


真円の月が空高くかかると祭り会場には子供が減り、夜が更けていく濃密な空気が満ちてくる。華やかな空気に酔ったように祭りは高揚し、人の騒ぐ声も高くなってきていた。あちこちで、地面の上で鳴らす花火や爆竹の音もし始めている。
盆踊りも終盤にさしかかり、祭りに訪れた人たちが、それぞれの祭りを楽しむことに熱中し始めたのだろう。購入した食べ物を、ベンチで分け合って食べる恋人たちや、仲間同士で集まりほろ酔い気分のまま大声で歌っているグループがいる。出店の人たちも入れ代わり立ち代わり、自分たちの食べものを購入しに出かけたり、休憩をとったりしているようだった。
そんな出店の並びの端に、ぽつん、と日除けだけ張られている一角を見つける。
よく均された地面には何も置かれておらず、そこには椅子が一脚と、刃を潰した何種類かの模造剣が置かれていて、着物に袴、という出で立ちの男性が腰かけているのだった。日に焼け、少し長い髪をサムライヘアに整えた壮年の男性は、模造刀を手に人波を眺めている。貴方たちと目が合うと、椅子から立ち上がり、人懐こく破顔した。
「そこのお二人、腕試しは如何か?今ならば、400Jrで私と対戦できるぞ」
視界の隅に見えたのぼりに目をやると、『腕試し屋』と白の布地に鮮やかな墨書があった。どうやら、模造剣で手合せをする、体験型の出店らしい。
「なに、ルールは簡単、『自分の武器を相手の身体に、当てた方が勝ち』、『相手の武器を落とさせた方が勝ち』、だ。ひとつ、手合せをして行かぬか?」


お祭りの出店で、侍と手合せができます。
腕試しをする貴方と精霊が、侍との手合せや、やりとりを通してどんなことを感じるのか、がテーマです。剣技に覚えがある方も、もっと上を目指し強くなりたいと思っている方も、この腕試しをきっかけに、「強さ」を見直すような出来事を描けたら、と思っています。
まずは、戦うのはどちらか、得物はなにか、どんな戦法が得意か、手合せする方の基本の情報を教えてください。
侍は最初、自然な中段の構えしかとっていません。そこから、攻めるか守るか。どんな勝負展開を目指すか。手合せを見ている方は、どんな様子か。など、自由に膨らませてみてください。
例えば…
・侍が刀を取り落すような勢いで大剣を叩きつけ、腕力でねじ伏せるように戦う。見ている方は、大きな声で応援している。
・間合いをとったまま、フェイントで相手の隙をつき、一本とろうとする。見ている方は、相手の攻撃に合わせるように、声で合いの手を入れている。
・戦うというよりは、演武でもするつもりで刀を合わせる。見ている方は息をひそめ、手合せを食い入るように見つめている。
なお、参加費ですが、侍と手合せをすると400Jr。それとは別に、お祭りで飲食するものの指定をすると100Jr~200Jr程度かかります。また、飲食する描写が入るため、お好みの屋台の食べものをご指定下さい。ご指定がない場合は、都成のオススメ屋台の飲食物になります。Jrがかかりますこと、ご了承下さい。
手合せをじっくりしたい、という方は、飲食するものの指定をしないと、その分たくさん描写できます。
強さ、と一言で言ってしまうと、力の強いことばかりに目が行ってしまいますが
本当に強い人とはどんな人なのか、強さを目指すとはどんなことなのか、と
考えるうち、今回のエピソードを思いつきました。
皆さまの思う、強さ。目指している、強さ。
そんなことを考えるきっかけになればいいな、と思っています。
どんなプランを出して頂けるのか、楽しみにしております。


◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
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こんばんは 人懐っこい笑顔につられて笑った後 シリウスを見上げて (あ 珍しい 興味ありそうな顔をしてる…) 挑戦してみる?がんばって! 強い光を湛えた翡翠の眼差しに息を飲む 相手の剣の下に飛び込んでいく彼の動きに 握りしめた指が白く 目を逸らさない 相手の動きから 攻撃から 自分に向かってくる全てのものから 逃げない そんな彼の戦い方に 目を奪われる 礼をして彼が寄ってくるのに 試合が終わったことに気づく 思い出したように大きく息を吐いて …お疲れ様! 勉強?…シリウスはもっと強くなりたい? 静かな返事に首を傾げた後 ぱっと笑顔 じゃあ わたしも頑張る ふたりでなら ひとりより沢山のものが護れるでしょう? さっきと違う優しい眼差しに頬を染めて |
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得物を相手に合わせるディエゴさんに少し驚きました まあ、ストイックな彼らしいと言えばらしいですけど… やるからにはやはり勝ってもらいたいですが、真剣勝負みたいなので固唾をのんで見守ります。 剣を持つのが不慣れな様子のディエゴさんを見て なんだか不思議な気持ちになりました なんでもそつなくこなすイメージがあったので…でも、不得手なものでも臆さず挑んでいく姿が素直に、かっこいいなと思いましたよ。 経験が明日の糧になるってやつですね! その考え方は好きです 私も、ディエゴさんと一緒に頑張らなくっちゃですね。 |
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あらクロスケ、何眺めてるの? って剣?貴方さっきの射的の鉄砲といい、武器好きよねぇ 射的屋の人あまりの熱心さに変に警戒してたわよ? あの鉄砲の仕掛け見破られたくない、みたいな感じで どうせなら手合わせしてったら?っていうより私が見たいし ねぇいいじゃない? 応援して逆に集中力欠けさせちゃったらまずいから黙って見てるわ ふーん 殺す気満々の剣術ね 目がいつもと全然違うし、泥臭いっていう割に狙いは動脈狙いでやたら合理的で無駄はない感じじゃない さっき武器を弾ければ戦術に幅が出るのにってぼやいていた人とは思えないぐらいの殺気よね …思ってみれば私には怒ってもあそこまでの顔はしなかったわ 彼なりに気を遣ってくれてたのかも |
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いいですねぇ 気楽に返事 ったぁ ちょっと、イリオンさん! 耳元の言葉にあたふた 身軽さ… そんなのが武器に? 精霊がいなくても自分の身を守れるようになる? と黙考しているうちに押し出され いつになく真剣な精霊の表情に腹を決める TDの動きはさすがに無理だけど…でも、イリオンさんが言うなら よろしくお願いします! ぴょこりと頭を下げ 双剣を手に チビとフットワークを活かし ヒット(フェイント)アンドアウェイで隙を作り懐へ 短剣一本投げつけ気を逸らし 空いた手で髪紐をほどき 髪で視界を奪い屈んで足を狙う ごめんなさい、大丈夫ですかっ?! 髪が顔に当たると鞭みたいで痛いんですよね… 褒められ1つ 微笑みで2つ 名前で3つ吃驚 …えっ?!(驚愕 |
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あら、腕試し屋? なんだか面白そう。 「シギくん、挑戦してみない?」応援するから、ね? 思ったよりやる気じゃない。(腕捲りを見て 「シギくーん! がんばってねー!」(笑顔で手を振る 観戦: 声を出して応援 逞しい人が好きなので、偶に応援を忘れて魅入る ギリギリ躱したら息を飲む 真剣な顔してると、年下でもやっぱり格好良いわね。 精霊だし、将来有望?(他人事 ちゃんと礼もするし、割と真面目な子なのよね。 「シギくん、お疲れさま。格好良かったわよ」 拗ねてる? 「勝敗関係無しに、戦ってる姿が格好良かったの」 素直に受け取りなさいよ。(仕方ないなと微笑む 「どうかした?」なんか考え込んでる? あ、もう!(離された距離を小走りで追いかける |
●
夜の出店を眺めながら、気の向くままに歩いていたスティレッタ・オンブラは、隣のバルダー・アーテルの歩みが鈍ったのに気付いて、彼の顔を見上げた。
「あらクロスケ、何眺めてるの?」
彼の視線が向く方へ顔を向けると、『腕試し屋』と墨書ののぼりがある出店の中を見ていたらしい。
バルダーの歩みが鈍ったのは、興味をそそられるものがあったからなのだろう。目を凝らせば、出店の壁際には模造剣が何種類も並んでいるのが見えた。
「……って剣?貴方さっきの射的の鉄砲といい、武器好きよねぇ」
感心しているような、あきれたような調子で、スティレッタは言う。
「射的屋の人あまりの熱心さに変に警戒してたわよ?あの鉄砲の仕掛け見破られたくない、みたいな感じで」
からかい交じりに言うと、バルダーはむっつりと言葉を返す。
「武器を見るのは職業病だ」
傭兵であるバルダーにとって、武器とは命を守る盾であり、進む道を切り開く剣も同然だった。興味を持って見るのは当たり前だ、と言いたげな調子に、スティレッタは悪戯っぽく笑う。
「どうせなら手合わせしてったら?っていうより私が見たいし」
「は?手合わせ?」
僅かに上ずる声は、手合せを喜んで受け入れそうには聞こえない。
「ねぇいいじゃない?」
僅かに身を引いたバルダーの腕に、絡み付くようにしなやかに身体を寄せると、スティレッタは艶やかな赤い唇でねだるように囁いた。
「いやこれは仕事の技術で見せもんじゃ……」
辞退しようと身を引く鍛え上げられたバルダーの腕に、スティレッタの白く柔らかな腕が絡んでいる。
抵抗を試みるバルダーに、侍がにこにこしながら模造剣を抱えて返事を待っている。
二人の視線を受けて、バルダーは苦い声で答えるしかなかった。
「……ったくしょうがない」
得物のサーベルを手に取り構えたバルダーには、殺気としか呼べない気配が漲っていた。
開始、と、鐘の音が告げた途端、対峙する侍とバルダーの間の空気は、張りつめた弦のように緊張していく。
祭りの喧騒も聞こえなくなりそうな緊張感の中、先に動いたのはバルダーだった。
長い足が一息に間合いを詰めて、侍に猛攻をしかける。
刃を潰した模造剣同士だとは思えないほど激しく、刃を合わせる金属音が上がる。
眉間、喉元、肩口、と、次々に急所を的確に狙い、息を吐く間も与えないほどの速さでバルダーは攻撃を繰り出す。
侍は、祭りの出店で、まさか本物の傭兵と出会うとは思わなかったのだろう。
攻撃を受けて剣筋が乱れ、足は僅かにたたらを踏む。
次第に侍の顔は苦しげに歪んで、打ち合う刀を離す間につく息は乱れ始めているのが、見ているだけでも解った。
(ふーん。殺す気満々の剣術ね)
スティレッタは手合せの様子を黙って観戦しながら、バルダーとの先程までのやり取りを思い出していた。
腕試し屋にいる人物がサムライだと分かると、バルダーは、自分の技術は精神修養には程遠い泥臭いものだ、とスティレッタに言った。
「如何に効率よく相手を殺すかだからな」
自嘲する響きのある声が、まだ耳に残っている気がする。
そうは言っても、と、スティレッタは含み笑う。
(目がいつもと全然違うし、泥臭いっていう割に狙いは動脈狙いでやたら合理的で無駄はない感じじゃない。さっき武器を弾ければ戦術に幅が出るのにって、ぼやいていた人とは思えないぐらいの殺気よね)
口元に優雅な笑みを刻むスティレットの目前で、刀にバルダーのサーベルが叩きつけられ、ぎりぎりと侍の首元に迫る。
鍔迫り合いは激しさを増し、勝負は遠からずつくだろう、と言ったところだ。
攻撃をいなした侍は、バルダーの守りの甘い脇を突くように刀を突き込む。
腕が真直ぐ伸びて重心が前に移り、首の守りが何もなくなる。
それを、バルダーは待っていた。
回避する動きのまま、侍の利き腕の外側に身体をずらすように移動し、首を落とさんとする勢いで斬りつけた。
夜の仄暗い空気に、火花に似たきらめきが散る。
侍は、からくも刀で攻撃を受け流し、飛び退ったのだ。
バルダーは、それを許さず追撃する。刃物同士が打ち合わされ、歯を剥き出し、食い合う獣のような剣戟は止まることなく続いて行く。
獲物を狩る獣のように目を爛々と光らせるバルダーに、スティレッタは微かに息を飲む。
(……思ってみれば私には怒ってもあそこまでの顔はしなかったわ。彼なりに気を遣ってくれてたのかも)
「俺にとっちゃ強さは手段であって目的じゃない。俺の唯一の目的は傭兵として生き残ることだけだ」
どこか苦いバルダーの声が残響のようによみがえり、手合せの行方を見守るスティレッタの胸を締め付けた。
●
『腕試し屋』だという侍の客引きに、藤城月織は円らな瞳を輝かせて「いいですねぇ」、と気楽に返事をした。
「面白そうだな」と、イリオン ダークも出店の前で相槌を打って、
「せっかくだ、参加させてもらおうか」
と、月織と話をしていた侍に声を掛けた。
イリオンは、ばふっと神人の頭を押さえ付けるように手を置き耳元で、低く声を潜めて言う。
「アンタだからできる戦い方を試してみると良い、案外いい結果が付いてくるかもしれん」
「ったぁ……。ちょっと、イリオンさん!」
耳元の言葉にあたふたする月織に、イリオンは重ねて言う。
「この間の身のこなしは及第点だ、身軽さを活かせ」
先の赤い紫陽花の花畑での戦いを指して言ったのだろう。不機嫌にも聞こえるほど抑揚を抑えた声が、確かに月織のことを評価していると告げた。
(身軽さ……。そんなのが武器に?)
心細さにも似た不安が、月織の胸中を過る。
(イリオンさんがいなくても、自分の身を守れるようになる?)
黙考しているうちに、イリオンの大きな硬い手のひらが、ドンと月織の細い背中を押し出す。
思わず振り仰いだ月織は、いつになく真剣なイリオンの表情に腹を決めた。
(テンペストダンサーの動きはさすがに無理だけど……、でも、イリオンさんが言うなら)
ぐっ、と小さく手を握って、侍と向かい合う。
「よろしくお願いします!」
ぴょこりと頭を下げ、双剣を手に取った。
開始の鐘の音と共に、月織は小鹿のように軽やかな身のこなしで、侍の間合いへと切り込む。
華奢な腕は素早く斬撃を繰り出し、すんなりとした足が地面を踏んだかと思えば、侍の間合いの外へと跳ねるように移動する。
テンポの速い攻撃に、侍は、攻めあぐねて防戦に徹している。下手に刀を振るうと、隙を作る、と言わんばかりの防戦である。
その間も、月織は色違いの二粒の宝石のような目で、侍の動きを油断なく見ていた。
侍が、月織の攻撃を躱し、いなす動きを把握しきると、何度も繰り返したヒットアンドアウェイ、と見せかけ、短剣一本を投げつけた。
月織からの攻撃を防ぐばかりだった侍は、はっとして身を引く。
一瞬、月織の攻撃をつぶさに見ていた侍の視線がずれ、隙ができる。
それを見逃さず、月織は空いた手で髪紐をほどき、髪で侍の視界を奪った。
ミルクティー色の艶やかな髪が、月織の動きとともに鮮やかに広がり、月光と祭りの灯りを受けて、金糸のように輝く。
まごつきを見せた侍に、月織は躊躇わなかった。
低く身を屈め、双剣で足に攻撃を当てる──!
「だっ」
侍の軽い悲鳴と、侍の足を月織の剣が叩いた音がしたのは、ほぼ同時だった。月織の髪が侍の顔面を直撃し、丁度、目つぶしを食らったように侍は顔を覆った。
「ごめんなさい、大丈夫ですかっ?!」
悲鳴じみた声を上げ、思わず双剣を下ろして侍を覗き込む月織に、見物客からは、「オサムライさん、一本取られたな」などと、からかい交じりの野次が飛ぶ。
小柄で華奢な女性が一本とった、というのがよほど絵になったのだろう。
月織に向けて、見物客から拍手と歓声が上がった。
「髪が顔に当たると鞭みたいで痛いんですよね……」
『腕試し屋』を出て腰かけたベンチで、月織はぽつりと呟いた。
勝ったというのに、どこか考えごとをしているような月織の隣に腰かけて、イリオンはかける言葉をゆっくりと吟味していた。
今、必要なのは自信。これでそれを勝ち取れればいいが……、とイリオンは思う。
勝負の勝敗は二の次だったが、と、軽く息をつく。
「……まさか、あんな手を使うとはな」
いつもは淡々と落ち着いた顔を崩すことのないイリオンは、ほんのりと苦笑して月織と視線を合わせる。
「使える手は何でも使う、俺はアリだと思う」
月織の乱れた髪に指をくぐらせて梳くように撫で、金色の瞳を和らげて微笑んだ。
「良くやったな、月織」
唐突な褒め言葉に、月織は、目の前でぱちんと手を叩かれたシマリスのように目を瞬いた。
イリオンさんが、私を褒めて、微笑んで、名前を呼んだ。
驚きが月織の頭の中で花火のように弾ける。
「……えっ?!」
大きな瞳をさらに大きく見開く月織に、イリオンはゆっくりと繰り返す。
「アンタは俺が背を預けるに足ると、そう思っている」
良くやったな、と感情の昂ぶりを映すことの少ない瞳が、労わりと信頼を表して細められる。
──アンタは、足手纏いではない。ただ、自信を持って欲しい。
そう伝えようとするように、イリオンは月織を見つめていた。
●
あちらこちらの出店を鼻歌交じりにのぞいていたアデリア・ルーツは、出店の主らしき人物に声を掛けられて足を止めた。
(あら、腕試し屋? なんだか面白そう)
のぼりと侍の顔を交互に見ていた翡翠の瞳は、隣にいたシギに向く。
「シギくん、挑戦してみない?」
応援するから、ね? と無邪気に誘うアデリアに、シギは溜息をつく。
そもそも祭りは、姉貴の虫除けに使われるよりマシか、と思って出かけてきたのだ。突拍子もないような誘いに、あきれたように答える。
「あんたがやるんじゃなく、俺にやらせるのか」
そんなことを言いながらも、シギは早速腕まくりをして、模擬剣の中でも一番短い剣を得物に選んでいた。
「試す程の腕じゃないけどな」
口ではそう言いながらも腕まくりをするシギに、(思ったよりやる気じゃない)、とアデリアはおかしく思いながらも口には出さず、微笑むだけに留めた。
「お願いします」
背筋を伸ばして、凛とした声で挨拶をしたシギに、アデリアが笑顔で大きく手を振る。
「シギくーん! がんばってねー!」
開始の合図と共に、シギの雰囲気が変わる。地面を踏む足音が消え、夜陰に紛れる影のように彼の気配が薄くなる。
先手必勝だ、とシギは一息に侍の懐へ潜り込む。
途端、目の前を銀色の光で一閃され、半身をひねってかわした。侍が刀を下段から切り上げだのだ。
軽業師のように攻撃を紙一重で躱したシギは、手首を翻し侍の胸元へ剣を突き入れる。
しゅおん、と刃物同士が擦れる音が耳を撫で、シギは侍の刀で軌道をずらされたのだと知った。勢い余って、身体が傾ぐ。
「シギくん!あぶな……!」
アデリアの声が悲鳴のように響き、シギは耳を震わせる。
ギリギリで身体を躱すシギに、アデリアは息を飲む。
模造剣だと分かっていても、祭り灯りを映して閃く刀を打ち合わせていると、まるで本物の剣で試合をしているように見える。
厚い身体つきの侍の、刀を持った腕や身体捌きに魅入って、偶に応援を忘れたようになるけれど、すらりとしたシギの流れるような動きに視線を引き戻される。
(真剣な顔してると、年下でもやっぱり格好良いわね。精霊だし、将来有望?)
どこか他人事に、アデリアは思う。
侍が刀を横薙ぎにすれば、間合いすれすれに後ろへ下がり、突きが繰り出されると、相手の利き手の外側へと避ける。
身体の重みを感じさせない素早い動きで侍の背後に回り込み、その身のこなしに侍がついてこられないかと思ったその時、振り返り様、目にもとまらぬ一振りで剣を弾かれた。
高く澄んだ音を立ててシギの剣は飛び、地面に転がった。
「ありがとうございました」
シギは深く頭を下げ、踵を返すと、足早に参道へと戻って行く。
(ちゃんと礼もするし、割と真面目な子なのよね)
むっつりと黙っているシギに追いつくと、アデリアは顔を覗きこんだ。
「シギくん、お疲れさま。格好良かったわよ」
「負けたけどな」
手合せを見て高揚したのか、きらきらと輝く翡翠の瞳と目が合って、シギは顔を逸らす。
どこか子供のようにも見える仕草に、拗ねてる? とアデリアは首を傾げる。
「勝敗関係無しに、戦ってる姿が格好良かったの。素直に受け取りなさいよ」
瑠璃色の瞳が曇って見えて、そう言いながらも、仕方ないな、とアデリアは微笑む。
アデリアのあくまで朗らかな声に、シギはもどかしさがつのった。自分が経験不足なのは解ってる。それでも。
アデリアの動きと共に揺れる、艶やかな髪を眺めながら思う。契約した以上はこいつを守る義務がある。それに。
「どうかした?」
何を考えているのか問うような視線に、シギは足早に前に出て溜息をつく。
「別に」
(女一人守れない男だなんて思われたくないしな)
胸中で呟いた言葉は、アデリアには聞こえない。
「あ、もう!」
歩みを速めたシギに離された距離を、アデリアは小走りで追いかけていく。
●
『腕試し屋』の侍に声をかけられたリチェルカーレは、花がほころぶような笑顔で答える。
「こんばんは」
侍の人懐っこい笑顔につられて笑った後、隣に寄り添うように立っていたシリウスを見上げて、少し驚いたように瞬いた。
(あ、珍しい。興味ありそうな顔をしてる……)
感情の表現の淡いシリウスの顔も、リチェルカーレの目を通せば、腕試しに興味を抱いているのを見て取ることができた。
「……相手をしてもらっても?」
並んで立つ二人の答えを待っていた侍の方を見て、シリウスが確認すると、もちろん、と侍は笑みを深くした。
「挑戦してみる?がんばって!」
リチェルカーレが、小鳥がさえずるような声で後押しすると、頑張ってという言葉と笑顔に、シリウスは一瞬表情を和らげて頷いた。
祭りの喧騒が遠く聞こえるほど緊張感の満ちた場に立つと、シリウスは双剣を持ち、侍を見て、一礼する。
開始を鐘の音が告げると、双剣を構えて待っていても仕方ない、とばかりに一気に距離をつめる。
踏み込んだ脚を軸に、機械仕掛けの人形のように正確無比に回転し、遠心力も使って打ち込んだ。
上背のあるシリウスは、手足も長い。間合いを一息に詰められ、スピードを活かした攻撃をそのまま受けるのは危ないと判断したのか、侍は身を引いて攻撃を躱す。
攻撃をやりすごし、シリウスの無防備になった手の甲を狙って模造刀が斬りつけられると、もう片方の剣で受け流し、返す刀で反撃を狙う。
互いの剣と刀が幾度も交差し、打ち合わされ、祭りの灯りを弾いて明滅する。
視線は常に外さず、射抜くような眼で相手を見ているシリウスを、リチェルカーレは食い入るように見つめていた。
怜悧な強い光を湛えた翡翠の眼差しに息を飲む。
侍の刀の下に飛び込んでいく彼の動きに、握りしめた指が白くなっているのにも気付かない。
相手の動き、攻撃、そのどれからも目を逸らさない。
自分に向かってくる全てのものから、逃げない。
そんな彼の戦い方に、目を奪われていた。
その姿は、彼を表す青く燃える星のように、リチェルカーレの目に焼き付く。
シリウスは終了の合図まで、剣を構え相手を見据えたままだったが、止め、の合図と共に息を吐き、静かに一礼した。
「……ありがとう、ございました」
礼をした彼が寄ってきて、リチェルカーレはようやく試合が終わったことに気づく。
知らない間に息を止めていたのだろう。思い出したように大きく息を吐いて、迎えるようにシリウスの元に駆け寄る。
「……お疲れ様!」
「……いろいろ勉強になった」
上がっていた息を抑えるような声で、シリウスは言う。
「勉強?……シリウスはもっと強くなりたい?」
リチェルカーレの不思議そうな問いかけに僅かに首を傾げて、
「強く……そう、だな。強くなりたい」
シリウスは確かめるように口にした。
もう二度と失わないために、強く。口には出さず、誓うように思う。
静かな返事に首を傾げた後、リチェルカーレは、ぱっと笑顔になった。
「じゃあ、わたしも頑張る。ふたりでなら、ひとりより沢山のものが護れるでしょう?」
優しさだけではない、確かな強さも秘めた笑顔に瞬いた後、吐息だけで小さく笑う。
──何より護りたいのはお前だ、と胸の内で呟いて、シリウスも僅かに口元を緩めた。
春の日差しを浴びた若葉のように和らぐ翡翠の瞳が、彼女を見つめている。
さっきと違う優しい眼差しに頬を染めて、リチェルカーレは木洩れ日にほころぶ花のように微笑んだ。
●
出店の端に並ぶ『腕試し屋』の侍が示した得物を、ディエゴ・ルナ・クィンテロは慎重に見定める。
俺の得物は本来、銃……だが、と、並ぶ模擬剣に視線で触れるように、ディエゴは眺める。
──侍の剣技をこの目で見るのも、良い経験になるだろう。
そうディエゴは思って、剣は刀を選んだ。
彼は軍刀を持っていたことはあったけれど、いまひとつ手に馴染まなかったのを思い出していた。
ディエゴが刀を手に取って、ハロルドは僅かに目を大きくした。得物を相手に合わせるのに少し驚いたのだ。
(まあ、ストイックな彼らしいと言えばらしいですけど……)
生真面目な顔で、刀の柄の具合を確かめているディエゴを、ハロルドは青と金色のオッドアイで黙って見守る。
開始、と、鐘の音が告げると、ディエゴは早速、握り慣れない刀で侍へ攻撃をしかけた。慣れない刀での攻撃をする動きは、ややぎこちなく手練れには見えないが、教本をなぞるように基本に忠実で真摯だった。
上段からの切り付けが侍に止められれば、鷹のように鋭い蜂蜜色の目が、お互いの距離を測り、間合いを正確に保つ。
必要以上に切り込ませず、侍の足捌き、動作の流れを見て、身体と頭へ同時に覚え込ませていくようだった。
剣の心得はディエゴには無かったけれど、侍の動きを覚え、学ぼうとしているのが傍目から見える。
攻撃は剣では受け止めず極力かわすのも、膂力を比するような形になれば、刀を取り落とす可能性も出てくる、と、冷静に分析しているからなのだろう。
ハロルドは、刀を持つのが不慣れな様子のディエゴを見て、不思議な気持ちを抱く。
彼には、なんでもそつなくこなすイメージがあったからだ。
けれど、不得手なものでも臆さず挑んでいく姿が、今は素直に胸に響く。
──かっこいいな。
シンプルな言葉で感想が浮かんで、ハロルドは僅かに息を詰めた。
そうする間にも、侍とディエゴの手合せは、試合というよりは演武に似た応酬へと変わっていく。
型の完成度を互いに求めるように刀を合わせ、得物が身体に触れないよう示し合せたかのように躱す。
上段から打ち下ろすように、下段から掬い上げるように、刀を斬りつける軌跡が時折、銀色の閃きとなって、祭りの灯りを裂くように浮かぶ。
それは、止め、と合図があるまで止まることなく続いたのだった。
双方が刀を下ろすと、ディエゴは侍に敬意をはらい、手合わせの感謝を込めた礼をとる。
歩み寄ってきたハロルドを迎え入れるように見つめ、ディエゴは軽く息をついた。
「この手合わせは、俺にとっていい経験になった。それは戦闘技能においても、精神面においても強さに繋がる」
どこか充実感を感じさせる声音で、報告するように言う彼に、ハロルドは微笑む。
彼らしい言葉も、未知のものに挑む姿も、彼女には好ましかった。
「経験が明日の糧になるってやつですね!その考え方は好きです」
ハロルドの励まし交じりの褒めるような声に、ディエゴは、ほんの僅か、手合せで引き締めていた頬をゆるませて笑う。
「例え相手が己より上でも、学ぶことを止めなければいつか越えることはできるだろう」
自らの進む道に迷いがなく、自信のある人の言葉だった。ハロルドは頷いて、気丈な彼女らしくきっぱりと言った。
「私も、ディエゴさんと一緒に頑張らなくっちゃですね」
そうだな、とディエゴは相槌をうち、一緒に、と口の中で転がすように呟いた。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 都成 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 女性のみ |
| エピソードジャンル | イベント |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ビギナー |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 3 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 08月15日 |
| 出発日 | 08月23日 00:00 |
| 予定納品日 | 09月02日 |

2016/08/22-20:51
バルダー「バルダー・アーテルだ。神人はスティレッタ。おう。リチェとシリウス、月織とイリオン、あとハロルド達もか。
腕試しなんざ俺の性にはあわんのだが……まあよろしくな」
2016/08/22-19:33
リチェルカーレです。パートナーはシリウス。
「腕試し屋さん」?ふふ、面白そうです。
皆さん、楽しいひとときを。
どうぞよろしくお願いします。
2016/08/21-14:29
アデリアよ。よろしくお願いね。
「腕試し屋」なんて初めて聞くわね。
でも、面白そう。楽しみ。
2016/08/21-00:23

