の平和など誰が望む?」
彼の傷を隠したマスクを外し、そのマスクを己の顔へと着ける。
「人は常に刺激を求む」
火をつけて、部屋を、彼を、燃やし尽くす。
「ならば、我がそれを与えよう」
汝を殺した世界。
汝が愛した世界。
我の唯一を奪い去った、愚かなもの――。
この世界の終焉を、我は望む。
●
極限まで気配を絶っていたというのに、まるで辺り前のように気配を察して声が零れた。
「いつまで経っても、心はぐちゃぐちゃのままだ」
オーガを全滅させても、なにひとつ整理がつかないままの胸の内を示すように、大樹は胸元を服ごと握り締める。
「でも、少しは普通に暮らせると思ってた」
誰もが手にする日常を望んでいるわけではない。
少しだけ。
そんなささやかな願いすら叶えられない世界に、諦めたような色で言葉を紡ぎ出す。
大樹は胸を掴んでいた手を下すと、爪が白くなるほどその手を握り締める。
そんな彼を見下ろして、思う。
柳 大樹という人間は、最初から精神に余裕などなかった。
それでも、めったに荒げられない声音のせいで、どこか余裕を隠しているようにも見えていた。
そんなことは、決してありはしないのに。
オーガを殲滅し、憎むべき対象がいなくなり、仄暗い感情の捌け口が消えることの、その影響をずっと懸念していた。
化け物――。
人々は、大樹をそう呼ぶ。
「オーガを殺せるなら化け物でもよかった」
それらを殺すために力が必要だというのなら、神をも恐れぬ力にも手を伸ばしただろう。
それでよかった。
それで、すべてを護れるのなら。
だが、現実はどうだ。
オーガのいなくなった世界では、寸分前には持て囃した人間を化け物と罵る。
大樹が、壊れていく。
「ねえ」
フードの合間から大樹を見下ろす。
沈むように椅子に座り込んで、変わらず爪が食い込むほど手を握り締めて、なにかに耐えているように思えた。
「母さんは無事? 妹は? ……兄貴は」
「全員無事だ」
味方が大樹の家族を匿い、護っている。
「そっか」
息を吐くように零れ落ちた声に、応える術はなかった。
大樹を護ることはできる。その身体を、何者にも傷つけさせない術ならいくらでも持ち合わせている。
けれど、その心を護る術を知らない。
「……クラウディオ」
一度伏せた瞳が向けられる。
胸がひどくざわついて、嫌な予感が心の一片を奪う。
その先の言葉は、叶うなら継がないでほしい。
「なんだ」
それでも、その声に応えないわけにはいかない。
静かに返せば、逸らされることのない瞳のまま大樹が呟く。
「殺して」
分かっていた。
その心が擦り切れていることを。
その擦り切れた精神が限界を迎えていることを。
「俺がやらかす前に。誰かが、家族に手を出す前に」
おそらく、『あと少し』を引き延ばして、生きることを強いたなら、大樹は完全に壊れてしまう。
その手が汚れるが早いか、家族の血で壊れるが早いか。そんな程度の違いだ。
「誰かに殺されるなら、俺はあんたがいい」
最期を、この手に委ねるのか。
最期を、この手で迎えるのか――。
「あんたが死ぬまで、俺を覚えていてよ」
忘れるはずがない。
忘れられるなら、今抱えている感情をなんと呼ぶのか。
「私は――」
足元に膝をつき、握り締められた手にそっと手を重ねる。
「大樹の護衛だ」
重ねた手に力を込めて、強く握り締める。
向けられる大樹の瞳が言葉よりも先にものを言う。
オーガはいない。だから――。
「護衛はもうおしまい」
もうその身を守らなくてもいいのだと、告げる。
だが。
任務を終え、果たされたというのに、これほどまでに感じる悔しさはなぜなのか。
その感情を制御しきれずに、涙が流れた。
「思ったより、俺はあんたの中に居たんだね」
微笑んで、伸ばされた大樹の手が頬に触れる。
両手で包み込まれ、額を合わせると、相変わらず抑揚のない声が囁かれる。
「最期なんだ。顔見せて」
言われるままにフードを外し、口布を下すと、大樹の瞳がじっと、なにを言うでもなく見つめていた。
抱き締めるように大樹の背に両腕を回す。
「ご苦労様。先に休むよ……」
「ああ」
せめて、苦しまないようにと、背に苦無を強く突き刺した。
腕の中で力を失くしていく大樹の身体を支えながら、最後まで見つめていた瞳を隠すその瞼に手を当てる。
「――ゆっくり休むと良い」
安らかな眠りへと誘われるように。
願いながら、当てた手の、指先越しに触れさせた唇。
ひどく、胸が苦しい――。
●
祭典に、いつも駆り出されるのは神人――カイエル・シェナーだ。
誰もがカイエルを崇め、敬い、高尚な存在として崇拝する。
飾りものの英雄を。
その事実から目を背けながら、カイエルは望まれるままに今日も、賛辞の声に応える。
いつからだろう。
隣にいるのが、まとわりつく影になったのは。
本当にいるべきは、彼であるはずなのに。
少しずつ連絡が取れなくなり、気付けばなんの沙汰もなくなっていた。
音信不通になって、数か月。
あの日、二人で勝ち取ったはずの勝利は、今やたった一人の勝利へと変わっていた。
真実が捻じ曲げられる。
現実が見えなくなっていく。
群衆が作り上げた虚像に塗り替えられていく。
重い。
独りで享受する栄光は、鉛のように重く、飲み込むにはひどく苦しい――。
*
英雄視されるのはいつも神人。
光へと誘われ、向かっていくカイエルの置き忘れた影に取り残されてしまったようだった。
後を絶たない『英雄サマ』に付き纏う輩が煩わしかった。
幾度も思った。
もしも、あの時、止めを刺したのが俺だったなら……。
違った今があったのだろうか。
考えるほど、影は深くなり、身動きできないほど強い力となって縛りつける。
カイエルからの連絡も、もうほとんど来なくなった。
少し前までは、ときおり知らせがあったものの、エルディスがそのすべてを断ち切っていたから。
遠のく距離が数か月の時間を刻んだ、ある日。
「久しぶりだな」
なんの前触れもなく、突然カイエルの家を訪ねたエルディス・シュアは、薄く笑みを刻んだ。
その笑みが、ひどくカイエルの心を乱すと知っていたのか。
ただの無意識だったのかは分からなかったが、それでも久方ぶりの再会に、カイエルは快くエルディスを招き入れた。
「英雄として活躍とは、華々しいもんだ」
今や、カイエルを知らぬ者はいない。
「雑誌にテレビ……昔はそんなものに興味も示さなかったのに」
雑誌を開いても、テレビをつけても、世界中を見回して、存在しているのはカイエルばかりだ。
「人々に求められているからだ」
「――っ」
カイエルの肩を掴み、壁際にその身体を叩きつけるように抑え込む。
「求められていれば応えるのか」
「当然だ」
「お前が……! お前ひとりが――!」
いつも。
そこにいるのは、お前ひとりだった。
「どうして、どうして俺じゃないんだ! どうして」
黒い影にまとわりつかれたお前が、いつも一人でそこにいた。
耐えられない。
なぜ俺じゃない……!?
どうして、お前の隣に並べない――!?
激高したように言葉にならない本心を叫びながら、エルディスは隠したナイフを振り上げた。
その、言外の想いをカイエルは悟っていた。だから、それすらも享受した。
鉛を飲み込むよりはるかにやさしい。
振り下ろされるナイフが、カイエルの胸に深々と突き刺さる。
「っ……、……」
息を詰めて、エルディスを見つめたカイエルは微笑みを浮かべた。
もしも、エルディスがその悟ったような瞳に気付いていたなら、振り上げた手を止められただろうか。
カイエルが抵抗をしたなら、心の底から憎めたのだろうか。
「殺して……渡せるものなら……金も、名声も……全部渡、そう。だが……」
苦しげに、上擦った声でカイエルが言葉を紡ぐ。
せり上がる血を吐き出して、服を汚して痛みを受け入れるカイエルは、一抹の後悔さえ見せずにエルディスを見つめる。
「『過去、お前と共に過ごした時間』……、これだけは、俺のものだ……」
すべてを差し出しても、そんなものはカイエルにとって必要のないものだと明白に示す。
それ以上に譲れないものを護ることさえできれば、栄光など――。
「ひとりは……もう、疲れたから……」
泣きそうな顔をしながら、それでもどこか満たされたような表情を見せるカイエルが、エルディスの腕の中へ沈み、ゆっくりと瞳を閉ざした。
「……カイ……エル……?」
ぐったりと力を失くした身体が重くのしかかる。
揺すり、名を呼んでもその青い瞳が開かれることはなかった。
「――――!!」
声にならない絶叫が響く。
もっと早く気付いていたなら。
もっと早く、知っていたなら。
どうして、お前の隣に――……。
●
自我が残っているうちに――。
いつきは日記帳とスケジュール帳に文字を綴っていく。
(レーゲン……笑って。作り笑いじゃなく、心から、笑ってほしいんだ)
オーガ殲滅の際に受けた呪いはいつきを蝕んでいった。
自我を失う時間が長くなり、その間隔が次第に短くなっていく。
いつかは戻らなくなって、信城いつきという存在が崩壊していくのは、目に見えていた。
周囲はいつきを「呪われた神人」と呼び、一刻も早い死を望んでいる。
日ごと、浴びせられる罵倒に衰弱し、浴びた呪いの進行も想像以上に早かった。
おそらく、死ぬよりも早く自我が壊れ、死ぬよりもひどい末路を迎えることは、想像に難しくなかった。
レーゲンは、そんないつきを見かねて「いつきを死なせる」という選択をするかもしれない。
それがいつきのためだと知っているから。
そして、悲しみに暮れ、恨みに捕らわれ、やがてオーガと化して、誰にも触れられないものへと変わってしまうかもしれない。
だからレーゲンに、残したい。
なんでもいい。
彼が生きるための光を、残したいんだ。
*
レーゲンの手が、いつきの首筋に伸びた。
ほとんど動かない身体を懸命に動かして、いつきはレーゲンを見つめ、微笑んだ。
触れた、いつきの温もりはそれが最後だった。
呪われた神人の死は、レーゲンをさらに称える声へと変わっていった。
身勝手な群衆。
無責任な賞賛。
なにも、知らないくせに――。
本当ならばこの栄光は、彼と共にあるはずだったものなのに。
悲しい。
恨めしい。
たとえ逃れられない呪いだったのだとしても、最後まで抗う力を持っていたかもしれない。
彼を殺したのは他でもない周囲の声。けれど、実際にその命を絶ったのは――。
まぎれもなく、私。
最期の瞬間に触れた温もりを思い出すように手を見つめて、レーゲンは頭を振る。
頼りない指先が与えた温もりは大きすぎた。
触れただけの体温など、すぐに忘れると思っていた。
――もう少し。
彼が最後まで横たわっていたベッドを片付ける間くらいは、平静でいたかった。
なにともなく枕を退けて、その下に置き忘れたかのようなふたつの手帳に気付く。
「……日記と、スケジュール帳?」
日記帳のページをめくっていくと、そこにはいつきの文字が溢れていた。
幸せな、いつきの日常が事細かに記されていた。
日記にはご近所さんのことから、マシロやミカの名前が頻出している。
中でも、レーゲンの名前は格段に多かった。
小さなことを喜ぶいつきの姿が、過ぎるほど鮮やかに蘇ってくる。
もう一つのスケジュール帳にはずっと先の、未来の予定が書き込まれていた。
いつか行こうと約束した旅行先や、予定。
すべて、いつきと約束をしていたものばかりだ。
(レーゲンは、俺のお願いなら叶えようとしてくれるでしょ)
はっとして、辺りを見回す。
いつきの声が聞こえた気がしたからだ。
けれど、それが幻聴であることくらい、レーゲンにも分かっている。
それでも。
(いろんな景色見たりや、いろんな人と悲しみを話したりして、あともう少しだけ頑張ってみて)
「……うん」
幻聴に応えるようにレーゲンは頷いた。
いつきは、レーゲンが悲しみや恨みの感情に捕らわれることを予想していた。
だから、幸せな過去を記した。
だから、未来を書き記した。
(それでもどうしても辛いなら……いいよ、その時は迎えに行くから)
「どうして……」
この瞬間、いつきは苦しかったはずだ。それなのに。
どうしていつも、人のことばかり。
日記帳とスケジュール帳を抱きしめて、溢れる涙を止めることはできなかった。
(レーゲン、笑って)
優しく温かないつきが光を懸命に残してくれたのなら先のことは分からないけれど、もう少しだけ。
「足掻いてみるよ」
彼が残した光があるのなら、あと少しだけ――。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 真崎 華凪 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 男性のみ |
| エピソードジャンル | シリアス |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 10月04日 |
| 出発日 | 10月11日 00:00 |
| 予定納品日 | 10月21日 |

2016/10/10-21:40
<アレクサンドル>
挨拶が遅くなってすまないのだよ。
アレクサンドルとヴァレリアーノ・アレンスキーだ。
汝達の結末も陰ながら見届けたいと思う。宜しく頼むのだよ。
2016/10/10-12:12
カイエル・シェナーとエルディス・シュアだ。
上手くいくかは分からないが、こちらも出来る事を出来ればと思っている。
それでは、個別描写となるのだろうが、どうか宜しく頼む。
2016/10/10-00:17
信城いつきと相棒のレーゲンだよ、どうぞよろしく
どちらかというと、俺が死ぬ時よりも死んだ後がメインになりそう
………俺にできる事を、やるんだ。
2016/10/08-22:26
柳大樹とクラウディオでーす。
よろしく。
英雄、英雄ねえ。
どうなることやら。

