


イシスとの戦いが終わった。
今後、ギルティが生まれることはなく、いずれはオーガも高位の者から消えていく。
世界は平和となったのだろう。
勿論、いきなりオーガの全てが消えて誰もがいつもの生活に戻れるようになったわけではない。暫くは街を復興させなければならないだろうし、残るオーガとも戦わなければならないだろう。
それでも。
「きっと、近いうちにウィンクルムを必要としない世界が来るんでしょうね」
街の誰かが言った。
「そうね、オーガがいなくなればもう誰も犠牲にならずにすむわ」
街の誰かがそう答えた。
色々な場所でそんな話が交わされる。明るい未来の話として。幸せな未来の話として。
貴方達はそんな話をすれ違い様に聞いてしまう。
オーガの恐怖はなくなる。
――つまりウィンクルムも必要なくなる。
――では、自分達は?
今までは自衛の為にも正義の為にも一緒にいなければならなかった。そこに自分の意思があろうともなかろうとも。
けれどその理由もなくなるならば。
自分達は、自由だ。
自然とパートナーと視線がぶつかる。
どちらも何かを言おうと口を開きかけ、だけど上手く言えなくて互いに苦笑する。
二人の間にあるのは、ウィンクルムの間に積み重ねてきた絆。
その絆を捨てて、別の場所へ行って別の誰かと出会う事だって出来る。
その絆を抱きしめて、これからも共に歩んでいく事だって出来る。
まっさらな未来が目の前にぽかりと現れた。
ウィンクルムとしてではなく、ただ一人の人間として、精霊として、自由な世界が待っている。
貴方達は今、何の枷もなく『本当の幸い』を掴む為に歩き出す事ができる。
「少し、話をしようか」
その為に、貴方達は今、どんな話をするのだろうか。


二人の未来を語り合ってください
●場所
・何処でも構いませんので、希望があれば具体的に書いて下さい
なければこちらで勝手に決めさせて頂きます。基本的には街中になると思います
●内容
・未来の話であればどんなものでも構いません
それが数時間後の話であろうと五十年後の話であろうと問題ありません
・ジャンルはロマンスになってますが、どんな内容でも構いません
ハッピーでもバッドでもメリーバッドでも、それが二人の未来なら問題ありません
●街の復興の為に寄付したんですねありがとうございます
・300Jrいただきます
これが青ネコによる女性側最後のエピソードになります。
要は二人の物語のエンディングです。
貴方達の未来を、本当の幸いを、是非教えてください。


◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
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タブロスの外れ 最終決戦地近く 半壊したシリウスのアパートの片付け …あんまり見つからなかったわね ボストンバック一つ分にも満たない彼の荷物 問題ないって… 大事な物もあったでしょう? 物に執着しない 彼らしい返事に眉を下げる 小さな呟きに顔を上げる あのね それなら家に住まない? 家族も皆 あなたのことが大好きだし わたしも 毎日シリウスの顔が見られたら嬉し… ぽかんとした彼の顔に 頬が熱く だって ウィンクルムのお仕事が無くなったら 今までみたいに会えないかも… 少しでも側にいたい こんな欲張りな気持ち 知らなかった シリウスの言葉に目を見開く 少し赤い 大好きな不器用な彼の真面目な顔 ーもちろん! 笑顔で彼の腕に飛び込む 世界で一番大好きな場所 |
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夕食後、一緒に暮らすマンションの一室 アルの言葉に、食器を片付ける手を止めて これからの事? 私は結婚後でもいいから少しやりたい事が… あ、ううん、アルから、どうぞ 私がやろうとしてる事はアルの邪魔にはならないと思ってるけど 先に言ってしまったら彼は遠慮するかもと言う気がして 話を聞いてるうちに自然に顔が綻ぶ そこまで考えてはいなかったけれど、確実に心が繋がってる気がしたから それじゃ、その数年間で私は看護師資格を取る勉強をしていいかしら? 合わせたんじゃないわ、ずっと考えていたの ウィンクルムでいるうちは無理かなって思ってたんだけど今なら、ね ね、昔2人で見た幻想覚えてる?(No68) あんな家が実現できたら素敵よね |
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これから、ですか? (少し考える オーガの対応や復興のお手伝いをできる範囲で… 育てている薔薇の数をもう少し増やせたら… (喋りながら思いつき 復興の過程で、生活の潤いのために、緑地や庭園の整備の話が増えたりしないでしょうか ある意味私的には稼ぎ時かも、しっかり働かないとですね …そんなに変なこと言いました? 天藍、私と契約した後、神人を守るのが優先だからと、街中とか日帰りできる場所とかお仕事の範囲を狭めていたでしょう? これからはウィンクルムの精霊としてというのに縛られずに、天藍の好きなことして欲しいです (心の声:天藍が居ない日が増えるのは寂しいですけど… 帰ってくる日には、天藍が好きな物用意して待っていますね |
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イシス戦から二週間後、昼間のリビングでティータイム AROAが事後処理でごたごたしてる中。くつろぐ罪悪感は、あるような。無いような。 紅茶を一口飲んで、考える。 ケジメをつけるにも、今が一番いいんじゃないかって。 「あの、さ」(グッと意気込む 「わ、私の家族に。会って、欲しい」(ぎゅっとカップを両手で掴む 「……?」(予想外の返しに、理解が追いつかない 家族にルシェのことを言う前に、いつの間にか婚約までしてて。 それで、ちゃんと紹介しようって。 何でルシェ、そんな嬉しそうなの?(困惑 「その、順番とかは置いといて。会って、くれるの?」いいの? 貰い受け、(じわじわ顔を赤くして俯く ルシェのこと、反対されないといいな。 |
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数年後 ふふふ。クロスケもめかし込めばぱりっと出来るんじゃない 髭も無いし髪切っちゃったのがちょっと寂しいけど 貴方の義弟さんに会えるなんて思わなかった 貴方も弟も軍人なのね。ビックリだわ しかも私を中佐の娘で結婚相手って紹介してくれるなんて 所で本当に軍に戻るの? そっか…戦いで死ぬことはないのね… オフィス勤めは死ぬほど忙しそうだけどね それに…これから一緒にいる時間が少し減るじゃない それって少し不安だわ これから私一人じゃなくなるわけだし… ヒール変えたのに今気づいたの? 何で変えたか分からないの? もう。そういう所鈍いわね いいわよ。あと何ヶ月か経てば鈍い貴方にもすぐわかる筈だから ほらほら、食事行くわよ! |
■いつかの未来
やがてウィンクルムを必要としない世界がやってくる。
そうなった時に、今ウィンクルムとして繋がっている神人と精霊はどうなるのか。どんな道をとるのか。
これはある一組のウィンクルムが選んだ未来。
「あー疲れた」
精霊『バルダー・アーテル』は、街中を歩きながらぐるりと首を大きく回す。ごきり、と大きな音を立てれば、何と無しにスッキリした気分になるから不思議だ。
「弟相手とはいえ畏まった格好して会うのは久々だからな」
はぁ、と息を吐き出しながら言えば、その横を歩く『スティレッタ・オンブラ』がおかしそうに笑う。
「ふふふ。クロスケもめかし込めばぱりっと出来るんじゃない」
髭も無いし髪切っちゃったのがちょっと寂しいけど、と軽口を続ければ、バルダーは、はいはい、と流す。
「それにしてもお前……よくあれだけ猫被れるな……」
若干呆れた目でスティレッタを見れば、何のこと? と言わんばかりのわざとらしい笑顔だ。
これだから女は恐ろしい。いや、この女が、だろうか。
バルダーがそんな事を思っていると、スティレッタは少し疲れたのか、それとも感慨深いのか、ふぅ、と吐息を零す。
「貴方の義弟さんに会えるなんて思わなかった。貴方も弟も軍人なのね。ビックリだわ」
今日はちょっとした会食の日だった。その会食の内容とは。
「しかも私を中佐の娘で結婚相手って紹介してくれるなんて」
「……結婚相手なのは事実だろう」
そう、結婚相手の家族に会う、という顔合わせの会食だったのだ。
「しかもあいつも知ってる中佐の実の娘ってなったら歓迎するさ」
「だといいんだけど」
ふふ、と笑うスティレッタは、その憎まれ口に反して満足気だ。歓迎されていた事は伝わったのだろう。
「ところで本当に軍に戻るの?」
顔合わせをして、色々な話をして、その中で出てきた一つ。元軍人であるバルダーに、また戻らないかという話があがっているというのだ。
「ん? 軍か? まあ悪くない話だな。オーガがいなくなった以上今度は人同士の争いも考えんとならなくなる」
どうやら本人は乗り気らしく、けれどスティレッタとしてはある部分が引っかかって賛同できない。
「ま。指揮官連中の仕事は戦争を如何に防ぐかだ」
そのスティレッタの引っかかりに気付いていたのか、バルダーは続けてそう言った。
「そっか……戦いで死ぬことはないのね……」
ホッとした様子を見せるスティレッタに、バルダーは安心させるかのように重ねて言う。
「オフィス勤めだしな、死なんよ」
一度、オンブラとしてスティレッタの前から死んだように姿を消したバルダーがそう言う。死なない、といってくれる事はやはり安心できる。
「オフィス勤めは死ぬほど忙しそうだけどね」
それでも憎まれ口を叩いてしまう。それはある事情からくるものだ。
「それに……これから一緒にいる時間が少し減るじゃない。それって少し不安だわ」
これから私一人じゃなくなるわけだし……と小さく呟けば、バルダーは眉根を寄せて首を傾げる。
「……不安? 何言い出すんだ」
オーガによる被害もほとんど聞かなくなった今、神人であるスティレッタが不安に思う事などそうは無いだろう。そもそもいつだって強気のスティレッタがこんな事を言い出すなんて、と不思議に思いスティレッタの方を向き直れば、ふと、ある事に気付く。
「あれお前……なんかいつもより背が低くないか?」
目線が違う。会食の時には座っていたから気付かなかったが、今こうして立って歩いていると、いつもと違うことがわかった。
「ヒール変えたのに今気づいたの?」
呆れた、と大げさに言うスティレッタに、バルダーはますます首を傾げる。
「ヒール変えたのか。お前らしくもない」
いつもの高いヒールではなく、ほとんどぺったんこと言ってもいいくらいの低いヒール。それはスティレッタの趣味ではないように思えるから、バルダーは何故そんな事をしたのかと疑問に思う。
「何で変えたか分からないの?」
試すように言うスティレッタに、もしかして、と見つけた答えらしきものを口にする。
「別に弟に会うからってそこまで変えんでも……」
「もう。そういう所鈍いわね」
「は? 鈍い? 何がだ……?」
どうやら答えは間違っていたらしい。間違っていたらしいが、何が鈍いのかまではわからない。
疑問符が浮かぶバルダーに溜息を一つ、スティレッタはバルダーと向き合うのをやめて前を向いて進み始めた。
「いいわよ。あと何ヶ月か経てば鈍い貴方にもすぐわかる筈だから。ほらほら、食事行くわよ!」
話を変えられたバルダーは、首を捻って考えながらのろのろとスティレッタの後を追う。
(……低いヒール、一人じゃないから不安、数か月経ったら……?)
一つ一つではわからない。けれどそれら三つが重なったなら、いかに鈍いと言われるバルダーでも思いつく可能性が、一つ。
「え。ちょっと待てナンナ!」
二人きりのときに呼ぶ名前、スティレッタの本名を思わず道で口にする。それほどの動揺。
「まさか子供……!?」
慌てたバルダーの声に気を良くしたのか、それとも正解のご褒美か、スティレッタはくるりと振り返って艶やかに微笑む。
その笑顔につられるようにバルダーはスティレッタへと駆け寄る。
ウィンクルムでなくなっても、家族となる二人。
それが二人の選んだ未来だった。
■平和への回帰、帰る場所
「これから、ですか?」
二人の家でお茶をしながら、『かのん』と『天藍』は話をしていた。
話の内容は、これからの話。
大きな戦いを終え、ギルティはいなくなり、やがてオーガもいなくなる。勿論すぐにいなくなるわけじゃない。自分達はまだまだウィンクルムとして討伐依頼を引き受けるだろう。
それでも、これまでよりはその数は減っていく。いずれゼロになる。
ウィンクルムとしての役割を終える日が、いつか来るのだ。
それを踏まえての『これから』の話だった。
問われたかのんは少し考える。考えながら答えていく。
「オーガの対応や復興のお手伝いをできる範囲で……育てている薔薇の数をもう少し増やせたら……」
はっきりとした予定があるわけではない。喋りながら思いついた事を口に乗せているようなものだ。
それでも口に出すとはっきりとしてきて、取り組んでいきたいという思いが強くなる。
「復興の過程で、生活の潤いのために、緑地や庭園の整備の話が増えたりしないでしょうか。ある意味私的には稼ぎ時かも、しっかり働かないとですね」
と、最終的には力瘤を作るような仕草つきの答えとなった。
訊ねた天藍は、しっかりしているなと感心半分、つい笑ってしまう。笑われると思ってなかったかのんは小首を傾げながら「……そんなに変なこと言いました?」と呟く。
「いや、変じゃないさ」
笑いをおさめて天藍は言う。
「いつも通りに戻るのは喜ばしい事だ」
いつも通り。それは、いつと比べての『いつも』なのか。
「天藍は?」
かのんが問いかけ返すと、天藍は考えていた事を言おうと口を開く。
「少し落ち着いてからになるんだろうが、瘴気が湧いてた山の状況を見に……」
が、そこまで言って、口籠もってしまう。
ウィンクルムになっても自由が利くようにと始めた、フリーで受けているレンジャー業務。その内容は自然・動物環境の保護や調査等で。
それはきっと、ウィンクルムとしての役目を終えた後でも必要となる仕事だろう。実際に自分も取り組んでいきたいと思っている。
しかし、それを本気でやり出すと、週の単位で家を空ける事もある。
もともと好きで始めた事だ。オーガの危険がいずれなくなるのならば、本格的に取り組みたい。レンジャー業務としてやりたい事は幾つもある。
だが、かのんの傍を離れるのは……。
ウィンクルムとなってからずっと一緒にいた。一緒にいることが当たり前だった。守りたいと思ったし、共に歩きたいと思った。それは間違いなくウィンクルムでなくなったとしても思うことで。
だからこそ、天藍は口籠もる。
どちらかを選べばどちらかは選べない。それがわかっているからはっきりと口に出せなくなってしまったのだ。
しかし、言葉を止めてしまった天藍を見て、かのんはその葛藤を見抜いていた。
「天藍、私と契約した後、神人を守るのが優先だからと、街中とか日帰りできる場所とかお仕事の範囲を狭めていたでしょう?」
かのんの言葉に、天藍はパッと顔を上げてかのんの顔を見る。目が合えば、かのんはわかっているとばかりにニコリと微笑む。
「これからはウィンクルムの精霊としてというのに縛られずに、天藍の好きなことして欲しいです」
それは心からの思い。
きっともうすぐだ。もうすぐ神人と精霊がずっと一緒にいなくても大丈夫な世界が待っているのだ。オーガが少なくなるのならば、討伐依頼も無くなっていくだろう、なにより、神人であるかのんの危険が無くなっていくだろう。
天藍もかのんも何処にでも行けるようになる。かつて、そうだったように。だからかのんは天藍に望む。好きなことをして欲しいと。
それは間違いなく心からの思い、なのだが……。
(天藍が居ない日が増えるのは寂しいですけど……)
共にいる日々が長かったが故に、どうしても寂しさが湧き出てしまう。離れたくないと思ってしまう。
けれどきっと、ウィンクルムではない夫婦だったら当たり前のことなのかもしれない。当たり前ではなくとも、ありえることかもしれない。仕事が遅くなるとか、出張とか、単身赴任とか。
そうだ、二人の生活にはこれからそういう普通が待っている。普通の、だけど大切な幸せの日々が。二人で二人の場所を作っていく日々が。
「帰ってくる日には、天藍が好きな物用意して待っていますね」
互いに何に縛られることも無く、好きな事を仕事にし、夢中で打ち込んで、そうして二人の家へと帰ってきて語り合う。
そんな平和な日々が、待っている。
「……ありがとう」
この家で待っている。そう言ってくれるかのんに、天藍は自然と感謝する。
「折角平和になるんですから、ね」
戸惑っている自分を察し、背中を押してくれる。そんな自分の生涯のパートナー。
敵わないな、と改めて思う。思いながらもその顔を幸せな笑みが浮かんでいる。
「じゃあ、その辺の事を研究していた奴らと本格的に検討してみるか」
「詳しく決まったらちゃんと教えてくださいね」
「勿論」
二人の家で二人のこれからを語る。
戦いが終わり、世界は平和へと戻っていく。
そうして人々は、温かい自分の家へと帰っていく。
■重なる未来
台所からは食器を洗う『月野 輝』の鼻歌が聞こえる。『アルベルト』はテーブルを拭きながらそれを聞いていた。
外は薄暗くなってきているが、二人が住むマンションの一室の中は明るい。美味しい夕食で腹も満たされ、後片付けももうすぐ終わる。
平和な一日だった。
大きな戦いが終わり、ギルティは消え、オーガも少しずついなくなるのだという。その先にあるのは、戦いのない世の中。今日のような平和で幸せな日々が、当たり前のようにやってくる世界。
アルベルトはいずれ来る世の中を考える。
ウィンクルムとして討伐に行かなくてもよくなるのならば、神人である輝の身も安全になるのならば、それならば。
(それなら私の夢を輝に言ってみてもいいだろうか)
アルベルトは決心して口を開く。
「輝、これからの事で少し話を聞いてくれないか」
呼ばれた輝は、何事かと食器を片付ける手を止めてアルベルトの方を向く。
「これからの事?」
突然の話だったが、実のところ輝にもこの先のことで考えていることがあった。それゆえに、するりと「私は結婚後でもいいから少しやりたい事が……」と零す。
自分が伝える事ばかり考えていたアルベルトは、その発言に少し驚き、けれどすぐに気を取り直してその続きを促す。
「何かあるなら先に聞くが……」
「あ、ううん、アルから、どうぞ」
しかし、輝は笑顔で止め、台所から出てきてアルベルトの近くへ向かう。さぁどうぞ、とばかりに椅子に座って待ち構えれば、アルベルトも苦笑しながら「そうか」と言って椅子に座る。
(私がやろうとしてる事はアルの邪魔にはならないと思ってるけど)
アルベルトが話を聞いてくれと言ったのだ。それならばまずはそちらを聞くべきだろう。先に自分の事を言ってしまったら、アルベルトは自分の事は遠慮するかもしれない。それは避けたい。だから輝は発言を止めたのだ。
そんな輝の思いが届いたのか、アルベルトはすんなりとこれからの事を話し出す。
「今後の仕事だが、今まで非常勤だった病院に常勤として勤められることになった」
「本当? よかったじゃない」
素直に喜ぶ輝に、アルベルトも笑顔になる。だがその笑顔はすぐ消え、真面目な顔になる。
「それなりに生活は安定すると思うんだが……私は数年資金を蓄えたら開業したいと思っている」
開業。それは医師を生業としている者ならば選んでもおかしくは無い道。ただし、その中でもアルベルトが選んだ道は。
「無医村で」
輝が目を見開く。
「医者のいない地域で困ってる人の助けになりたい。最近そう思うようになってね。だが、それは輝の生活も不便な物になるだろう。だから……」
アルベルトは自分の夢をはっきりと口にしながらも、輝を気遣うように反応を窺っていた。その輝の反応は。
嬉しそうに、微笑んでいた。
聴いた瞬間は驚いた。けれど、次第に自然と顔がほころんでいった。
何故なら、それは輝のやりたい事とも通じる道だったから。輝自身はそこまで考えてはいたわけではなかったが、確実に心が繋がってる気がしてたから。
だからこそ、さっきは止めた自分のやりたい事を口にする。
「それじゃ、その数年間で私は看護師資格を取る勉強をしていいかしら?」
「……看護師?」
今度目を見開いたのはアルベルトだ。
「いや、私の夢に合わせてくれることは……田舎でも輝のやりたい事をやってくれていいし、もし何なら別居婚と言う選択肢も……」
半ば呆然としながらのアルベルトの発言に、輝は笑って「合わせたんじゃないわ、ずっと考えていたの」と否定する。
「ウィンクルムでいるうちは無理かなって思ってたんだけど今なら、ね」
ウィンクルムとしての討伐依頼は少なくなるだろう。オーガはやがていなくなる。自分達には自由な時間と未来が広がっている。そんな今だからこそ進むことが出来る道。
キラキラとかがやく瞳の輝を見て、アルベルトはその言葉が本当なのだと悟る。また、その意志が固い事も。
「まるで私の言う事を見透かしてたみたいだな」
もしかしたら輝に負担を強いてしまうのでは、嫌がられるのでは、そんな不安も頭の片隅にあった。けれどそれは輝本人によって軽く吹き飛ばされた。
「輝には一生敵わないなと思うよ」
くすりと笑うアルベルトに、輝はふふん、と勝気に胸を張る。
「あら、今頃気付いたの?」
けれどすぐに柔らかく微笑んで、もう一つの『これから』を語る。
「ね、昔2人で見た幻想覚えてる?」
それは『バザー・イドラ』で見た幸せな幻想。
庭付きの小さいながらもお洒落な一軒家。笑いあう二人に、アルベルトにそっくりな男の子。幸せな家族の幻想。
「あんな家が実現できたら素敵よね」
「実現できないとでも?」
今度はアルベルトが勝気に言えば、輝はやられたとばかりに声に出して笑う。そのまま二人で笑いあう。
いつの日か幻想は現実となるだろう。
看護師になりたいという輝の未来。無医村で開業したいというアルベルトの未来。二人は互いに支えあいながら、それぞれの未来へ向かって進むのだろう。
そうしてその先にあるもう一つの未来。
一人では実現できないその未来は、輝とアルベルトが共に進んだ道の先に、二人の未来が重なり合った先に待っている。
■一歩ずつの二人の歩み
イシスとの戦いから二週間経った頃。
『ひろの』と『ルシエロ=ザガン』はリビングでゆったりとティータイムを過ごしていた。
ひろのは紅茶を手に窓の外をぼんやりと見る。
戦いは終わったけれど、全てが片付いたわけではない。街はまだ完全に復興していないし、傷付いた人達はまだ治りきっていないだろう。
A.R.O.A.が中心となって様々な事後処理でごたごたしてる中、こんな風にくつろいでいる事に、罪悪感は、あるような。無いような。
そんなひろのの心中とは対照的に、ルシエロの心は満たされていた。
オーガはまだ残っている。一匹でもいる限り未だ気を抜く訳にはいかないが、それでもこうしてひろのと過ごせるという事が、ルシエロの心を満たしているのだ。
外を見ていたひろのが、紅茶を一口飲んで思案にふける。
その表情が固いのでルシエロは気になるが、ひろのからのアクションを待つ。
(……うん、ケジメをつけるにも、今が一番いいんじゃ、ない、かな)
何かを決心したひろのが、グッと意気込んでルシエロへと向き合う。
「あの、さ」
ひろのを気負わせないように、ルシエロは今気づいたように視線を返して「どうした?」と聞く。
こくり、小さく喉を鳴らして、ぎゅっと両手で縋るようにカップを掴み、そして、言う。
「わ、私の家族に。会って、欲しい」
なんとも可愛らしい告白。可愛らしいお願い。
(ほう)
ともすれば、そんな事であんなに思いつめていたのか? と馬鹿にされたり笑われたりしそうな内容だが、この場にそんな事を思う者はいない。
他ならぬ言われたルシエロが、隠し切れない喜色を浮かべているのだから。
「なら、オレの家族にも会うか」
「……?」
結構な決心をして言った筈だった。答えはイエスかノー、もしくは保留で返ってくる筈だった。そう予想していた。それなのに。
(ええと、ええと……?)
予想外のルシエロの返しに、ひろのは理解が追いつかない。だから必死になってここにいたるまでの自分の思考を整理し始めた。
離れて暮らしている家族にルシエロの事を言う前に、気がつけば距離が縮まって、色々な事を体験して、泣いた時もあって嬉しい時もあって、そうしていつの間にか婚約までしていて。
(だから、それで、ちゃんと紹介しようって)
そう思ったから、家族にあって欲しいとお願いしたのだ。それなのに、何故自分がルシエロの家族に会う話になっているのだろう。
そんな混乱気味のひろのに気付いているのかいないのか、いや、気付いた上で、だろう。ルシエロはさらにひろのに訊ねる。
「ヒロノの家族に会う前か後か、どちらが良いか」
それはそれは嬉しそうに訊ねる。実際、ルシエロは嬉しかったのだ。ひろのから「家族にあってほしい」と言ってきた事実が。何故ならそれは。
(心からオレと共にある事を選んだ証左だろう)
そう思うからこそ、ルシエロの笑みは崩れない。自然と緩んでしまう。
「どうだ? 何、オレの両親もウィンクルムで上の兄も軍属で理解がある」
どう転んでも悪い様にはならんさ、と言うルシエロに、ひろのの頭の中は混乱から困惑へと変わっていく。
(何でルシェ、そんな嬉しそうなの?)
まだまだその辺りの機微にうといひろのは、困惑しながらルシエロの言った事を考える。
予想外の返答だった。けれどその内容は間違いなく自分の願いを受け入れてくれるもの。
「その、順番とかは置いといて。会って、くれるの?」
いいの? と小首を傾げるひろのに、ルシエロはスッと手を伸ばしてひろのの左手を軽く握る。
軽くだが、決して離そうとはしない。これからも、ずっと。
「オマエを貰い受ける挨拶だろう? 悪い訳がない」
ひろのは一瞬目を瞬かせ、けれどすぐに何を言われたか理解する
(貰い受け……!)
ああ、だけどそういう事なのだ。婚約をしている自分達が互いの家族に紹介するという事は、そういう意味を持っているのだ。その事を今更ながら自覚する。
じわじわと顔が赤くなっていくのを感じる。だって熱を持ったように熱い。それが何とも恥ずかしくて、ひろのはつい俯いてしまう。
(ルシェのこと、反対されないといいな)
ひろのはそっと祈る。どうかどうか、驚いても、最後は笑顔で認めてもらえるよう。
認めてもらって、そうしたらその先は……。
ますます赤くなったひろのは、思わず握られていた手をきゅっと握り返す。
無意識のそんな仕草さえ、ルシエロの心を満たし、溢れされる。
(今すぐ欲しい。が、耐えろよオレ)
つい手を出しそうになる自分を何とか押さえ込む。
ゆっくりと花開くようなひろののペースに合わせている為、今のところ出来ている事はハグとキスだけ。健全な関係とバランスは、さて、いつまでもつのか。
二人の時間は長い。まだまだこれから沢山の時間を共に過ごす。何か劇的な事が起こるかもしれない。今日のような穏やかな日々を積み重ねるだけかもしれない。
どんな事が起こるかわからないが、二人が共に歩んでいくことだけは確かで。
一歩一歩を共に進んでいった先で、やがてどんな二人になっていくのか。
それは、二人だけが知る。
■世界一の、唯一の
「……あんまり見つからなかったわね」
タブロスの外れにある、半壊したアパート。そこを片付けながら『リチェルカーレ』は残念そうにぽつりと言った。
「……これだけ残れば問題ない」
そう返す『シリウス』の手元には、ボストンバッグ一つ分にも満たないシリウスの荷物。
この半壊したアパートは最終決戦地の近くで、そしてこのシリウスの住んでいたアパートだった。
「問題ないって……大事な物もあったでしょう?」
気遣うリチェルカーレの声に、シリウスは少し目を眇めて苦笑する。
「そこまで惜しいものはないな」
だからこれで充分だ、と淡々と述べる。物に執着しないシリウスらしい返事に、リチェルカーレはつい困ったような顔になってしまう。
だが、シリウスの発言に嘘はなかった。ここに、本当に惜しいものは無いのだ。
何故なら、大切なものは極力作らないようにしてきた。失くしたくないなら最初から持たなければいい。そう考えてここまで来たのだ。
大切なものを失って奪われてきたシリウスだからこその考えと行動。
だからこそ、そんなことはリチェルカーレには言えない。言えばリチェルカーレは、我がことのように胸を苦しめるだろうから。
戦いが終わり、勝利に沸き、そして現実が戻ってきた。
元凶ともいえるイシスはジェンマと共に消え、ギルティもまた消え、オーガもいつの日かいなくなるのだという。
世界は平和になるのだろう。
だが、祝うべきこの今は、大きな爪痕も残していた。
傷付いた人、傷付いた街。全てが元通りにはならない。問題はそこかしこにあった。勿論、A.R.O.A.を筆頭に様々な国や組織が復興へと動いているが、それでも多くの人が落ち着くのはまだ先だろう。
現に、今シリウスは住む場所をなくしていた。
「とりあえず住む場所を見つけて……」
荷物を持ち上げながらの小さな呟きに、リチェルカーレはパッと顔を上げる。
「あのね、それなら家に住まない?」
唐突な提案に、思わずシリウスは目を見開いてしまう。
そんなシリウスに気付いていないのか、リチェルカーレは嬉しそうに続ける。
「家族も皆、あなたのことが大好きだし、わたしも、毎日シリウスの顔が見られたら嬉し……」
そこまで言って、ようやくリチェルカーレはシリウスの様子に気がつく。
ぽかんとしたシリウスの顔を見て、自分がすごい事をはきはきと言っていたことを自覚し、羞恥で頬を赤くする。それでも、どうして自分がこんな事を言いだしたのかを知ってほしくて、小声で説明をする。
「だって、ウィンクルムのお仕事が無くなったら、今までみたいに会えないかも……」
世界は平和になる。それはやがて、ウィンクルムを必要としなくなるという事だ。
そうなれば今までとは違う。今までの二人とは違ってくる。喜ばしい未来の中で、リチェルカーレはその事が引っかかっていた。
そしてその結果が、さっきの発言だ。
(少しでも側にいたい。こんな欲張りな気持ち、知らなかった)
リチェルカーレは初めて向き合う自分の気持ちに困惑し、何も言えなくなってしまう。
しばし、沈黙がその場に広がる。
シリウスは何もリチェルカーレが突然大胆な事を言い出したから驚いていたわけではない。いや、勿論そのことで驚いてもいたのだが。
だが、それよりも。
(願い、なんて)
何かの願いを言葉にすることは避けてきた。大切なものは作らないようにしてきた。失いたくないから持たないようにしてきた。けれど。
『それなら家に住まない?』
リチェルカーレの真っ直ぐな好意。真っ直ぐな願い。
それを受け止めてしまえば、自分の中にもあった願いが首をもたげる。
知らず、シリウスは母の形見のメダルを握りしめる。
もう一度大切なものを作るために、失いたくないからこそ大切にもつように。
「それなら、頼みたいことがある」
いいや、もう大切なものは出来ていた。失いたくなくて守ってきていた。同時に守られてもいた。
「すぐじゃなくていい、色んなことが落ち着いたら」
ウィンクルムだからこそ出会い、ウィンクルムだからこそ築き上げてきた絆。そうして今、ウィンクルムじゃなくなる未来を前にしても、離れがたい、離したくない存在。
「……本当に、俺の家族になってくれないか」
リチェルカーレは目を見開いて顔を上げる。
見えるのは、少し赤い、大好きな不器用なシリウスの真面目な顔。
真面目な顔と言うより、緊張の面持ちなのかもしれない。翡翠の瞳が青い瞳を見ている。見つめながら返事を待っている。
胸が詰まる。言葉が上手く出てこない。
けれど、答えなど決まっている。
「――ッもちろん!」
リチェルカーレは花が咲いたような満開の笑顔でシリウスの腕に飛び込む。
――ずっと欲しかった自分の居場所。
シリウスはずっと欲しかったのだ。リチェルカーレの家族のような……ずっと昔、両親といた頃のような、暖かな場所が。
シリウスはリチェルカーレの暖かな体を抱きしめる。壊さないように、傷つけないように、優しく、力強く。リチェルカーレもまた、こたえるように強く抱きしめる。
今のシリウスが一つだけ持っている、失くしたくない唯一の存在で唯一の場所。
そしてそれは同時に、リチェルカーレの世界で一番大好きな場所。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 青ネコ |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 女性のみ |
| エピソードジャンル | ロマンス |
| エピソードタイプ | EX |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,500ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 3 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 08月21日 |
| 出発日 | 08月28日 00:00 |
| 予定納品日 | 09月07日 |

2018/08/27-23:22
2018/08/27-22:41
2018/08/27-22:27
2018/08/27-21:37
2018/08/27-15:59
かのんと天藍です、最後の一枠飛び込ませて頂きました、よろしくお願いします
(神人さん達の様子をみて期待に満ちた目で)
みなさんがんばってください!
2018/08/26-22:21
あ、っその。え、と。
ありがとう、ございます。
その、輝さんとリチェもがんばって、ね?(でいいのかな?と目が泳ぐ
2018/08/25-18:33
リチェルカーレです。パートナーはシリウス。
どうぞよろしくお願いします。
最終決戦ではお疲れ様でした。皆が無事で良かった!
未来、未来かぁ。どんな話をしようかしら…。
(ひろのちゃんや輝さんをきらきらした眼差しで見つめ)
ふたりとも、がんばってください!
2018/08/24-22:21
月野輝とアルベルトです、こんばんは。
将来の話……結婚後の話、とかになるの、かしら……(少し赤面しつつ)
(ひろのちゃんの決意の眼差しを見て)
頑張って、ひろのちゃんっ!
2018/08/24-21:55
ひろの、と。ルシエロ=ザガン、です。
よろしくお願いします。
これからのことを、ちゃんと話せるように。
……がんばる。(何かを決意したような顔

